著者
大西 賢治 山田 一憲 中道 正之
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 = Primate research (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.35-49, 2010-06-20
参考文献数
31
被引用文献数
1 3

We observed 4 cases of aggressive response of Japanese macaques (<i>Macaca fuscata</i>) toward a Japanese giant flying squirrel (<i>Petaurista leucogenys</i>) at the feeding site of the Katsuyama group.<br>When a Japanese giant flying squirrel glided over to a tree at the feeding site, almost all the adult and subadult monkeys resting around the tree mobbed the flying squirrel with threatening sounds. Immature monkeys aged &le; 2 years screamed, and the mothers retrieved their infants immediately on spotting the flying squirrel. Several peculiar high-rank adult males and females chased, threatened, and attacked the flying squirrel for 25-114 minutes, but mothers with infants seldom approached the flying squirrel. High-ranking adult males had a greater tendency to perform agonistic displays toward the flying squirrel than low-ranking adult males and females.<br>Our observation and previous reports about interspecific encounters suggest that Japanese macaques recognize the Japanese giant flying squirrel as being in the same category as raptors, which prey on Japanese macaques. This explains why the monkeys respond aggressively, which is typical of antipredator behavior, to the common behavioral features of the flying squirrel and raptor-gliding and descending nearby. However, this aggressive response does not seem to benefit monkeys in terms of avoiding predators because the flying squirrel is not actually a predator. There are 2 other possible benefits. Their sensitivity to behavioral features that resemble those of the raptors may improve their efficiency in terms of antipredator behavior towards actual predators such as raptors. In addition, adult or subadult male monkeys may display their fitness to potential mates by performing agonistic displays in response to the Japanese giant flying squirrel.<br>In order to better understand the relationship between Japanese macaques and other species, it is necessary to establish a system for collecting and sharing data on rarely observed cases.
著者
赤見 理恵 高野 智
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.33, pp.72, 2017

<p>日本語では「サルまね」,英語でも「Ape(動詞)」「Monkey see, monkey do.」などの言葉があるように,サルはヒトのまねをするというイメージがあるようだ。多くの霊長類は学習によりさまざまな行動を習得するが,模倣による学習の対象は主に同種他個体である。それではなぜ,ヒトのまねをするというイメージがあるのだろうか。調査1では日本モンキーセンター附属世界サル類動物園の来園者を対象に,霊長類に対して抱くイメージを入園前に調査した。調査に協力した192名の来園者のうち89%が,「サルはヒトのまねをするのがうまい」に〇か×で回答する設問に〇と回答した。調査2では大学生132名を対象に,個体追跡法により行動観察を学ぶプログラムを体験する前と後に自由連想法により霊長類に対するイメージを調査した。「ヒトのまねをする」に類似した回答は見られなかった。「ヒトに近い」に類似した回答は観察前も観察後も約20%で見られた。「賢い,頭がよい」に類似した回答は観察前27.7%に対して観察後6.9%と有意に減少した。一方で「仲間がいる,家族想いだ」に類似した回答が5.3%から37.4%に有意に増加した。「サルまね」のイメージは,ヒトに近く賢い霊長類のイメージから類推されるものだと考えられるが,一部ではテレビや動物園などのメディアが霊長類を擬人的に扱ってきた影響もあるのではないかと考える。しかし本調査により,野生とは異なる動物園の環境であっても,野生に近い群れで飼育し種内関係をつぶさに観察できるようにすることで,霊長類に対するイメージを変えることができる可能性が示唆された。霊長類に関する正しい知識やイメージを伝えていくために,今後も動物園だからできることを模索していきたい。</p>
著者
服部 志帆 小泉 都
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.36, pp.25, 2020

