著者
加藤 謙介 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.155-173, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
39
被引用文献数
2 3

本研究では,高齢者に対するロボット介在活動(Robot Assisted Activity: RAA)の事例を取り上げ,RAAを,ロボットをめぐる物語の共同的承認の過程であるとして検討した。筆者らは,有料老人ホームに入所する高齢者を対象とした,ペット型ロボットを用いたRAAを実施し,参与観察するとともに,RAA実施中における参加者群の相互作用を,定量的・定性的に分析した。定性的分析の結果,RAA時には,対象となった高齢者のみではなく,施設職員やRAAの進行係等,RAAの参加者全員が,ペット型ロボットの挙動に対して独自の解釈を行い,それを共同的に承認しあう様子が見出された。また,定量的分析の結果,RAA実施中における参加者群の「集合的行動」のうち,最も頻度が多かったのが,「ロボットの動きを参加者群が注視しながら,発話を行う」というパターンであることが明らかになった。筆者らは,RAAを,参加者によるロボットの挙動に対する心の読み取り,及びその解釈の共同的承認を通して物語が生成され,既存の集合性とは異なる集合性,<異質性>が生成される過程であると考察した。
著者
正木 郁太郎 村本 由紀子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.12-28, 2017 (Released:2017-09-07)
参考文献数
39
被引用文献数
3

本研究の目的は,日本社会の特徴を踏まえたダイバーシティ風土の類型化を行った上で,組織制度との関係や,その機能を検討することである。多様な企業に勤める社員618名を対象にオンライン調査を実施し,その結果を分析した。第一に,ダイバーシティ風土として5因子からなる質問項目を作成し,各因子と組織の人事制度の関係を検討した。その結果,柔軟な働き方を促す制度(短時間勤務やフレックスタイム勤務など)がダイバーシティ風土の高さと関係していた一方で,育児休暇制度などの一部の制度には,正負両面の複雑な関係が見られた。第二に,ダイバーシティ風土が持つ,職場の性別ダイバーシティの心理的影響の調整効果を検討した。分析の結果,一部のダイバーシティ風土の知覚が弱い場合には職場の性別ダイバーシティが離職意図や,低いワークモチベーションにつながっていた。これらの結果は,多様な働き方を受容する風土の醸成が重要であることを示唆している。
著者
鈴木 有美 木野 和代
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.125-133, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
39
被引用文献数
1 3

本研究は,ウェルビーイングの検討において共感性を考慮する重要性に着目し,特に共感性の感情的側面である共感反応の他者指向性―自己指向性の違いに焦点を当ててウェルビーイングにおける差異を検討した。大学生210名を対象とした相関分析の結果から,他者指向的な共感反応傾向および社会的スキルの高い者ほど日常生活や対人関係で満足している一方,自己指向的な共感反応傾向が高く社会的スキルの低い者ほどディストレスの多い傾向が明らかとなった。また,他者/自己指向的な共感反応および社会的スキルにより分析対象者を4クラスタに分類し,ウェルビーイングの差異を検討した分散分析では,他者指向的な共感反応傾向が高く,自己指向的な共感反応傾向が低く,社会的スキルの高いクラスタのウェルビーイングが良好であった。これらにより,自身のウェルビーイングを維持するためには,社会的スキルが高いというだけでなく,他者指向的に共感すると共に自己指向的に共感しない重要性が示された。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.198-210, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
29
被引用文献数
1 5

