著者
山岸 未沙子 青木 宏文 田中 貴紘 高橋 一誠 米川 隆 金森 等
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.122, 2015 (Released:2015-10-21)

本研究は,運転支援や機能訓練に役立てる知見を得るために,高齢ドライバの人間特性を多角的に把握することを目的とした.本報告は,そのうち運転適性検査を用いて高齢ドライバの刺激-反応特性を検討した.50代15名,60代40名,70歳以上45名が参加し,全員にインフォームド・コンセントを行った後,認知機能検査や高齢者講習と同種の運転適性検査器を用いて7つの検査を実施した.7つ中4つの検査の反応時間と正答率を用いた分析から,60代以上は刺激数が増加すると反応は遅延し,足反応と刺激数増加が同時に生じる場合には年齢差が顕著になることが示唆された.また,青色に対するパフォーマンス低下が60代以上の反応時間と正答率でみられ,赤色に対しては反応が速くなるという色の効果が示された.以上の結果から,運転適性検査により高齢ドライバの刺激-反応特性が得られ,運転時のパフォーマンス低下につながる要因が示唆された.
著者
堀内 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.25, 2011

一般的に自分自身の名前に関する反応時間は短いことが知られている。本研究では,その処理の速さが自己名前の熟知性の高さに起因しているのか否かを検討した。具体的には,名前を繰り返し提示することによりその熟知性の高さを操作した。実験1では,自己名前と3人の他者(親友,男性有名人,女性有名人)の名前が設定され,4回の反復提示が行われた。1回目の反応時間は,自己<親友<男女有名人であった。これは従来の研究知見と一致するものであり,熟知性でも解釈可能な結果である。しかしながら,4回目では他者3名間の反応時間の差は消失したにもかかわらず,自己名前は他者3名の名前よりも反応時間が短かった。さらに,実験2では自己名前と親友の名前が設定され,30回の反復提示が行われたが,それでも,自己名前は親友の名前よりも反応時間が短かった。以上の結果は,自己名前に関する処理の速さは熟知性の高さでは説明できないことを示している。
著者
原田 佑規 箱田 裕司 黒木 大一朗
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.150, 2013

強盗等の犯人が凶器を握っていた場合,犯人の顔や衣服に関する目撃者の記憶成績は低下する。この現象は凶器注目効果と呼ばれており,その生起機序については凶器に対する目撃者の(a)注視パターンや(b)有効視野の縮小が関与していると主張されてきた。本実験の目的は,凶器に対する(a)注視時間と(b)有効視野の大きさを測定し,凶器注目効果に関する実証的な根拠を提供することであった。参加者がキーを押すと,凶器刺激か統制刺激が呈示され,その消失直後に参加者の注視点の周辺に数字が呈示された。参加者の課題はこの数字を正しく検出し,同定することであった。実験の結果,参加者の注視時間は,凶器刺激と統制刺激の間で有意差がなかった。一方,数字の同定成績は,凶器刺激を目撃している時のほうが統制刺激よりも有意に低かった。これらの結果は,注視パターンでなく,有効視野の縮小が凶器注目効果の生起へ関与していることを示唆する。
著者
丸山 真名美
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.67, 2015

折図をみて折るのではなく、折りイメージの手掛かりがない状況で、完成した作品を見本通りに変形する課題を行った。これに関連する要因を検討することが目的である。空間認知能力と、イメージ能力を検討した。<br>課題に成功したものが認知能力が優れていると予想されたが、結果は、失敗したものの方がイメージ能力がたかいとことを示した。その背景として、課題が一般的なやっこさんの顔を白くするというものであり、やっこさんの構造が理解されていないなどということが考えられた。このことから、やっこさんの構造を理解したうえでの変形を検討するなどの、さらに検討すべき要因が示された。
著者
上野 大介 権藤 恭之 佐藤 眞一 増本 康平
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.71-80, 2014-02-28 (Released:2014-08-06)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

