著者
小野 史典 木本 茉莉奈
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.26, 2016 (Released:2016-10-17)

我々は自分の心の中の思いなどが相手に見透かされてしまっているのではないかと思ってしまうことがある。こうした自分の内的状態が相手に漏れているかのように考えてしまう現象は透明性の錯覚と言われている。本研究では,5杯の飲み物(4杯は同じ味だが1杯は異なる味)を準備し,行為者はなるべく無表情で飲み物を飲み(行為者セッション),観察者はその様子が録画されたビデオを見て,異なる味の飲み物を推測した(観察者セッション)。さらに,行為者は観察者の正答率を推測した。実験の結果,観察者の実際の正答率に比較して,行為者の推測した正答率が高くなった(透明性の錯覚)。また,別の参加者に対して,あらかじめ正答を教え,ビデオを見た後に観察者の正答率を推測してもらったところ,観察者の実際の正答率よりも高くなった。この結果は,行為者の内的状態を知っていること自体が透明性の錯覚において重要な要因になることを示唆している。
著者
大寺 輝 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.83, 2019 (Released:2019-10-28)

感覚刺激から思い出される出来事に関して、聴覚刺激よりも嗅覚刺激の方が出来事当時に戻った感覚を強く生じさせ、より昔の出来事を思い出させることが知られている。そこで自伝的記憶と関連があると考えられる懐かしさについて、聴覚刺激と嗅覚刺激の間で差がみられるのかを検討した。刺激として音楽、音(環境音等)、においの3種類を用い、刺激に対してどれくらい懐かしさを感じるかを7件法で回答させた。その結果、音楽の方がにおいよりも懐かしさ評価が有意に高く、音の方がにおいよりも懐かしさ評価が高い傾向 がみられた。また、懐かしさ評価について思い出す出来事があった場合となかった場合で比較を行うと、音やにおいによる懐かしさ評価は思い出す出来事がなかった場合に低くなったが、音楽による懐かしさ評価では両者で差がみられないという特徴的な結果が得られた。この結果は、これらが異なる種類の懐かしさであることを示唆している。
著者
田中 観自 渡邊 克巳
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

ギャンブル依存症は今や大きな社会問題となっているが,健常者がギャンブル依存に陥る過程は未だに不明な点が多い.本研究では,感情抑制が後のギャンブル課題時のリスク選択に及ぼす影響を検討した.実験では,お笑い動画を実験刺激として呈示し,健常な実験参加者を自由に視聴させる統制群と笑うことを我慢させる実験群に分類した.動画視聴後,参加者は複数のリスクを考慮しながらサイコロの出目を選択できるギャンブル課題を行った.各リスクの選択回数に対して,実験条件と複数の性格特性を含めたモデリングを行ったところ,自己抑制ができると自己評価している参加者は,実験条件に関わらず低リスクの選択をする傾向にある一方で,統制群は実験群に比べて,全体的に低リスクの選択をしていることが明らかとなった.つまり,健常者は感情抑制を受けることで,性格特性とは半ば独立した形で,ギャンブル課題時に低リスクを選択しなくなることが示唆された.
著者
川﨑 采香 佐久間 尚子 大神 優子 鈴木 宏幸 藤原 佳典
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p>日常記憶の加齢変化を調べるため、ボランティア研究に参加した高齢者を対象に日本版リバーミード行動記憶検査(RBMT)の「物語」再生による10年間の縦断的変化を検討した。初回(BL)の年齢分布に基づき、3群(age1:55名(56〜64歳)、age2:56名(65〜69歳)、age3:46名(70〜81歳))に分けた。BLと10年目(F10)の再生内容を25項目別に1点(正再生)・0.5点(類似再生)・0点(誤再生/言及なし)に採点し、3群別の25項目別正答率を求めた。この正答率を従属変数とする3群×2検査回の反復分散分析の結果、群の主効果(p&lt;.01)、群×検査回の交互作用(p&lt;.001)が有意であり、F10でage3の正答率が減少した。また、25項目別の正答率を10%ランク別に区切り、BLとF10のランク変化を見たところ、age1では上昇9項目/下降2項目に対し、age3では上昇2項目/下降6項目であったが、age3の下降は正答率80%以上で2項目、50%未満で3項目だった。以上より、日常記憶の加齢変化は緩やかに生じ、記憶容量が減少することが示唆された。</p>
著者
竹原 卓真 栗林 克匡
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第5回大会
巻号頁・発行日
pp.123, 2007 (Released:2007-10-01)

