著者
兼子 峰明 友永 雅己
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第24回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.98, 2008 (Released:2010-06-17)

霊長類の知覚や認識を調べる実験では、刺激呈示装置としてコンピューターディスプレイがしばしば用いられてきた。その入力装置としては、ボタン、ジョイスティックやタッチパネルスクリーンなどが利用されてきた。本研究では比較認知研究のための新たな入力装置としてトラックボールを導入し、チンパンジーにその操作法を訓練した。2頭のチンパンジーを対象として、トラックボールを用いて画面上のカーソルを定められた目標に定位する課題を行った。カーソルが目標から遠い位置にある時は素早く動かして、近づいたら頻繁に方向転換をする、つまり微調整を行うようになった。人がマウスを扱う上でも見られるようなこのような特徴は、チンパンジーがトラックボール操作に十分習熟したことを示す。この装置では課題遂行中のカーソルの運動が連続的に記録される。したがって、反応を点ではなく線でとらえることができる。見本合わせのような課題では、最終的な選択にいたるまでの認知プロセスに迫ることができるだろう。また、運動とその視覚的フィードバックの随伴性を簡単に操作することができることから、運動学習を調べる上で便利なツールともなるだろう。このように本装置の導入は、比較認知研究の新たな可能性を提供するものと考える。
著者
布施 未恵子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

マハレに生息する野生チンパンジー(<i>Pan troglodytes schweinfurthii</i>)は,2歳になると授乳とともに堅いものを食べ始めることが明らかになっている.道具使用など特別な技術を伴う採食行動も,2歳ごろからみられるようになることが明らかになっている.ただし,モッピングという方法でオオアリを食べる行動はそれよりも若い年齢で観察されている.道具を使用せずに昆虫類を捕食する行動に,枯れ枝に営巣するアリ類の捕食行動があるが,このアリは枯れ枝を割らない限り食べることができない.また,枯れ枝にアリが営巣しているかどうかを瞬時に外見から判断するのが難しいため,どのような枯れ枝をアリが巣として利用しているか,といった枯れ枝に営巣するアリの生態を知ったうえでないと得ることができない食物である.アリの巣に直接アクセスすると幼虫や蛹などを効率よく得ることができるため,アダルトオスに比べて若いオスの方がこのアリ類の採食行動が頻繁であることが明らかにされている.よって,成長とともに採食品目を増やしていく子どもにとっても枯れ枝に営巣するアリは重要な食物であることが予想される.そこで,体のサイズや力に見合った枯れ枝選択能力や,アリが営巣した枯れ枝を見分ける能力といった,いくつかの要因が関係した採食行動におけるスキルがどのように発達していくのかを検討するため,枯れ枝営巣性アリ類の採食行動を性年齢クラス間で比較した.調査期間は2006年6月~8月,2006年10月~2007年4月の10ヶ月間で,マハレに生息するMグループを調査対象とし,総観察時間は554.6時間であった.今回は,枯れ枝営巣性アリ類の採食行動が開始される年齢と,1)枯れ枝の太さや種類の選択,2)枯れ枝営巣性アリの獲得率を性年齢クラスで比較した.これらの結果と,オオアリ釣り行動の発達に関する先行研究結果との比較から,マハレに生息するMグループのアリ類捕食行動全般の発達について考察する.
著者
田中 正之 伊藤 二三夫 佐々木 智子 長尾 充徳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.30, pp.73-73, 2014

