著者
堀口 康太 御手洗 尚樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.89-106, 2020 (Released:2020-03-10)
参考文献数
54

本研究は,自律的-統制的動機づけの観点から再雇用高齢労働者の就労動機づけを測定する尺度を作成し,動機づけと職場要因との関連を検討することを目的として実施された。まず,再雇用高齢労働者に対する聞き取り調査を通して,暫定版就労動機づけ尺度を作成した。次に,暫定版項目と職場要因から構成される質問紙調査を実施し,再雇用高齢労働者1,130名(Mages=62.02歳,SD=1.97,range=60–77;男性95.0%(n=1,074),女性4.2%(n=48),無回答0.7%(n=8))を有効回答として分析を実施した。探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)の結果,就労動機づけ尺度は「内発・貢献・自己発揮」,「獲得・成長」,「経済的安定」,「活動性維持」の4因子34項目から構成され,前者2つが自律的動機づけ,後者2つが統制的動機づけとして位置づけられ,併せて尺度の信頼性および妥当性が検討された。重回帰分析によって職場要因との関連を検討したところ,職場におけるコミュニケーションや上司と業務の評価を確認する機会等の人的な職場環境が自律的動機づけと正の関連を示した。したがって,再雇用高齢労働者の自律的動機づけの維持・向上には,職場における人間関係を中心とした人的な職場環境を整備することが有用であることが示唆される。
著者
谷口 友梨 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1609, (Released:2017-09-05)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究では,解釈レベル理論に基づき,(1)観察された行為事象との心理的距離によって生起しやすい自発的推論が変化するか,(2)その結果,特性に基づく行為者の将来の行動予測がどのような影響を受けるのかについて検討した。4つの実験を通じて,特性の推論は観察事象との心理的距離が近い場合より遠い場合のほうが生起しやすく,目標の推論は観察事象との心理的距離が遠い場合より近い場合のほうが生起しやすいことが示された。加えて,心理的距離が遠い行動を行った行為者の方が近い行動を行った行為者に比べて推論された特性に基づいて将来の行動が予測されやすいことが窺われた。これは,行為事象との間に知覚された心理的距離に応じて,駆動する情報処理の抽象度が変化し,距離が遠いほど行為事象は抽象的に解釈され,特性の観点から行動が解釈されやすいのに対し,距離が近くなると行為事象は具体的に解釈され,一時的な行為目標の観点から行動が解釈されやすくなることを示唆している。以上の結果から,潜在レベルで生起する推論が文脈の影響を受けやすい性質をもつこと,潜在レベルの推論が顕在レベルの判断を一定程度規定することが考察された。
著者
森尾 博昭 山口 勧
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.120-132, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
45
被引用文献数
1 2

自尊心と様々な情動や行動,認知との関連性は従来,その高低を中心として議論されてきたが,その他の属性を検討することにより,より包括的にその影響を検討することができる。本研究は,自己評価が外部からの情報なしに,内発的に揺れ動く時,その変動の程度を『自己概念の力動性』と定義し,この力動性が自尊心と様々な情動や行動,認知の関連性の理解に重要な役割を果たす,と提唱する。本研究では,力動性を測定するための手続きとしてマウス・パラダイムと呼ばれる手法を用いた。大学生56名を対象とした準実験の結果,ローゼンバーグの尺度で測られた自尊心得点が,ナルシシズム傾向へと与える影響に対し,自己概念の力動性が調節変数として働くことが実証された。高い自尊心はナルシシズム傾向へと結びつくのは,自己概念の力動性が高い場合,すなわち内在的に自己評価が不安定な場合のみであった。自己概念の力動性が低い場合,すなわち自己評価が内在的に安定している場合は,高い自尊心はナルシシズム傾向に影響を及ぼさなかった。本研究の結果は,自尊心の関連性を考慮する場合に,自己概念の力動性という動的な性質を考慮することが重要であることを示している。
著者
森尾 博昭
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-12, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
30
被引用文献数
1

