著者
星野 祐司 山田 桃子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.153-164, 2008-02-29 (Released:2010-07-21)
参考文献数
30

見ていない項目に関する詳細情報が虚再生に及ぼす影響について検討した.実験参加者は対になって6つの場面の画像を見た.半数の参加者には,残りの半数の参加者が見ていない3つの独自項目が提示された.引き続き行われた共同再生テストでは,2名の参加者が各場面に含まれていた項目を口頭で報告した.項目条件では項目の名前についての再生が参加者に求められた.詳細条件では項目の名前,色,形,場所を再生することが参加者に求められた.したがって,共同想起において独自項目を見ていない参加者は独自項目に関する誤情報を聞く可能性があった.共同想起の終了後,個別再生テストが実施され,再生項目に対してremember/know判断を求めた.項目条件における独自項目についての虚再生の頻度は詳細条件における虚再生と同程度であった.項目条件では虚再生に対するremember判断が観察されたが,詳細条件では観察されなかった.これらの結果についてソースモニタリングの観点から考察した.
著者
堀田 千絵 川口 潤
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第5回大会
巻号頁・発行日
pp.61, 2007 (Released:2007-10-01)

本研究は,修正Think/No-Thinkパラダイムを用いて意図的忘却と日々使用するストレスコーピング尺度得点との関連を検討することを目的とした。まず、すべての実験参加者は無関連語対を記銘した。次に,Think/No-Think段階において,手がかり語に対応する反応語を考えないようにするか,もしくは再生するかを反復して行うことが求められた(0,4,もしくは12回)。テスト段階において,手がかり語の対応語を再生するように求められた。結果は,ストレスコーピング尺度得点で抑制効果に差は見られなかった。
著者
近江 政雄
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.91-91, 2013

漢字の記憶における有用性が明らかにされている空書行動の、画像イメージの記憶における有用性について検討した。記憶対象として画像イメージを使用し、イメージの記銘課題と想起課題における空書行動の有用性と、手指の運動そのものの有用性について検討した。その結果、画像イメージを記銘する場合において空書行動が有用であり、想起する場合には有用ではないことを明らかにした。これは、空書行動は漢字のみではなく、イメージの記憶においても有用であり、その記銘プロセスにおいて普遍的な役割を果たしていることを示唆するものである。
著者
寺本 渉 吉田 和博 日高 聡太 浅井 暢子 行場 次朗 坂本 修一 岩谷 幸雄 鈴木 陽一
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.37, 2010

背景的・空間的な「場」の本物らしさに関係する臨場感はよく取り上げられるが、場面の印象にとって重要な前景的要素(対象や事象など)の本物らしさを表す感性については検討されていない。本研究では,この前景的要素の本物らしさに対応する感性を「迫真性」と定義し,臨場感との比較を通じて,その時空間特性を検討した。まず,「鹿威し」がある庭園風景を素材とし、その提示視野角と背景音の音圧レベルを操作した。その結果、臨場感は視野角も音圧も大きいほど高まるが,迫真性は視野角が中程度,背景音が実物と同じ場合に最も高くなることがわかった。次に,鹿威しの打叩映像と打叩音の時間ずれを操作した結果,臨場感は音が映像に先行しても高く維持されるのに対し,迫真性は音が映像に対して遅れても維持された。以上の結果は,臨場感と迫真性は異なる時空間情報によって創出される独立した感性であることを示唆する。
著者
米川 勉
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第8回大会
巻号頁・発行日
pp.129, 2010 (Released:2010-09-01)

人間が外界から1つの物理刺激を受け取った時、複数の感覚が同時に生じる現象、例えば視覚と聴覚、聴覚と触覚などが混じったり、文字に色がついて見えるといった現象を共感覚という。いわばモダリティ間の混線現象である。その発生原因については、生まれた初期には誰もがそのような状態にあり、成長して感覚機能の分化とともに失われていくとしたものや遺伝的なものが関係する、あるいは脳の機能障害に起因するなど、諸説がある。 本研究は、この現象について確認するために、過去の現象記述から抽出して質問項目を作成し、アンケート調査を行ったものである。対象は女子大生195名。その調査結果について分析して報告する。またその後ケース研究として、共感覚を持つと思われる5名にインタビューして、日常場面で普通感覚の人とどのような点が違い、どのような困難に遭遇するかについて比較検討した。共感覚を持つことのメリットとデメリットについてまとめ、日本における実態の把握に努めたものである。
著者
井関 紗代 伊藤 紀節 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<br><br>マーケティングにおいて、顧客の忠誠心を獲得することは必要不可欠である。先行研究では、地域の店舗への忠誠心に影響を与える購買動機が検討され、その購買動機に対して性差が生じることが示されているが、購買時の文脈が想定されていない。本研究では、コンビニエンスストアにおいて、性別と購買動機が、地域の店舗への忠誠心に影響を与えるプロセスを、モデル化し検証した。その結果、女性は男性よりも、多くの品揃えの中から商品を選びたいと考え、目的なしに店内の商品を探求する傾向があることが明らかになった。品揃えを重視する人は情報獲得を重視し, ユニークな商品を探す傾向が強くなることもわかった。また、 商品探求をする傾向の強い人ほど、ユニーク探求, 社会的接触を重視し、利便性を重視しないことも示された。情報獲得、ユニーク探求、利便性、社会的接触を重視する人ほど店舗に対する忠誠心を高めやすいということも明らかになった。
著者
石松 一真 根師 由佳里
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2019 (Released:2019-10-28)