本論文は,環境,医療,防災,福祉,土木など多くの分野で,専門家と非専門家(一般の人びと)との間の「対話」が重要視されている現状を踏まえ,新たな対話形態として「終わらない対話」というあり方を提示しようとするものである。まず,「終わらない対話」を実現しようとした具体的な試みとして,矢守・吉川・網代(2005)が開発した「クロスロード」と呼ばれるゲーミング技法について紹介した。次に,歴史的な意味でも論理的な意味でも,「終わらない対話」に先行する対話形式として位置づけることができる「真理へと至る対話」,「合意へと至る対話」の2つに言及し,これら2つの対話形式との異同を通じて「終わらない対話」の性質を明確化した。さらに,「クロスロード」を活用した防災実践活動における対話の特徴をルーマンのリスク論に依拠して考察し,「クロスロード」が「終わらない対話」に結びつく根拠を理論的に示した。最後に,「クロスロード」は,「終わらない対話」のみならず,上述の3つの対話形式をすべて包含した重層的な対話メディアであり,専門家と非専門家との対話には,今後,こうした重層的なメディアやアプローチが不可欠であることを指摘した。
著者
宮前 良平 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.122-136, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
54
被引用文献数
1

東日本大震災以降,津波で被災した写真を持ち主に返す被災写真返却活動が生まれ,それに関する研究が行われるようになった。しかし,それらの先行研究において被災者に焦点を当てた研究は,依然として存在しない。また,写真は,災害以前の何気ない日常を写したものであるが,復興研究において災害以前の語りや想起に着目した研究は少ない。そこで本研究は,被災写真返却活動の現場において,震災以前に撮影された被災写真や,それを返すという取り組みが被災者にいかに作用するのかについて明らかにすることを目的とする。本研究は,東日本大震災の被災地の1つである岩手県九戸郡野田村で開催されている「写真返却お茶会」への1年以上に及ぶフィールドワークに基づいて行われた。そして,フィールドワークの内容を4編のエスノグラフィにまとめた。その結果,被災者が復興の過程において,津波による物理的な喪失という第1の喪失だけでなく,その第1の喪失すら失われていくという第2の喪失を経験していることが確認された。さらに,第2の喪失に対して写真返却活動がいかに抗しているかについて,「集合的記憶」と「非意図的想起」を用いて考察した。
著者
柳澤 邦昭 西村 太志 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.89-102, 2010 (Released:2010-08-19)
参考文献数
29
被引用文献数
3 4

本研究では,親しい他者,親しくない他者を選択する際の特性自尊心の影響について,および選択における社会的拒絶の調整効果について,杉浦(2003)の説得納得ゲームを用いて検討した。ゲームは90名の大学新入生を対象に実施した。ゲームの特徴を利用し,説得者が説得した人数を従属変数として,セッション1(S1)とセッション2(S2)の説得者を別々に分析した。その結果,S1の他者選択(すなわちゲーム開始直後)では,高自尊心者は低自尊心者よりも親しくない他者との相互作用を多く選択することが示された。同様の効果は,親しい他者の選択においては認められなかった。このような自尊心の影響に加え,S2の他者選択では,S1納得者の際に他者から相互作用を求められる頻度,すなわち社会的拒絶の経験の有無によって,他者選択が調整されることが示された。特に,拒絶を経験した群において,高自尊心者は低自尊心者よりも親しくない他者を積極的に選択することが示された。このような効果は拒絶を経験していない群においては認められなかった。さらに,親しい他者の選択においても認められなかった。これらの結果を踏まえ,特性自尊心が社会的状況における対人選択に及ぼす影響について,さらに社会的拒絶が及ぼす影響について議論された。
著者
笠置 遊 大坊 郁夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1605, (Released:2018-09-01)
参考文献数
32

本研究の目的は,複数観衆問題に直面したとき,どの観衆に対しても呈示することのできる共通特性について自己呈示を行うことが,呈示者の個人内適応と対人適応に与える影響を検討することであった。参加者76名を対象に,複数観衆問題の生起と共通特性の自己呈示の有無を操作したスピーチ実験を行い,参加者の状態自尊感情の変化(個人内適応)を検討した。さらに,5名の評定者に参加者のスピーチ映像を呈示し,参加者の印象(対人適応)を評定させた。その結果,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行わなかった参加者は,実験前と比較し実験後における状態自尊感情が他の条件の参加者よりも低下し,印象評価もネガティブであった。一方,複数観衆状況で共通特性の自己呈示を行った参加者と統制条件の参加者の状態自尊感情の変化量及び印象評価に有意差は見られなかった。最後に,複数観衆問題の解決法として共通特性の自己呈示がいかなる有効性をもつのかについて議論した。
著者
谷口 弘一 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.157-164, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
20

