著者
座馬 耕一郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
pp.29.017, (Released:2013-12-13)
参考文献数
107
被引用文献数
2 2

The relationship between primates and lice is discussed. Lice are ectoparasites that live on the body surface of mammals and, in contrast to ticks and fleas, do not leave the host during their life cycle. Host mammals may experience adverse effects from lice, such as anemia and skin irritation. Moreover, lice are vectors of infectious diseases; for example, human lice (Pediculus humanus) transmit the epidemic typhus pathogen between humans (Homo sapiens). DDT virtually eliminated human lice in several countries after World War II. Early Japanese primatologists who began research during this period had little interest in the relationship between primates and lice. Primates groom each other to remove lice, ticks, and small objects. Prosimians use their lower incisors to groom, similar to rodents and African antelopes, whereas anthropoids, which have a retinal fovea with high visual acuity and functional fingers that allow them to find and pick small ectoparasites from the body surface, groom using their hands and mouth. Japanese monkeys (Macaca fuscata) and lice (Pedicinus obtusus, P. eurygaster) have an entwined host-parasite and predator-prey relationship. Lice lay nits on monkeys, who are hosts, in areas where hair growth is dense because the hair conceals nits from the monkeys, who are their predators. Monkeys remove and eat nits according to nit density. Given the high intrinsic rate of natural increase in lice, monkeys need to groom daily. This necessity may explain why monkeys live with grooming partners making social groups. The development of simplified techniques to estimate louse infection in primates will advance the study of socioecological models and lice infection dynamics in primate metapopulations.
著者
森田 哲夫 平川 浩文 坂口 英 七條 宏樹 近藤 祐志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2013 (Released:2014-02-14)

消化管共生微生物の活動を通して栄養素の獲得を行う動物は微生物を宿すいわゆる発酵槽の配置により前胃(腸)発酵動物と後腸発酵動物に大別される.消化管の上流に微生物活動の場がある前胃発酵の場合,発酵産物と微生物体タンパク質はその後の消化管を食物とともに通過し通常の消化吸収を受ける.一方,後腸発酵ではその下流に充分に機能する消化管が存在せず,微生物が産生した栄養分は一旦ふりだしに戻り,消化を受ける必要がある.その手段として小型哺乳類の多くが自らの糞を食べる.このシンポジウムでは消化管形態が異なる小型哺乳類を対象にこの食糞の意義について考える. 糞食はウサギ類に不可欠の生活要素で高度な発達がみられる.発酵槽は盲腸で,小腸からの流入物がここで発酵される.盲腸に続く結腸には内容物内の微細片を水分と共に盲腸に戻す仕組みがある.この仕組みが働くと硬糞が,休むと軟糞が形成される.硬糞は水気が少なく硬い扁平球体で,主に食物粗片からなる.一方,軟糞は盲腸内容物に成分が近く,ビタミン類や蛋白などの栄養に富む.軟糞は肛門から直接摂食されてしまうため,通常人の目に触れない.軟糞の形状は分類群によって大きく異なり,Lepus属では不定形,Oryctolagus属では丈夫な粘膜で包まれたカプセル状である.Lepus属の糞食は日中休息時に行われ,軟糞・硬糞共に摂食される. ヌートリア,モルモットの食糞はウサギ類と同様に飼育環境下でも重要な栄養摂取戦略として位置付けられる.摂取する糞(軟糞,盲腸糞)は盲腸内での微生物の定着と増殖が必須であるが,サイズが小さい動物は消化管の長さや容量が,微生物の定着に十分な内容物滞留時間を与えない.そこで,近位結腸には微生物を分離して盲腸に戻す機能が備えられ,盲腸内での微生物の定着と増殖を保証している.ヌートリア,モルモットでは,この結腸の機能は粘液層への微生物の捕捉と,結腸の溝部分の逆蠕動による粘液の逆流によってもたらされるもので,ウサギとは様式が大きく異なる.この違いは動物種間の消化戦略の違いと密接に関わっているようにみえる. ハムスター類は発達した盲腸に加え,腺胃の噴門部に明確に区分された大きな前胃を持つ複胃動物である.ハムスター類の前胃は消化腺をもたない扁平上皮細胞であることや,前胃内には微生物が存在することなどが知られているが,食物の消化や吸収には影響を与えず,その主な機能は明らかとはいえない.一方,ウサギやヌートリアと比較すると食糞回数は少ないが,ハムスター類にとっても食糞は栄養,特にタンパク質栄養に大きな影響を与える.さらに,ハムスター類では食糞により後腸で作られた酵素を前胃へ導入し,これが食物に作用するという,ハムスター類の食糞と前胃の相互作用によって成り立つ,新たな機能が認められている
著者
武田 庄平 筒井 紀久子 松沢 哲郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.207-214, 1999 (Released:2009-09-07)
参考文献数
13

