著者
矢守 克也 飯尾 能久 城下 英行
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.82-99, 2021 (Released:2021-03-04)
参考文献数
42
被引用文献数
3

巨大災害による被害,新型感染症の世界的蔓延など,科学(サイエンス)と社会の関係の問い直しを迫られる出来事が近年相次いでいる。本研究は,このような現状を踏まえて,地震学をめぐる科学コミュニケーションを事例に,「オープンサイエンス」を鍵概念として科学と社会の関係の再構築を試みようとしたものである。本リサーチでは,大学の付属研究施設である地震観測所を地震学のサイエンスミュージアム(博物館施設)としても機能させることを目指して,10年間にわたって実施してきたアクションリサーチについて報告する。具体的には,「阿武山サポーター」とよばれる市民ボランティアが,ミュージアムの展示内容に関する「解説・観覧」,地震活動の「観測・観察」,および,その結果得られた地震データ等の「解析・解読」,以上3つの側面で地震学に「参加」するための仕組みを作り上げた。以上を踏まえて,「学ぶ」ことを中心とした,従来,「アウトリーチ」と称されてきた科学コミュニケーションだけでなく,科学者と市民が地震学を「(共に)なす」ことを伴う,言いかえれば,「シチズンサイエンス」として行われる科学コミュニケーションを実現することが,地震学を「オープンサイエンス」として社会に定着させるためには必要であることを指摘した。
著者
原島 雅之 小口 孝司
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.69-77, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1 5

従来,自尊心が高いことは望ましいこととされてきた。しかし自尊心が高いと,課題に失敗したときなどの自我脅威状況において,他者に攻撃的にふるまいやすいことが示されている(Baumeister, Smart, & Boden, 1996)。そこでJordan, Spencer, Zanna, Hoshino-Browne, & Correll(2003)は顕在的自尊心と共に,潜在的自尊心も合わせて考慮することによって,内集団ひいきなどのようなさまざまな防衛的な行動が明らかになると仮定した。結果,顕在的自尊心が高くかつ潜在的自尊心が低い人が,最も防衛的であることが示された。しかしながらそうした知見は,最小条件集団パラダイムによって実験的に作られた集団場面でのみ検討されたものである。そこで私たちの研究では,顕在的自尊心および潜在的自尊心が,現実に存在する集団に対しての内集団ひいきに及ぼす効果の検討を行なった。結果はJordan et al.(2003)と一致したものであった。しかしその効果は,場面によって異なることも示唆された。
著者
大橋 恵 山口 勧
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.71-81, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
30

日本人には自分を「ふつう」よりも「ふつう」であると知覚する傾向がある(Ohashi & Yamaguchi, 2004)。このように自分の「ふつうさ」を過大視することから,日本では人を形容する言葉としての「ふつう」に望ましい意味が付与されていると考えられる。本研究は,「ふつうであること」は好意及び望ましい特性と結びついてとらえられているという仮説を立てた。大学生150名及び社会人61名にある一定の条件にあった人物を想起させ,その印象を測定する方法で,「ふつうの人」は,「ふつうではない人」よりも好かれていると知覚されていることを示した。さらに,「ふつうの人」の印象は「良い意味でふつうの人」の印象に近く,「ふつうではない人」の印象は「悪い意味でふつうではない人」に近いか(大学生)「良い意味でふつうではない人」よりも悪かった(社会人)。固有文化心理学の立場から理論的な考察を行った。
著者
藤原 健 伊藤 雄一 高嶋 和毅 續 毅海 増山 昌樹 尾上 孝雄
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-4, (Released:2018-09-08)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究は,演奏者の重心・重量を用いた演奏連携度の評価を通じて,小集団相互作用における動態をシンクロニーの視点から明らかにすることを目的とする。そのために,プロの演奏者によるコンサート時の合奏場面を対象に情報科学技術を用いて演奏連携度を算出し,これを社会心理学的手法により評価した。具体的には,椅子型センシングデバイスを用いて演奏者の重心移動・重量変化を取得することで身体全体の動きを時系列データとして検出し,短時間フーリエ変換を適用することで時系列振幅スペクトルデータを得た。これについて全演奏者の時系列スペクトルデータを乗算することで演奏連携度を算出した。この演奏連携度についてサロゲート法を用いることで,演奏者間に偶然以上の連携が生じていたことを明らかにした。さらに,コンサート時に取得していた音源を一般の大学生に提示した結果,一部の楽曲において演奏連携度の高い演奏が肯定的な評価を得ることを確認した。行動の同時性や同期性を扱うシンクロニー研究の多くは二者間の相互作用を対象としたものが多い中で,情報科学の技術を導入することで小集団における相互作用ダイナミックスが精緻に測定・検討可能になった点は異分野協同における成果であるといえる。
著者
日比野 愛子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.82-93, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
26