現在,日本国内で飼育されているゴリラの人口は,わずか25人である。過去50年以上にわたる飼育の歴史の中で,日本では死産を含めてもわずか14人しか子どもが生まれていないことからも明らかなように,繁殖の失敗が主な原因である。しかし,最近5年間で見ると,5人の赤ん坊が生まれており,改善傾向にある。京都市動物園ではこれまでに,独自に物理的および社会的面からゴリラの飼育環境の改善に取り組んできた。屋外運動場ではゴリラが食べても遊んでも,つぶしてもよいような条件下で多種・多数の植物を植え,生育させてきた。2008年に京都大学との間で野生動物保全に関する連携協定を結んでからは,ゴリラの健康管理の取り組みとして,心音を記録・分析するなどしてきた。<br>ニシゴリラについてより深く理解するために,2010年には京都大学の山極寿一教授の協力を得て,飼育担当者がガボン共和国の国立公園を訪ね,野生ニシローランドゴリラの生態とその生息地の植生を観察する機会を得た。そこで見た野生のゴリラは,日中の多くの時間を樹上で過ごしており,これまでの動物園におけるゴリラ展示方法との違いを痛感した。京都市動物園では新しいゴリラの飼育施設「ゴリラのおうち~樹林のすみか~」を造るにあたり,屋外・屋内に樹上空間を模した複雑な3次元構築物を設けた。来園者は,野生のゴリラのように頭上の空間を移動するゴリラを見ることができる。さらに,屋内には比較認知科学研究のためのタッチモニターを設置した勉強部屋も用意された。来園者はチンパンジー同様にゴリラの知性の展示を見ることもできる。新しい施設は本年4月27日にオープンする。発表では,新施設におけるゴリラの環境利用状況も報告する。
著者
岡本 暁子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第21回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2005 (Released:2005-06-07)

優位オスが劣位オスと妊娠可能性の高いメスの近接を発見すると、その優位オスはそのペアに対し攻撃を加えることが、さまざまな種で報告されている。このような攻撃は協力的な個体間関係に影響するパニッシュメントと考えることができる。では、優位オスは劣位オスとメスのどちらを攻撃すべきであろうか。交尾を妨害するためだけなら、オスを攻撃してもメスを攻撃してもよいように思われる。本研究では、この状況を優位オス、劣位オス、メスの3者のゲームとして解析した。それぞれのプレイヤーの立場でどのような戦略がどのような条件のときに進化的に安定な戦略(ESS)になりうるのかを解析的に検討した。そしてその条件のときにそれらの戦略が実際に進化しうるのかをコンピュータ・シミュレーションで検討した。その結果、優位オスが劣位オスとメスの交尾の妨害をする場合、オスを攻撃するコストがメスを攻撃するコストより高くても、オス攻撃が進化する可能性があることが明らかになった。またオス攻撃が進化する上での一つの大きな鍵が、メスの従順ではない戦略にあることが示唆された。
著者
北村 光二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.109-120, 2008-12-20 (Released:2009-08-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

This paper aims to consider why the sphere of social phenomena is significant in the study of primates, including humans, and what aspects of the phenomena we should focus on in order to understand its significance. Although the process of making relations with others may easily become undecided, it may not be retained. We humans cope with such undecidability by paying attention to the motivation of activity easily shared by participants, or adequate readiness for regulating each other's interaction. This does not mean that the social sphere is independent of other spheres, but these characters are common to the activities of making relations with the natural environment for surviving. The social sphere should be placed in the larger range of phenomena produced by the activities of making relations with the outer world in general. An individual animal tries to decide his act of making relation with an object depending on the meaning of the object, while he tries to identify the meaning depending on his act of making relation with the object. Here, the undecidable circle is formed. The same situation is found in the case of making relations with others. That is to say, one tries to decide his act to the other depending on the other's act while the latter decides his act depending on the former's act, so that the undecidable circle is also formed here. The undecidability in the process of making relations with objects is usually perfectly hidden. However, the other's selection in the process of making relation with the object is always apparent in the social sphere. The other not only makes the undecidability apparent by making a different selection from my own, but also teaches a new way of coping with it by sharing the motivation with him or regulating the process of interaction with him.
著者
飯島 淳彦 岩田 裕 畠野 雄也 藤澤 信義 長谷川 功
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

