著者
大杉 尚之 河原 純一郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

頷きと首振りは自分の態度を相手に伝える上で重要な動作である。これまでの研究では,視線や表情は,相手に接近したい(接近動機),または回避したい(回避動機)というサインを発信するため,顔の印象形成に影響すると考えられてきた。同様の接近−回避動機は,頷きや首振りによっても発信される可能性がある。そこで本研究では,3DCGモデルが頷きまたは首振り動作をすることがその顔の主観的印象(好ましさ,近づきやすさ)に及ぼす影響を測定した。実験の結果,頷き条件は好ましさ評定値と近づきやすさ評定値が首振り条件や静止(統制)条件に比べて高い値となった。また,この頷きへの選好効果は,外見上の好ましさや顔の魅力評定を行わせた場合には十分ではなく,内面の好ましさ評定を求めた場合に顕著に示された。このことから,頷き動作は接近動機を相手に示すことで,人物の内面的な印象(性格等)を良く見せる効果があることが明らかとなった。
著者
茶谷 研吾
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

微表情 (micro expression) は持続時間が500ms以下で顔の変化が微細または部分的な表情である。嘘を見抜く手がかりになると考えられ効果的な検出方法が模索されてきたが,観察者の認知に及ぼす影響は解明されていない。本研究では微表情を後続の表情で隠蔽する状況を想定し,脅威関連微表情が人物の信頼性判断に及ぼす影響を検討した。実験では真顔から強度100%の表情 (怒り・恐怖・幸福・驚き) へ変化する11枚1組のモーフィング画像を,先行 (4枚目以前) と後続 (5枚目以降) の表情を組み合わせ参加者に連続呈示し,信頼性を判断させた。実験の結果後続表情が幸福の時先行表情間で信頼性評定値に差があり,先行表情の認識が比較的正確である場合に,先行表情が怒りの条件で評定値が低いことが明らかになった。これは脅威と関連する微表情による信頼性判断への影響を示唆するものである。
著者
重森 雅嘉 齋藤 友恵 館林 美月 水谷 文 増田 貴之 芳賀 繁
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.134-134, 2009

作業時に対象を指差し確認内容を呼称すると、ヒューマンエラーが低減できる。これは指差呼称がいくつかのエラー防止機能を持つためといわれている。本研究では、指差の反応遅延による焦燥反応防止機能、呼称による記憶保持機能、指差による注意の焦点化機能を、ストループ様の数値比較課題(指差あり、なし、反応保留条件)、n-back課題(呼称あり、なし、構音抑制条件)、数値探索課題(指差あり、なし条件)を用いて検証した。その結果、数値とフォントの大小が拮抗するストループ様課題では、指差なし条件のエラー率が他より高く焦燥防止機能が確かめられた。n-back課題では、n=1とn=2において呼称あり条件のエラー率が他より低く記憶保持機能が確認されたが、n=3において呼称ありとなし条件のエラー率が逆転し、課題の難易度による効果の違いが示唆された。数値探索課題の条件によるエラー率の差は明確ではなく検討の余地を残した。
著者
鍋田 智広 楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.13-13, 2008

我々の記憶容量が膨大であることは古くから知られている。例えば,多くの項目が呈示されても被験者は高い割合で正確に再認することができる。しかし,この実験結果は視覚以外のモダリティではまだ明らかにされていない。そこで本研究では触覚における記憶容量をとりあげ,その学習モダリティへの固有性と,記憶容量に関するメタ記憶とについて検討した。実験では,被験者に100項目もしくは500項目の日用品を触覚学習させた後に触覚あるいは視覚で再認テストを行い,その後被験者自身の再認成績を推測させた。その結果,どちらの実験においても高い再認成績が示されたものの,触覚テストの方が視覚テストよりも再認成績が高く,かつ再認成績の推測も正確であった。これらの結果は,触覚の記憶容量とそのメタ記憶とが,触覚に固有の記憶に依存することを示唆している。
著者
谷郷 力丸 永井 聖剛 西崎 友規子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.30, 2017 (Released:2017-10-16)