本研究は,実験道具の発展とともに歩んだ生命科学実験室の集合体の変化に迫ったものである。AFM(原子間力顕微鏡)という先端装置は,生物学に応用されていく中で,今後の発展の見込みが計算しにくい,テクノロジカル・プラトー(道具-組織のシステムが保っている一時的な均衡状態)にいたっていた。本研究では,このプラトーがいかなる構造によって成り立ちうるのかを明らかにすることをねらいとする。方法として,国内の生命科学実験室を中心とした生命科学集合体へのエスノグラフィ調査を実施した。回顧の語りからAFMと実験室が発展する経緯を分析した結果,手段であった装置が目的となり,さらに手段へと戻るプロセスを通じてプラトーにいたったことが示された。一方,実験室とそれをとりまく関係者を対象とした共時的な観察や聞き取りからは,プラトーの渦中における装置の意味の重なりとアイデンティティのゆらぎが見出された。以上をもとに,考察では,プラトーを下支えする力に注目し,そこに現代生命科学の市場的性質がかかわっていることを論じた。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.48-59, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
19
被引用文献数
3

本稿は,アクションリサーチにおける時間性について理論的に検討するものである。アクションリサーチを定義づける変化,目標状態,ベターメントといった特性が共通して前提にしているものこそ,時間だからである。ここで重要なことは,2つの時間系列,すなわち,人間的な実践の外的な枠組みとしての「客観的時間」と,「主体的時間」とのちがいである。「主体的時間」とは,たとえば,「まだ試験終了まで10分以上ある」など,「今はもう」,あるいは「今はまだ」といった,自分自身の営みにおける主体的な構えとともにある時間のことである。「主体的時間」は,既定性(ポスト・フェストゥム)と未定性(アンテ・フェストゥム)という2つの対照的な特性を生み,両者は逆説的なダイナミズムをなしている。さらに,この両者と「客観的時間」における過去・現在・未来とが構成する平面上で展開される〈インストゥルメンタル〉(媒介・手段的)な時間の総体と,それとは対極にある〈コンサマトリー〉(直接・享受的)な時間とが,別の逆説的なダイナミズムをなしている。アクションリサーチでは,これら2組の時間のダイナミズムを,研究者がどのように認識し,かつ自らがその中に巻き込まれつつ,それをいかに構想し運用していくかが重要である。
著者
藤井 聡
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.27-41, 2005 (Released:2006-04-29)
参考文献数
40
被引用文献数
8 6

本研究では,公共事業の合意形成問題における公共受容の問題を考えるために,受容意識に関わる因果関係と信頼の醸成に関する仮説を措定し,それを検証するための実験を行った。すなわち,受容意識は自由侵害感と公正感に,公正感は手続き的公正感と分配的公正感と公共利益増進期待に,そして,手続き的公正感と公共利益増進期待は行政に対する信頼にそれぞれ影響を受けるという仮説を措定した。また,公共事業の趣旨を理解している場合には,そうでない場合よりも,その公共事業の実施者に対する信頼の水準は高くなるという仮説を措定した。以上の仮説を検証するために,都心部の渋滞や大気汚染を緩和する目的で都心部への自動車流入に関する罰金を伴う規制施策を実施するという想定のシナリオ実験(n=800)を行ったところ,以上の仮説を支持する結果が得られたと共に,行政への信頼は受容意識,自由侵害感,公正感,分配的公正のそれぞれに対しても直接的な影響を及ぼしていること,ならびに,公共事業の趣旨の教示の信頼に対する効果は,罰金額が一万円の場合の方が千円の場合よりも小さいという結果が得られた。
著者
林 直保子 与謝野 有紀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.27-41, 2005 (Released:2005-08-26)
参考文献数
31
被引用文献数
6 6

高信頼者は低信頼者に比べ他者の信頼性の欠如を示す情報に敏感に反応するという小杉・山岸(1998)の結果を4つの研究で検討した。調査1では,小杉・山岸(1998)で用いられた一般的信頼感の指標が,一般的信頼感のレベルと他者の信頼性情報への反応パターンの間の関係を検討するための適切な指標となっていなかった点を指摘した。調査1の結果に基づき,2つの実験とひとつの郵送調査では,一般的信頼感として異なるものを用いた。結果は,低信頼者が他者のポジティブ人格情報に敏感に反応し,対象となる人物を信頼するようになることを示していた。3つの研究から,高信頼者と低信頼者は対称な反応パターンを有しており,いずれも社会的な機会を拡大するという点で適応的であることが示唆された。
著者
日高 友郎 水月 昭道 サトウ タツヤ
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.11-24, 2014 (Released:2014-08-29)
参考文献数
29
被引用文献数
2 1