本研究は,親子関係の内的ワーキングモデルと友人関係に対する認知が友人関係におけるサポート授受に及ぼす影響について縦断的に検討を行った。242名の高校生が調査に参加し,親の養育態度,親子関係と友人関係の特質,並びに友人関係におけるサポート授受を測定する尺度に回答した。親の養育態度と親子関係の特質が親子関係の内的ワーキングモデルの指標として,友人関係の特質が友人関係に対する認知の指標としてそれぞれ用いられた。調査は,1学期と3学期の2回に渡って実施された。共分散構造分析の結果,関係の初期段階では,親子関係の内的ワーキングモデルと友人関係に対する認知の両方が,友人とのサポート授受に対して直接的な影響を与えていた。一方,関係が長期的になった段階では,親子関係の内的ワーキングモデルの直接的影響は消失し,友人関係に対する認知のみが友人とのサポート授受に直接的な影響を与えていた。
著者
飛田 操
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.55-67, 2014 (Released:2014-08-29)
参考文献数
56
被引用文献数
2

成員の等質性と異質性が集団による問題解決パフォーマンスに及ぼす効果を検討した研究のレビューをとおして,多様な成員から構成される異質性の高い集団は,潜在的には優れたパフォーマンスを示す可能性が高くなること,しかし,一方で,このような多様な成員からなる異質性の高い集団においては,相互のコミュニケーションや共通理解の困難さが高まり,情緒的魅力や集団凝集性が低減する可能性も高まり,あるいは,対人葛藤が生起する可能性も高まること,そして,これら対人関係にかかわる問題が集団による問題解決パフォーマンスに抑制的に影響する可能性があることを明らかにした。長期に持続する確立した集団や,介入・訓練を受けた集団においては,異質性の高い集団がより優れたパフォーマンスを発揮する可能性が示されている。このことは,相互の異質性について成員が相互に共有し,これらの異質性を前提とした相互依存的関係が形成されるかどうかが集団による問題解決パフォーマンスに大きな影響を与えていると考えられる。
著者
八ッ塚 一郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.146-159, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
25

阪神・淡路大震災(1995)を契機として発生し分離・変容を遂げた,被災地におけるひとつのボランティア活動の系譜を報告した。さらに,社会的表象論を援用してこの事例を検討し,震災を契機とする社会変動の構図と,それに対してボランティア実践が持つ意義とを考察した。①阪神大震災地元NGO救援連絡会議,②震災・活動記録室,③震災しみん情報室,④震災・まちのアーカイブ,⑤市民活動センター神戸,という一連の団体は,被災地における情報の交換や伝達,記録資料の保存など,記録に関わるボランティアとしてその活動を展開してきた。被災者の支援と被災体験の継承を企図して開始された記録活動は,復興に伴う被災地域の変化のなかで一時その目的を喪失し停滞に陥った。その後,団体の分裂と目的の特化により,活力を回復し現在に至っている。震災復興という状況における,記録活動,および,その変遷の意味を検討した。あわせて,社会変動へとつながる実践活動のあり方についても考察を行った。
著者
下斗米 淳
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-15, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
35
被引用文献数
8 8

