著者
廣瀬 明 酒谷 誠一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、われわれが提案し世界をリードしている「複素ニューラルネットワーク」の理論に基づいて、対人プラスチック地雷を適応的に可視化するレーダシステムを構築することを目的として進められた。このレーダシステムは、人間の脳に似た機能を持ち、しかし一歩進んで、人間が持たない複素振幅情報を適応的に扱う能力を持ったニューラルネットワークを核としている。その結果、これまで事実上不可能であった浅く(0〜3cm)埋設されたプラスチック地雷の可視化に成功した。現在は次段階の研究であるフィールド試験(地雷原に似た状況での模擬地雷可視化)の計画を進めている。構築・開発に成功したこのシステムは、次の3つの部分から成る。(1)高空間密度・広帯域の集積アンテナによるハンドセット 新たなアンテナ・エレメントすなわちWalled-LTSA(walled linearly-tapered slot antenna)を提案・設計した。このアンテナ・エレメントは、小さい開口面積を持つため高密度に2次元的に集積化が可能であり、また広帯域を有しているため周波数掃引に好適である。この集積アンテナによって連続電磁波を放射し、また地中からの反射波を位相感受方受信機で2次元的に受信する。そして、その周波数を掃引することによって、空間および周波数空間の3次元空間での複素振幅データを得ることを可能にした。(2)複素画像を適応的に区分する複素自己組織化マップ(Complex-valued self-organization map : CSOM)モジュール また、得られたデータの複素3次元テクスチャを適応的に区分するCSOM適応クラス分けモジュールを開発した。反射波は2次元×周波数の3次元のテクスチャ情報を持っている。CSOMモジュールは、この複素テクスチャに基づき画素を適応的に分類し、画像を区分する。その結果、プラスチック地雷領域を他の土石領域や金属片を含む領域などと分離して、別のクラスに分類することに成功した。(3)地雷クラスを同定する複素連想記憶モジュール さらにCSOMによって分類されたクラスのうち、どのクラスがプラスチック地雷であるか、同定する必要がある。われわれは、これを2段階の複素連想記憶を提案・構築するによって実現に成功した。まず計測取得画像に含まれる特徴ベクトル(クラスを表現している)のセットに対して、それに近い特徴ベクトル・セットを有する教師画像を連想記憶的に探索する。次に、最も近かった教師画像の特徴ベクトルのうち、プラスチック地雷のクラスに相当する計測結果クラスを複素連想記憶で探索する。この2段階探索によって、効果的にプラスチック地雷クラスを同定することができた。
著者
岡部 繭子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

