著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.93-105, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
40

本稿の目的は,消費者によるオムニチャネル統合度(Omni-Channel Intensity;以下OCI)知覚が,オムニチャネル買物体験におけるモバイル・アプリケーション(以下モバイルアプリ)の利用および,購買意図とブランド推奨意図に与える影響を明らかにすることにある。オムニチャネル買物体験の知覚指標であるOCI(Huré, Picot-Coupey, & Ackermann, 2017)は,オムニチャネル・ショッパー(Omni-Channel Shopper;以下OCS)によるモバイルアプリ受容行動と購買意図に影響を与え,その体験がブランド推奨にも影響を及ぼすと考えられるが,この関係性に着目した研究は少ない。本研究は理論的枠組みとして技術受容モデルを採用し,因果モデルを提案した。アパレル企業におけるOCSを対象とした定量調査を行った結果,直接効果としてOCIの構成概念であるシームレスネスはモバイルアプリの利用容易性と購買意図に正の影響を与え,知覚された一貫性はモバイルアプリの利便性と利用容易性に正の影響を与えることが明らかになった。さらにこれらのOCI構成概念はモバイルアプリの利用容易性を媒介とした利便性への正の間接効果とともに,モバイルアプリの利便性を媒介としたブランド推奨意向への正の間接効果を持つことが明らかとなった。
著者
奥谷 孝司
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.75-83, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
45

本稿の目的は,消費者視点からのオムニチャネル買物価値(Omni-Channel Shopping Value)(Huré, Picot-Coupey, & Ackermann, 2017)の理解に求められる視座を提供することにある。小売業におけるテクノロジー活用の進展により,オムニチャネル・リテイリング(Brynjolfsson, Hu, & Rahman, 2013)の実現が進んでいる。この流れを受け小売業におけるオムニチャネル戦略の研究が企業の視点から展開されているが,これらの買物体験を消費者の視点から検討する先行研究は少ない。本稿では,オムニチャネル・ショッパー研究の現状を示した上で,その消費者行動の理解に寄与すると考えられる3つの研究領域についてレビューする。具体的には,技術受容モデルに基づくモバイルアプリ受容行動研究とショールーミング・ウェブルーミング行動研究,店頭受け取りサービス(Buy Online, Pick-Up In Store)研究の3つである。最後に,オムニチャネル買物価値の理解に求められる今後の研究課題を提示する。
著者
山内 裕 佐藤 那央
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.64-74, 2016-01-08 (Released:2020-04-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿では既存のサービスデザインの概念を社会科学の理論的視座から再考する。その目的は既存のサービスデザインを否定することではなく,その更なる発展のため,サービスデザインの実践研究とサービスの理論の接合を試みることにある。そこで,本稿ではサービスは相互主観性レベルの事象であるという主張を元に,サービスデザインにおける基礎的な概念である,「体験」や「共創」が孕んでいる理論的矛盾点を指摘する。具体的には,これまで利用者やステークホルダーがデザインされた,あるいはされる対象を客体として観照し体験しているという主観性の概念に依拠するのではなく,これらの人々が自分の理解をどのように示し合うのかという相互主観性の水準で議論することで,従来のデザイン方法論と比較したときのサービスデザインの独自性を明確にする。従来から議論されている方法論は主観性を基礎としている限りにおいて,相互主観性の水準で議論されるべきサービスデザインの方法論として適切ではなく,独自の方法論を探究しなければならない。
著者
田中 江里華
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.3-12, 2021-02-26 (Released:2021-02-26)
参考文献数
7

日本におけるスポーツビジネスの発展は重要な課題であり,野球単体で黒字化が難しいプロ野球業界では近年マーケティングの活用が進められてきた。一方で,広島東洋カープは12球団中唯一親会社を持たず45年間黒字を継続している。本研究は,その長期的競争優位の因果構造を,JCSIの枠組みを用いてロイヤルティ形成という視点から考察する。読売ジャイアンツ,横浜DeNAベイスターズを比較対象とし,因子分析と共分散構造分析で定量的に研究した。その結果,各ファンが評価する球場体験,球場サービスの便益の違いが浮き彫りになり,カープファンは観戦を通したファン同士の繋がりと自己実現を評価し,成績に左右されない顧客満足が実現できている事がわかった。さらに,三球団に共通して試合に関する要素が顧客満足やロイヤルティに強く影響する一方,試合と関連の低い球場体験は顧客満足に影響すると言いきれない事と,ロイヤルティが同化意向,協力的行動に影響している因果構造が明らかとなった。顧客の求める価値を理解し,主観的・客観的な便益を強化することが,企業と顧客の高次で長期的な関係性に寄与すると示唆された。
著者
芳賀 宏一郎 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.80-94, 2019-03-29 (Released:2019-03-29)
参考文献数
20