Sand manipulations in four captive female chimpanzees (Pan troglodytes) were experimentally analysed. Every experimental session was done at the individual situation. Each individual was observed in the experimental booth under four 30min. conditions; with an experimenter and no object, with an experimenter and 16 objects, with an experimenter and 7 objects, and with no experimenter and 7 objects. In every conditions, 10kg. sand was mounted at the centre of floor in the booth. Comparing the amount of time of sand manipulations under each conditions, the conditions with an experimenter and objects facilitated chimpanzees to manipulate sand, although the small number of objects was more efficient. For the ultimate purpose of abstracting the intelligence of chimpanzee, we made the ethogram of sand manipulation. Each bout of sand manipulation observed was categorized into four contexts; relating with their own body and object, relating with only their own body, relating with only object, and specific manipulation. The cases of sand manipulation initiated with “scoop”, “drop”, “grasp”, “scrape”, and “touch” were the most popular for all contexts. Chimpanzees could spontaneously construct the triad relationship of sand (with objects), experimenter, and themselves. Apparent “pretend play” could not be observed in the present study, but some of nearly “pretend play” were observed. These observational evidences allowed us to speculate that chimpanzees can symbolically manipulate sand.
著者
早川 美波 林 秀剛 岸元 良輔 伊藤 建夫 東城 幸治
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.245, 2013 (Released:2014-02-14)

ツキノワグマ Ursus thibetanusは,アジア広域に生息する中型のクマで,日本には,固有亜種,ニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicusが,本州と四国に生息している.中でも,本研究の対象地域である長野県は,日本アルプスを含む中部山岳域に囲まれていること,長野県におけるツキノワグマの推定生息数が約 3600頭 (長野県 2011年) であることからも重要な生息地の 1つであると考えられる.一方,長野県には独立した山塊がいくつかあり,盆地には都市が広がっているため,ツキノワグマの生息地が必ずしも連続しているとは言えず,また,山塊間の移動の程度や遺伝的多様性の評価などの研究が十分行われていないことから,一概にも安定した個体群が維持されているとは言えない.本研究では,2006年から 2012年に捕獲されたツキノワグマ約 200個体を用いて,mtDNA制御領域 626-bp及び,核 DNA MHC クラスター Ⅱベータ遺伝子 2領域 270-bpを解析し,長野県ツキノワグマ個体群における遺伝的構造の究明を行った.  mtDNA制御領域の解析では,12のハプロタイプを検出した.ハプロタイプの地理的分布から,長野県の北部と南部では解析した個体から検出されるハプロタイプが異なったため,長野県の北部と中南部間での遺伝子流動,すなわちツキノワグマの移動分散が起きていない,あるいは非常にまれであることが示唆された.