ダイナミック社会的インパクト理論(DSIT)は個人の間の社会的影響過程の結果,集団レベルでの自己組織化現象として,ばらつきの減少である合併と空間的な収束であるクラスタリングが生じると予測する。本研究では,この予測の実証の試みとして,Latané & L’Herrou(1996)の用いたコンピュータを通じたコミュニケーション(CMC)のパラダイムを拡張し,他者からの影響を促進するような教示を行わない,より一般的な社会的影響過程のもとでもDSITの予測が成り立つかどうか検証した。実験は5週間の間行われ,参加者は週に1回,他の参加者と意見の交換を行った。個人レベルの分析では,2つの話題のうち,一つの話題で他者からの影響力が有意であった。集団レベルでは,合併は観察されなかったが有意なクラスタリングが観察された。本研究は,先行研究における制限を取り除いた上でも,CMCによる実験において,個人間の社会的影響過程が観察されること,またその結果としてクラスタリングが生じることを実証した。また電子掲示板などで見られる弱い社会的影響過程の結果,合併を伴わずにクラスタリングが生じる可能性も示唆された。
著者
黒川 雅幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.93-107, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本研究では,もったいないと感じた後の認知,感情,行動の変化について明らかにすることが目的であった。研究1では,大学生171名を対象に質問紙調査を実施した。参加者の経験や場面想定法による評定から,もったいないと感じた後には,それと類似する出来事において,再びもったいないと感じないように行動の改善を図ったり,気をつけたりすることが多いことが明らかになった。さらに,研究2,3では,研究1で得られた結果を行動レベルで確認するための実験的な検討を行った。研究2では,大学生42名を対象にもったいないを情動特性として捉えた実験を行った。価値の損失および再利用・再生利用可能性の消失によるもったいない情動特性が高いほど,もったいないと感じないように行動することが明らかになった。研究3では,大学生45名を対象にもったいないを状態的感情と捉えた実験を行った。しかし,もったいない感情が喚起されても,もったいないと感じないようにする行動はみられなかった。さらに,研究4では,大学生42名を対象に,情動特性と状態的感情の両方から検討し,状態的感情の喚起がもったいないと感じないような行動を導くことを明らかにした。
著者
遠藤 由美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.53-62, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
25
被引用文献数
5 4

人はしばしば,自己の主観的な状態が他者に対して露わになったと信じる傾向があり,これは透明性錯覚として知られている。本研究では,自己紹介場面での緊張においてこの透明性錯覚が重要な役割を果たし,また感じている緊張の関数として透明性推測が作り出される,という仮説を検討した。人前で話す時に緊張を強く感じる人は,そうでない人に比べて,聴衆に対してその緊張が明らかなものとして伝わったと信じる程度が強かった(研究1)。対人不安特性の強い人においても同様のことが示唆された(研究2)。研究3では,これらの結果を再現し,さらに動機的説明ではうまく行かないことを立証した。最後にこれらの結果に対して,透明性錯覚と係留・調整リューリスティックスの観点から議論が加えられた。
著者
田村 美恵
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-12, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
36
被引用文献数
2

人は,自分自身の判断や態度,行動(以下,自己判断)に対する合意性をどのように推定するのだろうか。またその際,自己判断に対する合意性推定のあり方は,自分以外の他者の判断を示されることで,どのように影響を受け,調整/修正されるのだろうか。この点に関して,先行研究間では,必ずしも一貫した結果が得られていない。本研究では,自己判断と他者判断の一致,不一致が合意性推定に及ぼす影響について,自分が多数派に属するか少数派に属するかという「所属集団サイズに関する予期」との関連で検討した。その結果,所属集団サイズに関する予期の違いによって,自己判断や他者判断への関心(重み付け)が左右され,異なる合意性推定プロセスが生起することが見出された。まず,自分が多数派に属するという予期を有する場合には,合意性推定は,専ら,自己判断をベースとして行われ,他者判断は,その内容如何に関わらず,合意性推定に影響を及ぼさなかった。これに対して,自分が少数派に属するという予期を有する場合には,自己判断だけでなく他者判断も考慮され,それらの内容が一致しているか否かによって,合意性の見積もり方が左右されていた。これらの結果に基づき,従来の見解の相違について考察した上で,合意性推定に及ぼす集団間文脈の影響,ステレオタイプ研究との関連などについて議論を展開した。
著者
大西 彩子 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.111-121, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
48
被引用文献数
4 2