2年目看護師37名を対象に、注意範囲のメタ認知(メタ注意)とメタ注意に関する記憶の正確さを検討した。参加者は、医療4場面、交通2場面について自分が同時に注意を配ることができると思う範囲(メタ注意領域)を、「現在自分がその場にいた場合」、「新人の頃の自分を想像して」、「看護師として3年の経験をつんだ自分を想像して」の3条件で描出した。結果、医療場面では、新人の頃、現在、3年の経験を積んだと仮定した条件の順に、メタ注意領域が広くなった(ps &lt; .05)。また参加者が新人の頃を想像して描出したメタ注意領域と入職時に描出したメタ注意領域との間に有意差はみられなかった。一方、交通場面では、入職時に比べ、新人の頃を想像して描出したメタ注意領域が広かった。以上より、参加者は、患者を含む医療場面については新人の頃に描出したメタ注意領域を1年後もある程度正確に再現できることが明らかとなった。
著者
小野 史典 岡 耕平 巖淵 守 中邑 賢龍 渡邊 克巳
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第9回大会
巻号頁・発行日
pp.119, 2011 (Released:2011-10-02)

我々の感じる時間の長さは様々な要因によって実際よりも長く、もしくは短く感じられる。これまでの研究で朝と夕方で主観的時間の長さが異なることが知られている。しかしこの結果はあくまで実験室で得られたデータであり、実際の生活リズムを反映しているとは言いがたい。そこで本研究では携帯電話で実験できるよう、実験プログラムを組み込んだ専用アプリを開発することで、普段の生活の中で感じる時間の長さを調べた。実験では1時間に1度、アプリが自動で立ち上がり、実験協力者はストップウォッチ課題(3秒経過したと感じたらボタンを押す)を行った。実験の結果、時間帯によって作成時間の長さ(ストップボタンを押すまでの時間)に変動が見られた。特に正午と夕方の時間帯で作成時間が有意に短くなっていた。この結果は実験室で得られた知見とは異なり、我々の感じる時間の長さが食事や仕事などの生活リズムによって変動することが明らかになった。
著者
関口 貴裕 加藤 駿
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

スマートフォンを見ながら歩く際(歩きスマホ)に注意が前方の地面のどの範囲(奥行き距離)まで及ぶかに関する人々の認識の正確さを検討した。そのためにまず50名の参加者に,歩きスマホをしながら床面のLED光に気づくと思う最短の距離を,その場に立つことで報告させた。そして,20 mの直線歩行を歩きスマホをしながら繰り返す中で,途中7カ所設置されたLEDの1つをランダムに点灯し,それへの気づきが得られた距離を実際の空間的注意範囲を示す値として測定した。注意範囲の自己評価の広さにより参加者を狭群,中群,広群に分け,実際の注意範囲とのズレを群間で比較したところ,狭群,中群のズレがそれぞれ平均3.0 cm,5.1 cmと小さかったのに対し,広群では自己評価値の方が実際より平均61.1 cm広くなっていた。この結果は,歩きスマホ中の注意範囲を過大評価する傾向の人が3分の1程度いることを示唆している。
著者
菊池 健 道又 爾
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.107-114, 2012-02-29 (Released:2012-03-01)
参考文献数
26

本研究では相関の検出と利用における小さな記憶容量のメリットについて,ダミー変数を含む多変数環境を用いて検討した.参加者は各試行において,四つの属性(色,形,大きさ,数)を持つ図形に隠された数字 (1もしくは2) を予測することを求められた.すべての属性は二値変数であり,数字と相関があるのは色のみであった.実験の結果,課題全体を通じてワーキングメモリ容量小群のほうがワーキングメモリ容量大群より課題成績が良かった.したがって,相関の検出や利用において小さなワーキングメモリ容量が有利に働くことが示された.これは小さな記憶容量には適応的な利点があることを示唆する.
著者
神谷 俊次
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.91-99, 2020-02-29 (Released:2020-03-05)
参考文献数
34