1 0 0 0 OA 巻頭言

著者
山極 壽一
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-2, 2007 (Released:2009-01-01)
著者
山田 一憲
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第30回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2014 (Released:2014-08-28)

ニホンザルはマカクの中でも厳格な優劣関係をもつ専制的な種であるとされている。とりわけ餌付け集団は、給餌によって個体間の争いが頻繁に生じるため、より厳格な優劣関係をもたらすと考えられている。淡路島ニホンザル集団(兵庫県洲本市)は、1967年より淡路島モンキーセンターによる管理と運営が継続されている餌付け集団である。淡路島集団は、他集団との比較研究から、個体間の凝集性が高く攻撃性が低いという、寛容な行動傾向を示すことが明らかになっている。発表者は、2000年より勝山ニホンザル餌付け集団(岡山県真庭市)を対象とした調査を行っており、2009年からは淡路島集団においても調査を開始した。本報告では、勝山集団の観察経験と比較すると「稀な行動」に思われる淡路島集団での観察事例を報告する。定量的な検討を行うには観察事例が足りないが、淡路島集団の特異性を示唆する事例に注目することで、淡路島集団の寛容性を理解する手がかりとし、ニホンザルの行動の多様性を議論することをめざす。
著者
湊 秋作 饗場 葉留果 岩渕 真奈美 湊 ちせ 小山 泰弘 若林 千賀子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.118, 2013 (Released:2014-02-14)

ヤマネ科は,ヨーロッパ・ロシア・アフリカ,中央アジア,サウジアラビア,イラン・中国・日本等に分布する.ニホンヤマネ(Glirulus japonicus)は,本州・四国・隠岐の島(島後)・九州に生息し,樹上性で冬眠する天然記念物の哺乳類である.私たちは,1988年から巣箱を用いてニホンヤマネの自然史を調べてきたが,巣箱を用いない自然巣の調査結果を得たので報告する.ヤマネの自然巣調査は,目視観察と一部,発信器調査を用いて,1993年から 2012年まで行った.ニホンヤマネの調査地は主に山梨県北杜市で,ヨーロッパ産ヤマネの調査地は,ハンガリー(バーツ市)等である. ニホンヤマネの樹上の自然巣を営巣する樹はヤマツツジであった.営巣する部位はヤマツツジの枝がてんぐす病となり小枝が束状になっている所であった.巣のサイズは,11.0cm × 9.5cm ×9.5cm 程であった.巣材は,樹皮と蘚苔類から構成されていた.樹皮は,サワフタギ,ズミ,ヤマブドウなどの繊維性の材料を使用していた. 巣の構造は,多くの巣において,外側は蘚苔類で覆われ,内部の材料は樹皮で何層にも頑丈に編み込んでいた.巣はてんぐす病の小枝の間の狭い空間にすっぽり入れ込むように造られていた.樹皮をてんぐす病の小枝に巻き付けることもあった.ヤマツツジの枝に接する自然巣の土台には,幅の広い樹皮を用い枝の隙間を埋めるように配置することもあった.てんぐす病の緑の葉と自然巣を覆う蘚苔類の緑色は,カモフラージュの効果を呈していたが,巣の上にヤマネの糞が置かれていることもあった.巣の地上高は,0.65m~2.2mであり,繁殖場所として使用していた. たまに,地中に営巣することもあった.ヨーロッパ産のオオヤマネの巣材は青葉や枯葉であり,ヨーロッパヤマネは,草・葉・樹皮で,ニホンヤマネの巣材とは異なっていた.
著者
江木 直子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.153, 2013 (Released:2014-02-14)