<p>日本の霊長類学の創始者のひとりである川村俊蔵博士(1927~2003年)は、伊谷純一郎博士とともに 1952年と1953年に屋久島で調査地開拓のために予備調査を行った。合計43日の間、合計36人(猟師26人)に聞き取り調査を行った。西部に位置する永田の猟師や屋久島全域に詳しい安房の猟師などを対象に、サル、シカ、狩猟法、狩猟域、利用法、伝承、地名など多岐にわたる情報を聞き取っている。これらの情報は野帳8冊と日記1冊に記載されており、5万6千字をこえる。 本発表では、猟師から得た情報のなかでも最も充実しているヤクシマザルに関するものを取り上げ、1950年代の屋久島において猟師がサルとどのような関わりを持っていたのか、またサルが猟師にとってどのように重要であったのかを明らかにすることを目的とする。 方法は、2013年から解読している川村博士の野帳の情報を分析することであり、川村博士が1950年代に聞き取りを行った猟師の子孫から補足情報を得た。 分析の結果、当時の猟師は個人差があるものの、群れのサイズ、行動域、食性、交尾行動、群れ内外の関係、ソリタリー、猿害などサルに関する広範な知識を持っていることが明らかとなった。また、永田の猟師はそれぞれの狩猟域で牢屋罠という箱型の罠を用いてサルの狩猟を行っていたことや、サルのことをアンちゃん、ヨモ、山の大将、旦那、モンキーさんなどと呼び、頭や胆を薬として利用するという民俗知識を持っていたことがわかった。このような豊かなサルとの関わりは、島外の研究所や動物園からの生きたままのサルに対する高い需要にも影響を受けていたと考えられる。</p>
著者
石田 彩佳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.179, 2013 (Released:2014-02-14)

近年ヒトへの警戒心が薄れることによって,人為的環境に接近するキツネが増加しており,畜産や農業被害あるいはエキノコックス症の感染リスク拡大が問題となっている.そのため北海道帯広市においては,キツネは有害鳥獣駆除の対象として年間約 150頭が駆除されている.キツネにとって家禽や農作物などは容易に手に入る餌資源であるため,しばしば利用することが知られている.しかしながら,キツネがどの程度の割合で農作物・家禽等を利用しているのかについて詳細に調べた事例は少なく,農地に出現するものの農作物ではなく専らネズミ類等の餌資源を利用していた場合,キツネの駆除施策そのものを見直す必要があるかもしれない.またエキノコックス症に関しては,キツネの糞中に排出される虫卵を経口摂取することでヒトへの感染が成立するため,排糞頻度の高い場所の環境要因を明らかにし,ヒトへ積極的に注意を促すことで,キツネの駆除個体数を減らしてもエキノコックス症感染リスクの低減が可能であるかもしれない. 本研究では日本を代表する農畜産業地域である十勝地方において,キツネの糞を用いて,その食性を明らかにする.さらにエキノコックス症感染リスク低減を目指して,キツネの糞が頻繁に排泄される地点の周囲環境要因を特定する.これらを把握することで現在のキツネの個体数管理方法の妥当性を検討し,農地におけるヒトとキツネとの共存を目指すための基礎情報を呈示することを目的とした.2012年の 5月から 10月にかけて 20ヵ所の調査区について月ごとに踏査を行い,合計 247個の糞を収集した.そのうち DNA分析によりキツネのものと認められたのは 141個であった.本発表では,これらのキツネの糞を用いた食性分析の結果および位置データによる排糞頻度の高い環境要因の特徴について考察する.
著者
櫻庭 陽子 友永 雅己 林 美里
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

京都大学霊長類研究所には14個体のチンパンジーが群れでくらしている。そのうち、レオというオトナの男性は、2006年に脊髄炎を発症し、四肢麻痺から寝たきりの生活になった。その後スタッフの懸命な治療と介護の結果、寝たきりの状態から自力で起き上がるまでに回復した。2009年には狭い治療用ケージから広い部屋に移動し、歩行やブラキエーションなどの移動ができるようになった。2009年11月から環境エンリッチメントとリハビリテーションを兼ねた、コンピュータ制御による認知課題を導入した。毎日午前(10~12時)と午後(14~16時)に自動的にPCが起動し、問題に正解すると少し離れたところから食物小片1個が提示される。この報酬をとるためにはモニターから離れて数m歩かなければならない。本発表では、蓄積された2010年と2011年のデータから、このチンパンジーの行動について、特に「正答率」「実施した試行数」「課題を開始するまでの時間」に注目して分析をおこなった。その結果、正答率は2010年では午前と午後の違いは見られなかったが、2011年には午後の方が有意に高かった。また2年間を通して、実施した試行数は午後の方が有意に多く、課題を開始するまでの時間は午前の方が有意に長かった。実施試行数と開始時間からは、午前の方が午後よりも課題に対するモチベーションが低いため、試行数が少なくなり課題が始まってもすぐにおこなおうとしないことが考えられる。それにもかかわらず、2010年では午前と午後で成績に差がなかったことから、モチベーションが成績そのものに大きな影響を与えないことも考えられる。リハビリテーションをおこなう上でモチベーションを維持することは重要である。今後は課題の難易度や食物報酬の質などの操作をおこなうとともに、行動観察をおこない、モチベーションの変動をもたらす要因について検討していく。
著者
加賀谷 祐太
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.168, 2013 (Released:2014-02-14)