目的<br>ニホンザルにおいて2要素の組み合わせからなる複合図形と物体との関係を学習させ,それに基づいて複合図形の分解ができるかを調査した.また,物体のカテゴリー化を要素図形による複合図形の組み立てタスクによって回答できるかについても調査した.<br><br>方法<br>2頭のニホンザル(<i>Macaca fuscata</i>)に6組の複合図形と物体との関係を学習させた(Paired Association Training:PA).複合図形は物体とは無関係の6つの要素図形の中の2つで構成した.PAを十分に学習したのち,物体をcueとして呈示し,choiceで複合図形そのものではなく要素図形を4つ呈示し,正しい2つを選択させるテストを行った(Articulation Test:AT).更に,6組の複合図形-物体に対して,物体と同一カテゴリーの図形を順次加え,一組に7種類の図形を用いてカテゴリーを形成し,そのカテゴリーが汎化するかを,probe test としてtrial unique刺激を用いてATで検証した.<br>結果<br>PAを十分に学習した後のATのfirst trialは,2頭の平均正答率が62.3%で,16.7%のchance levelに比べて有意に正答を示した.また,trial unique刺激を用いてカテゴリーの汎化力を調べた結果,Probe trial(p =3.2*10^-15, binominal test),Prototype trial(p =1.6*10^-14)でともにchance levelの16.7%を有意に上回る成績だった.<br>考察・結論ニホンザルにおいて,基本セットの学習を行えば,それをもとに要素図形から複合図形を構成できることが分かった.これはcueとして与えられた物体画像を見ることが,対応する複合図形を見なくてもそれを想起させ,そのイメージを基に複合図形を構成したと考えられる.カテゴリーの汎化と合わせて,個々には意味を持たない図形要素の組み合わせから,意味のある図形を作り出す能力がニホンザルに存在すると考えられる.
著者
大橋 岳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第21回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.68, 2005 (Released:2005-06-07)

(目的)アフリカにおいてブッシュミートはいまだ珍重されており、チンパンジーの生息域にも多くの罠が設置されている。罠のターゲットとして想定されていなくても、実際にはそこを利用する動物たちに無差別にダメージを与える可能性がある。最近になり、チンパンジーにおいても約20%の個体が何らかの被害を受けている群れの存在や、罠の被害が死につながった例が報告されてきた。一方、29年におよぶ長期調査がおこなわれてきたギニアのボッソウでは、罠によって怪我をした個体の報告が1例(Matsuzawa, 1994)あるが、致命的な怪我を負ったチンパンジーの例はない。ヒトとチンパンジーの生活圏が極めて近く、現実に保護区に多数の罠が設置されているボッソウの状況を考えれば、チンパンジーがどのように被害を回避してきたのか疑問が残る。 (方法)チンパンジーを追跡しているさい、実際に罠の付近を通過することがある。そのとき、対象個体と同じパーティにいるチンパンジーがどのように振舞うのかを逐次記録した。調査期間は2002年から2004年までの延べ15ヶ月間である。 (結果)通過する近辺のものに対して、罠に触れて壊そうとする行動を6例観察した。そのうち2例は実際に罠を不活性化させることに成功した。このような行動はコドモからオトナまで、5個体のオス個体にみられた。まわりにいるにもかかわらずメスの積極的な行動は観察されなかった。 (考察)罠に対する積極的な行動をおこすことによって、事前に罠を不活性化できるだけでなく、罠を壊せなくても周辺個体の注意を喚起することもできるだろう。このことがボッソウでの罠の被害回避に貢献しているにちがいない。このような行動が複数個体、しかもコドモにおいてもみられることから、罠への振る舞いが世代を超えて定着していると考えられる。
著者
半谷 吾郎 BERNARD Henry
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.32, pp.37-37, 2016