思い出そうとする意図がないにもかかわらずふと想起される自伝的記憶は不随意記憶と呼ばれている.本研究では,言語連想課題における連想の流暢さと不随意記憶の生起との関係について検討した.研究1では,197名の大学生が連想課題中に生起した不随意記憶を報告した.また,彼らは,連想語の検索が自動的であったかどうかについて評定した.その結果,連想語が自然に思い浮かんだ場合に不随意記憶が生じやすかった.研究2では,26名の大学生が大学構内を実験者とともに散歩する間に生起した不随意記憶を報告する統制されたフィールドインタビューに参加した.さらに,参加者は,実験室で言語連想課題にも取り組んだ.統制されたフィールドインタビューで収集された不随意記憶数と実験室内の連想課題において産出された連想語数との間には有意な正の相関が認められた(r=.53).これらの結果は,不随意記憶が記憶ネットワークにおける連想を基礎としており,言語連想と共通したメカニズムをもっていることを示唆している.
著者
朝倉 暢彦 乾 敏郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2017 (Released:2017-10-16)

意思決定の神経心理学的検査に用いられているアイオア・ギャンブル課題に対して,健常者が必ずしも最適な選択行動をとらないことが近年報告されている.本研究では,この課題の公開データベースに対してモデルベースのクラスタ分析を行い,健常者の特徴的な選択パターンを同定することを試みた.405名の実験参加者の課題終盤の選択パターンに対して混合多項分布を用いたクラスタ分析を行い,周辺完全尤度を用いた情報量基準で最適なクラスタ数を決定したところ,12個の選択パターンが同定された.その中で選択肢のもつ長期的な利益に基づいた選択パターンを示すのは全体の25%程度に過ぎず,半数以上が損失の頻度の低い選択肢を選好する選択パターンであった.さらに,その後者の選択パターンは,期待効用の最大化による合理的決定方略ではなく,各選択肢から得られる報酬確率に基づいた確率マッチングの方略に対応するものであることが明らかとなった.
著者
伊藤 万利子 三嶋 博之 佐々木 正人
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.23, 2010

本研究では、けん玉の技の一つであるふりけんの事例を通して、視覚―運動スキルを必要とする動作における姿勢調整について検討した。実験では、けん玉の熟練者4名と初心者4名にふりけんを200試行行ってもらった。ふりけん動作時の実験参加者の身体運動(頭部、膝)と玉の運動は、3次元動作解析装置によって記録された。分析によると、頭部・膝の運動ともに熟練者群のほうが初心者群よりも大きかったが、熟練者の運動のほうがより玉の運動と協調していた。特に各ふりけん試行の最終時点に注目すると、熟練者群のほうが初心者群よりも頭部運動と玉の運動のカップリングは強かったが、膝の運動と玉の運動とのカップリングの強さは両群で変わらなかった。以上の結果から、熟練者群では運動する玉に対して頭部が動的に協調するように姿勢を調整していたのに対し、初心者群では玉に対して頭部を静的に安定させた姿勢でふりけんを行っていたと考えられる。
著者
武藤 拓之 水原 啓太 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.2, 2019 (Released:2019-10-28)

複数の選択肢の中から1つを素早く自由に選択する課題において,自分がどれを選択したかについての意識体験が後付け的に決定されるという現象が知られている。このポストディクション現象は,視覚情報が無意識的に処理されてから意識に上るまでの時間差に起因すると考えられてきた。しかし,従来のモデルは現象の言語的な記述に留まっており,数理的妥当性の検証は不十分であった。そこで本研究は,先行研究の理論的考察を踏まえた仮定から,自由選択の認知過程を表現するシンプルな確率モデルを導出し,このモデルでポストディクション現象が説明できるか否かを検証した。水原・武藤・入戸野 (2019) の2つの実験課題から得られたデータにモデルを適用した結果,全てのデータをこのモデルでよく説明できることが確認された。また,無意識的な処理が意識に上るまでの時間差や選択に要する時間の分布といった有意味な情報を推定できることも示された。
著者
布井 雅人 吉川 左紀子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.123, 2019 (Released:2019-10-28)