本研究の目的は,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,いじめに否定的な集団規範が生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることで,いじめの個人内生起メカニズムについて検討することである。188人(男子103人,女子85人)の中学生を対象に,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,関係性いじめ否定規範意識,直接的いじめ否定規範意識,関係性いじめ加害傾向,直接的いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し,共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1)各いじめ否定規範意識は,各いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2)誇大的自己愛傾向は,各いじめ否定規範意識に負の影響を与えることで間接的に各いじめ加害傾向に影響を与えていた。(3)認知的共感性は,直接的いじめ加害傾向へ負の影響を与える直接効果と,関係性いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,関係性いじめ加害傾向に負の影響を与える間接効果がみられた。(4)情動的共感性は,各いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,間接的に各加害傾向に影響を与えていた。本研究によって,集団規範がいじめ加害傾向に影響を与える主な要因であることが示唆され,集団規範を考慮したいじめ対策を行うことの重要性が明らかになった。
著者
安藤 香織 竹橋 洋毅 梅垣 佑介 田中 里奈
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2102, (Released:2022-08-20)
参考文献数
35

本研究では,人類にとって新規のリスクである新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について,リスク認知,不安感情と関連する要因を検討した。先行要因として,性別,年代,及び情報接触を検討した。本調査はオンラインによって実施し,1,555名の有効回答を得た。分析の結果,女性の方が一貫して新型コロナウイルスに関するリスクを高く認知しており,不安感情が高かった。年代については,リスク認知は60代が高いが,不安感情は年代による差が見られず,感染確率の評価は60代が最も低くなっていた。リスク認知はテレビ,ネットニュースからの情報接触との関連が強かったが,不安感情はSNSとの関連が強かった。また,自身の感染確率を他者よりも低く見積もるという楽観性バイアスも確認された。本研究の結果からは,性別,年代によって新型コロナウイルスのリスクの捉え方が異なることが示された。新型コロナウイルスをめぐるリスク・コミュニケーションは,これらの差異をふまえて行われる必要があることが示唆された。
著者
堀田 結孝 山岸 俊男
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.169-177, 2008 (Released:2008-03-19)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

最後通告ゲームにおいて,相手の責任や意図とは無関係に生じる不公正分配の拒否が,不公正結果に対する嫌悪によって生じる行動であるかを検討するために,137名を対象とした最後通告ゲームと独裁者ゲームを実施した。参加者は,最後通告ゲームで受け手の役割に割り当てられ,不公正分配の提案を受け入れるか拒否するかを決定した。最後通告ゲームでは,提案者が意図的に不公正分配を行う“意図あり条件”と,提案者の意図とは無関係に不公正分配が生じる“意図なし条件”の2つの条件が個人間要因として操作された。更に,参加者は最後通告ゲーム終了後,独裁者ゲームに分配者として参加し,別の相手へ分配する金額を決定した。実験の結果,意図なし条件でも拒否者が観測され,また意図なし条件での拒否者は受け入れ者よりも,独裁者ゲームで公正分配を行う傾向にあった。実験結果は,相手の意図とは無関係に生じた不公正分配の拒否が,純粋に公正結果を追求する動機に基づく行動である可能性を示唆している。
著者
鈴木 公啓
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.50-59, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
35

印象管理の枠組みで痩身を考えた場合,体型印象管理予期も対象の種類によって異なる可能性が考えられる。そこで,本論文は,体型印象管理予期が対象によってどのように異なるかについて明らかにすることを目的とした。被調査者である若年女性は,買い物場面と海水浴場面の2つの場面における,親密度(友人,知人,他人)×対象の性別(同性,異性)の6種類の対象に対する体型印象管理予期についての回答をおこなった。分析の結果,体型印象管理予期の2側面である体型ポジティブ印象予期および体型ネガティブ印象予期の得点は,それぞれ,海水浴場面が買い物場面よりも高く,また,知人が他に比し高く,そして,異性の方が同性よりも高いことが確認された。そこには,評価の安定性や価値が関係していると考えられた。
著者
谷口 淳一 大坊 郁夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.13-24, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
36
被引用文献数
3 2