<p>一斉開花結実があり、季節性の大きな低地フタバガキ林に覆われた、ボルネオ島、ダナムバレー森林保護区のレッドリーフモンキー(<i>Presbytis rubicunda</i>)1群の遊動パターンを、25か月にわたって調査した。他のコロブスの個体群に比べて、遊動域が小さく、一日の遊動距離が長く、食性の季節変化との関連が見られないことが、この個体群の遊動の特徴だった。全調査期間を通じた遊動域(95%カーネル)は、21.4haだった。月ごとの遊動域、およびコアエリア(50%カーネル)の大きさは、4つの食物カテゴリー(種子、新葉、<i>Spatholobus macropterus</i>の新葉、<i>Spatholobus macropterus</i>以外の新葉)の採食時間から、統計的に有意な影響を受けていなかった。種子をよく食べる季節に、遊動域をシフトさせる傾向も見られなかった。一日の遊動距離、および月ごとの1時間当たりの遊動距離は、いずれもその日・その月の食性から有意な影響を受けていなかった。一日の遊動距離は1160±340 m(平均±SD、レンジ: 550-2140 m)だった。この遊動パターンは、森林内に小さなパッチが高密度で存在するマメ科のつる、<i>Spatholobus macropterus</i>の新葉1種だけをフォールバック食物として利用する、この個体群の独特な採食戦略によって説明できる。遊動域が小さいのは、食物が総量として豊富にあるからである。一方、一日の遊動距離が長いのは、パッチの一つ一つが小さく、すぐに枯渇してしまうからであると考えられた。</p>
著者
中道 正之
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.297-303, 1999 (Released:2009-09-07)
参考文献数
6
著者
杉山 幸丸 栗田 博之 松井 猛 木本 智 江川順子 順子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第28回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.19, 2012 (Released:2013-11-01)

1960年代から1970年代前半にかけて餌付けされた野生ニホンザル(Macaca fuscata)で高頻度に奇形個体が誕生した。多いところでは新生児の40%を超えたという。高崎山でも5%に近づいた。初期には近親交配と人工餌、とくに特定国からの輸入大豆に付着した農薬がその原因として指摘されたが、特定できないままその発生頻度が減少して話題に上らなくなった。しかし減少してもゼロに帰したわけではない。最近5年間の高崎山は0.2%である。私たちは奇形発生が頂点に達した1970年代後半以降の高崎山個体群の資料を中心に、その発生頻度の変化を分析した。奇形児の発生は投与餌量と相関を示した。これは個体数増加の著しい時期とも一致する。しかし総個体数とも出産率とも相関していない。すなわち、高栄養条件で出産率が向上して奇形胎児が流死産せずに誕生したという説は必ずしも適切ではない。最終的な究明にまでは至らなかったが、投与餌が原因として残された。また、多発時にも指摘された遺伝的要因も家系集積の存在からその原因の一部として残された。奇形は雄に多く発生したが統計的な有意差には至らなかった。また多くの奇形が手足とも第4指に圧倒的に多く見られたが、その原因は不明だった。
著者
小田 亮
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.65-71, 1997 (Released:2009-09-07)
参考文献数
34

Most studies about mental abilities in nonhuman primates have been held in laboratory conditions. Considering the highy developed social organization of the primate species, however, it is necessary to study about their mental abilities in free-ranging conditions. Numerous studies have been made on natural vocal communication of nonhuman primates. Results of the studies tell mental abilities of nonhuman primates as well as functional significance of vocalizations in their lfe. This paper reviews some studies about nonhuman primate vocal communication and shows examples of mental abilities emerged in these studies, which is recognition of other individuals, perception of quantity, understanding of causal reasoning, categorization, and ability of deception.
著者
友永 雅己 酒井 基行 田中 由浩 佐野 明人
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第31回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.94, 2015-06-20 (Released:2016-02-02)

