著者
飯村 大智 朝倉 暢彦 笹岡 貴史 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2014 (Released:2014-10-05)

吃音症と呼ばれる言語障害の背景には発話運動制御の問題が示唆されている。本研究では、吃音者は聴覚フィードバックへの依存度が高いこと、及びその背景としてフィードバックの予測・照合の精度が悪いという2つの仮説を立て、行動実験を行った。実験は、自分の声が遅れて聞こえる状態を順応させた上で(0ms;順応なし、66ms、133ms)、自分の声の同時性判断(0ms~150ms)が各条件でどのように変化するかを調べた。結果は非吃音者と比べて吃音者で順応によって同時性判断の判断基準が大きく変化し、フィードバックに依存した運動制御を行っていることが示唆された。一方で同時性判断の精度は非吃音者との有意差はなかったが、吃音者で回答の判断基準と精度の両変数には有意な相関係が見られた。吃音者では聴覚フィードバックへの依存と予測・照合の精度の問題には関連性があり、吃音者に特異的な発話の運動処理の問題が推察される。
著者
高橋 知世 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.44, 2014 (Released:2014-10-05)

美的ユーザビリティ効果とはWebサイトなどのインタフェースに対して、美しいものは使いやすいだろうと判断してしまう現象である。美的ユーザビリティ効果の生起メカニズムはいまだ未解明であるが、大半の美しさが流暢性と呼ばれる情報処理の容易さに規定されることを踏まえると、流暢性によって美的ユーザビリティ効果を説明できる可能性があると考えられた。本研究では刺激として8種類のWebサイトのコントラストを4段階に変化させたものを用いた。参加者はこれらの刺激から8枚を順次提示され、美しさと使いやすさを測定する質問に答えるよう求められた。結果として、本研究でも美的ユーザビリティ効果が生じることが確認された。また、流暢性が高い刺激を提示された時ほど、美しさの判断および使いやすさの判断が高くなることも示された。よって、流暢性は美的ユーザビリティ効果の生起メカニズムを解明するための重要な要因だと考えられる。
著者
寺本 渉 清水 乃輔 浅井 暢子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第11回大会
巻号頁・発行日
pp.133, 2013 (Released:2013-11-05)

本研究ではバーチャル・リアリティ(VR)空間に提示される他者を身近に感じる程度,すなわち,臨(隣)人感を社会的サイモン課題遂行時の事象関連電位を計測した。被験者は,別室にいる実験協力者とともに,ヘッドマウントディスプレイを通じて共通のVR空間を観察した。被験者の課題は,決められた色の球が画面の左手前または右奥に呈示された瞬間にできるだけ速く,反応キーを押すことであった。この課題中には画面左奥に他者(実験協力者)のアバターを表示した。実験では課題前にVR空間内で他者とコミュニケーションを取らせるとともに,他者の実際の頭部位置をアバターに反映させる条件と,コミュニケーションをせず,静止アバターを呈示する条件を設けた。その結果,他者の存在が十分に認識できたと考えられる,前者の条件でのみ,社会的サイモン効果とそれに伴う特徴的な事象関連電位が現れることが示された。
著者
渡邊 伸行 鈴木 竜太 山田 寛
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.167-179, 2006-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
48
被引用文献数
3 3

本研究では,表情認知に関わる顔の構造変数について検討を行った.従来の線画表情図形を用いた研究では,顔の構造変数として,“傾斜性”,“湾曲性・開示性”といった眉・目・口の相関的変位構造を示す二つの変数が見出されてきた.しかしその後の実際の表情画像および線画を用いた検討から,構造変数は上述の2変数ではなく,三つの変数である可能性が示された.この問題について検証するため,本研究ではYamada,Matsuda,Watari,& Suenaga (1993) の実画像研究に基づいて新たに生成した,実際の表情と同じ可変性を持つ102枚の線画を用いて,基本6表情(喜び,驚き,恐れ,悲しみ,怒り,嫌悪)のカテゴリー判断実験を実施した.線画の眉・目・口の特徴点変位を示すパラメータ値を説明変数,実験参加者のカテゴリー判断の一致率を反応変数とする正準判別分析を実施したところ,“眉・目の傾斜性”,“口部傾斜性”,“湾曲性・開示性”と命名できるような,実画像研究 (Yamada et al.,1993) とほぼ同様の三つの構造変数が見出された.この3変数で構成される視覚情報空間におけるカテゴリー判断の中心傾向を示す点を比較したところ,線画と実画像で基本6表情の相対的な位置関係が類似していることが示された.以上の結果から,表情認知に関わる構造変数は三つであり,線画と実画像で共通してこれらの変数に基づいて表情の判断が行われていることが示された.
著者
伊藤 真利子 綾部 早穂
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.175-182, 2013-02-28 (Released:2013-04-05)
参考文献数
29