トガリネズミ属(Sorex属)は,温帯・亜寒帯・寒帯の森林や草原に広く分布する小型哺乳類である.北海道には,専ら地表で活動を行うヒメトガリネズミ( S. gracillimus)およびバイカルトガリネズミ (S. caecutiens),地表および地中の双方で活動するオオアシトガリネズミ(S. unguiculatus),そして希少種トウキョウトガリネズミ(S. minutissimus)の 4種が生息している.腐植層の発達の程度は,トガリネズミ類の餌資源(地上徘徊性昆虫類およびミミズ類)の量に大きな影響を与えると考えられ,地表性のヒメトガリネズミ・バイカルトガリネズミ,および半地下性のオオアシトガリネズミの分布を決定づける重要な要因であると考えられる. そこで本研究では,土壌環境(腐植層の厚さ),節足動物資源量,ミミズ資源量の三つの要因に着目し,これらが地表性ヒメトガリネズミおよび半地下性オオアシトガリネズミの分布に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.北海道鹿追町大雪山国立公園内において,2012年の 6月~ 8月に 20か所の調査区を徐々に標高を違えて設定し,各調査区において,トガリネズミ 2種の個体数調査,土壌環境調査(O層および A層の厚さを計測),節足動物資源量調査,ミミズ資源量調査を実施した.今回の発表では,生態的ニッチが異なるヒメトガリネズミおよびオオアシトガリネズミが,これらの要因にどのような影響を受けているのかについて比較議論する.
著者
山元 得江 清野 紘典 岸本 康誉 西垣 正男 美馬 純一
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;ニホンザルの保護管理計画を策定・運用するにあたり,群れの生息状況は基礎的な情報として必要である.限られた予算のなかで費用対効果が高い群れ生息分布調査を実現するため,サル出没カレンダー調査(日誌形式アンケート調査)から,低コストで広域的に群れの生息分布を推定するプログラムを開発し,その実用性が検証されている(清野 他,2011).サル出没カレンダー調査は,既存の分布のみを把握するアンケート等と比較し,行動圏・個体数・加害レベル等が群れごとに推定できるため,群れ管理が必要とされるサルのモニタリングとしては得られる情報が多く,広域に群れが生息している地域では汎用性が高い方法と考えられる.<br>&nbsp;福井県は,特定計画の策定に向け,サルの生息状況をモニタリングするため嶺南地域においてサル出没カレンダー調査を実施した.嶺南地域の 2市 5町約 850名に 1ヶ月間一斉にサルの出没を記録してもらい 1825件のサル出没情報を収集した.サル出没情報のうち,群れ情報のみを群れ判別プログラムで分析した後,一部の群れで実施したテレメトリー調査の結果で補正し, 36群の行動圏を推定した.推定された各群れの情報から,群れごとの加害レベルと個体数を推定した.加害レベルを 10段階で評価したところ,大半の群れは 6~ 8レベルにおさまり,個体数は約 1200~ 1600頭と推定された.<br>&nbsp;福井県嶺南地域は,連続的な群れの生息分布が確認されている地域ではあったが,群れごとの行動圏と特性がはじめて体系的に明らかにされ,本法が管理計画に資する基礎情報の収集に適していることが示された.また,サル出没カレンダー調査から得られた情報を各地域スケールで GIS解析し,サルの出没や被害状況を可視化した.これらの情報は,被害対策を優先的・重点的に取り組む際の意思決定を支援する資料して活用されることが期待される.
著者
江見 美子 鵜殿 俊史 小林 久雄 早坂 郁夫
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.131, 2004 (Released:2005-06-30)