霊長類の比較認知研究においては、視覚を対象とした研究が圧倒的に多く、聴覚や嗅覚の研究は視覚に比べると少なく、さらに触覚に関する研究はきわめて少ないのが現状である。そこで今回は、触覚の中でも力触覚に関する研究をチンパンジーを対象に実施した。力(触)覚とは、触覚の中でも物体と接触したときの反力に対する感覚を指す。今回の実験では、モータを利用して力覚(摩擦力)を精密にフィードバックすることのできるトラックボールを開発し、これを用いて条件性弁別課題をチンパンジーに訓練した。課題はまずカーソルを画面上に提示し、トラックボールを用いてこれを一定距離動かすことが要求される。この時の力覚フィードバックの量(8N対0.5N)に応じて、その後画面の上下に提示されるキイのいずれかにカーソルを移動させると報酬を得ることができる。4個体のチンパンジーが実験に参加した。この課題は、これまでに経験していない力触覚の弁別であるということ、また、各刺激に対して異なる反応を要求する条件性弁別課題を導入せざるを得なかったこと、の2点から、きわめて難しい課題であり、すべてのチンパンジーで最終的な学習基準に至ることができなかった。しかしながら、各個体の課題遂行を詳細に分析したところ以下のことが明らかとなった。まず、8N条件と0.5N条件を数試行ずつのブロックとして提示したところ、ブロックが切り替わった試行での正答率が弁別が成立していないと仮定した場合に予測される正答率よりも有意に高いことが明らかとなった。また、摩擦の小さい条件から大きい条件に切り替わる場合の方が逆の場合よりも正答率が高いことが明らかになった。これらの結果から、チンパンジーにおいても力触覚を手がかりとした条件性弁別が成立する可能性が示唆された。
著者
西邨 顕達
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

ウーリーモンキーは近縁のムリキおよびクモザルと異なり、昆虫主体の動物食をかなりコンスタントに行うことが報告されてきた.これらの研究によって,ウーリーモンキーの動物採食時間割合がわかってきたが,それ以上の詳細は不明である.この研究では何種類かの動物について,捕食方法を述べる.本発表のデータはコロンビア国立マカレナ・ティニグア自然公園に生息するウーリーモンキー (Lagothrix lagotricha lugens) を対象に,1987-2002年,いわゆるアドリブ観察で得られた. 結果:以下の 3種類の動物の捕食について述べる.①カエル,トカゲおよび大型の昆虫 (バッタ,カマキリ等). これらは分類学的には門 / 綱のレベルで異なるが、いずれも体長は数 cmで,"肉の量"してはそう変わらない.これらの動物の捕食では,時間をかけてゆっくり食う,普段食べない成熟して堅い葉と交互に食う,オスよりメスの方がよく食う,ということが共通特徴であった.②グンタイアリ.この調査でウーリーモンキーが食ったものはすべて (Eciton burchelli) であった.1) 樹上に作られたビバークと呼ばれる一時的な"巣"に手を突っ込み,多数の個体を掴んで一挙に口に入れる,2) ビバークを出発して行進していく個体を指でつまんで口にもっていく,という 2種類の捕食方法が観察された.腕,胸,腹を噛むアリを払い落としながら捕食する.③シリアゲアリ (Cremaogaster sp.).5 mmほどの小~中型アリで,枯れ枝の中に棲む.ウーリーは枝をかじり,割ってアリを食う.21例のシリアゲアリ採食を記録したが、それらはすべて 2 ~ 3月(乾季の終わり)に,調査群の行動域 3km2 の中の 30m × 70m という小さな範囲内で見られた.ウーリーモンキーがグンタイアリおおびシリアゲアリを食うことがこの研究で初めて明らかになった.
著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.259-269, 2001 (Released:2009-09-07)
参考文献数
33
被引用文献数
1 5

We examined the 20-years records of female transfer of wild bonobos at Wamba, D. R. Congo. Most females left their natal group between 6 and 9 years old, and immigrated into new groups between 10 and 12 years. Females seemed to travel several groups before settling in a new group. After settling down, they start reproduction and will not transfer to other groups for the rest of their life. We examined average of coefficient of consanguinity of males with whom females may copulate in new groups. The probability of inbreeding drastically decreases when a female transfers groups, and it decreases according to the amount of intergroup travel. Differences in female transfer pattern between bonobos and chimpanzees seem to be due to the differences in the risks of traveling alone, such as predators, social relationships between females, and high social status of females. The balance between cost and benefit of intergroup transfer may determine philopatric social structure in chimpanzees and bonobos.
著者
若森 参 マライヴィジットノン スチンダ 濱田 穣
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第31回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2015-06-20 (Released:2016-02-02)