これまでの研究では,顕在記憶にポジティヴ優位性がみられることが報告されているが,潜在記憶に感情価が及ぼす影響の年齢差については明らかにされていない.本研究では感情価が顕在記憶と潜在記憶に及ぼす影響に関する年齢差を検討した.実験1では,48名の若年者群と48名の高齢者群がポジティヴ,ネガティヴ,ニュートラルの写真をニュートラル単語の直前に呈示することによって感情価を付加した単語を記銘し,その後,自由単語再生課題を受けた.実験2では,27名の若年者群と30名の高齢者群が実験1と同様の記銘後,語幹完成課題を受けた.顕在記憶では若年者群のネガティヴ条件の成績が高く,高齢者群にポジティヴ優位性が確認された.潜在記憶では両年齢群ともポジティヴ条件とネガティヴ条件の成績がニュートラル条件の成績よりも高かった.これらの結果は,ポジティヴ優位性が意図的な処理で生起していることを明らかにし,社会情動的選択性理論を支持するものであった.
著者
佐藤 浩一 猿山 恵未
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2008 (Released:2008-11-10)

3人一組の集団が協同想起を行う際に,集団としての話し合いの方略が及ぼす影響を検討した。促進教示群の集団には,曖昧な情報や部分的な再生であっても話し合いに持ち出すように,教示を与えた。抑制教示群の集団には,曖昧な情報や部分的な再生は他者を妨害するので発言しないように,教示を与えた。質問紙への評定ならびに発言の分析から,メンバーは各々の教示に従った話し合いを行っていたことが確認された。個人再生からの予測値と比較すると,促進教示群では協同再生が予測値よりも高い促進現象が見出された。これに対して抑制教示群では,協同再生が予測値よりも低い抑制現象が見出された。また成績に関わりなく,協同での再生は個々人での再生よりも肯定的に評価されることが多く,協同作業を現実以上に好ましく捉える"romance of teams"現象が見られた。
著者
錢 昆 河邉 隆寛 山田 祐樹 三浦 佳世
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.128, 2010

チルトシフト写真の被写体がミニチュアのように見える現象は,一般にミニチュア効果と呼ばれている。チルトシフト写真を観察すると,どのような視覚的印象が生じるのか,また,どのような視覚要因が印象の喚起に関わっているかに関し,両者の関係を網羅的に検討した研究はまだない。本研究はチルトシフト写真の引き起こす視覚的印象を調べた。被験者に本城(2006)のチルトシフト写真10枚の物理的・心理的特性について5段階で評定させ,因子分析を行った結果,「ミニチュア効果」,「評価性」,「密度」,「色彩」,「ぼかし」と「撮影位置」の6つの因子を抽出した。また,ミニチュア効果の高い写真と低い写真の間に,各因子の平均評定値に差があるかを検討した所、チルトシフト写真の被写体の密度,色彩,ぼかしと撮影距離に関する視覚的印象に有意差が見られた。これらの視覚要因が写真のミニチュア効果の生起に関与することを示唆するものと言えるだろう。
著者
高木 幸子 安田 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.40, 2016 (Released:2016-10-17)

本研究では、楕円の輪郭の傾きを知覚する際に、楕円の内部要素の傾きが及ぼす影響を実験によって検討した。先行研究から、楕円の内部要素が傾いていると楕円の外部輪郭そのものが傾いて知覚され(高木・安田, 2014; 安田・高木, 2015)、内部要素が顔の場合には特異的な効果があること(高木・安田, 2014)が示唆されている。本研究ではさらに、楕円内部の直線成分の存在が及ぼす影響を検討した。実験では、楕円の内部要素を3種類(顔・T字・寄せ鍋)用意し、これら3種類の刺激について内部要素のみを傾きが0°の状態から±15°まで3°ずつ傾けた全11種類の画像を作成し、ターゲット刺激として提示した。結果から、先行研究と同様に楕円の内部要素が傾いていると楕円の外部輪郭そのものが傾いて知覚され、傾き角度によっては内部要素に直線成分がある場合(顔・T字)の方がない場合(寄せ鍋)と比較して錯視量が大きくなる傾向があることが示された。
著者
佐山 公一 関口 椋太
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