マウスオーバル細胞の細胞表面抗原分子の探索を行った。オーバル細胞を誘導した肝臓で発現する膜・分泌タンパク質を、シグナルシークエンストラップ法でスクリーニングし、正常時に比較してオーバル細胞誘導時に発現が上昇する膜タンパク質遺伝子として、Epithelial cell adhesion molecule(EpCAM)を同定した。そして、マウスEpCAMに対する抗体を作製した。作製した抗マウスEpCAM抗体を用いた免疫染色により、EpCAMがオーバル細胞に発現していることが示唆された。また、抗EpCAM抗体とセルソーターを用いてオーバル細胞を誘導した肝臓から分離したEpCAM陽性細胞は、既知のオーバル細胞マーカーであるサイトケラチン19やA6に陽性であり、オーバル細胞マーカー遺伝子を発現していた。分離したEpCAM陽性細胞は、in vitroでの培養で旺盛な増殖能を示し、継代培養も可能であった。また、培養したEpCAM陽性細胞では、オーバル細胞マーカー遺伝子の発現が確認された。培養したEpCAM陽性細胞をサブクローニングし、10コの独立したクローンを得た。これらのクローン化した細胞株においても、オーバル細胞マーカー遺伝子の発現が確認された。クローン化した細胞株を用いて、肝細胞および胆管上皮細胞への分化誘導を行った。その結果、いくつかの細胞株が肝細胞と胆管上皮細胞の二種類の細胞への分化能をあわせもつことが明らかとなった。以上の結果から、EpCAMはオーバル細胞のマーカーであり、抗EpCAM抗体を用いてセルソーターによりオーバル細胞を分離できることを明らかにした。
著者
前原 かおる 増田 真理子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,非漢字圏漢字学習者が,「漢字」と「学習者」それぞれの要因の特性にかかわらず効果的に漢字学習ができるための内容・方法の開発を行った。具体的には(1)音声付のタスクを含むオンライン型漢字学習教材「Step Up Kanji-500」の開発,(2)漢字の体系(字源,字形パターン,漢語の語構成,など)に関する学習教材の開発,(3)(1)(2)を活用した教室活動を行うための補助教材の整備と実践を行った。これらにより,学習段階,認知スタイル,学習スタイル等の異なる非漢字圏学習者からなるコース運営がより効率的に実現できるようになったほか,漢字圏学習者に対する教育内容の改善にも及んだ。
著者
三品 昌美 高橋 幸利 三品 昌美
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.グルタミン酸受容体ε2に対する自己抗体陽性症例の臨床特徴グルタミン酸受容体(GluR)の内のε2に対する自己抗体の高感度検出システムを確立し、小児慢性進行性持続性部分てんかん症例でスクリーニングを進めたところ8例中7例で陽性所見を得た。ウエスト症候群15例、レノックス症候群9例、局在関連性てんかん9例と対照6例においてはGluR ε2自己抗体は認めなかった。自己抗体はIgG/IgM型の自己抗体で、IgA型は見られなかった。一部の症例ではIgM型自己抗体からIgG型自己抗体へのスイッチが見られた。2.グルタミン酸受容体ε2に対する自己抗体陽性症例のエピトープ解析グルタミン酸受容体ε2に対する自己抗体陽性となった小児慢性進行性持続性部分てんかん症例で、ε2分子のどの部位が抗原となっているのかを明らかにするため、大腸菌蛋白発現系(PEXシステムなど)を用いて、自己抗体の抗原認識部位を検討した。その結果、全例で、C末側の細胞内ドメインに対する自己抗体の形成が見られ、1例では病期が進むとN末に対する自己抗体も一過性に出現した。C末は、細胞内情報伝達に重要な部位であり、その部位に対する自己抗体がEPC発現に関与している可能性がある。3.ε2以外のグルタミン酸受容体自己抗体検出システムの確立δ2グルタミン酸受容体を発現するテトラサイクリンシステムレポーター遺伝子を、トランスアクチベーター遺伝子を導入した細胞株にステイブルトランスフェクションし、発現したGluR δ2を抗原として患者血清中の自己抗体の有無を検索中である。4.自己抗体陽性例での免疫学的早期治療の検討グルタミン酸受容体ε2自己抗体陽性の小児慢性進行性持続性部分てんかん症例のうち、四肢麻痺となっている進行例にてγ-グロブリン大量療法・ステロイド療法を試みた。現在のところ著しい効果は認めていない。
著者
鍛治 哲郎 高橋 宗五 川中子 義勝 臼井 隆一郎 安岡 治子 高田 康成 西中村 浩 柴 宜弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

20世紀末に近代の産物である「国民国家」を否定する方向でヨーロッパ統合という試みがなされる一方、旧ソ連・東欧諸国においては、ソ連の解体し、「東欧革命」のあと、逆に「国民国家」として新たな国家統合を試みる動きがはじまり、各地で紛争が生じている。本研究はこうした状況を踏まえ、それ自体多様な歴史的内実を有するドイツ理念とヨーロッパ理念の相関関係という問題を、特に20世紀における展開を中心に、今日的視点で整理することを目的とした。そして、ドイツを中心としつつも、歴史的にはギリシア、ラテン文化・思想の伝統を踏まえ、地域的には周辺諸地域、とりわけ旧東欧、ソ連諸国との関わりのなかで、ヨーロッパ統合の時代における新たなドイツ理念の展開を研究していった。その結果、19世紀のドイツ・ロマン主義や20世紀初頭のドイツにおける民族主義がその周辺諸地域に大きな影響を与えたこと、こうした地域、とりわけバルカン諸国においては、この影響下で作り上げられた民族的な神話と、それに基づく人々の集団的な記憶と強力なナショナリズムが今日に至るまでなお力を持ち続けていることが確認できた。さらに、国法学者カール・シュミットに中心を当てた共同研究も行ない、この思想家が汎カトリックの思想基盤に立つヨーロッパ有数の思想家であると同時に、その活躍した時代がナチズムの時代に当たり、ヒトラーの桂冠法学者としての20世紀におけるドイツとヨーロッパの理念の相関関係を体現する思想家であることが浮かび上がってきた。また、ミュンヒェン・シュヴァービングを震源地とする母権思想はシュミット自信も自覚していたように、彼の男性的父権的政治思想の対極をなしていること、ベルリンを本拠とする男性同盟的ドイツという思想とミュンヒェンの母権思想の対比が20世紀初頭のドイツにおけるヨーロッパ理念の対極であることなども明確になった。
著者
石田 尚臣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