マカク属のサルでは尾長に変異性が高いことが知られている。種群内に見られるバリエーションは、それぞれの種の分布域緯度に相関し寒冷適応と考えられるほか、位置的行動と支持基体、あるいは社会的行動(専制的-平等的社会)などの要因が推測される。相対尾長が35~45%の同程度の中長尾を持つカニクイザル種群のアカゲザル(Macaca mulatta)、シシオザル種群のブタオザル(M. nemestrina/leonina)、トクマカク種群のアッサムモンキー(M. assamensis)の間で尾の比較を行った。我々は、尾長は尾椎数と最長尾椎長に依存し、ブタオザルとアッサムモンキーは、アカゲザルよりも短い尾椎を数多く持つことを明かにした。この違いが行動面でどのように見られるか、自由遊動群で尾の運動観察を行った。今回は、アッサムモンキーの観察結果について発表を行う。アッサムモンキーは、大陸部アジアの中緯度域の常緑広葉樹林に分布し、キタブタオザルとの共存域では、急傾斜山林や岩崖地に生息する、比較的、平等主義的社会を持つ。フォーカルアニマルサンプリング法で、尾の保持姿勢(脊柱に対して水平、垂直、背方屈曲、下方)と運動の位置的行動(座る、立つ、歩く、走る、寝そべる、跳躍、登る、降る)と社会的行動の組み合わせで記録した。また、ビデオによる尾の運動観察も行った。アッサムモンキーは、尾の最大拳上時の角度が垂直と背方屈曲の中間で、これは近位尾椎の形状から予想された。アカゲザルとキタブタオザルで見られた社会的上位の個体が尾を上げて優位性を示すという行動は、見られなかった。逆にアッサムモンキーの劣位の個体が餌場への接近などで上位個体に近接する等の社会的場面において尾を垂直に上げる様子が見られた。またアカゲザルとキタブタオザルではほとんど観察されない尾を左右に振る行動が見られた。これは単独で枝に座り振り子のように尾を振る場面と、劣位の個体が上位の個体に接近する際に尾を脊柱に対して垂直に挙げ振る場面が見られた。
著者
友永 雅己
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第30回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.72-73, 2014 (Released:2014-08-28)

ヒトでは、同一の顔写真が上下に並べられた場合、下の方が太って知覚される(あるいは上の方がやせて知覚される)。この現象は北岡(2007)やSunら(2012)が独立に見いだされている。この現象を北岡(2007)は「顔ジャストロー効果」とも呼んでいる。これは、現象的にはジャストロー図形と同じ方向の錯視が生じているためである。最近、顔の内部の要素よりも輪郭線が重要であるという報告もなされているが(Sunら, 2013)、この顔ジャストロー効果がなぜ生じるのかについては、まだまだ不明な部分が多い。一つの可能性は、顔刺激の処理様式によるものであろう。また、比較認知科学的な観点からの研究も全く行われていない。そこで、本研究では、ヒトとチンパンジーを対象に、ジャストロー錯視と顔ジャストロー錯視について検討し、2種類の錯視の関係と種間差について検討した。タッチスクリーン上に2つの図形(長方形、ジャストロー図形、またはチンパンジーとヒトの顔写真)を上下に並べて提示し、より横幅の短い(やせた)方の図形を選択することが、チンパンジーおよびヒトの参加者には要求された。その結果、ヒトではジャストロー図形、ヒトの顔、チンパンジーの顔、いずれにおいても、従来報告されていた錯視(上の方がより短く/やせて知覚される)が見られたのに対し、チンパンジーでは、ジャストロー錯視のみが見られ、顔ジャストロー錯視は生じなかった。この結果は、ヒトとチンパンジーにおける顔処理のある側面における種差を反映しているのかもしれない。
著者
伊藤 毅
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
pp.17-26, 2016