中学生の学習動機の高低が内申書の高低とどう関係するかを,質問紙調査を行い調べた。調査は,塾の教室で授業後の時間を使って行われた。30人の中学生が,20の質問(達成目標傾向尺度,速水・伊藤・吉崎,1989, 2007)に回答した。因子分析(反復主因子法,エカマックス回転)を行い,固有値の推移から,3因子が見いだされ,純粋に勉強ができるようになりたいと思う学習願望,勉強ができると認められたいと思う承認欲求,賞賛や優越感を他者から感じる自己優越感,と解釈した。各因子の因子得点を計算し,内申書の成績で違いがみられるかどうかを分散分析した。その結果,学習願望では,内申書の主効果が認められた。上位(A,B)は,中位(C,D,E,F),下位(G,H,I,J,K)よりも有意に学習願望が高かった。これとは対照的に,承認欲求と自己優越感では,上位,中位,下位で違いが認められなかった。
著者
田中 孝治
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

虚記憶とは,実際には起こっていない事柄を起こったこととして誤って思い出すことである。虚記憶を検討する実験手法として,DRMパラダイムと呼ばれる手法が確立されている。本研究では,DRMパラダイムで見られる虚再認が,漢字一字の刺激に対しても見られるかについて検証を加えた。ルア項目1項目とルア項目の関連項目15項目で構成されるリストを12種類作成し,DRMパラダイムに用いた。その結果,6種類のリストにおいて,関連項目が学習時に提示されると,関連項目が提示されない場合に比べて,後のテストにおいて学習時に提示されていないルア項目についても,学習時に提示されたという偽りの既知感を高めることが示された。この結果は,漢字一字の刺激に対してもDRMパラダイムによって虚再認が生成されることを示すものといえる。今後,本研究で虚再認が示されたリストが頑健なものであるかについてはさらに詳細な検証が必要である。
著者
小川 佳純 井藤 寛志 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.116, 2017 (Released:2017-10-16)

Guénguen (2014) は身体魅力の中でも特にハイヒールに着目して研究を行っており,女性がハイヒールを履くことが男性の援助行動に影響を及ぼすことを報告した最初の論文である。今回は日本においてGuéguen (2014)の実験3を追試し実際にフィールド実験を行うことで,この結果が通文化的な結果であるのかということを検討することを目的とした。場所は日本の愛知県豊橋市で行い,協力者の女性は0㎝5㎝9.5㎝の3種類の靴を履き,実験参加者の前で気づかないふりをしてわざとパスケースを落とし,拾ってもらう回数と援助までの時間がヒールの高さによって違いが生じるのかということを検証した。結果は援助率と援助までの時間においてヒールの高さで違いは見られなかった。このことから考えられることとして文化差の他に実験の状況の統制の要因が挙げられる。傍観者効果の影響や,実験参加者の年齢まで視野に入れる必要があった。
著者
西尾 直也 朝倉 暢彦 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2014 (Released:2014-10-05)

心の理論による他者の心的状態を理解する過程には,心についての一般的な知識に基づくとする立場の理論説と自己の心的状態を他者に投影して他者理解を行うとする立場のシミュレーション説が提唱されている.先行研究では,他者の心的状態のうち誤信念を推測する理論説に基づくモデルが提案されているが,誤信念理解の発達過程や誤信念以外の心的状態の理解との関連やシミュレーション説が考慮されていない.そこで,本研究ではシミュレーション説に基づいた心の理論のベイジアンネットワークモデルを提案し,様々な心的状態の理解の発達過程と相互関連を検討した.その結果,他者の信念や知識を理解する心的機能の同時発達が誤信念という高次の心的機能の獲得に必要であることが示唆された.
著者
水原 啓暁 山口 陽子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.12, 2008 (Released:2008-11-10)