本研究は, 同性友人関係の親密化過程において, 当事者間に, 親密さに応じた対人葛藤の生起し易い可能性を検討することが目的であった。大学生男女317名 (男性104名, 女性213名) を調査対象として, 実際の交際相手との相互作用を想定させた上で, 役割行動期待尺度 (下斗米, 1991, 1999b) を用い, 相手に対する期待度, 遂行度, 満足・不満足度を測定した。また, 最近生起した実際の葛藤事態の自由記述を求めた。その結果, 親密化過程の段階によって期待される役割行動の様相が異なり, これに応じて葛藤原因として顕在化し易い, あるいは顕在化し難い役割行動も異なっていくことが見い出された。この結果に基づき, 親密化過程において, 役割行動の遂行は, 当該段階での友人関係の維持に必要とされる一方で, それゆえにまた対人葛藤を引き起こす原因にもなり得る可能性が考察された。
著者
平島 太郎 土屋 耕治 元吉 忠寛 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-10, 2014 (Released:2014-08-29)
参考文献数
32

本研究の目的は,子宮頸がん検診の受診を題材とし,態度の両価性が行動意図の形成に及ぼす影響を検討することであった。先行研究では,態度の両価性が,SD法で測定されるような全般的な態度と行動意図との一貫性を低下させることが報告された。従来の研究では,両価的な態度は時間的に不安定であるため,態度と行動意図が一貫しなくなるという説明がなされてきた(不安定仮説)。しかし,先行研究における理論的・方法論的な問題により,不安定仮説の妥当性は明確ではなかった。そこで本研究では,計画的行動理論の諸要因を加えた縦断調査を行い,不安定仮説を検証した。女子大学生を対象とし,子宮頸がん検診の受診に関する調査を実施した。その結果,子宮頸がん検診の受診に対する態度の両価性が低い群では,態度が受診意図を予測したが,態度の両価性が高い群では,態度が受診意図を予測していなかった。しかし,2時点間の全般的な態度の不安定性を検討した結果,態度の両価性が高い方が態度が不安定になるという,不安定仮説を支持する結果は得られなかった。また,態度の両価性が高い群では,主観的規範と行動統制感が受診意図を予測した。これらの結果から,態度の両価性が態度と行動意図との一貫性を低下させる現象について,不安定仮説の限界が示唆された。最後に,不安定仮説以外のメカニズムの可能性と,子宮頸がん検診の受診促進について考察した。
著者
岡本 卓也 藤原 武弘 野波 寛 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-16, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本研究の目的は,マクロレベルでの集団間の関係性を測定,図示,解析することである。そのため,ある集団やそのメンバーに対して人びとが抱いているイメージ,情報,認知を元にして集団と集団の境界を決定しようとする集団共有イメージ法を提案する。従来の集団研究では,マクロな関係である集団間の関係性を表す際,ミクロデータを代用することが多かった。そこで,対象集団に関するイメージをもとに対応分析を行うことで,マクロレベルでの集団間の関係性の分析を試みた。大学生274名を対象にSIMINSOC(広瀬,1997)を実施した結果,イメージの類似性による集団間の関係性の認知マップが描かれた。またその座標を元にクラスター分析を行うことで集団間の境界線が抽出された。さらに小杉・藤原(2004)の等高線マッピングを応用することで,集団間の関係性(マクロデータ)と個人の好意度(ミクロデータ)の関係を分析した。これらの方法によって測定された集団間の関係性について,好意度や交流時間などのその他の指標との対応を検討した結果,本研究で用いた手法は十分な妥当性を持つものと判断された。最後にこの分析手法の成果や今後の展望について議論した。
著者
三島 浩路
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.91-104, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
32
被引用文献数
2

本研究は,親しい友人から小学校高学年の頃に受けた「いじめ」が,その後の学校適応や友人関係などに与える影響を検討することを目的にしている。 高校生約2,000名を対象に,学校適応・友人関係,及び,親しい友人から小学校高学年の頃に受けた「いじめ」体験・小学校高学年当時の友人関係などに関する調査を行った。 その結果,親しい友人から小学校高学年の頃に受けた「いじめ」体験は,男子に比べて女子に多いことが示唆された。また,親しい友人からの「いじめ」を小学校高学年の頃に体験しなかった生徒に比べ,そうした「いじめ」を体験した生徒は,高校生になってからも学校不適応感をより強くもち,友人に対しても不安・懸念が強いことなどが示唆された。特に女子に関しては,中学生の頃,進学する高校などを考える進路選択の相談相手などにも,親しい友人から小学校高学年で受けた「いじめ」が関連することが示唆された。
著者
黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.111-121, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
47
被引用文献数
1