本研究では市民と科学者の対話(科学コミュニケーション)の場であるサイエンスカフェでフィールドワークを行い,両者のコミュニケーションの実態を集団研究の文脈から検討した。目的は第1にサイエンスカフェの記述的理解,第2に集団の維持要因についての検討である。結果は以下の2点にまとめられた。第1に参加者の関心の多様性(KJ法による),第2に科学者―市民間の会話は,第三者であるサイエンスカフェ主催者(「ファシリテーター」)が介入することで維持されていたこと(ディスコース分析による)である。集団成員間に専門的知識や関心などの差がありながらも,ファシリテーターの介入によって,両者の「双方向コミュニケーション」が実現され,集団が維持される可能性がある。これはサイエンスカフェにとどまらず,専門家と一般人のコミュニケーションが生起する場の理解,またそのような場を構築していくにあたって示唆的な知見となるであろう。
著者
田原 直美 三沢 良 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.38-51, 2013 (Released:2013-09-03)
参考文献数
42
被引用文献数
2 3

本研究は,職務チームの対面的コミュニケーション行動を,特殊な機器を活用して詳細に測定,記録し,チームワーク特性と比較検討することで,職務チームにおいて有効なチーム・コミュニケーションとはどのようなものかについて実証することを試みた。システム・エンジニアを対象に,10週間職務遂行中の対面コミュニケーションを測定し,コミュニケーションの量的指標及びネットワーク指標を算出した。これらの指標と,質問紙調査により測定したチームワーク,職務満足感,集団アイデンティティ,及びチームのパフォーマンスとの関連を比較検討した。最終的に9チーム59名を対象に分析した結果,頻繁で緊密なチーム・コミュニケーションは必ずしも優れたチームワークを保証するものではないことが示された。また,チームとしての発達段階や,遂行する課題の特性,課題の習熟度などによって,チーム・コミュニケーションとチームワークとの関連が変化することも示唆された。
著者
鎌田 晶子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.78-89, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
20
被引用文献数
4 3

「透明性の錯覚」(Gilovich, Savitsky, & Medvec, 1998)とは,自分の内的状態が他者に実際以上に明らかになっていると過大評価する傾向である。本研究では,行為者がひとつだけ味の異なる飲み物を観察者に言い当てられないように飲むというGilovich et al.(1998; Study 2)の手続きに基づいて3つの実験を行った。研究1a(n=45)では,Gilovichらの追試を行い,日本の大学生においても行為者の透明性の錯覚が同様に認められることを確認した。研究1b(n=46)では,同様の課題で1対1の対面条件を設定し実験を行ったが,透明性の錯覚は消滅せず,研究1aの結果が実験上のアーチファクトではないことを明らかにした。研究2(n=116)では,係留点が透明性の錯覚に与える影響について検討するため,行為者の主観的な衝撃度を操作した。その結果,衝撃の強さが行為者の透明性の錯覚量に影響を与える傾向が示された。これは,透明性の錯覚の発生メカニズムとして係留・調整効果を支持するものであった。行為者―観察者の対人相互作用における主観性や認知的バイアスについて考察した。
著者
藤本 学 大坊 郁夫
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.51-60, 2007 (Released:2008-01-10)
参考文献数
35
被引用文献数
1 2 1

本研究の目的は,会話展開への影響という側面から,会話者の発話行動傾向の独自性を明らかにすることである。そこで,議題について共通見解を出すために討論を行う討論条件と,お互いを知るために雑談を行う親密条件を設定した小集団会話実験を実施した。実験では48名(男性18名,女性30名)の大学生が,討論条件または親密条件にランダムに配置され,初対面の同性3人による18分間の会話を行った。分析では,まず,主成分分析を利用したパターン解析の手続きにより,会話展開行動のパターンを抽出した。その結果,条件別にそれぞれ5種類の会話展開パターンが抽出された。つぎに会話者の個人特性が発話行動に及ぼす影響について検討するために,重回帰分析を行った。その結果,討論条件では外向性や表出性が積極的な会話展開パターンと関連を示した。一方,親密条件では個人特性と会話展開パターンの関連性は希薄であることが明らかとなった。各条件で抽出された会話展開パターン,及び会話者個人の性質の影響について議論された。
著者
宮島 健 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1714, (Released:2018-03-23)
参考文献数
39
被引用文献数
1