研究代表者らの研究グループはこれまでにHIVプロモーター領域に設定したsiRNAがウイルスの複製を抑制する事を明らかにし、またその抑制活性は転写抑制(TGS)にある事を証明してきた。siRNAによる転写抑制はAGO1-siRNA複合体形成にある事を証明し、その複合体は直接標的DNAに結合しうる事を証明した。この配列結合性は、来はめて特異性が高い事を明らかにし、またその結合は、siRNA,HIV-1(標的配列)の共存在下で認められる事を証明した。
著者
森口 裕之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

第3年度の研究では、「Ink-jet Printing」および「マイクロピペット描画法」を用いた新たな細胞アレイ作成法を開発した。本手法を神経系の細胞群に適用することで、実際に「小規模な神経回路」(構成細胞数が1個から数個の神経回路)のアレイ(小規模神経回路アレイ)が形成され、様々な細胞構成の神経回路が規則的に配列されていることを生かした神経回路活動のハイスループット計測が可能であることを示した。本技術は、「神経回路」という多数の要素が入り組んだ相互作用を行う系における、種々の構成要素(細胞)の性質とシステム全体(神経回路)の挙動の関係をマルチスケールの生体計測に基づいて実験的にアプローチするための実用的な実験系であると位置づけられる。小規模な神経回路は、一枚の培養底面上に数百から数万個形成させることが可能である。これらの神経回路の多くにおいては、リズミックな自発発火と細胞内カルシウムレベルの振動が観察され、単一ニューロンのみからなる(アストロサイトなどのグリア細胞もいない)最小構成のオータプス神経回路においても、周期的な自発発火が生じ得ることが確認された。また、第1年度の研究で開発した可動式の金属微小電極を用いた細胞外の電圧パルス刺激に対しても、周波数と振幅の両面での減衰を伴う振動的な発火が数秒から数十秒間持続することを示す信号が観察された。本結果は、再帰的構造の神経回路ではニューロンの膜電位振動か自発的に生成され得ることを示唆しており、今後は、本実験系を用いた小規模神経回路活動の網羅的計測と解析を通して、機能的神経回路が自律的に形成されるプロセス、さらに、出来上がった神経回路が機能する仕組みを説明し理解していきたいと考えている。
著者
大場 美穂 真田 弘美 須釜 淳子 松尾 淳子 飯坂 真司
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

褥瘡保有者および褥瘡非保有者を対象に基礎代謝量を測定し、比較検討した。対象はI度、II度の部分層創傷(浅い褥瘡)保有者7名、III度、IV度の全層創傷(深い褥瘡)保有者9名、褥瘡非保有者23名であった。年齢66-97歳、男性7名、BMI18.5未満19名、日常生活自立度C30名、B9名であった。体重1kg あたりの基礎代謝量は褥瘡の面積や体積が大きいほど大きい傾向が見られた。実測した基礎代謝量はHarris-Benedictの予測式による基礎代謝量と比較して褥瘡保有の有無に関わらず有意に少なかった。
著者
坂元 宗和 高木 幹雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

2変数の関数の格子点における値の剰余を取り,その剰余が一定の値である場合には単位格子の形でプロットすることによって,多様な形が得られる.これを剰余パタ-ンと名づけ,模様のデザインに応用するための理論と手法を研究した.1.剰余パタ-ンの性質:剰余パタ-ンの周期,対称性などの幾何学的特徴が剰余関数の代数学的特徴に基づくことを明らかにした.従って,パタ-ンの論理合成は剰余関数の解集合の論理合成に相当するが,人間の知覚はパタ-ンの論理合成に対する分解能力が劣っていて識別できないので,合成パタ-ンも価値がある.2.生成原理のアルゴリズム化とデザイン手法の開発:必要な幾何学的特性に見合う剰余関数を選んで剰余パタ-ンを作り,これをいくつかOR合成して,複雑かつ美的なパタ-ンを作る.モチ-フの自然さを高める平滑化輪郭と部分塗り潰しを工夫し,作品の質が向上した.この模様(単色模様)をビット・プレ-ンと見て,ビット組合せに対して色を割当てると,単なる色違いとは異なる新しいモチ-フが発現する(カラ-模様).以上をプログラムとして纏め,パラメ-タ選択の基準を経験的に求めた.3.模様の制作と評価:約200点を試作し,成果報告書に約80点を載せた.提案した模様デザインの手法は作品の質および多産性についても満足すべきものである.上記の知識を組み込めば無限のペ-ジをもつデザイン・ソ-スブックとして使うことができる.4.ディジタル・システムの特殊性の利用:ディジタル・システムの非線形性,別の観点から言えば類推困難性,は制御するには都合が悪いが,本研究はこの性質に発想の役割を担わせる点に独自性がある.
著者
鈴木 成文 友田 博通 在塚 礼子 初見 学 畑 聡一 小柳津 醇一
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