距骨の cotylar fossaは,距骨体の内側面から距骨頸にかけて形成される窪みで,アフリカ獣類などの哺乳類で知られている.この形質には収斂が認められているが,樹上歩行,地上歩行,跳躍,掘削など様々な運動行動モードを持った動物に現れるため,機能的な観点からは注目されてこなかった. cotylar fossaには脛骨遠位部の内側踝が接し,踝側の凸面が距骨側の凹面にはまって,球関節になる.cotylar fossaを持たない食肉類,齧歯類,偶蹄類などの脛骨-距骨関節は,距骨体内側面が垂直に内側踝正中面と接し,内側踝は脛骨が距骨に対して正中側にずれるのを防ぐ構造をしている.これに対し,内側踝-cotylar fossaが球関節になっている場合は,脛骨-距骨関節の滑車運動を正中側から補強している可能性がある.また,cotylar fossaがあると,脛骨から距骨への荷重伝達は,滑車関節面だけでなく,cotylar fossaの関節面である距骨体の内側壁や距骨頸でも起きると考えられる.深い cotylar fossaを持つ現生アフリカ獣類は,相対的に太い腓骨を持ち,腓骨で支えている体重の分の荷重が腓骨遠位(外側踝)から距骨体外側面へと伝達され,これを内側の cotylar fossaで受ける荷重で釣り合わせている可能性も考えられる. 深い cotylar fossaは現生哺乳類ではアフリカ獣類でのみ見られるが,化石系統群では “顆節目 ”のHyopsodontidae Apheliscinaeや南米有蹄類,肉歯目に知られている.Apheliscinaeや南蹄目,雷獣目はこの形質をもとにアフリカ獣類との近縁仮説が唱えられており,他の系統群についても同様の足根関節構造と関連する形質であるかを検討することにより,アフリカ獣類との共有派生形質であるかの評価の手段になると考えられる.
著者
山田 文雄 大井 徹 竹ノ下 祐二 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が開始されつつあるが,野生動物の管理については人間活動の制限もあり不十分な点が多い.今回の集会では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルや大型狩猟動物を対象に,研究成果や社会的問題を紹介し,今後のあり方を議論する.今後,行政機関にどのような働きかけが必要か,要望書の提出も見据えながら議論を行う.本集会は,2012年5月に開催した4学会合同シンポジウムを受けて,日本哺乳類学会保護管理専門委員会と日本霊長類学会保全・福祉委員会の共同開催とした.1.「福井県におけるニホンザルの生息状況と餌食物の歩車占領の実態、及び今後の保護管理の問題点」  大槻晃太(福島ニホンザルの会) サルの主要な餌を分析し,放射能汚染による餌への影響や放射能汚染に伴う耕作状況の変化によるサルの行動変化を明らかにした.人間活動の再開に向けたニホンザルの保護管理の問題点などについても話題提供したい.2.「福島市の野生ニホンザルにおける放射性セシウムの被ばく状況と健康影響」  羽山伸一(日本獣医生命科学大学) 世界で初めて原発事故により野生霊長類が被ばくしたことから,演者らの研究チームは,福島市に生息するニホンザルを対象に低線量長期被ばくによる健康影響に関する研究を 2011年 4月から開始した.サルの筋肉中セシウム濃度の経時的推移と濃度に依存した健康影響に関する知見の一部を報告する.3.「大型狩猟動物管理の現状と人間活動への影響  仲谷 淳(中央農業総合研セ)・堀野眞一(森林総研東北) イノシシやシカなどの大型狩猟獣で食品基準値を超える放射性セシウムが検出され,福島県を中心に獣肉の出荷規制が継続されている.狩猟登録者数が減少し捕獲数にも影響する一方,農業等の被害増加が懸念されている.最新の放射性セシウム動向と,震災地域における狩猟者の意識変化について紹介し,今後の大型狩猟獣対策の方向を考える.4.「福島件における野生動物の被爆問題と被害管理の現状と課題」  今野文治(新ふくしま農業協同組合) 東日本震災から 2年が経過したが,山林等の除染は困難を極めており,年間の積算線量が 100mSv/hを越える地域も存在する.多くの野生動物への放射能の影響が懸念されており,基礎的なデータの収集と保全に向けた対応が急務である.一方,避難指示区域の再編が進められており,帰宅が進むにつれて被害管理が必要となっている.新たな問題が発生する地域での野生動物と人間の共生に向けた情報の共有と整理が重要となっている.5.総合討論「今後の対応と研究について」  山田文雄・大井 徹(森林総合研究所),竹ノ下祐二(中部学院大学),河村正二(東京大学)企画責任者 山田文雄(森林総合研究所)・大井 徹(森林総合研究所・東京大学大学院農学生命科学研究科)・仲谷 淳(中央農業総合研究センター)・竹ノ下祐二(中部学院大学)・河村正二(東京大学)
著者
中山 一大 石田 貴文
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第21回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.49, 2005 (Released:2005-06-07)