【目的】チンパンジーはヒト蟯虫(Enterobius vermicularis)の寄生により、下痢や嘔吐、食欲不振などを起こし、時に肝臓などへの迷入により死に至る場合がある。また蟯虫の雌は産卵時期になると、寄生部位である盲腸から肛門に移動し産卵を行う。この時の掻痒感のため、蟯虫寄生は肛門いじりや各種肛門疾患の原因になると考えられている。しかしチンパンジーにおける蟯虫駆除は 1) 糞便いじりによる再感染率が非常に高い、 2) 投与が容易で蟯虫に対し高い駆除効果が期待できる駆虫薬がない、など非常に難しく、チンパンジー飼育施設にとって長年解決できずにいる問題となっている。そこで、ブタの回虫・鞭虫駆虫薬として既に使用されているフェンベンダゾール (Fenbendazole) のチンパンジーにおける蟯虫駆虫効果について調べ、清浄化を図った。【方法】 (1) 駆虫効果判定の為、蟯虫寄生が確認されたチンパンジー8頭にフェンベンダゾール10mg/kgを2週間隔で2回投与し、排虫の確認と、1、2、4、8、12、16週後に検便を行った。 (2) 蟯虫清浄化を目的として、チンパンジー80頭にフェンベンダゾール10mg/kgを5~11回投与し、2~7カ月おきに検便を行った。【結果】 (1) 8頭とも多数の排虫が確認され、その後12週まで蟯虫は検出されなかった。 (2) 投与前は30.2%だった蟯虫の検便陽性率が、投与開始から9ヶ月後および12カ月後には0%となった。しかし、16カ月後の検便で1頭から蟯虫が検出された。【考察】これらの結果から、フェンベンダゾールはチンパンジーの蟯虫に対し高い駆虫効果を発揮することが確認された。しかし初回投与の16カ月後に1頭から蟯虫が検出されたことから清浄化には至らず、環境中の虫卵から再感染した、あるいは駆虫しきれずに腸管内に残っていたことが考えられた。今後は投与間隔の再検討が必要である。
著者
吉川 翠 小川 秀司 伊谷 原一
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.35, pp.59, 2019

<p>タンザニア西部ウガラ地域の乾燥疎開林地帯でチンパンジー(<i>Pan troglodytes</i>)を直接観察した事例をまとめた。疎開林地帯では疎開林が全面積の86%を占め,他に常緑林と草地が点在している。1995年から2012年に収集した観察事例を分析した結果,(1)パーティ(遊動集団)サイズの平均は3.9頭(SD=2.8,Range=1-14,n=53)で,乾季は平均4.4頭(SD=3.1,Range=1-14,n=37),雨季は平均2.6頭(SD=1.3,Range=1-6,n=16) だった。(2)パーティの構成は,オトナオス(以下オス)のみが11.3%,オトナメス(以下メス)のみが1.9%,オスとメスの混合パーティが66.0%だった。オスとメスの混合パーティの内,コドモかアカンボウが含まれるパーティは34.0%だった。(3)1-5頭で構成されるパーティが75.5%と最も多く,次いで6-10頭のパーティが20.8%だった。10頭以上のパーティは3.8%で,いずれも乾季に観察された。(4)チンパンジーと遭遇した際,彼らは樹上を60.4%,地上を39.6%利用していた。また,利用植生の62.3%が常緑林,37.7%が疎開林だった。(5)発見時の行動は,採食35.8%,休息30.2%,移動30.2%,その他(グルーミングなど)3.8%だった。(6)1回の観察継続時間は10分以内が50%以上を占めた。本地域は,他の地域に比べて平均パーティサイズや最大パーティサイズが小さかった。また5頭以下のパーティの割合は他の地域の2倍だった。疎開林地帯では雨季よりも乾季の方がわずかにパーティサイズは大きくなるが,相対的にパーティサイズを小さくすることで,限られた果実量の採食競合を回避していると考えられる。また,ライオンやヒョウなどの捕食者の存在が,チンパンジーのパーティサイズや警戒心の強さに影響していると考えられた。</p>
著者
饗場 葉留果 小林 修 湊 秋作 岩渕 真奈美 大竹 公一 岩本 和明 小田 信治 岡田 美穂 小林 春美 佐藤 良晴 高橋 正敏
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;日本,世界各地には道路や線路で分断されている森が非常に多く,野生動物の移動,繁殖,餌の確保等が困難になっている.そのため我々の研究グループは 1998年から森を分断する道路上に樹上動物が利用できるための橋を研究し,建築してきた.これまでに山梨県に 3ヶ所,栃木県に 1ヶ所,愛知県に 1ヶ所建設された.<br>&nbsp;1998年,山梨県の有料道路上に道路標識を兼ねたヤマネブリッジの建設を提案し,実現させた.建設後,ヤマネを初め,リス,ヒメネズミ,シジュウカラの利用が確認された.建設費用は約 2000万円であった.<br>&nbsp;しかし,2000万円という高額なものでは,この技術を「一般化」し,普及していくことが難しい.そこでより安く,簡易な設計にし,建設できる樹上動物が利用しやすい「アニマルパスウェイ」(以下,パスウェイ)の開発研究を 2004年から行った.2004年の材料研究,2005年には構造研究を実施し,森林を分断している私道上に実験基を建設し,モニタリングを実施したところ,2006年,リスとヤマネの利用を確認した.<br>&nbsp;2007年に北杜市の市道にパスウェイの建設をし,そのモニタリングの結果は 2008年のポスターにて発表した.その後,2010年には,北杜市に.号機が,2011年には栃木県,2013年 4月には愛知県でパスウェイの建設がされた.栃木県では,モモンガの利用が確認され,これで樹上性の小型哺乳類はほぼ利用するということが証左された.山梨県の.号機と.号機では継続的にモニタリングを実施しており,ヤマネの利用は,.号機と.号機では 2割程であり,ヒメネズミは,両機とも 8割程であり,ヒメネズミの利用頻度が高かった.また,パスウェイの利用部位に関しては,ヤマネでは床面とパイプ面を,ヒメネズミとテンでは床面を,多く利用することが確認された.今後,これらのデータを元に,より効果的なパスウェイの普及を行っていく.
著者
荒川 葉
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.36, pp.51, 2020