本研究では異性との親密な関係における自己呈示を取り上げ,異性との関係の親密さが,その異性に対する自己呈示動機に与える影響について検討した。調査対象者は758名(男性328名,女性428名,不明2名)の大学生であり,最も親しい異性を一人思い浮かべて質問紙に回答した。主な結果は次のとおりである。(1)関係を重要視しているほど,異性に対して恋愛感情を感じるほど自己呈示動機は高くなっていた。(2)関係が継続しているほど,異性友人関係では自己呈示動機が低くなっていたが,恋人関係では高くなっていた。(3)恋人関係であることの排他性は自己呈示動機を抑制していた。これらの結果より,長期的関係において短期的関係に比べて自己呈示動機が一概に低くなるわけではなく,長期的関係における自己呈示に関する研究を扱う必要性が示された。
著者
古村 健太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.195-206, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
33
被引用文献数
3 2

本研究では,恋愛関係への接近・回避コミットメントが恋愛関係における感情経験に与える影響を検討した。異性愛カップル91組を対象とした質問紙調査によって得られたペアデータを用い,個人内過程,個人間過程,パートナー調整効果を検討するため,行為者-パートナー相互依存性調整モデル(actor-partner interdependence moderation model: APIMoM)による分析を行った。その結果,個人内過程において,男女ともに,個人の接近コミットメントが感情バランスをポジティブにした。また,接近コミットメントが弱い場合に,回避コミットメントが感情経験をネガティブにした。個人間過程では,男性の接近コミットメントが女性の感情経験をポジティブにした。さらに,パートナー調整効果については,男性の接近コミットメント×女性の回避コミットメントが男性の感情経験と関連し,女性の接近コミットメント×男性の回避コミットメントが女性の感情経験と関連した。これらの結果について,接近・回避コミットメントが促進しうる行動や相互作用の観点から考察を行った。
著者
土屋 耕治
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.70-81, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本論考では,組織開発における組織診断が組織のその後の経過に与える影響について事例を用いて検討し,組織診断という働きかけがどのようなプロセスで組織の「時間」に影響を与えるかを論じた。組織開発における組織診断とは,何が,どのように起こっているのかという組織の行動と現状を組織自身が理解することを目指して行われる。組織診断とフィードバック,その後のフォローアップの事例におけるアンケートから,組織診断が組織のダイナミックスへ与える影響が考察された。具体的には,組織診断とフィードバックにより,組織の「今」をどう捉えるのかという共通認識が生成されたこと,また,フォローアップのインタビューとアンケートの結果から,組織診断後に協力的コミュニケーションの兆しが見られたことが示唆された。最後に,組織診断とその後の組織内の対話を経て,組織の時間的展望が生成され,それがモラールへ影響したという視点で今回の事例が考察された。具体的には,時間的展望の発達が個々人の主体性・能動性に繋がったという視点と,時間的展望が問題意識を共有する成員を結びつける形で協力的コミュニケーションに繋がったという視点から考察された。
著者
野波 寬 土屋 博樹 桜井 国俊
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.40-54, 2014 (Released:2014-08-29)
参考文献数
36
被引用文献数
2 4

正当性とは,公共政策に対する自他の決定権について,人々が何らかの理由・価値をもとに評価する承認可能性と定義される。本研究では沖縄県における在日米軍基地政策を取り上げ,これに深く関わる当事者と関与の浅い非当事者との間で,NIMBY問題における政策の決定権をめぐる多様なアクターの正当性とその規定因を検討した。正当性の規定因としては信頼性と法規性に焦点を当てた。当事者は精密な情報処理への動機づけが高いため,信頼性から正当性評価への影響は,評価対象のアクターごとに変化すると考えられる。これに対して非当事者は,各アクターの正当性を周辺的手がかりにもとづいて判断するため,一律的に信頼性と法規性が規定因になると仮定された。これらの仮説は支持されたが,その一方で非当事者ではNIMBY構造に関する情報の獲得により,自己利益の維持を目指して特定アクターの正当性を承認する戦略的思考の発生が指摘された。以上を踏まえ,公共政策をめぐるアクター間の合意形成を権利構造のフレームから検証する理論的視点について論じた。
著者
上原 俊介 森 丈弓 中川 知宏
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1708, (Released:2018-12-07)
参考文献数
31

