著者
大島 和 南部 美砂子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.33, 2011

近年,ポジティブ・イリュージョンという概念が重要視されているが,この概念に関する研究は十分には行われていない.本研究ではポジティブ・イリュージョンに対する理解をより深めるために,リスク認知とリスクテイキング行動との関連に着目した.質問紙調査では外山(2000)の自己認知尺度および,本研究で作成したリスク認知とリスクテイキング行動の尺度を用いた.分析の結果,自己の将来に対する楽観主義において,高揚的な認知が危険行動を抑制することが明らかになった.将来に対する前向きな思考が,危険な出来事に遭わないようにするためにはどのような行動をとるべきかを適切に判断して,危険を回避していると考えられる.しかし,これはポジティブ・イリュージョンの与える影響の一つを確認したに過ぎない.今後はさらにポジティブ・イリュージョンの効果に対する理解を深めることが重要になると考察した.
著者
西崎 友規子 永井 聖剛
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

複数の課題を同時遂行するといずれかの課題成績が低下する。しかしながら日常生活では,スマートフォンに代表される機能的な機器の広がりと伴に複数課題同時遂行による問題は避けられない。認知資源の容量,さらに容量の配分スタイルの個人差は,多くのワーキングメモリ研究から明らかにされており,日常的な同時課題遂行による問題にも個人差が生じると考えられる。本研究は,個人に応じた適切な容量配分バランスとその方法を知り,安全に複数課題を同時遂行するためのインタフェース設計に生かす指標の作成を目的とした,基礎的な検討を行った。ワーキングメモリ課題で測定されるHigh span群は,聴き取り課題遂行中,低負荷の書字課題を課した際に聴き取り課題の成績が低下したのに対し,Low span群は聴き取り課題の成績は変化せず,高負荷時のみ低下した。また,これらの結果は日常的な“ながら行動”の程度とは関連がなかった。
著者
田中 孝治 三輪 穂乃美 池田 満 堀 雅洋
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-25, 2019-08-31 (Released:2019-09-14)
参考文献数
51

本研究では,一般的な知識として適切な行動を問う知識課題と自身が実際に選択する行動を問う意図課題を用いて,大学生を対象に知識と行動意図の不一致について検討を加えた.実験1・2では,実験参加者が適切な知識を有しているにもかかわらず情報モラルに反する行動意図が形成されることが示された.実験1では,大学生のほうが高校生に比べて知識保有の割合は高く,適切な行動意図形成の割合が高かった.実験2では,計画的行動理論の要因(行動に対する態度,主観的規範,行動コントロール感)から検討を加えた.意図課題で遵守行動を選択した場合は,要因にかかわらず,肯定的に評価する行動を選択していることが示された.一方,不遵守行動を選択した場合は,要因ごとに異なる結果が得られた.態度については,遵守行動を肯定的に,不遵守行動を否定的に評価しており,行動コントロール感については,不遵守行動は容易であり,遵守行動は困難であると評価していることが示された.主観的規範については,遵守行動と不遵守行動を同等に評価していることが示された.
著者
鹿内 菜穂 澤田 美砂子 八村 広三郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.93, 2011

鑑賞者は舞踊からから何を感じとるのか.舞踊のどのような身体動作からどのような印象を受けるのか.本研究では,舞踊に対する鑑賞者の感性を調べるため,運動情報のみの条件による鑑賞者の舞踊動作の読み取りについて検討することを目的とした.舞踊の熟練者(男女各3名)は,喜び,悲しみ,怒り,歩行の4種類を表現した.モーションキャプチャとデジタルビデオカメラにより収録を行い,点光源映像は3Dアニメーションソフトウェアで作成した.また,点光源映像は正立像と倒立像の2種類を用意した.鑑賞者が,1)表現者の意図する感情を識別できるか,2)運動情報のみでも印象を得ることができるか,ということを確かめるため評価実験を行った.その結果,鑑賞者は,正立像における感情表現は識別可能であること,正立像と倒立像において近似した印象を得ることがわかった.
著者
久保田 貴之
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第9回大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2011 (Released:2011-10-02)

本研究では、スポーツやギャンブルの場面において知覚される“流れ”概念を対象とし、その知覚要因を検討するための因子分析を行った。様々な場面における“流れ”について、多くの人がその存在を信じている。また、この“流れ”は、状況の体験、観測などによって知覚され、人物の意思決定に影響を与えると考えられた。しかしながら、このような“流れ”については、明確な定義が与えられていなかった。また、運や“ツキ”、ランダム系列の誤認知などとの関連についても明らかではなかった。そこで、本研究においては、“流れ”がどのような要因によって知覚されるのかについてアンケート調査を行い、“流れ”の知覚度を7段階で評価させた。分析の結果、「個人の受動的な運」、「協調的集団内の相互作用」、「麻雀」の3つが因子として抽出された。また、“流れ”については、個人的な“流れ”と社会的な“流れ”に分類できる可能性が示唆された。
著者
遠藤 光男
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