運転行動は,歩行者や他車両とのインタラクションなど社会的な情報処理が必要であり,日常生活において他者に対する共感性が低いドライバは,運転時においても他者/他車両へ配慮する割合が低いことが明らかになっている(西崎ら,2012).本研究では身体化された認知(Embodied Cognition)の概念を用い,運転姿勢を変えることにより,信号のない横断歩道上の走行など社会的な配慮を要する運転場面において,運転行動に変化が見られるか否かドライビングシミュレータを用いた実験によって検討した.また,共感性の個人差が姿勢に及ぼす影響についても検討を加えた.その結果,社会的な行動を要する運転場面のうち,近くに歩行者や他車両が存在する運転場面において,拡張姿勢が収縮姿勢よりも速度が高くなるなど,他者への配慮が低下した運転となることが分かった.しかし,共感性の個人差による差異についてはさらなる検討が必要である.
著者
中島 亮一
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.39, 2017 (Released:2017-10-16)

ある位置を注視していたとしても、頭部方向正面で見るか、横目で見るかによって、視覚処理が変容する。具体的には、頭部正面方向における視覚処理が促進される。本研究では、横目で注視点を見ている時の、視覚的注意の空間的な広がりについて検討した。実験では、注視点位置に呈示されるTの文字の向き判断と、周辺視野に呈示されるドットの検出を同時に行う、二重課題の有効視野課題を行った。また、注視点に対する頭部(と身体)方向を、正面・左右と操作した。注視点の左または右にドットが出てきた場合の検出率の差分を左バイアスという指標とし、頭部方向条件間で比較した。その結果、左バイアスは、頭部方向が左、正面、右の順に大きかった。同様に下バイアスも比較したが、頭部方向条件間に違いは見られなかった。よって、横目観察時には、水平方向において、有効視野が頭部正面側に偏って広がっていることが示唆される。
著者
藤崎 樹 本田 秀仁 植田 一博
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.46, 2017 (Released:2017-10-16)

近年、集合知を個人内で擬似的に生み出す手法が提案されている。ある問題に対し、同じ人物に複数回異なる推定を促し、値を平均化することで正確な推定を獲得するというのがその手法である。しかし、先行研究で提案された手法は、必ずしも簡便なものとは言いがたい。そこで本研究では、「視点の切り替え」に基づく簡便な手法を代替案として提唱する。二つの実験を通じて以下の三点が明らかになった。まず、本研究の手法は、先行研究の手法以上に正確な推定を生むものであった。次に、より重要な点として、先行研究の手法を与えた群に比べ、本研究の手法を実施した群では、参加者はより素早く推定を行ったことから、認知的に容易なものであることが示唆された。さらに、本研究の手法は、推定に対する自信がもたらす悪影響を軽減するものであることが分かった。以上から、本研究の手法は、効率的かつ効果的に個人内で集合知を生み出す手法であることが示された。
著者
高瀬 雅良 饗庭 絵里子 田中 里弥 藤澤 隆史 赤塚 諭 下斗米 貴之 長田 典子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第10回大会
巻号頁・発行日
pp.132, 2012 (Released:2012-07-20)

和音は, 音楽聴取で喚起される情動に大きな影響力を持つ。先行研究の多くは単一の和音を対象としているが, 音楽では和音進行が重要な役割を持っていると考えられる。本研究においては, 和音進行聴取時の脳活動と心理的な印象について,fMRI およびSD 法を用いた検証を行った。その結果,長三和音を含む和音進行の聴取によって, 眼窩前頭皮質(BA47)での賦活が 確認された。また, 和音進行の印象には不協和度・モダリティ(長調的/短調的)・緊張度の3因子があることが示された.さらに和音進行前あるいは進行後の和音の印象 に有意な変化が生じる和音進行が存在することが明らかになり,和音進行の結果として得られる印象が,単一の和音によって得られる印象とは 異なることが分かった。長三和音が特に明確な印象を引き起こす和音であることも示され, 脳活動との間にも整合性が見られた。
著者
斎川 由佳理 仁平 義明
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.47-47, 2015