プロダクト・デザインはビジネスにおける重要なテーマであり(Luchs & Swan, 2011),競争優位の重要な源泉であると言われている(Noble & Kumar, 2010)。このデザインを重視し,デザインと機能の融合により「美しい製品」の開発を行い,市場で高い評価を得ている企業がある。北九州市小倉に本社を置くTOTO株式会社である。2017年にネオレストシリーズのフラッグシップモデル「ネオレストNX」を開発し市場に展開しているが,このネオレストNXは「オブジェ」と言っても過言ではない。そこで,TOTO(株)の空間と調和するデザインと「ものづくり」におけるマーケティング展開を調査した。この結果,TOTO(株)のマーケティングの卓越性は,「デザイン・ドリブン・イノベーション」と「デザインのHolistic視点と機能の融合」の2つにあると考えられる。
著者
若林 宏保 中村 祐貴 徳山 美津恵 長尾 雅信
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.13-21, 2021-02-26 (Released:2021-02-26)
参考文献数
10
被引用文献数
1

人口減少に喘ぐ地方都市は,人々との関係性を育むためにブランド戦略の再構築が求められている。その基となるブランド力指標の多くは,都市の相対的な位置付けを把握するには適するものの,人々を引きつけるブランド・ストーリーを導くような意味構造の把握は難しい。本研究ではその課題解決のために,都市に対する行動意向と意味構造の調査を実施し次の分析を行った。まず,従来の地域ブランド指標に関係人口の概念を包含し,都市への行動意向の指標化を試みた。因子分析によって3つの行動意向(生活因子,体験因子,貢献因子)を導出した。次に3つの因子の平均因子得点から階層的クラスター分析を行い,都市のイメージ連想を4つに類型化した。それぞれリッチ・ストーリー型,ユニーク・ストーリー型,コモディティ・ストーリー型,ノン・ストーリー型と命名した。最後に各クラスターにおける意味構造の特徴を「ワードの数」「ワードの意味」「意味や文脈の構造」の3つの観点から捉え,戦略的示唆を提示した。研究の展望では,外的妥当性とブランディングの有効性を高める方途について言及した。
著者
大井 義洋
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.29-40, 2022-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
27

2021年9月に日本初の女性プロ・サッカーリーグであるWEリーグが誕生し,初年度は11クラブが参画した。サッカーの一般的なリーグ構造である昇降格制ではなく,クローズドなリーグ構造であり,また東アジアでは初となる秋春シーズン制を採用した。このリーグではサッカー事業の成長だけでなく,女性活躍社会の実現をはじめとした社会課題解決をもその理念に掲げ取り組んでいる。リーグ経営ではリーグ,クラブ,選手,マーケティングパートナー企業,メディア等のステークホルダーが弱い繋がりの強さによって一体となるコレクティブ・インパクトを形成し,リーグの存在意義であるパーパス経営を推進することにより,WEリーグの成長・発展を達成しうる可能性があることを明らかにした。
著者
大平 修司 スタニスロスキー スミレ 日高 優一郎 水越 康介
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.19-30, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
61
被引用文献数
2

ふるさと納税は,問題点を抱えているものの,着実にその規模が拡大している。一方で,ふるさと納税に関する研究は,その実態把握研究が大半であり,特に利用者研究は限定的な理解に留まっている。本稿では,まずふるさと納税を寄付型および報奨型クラウドファンディングとして理解し,利用者がふるさと納税を行う要因を検討する。次に寄付者が寄付を行う要因を検討する。さらにふるさと納税の返礼品を寄付つき商品と理解することでコーズ・リレーテッド・マーケティング研究を通じ,消費者が寄付つき商品を購入する要因を検討する。最後にふるさと納税の利用者を理解する枠組みを提示し,地方自治体のマーケティングへの示唆を述べる。
著者
西尾 建
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.41-53, 2022-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
28

