著者
猪原 敬介 内海 彰
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2016 (Released:2016-10-17)

フィクション本の読書頻度はノンフィクション本よりも語彙力と強く関連することが報告されている。原因として,テキスト内要因(フィクション本の単語出現のパターンのほうが語彙力向上に有効である,など)とテキスト外要因(フィクション本のほうが高い動機づけで本を読めるので,読書に集中でき,結果として単語の学習が行われやすい,など)が考えられるが,両者を切り分ける検討はこれまでなされてきていない。本研究では,言語コーパスに基づく語彙学習シミュレーションを行い,読書傾向によって群分けした人間の参加者の語彙テスト成績と比較を行った。その結果,参加者実験では先行研究の結果を追試できたが,シミュレーション実験ではノンフィクション本の成績がフィクション本の成績を上回るなど,食い違った結果が得られた。本結果はテキスト外の要因が上述の現象の原因であることを示唆しているが,別解釈の可能性についても併せて論じた。
著者
山田 恭子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.66-66, 2010

従来,環境的文脈を復元すると,正しい記憶が増えると言われてきた。一方で,環境的文脈の復元が誤った記憶にどのように影響するのかは,まだ不明瞭である。この問題は目撃記憶正確性に関連してくる問題といえる。そこで,本研究では,環境的文脈の復元が目撃者の正再認と虚再認に及ぼす影響について調べた。環境的文脈は模擬犯行場面の映像の呈示の有無で操作した。学習時に模擬犯行場面の映像を提示した10分後,犯人の特徴等に関する再認テストを行った。そのとき,同文脈条件では,学習時の映像から人物やその所持品を除いた静止画を見ながら回答を行った。異文脈条件では画像の呈示はなかった。その結果,正再認率は環境的文脈の復元の効果はなかった。一方,虚再認率は,同文脈条件において異文脈条件よりも高かった。このことから,環境的文脈が復元されると,実際に見なかったものも誤って「見た」と判断してしまう可能性が高くなることがわかった。
著者
宮川 法子 服部 雅史
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.23, 2016 (Released:2016-10-17)

本研究では,流暢性 (刺激に対する情報処理の速さや容易さの主観的な感覚) の記憶に与える影響に個人特性であるワーキングメモリ容量や認知欲求が調整変数として働くか否かについて,文字の見えづらさを操作し検討した。記憶課題には40語の単語記憶課題,ワーキングメモリ測定課題にはリーディングスパンテスト(以下,RST)と演算スパンテスト (以下OST) を用いた。40単語の記憶課題の後にRSTとOSTを行った。各記憶課題の間には1分間の休憩を挟み,RSTとOSTは参加者間でランダムな順で行った。最後に認知欲求を測る質問紙を行い,単語記憶課題での文字の読みやすさについて5件法で回答してもらった。本実験の結果からOST得点の低い人が流暢性の影響を受けやすいことが示唆された。更にOST得点によって,読みやすさ,つまりは流暢性の感じ方に違いは見られなかった。よって流暢性そのものは入力段階において差はないことも示唆された。
著者
漁田 武雄 漁田 俊子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.98-98, 2008

BGMの熟知性(既知,未知)×文脈(同文脈,異文脈)の4群に,大学生96名をランダムに割り当てた。各大学生は個別に実験参加した。教示につづいて,24個の漢字2文字熟語を,4個ずつ6回に分けて,各々30秒間コンピュータ画面に提示した。大学生は4つの熟語を用いた文を作成し,口頭報告した。作文の際に,各条件に対応するBGMを流した。作文が終わるとBGMを止め,コンピュータ画面に背を向けさせた。そして連続加算課題を5分間行わせた。つづいて,作文で使用した熟語の自由再生を行わせた。その際,SC条件では作文時と同じBGM,DC条件では作文とは,同じ熟知性で異なるBGMを流した。総再生数および,各熟語群からの第1反応数のいずれにおいても,文脈の主効果のみが有意で,熟知性の主効果と交互作用は有意でなかった。以上,これまで未知楽曲でのみ報告されていたBGM文脈依存効果が,既知楽曲でも生じることを見いだした。
著者
田中 孝治 佐々木 駿作 池田 満 堀 雅洋
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.112, 2016 (Released:2016-10-17)