 顔の順応効果は順応時の顔と順応後に評定する顔が異なっても生起するが,同一の場合の方が強いことが示されている。今回は,顔の順応効果に対する単純接触効果の影響を検討する目的で,歪曲顔への順応による正常性と魅力の知覚の変化を順応時の歪曲顔と順応後に評定する顔が同一の場合(接触条件)と異なる場合(非接触条件)で比較した。その結果,正常性に対する順応の効果は順応時間(2分,4分)にかかわらず接触条件で有意に強くなったが,魅力に対する順応の効果は4分条件でのみ接触条件で有意に強くなった。したがって,顔順応効果における単純接触効果は,魅力よりも正常性の評定の方に感受性が強いことや,魅力に対する単純接触効果には正常性(平均性)に対する単純接触効果が介在していることが示唆された。
著者
永井 淳一 横澤 一彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.181-192, 2006-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1

物体認知における色の役割を巡ってはこれまで議論が続けられてきた.Tanaka & Presnell (1999)は,物体と特定の色との結び付きの度合い—色識別性が重要な要因であると主張した.すなわち,色識別性が高い物体(例:バナナ)の認知においては色が大きな役割を持つのに対して,色識別性が低い物体(例:テーブル)の認知では色は役割を持たないという主張である.しかし,過去の研究結果からは,自然物(例:果物・動物)の認知においては人工物(例:道具・家具)の場合に比べて色の有益性が高いことも示唆されている.本研究では,色の影響と,色識別性,カテゴリーの関係について検討を行った.物体分別課題を用いた4つの実験の結果,物体のカテゴリーに関係なく,色識別性の高い物体の認知においては色が大きな役割を持つこと,しかし同時に,色識別性の効果は実験文脈に依存することが示唆された.
著者
金本 麻里 中村 敏健 明地 洋典 平石 界 長谷川 寿一
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第9回大会
巻号頁・発行日
pp.63, 2011 (Released:2011-10-02)

サイコパシーは、反社会的特徴を持つ人格障害であり、他者の心的状態の認知能力の障害との関連が臨床研究により示されている(Blair, 2005)。先行研究(Ali et al., 2009;2010)では非臨床群を対象に表情・視線・音声刺激が表す感情についての認知課題が用いられ、高サイコパシー傾向者が感情理解に障害を持つことが示唆された。本研究では、その拡張として、感情的側面を含まない他者の心的状態の認知にも障害が見られるかを、大学生を対象に、Dumontheilら(2010)が成人を対象に作成した心の理論課題の成績とサイコパシー尺度得点との関係を見ることで検討した。この課題は相手の視点に立った振る舞いが遂行に必要となるコンピューター上の課題である。その結果、サイコパシー傾向と心の理論課題の誤答数とに正の相関が見られた。つまり、サイコパシー傾向が高いほど感情的側面を含まない他者の心的状態の認知に障害が見られることが示唆された。
著者
眞嶋 良全
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

超常現象や疑似科学等の実証的根拠を欠いた事物の信奉 (empirically suspect beliefs; ESB) に関する先行研究では,ESB は分析的で熟慮的な内省的思考により抑制されること,分析的認知スタイルの持ち主はESBを持ちにくいことが指摘されてきた。しかしながら,日本人参加者を用いた先行研究では,直観的認知スタイルの方が信念をより良く説明すること,さらに分析的認知スタイルは,むしろESBを高めることが示されている。本研究では,日本および西洋文化圏の参加者を対象に,論理的推論やニュメラシー等の認知能力指標,直観および分析的認知スタイル,その他の人格・思考特性がESBをどの程度予測するかを検討した。その結果,認知能力および分析的スタイルではなく,直観的スタイルが信念とより強く関連していることが示された。また,ESBに対する媒介変数の影響は文化によって異なることが示された。
著者
永井 聖剛 Patrick J. Bennett 熊田 孝恒 Melissa D. Rutherford Carl M. Gaspar Diana Carbone 奈良 雅子 石井 聖 Allison B. Sekuler
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.51, 2007

Classification image法により視覚情報処理方略を詳細に示すことが可能である.例えば,顔画像が提示され個人弁別課題が与えられたとき,「顔のどの部分にどれくらい強く処理ウェイトをおくか」をピクセル単位で明らかにすることができる(e.g., Sekuler et al., 2004).ただし,この方法は相当数の試行数を必要とし,障害者など特殊な被験者に適用することは容易では無かった.本研究ではサブ・サンプリング刺激提示,ならびにデータ加工法の洗練により,従来より遙かに少ない試行数で,従来と同等に高い精度で顔情報処理の特徴を明らかにすることに成功し,自閉症者の顔情報処理を詳細に調べた.実験の結果,自閉症者においても健常者と同じく目・眉の領域に処理のウェイトをおくが,自閉症者ではそのウェイトが弱く,額にも処理ウェイトをおくなど健常者にはみられない処理方略を示した.
著者
大庭 真人 岡本 雅史 飯田 仁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.74-74, 2009