米国では,同じ時代に生まれ育ち同じ価値観を共有している人々を対象に「世代別コホート理論」によるセグメンテーション研究が進められているが,日本ではこの分野での事例研究は少ない。本研究では,日本で開催された2019ラグビーワールドカップ日本大会の観戦者を対象に世代別にその特徴を明らかにするものである。Z世代,Y世代(ミレニアル世代),X世代,ベビーブーマー世代の「4世代」のファンのスポーツ観戦動機による満足度への影響を回帰分析によりそれぞれの特徴を明らかにし,さらにラグビーのファンマーケティングで課題になっている「女性ファン」やワールドカップで短期的に熱狂し応援した「にわかファン」についても分析した。本研究の結果から,各世代ファンの特徴を明らかにしてスポーツ観戦におけるマーケティング戦略について考える。
著者
神田 將志 日高 優一郎
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.105-114, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
9

本研究では,岡山県小田郡矢掛町におけるアルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso,以下ADと表記)の発展プロセスを考察する。ADは,町の中に点在する空き家を一体化した宿として活用してエリア全体を活性化する試みである。人口減少が進む中で,地方活性化の手法として注目を集めており,日本では矢掛町が初めてADタウンに認定されている。本研究は,矢掛町の事例では,当初からADを念頭に活動を進めたわけでなく,活動がADとの邂逅を生み出したことを示す。当事者が,当座の「町ごとホテル」の名のもと,当地の伝統的な関係性を紐解きながらアクターを生成し,生成した各アクターが資源をやりくりして実践を積み重ねた結果,ADとの邂逅を生み出している。事業が「AD」と再定義されたことは,当事者たちの当地の魅力や活動対象エリアの認識に変化を生み出し,更なる可能性を呼び込んでいる。本研究は,矢掛町のAD認定に至る軌跡を辿り,その意義を考察する。
著者
森 泰規
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.11-17, 2023-02-28 (Released:2023-02-28)
参考文献数
6

今回本稿では,職員(組織成員)のクリエイティブな活動が,組織の成果にもたらす効果をブルデューの理論概念を援用して検討する。すなわち,個々人の特定の趣向や行動様式(=ハビトゥス)は個々人でなく集団として共有され,その方向性を示すこと(Bourdieu, 1980/1988)また,どのような趣味をもつかによって,人はみな自分自身の「界」をつくり差異化を果たそうとする(Bourdieu, 1979a/1990; Crossley, 2001/2012; Kataoka, 2019)ことである(ハビトゥス概念・界概念)。生活者3,000名を対象とした調査(2021年6月)で回帰モデルを用いた分析の結果,正解率は64.9%を示し,かつ「趣味の楽器演奏」の経験があると,業務上の達成実感は2.3倍(最低でも1.6倍,最大の場合3.3倍)であることがわかった。世帯年収や15歳時の出身家庭における蔵書数も説明力を持っていたが趣味よりは影響が小さく,年齢はさほど説明力をもたなかった。これらにより経済資本や出身階層の文化資本よりも,後から身につけた趣味が相対的に強い影響を及ぼすことを示した。
著者
小谷 恵子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.84-93, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
5

本ケースでは,日本のライフスタイルに大きな影響を与えたファッションブランド,ヴァン・ヂャケット(1954–1978)と,創業者の一人である石津謙介(1911–2005)に焦点を当てる。卓越した発想力で新しい顧客と価値を創造し,様々なマーケティング手法を駆使して頂点に上りつめたVANだが,その存在は顧客の高齢化に伴い失われつつある。従業員や顧客は,VANという学校に入学した順に後輩から先輩になり,OBになっていくという構造が,会社やブランドとの一体感を醸成した。当時の顧客や従業員は,今でもVANとの体験価値を自身のアイデンティティとして持ち続けている。本稿ではその軌跡をたどり,VANが創出した価値の再評価を行う。
著者
西原 彰宏 圓丸 哲麻 鈴木 和宏
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.21-31, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
22

本研究では,これまでのブランド構築を踏まえて,これから一層進展していくデジタル時代におけるブランド構築について考察し,企業と消費者との価値共創に対して,これまで見過ごされていたブランド構築に寄与する第三の主体であるBIT(Brand Incubation Third-party)を交えたブランド価値協創(collaborative creation of brand value)を提唱する。そして,3主体によるブランド価値協創においては,経済的関係性を超えた社会的関係性を示す概念であるブランド・エンゲージメント(brand engagement)が重要であることを提示する。
著者
石塚 千賀子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.95-104, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
28