対象の評価時に、他者が行った評価の平均値を呈示すると、その平均値に近づく形で、参加者の評価は変化する (Klucharev et al., 2009)。さらに、他者の評価と自身の評価のずれの大きさが、評価の変化の程度を予測することも知られている (Huang et al., 2014)。本研究では、他者の評価と自身の評価のずれを正確に認識することができない状態においても、他者の評価方向に自身の選好判断が変化するかどうかを検討した。実験では、各刺激の好意度評定がまず行われた(ベースライン評定)。次に、80人分の好意度評定の平均値(他者評価)が各刺激と対呈示された状態での好意度評定が、別ブロックで行われた。その結果、他者評価とベースライン評定のずれの程度によって、好意度評定の変化の方向とその大きさが有意に予測された。この結果は、自身の事前評価を明確に認識できない状況においても、他者の評価の影響を受け、その方向に自身の好みが変化することを示すものである。
著者
尾田 政臣
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.8, 2017 (Released:2017-10-16)

顔の美しさや魅力の評定に対称性が影響することが知られている。しかし、顔写真を用いた実験では、知覚的な条件以外に認知的な要因も加味された評定になっている可能性がある。このような影響を極力排除し、物理的な特徴が美的評価に及ぼす影響を見るため線画の顔画像を用いた。左右対称な線画の顔の右目の大きさを拡大すること、および右目の水平位置を輪郭方向へずらすことで非対称性を統制し、その時の顔の美しさを評定させた。目の大きさはオリジナルの目の面積に対する比率を用い、目の位置は顔の中心から目の中心までの長さに対する比率を採用した。実験の結果、目の大きさについては、男女平均で34%の拡大、目の位置では13%の増加が美しさ評定値の低下をまねく閾値となることが明らかになった。特に目の大きさについては閾値を境に急激に評価が落ちており、バーラインの覚醒水準モデルの釣鐘型にはなっていない。
著者
茶谷 研吾
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.139, 2015

抑制や隠蔽を試みているにも関わらず表出してしまう表情を微表情(micro expression)と言う。微表情は500msしか持続せず,隠蔽時に表出するため嘘を検知する有効な手がかりになると考えられている。これまで微表情は嘘検知の観点からしか研究されておらず,微表情が表情認知に及ぼす影響は明らかにはなっていない。本研究では微表情により後続する一般表情の表出強度は高く真実味は低いと受け手に判断されるとの仮説を立てて,幸福と怒りの一般表情を対象にこれを検討する目的で実験を行った。その結果真実味に微表情の影響は見られないものの,幸福の一般表情においては微表情がAU17のみである時に,怒りの一般表情においては真顔とAU20のみである時に他の条件と比較して表出強度が高まることが明らかになった。このことから微表情は後続の表情との相違が大きいほどその表出強度の判断に影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
長谷川 千洋 清水 寛之
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.141, 2014 (Released:2014-10-05)

人名想起時に生じる「のどまで出かかっているのに出てこない現象(tip-of-the-tongue phenomenon)」(TOT)は,日常的に観察される現象である。本研究は大学生を対象に日本の有名人に対するTOTの特徴について調査し,TOT解消方略との関係について検討した。調査参加に同意した大学生549名に対し30人の有名人物(歴史上の有名人物15名,現在の有名人物15名)の氏名の想起を求める質問紙調査を実施し,視覚イメージ,既知感,文字情報,音韻情報の有無について回答を求め,また,個人の特性傾向として,TOT現象に対する感受性や不快感の程度,TOTの解消方略についても調べた。結果,人名に対するTOT現象は、歴史上,現在の有名人物ともに同様に生起しており,人名の想起されやすさと視覚的イメージの鮮明さ及び音韻・文字情報との関連性に比べ、TOT現象の発生率は比較的一定に保たれている可能性が示唆された。また,TOTが増えれば,能動的なTOT解消方略を用いる傾向が高くなる可能性が考えられた。
著者
川平 杏子 厳島 行雄
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第5回大会
巻号頁・発行日
pp.197, 2007 (Released:2007-10-01)

感覚刺激を手がかりとした自伝的記憶の無意図的想起は,非日常的な出来事だけなく,日常的な出来事も想起されやすいことや,想起時の気分に関係なく手がかりとなる刺激に触れるたびにその出来事が想起されるという特徴が示唆された (川平,2005;2006)。そこで,本研究では,これらの特徴が感覚刺激を手がかりとした無意図的想起に固有のものであるのかを検討するために,実験において,感覚刺激を手がかりとして意図的に想起した記憶との比較を行なった。実験参加者は,女子大生,大学院生21名 (平均年齢 20.88歳,SD=1.52) であった。音楽刺激を聞いて想起することのできる過去の出来事を回答するよう求めた。実験で得られた32事例を意図的想起群として,川平 (2006) で得られた日誌法のデータのうち年齢の範囲が同じで,聴覚刺激を手がかりとした34事例と比較検討した。