記銘項目が実験者によって割り当てられる場合よりも,実験参加者自身により選択される場合のほうが記憶保持は優れる.この自己選択効果の生起には,選択肢項目間の相対比較が必要である可能性が示唆されているが(伊藤・綾部・菊地,2012),相対比較の際に意味水準での特徴にアクセスすることが記憶を促した可能性は否定できない(処理水準効果).本研究の偶発学習段階において実験参加者は,意味水準か非意味水準の特徴に基づいて二つの選択肢項目間の相対比較を行うか,単独の項目に対して意味水準か非意味水準で判断を行った.その結果,二つの項目間で相対比較が行われた場合にも,単独の項目に対して判断が行われた場合にも,再生成績における処理水準効果が認められた.さらに重要なことに,処理水準にはかかわらず項目間の相対比較による記憶の促進が認められた.よって,記憶における自己選択効果の生起には選択の際の相対比較が必要であり,処理水準効果のみが貢献しているとは言えない可能性が示唆された.
著者
室井 みや 笠井 清登 植月 美希 管 心
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.65-73, 2007-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
31
被引用文献数
1

ストループ課題および情動ストループ課題を用いて,統合失調症における情動的情報,非情動的情報に関する選択的注意機能について検討を行った.その結果,ストループ課題において,統合失調症者では不一致条件と中性条件の反応時間の違いは有意ではなかったが,統制群に比べて,不一致条件と中性条件の誤答率の違いは大きかったことから,無関連情報の処理を抑制する機能が低下していること,課題要求の保持が難しいことが示された.また,情動ストループ課題では,単語の種類による反応時間の違い,誤答率の違いは全体として有意ではなかったことから,情動的情報の認知機能障害は,情動的情報への注意バイアスによるものではなく,情動的情報に関する処理機能自体が低下しているためである可能性が示された.
著者
五十嵐 由夏 市原 茂 和氣 洋美
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.57-65, 2012

本研究では,自分の身体部位(手)の大きさがディスプレイ上でどの程度正確に評価され,その評価に私たちの身体情報がどのようにかかわるかを検討した.実験参加者の課題は,ディスプレイ面上の2本の水平線間の幅を,イメージした自分の手や物の大きさに合うようにフットペダルを用いて調整することであった.実験1では,手を置く位置や形,部位を変えることによって手の大きさ評価に違いが見られるかを検討した.その結果,手の形や位置にかかわらず,手の横幅は比較的正確に評価される一方で,手の長さは過大に評価される結果となった.実験2では,ディスプレイの設置距離を手前から奥にランダムに変えたうえで,異なる3種類のオブジェクトと手の大きさについて評価を求めた.オブジェクトごとに評価の縮尺率を求めたところ,特に手のイメージは距離の影響を強く受け,自分の腕の長さより遠くでイメージを行わなければならない条件では有意に過小評価されることが明らかとなった.この結果は,身体の大きさ概念が日常生活のさまざまな場面・動作で経験する身体の広がりの平均に基づくものであり,短期的な身体情報の変化よりも長期的な身体経験によって調整されるものであることを示唆する.
著者
伊藤 真利子 綾部 早穂 菊地 正
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.37-47, 2012