本研究の主な目的は,小学校高学年(5,6年生)を対象に,学級内の仲間集団に焦点を当て,仲間集団内における個人と集団の他成員との双方向による役割期待遂行度が,関係満足度に与える影響を検討することであった。予備調査では,10項目からなる仲間集団関係満足度尺度の作成を行った。本調査では,予備調査で作成した尺度を用いて,個人が他の集団成員にもつ役割期待に対する他成員による遂行度と,集団の他成員が個人にもつ役割期待に対する個人の遂行度,仲間集団内地位が仲間集団関係満足度に及ぼす影響について性差,集団サイズを考慮して検討した。その際,役割期待項目の個人および,仲間集団の他成員が捉える重要性の重みづけを行った。階層的重回帰分析の結果,性差や集団のサイズにより違いが見られ,男子および小集団では,個人と集団の他成員が一致して重要と捉える役割期待が多いこと,女子および大集団では一致した役割期待における集団の他成員がもつ役割期待に対する個人の遂行度の高さ,さらに大集団においては,個人が重要と捉える役割期待における個人がもつ役割期待に対する集団の他成員の遂行度の高さおよび仲間集団内地位の高さも加えて関係満足度を高く予測していることが示された。
著者
立部 知保里 宮本 匠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-17, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
22

本稿は,2013年フィリピン台風ヨランダの被災地であるセブ州北部のメデリン町とバンタヤン島を事例とし,住民組織(People’s Organization: PO)が被災後の地域社会の再生に果たした役割と意義を考察するものである。まず,同地域では災害そのものによる被害はある程度回復しているものの貧困や開発という根本的な問題は被災前から変わっていないことや,一方で,災害後のNGOのサポートにより住民の当事者団体であるPOが多数立ち上がったことを示す。次に,POは生業の創出と生活向上,開発への抵抗を主要関心事としており,メンバーは活動への参加を通して生活の刺激・楽しみを得ていることを論じる。この事例から,従来の支援や助け合いの主体であった政府,NGO,家族関係は,それぞれ政治的な不公平,持続可能性,問題解決能力という点で限界があることを示し,POの意義と役割を,①支援の受け皿となる新しい主体となる,②被災住民の自立を促す,③被災住民による問題解決の方策を多様化させる,④被災住民の生活の活力となることであったと論じる。最後に,災害復興とそれを経た「次の社会」においてPOのような当事者組織が持つ可能性を交換様式の議論から明らかにする。
著者
唐沢 かおり 三谷 信広
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.158-166, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