<p>スクールカーストはクラス内で起こる順位性だが,その決定要因ははっきりしていない。本研究では,ヒトの性格や所属の観点,文化的な観点,そして霊長類学、人類学の観点よりはっきりと定義付けられていないスクールカーストの現実を評価し,負の側面があれば、その解決策を考えることを目的に行った。国分寺高校生100名:(男子42名 女子58名)に自身の性格や所属に関するアンケートを,東京外国語大学( 以下外大) の留学生(14名: 出身国はそれぞれ異なる) には自国の学校生活やスクールカースト,いじめ問題に関するアンケートを実施した。加えて,大学の先生やいじめの経験のある国分寺高校の生徒,教員へのインタビュー調査および文献調査を行い、研究を進めた。高校生のアンケートでは、男子はスクールカーストがあったと答えた生徒の中で上位に所属していると思う生徒は、自分自身の性格を明るく皆を笑わせる、異性ともよく話すと分析している。それに対して女子は委員などクラスの中心的な役割を担っているにも関わらず、自分自身はスクールカーストの上位にいるとは評価していない。外大生のうち順位があると答えた人は、上位にいるのはお金持ちと答えた。個人で自分の意志に従って行動することが多いのでカースト的なものはなかったと日本との違いが見られた。なぜ順位付けが起こるのかをアイブル=アイベスフェルトは,高い地位を持つものは餌場や繁殖行動において優位に経つことが出来るために集団で生活する全ての霊長類に見られ、特にチンパンジーでは誇示行動によって順位を獲得し維持すると述べている。また、キャンプに行った折にメンバーの中で順位付けが起こる事例も上げている。順位は高校の事例でも集団をまとめるのに、必要な役割分担的なものでもあるが、それがいじめに発展する事例も友人や大学の先生などからも得た。人間の社会的本性も理解しながら、男女の違いも含めて順位というものをどう考えたらよいかを発表する。</p>
著者
榎本 知郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第25回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.49, 2009 (Released:2010-06-17)