複数の周波数での振動子ダイナミクスの協調は異なる脳皮質部位において表象された情報統合を実現する戦略の一つであり,記憶形成とのかかわりにおいて注目されている.本研究では,空間的に分離した脳皮質部位においてγ波により表象される情報が,θ波の特定位相で統合されることにより,陳述記憶の保持が実現されていることを示すために,新規な風景に関する記憶課題を遂行中の脳波計測を実施した.その結果,左前頭腹外側電極において観察されるθ波の特定位相において,右前頭腹外側電極および左前頭背外側電極において観察されるγ波が記憶保持中に増加することが明らかになった.このことは,空間的に分離した皮質部位においてγ波により表象されている新規風景に関する情報を,θ波の特定位相において同時に活性化することにより,これらの情報統合を実現していることを示唆している.
著者
有賀 敦紀 河原 純一郎 渡邊 克巳
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.8, 2008 (Released:2008-11-10)

高速逐次視覚呈示した文字系列中に1000msの時間的な空白(中断)を挿入すると,中断直後で標的同定率が低下する(有賀・河原・渡邊,2007).この結果は,高速呈示状態に対して一旦調節された注意が,系列の中断によって初期状態に戻されたためであると考えられる.有賀らは,中断を挟む文字系列を一連のランダムドット系列に重ねて呈示すると,中断後も注意が維持されることを示した.本研究は,高速逐次系列の連続性の有無を操作し,注意の維持が系列の連続性に依存するのかを調べた.まず,文字系列とそれに重ねて呈示されるランダムドット系列が完全に同期していなくても,注意が維持されることを示した.しかし,中断期間のみにランダムドット系列を呈示すると,中断後の標的同定率は低下した.これらの結果は,注意を維持するためには中断の前後の系列が連続している必要があることを示唆している.
著者
前田 樹海 山下 雅子 北島 泰子 辻 由紀
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2014 (Released:2014-10-05)

誰の目にも明らかな生命徴候の変化がないにもかかわらず、入院患者の死が近いことがわかるとされる看護師の存在が現場ではよく知られている。これらの看護師がもつ特性を明らかにするために看護職を対象とした質問紙調査を実施した。便宜的抽出法による看護有資格者252名中143名(56.7%)から回答が得られ、明らかな生命徴候の変化によらず入院患者の死期を認識した経験が「ある」と回答した者は47名(33.8%)であった。検定の結果、教育背景と看護師免許の有無、看護師としての経験年数が、明らかな生命徴候の変化によらず入院患者の死期を認識した経験の有無との間に有意な関連を示した。知識を蓄えるだけでなく生み出す訓練をしてきたそれらの看護師の中に、臨床現場において経験を知識として蓄積したり、経験から新たな知識を生み出すことができる者が多いことが示唆された。
著者
杉本 崇 高野 陽太郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.51-60, 2014-08-31 (Released:2014-10-07)
参考文献数
15

従来アンカリング効果は数的な過程によって起こるとされていたが,近年ではアンカーによって実験参加者の持つ知識が選択的に活性化されるために起こるという意味的過程モデルが提唱されている(Mussweiler & Strack,1999a).杉本・高野(2011)では,このモデルを検討するために参加者が非常に乏しい知識しか持ち合わせない対象について推定させたところ,意味的過程によって効果が起こりえないときは数的過程によって効果が起こるというメカニズムが示された.本研究の目的はその「カバー効果」を再検討することである.そのため,「曹操」と「コバール」を推定対象として採用した二つの実験を行った.その結果,双方の実験で「カバー効果」を再現することができた.
著者
寺田 知世 三雲 真理子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

音楽には聴取者に良いイメージを喚起させ、自信を持たせる力、自己効力感を向上させる力をもつと考えられるが、これまで調査された音楽は器楽曲が中心である。本研究では、歌詞のある音楽2曲に歌聴取条件とメロディ聴取条件を設け(計4条件)、音楽聴取後の気分および人格特性的自己効力感への影響、歌詞への共感とメロディの印象の差異を検討した。その結果、歌詞に物語性があり、メロディの変化が多い音楽からは、前向きな情動変化や高揚感が得られやすく、メロディから快活で力強い印象を感じやすいことが分かった。一方、歌詞に聴取者を安心させ、落ち着かせる言葉を多く含み、メロディの変化が少ない音楽からは、気分の鎮静化が促され、メロディから陰気で軽い印象を感じやすいことが分かった。さらに、人格特性的自己効力感の得点も高い傾向にあることが分かった。また、4条件で歌詞への共感に有意差は見られなかった。