本ケースでは,小柳建設株式会社がマイクロソフト社との協業で複合現実(MR)技術をもちいて展開した新たなデジタル・サービス化をとりあげる。本技術により,工事の発注者,請負の施工者,設計者などの関係者が遠隔からも一堂に会し,実物大(ヒューマンスケール)で,工事の設計から竣工までの見たい場所を安全に歩き回り,意思疎通できるようになった。通常,デジタル・サービス化の多くは,顧客ニーズへのよりよい適応のために展開される。しかし,本ケースでは,経営者の内部顧客志向によってデジタル・サービス化が展開された。この内部顧客志向は,同社の経営理念そのものである。経営者は,偶然見つけたこの技術を,まさに自分たちのための技術だと直感的に確信し,リスクを覚悟で導入を即決した。デジタル・サービス化のパラドクスの乗り越えを可能にしたのは,迅速に顧客のネガティブな反応を察知し戦術転換できる組織体制にあった。経営陣は,本DXは経営理念実現のための手段のひとつと位置づけており,顧客体験の向上はもとより,業界のあたりまえとされてきた長時間労働の改善や,3Kイメージの払拭に挑戦している。
著者
森 直也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.72-80, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
37

企業が実施するセールス・プロモーションとして,確定インセンティブおよび不確定インセンティブは共に頻繁に用いられている。一方の確定インセンティブとは,消費者がポイントなどの報酬を必ず獲得できる形態のインセンティブであり,他方の不確定インセンティブとは,消費者がポイントなどの報酬を抽選によって獲得できる形態のインセンティブである。これまで,インセンティブに関する研究の大半は,消費者のリスク回避性に着目し,必ずしも望ましい報酬を獲得できるとは限らないというリスクと結びついている不確定インセンティブは,確定インセンティブほど選好されないと主張してきた。しかしながら,近年では,不確定インセンティブに対して肯定的な研究が増加しており,注目を集めている。インセンティブに対する実務的および学術的な関心が高まっている状況に鑑みると,これまでのインセンティブに関する研究知見を整理し,残された課題を明確化することは,有意義な試みであると言いうるであろう。そこで本論は,確定インセンティブおよび不確定インセンティブに対して肯定的な既存研究を概観する。そして,今後の研究には,新たな研究潮流の形成が求められるということを指摘する。
著者
本庄 加代子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.60-65, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
39

本稿は,消費文化論とブランド研究の架け橋とされるHoltのカルチュラルブランディングについて,問題意識,依拠する学問,ブランドの捉え方に注目し,ブランド研究に対する意義を考察する。同モデルは文化とブランドという超越的な概念とその形成の道筋を扱っている。これは,解釈主義に位置づけられるが,共約不可能とされる伝統的パラダイムを補完し,更に戦略的柔軟性と実践性を備えている。ここでは,ブランドは,強くなればなるほど社会的批判を受けやすくなることが問題として示されている。このことから,ブランドの理想形とは社会的問題の解決手段でもあり,絶対的資質のものではなく,経営目標と合致する“状態”である可能性を示している。その動態性を前提とした理論の更なる洗練が必要であることが指摘できる。
著者
松井 彩子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.30-37, 2021-02-26 (Released:2021-02-26)
参考文献数
15

近年,企業と消費者のコミュニケーションツールとしてはもちろん,消費者間の情報伝達手段としても,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下,SNS)は必要不可欠である。SNS上の情報に大多数のユーザーが関心を寄せた状態は,バズや炎上と呼ばれる。本論は,このバズや炎上のメカニズムの背景にある大多数の他者に着目し,社会的影響研究の理論に立ち返って,大多数の他者の集積がその他のユーザーに及ぼす影響を実証することを目的とする。実証には,シナリオ設定の実験手法を用いた。大多数の他者の集積規模の大小,情報発信者の持つフォロワー数の大小の,2×2の4つの実験群を設計した。各実験群につき464人,総計1,852人の被験者からの回答を得た結果,情報発信者の属性に関わらず,大多数の他者の集積数が大きいことが,それを目にした情報受信者のユーザー行動に正の影響を及ぼすことを実証した。具体的に,行動を起こす障壁が低い,「いいね」や「シェア」を付与する意向,並びに,行動を起こす障壁が相対的に高い,ブランドの情報収集意向,ブランド購買(利用)意向が高まることが明らかとなった。