霊長類の卵管は腹腔から子宮へ続く管系だが,機能も構成も異なる峡部と膨大部の二部分に分かれている。その構造の進化的意義について考察した。ヒトの性行動の研究から,1.女性は,排卵前の妊娠確率の高い数日間に夫とセックスしたあとで愛人ともセックスする傾向がある,2.愛人とのセックスの時オーガズムを経験する傾向がある,3.女性は,オーガズムの反応で夫の精子を子宮から掻き出し,愛人の精子を吸いこむ,4.女性は,一日のうち夫と離れている時間が長ければ長いほど浮気をする頻度が高くなる,5.夫は,一日のうち妻と離れている時間が長ければ長いほど,セックスした時多数の精子を射精する,と主張される。つまり,精子競争が認められるということである。また,受精のしくみは,1.吸引された精子は子宮の粘液の海を泳いで子宮の左右にある卵管峡部に到達する,2.卵管峡部の上皮細胞は精子をつなぎ止め,栄養を与えて生かし,授精能を与え,夫と愛人の精子がここで待機し,排卵すると精子はいっせいに放たれる,3.精子たちは広大な表面積をもつ卵管膨大部の粘膜を泳いでたったひとつしかない卵子を探し求める,4.卵子は透明帯と放線冠によってバリアーを構築しており,これを突破して授精するには多くの精子の共同作業が必要となる。これらのことから,以下のふたつの仮説が考えられよう。仮説1=ヒトの卵管膨大部と放線冠は,元気の良い精子を多数送り込めるオスを選ぶべく進化した。仮説2=ヒトの卵管峡部は精子競争をすすめるよう進化した。
著者
山本 真也 田中 正之
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第22回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.13, 2006 (Released:2007-02-14)

社会的な場面では、働き手と利益の受け手が必ずしも同一個体であるとは限らない。このような場面でヒトは互恵的に協力しあうことができるが、ヒト以外の動物種でこのような行動を実証的に調べた研究は少ない。本研究では、実験的に操作した社会的場面におけるチンパンジー2個体の利己行動・利他行動を調べた。群れで生活する飼育下のチンパンジー、母子3組とおとなのペア2組を対象とした。隣接する2つのブースに自動販売機を1台ずつ設置した。この自動販売機にコインを投入すると隣のブースにリンゴ片が出た。ブースに1組のチンパンジーを入れ、2つのブースにコインを1枚ずつ実験者が交互に供給した。間仕切りが開いていてブース間を行き来できる条件(母子のみ)と閉まっていて各ブースに1個体ずつ入っている条件でおこなった。間仕切りを開けた条件では、母子は利他的なコイン投入行動を交互に継続させず、最終的にコイン投入も報酬も子どもが独占した。その過程で、相手のいる側のブースでコインを投入し、素早く移動して報酬を獲得する行動や、相手にコインを渡して投入させ、自分が報酬を得るといった利己的な行動がみられた。間仕切りを閉じた条件でも、母子では利他的なコイン投入行動は交互に継続しなかった。子どもが先にコインを投入しなくなった。一方おとなのペアは、1個体統制場面に比べて投入までの潜時が伸びたり投入拒否がみられたりしたが、利他的なコイン投入行動を交互に継続させた。働き手と利益の受け手が異なる場面で、互恵的な協力関係が母子間では成立せず、おとな2個体間では成立した。自分が働いて相手が利益を得るという一時的に不公平な状況への寛容さが個体間関係や発達段階で異なることが示唆された。おとな2個体での結果は、チンパンジーもヒト同様、自分の行為が相手の利益になることを理解したうえで互恵的に協力しあう可能性を示している。
著者
辻 大和 プルノモ スゲン T ウィダヤティ カンティ A
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第35回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.36-37, 2019-07-01 (Released:2020-03-21)