集団や社会において,集団成員の多くが受け入れていない不支持規範が維持・再生産される心理的メカニズムとして,多元的無知のプロセスによるはたらきが示唆されている。その集団内過程において,偽りの実効化は不支持規範の安定的再生産へと導く社会的機能を有することが示唆されている。しかしながら,偽りの実効化を引き起こす心理的メカニズムは明らかにされていない。本研究では,日本における男性の育児休業を題材として,他者に対する印象管理動機が偽りの実効化を誘発するという仮説について検証した。本研究の結果,多元的無知状態の人々では印象管理動機が喚起され,その結果として,逸脱者に対する規範の強要(i.e., 実効化)が誘発されることが明らかとなった。これは,多元的無知状況下において,他者信念を誤って推測した人々による逸脱者への規範の強要は,不支持規範を維持・再生産させようと意図しているのではなく,自己呈示的な動機に基づいて行動しているに過ぎないという印象管理戦略仮説の妥当性を示している。
著者
柳 学済 堀田 美保 唐沢 穣
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1614, (Released:2018-01-20)
参考文献数
23

個人間の罪悪感研究では,関係の維持が必要となる被害者に対しては,関係を修復するために罪悪感が生じやすいことが示されている。本研究では集団間においても同様に,集団間の相互関係が予期される外集団に対して,集団間の関係修復のために集合的罪悪感が生じやすいか否かを検討した。また,これまでの集合的罪悪感研究で一貫した結果が得られていない集団同一視の影響に対して,集団間の相互作用が調整効果を持つかどうかを検討した。60名の大学生を対象に小集団による得点の分配ゲームを行い,参加者は内集団との同一視(高vs.低)×外集団成員との相互作用の予期(ありvs.なし)の4条件のいずれかに割り当てられた。ゲーム内での内集団成員の外集団に対する不公正な分配により,すべての参加者に対して,集合的罪悪感を喚起させた。集団同一視の操作は,ゲーム内での分配における内集団成員の公正さの程度により行い,集団間の相互作用は,外集団への不公正な分配が行われたのちに外集団成員と共にゲームをするか否かを予期させることにより操作した。実験の結果,集団間の相互作用が予期される場合には,集団と同一視する集団成員において強い集合的罪悪感が生起し,相互作用が予期されない場合には,罪悪感が生起しない傾向が明らかにされた。
著者
齋藤 真由 白岩 祐子 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1704, (Released:2018-01-13)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本研究の目的は,市民の司法参加に対する認知構造を,広瀬(1994)の要因関連モデルなどで提出されている3つの評価の枠組みから把握するとともに,それらが参加意欲に与える影響を明らかにすることである。本研究が着目した3つの評価とは,市民における知識や経験の有無に関する「実行可能性評価」,負担感についての「コスト評価」,市民による司法参加の効用についての「ベネフィット評価」である。都内の大学生74名を対象とする予備調査で得られた自由回答をもとに,司法参加に対するさまざまな認知を収集し,上記3つの評価に分類した。本調査は都内の大学生を中心とする206名を対象に実施した。因子分析の結果,実行可能性評価とベネフィット評価に関する因子はそれぞれ4つ,コスト評価に関する因子は1つが得られた。その中でもベネフィット評価に含まれる「親和性の向上」と「透明性の向上」が参加意欲を高め,実行可能性評価に関する「知識・経験の欠如」とコスト評価に関する「責任の重さ」が参加意欲を低下させていることが明らかになった。これらの結果にもとづき,今後研究が進むべき方向性について議論した。
著者
宮前 良平 大門 大朗 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2214, (Released:2023-03-21)
参考文献数
53

本研究は,コロナ禍前後での災害ボランティアに対する排斥言説を検討し,その背後にある外集団と内集団の境界画定のなされ方を明らかにすることを目的とする。コロナ禍において社会的マイノリティへの排斥の増加が指摘されているが,このような排斥は,外集団と内集団の境界が明確な際に生じている。本研究では,コロナ禍前後での日本における災害ボランティアへのTwitter上の言説を対象とし,境界が比較的流動的な災害ボランティアへの排斥的な言説構造がコロナ禍前後でどのように変化したのかを分析した。その結果,災害発生時には怒り感情を含むツイートが有意に増え,コロナ禍には不安感情を含むツイートが有意に増えたことが確認された。次に,コロナ禍前後での災害発生時のボランティアに対するツイートを比較すると,コロナ禍のほうが災害ボランティアに対してネガティブなツイートの割合が増えることが明らかになった。さらに,ツイートの内容を詳細に分析すると,コロナ禍において災害ボランティアを排斥する言説には,感染者/非感染者の区別よりも,県内在住者/県外在住者という明確な境界画定があることが示唆された。このような県内か県外かという境界画定は,コロナ禍以前から見られたものであるが,コロナ禍における感染拡大防止という規範が取り入れられ強化されたものであると考えられる。
著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2202, (Released:2022-11-12)
参考文献数
36