霊長類における精液凝集の程度は系統間で異なり、チンパンジーのような複雄複雌群の種ではより強固な凝集が観察されることから、繁殖構造の多様化と関連して進化してきた形質であることが示唆されている。セミノジェリン1タンパク質(SMG1)は、精液中に多量に存在し、トランスグルタミナーゼの標的部位を有する60アミノ酸のリピートを含む独特の構造を持っている。SMG1は凝集構造物の主成分であり、また60アミノ酸のリピート数が霊長類各種における凝集の程度と相関を示すことから、精液凝集の多様性の原因と考えられているが、実験的な証明は成されていなかった。本研究では、霊長類各種におけるSMG1の生化学的性質と精液凝集との関連性を明らかにするために、セルフリー翻訳系を用いてヒトならびにチンパンジーのSMG1を合成する実験系を確立した。SMG1のC末端に、Lumio Green蛍光色素と結合し、合成タンパク質の特異的な検出を可能にするタグ配列を付加した鋳型DNAを用いて、in vitroタンパク合成反応を行い、合成反応後の反応液をSDS-PAGE法で解析した。その結果、ヒトでは約50kD、チンパンジーでは90kDのタンパク質の合成が確認された。また、FactorXIIIaを用いたタンパク質架橋実験の結果、これらの合成タンパク質はトランスグルタミナーゼが触媒する共有結合で架橋されることが確認された。さらに、これらの合成タンパク質は非変性・非還元状態では非共有結合的に凝集することも示された。これらの結果は、ヒトならびにチンパンジーSMG1のin vitro合成が成功した事を示すものである。今回確立した系は、霊長類に限らず他の種をも対象にした比較生化学・生殖学的解析に利用可能である。
著者
辻 大和 伊藤 健彦
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第30回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.37, 2014 (Released:2014-08-28)

霊長類の寒冷地への適応は、古くから多くの研究者の関心を集めてきた。しかしこれまでの研究の多くは、環境適応を行動特性の面だけから評価することが多く、それを生息地内部の食物量や物理的要因と関連付ける視点が欠けていた。本研究は、ニホンザル(Macaca fuscata)の寒冷地への適応メカニズムの解明を目指し、彼らの食性の空間パターンを説明する、生息地の生態学的特性の関係を明らかにすることを目的とした。文献データベースを用いて先行研究の文献を収集し、日本全国の13箇所から19群のニホンザルの食性データ(採食時間割合)を抽出した。同時に各調査地の緯度・経度・標高(地理的要因)および平均気温・年間降水量・年間降雪量・植生指数(NDVI)などの環境要因を収集した。GLMMによる解析の結果、地理的要因に関しては、ニホンザルは高緯度・高標高の調査地で葉や樹皮・冬芽の採食割合が高かった。また、高緯度の調査地で食物の多様性が高かった。このような空間パターンは、主に環境要因によって説明できた。すなわち、ニホンザルは平均気温が低く、降雪量が多く、年間降雪期間が長い調査地で樹皮・冬芽の採食割合が高く、果実の採食割合が低かった。NDVIが低い調査地でも果実の採食割合が低かった。そして気温が低い調査地、年間降雪期間が短い調査地で食物の多様性が高かった。本研究により、ニホンザルの生態適応は、生息地の食物環境に応じた採食行動の柔軟な変化によって達成されたことが示唆された。とくに、降雪の影響が強かったことから、ニホンザルの採食戦略を決定するうえで、冬の厳しさが重要な役割を果たしていると考えられた。
著者
毛利 恵子 清水 慶子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第30回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2014 (Released:2014-08-28)