  記憶を補助する外部手段として「手に直にメモを書く行動」について,なぜ ある人はこの手段を用いて,ある人は用いないか,大学生を対象とした質問紙調査によって,その要因をパーソナリティ要因も含めて総合的な視点から分析を行った。その結果,「手にメモをする行動」をとる群の人ほど,他のいくつかの「し忘れ防止手段」も併用していることが明らかになった.また,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの要因については,メモ経験群は,ものごとに現実的に対応する傾向である,「経験への開放性」のスコアが有意に高い傾向があった.すべての結果を総合すると,手にメモをするのは,その人が失敗回避傾向がある気の弱い人だからというよりは,「確実に予定を果たそうとする現実的な行動をとる人」だからというべきだと考えられた.
著者
吉永 綾子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.86-86, 2009

商品について消費者が発信する口コミ情報は、多額の費用を割いて行う企業の広告よりも強い影響力を持つ場合がある。しかし、この口コミ情報がどのような要因によって消費者に強い影響を与えているのかは未だに明確にはされていない。口コミ情報の影響の受信者側の要因として対人影響力があると考えられる。Bearden, Netemeyer, and Teel (1989)の調査において、消費行動における対人影響力に対する鋭敏さについて12項目の質問が有効であるとされた。本論文ではMourali, Laroche, and Pons (2005)の手順に準拠しながら英語の質問項目を正確に日本語訳し、日本人を対象とした調査を行う。その際に、性格特性および口コミ利用を調べるための項目も設け、それらとの相関を調査する。
著者
清河 幸子 手塚 聡
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

本研究では,酢,醤油,砂糖から構成される調味料を材料として,言語的符号化が味の記憶に及ぼす影響を検討した。具体的には,32名の大学生に対して,ターゲットとなる調味料の味を記憶するよう求めた後,一方の群では,その調味料の味について言語的に記述することを求めた。もう一方の群では,味とは無関係なクロスワードパズルを解くよう求めた。その後,強制2肢選択型の再認課題を実施し,判断に対する確信度を7段階で回答するよう求めた。なお,ターゲットとディストラクタの類似度の影響を検討するために,砂糖の量を操作し,両者の類似度が高い条件と低い条件の2条件を設定した。結果として,ターゲットとディストラクタの類似度にかかわらず,正しい判断を行った場合の確信度が言語的符号化を行った群で有意に低くなることが示された。この結果は,味を言語的に捉えることがその記憶を妨害することを示唆するものとして解釈された。
著者
三好 清文 蘆田 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.12-12, 2015

We investigated the effect of processing fluency induced by spatial cueing on recognition memory judgments. Participants memorized pictures of everyday objects, and their spatial attention was manipulated in a Remember/Know recognition memory test. Stimulus location was either predicted (valid condition) or unpredicted (invalid condition) using an arrow cue. The results revealed that familiarity-based false recognition increased in the invalid condition. In the invalid condition, participants may have attributed part of the perceived disfluency to the spatial cue and overestimated the fluency for the stimulus, leading to increased false recognition. In contrast, in the valid condition, participants may have attributed some parts of the perceived fluency to the spatial cue and underestimated the fluency for the stimulus, leading to decreased false recognition. In short, spatial cueing induces reasoning about the source of fluency and biases recognition memory.
著者
羽渕 由子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.77, 2016 (Released:2016-10-17)

本研究は,病院薬剤部において医薬品取り揃え時に発生する取り間違いエラーについて,発生を予測し,防止策を提案することを目的とした。医療機関において約2か月間に発行された処方箋から,層化無作為二段抽出法によって約1000枚の処方せんを抽出し,処方された医薬品の組み合わせを共起ネットワークとして描画し,実際の取り間違いデータと比較した。検討の結果,正しい処方医薬品と取り間違われた医薬品は特定の症状で処方される医薬品との関連が強いネットワーク上にあることが示された。いわゆる“思い込み”エラーとして,薬剤師が医薬品を取り間違える要因の一端が明らかになった。
著者
高尾 沙希 有賀 敦紀
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.84, 2015 (Released:2015-10-21)