本研究では,自転車運転中の不安全行動の問題特性を明らかにするための足掛かりとして,一般的な知識として正しい行動を問う知識課題と自身が実際に選択する行動を問う意図課題の二種類の課題を用いて,自転車運転における知識と行動意図の不一致を定量化する(実験1)。さらに,定量化したデータから,不安全運転行動の意図形成について,時間的切迫感および不安全運転行動が引き起こす被害に対する関与(実験2),不安全運転行動の危険認知および安全運転行動のコスト認知の観点(実験1・2)から検討を加える。実験の結果,意図課題の方が知識課題よりも正答率が低く,知識と行動意図の不一致が示された。また,切迫感,コスト感,危険性の認知が,不安全運転行動の意図形成に影響を与えることが示された。さらに,自身が加害者となる可能性を提示された方が,被害者となる可能性が提示されるよりも不安全運転行動の意図が形成されることが示された。
著者
後藤 靖宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.142-142, 2009

ある楽器の演奏者が音楽を聴取する際,自身が演奏や訓練において長期間たずさわってきた楽器の音色を自発的に選択的聴取しているのかを実験的に検証した.ホルン奏者,ホルン以外の楽器奏者および楽器非経験者に対し,トランペット,ホルンおよびテューバで構成される金管楽器3重奏の旋律と,その旋律を音色ごとに変化させた旋律とを用いて再認課題を課し,3者の成績を比較した.その結果,ホルン奏者のみがホルンの旋律を変化させた課題の正答率が最も高かった.旋律聴取に際して特定の音色への注意喚起などをしなかったことを考えると,今回の結果は,楽器の演奏者が,自身が演奏している楽器の音に対して自発的に選択的聴取をしている可能性を示していると考えられる.
著者
永井 聖剛 山田 陽平 金谷 英俊 川上 直秋 西崎 友規子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.6, 2016 (Released:2016-10-17)

刺激の大小や速遅などの物理的性質と運動反応の強弱との間にみられる刺激—反応適合性は,オブジェクトに関する概念的性質に対しても生じる。したがって,刺激や運動反応についての性質は抽象化された単純情報次元(例えば,大—小)で共有されるものと考えられる。本研究では,刺激が示唆するパワーと発揮される握力という刺激-運動反応間での適合性について検討した。実験では乳幼児画像,レスラー画像,またはブランク画面が提示され,実験参加者には人物が提示されたき,事前に練習した最大筋力の50 %の出力で握力計を握るように求めた。結果から,非利き手に限り,レスラー画像に対して乳幼児画像よりも大きな握力が発揮されることを明らかにした。利き手では筋力のコントロールが非利き手に比べ正確にできるために,非利き手で大きな効果が出現したものと考察された。
著者
丸山 真名美
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.17, 2016 (Released:2016-10-17)

通常、折り紙は正方形の紙を用いる。そのため、正方形もしくは四角形の紙の折り方についての技術は獲得されており、折りのイメージも生成されやすい。本研究で、使用する三角形の紙は非常に新規なものである。これまでの研究において、紙の形が折りのイメー形成に影響する知見が得られている。また、新規な形の紙を折る場合は、四角形の紙を折るスキルを適用する知見も得られている。新規な形である三角形の紙を折り作品を作るプロセスを分析することで、折りイメージに関係する要因について検討する。本研究は、正三角形の紙を使用した創作折り紙を課題としており、そのプロセスを検討することが主要な目的であるので、被験者は中級程度のスキルを持つものであり、パフォーマンスとプロトコルを詳細に分析するために、ケース・スタディを行う。
著者
菊地 史倫 佐藤 拓
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.135-135, 2010