今日、尿を用いたホルモン測定法は、霊長類をはじめさまざまな動物で非侵襲的な内分泌動態モニタリング方法として使われている。しかし、飼育下での尿サンプルの採取・保存と違って野生群や放飼群においてのサンプル採取・保存は、①地面にしみこみ吸い取れないなどの採取方法での困難さ、②冷凍・冷蔵設備がないなどの保存における困難さ、また、③測定設備がある施設まで長距離輸送を強いられるなどのさまざまな問題があり、応用が難しい。そこで、それらの問題を解決するため、飼育下チンパンジーやマカクの尿を用いて測定法の開発をおこなった。尿を浸したろ紙からホルモン測定用サンプルを抽出し、これらに含まれる尿中の性ホルモンであるエストロゲン代謝物(Estrone conjugate, E1C)およびプロゲステロン代謝物(Progesterone glucuronide, PdG)量が測定可能かどうか調べた。その結果、E1C、PdGともに測定可能であった。また、これらの測定値はクレアチニンによる補正の結果、採取後冷凍保存した尿サンプルのホルモン測定値と比較して差は見られなかった。さらに、この尿を浸したろ紙を長期間保存したのち同様にホルモン測定をおこなった結果、常温での保存が可能であることが分かった。これらのことから、本方法を用いることにより、冷凍・冷蔵設備のない場所においても、採取した尿を用いた性ホルモン測定が可能となった。本法は霊長類のみならず他の動物にも応用可能であり、野生群の内分泌動態モニタリングに寄与できると考えられる。
著者
井上 英治 BASABOSE Augustin K. KAMUNGU Sebulimbwa MURHABALE Bertin AKOMO-OKOUE Etienne-Francois 山極 寿一
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第30回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.41-42, 2014 (Released:2014-08-28)

集団内の個体数を把握することは保全や生態を考える上で重要であるが、十分に人慣れしていない集団では、個体数の把握が難しいことがある。とくに、チンパンジーは離合集散をするため、個体識別なしに群れ全体の個体数を把握するのは困難である。本研究では、長期にわたり生態学的な調査がなされているが、十分には人付けされていないカフジビエガ国立公園のチンパンジー集団を対象に、ネストサイトで糞試料を採取し、DNA再捕獲法に基づき、個体数の推定を行なった。糞からDNAを抽出後、マイクロサテライト7領域を解析し、個体識別を行なった。合計で54のネストサイトから糞を採取し、計152試料で遺伝子型を決定できた。今回使用した7領域の多様性を調べたところ、個体識別には十分であることがわかった。全部で32個体分の試料が含まれており、そのうち24個体については2サイト以上から糞を採取できた。同一個体からの糞の再捕数からCapwireというソフトを用いて、個体の試料採取率が一定ではない2タイプの個体が含まれるというモデルのもと、最尤法で推定したところ、個体数は35個体(95%信頼区間 32-40)であった。この推定値から、集団の約9割の個体の遺伝子型が決定できたと考えられる。この推定値は、識別された個体数の累積曲線から見ても、妥当な値だと考えられた。チンパンジーのように離合集散するため個体ごとにDNA試料を採取できる確率が一定でないと考えられる状況でも、十分な試料数とそれを考慮したモデルを適用することで、適切な個体数推定を行なえたと考えられる。糞などの非侵襲的試料を用いたDNA再捕獲法による個体数推定法は、野生霊長類においても有益な方法であり、今後も保全や生態調査など様々な場面で適用されるであろう。
著者
勝 野吏子 鈴村 崇文 山田 一憲 中道 正之
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.163-172, 2014 (Released:2014-08-02)
参考文献数
21
被引用文献数
4

Here, we have reported two cases of diurnal stillbirths in free-ranging groups of Japanese macaques (Macaca fuscata), Arashiyama and Koshima groups. One infant was born prematurely and in breech position, while the other seemed to be a full-term infant born in front position. The two mothers had little interaction with other members of the group throughout parturition. The group members, except for juveniles, also showed little interest in the mothers. The mother of the infant born in the breech position licked the body of the infant, as in the case of live births. Moreover, both mothers carried the infants ventrally. However, the two mothers also showed behaviors that were different from those usually observed after a live birth. The mother of the infant born in breech position tore parts of the infant's skin and ate them. The other mother dragged the infant by grabbing the umbilical cord. Previous studies have reported that mothers carry infants that died after birth, but it was unclear whether interactions with live infants were required for such maternal behavior. Our observations suggest that some maternal behaviors can be observed even when the infants die before parturition. At the same time, the cases reported by us show the possibility that infants born dead may influence the expression of certain unusual behaviors.
著者
友澤 森彦 坂本 信介 佐藤 淳 山田 文雄 小泉 透
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.89, 2013 (Released:2014-02-14)