コロブス類では、新生児の毛色が成長とともに変化することが知られている。たとえばアジア産のTrachypithecus属の場合、新生児の毛色は生後まもなくは鮮やかなオレンジ色だが、数カ月以内に親と同じ黒色に変わる。コロブス類の体色変化の適応的な意義については、同じ群れの他個体から保護を引き出すための信号であるという説や、捕食者の目をくらますのに役立つという説が出されているが、結論は出ていない。これまでの研究は新生児の体色と行動の関係を横断的に評価したものがほとんどであり、捕食者や他個体の反応が体色変化に伴って変化するのか、継続的に調べた研究は乏しかった。そこで本研究は、インドネシア・ジャワ島パガンダラン自然保護区のジャワルトン (T. auratus) の新生児(2群:N = 6)を対象に、2018年1月から3月に野外調査を実施した。各対象個体について、瞬間サンプリング法で1) 対象個体の行動、3) 周囲1m以内の近接個体数、3) 新生児に対する他個体の行動の3点を記録した。また、各観察日に対象個体の経路を撮影し、10段階にスコア付けした(0: 黄色→ 10: 黒色)。成長とともに各個体の体色スコアは増加した。体色スコア増加とともに母親に抱かれる割合が低下し、逆に移動・採食・遊びの割合が増加した。新生児に近づく個体数は、体色スコア増加とともに少なくなった。また、他個体からのグルーミング、接近、接触行動は体色スコア増加とともに低下した。以上の結果は、新生児の体色変化は同じ群れの他個体のケアを誘引する信号という仮説を支持するものである。ジャワルトンのオレンジ色の体色は、生後約3か月間維持される。この期間は捕食者からの攻撃や子殺しにより死亡リスクが高いと考えられ、この期間に他個体からサポートを受けることは、彼らの早期死亡率を下げることに役立つと考えられた。
著者
高田 優 前田 敦子 谷崎 美由記 柳川 久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;北海道十勝管内の芽室町にある湧水域(約0.78ha)には,大小複数の湧水池と湿性林が存在し,農耕地の中に取り残されたコウモリ類のオアシスのような場所である.この湧水域は高規格幹線道路「帯広広尾自動車道」の経路上に位置し,道路造成の際にはコウモリの採餌場所となる池やねぐらとなる樹林の一部が消失するため,いくつかの保全措置が講じられた.道路造成後,コウモリ類の移動経路確保のために設置された門型カルバートの壁面および湿性林内にbat box(コウモリ用巣箱)を設置しコウモリ類による利用の確認調査を行なった.2002年の調査ではヒナコウモリ,カグヤコウモリおよびモモジロコウモリの 3種のコウモリ類による bat boxの利用を確認し,また湿性林内の樹洞ではカグヤコウモリの繁殖集団が確認された.その 10年後の 2012年 5月の時点で,調査地には約 10個のbat boxが設置されたまま残っていた.それらの古いものと取り替えて,出入口の下部に設けた着地場所の長さが異なる 2種類(5cm,15cm)の bat boxを各々 20個ずつ,合計 40個を新たに設置した.新しい bat boxの利用確認調査では,キタクビワコウモリ,カグヤコウモリおよびモモジロコウモリの 3種による利用が確認された.装着していた標識の確認から,利用個体の中には 10年前の bat box利用個体や近隣の建造物を利用していた個体などが含まれていた.また 10年前に樹洞を利用していた個体を含んだカグヤコウモリの集団も bat box内で確認された.これらのことから bat box設置後の10年の間にこの湧水域にコウモリ類が定着し,bat boxを利用し続けたことが示唆される.また 10年前の調査では確認されなかった幼獣と成獣の混成集団による利用が,キタクビワコウモリにおいて確認されたため,本種が bat box内で出産および哺育を行なった可能性が示唆される.また着地場所の長さが異なる 2種類の bat boxの比較においては,その利用例数に有意差は見られなかった.
著者
上野 将敬 山田 一憲 中道 正之
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.41-42, 2015

集団で暮らす霊長類は、様々な相手と毛づくろいを行いあって利益を得る。近年の研究では、彼らが利益をより大きくするために2個体間で駆け引きを行っているのか、それとも、相手をかえながらより大きな利益を得られる相手を選んでいるのかが議論されている。本研究では、相手と親密であるか否かを考慮して、毛づくろいの催促が失敗し、相手から毛づくろいを受けられなかった時に、ニホンザルがどのように行動するのかを調べ、毛づくろい交渉における短期的な行動戦術を検討した。勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)における17頭の成体メスを対象に個体追跡観察を行った。普段の近接率をもとに、親密な相手と親密でない相手を区別した。
著者
中村 美知夫
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.35, pp.35, 2019