本研究は有利な立場にいる人たちの不公平さの認知が他集団に対しての支援的態度に与える影響を,責任帰属と罪悪感の媒介的役割に着目して検討した。データは仮想世界ゲーム(SIMINSOC)の参加者124人がゲーム前半終了時に回答した質問紙から得た。仮想世界ゲームは2つの豊かな地域と2つの貧しい地域から構成されており,貧しい地域に所属する参加者がゲーム内で生存するためには豊かな地域からのサポートを得ることが重要である。豊かな地域に所属した参加者からのデータをパス解析により分析した結果,不公平さの認知が,貧しい地域の苦境に対して自分たちの地域が責任を持つという認知につながり,罪悪感を喚起した。さらに,罪悪感が友好的な関係志向につながり,そのような関係志向が支援的態度を高めた。考察では,罪悪感が実際の相互作用を伴う状況でより重要な役割を果たす可能性や,罪悪感の起源を視野に入れた研究の必要性を議論した。
著者
原田 春美 小西 美智子 寺岡 佐和 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.168-181, 2011 (Released:2011-03-08)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,支援という枠組みにおける支援者と被支援者との相互作用において専門職支援者が用いた人間関係形成の方法と,その関係形成のプロセスを明らかにすること,さらに,それらを踏まえて,地域の支援の仕組みの望ましい形を提示することである。対象とした支援場面は地域の仕組みづくりであり,そこでの専門職支援者は保健師,被支援者は地域住民とした。データ収集は,市町村に所属する保健師20名を対象として,半構成的面接法を用いて行った。分析は,面接内容の逐語録をデータとし,Modified Grounded Theory Approachを用いて質的・帰納的に行った。分析の結果抽出された37の概念から,【関係づくり前】【内向きの関係づくり】【外向きの関係づくり】【関係の維持と新たな関係開発】【形成された関係の評価】という5つのカテゴリが生成された。ここでの相互作用は,保健師と住民,住民と住民,住民と行政組織や専門職・専門機関等の他者,保健師と他者との関係形成が図られる中で,住民や地域社会の課題を解決するための地域の仕組みを構築しようとする過程であった。また,当初は支援者である保健師が中心となって行っていたことも,関係が形成される中で住民中心へと変化する等,住民をエンパワメントする過程でもあったといえる。人間関係形成と,その形成過程の中で行われる課題解決,住民のエンパワメント,それらの経験の蓄積は,いずれも円環的に結ばれていたと考えられる。
著者
清水 佑輔 岡田 謙介 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2008, (Released:2021-02-07)
参考文献数
44

ギャンブラーには,一般的にギャンブル依存者(以下,依存者と略す)とギャンブル愛好家(以下,愛好家と略す)が存在する。ギャンブラーに対して少なからず否定的な態度が存在し,そのために依存者が周囲に助けを求めにくくなっていることが指摘されている。この問題に対して,愛好家に対する相対的に肯定的な態度を利用すれば,ギャンブラーというカテゴリー全体に対する否定的な態度を軽減できる可能性がある。また,否定的な態度を測定するうえで,社会的望ましさ傾向の影響を考慮する必要があるが,ギャンブラーに対する顕在的態度のみが測定されることが多く,潜在的態度の検討が十分に行われていない。そこで本研究では大学生の参加者にシナリオ実験を行い,依存者,愛好家のシナリオを読みサブカテゴリーの存在が顕現化したとき,ギャンブラー全体に対する潜在的態度が変化するか否か検討した。その結果,サブカテゴリーとしての愛好家を強調することで,ギャンブラーに対する潜在的態度を肯定化できる可能性が示された。依存者に対する否定的な態度を考える上で,一般的に見落とされがちな愛好家の存在を顕現化するという方略は,今後,依存者に対する態度変容を促す心理学的研究に応用できると考える。
著者
中村 和彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.137-151, 2013 (Released:2013-03-09)
参考文献数
26

本研究の目的は,ラボラトリー方式の体験学習を用いた授業が大学生の対人的傾向やソーシャルスキルに及ぼす効果について,不等価統制群事前事後テストデザインによって検証することであった。加えて,体験学習のEIAHE'モデルに基づく「体験から学ぶ力」の個人差が,ラボラトリー方式の体験学習の効果に影響するかどうかについて検証することも目的とした。大学1年次の春学期にラボラトリー方式の体験学習を用いた授業を受講した対象者を実施群,同学年同学科で受講しなかった対象者を統制群とし,授業開始時期の4月と授業終了時期の7月に,対人的傾向やソーシャルスキル尺度,「体験から学ぶ力」評定尺度への回答を求めた。その結果,統制群に比べて実施群の対象者は,「自己発見動機」得点が有意に上昇することが明らかになり,ラボラトリー方式の体験学習は自己への気づきに対する動機づけを高めることが示された。また,実施群において「体験から学ぶ力」の自己評定が高い群は低い群に比べて,「ソーシャルスキル」合計得点とその下位尺度である「問題解決スキル」,「コミュニケーション・スキル」の得点が有意に上昇することが明らかになった。