日常生活では、高頻度で電子メールが送受信されている。電子メールには、顔文字や絵文字など、エモティコンと呼ばれるオブジェクトがしばしば付加されるが、本研究では、それらエモティコンを付加した場合に、電子メールの感情情報がどのように認識されるのかを検証した。その結果、喜び感情については先行研究と同様に、顔文字を付加しない条件よりも、付加した条件のほうが喜び感情の認知が促進された。また、悲しみ、怒り、恐怖、嫌悪の4つのネガティブ感情を表現する電子メールに、対応する顔文字を付加しても、当該感情の認知が促進されることはなかった。中性感情と位置付けられる驚きについては、喜び感情とほぼ同様の結果が示された。他方、感情表出している静止した絵文字を付加した場合、顔文字よりも視覚的情報量が多いため、当初は感情認知が促進されると推測したが、結果的に感情認知が促進される感情と、促進されない感情が存在した。
著者
中村 航洋 浅野 正彦 渡邊 克巳 尾野 嘉邦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.23, 2021

<p>政治的意思決定や選挙行動は,政治家の掲げる公約や政策の内容だけでなく,有権者の偏見や政治家の容姿といった,政治とは直接的関連の薄い要因にも左右される。しかしながら,人々がどのような容姿を政治家としてふさわしいと感じ,なぜそれが政治的意思決定に影響を及ぼすのかは明らかにされていない。本研究では,逆相関法を用いた顔画像分類から,日本人が心のなかで想像する政治家の顔ステレオタイプを可視化し,政治家らしいと判断される顔の特性について明らかにすることを目的とした。実験では,2016年の参議院議員選挙候補者の平均顔にランダムノイズを付加した2枚の画像を生成し,実験参加者に「内閣総理大臣」あるいは「防衛大臣」にふさわしい顔つきの写真を繰り返し選択してもらう課題を実施した。参加者の画像分類を逆相関法により解析した結果,各大臣としてふさわしい男性顔および女性顔のステレオタイプを可視化することができた。</p><p></p>
著者
水原 啓太 柴田 春香 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.87, 2021

<p>左右対称な物体において,正面から見た画像よりも,斜めを向いた画像のほうが好まれる (Nonose et al., 2016)。斜め向きの画像は,物体についての多くの情報を表すため,見た目が良く感じられると考えられている。本研究は,左右対称な物体の画像において,物体の左右の向きが物体の選好に与える影響について検討することを目的とした。オンライン実験で,左右の向きのみが異なる日常物体100個の画像を対提示し,見た目が良いほうの画像を強制選択してもらった。画像は物体が正面を向いた状態から,鉛直軸に関して左右のどちらかに30°回転した画像と,それを左右反転した画像であった。その結果,左向きの物体を選好する割合は平均61.2%であり,有意に偏っていた。物体ごとに検討しても左向きよりも右向きのほうが有意に好まれた物体はなかった。この結果について,物体の操作可能性や左方光源優位性の観点から考察した。</p><p></p>
著者
Chanthavong souphatta 時津 裕子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.109, 2021

<p>見る者に不快感や不安感などネガティブな感情を抱かせる"disturbing"画像がインターネット上で人気を博している。本研究の目的は、これらの画像群を構成する意味構造について明らかにすることである。127枚のdisturbing画像における意味要素31種の存否状況を変数として数量化Ⅲ類よる分析を実施した。その結果disturbing画像群は、特定の意味要素だけで構成される画像と、複数の意味要素がまとまって構成される画像に大別されることが確認された。前者の画像群は傷や孔の集合体など生理的嫌悪につながる意味要素で構成され、比較的低次の処理過程からdisturbingnessがもたらされると推測される。一方、後者の画像群には死や儀式を連想させる要素や、文脈との不一致から生じる違和感などの要素によって構成されており、高次の思考・認知過程を経てdisturbingnessが生起すると推察される。</p><p></p>
著者
鎌谷 美希 伊藤 資浩 宮崎 由樹 河原 純一郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.75, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

衛生マスクを着用することで,着用者の顔の魅力が総じて低下することが報告されている (衛生マスク効果: Miyazaki & Kawahara, 2016)。これは,マスクによって顔の一部が遮蔽されることと,マスクから想起される不健康さの2要因によって生じるとされていた。しかし,COVID-19流行でマスクの着用が常態化したことにより,マスクから想起される不健康さがその色にかかわらず低減している可能性がある。本研究では,白・黒マスク着用者に対する信念の調査 (研究1),および素顔と白・黒マスク着用顔の魅力評定実験をおこなった (研究2, 3)。その結果,COVID-19流行前よりも流行後において,マスクの色にかかわらず,その着用者に対して不健康だと回答する人が減少した。また,マスク着用者に対する不健康さの知覚の低減に伴い,衛生マスク効果のうち,遮蔽の効果のみが魅力評定値に影響を与えていた。衛生マスク効果の変容は,不健康だと考えられていた黒色マスク着用顔に対してもみられた。
著者
水野 りか 松井 孝雄 Francis S. BELLEZZA
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-10, 2007-08-31 (Released:2010-09-29)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5