1.本年度中に実施した調査分析は主に下記の2点である.(1).韓国における住宅の近代化の実態を把握することを目的に, 近代化型住宅の典型例として, 都市部における最近の建売住宅と農村部のセマウル住宅を対象に, 住様式の実態を把握.(2).韓国側共同研究者によって実施された都市型韓屋の調査資料を, 近代化による変容という視点から分析.2.これまでの文献調査および実態調査(伝統的都市韓屋・都市独立住宅・集合住宅・農漁村民家・セマウル住宅)を基に, 韓国住宅の近代化過程における住様式の継承と変容について考察・整理した.(1).継承されている点は, 床暖房方式およびユカ坐の起居様式, 主要な二つのオンドル部屋を板の間(マル)でつなぐ室配列構成, 夫婦の居室(アンバン)のもつ家の中心としての性格, 独自の食文化を背景とする充実した炊事作業空間, 等である.(2).変容しつつある点は, 暖房や建設経費および住宅内動線の合理化を目的とする住宅のコンパクト化, 内庭型の構成から外庭型の構成への変化と日常生活空間としての庭の役割の減少, 住宅内部とくに台所と庭との関係の希薄化, 玄関の設置, 暖房・設備方式の改良, 浴室・便所の室内化, 台所の床上化とダイニングキッチン形式の普及および欧米式のリビングルーム(コシル)概念の導入による生活の機能分化, 等である.3.以上の近代化過程を日本と比較して考察すると, 日常生活の機能的合理化や充足に関わる部分は変容し易い反面, 住宅の対社会性に関わる部分では, 共有された社会的慣習や文化を背景に, 住宅の基本的構成(韓国のアンバンーマルの連鎖や日本の続き間)は根強く継承されているといえる.
著者
高田 康成
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

シェイクスピアとその研究は西欧近代の産物であり、「西洋中心主義」批判もまた同じ歴史的運動の産物である。従って、そのような批判言説の動向は、西欧近代文化に内在的な自己反省的な構造を明かす。その構造を分析的に捉えるために、世俗化、自然、差異という主題軸を設定し、それぞれに呼応する学問分野と宗教文化との関係において考察を行い、「近代化」(非西欧文化圏)におけるシェイクスピア受容の構造と特質を示した。
著者
御厨 貴 翁 邦雄 飯尾 潤 牧原 出 金井 利之 清水 唯一朗 菅原 琢 高橋 洋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1990年代は、戦後の日本政治の転換点として、長く記憶される10年となろう。特に、内閣と省庁に関しては、90年代前半には自民党の下野と政権交代、後半には省庁改革と内閣機能の強化が図られ、大きく変容を遂げることとなった。本研究では、こうした変化の背景や原因のみならず、その帰結に至るまでを、オーラル・ヒストリーと省庁人事の研究、ならびに多分野の専門家との共同研究によって複合的に明らかにした。
著者
神谷 真子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

現在までに、新規フルオレセインを母核として分子内光誘起電子移動(PeT)を最適化することで、β-ガラクトシダーゼに対する高感度蛍光プローブ(TG-βGal、AM-TG-βGal)の開発に成功した。そこで本年度においては、同様のストラテジー、つまりPeT、による精密な蛍光制御法が、フルオレセインとローダミンの骨格を半分ずつ有するロドール骨格にも有効であるか検討した。ロドール骨格は、フルオレセインの持つ優れた蛍光特性(高いモル吸光係数・蛍光量子収率)に加え、フルオレセインよりも褪色に強い、導入する置換基により吸収・蛍光波長が変えられるという魅力的な特性を有するにも関わらず、これまでに蛍光プローブの母核として用いられることが少なかったため、本研究においてはその特長を生かした新規蛍光プローブの開発を行うことを考えた。まず始めに、ロドール骨格のフェノール性水酸基に、ROSとの反応部位兼蛍光消光部位としてHydroxyphenyl基、Aminophenyl基を導入したRhodo1-HP及びRhodol-APを開発した。蛍光特性を精査した結果、これらのプローブの蛍光強度は低く抑えられていたことから、ロドールの蛍光もPeTにより制御可能であることが示された。また、各種ROSとの反応性を検討した結果、Rhodol-APはOCl選択的に蛍光強度上昇を示し、当研究室で開発したHPF、APFやMitoHR、MitoARとは異なるROS選択性を示すことが明らかになった。また、好中球で産生されるROSも蛍光検出できることが示された。また、ロドール骨格を母核として、β-ガラクトシダーゼに対する蛍光プローブHM-rhodol-βGalの開発も行った。このプローブはβ-ガラクトシダーゼと反応することにより約90倍の蛍光強度上昇を示し、かつ生細胞におけるβ-ガラクトシダーゼ活性を検出可能であることが示された。
著者
山下 直秀 中岡 隆志 渡辺 徳光
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