我々の視覚システムは,他者の視線が向けられた位置に対して自動的に注意をシフトする(視線手がかり効果)。このように,視覚システムは顔などの社会的な刺激に対して感度が高く,非常に高速に処理することができると考えられている。本研究では,視線による注意のシフトと一般的信頼性の相関について調べることを目的とした。参加者の課題は,視線手がかりを無視しながら,顔の左右いずれかに呈示された標的の位置を報告することであった。その結果,手がかりと標的のSOAが117msの条件でのみ,視線手がかり効果が認められた。さらに,この非意図的な視線手がかり効果と一般的信頼性得点の相関係数を算出したところ,弱い正の相関が認められた。したがって,一般的信頼性は社会的刺激に対する非意図的な視覚情報処理と関連していると結論することができる。つまり,騙されやすさは比較的初期の認知プロセスに依存している可能性があることが示唆された。
著者
本間 元康 小山 慎一 長田 佳久
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.52-52, 2007

本研究では、ラバーハンドと自身の手の向きが不一致の場合(例えばラバーハンドは甲が上向きで自身の手は平が上向きの場合)、視知覚が触知覚にどのように反映されるかを検討した。参加者の左手を自身から見えないように置き、鏡映された右手のラバーハンドを観察させた。ラバーハンドと自身の手の向きが一致している場合、視覚刺激(赤色光)を提示した部位に触知覚が体験され、視覚刺激のみで触知覚が生じることを確認した。しかし不一致の場合、例えば自身の左手平側を上にした状態でラバーハンドの右手甲側の親指に視覚刺激を与えた場合、参加者は平側の小指に触知覚を感じるという奇妙な現象を体験した。すなわち、鏡の中で刺激されている部位と空間的に対応する部位に触知覚が生じた。これらの結果は視覚情報によって触知覚が引き起こされる際、視覚的な位置情報と実際の手の体性感覚的な位置情報(手の指、平・甲)が統合されていることを示唆する。
著者
松田 憲 興梠 盛剛 小野 史典 杉森 絵里子 楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.28, 2016 (Released:2016-10-17)

パワープライミングとは,抑制的な先行手掛かりが安全・安心といった認知を高め,促進的な手掛かりが成長・発展・発達といった認知を高めることである。本研究では参加者にパワープライミング課題を課してハイパワーとローパワーの操作を行い,ノスタルジックな画像ないし先進的な画像と広告との連合形成及び広告の評価に及ぼす影響について検討を行った。商品カテゴリーとして,食品(お茶,レトルトカレー)と家電(液晶TV,ノートPC)を用いた。参加者にはパワープライミング課題を課した後に広告と画像を連続対呈示し,その後に広告への評価を求めた。実験の結果,特に家電カテゴリーにおいて,ハイパワー条件では先進的画像と対呈示された広告の評価が,ローパワー条件においてはノスタルジー画像と対呈示された広告の評価が高かった。これは,ハイパワー操作によって新奇性選好が,ローパワー操作によって親近性選好が促された結果であると考える。
著者
須藤 昇
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

漢字2字からなる漢字対を提示し、被験者に熟語であるか否か判断を求めた。ある熟語が2, 4, 8, 16, 32試行を置いて2度提示される場合、エラー率が低下し反応時間が短縮した。この結果は熟語の活性化が長く持続することを意味している。また、語彙データベースを用いて、個々の漢字が熟語の1文字目に出現する割合(初頭率)を算出した。熟語の2文字目の漢字の初頭率が高い場合にエラーが増すが、この傾向はプライミング効果とは独立であることが示された。
著者
中山 友則 兵藤 宗吉
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.127-127, 2011

本研究では出来事の呈示,事後情報の呈示,記憶テストの3段階から成り立つパラダイムである事後情報効果パラダイムを用いた。本研究の目的は事後情報について思い出すことで,その後のソースモニタリングにどのような影響を及ぼすかを検討することであった。実験では事後情報呈示後に,その事後情報についての詳細な自由再生を求めた。その後,記憶テストとしてソースモニタリングテストを実施した。その結果,事後情報の自由再生を行った条件は自由再生の無かった統制条件と比較して,特に事後情報で与えられた誤情報を事後情報で読んだとするソースモニタリングが困難になった。しかしながら,誤情報を出来事で見たとするエラーについては統制条件と有意な差が見られなかった。これは,誤情報を見ていないとする判断が増加したことを意味する。事後情報についての詳細な再生により,誤情報に対しては検索誘導性忘却を引き起こした可能性が考えられる。