本研究は,表音文字処理における形態・音韻コードへの依存度の英語母語者と日本語母語者の違いを調べることを目的とした.実験1では,Posner,Boies,Eichelman,& Taylor (1969)の文字マッチング実験を手続き上の諸問題を解決した上で日米で追試した.その結果,彼らの実験結果とは異なり形態的一致のRTはISIとともに増大せず,日本では形態的一致のRTが音韻的一致のRTより短いが米国では両RTが等しく,日本語母語者は形態的一致の判断に形態コードを用いるが英語母語者は形態コードの代わりに音韻コードを用いる可能性が示された.実験2ではこの可能性を確認するために,音韻コードの利用を抑制する変則マッチング実験を行った.その結果,米国では実験2の形態的一致のRTは実験1より短いが,日本ではそうした傾向が全くないことが見いだされ,表音文字処理における日本語母語者の形態コードへの依存度の高さと英語母語者の音韻コードへの依存度の高さが確認された.
著者
渡邊 伸行 河崎 翔太
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.138, 2019 (Released:2019-10-28)

本研究では、顔面表情の感情的評価にしぐさが及ぼす影響について検討することを目的とした。モデル2名に表情4種類 (喜び、驚き、怒り、無表情)、しぐさ9種類 (手で口を覆う、後ろ髪を触る、腕を組む、など) を組み合わせた演技をしてもらった静止画像、計72枚を刺激として用いた。実験では、刺激をランダムに呈示し、実験参加者はセマンティック・ディファレンシャル (SD) 法 (Osgood et al., 1957) に基づいて、12項目の形容詞対を用いて7件法で評価してもらった。実験で得られた評定値の平均値を用いて、因子分析を実施した結果、従来の表情認知研究 (Russell, 1997; Takehara et al., 2002など) で繰り返し見出されてきた、評価性 (快—不快)、活動性の2因子が抽出された。因子空間における刺激の布置を確認したところ、しぐさが表情に対する感情的評価に何らかの影響を及ぼすことが示され、例えば腕組みの動作では表情が示す感情をより強調する効果があることが示唆された。
著者
水野 りか
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.45-61, 2005-03-31 (Released:2010-10-27)
参考文献数
78
被引用文献数
1

人間の記憶の合理性と経済性から考えて,様々な知見における記憶促進の原因が互いに無関係で独立していると考えるのは不合理である.本研究では,まず,処理の深さ,処理資源量,符号化多様性と特定性といった記憶定着に関わる要因に関する研究を概観し,これらの要因がみな活性化という共通の概念で説明しうる可能性を示唆した.次に,精緻化,検索経路の強化,文脈の影響,分散効果に関する知見をこの概念で説明しうるか否かの理論的検討を行い,共通の規定因としての活性化量を提案した.そして,処理水準の活性化量による説明可能性を示唆する実験結果を紹介したうえで,新たに,維持・精緻化リハーサルによる再生率の違いもこれと同様に活性化量によって説明可能か否かを実験的に検討した.そしてこの考え方を支持する実験結果を得て,様々な認知活動における記憶促進の共通の規定因としての活性化量を提案した.
著者
中村 風雲 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.102, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

感情状態が認知処理に影響を及ぼすことはよく知られている。特に,ポジティブ感情の下では,注意焦点が拡大することが示されている。Pronin, Jacobs, & Wegner ( 2008 ) は,速読や再生速度の速い映像の聴取などで,参加者の思考速度を加速させると,ポジティブ感情が誘発されると報告した。この結果は,認知処理が感情状態に影響を及ぼすことを示唆している。本研究では,速聴を用いて思考速度を加速させるとポジティブ感情が誘発されるか検討した。感情測定には多面的感情状態尺度短縮版を用いた。また,注意焦点の範囲を大域-局所課題を用いて測定した。その結果,速いスピードで文章を聞いた群では,通常のスピードで同じ内容を聴いた群に比べて, 「驚愕」と「敵意」の得点が有意に高くなり,「非活動的快」の得点が有意に低くなった。思考速度の自己評価や大域-局所課題の成績に有意差はなかった。以上の結果は,速聴は全体的にネガティブ感情を誘発することを示している。
著者
井上 雅勝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第11回大会
巻号頁・発行日
pp.73, 2013 (Released:2013-11-05)