日常的な葛藤場面において、嘘の内容(生起確率低の嘘・生起確率高の嘘)と嘘の露見(露見前・露見後)が弁解の効能の認知に与える影響を検討した。150人の大学生は、自分の遅刻理由を偽った弁解をするが最終的にその嘘が露見してしまう状況のシナリオを読んだ。そして、参加者は嘘露見前後に弁解を聞いたときの相手の怒り、弁解の効能(ゆるし・制裁行動)と信憑性について評定した。その結果、嘘露見前は嘘の内容に関わらず相手の怒りを低く、遅刻に対するゆるしを高く、制裁行動を低く評価した。その一方で、嘘露見後は嘘の内容に関わらず相手の怒りを高く、遅刻に対するゆるしを低く、制裁行動を高く評価した。また、嘘露見前は生起確率低の嘘よりも生起確率高の嘘の信憑性が高く評価されたが、嘘露見後は内容に関わらず信憑性が低く評価された。これらの結果から、嘘が弁解として機能するためには嘘が露見しないという前提が必要なことが示された。
著者
田中 孝治 加藤 隆
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.138-138, 2010

津波や土砂崩れのような予測が可能な自然災害の場合には,避難情報などによる避難誘導が重要な役割を果たす。しかし実際には,避難情報に従う住民が極めて少ないという事例が報告されている。このことから,住民に適切な意思決定と行動を促すことができる避難情報が必要であると考える。そこで本研究では,避難情報が避難準備情報,避難勧告,避難指示へと段階的に発令されることに着目し,避難情報の段階が一段引き上げられたことを明示することが,避難行動をとるべきか否かの判断にどの程度影響を及ぼすかについて検証を加えた。その結果,避難準備情報から避難勧告へ引き上げられたことが明示される方が,避難すると思われる住民の割合が多いことが示された。したがって,避難勧告などの避難情報を段階的に発令する場合には,避難情報の段階が引き上げられたことを明示し,避難行動をとるという意思決定を促すべきだと考える。
著者
清水 寛之 金城 光
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.13-21, 2015-08-31 (Released:2016-02-16)
参考文献数
44

本研究の目的は,日常記憶質問紙(the Everyday Memory Questionnaire, EMQ)を用いて,成人期における日常記憶の自己評価に関する発達的変化を明らかにすることである.299名の一般成人(19~25歳の若齢者99名,38~55歳の中年者97名,63~75歳の高齢者103名)が本調査に参加し,日常生活における記憶活動の忘却や記憶失敗に関する28項目についての発生頻度を“最近6カ月で1回もない”から“日に1回以上”までの9件法で評定した.先行研究(清水・高橋・齊藤,2006, 2007など)によるEMQの因子構造に基づいて全項目を五つの下位項目群に分類したうえで項目群ごとに各年齢群の評定値を比較したところ,その発達的変化は(a)若齢者=中年者=高齢者,(b)若齢者>中年者>高齢者,(c)若齢者=中年者>高齢者,(d)若齢者>中年者=高齢者,(e)若齢者>高齢者,の五つのパターンに分かれた.日常記憶の自己評価は成人期に自己の記憶能力に対して悲観的な見方から楽観的な見方へと段階的に移行していくことが示唆された.
著者
楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.12, 2009 (Released:2009-12-18)

本研究の目的は,ホワイトカラーの実践知と批判的思考の関係を明らかにするために29人のホワイトカラーに対して,質問紙調査をおこなった.評定結果に基づいて,仕事に関する実践知の構造を,テクニカルスキル,ヒューマンスキル,コンセプチュアルスキルに分けた.そして,それらのスキルの獲得は,省察と知識変換といった思考活動,批判的思考態度と柔軟性といった学習の態度が支えていることを明らかにした.さらに知識のリソースとして,自己経験,上司同僚の役割が大きいことを明らかにした.あわせて,対照群である教員と比較検討した.
著者
白石 紘章 仲 真紀子 海老原 直邦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.33-42, 2006-08-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