怒りの表出に焦点を当てた従来の研究では,親密な人間関係を維持するためには怒りを抑制し制御することが重要であるとされてきた。その一方で,怒りを示す行動には相手の行動制御機能や自己開示機能が備わっているという点から,人間関係の親密化を促進する契機になると考える研究者たちもいる。そこでわれわれは,怒りを表出するほど親密な関係が継続しやすいと予測して,分析を行った。質問紙研究において,大学生参加者たちに最も印象に残った異性との失恋経験を想起させ,その経験について,交際期間と日頃怒りを表していたレベルを評価させた。これらのデータについて生存時間分析を行ったところ,強くはないが恋人に怒りを示していたと答えた参加者ほど,交際期間を有意に長く報告することが確認された。こうした結果を受けて,親密な人間関係においてみられる怒りの関係継続効果が議論された。
著者
宮前 良平 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1711, (Released:2018-03-21)
参考文献数
40

本研究は,津波で流出した被災写真を目にした被災者の「語りにならなかった事例」をもとに,語りえないことが復興に果たす役割を考察したものである。まず,先行研究においては復興過程で被災者が語らなかったこと,語りえないことについての議論がほとんどなされていないことを確認した。そのうえで,それらに着目することが実践的にも意義があるということを言語化可能な経験Aと言語化不可能な経験Bについての議論をもとに,本研究の前提として示した。これらの議論を通して,本研究のリサーチクエスチョンとして,「経験Bを第三者が共有するにはどのような方法があるか」「経験Bをめぐる現場のダイナミズムは,時間によってどのように変容するか」「津波という喪失経験からの復興という文脈において,経験Bは復興とどのようにかかわっていくか」の3点を提示した。本研究では,語りえないものを調査する道具としてなにげない日常が写っている被災写真を用いた。また,語りにならなかった事例を描写するために,岩手県野田村での被災写真返却お茶会の実践を通じた3年以上に亘るフィールドワークを実施し,その中から4編のエスノグラフィを示した。考察において,一枚の写真と「秘密」としか語らない被災者の様子から,語りえないことを第三者が共有する際に語りえないことを写真として名指すことの可能性を示し,その時間的変容を分析した。また,言葉にならないようななにげないことが写真として他者にも開かれていることを指摘し,このことが復興過程における新たな公共性の萌芽となりうることを論じた。
著者
村山 綾 三浦 麻子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1203, (Released:2013-09-30)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究では,集団討議で生じる葛藤と対処行動,およびメンバーの主観的パフォーマンスの関連について検討した。4名からなる合計17集団(68名)にランダムに配置された大学生が,18分間の集団課題を遂行した。その際,討議開始前,中間,終了時に,メンバーの意見のずれから算出される実質的葛藤を測定した。また討議終了時には,中間から終了にかけて認知された2種類の葛藤の程度,および葛藤対処行動について回答を求めた。分析の結果,集団内の実質的葛藤は相互作用を通して変遷すること,また,中間時点の実質的葛藤は主観的パフォーマンスと関連が見られないものの,終了時点の葛藤の高さは主観的パフォーマンスを低下させることが示された。関係葛藤の高さと回避的対処行動は主観的パフォーマンスの低さと関連し,統合的対処行動は主観的パフォーマンスの高さと関連していた。関係葛藤と課題葛藤の交互作用効果も示され,課題葛藤の程度が低い場合は,関係葛藤が低い方が高い方よりも主観的パフォーマンスが高くなる一方で,課題葛藤の程度が高い場合にはそのような差はみられなかった。葛藤の測定時点の重要性,および多層的な検討の必要性について議論した。