(a) 藤田が今井を殴った吉田を誉めた。という固有名詞を含む構造的曖昧文の理解において、関係節主要部(e.g. ,吉田を)での再解釈のための処理負荷(ガーデンパス (GP) 効果)が大きくなる現象 (井上, 2008) については、語句間の何らかの共起関係が高いことによって単文が選ばれやすくなったことに基づくという説明も可能である。この可能性を排除するため、本実験では、 (b) A男が今井を殴った吉田を誉めた。のように、共起関係をもち得ない仮名の固有名詞を含む (b) 文と、(a) 文のGP効果量を比較した。その結果、GP効果の指標となる「吉田を」の読み時間に、(a)–(b) 間で差はみられず、同程度のGP効果があらわれていた。以上の結果から、(a) におけるGP効果は、共起関係が高さに基づくものではないことが示された。
著者
有馬 比呂志 中條 和光
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

小学校2〜6年生を対象として,相手の情報に基づいて自己の記憶方略を最適化するという相互交流記憶システム(TMS)に基づく認知的分業の発達変容について質問紙調査により検討した。本研究では,2者間で役割を分担して遂行することで高得点になる事態を設定した課題を用いた。課題では,児童がペアとなって学校内にある物を覚え,記憶成績を他のペアと競うというストーリーを用いた。参加児には,登場するペアの一方の記憶方略に関する情報を与え,もう一方の児童が取るべき記憶方略について回答を求めた。明示条件(実験1)では,ペアの相手の記憶方略を直接提示し,もう一方が選択すべき方略を質問した。また暗示条件(実験2)では,相手がどのような方略を選択するかを推論するための情報を提示し,もう一方が選択すべき方略を質問した。その結果,TMSに基づく自発的な認知的分業が可能になるのは4年生以上であることを見出した。
著者
喜入 暁 越智 啓太
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

サイコパシーは,冷淡な感情や他者操作性などを主軸とする1次性サイコパシー(primary psychopathy: PP)と,衝動性や反社会性を主軸とする2次性サイコパシー(secondary psychopathy: SP)からなるパーソナリティ概念の1つである。特に,PPは反社会性パーソナリティ障害と決定的に異なる点であり,したがって,PPがサイコパシーを特徴づける側面であることが指摘されている。本研究では,サイコパシーが他者を道具的に捉え扱う傾向(PP)が,女性に対しての女性蔑視傾向として示されるかどうかを検討した。分析の結果,男性参加者において女性蔑視傾向とPPとの正の関連が示された(SPとは有意な関連は示されなかった)。一方で,女性参加者の場合にこの関連は示されなかった。まとめると,男性のサイコパシーは,女性は道具的に支配するものであるという信念を持つことが示唆された。
著者
河原 哲雄
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.133, 2019 (Released:2019-10-28)

あいまいな対応関係を含む複数回の経験を総合することで単語と参照対象の対応関係を学習する交差状況学習(cross-situational learning)によって,個物とカテゴリという複数の階層のラベルが同時に学習可能であることを示したChen,Zhang&Yu(2018)の実験結果について,日本語話者による追試を試みた。また,交差状況学習を通じて単語と参照対象の間の対称性が学習されるかどうかを新たに検証した。ひらがな3文字の新奇語を単語刺激(音声呈示と視覚呈示),カップなどの日常的概念(4カテゴリ×4個物)の画像を参照対象とし,1回の経験で3つずつ単語と画像を呈示する設定で実験を実施したところ,複数階層ラベルの学習,対称性の学習とも実験参加者全体では確認されなかった。日本語使用による課題負荷の高さや,異なる学習方略を用いる実験参加者の混在などの可能性を検討することが今後の課題である。
著者
杉本 崇
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.129, 2008 (Released:2008-11-10)

推論の二重プロセス理論の立場から、問題を熟考した際にフレーミング効果が消失するか否かという問題を検討する研究が近年盛んに行われている。しかしその結果は熟考によってフレーミング効果が消失するという結果と熟考はフレーミング効果に影響しないという結果とに大きくばらついており、一致していない。この研究では被験者の熟考の度合いの操作方法として被験者の思考時間の大小という要因を取り上げ、一度短い思考時間で回答した被験者が再度長い時間思考することによってフレーミング効果を克服できるかという問題を検討した。その結果、初めに10秒の回答時間を与えられ、その後10秒で再考する条件ではどちらの回答でも強いフレーミング効果が観察されたが、初めに10秒の回答時間を与えられ、その後五分の再考時間を与えられた条件では初めの回答では強いフレーミング効果が観察されたが、再考した回答ではフレーミング効果は消失した。