本研究は映画で提示された情報の再生,および情報源再認について,2種類の認知面接の効果を検討したものである.特に,繰り返し誘導情報を与えた場合の情報源再認について,面接の効果を評価した.72名の大学生は映画を見た後,誘導情報を含む事後質問紙に回答した.誘導情報の反復回数は,0回,1回,3回と操作された.24時間後,参加者は,認知面接,“文脈の心的再現”と“悉皆報告”教示で構成された修正版認知面接,または構造面接のいずれかを受けた.面接後,参加者は誘導情報についての情報源再認課題を行った.その結果,修正版認知面接は,認知面接よりも所要時間が短いにもかかわらず,構造面接よりも多くの,認知面接に匹敵する情報量を引き出した.しかし一方で,修正版認知面接,構造面接よりも認知面接で,情報源判断が優れていた.結果について理論的,実務的な観点から考察を行った.
著者
本山 宏希 宮崎 拓弥 菱谷 晋介
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.119-129, 2008-02-29 (Released:2010-07-21)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

本研究では,イメージを形成すると視覚的な情報だけでなく感情的な情報も喚起されるか否かを,感情プライミングの手法を用いて検討した.実験の結果,イメージを形成する際に視覚情報の喚起のみを促し,感情情報の処理には一切言及しない教示下においても,その後の語彙性判断課題にイメージ対象の感情的側面の影響が見られた.このような結果は,絵的なイメージの形成を促した条件では見られるが,提示された文字パターンをそのまま保持させる条件では見られなかった.これらの結果から,絵的なイメージの形成によって感情情報は常に喚起されること,またそれは文字認知により生じる感情とは異なることが示唆された.
著者
森 数馬 中村 敏枝 安田 晶子 正田 悠
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.99-99, 2008

音楽の印象における歌詞の影響を定量的に検討した研究は数少なく、これまでの研究では、歌詞における意味内容と声質や歌い方を混同して歌詞の影響を測っている。本研究は、歌詞の言語の意味内容が認知できない演奏音と文字で書かれたその歌詞の邦訳を用いることで歌詞における意味内容と声質や歌い方を区別し、歌詞の意味内容が演奏音の印象に影響を与えるかを定量的に検討することを目的として実験を行った。演奏音と歌詞の意味内容の印象がかけ離れた作品2つを刺激とし、同一の参加者が3条件(演奏音のみ呈示、歌詞のみ呈示、演奏音+歌詞呈示)で実験を行い印象を測定した。実験の結果、両作品において演奏音+歌詞の印象は、歌詞よりも演奏音に近い印象を示すという傾向があった。したがって、本研究で用いたような作品の印象において、歌詞の意味内容という論理情報が及ぼす影響は弱く、演奏音という感性情報が及ぼす影響が強いということが示唆された。
著者
渡辺 晃 分部 利紘 綿村 英一郎 高野 陽太郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.23-30, 2015

系列学習に関する研究により,学習後に睡眠を経ることで,先行チャンク内項目の検索と並行した後続チャンク内項目の検索が促進されるという,"記憶の固定化"が示されてきた.しかし,学習した系列の記憶表象に睡眠がいかなる変化をもたらすのかについては未解明であった.われわれは,学習後の睡眠がチャンク間の結合を強化するのか,それとも,個々の項目間の結合を強化するのか検証した.参加者は二つのチャンクにより構成された系列を学習した後,その系列の中間部分,すなわち先行チャンクの後半から後続チャンクの前半にかけての部分系列を,それ単体もしくは系列全体の一部として実行した.結果,同部分系列に対する運動速度が睡眠により向上したのは,それを系列全体のなかに埋め込む形で実行した場合にのみ限られた.これは,睡眠が強化するのは項目同士ではなくチャンク同士の結合であること,およびチャンクの構造は記憶の固定化後も保持されていることを示唆する.