本稿は,高知県黒潮町で展開された防災活動に対して参与観察を行い,Days-Afterの視座から分析を試みたものである。Days-Afterとは,まだ起こっていない災害現象を,もう起こったこととして捉える姿勢・語り方のことであり,災害の発生を確率として捉えるのではなく,将来必ず起こるものとして捉えて語る視点のことである。この視点は,災害の発生が不可避だととらえるものであり,時として災害に対する諦めを引き起こしかねない視点である。しかし,本稿では,逆説的ではあるが,災害の発生を確実なものとして捉えるDays-Afterの視点が,黒潮町の住民を防災に対する前向きな態度に変容させていたことを明らかにした。具体的には,黒潮町の会所地区における防災活動と,黒潮町の住民が作成した津波についての絵画を対象に分析を行った。その結果,南海トラフ地震が将来的に不可避であることを学習する過程で,巨大な津波想定に対する葛藤は生じていたものの,防災活動を通じて住民は自らの生活を振り返り日常生活の価値を再発見し,発災後にも生き残った未来を想起していたことがわかった。
著者
向井 智哉 藤野 京子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2001, (Released:2021-02-07)
参考文献数
71
被引用文献数
4

本研究は,少年犯罪者に対する厳罰志向性と少年犯罪に関する犯罪不安および被害リスク知覚,子どもは理解不能であるという子どもイメージの関連を検討することを目的とした。先行の議論や研究にもとづき,a)少年犯罪に対する厳罰志向性は少年犯罪に関する犯罪不安によって規定される,b)犯罪不安は被害リスク知覚によって規定される,c)被害リスク知覚は理解不能イメージによって規定されることを想定した仮説モデルを構成し,異なる想定を置いた別のモデルと適合度および情報量の観点で比較を行った。226名から得られたデータを分析したところ,上記の仮説モデルは支持された。
著者
向井 智哉 松木 祐馬 貞村 真宏
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2210, (Released:2023-06-22)
参考文献数
36

現在の日本では,被害者のプライバシーに関する証拠(情報)のうち,関連性が低いものが裁判に顕出することを禁じる「レイプ・シールド法」を導入することの是非が論じられている。このような議論を背景に,本研究は,被害者関連情報として,被害者の性的前歴(多×少×記述なし)と職業(風俗従事者×医者×記述なし)がその被告人に対する量刑に及ぼす効果を検討することを主な目的として調査を行った。ドメイン知識を活用しつつ,被害者関連情報の効果を検討するために,分析にはベイズ的アプローチを用いた。分析の結果,被害者関連情報の量刑判断に対する主効果の95%確信区間には0が含まれており主効果は認められなかった。ただし,性的前歴多×風俗従事者に交互作用効果が見られ,被害者は性的前歴が多く,かつ風俗従事者であると記述された場合には,性的前歴や職業に関する記述がなされない場合および風俗従事者であるという情報のみが提示された場合と比較して,被告人に重い量刑が求められることが示された。上記の結果から得られる政策的示唆について論じた。
著者
村上 幸史
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2114, (Released:2023-02-17)
参考文献数
35

携帯メールやLINEのやりとりにおいては,送受信の行為自体が,一種の社会的交換と見ることができる。ただ返信するだけでなく,できるだけ早く返信するという返報の義務の存在からは,返報の速度自体にも価値が置かれていると考えられる。そのため,利用者が相手との不均衡さを感じた場合には,返信速度を調整することによって,相手に合わせた対応をしたり,何らかの意思表示をしているのではないかと推測される。そのため,やりとりの早さは,返信が早い相手には早いが,遅い相手には遅いという「つりあい」が取れた形で現れると考えられる(互酬性仮説)。本研究ではこの仮説を検証するために,メールとLINEに関する調査を行った。その結果,自分と相手の返信速度や文字数の間には高い相関が見られた。また返信の早さは,相手の返信の早さによって違いが見られた。