<p>チンパンジーのメス同士の挨拶交渉について,タンザニア,マハレのデータを元に概観する。一般に,野生チンパンジーのメス同士は没交渉的で「非社会的」とすら言われてきた。こうしたステレオタイプなイメージはこの10年ほどの間に変わりつつあるが,それでもメス同士の社会交渉についてはオス同士やオスメス間の交渉に比べて圧倒的に情報が少ない。チンパンジーの「挨拶」と呼ばれるものの典型例はパント・グラントという音声である。パント・グラントは,劣位者が優位者に発すると考えられており,実際,オス間ではパント・グラントを用いて線形的な優劣序列が決められることが多い。メス間でもパント・グラントはおこなわれるものの,その頻度が低いため,パント・グラントだけでオス間のような線形的な優劣序列が確認できることは稀である。マハレで1994年から2018年にかけて断続的に収集したメス同士の挨拶データを分析した。出会ったりすれ違ったりする際に,明示的な交渉(音声を発する,触れる等)が生じたものを広く「挨拶」と捉えた。これらの挨拶には,挨拶をする者とされる者の方向性が明確なものに加えて,双方向的なものも含まれる。3700時間あまりの観察で405回の挨拶が観察され,うち242回ではパント・グラント等の音声が発せられた。ざっと計算すると100時間あたり10.9回の挨拶,6.5回のパント・グラントということになる。実際にはメス同士が出会っても「何も挨拶しない」ことがほとんどなのである。挨拶が生じる場合は,大まかには年少のメスから年長のメスに向けられることが多かったが,中年以上のメス同士で一定の方向性があるかどうかは微妙である。チンパンジーの「挨拶」と「優劣」はしばしば同義のものとして扱われるが,メス間の挨拶データからその妥当性について検討する。</p>
著者
吉川 泰弘 長谷川 寿一 赤見 理恵 落合 知美 倉島 治 斎藤 成也 数藤 由美子 高見 一利
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.20, pp.vi, 2004

「大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)」は、その前身である「チンパンジー研究利用に関するフィージビリティースタディ(ナショナルバイオリソースプロジェクトの一環)」が培ってきた大型類人猿由来の研究リソース配分ネットワークとその理念を引き継ぎ、動物園などの飼育施設や研究者とのネットワークの拡大、大型類人猿死亡時のリソース分配をおこなってきた。本集会では、GAINがおこなってきた調査(研究リソースのニーズ調査、国内飼育下大型類人猿の飼育状況調査など)の結果や、リソース配分の具体例などについて報告したい。またGAINをとりまく様々な立場(資源の利用者側、飼育施設側など)からの話題提供も予定している。そのうえで、大型類人猿研究の現状と将来展望、資源配布を中心とする研究支援システムの問題点やこれからの展開について検討したい。
著者
高畑 由起夫
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.181-189, 1994
被引用文献数
3

In this article, I review and discuss the present problems of Japanese primatology by looking back at the trends of the 1980s. The main themes are (1) the significance of the research on great apes, (2) the theories concerning the social structure of primates, (3) cooperation among the field sites of the great apes, and (4) recruitment of &ldquo;good students&rdquo;.
著者
深谷 もえ
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.20, pp.86, 2004

従来、霊長類の混群に関する研究は、混群形成によって生じる利益を大きく分けて採食効率仮説、対捕食者仮説の2つの仮説によって説明しようとしてきた。その一方で、混群形成による利益ではなく、現象そのものを明らかにする必要性が提唱されている。ウガンダ共和国のカリンズ森林には6種の昼行性霊長類が生息している。なかでもブルーモンキー (<i>Cercopithecus mitis</i>) とレッドテイルモンキー (<i>C. ascanius</i>) の2種は、他地域において頻繁に混群を形成していることが知られている。そこで、2種の群れがどのように移動し混群を形成しているのか、そのプロセスを明らかにすることを目的として以下の研究を行った。2003年8月~10月、カリンズ森林内の同一地域を利用しているブルーモンキーのS群とレッドテイルモンキーのR群に属するオトナメス個体を対象に、終日個体追跡をした。その際、同日における2種の移動ルートを明らかにするために、2人の観察者によって同時にそれぞれの種を追跡した。2種の地図上の位置は観察者が携帯しているGPSによって、1分間隔に記録した。また、2種が森林内の林道を横断する際には、1分ごとに横断した種とその個体数を記録した。林道を横断する際、ブルーモンキーが先に横断を始め、その後をレッドテイルモンキーが横断することが多かった。また、終日個体追跡の結果、2種が混群を形成している際には、ブルーモンキーがレッドテイルモンキーよりも進行方向に対して前を移動していた。林道のような特別な状況だけではなく、森林内においてもブルーモンキーの後をレッドテイルモンキーが移動していた。これらの結果から、2種間には先導と追従の関係があると考えられた。また、ブルーモンキーの後をレッドテイルモンキーが移動していることから、レッドテイルモンキーが積極的に混群を形成していると考えられた。