記銘項目が実験者によって割り当てられる場合よりも,実験参加者自身により選択される場合のほうが記憶保持は優れる(自己選択効果).本研究は,選択時における選択項目と非選択項目の両方を短期記憶に保持する過程が後の再生を促進するために必要十分であるのか,それとも短期記憶保持された選択肢間を比較する過程が必要であるかを検討した.実験1では,選択段階で選択項目のみを短期記憶に保持する強制選択条件,選択項目と非選択項目を保持する遅延選択条件,保持された選択肢間での比較を行う比較選択条件と自己選択条件を設けた.選択項目の再生率は前の2条件間では差がなかったが,後の2条件は前の2条件よりも有意に高かった.よって,選択時に短期記憶に保持された選択肢を互いに比較する過程が再生の促進に重要である可能性が示唆された.実験2では,意味的な基準での比較と非意味的な基準での比較による再生成績の違いが認められなかったことから,実験1の比較選択条件での再生の促進が意味処理のみで説明される可能性は低いと考えられた.
著者
新国 佳祐
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.29-36, 2012

読み能力の低い読み手は,熟達した読み手と比較して,文中の句境界の適切な認知が困難であることが指摘されている.本研究では,読み能力の十分でない読み手にとって,句境界認知が困難となる原因として,文構造を推測するための方略の不適応を取り上げて検討した.実験では,日本人大学生40名に対して,英語の2種の中央埋め込み文(OR文,SR文)および非中央埋め込み文(C文)を,参加者の半数には句境界の手がかりを明示して,半数には明示せずに呈示した.実験の結果,文構造推測のための方略が不適応となるOR文においては,句境界に関する手がかりの明示によって文の処理速度および処理の精確性が向上した一方で,方略が適応的に機能するSR文,C文ではそのような手がかりの文処理への影響は確認されなかった.このような結果から,文構造を推測するための方略の不適応が句境界認知の困難性を引き起こす原因の一つとなっており,結果として文処理全体が困難となる可能性が示唆された.
著者
佐藤 浩一 清水 寛之
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.13-27, 2012

本研究の目的は,自伝的推論に関連して,長期にわたる保持期間を伴う記憶の特性を明らかにすることである.大学生315名,現職教員166名,高齢者160名のあわせて641名の調査協力者に対して,中学時代の教師とのコミュニケーションに関連する記憶を想起させ,自伝的推論ならびに記憶特性を問う45項目(記憶特性質問紙MCQの38項目を含む)への評定を求めた.教職志望の強い大学生は,その出来事と現在の自己を結びつけたり,その経験を参照点としてとらえたりする自伝的推論を活発に行い,そうした記憶を鮮明で詳細に想起していた.また世代が上の人のほうが自伝的推論が活発であり,かつ出来事をより鮮明に想起していた.肯定的な出来事は否的的な出来事よりも,活発な自伝的推論を引き起こしていた.これらの結果は自伝的推論における加齢および感情の側面と関連づけて議論された.日常的な出来事に対する自伝的推論を検討することの意義が論じられた.
著者
小林 正法 松川 順子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.109-117, 2011-02-28 (Released:2011-06-28)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本研究はThink/No-Thinkパラダイム(Anderson & Green,2001)を用いて,ポジティブ画像記憶の意図的抑制が可能かを検討した.方法は学習段階,Think/No-Think段階,最終テスト段階の3段階から構成されていた.学習段階において,実験参加者(N=34)は手がかり(ニュートラル単語)とターゲット(ポジティブもしくはニュートラル画像)の刺激ペアを学習した.その後,正解率が80%を超えるまで手がかり再認テストを行った.Think/No-Think段階では,手がかりのみが反復して提示された(0回,6回,12回).0回反復のペアは記憶の促進と記憶の抑制を評価するためのベースラインとして使用された.赤色の手がかりに対して,実験参加者はペアとなっていたターゲットを思い出した.緑色の手がかりに対しては,ペアとなっていたターゲットを抑制した.最終テスト段階では,手がかり再生テストを行った.結果,ポジティブ,ニュートラル画像共に,抑制されたターゲットはベースラインのターゲットよりも記憶成績が低かった.画像記憶の抑制が頑健であること,そして感情価によって抑制中の主観的体験が異なることが示唆された.