Molecular phylogenetic analyses have established most components of primate systematic classiications, which are signiicantly diferent from the traditional morphology-based classiications. This becomes an issue when inferring the phylogeny of extinct taxa, for which molecular data are usually unavailable. Researchers have attempted to extract phylogenetic signals from morphological characters to infer relationships between extant and extinct taxa. One of the most disruptive factors obscuring phylogenetic signals of morphological characteristics is size-related shape variation (i.e., allometry). Although some issues remain, researchers have successfully detected phylogenetic information that was previously hidden by the strong efects of allometry. Recently, the importance of morphological data and fossil evidence has been reconsidered, and the total-evidence approach has been resurrected. This approach incorporates both extinct and extant taxa and uses all available data, i.e., both molecular and morphological characters. The validity of the total-evidence approach should be evaluated under various conditions using simulation studies and tested using the actual data for various primate taxa.
著者
渡辺 伸一 J de Villiers J van der Merwe 佐藤 克文
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.110, 2013 (Released:2014-02-14)

チーターは,陸上動物最速の動物で,草原を疾走する小型の有蹄類を追尾して仕留める.こうしたチーターのハンティングはメディアを通じて研究者でなくとも誰もが知ることである.しかし,チーターのハンティングに関する研究の多くは,広大な草原に覆われた東アフリカの一部の地域で行われてきた.本研究では,チーターのハンティングについて,詳細な研究が行われていない,アフリカ南西部のナミビアで調査した.チーターの行動は,これまで主に目視観察により行われてきたが,潅木が生い茂るブッシュで目視観察は困難である.そこで本研究では,GPS・加速度・動画を記録するデータロガーを用いて,チーターの行動を自動計測した.本研究では,Harnas野生動物保護区で野生復帰プログラム中の雌雄 2個体へデータロガーを装着して行動を記録した.計 19回データロガーを装着して,計 37日間の行動データが得られた.加速度データの周波数特性と GPSによる移動速度のデータから行動を秒間隔で休息,移動,ハンティング,摂食に分類した.その結果,70回のハンティングが記録され,うち 7回のハンティングに成功した.ハンティング時の疾走時間は 35.4 ±26.6(平均 ±SD,レンジ11-152)秒,疾走距離は 160 ±144(29-645)mで,ハンティング中の最高速度は 30.5 ±10.9(13.6-60.7)km/hだった.この値は,これまで計測されたチーターのハンティング時の速度と比較すると最も低い値だった.また,チーターはハンティング後,他の捕食者による獲物の横取りを避けるため,すぐに摂食を始めることが一般的である.しかし,本研究ではハンティング後,6-30分後から摂食を開始し,獲物の傍に 12時間以上滞在した.こうした結果は,これまで知られていたチーターのハンティングのイメージとは大きく異なる.おそらく競争者となる捕食者の密度が低く,灌木林が生い茂るアフリカ南西部の生息環境に本種が適応した結果だと考えられる.
著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第20回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2004 (Released:2005-06-30)

これまでの研究から、チンパンジーの交尾パターンには、「高順位オスによる独占的な交尾」、「機会的な交尾」、「コンソートによる交尾」の3つがあるといわれている。ウガンダ・カリンズ森林では、これまで3年にわたって、チンパンジーのメスが高頻度に交尾を行うことが観察されてきた。これまで行った分析によると、オトナオス同士の順位があまり明確でないこと、また、オトナのオスの数が多い(20頭)ということが、このような高頻度交尾の原因になっていると考えられた。本発表では、実際にメスがどのような状況でこのような高頻度交尾を行っているかを明らかにしたい。調査は、2001年から2003年にかけて、ウガンダ共和国カリンズ森林において、Mグループを対象として行った。発情しているメスを終日個体追跡を行った。メスの発情が続いている限りは、連続して追跡を行った。すべての交尾について、その前後のオスとメスとの交渉パターンを記録した。また、5分毎に、対象メスの行動と、周り5m以内にいる個体の行動を記録した。発情メスが見られない日には、非発情メスについて、行動と周りの個体についての記録を行った。発情期間中、メスはあまり採食をせず休息やオスとのグルーミングを行う時間が長かった。発情メスと非発情メスとの行動の違い、1日の中での交尾の頻度や行動の変化、周りにどういう個体がいるか、どういったオスが交尾を行っているのか、という点についても分析を行い、考察する。