会話において,話し手の発話の分節に合わせ聞き手が動作を行う結果として話し手と聞き手との動作の間に同調が観られる事例が報告されている(Kendon, 1990).本研究では,コンテンツユーザとしての観客が漫才においてどのように笑いを享受するのかを分析するため,漫才師による公演を漫才師・観客ともに撮影収録した.漫才師2組に2本ずつの漫才を行ってもらい,230秒と298秒,357秒と262秒の映像音声データを収録した.このデータから,観客の同調現象に着目し,分析した.観客の漫才師に対する反応は「笑う」「拍手」をするといった非常に制限されたチャネルを通じて行われているようだが,実際には笑うという観客が同時に起こす反応に加え,漫才師が笑わせる合間の姿勢を変える動作においても,複数の観客間に同調現象が観察された.これは会場の離れた位置の観客間でも観察されており,漫才師に起因して生じることが分かった.
著者
斎川 加奈恵 仁平 義明
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.108, 2015

  本研究では,顔と よくある名前の対連合学習成績に,「似顔絵を描く」,「顔の特徴を言葉で表現する」などの,顔を記憶するための方法がどう影響するか検討した.実験では,「顔」写真とその下部に書かれた“よくある名前”を連合させて記憶する,3つの条件群が比較された。結果では,まず,似顔絵を描くと「氏&名」の正確な記憶をしないことが明らかになった。多重比較では,「似顔絵を描く」条件は「じーっとよく観察して記憶する」条件に比べて有意に記憶成績が低かった.似顔絵を描くことは,名前情報処理のための資源配分を減少させることになり,記憶成績を低下させると考えられた.さらに,似顔絵を描くことが氏名の記憶を阻害することを別な面から確認するために,似顔絵の上手さと氏名の記憶成績の関係が分析された.その結果,最後まで正しい氏名を想起できなかった刺激数(「無答数」)と上手さには,中程度の負の相関が見られた.
著者
向居 暁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.136-136, 2011

本研究は、符号化時と検索時における自然音の差異がカテゴリーリストの再認、および、虚再認にどのような影響を及ぼすかを検討した。全ての被験者(73名)は音声呈示されたカテゴリーリスト(5リスト、15項目)を雨の音を聞きながら聴取した。直後再認課題(冊子にて視覚呈示)においては、ある被験者群(37名)は符号化時と同じ雨の音を聞きながら行った(雨音群)のに対し、別の被験者群(36名)は全く別の風の音を聞きながら課題を行った(風音群)。その結果、風音群は、雨音群より正再認率が有意に高くなった。さらに、風音群の方が、ルアー項目の虚再認率、および、remember判断率において有意に高くなった。再認時に呈示された雨の音が、単語を「再認する」という行為を全体的に抑制する可能性が示唆された。
著者
庭瀨 裕子 朴 白順 月浦 崇
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.107, 2016 (Released:2016-10-17)

Fading Affect Bias(FAB)とは,情動的にネガティブな出来事と結びついた感情は,情動的にポジティブな出来事と結びついた感情よりも早く弱まる傾向があるバイアスのことである.しかし,このFAB効果の大きさと気分の個人差との関係は明らかではない.本研究では,日記法を用いてFAB現象と気分の個人差の関係を検証した.参加者は,情動的にPositive,Neutral,Negativeな出来事を毎日1つずつ14日間連続で日記に記入し,各出来事についての覚醒度を評価した.さらに14日後に,参加者は日記に記載した出来事についての覚醒度を再評価し,さらに気分と性格特性に関連する心理検査を施行した.その結果,FAB現象の大きさは,記憶想起時のネガティブな気分状態が強い個人ほど有意に減少することが示された.この結果は,FAB現象は記憶想起時の気分の個人差によって予測されることを示唆している.
著者
宮代 こずゑ
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.20, 2011

本研究は、単語の意味の印象と文字表記形態(タイポロジー)の印象一致度を操作し、潜在記憶に与える影響を調査することを目的としたものである。予備調査では、ひらがな及び漢字表記された154語と、行書体・ポップ体・古印体との印象一致度を調査した。その結果から、本実験にて使用する単語60語を選出した。次に行われた本実験_I_においては、単語の意味-文字表記形態の印象一致度が潜在記憶に与える影響を調査するため、単語完成課題が実施された。実験計画は項目(印象一致/印象不一致/新; 被験者内要因)×文字形態(ひらがな/漢字; 被験者間要因)の3×2要因であった。本実験_I_は学習課題、妨害課題、テスト課題の3段階から成っていた。結果、単語の意味-文字表記形態の印象一致度が潜在記憶に与える影響は見出すことが出来なかった。その次に実施された本実験_II_においては、顕在記憶に与える影響を調査するために再認課題が行われた。結果、本実験_II_においても単語の意味-文字表記形態の印象一致度が持つ明らかな影響は認めることが出来なかった。