福島第一原発事故によって放出された放射性物質の野生動物への影響は住民および国際社会の大きな関心事であるが,その遺伝的な影響や生理状態に及ぼす影響,またそれらのモニタリングの手法などについての情報は少ない.放射線被曝によって遺伝的な影響が生じる経路の一つとして細胞内の他の物質に放射線があたって生じた活性酸素が二次的に DNAを酸化することによる間接的経路がある.そこで本研究では環境中の放射性物質が野生動物集団に与える遺伝的影響を捉えるために,尿中の 8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)の濃度を計る事で DNAの酸化ダメージを計る事を試みた.8-OHdGは酸化ダメージを受けた核酸が修復される際に生じる代謝産物で,放射線被曝によって増加する事が示唆されている.2011年より福島県飯舘村,川内村および茨城県の北茨城市の 3地点でアカネズミを捕獲し,尿中 8-OHdGの濃度を比較した.その結果,幾つかの採集地点間で有意な差が見られたものの,空間線量率に応じた尿中 8-OHdG濃度の増加は見られなかった.一方臼歯摩耗度から推定される個体の齢段階に応じて尿中 8-OHdG濃度は高い傾向を示した.また個体ごとの筋肉中の放射性セシウム濃度と尿中 8-OHdG濃度は同一地点で捕獲された個体の間で大きくばらついており,両者の間には相関関係は見られなかった.以上の結果から,採集地点におけるアカネズミの尿中 8-OHdG濃度に対する放射線被曝の影響は加齢などのその他の要因による影響よりも小さい事が示唆された.また実際の DNAの多型についてもミトコンドリアおよびマイクロサテライトを指標に現在解析中である.
著者
鵜殿 俊史 寺本 研 早坂 郁夫
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.243-250, 1999 (Released:2009-09-07)
参考文献数
15
被引用文献数
4 6 2

The Kumamoto Primates Park, Sanwa Kagaku Kenkyusho CO., Ltd. had successfully bred chimpanzee from 1982 to 1999. The breeding statistics of 100 pregnancies, observed for the 17 years, were reviewed. The breeding females were 24 wild born and 3 captive born. Neonatal diagnoses were performed on the next day of the birth. Of 100 pregnancies, diagnosed by urinary CG test and/or ultrasonography, 11 resulted in abortions, 5 in stillbirths, and 85 in live births (containing a monozygotic twins). The mean birth weight and gestational period of 84 live born infants was 1793g (n=74, 930-2400) and 229.4 days (n=84, 181-250). Seven of 11 abortions occurred in early stage of pregnancies (45-65 days). Infant mortality in the first year of life was 10.7%: 6 died from 7 to 16 days of age, 3 died after 50 days of age. Three of dead 6 neonates were low birth weight (under 1500g). There was no infant died under 7 days of age or over 1 year of age. Perinatal mortality was calculated at 0.12. 73.2% of deliveries occurred in the nighttime (n=82). Placentaphagia were observed in 65.7% cases of 73 parturitions. The seasonal difference was significant on frequency of conceptions (χ2=10.16, p<0.02), but not significant on frequency of births (χ2=7.62, p>0.05). Twenty-nine infants were nursery-reared primarily due to inadequate maternal care (48%) or low birthweight (28%). Only one infant died under nursery-reared condition. These data provide useful information to sustain captive chimpanzee populations.
著者
岩本 光雄
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.134-144, 1988 (Released:2009-09-07)
被引用文献数
4 2
著者
岩本 光雄
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.129-141, 1989 (Released:2009-09-07)
被引用文献数
1 1