悪性黒色腫に対する樹状細胞療法で反応した症例を解析した結果、治療反応症例にのみ炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase II : CAII)に対する抗体が上昇していた。またCAIIは腫瘍血管内皮に特異的に染色された。これらの事実から本研究の目的は、(1)樹状細胞療法の反応例における腫瘍血管を破綻させる抗体の検索、(2)腫瘍血管内皮様に分化させたhUVECを抗原とした腫瘍免疫療法の確立とした。(1)についてメラノーマ腫瘍cDNAライブラリーを作製し、蛋白を発現させ、患者血清を用いたスクリーニング行った。(2)の腫瘍免疫療法については動物実験を行いその効果を確認した。
著者
加藤 大
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ナノテクノロジーの進展により、優れたナノ物質が開発され注目を集めているが、高効率な分離精製法は報告されていなかった。我々は、カーボンナノチューブ(CNT)やアミロイドβなどのナノ物質の高精度な分離法を開発し、さらに分離したナノ物質1個の構造決定に成功した。分析法の開発と共に、溶媒に分散しないため分離することが難しいCNTを溶液や乾固した状態で安定に孤立分散させる方法を開発した。
著者
安藤 譲二 山本 希美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究では血流に起因するメカニカルストレスである剪断応力の生体作用を明らかにするために、血管内皮細胞の剪断応力の受容機構と遺伝子応答の包括的解析を行った。内皮細胞は剪断応力の強さの情報をATP作動性のカチオンチャネルであるP2X4を介する細胞外Ca^<2+>の流入反応に変換して伝達することが判明した。P2X4の欠損マウスを作製したところ、このマウスの内皮細胞では剪断応力による細胞外Ca^<2+>の流入反応が消失し、引き続いておこる一酸化窒素産生が減弱することが示された。また、P2X4欠損マウスでは正常マウスに比べ血流増加による血管拡張反応が減弱し、血圧が上昇していた。さらに、血流の減少による血管径の縮小反応がP2X4欠損マウスで障害を受けていた。このことから、P2X4を介する剪断応力の受容機構は血流依存性の血管のトーヌスや血管のリモデリングの調節に重要な役割を果たしていることが明らかになった。剪断応力に反応する内皮遺伝子についてDNAマイクロアレイによる包括的解析を行ったところ、動脈レベルの15dynes/cm^2の層流性の剪断応力に対し内皮遺伝子全体の約3%が反応して発現が変化することが判明した。このことは約600の遺伝子が剪断応力に応答することを意味している。また、クラスター解析で得た継時的な遺伝子の反応パターンは単一ではなく、多様であることが示された。さらに内皮遺伝子の応答が層流と乱流で異なることが明らかになった。例えば、層流に対してウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ(uPA)遺伝子の発現が低下するが、乱流では増加することが示された。この場合、層流は転写因子GATA6を介する転写抑制とmRNAの分解促進を、一方、乱流はmRNAの安定化を介してuPA遺伝子の発現を修飾していた。
著者
田賀井 篤平 三船 温尚 清水 康二 杉山 和正 白 雲翔 韓 偉東
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

青銅鏡鏡笵の黒色皮殻に対する化学分析の結果、Cu,Sn,Pb,Znなどが確認された。黒色皮殻は、鋳込みに際の鏡笵と金属との反応生成物である。更に、SやCを確認したことから、SやCは、離型材・塗型材に由来すると考えた。分析データを基に、Cu,Sn,Pbなどの金属を調合して鋳造実験を行った。塗型材や離型材の素材を変えて鋳込み実験を行い、離型材に油脂を使用した場合に、最も漢代の鋳型に近い黒色皮殻が得られた。分析の結果、黒色皮殻部に、鋳込み金属元素やSの存在が確認できた。Cは還元状態で高温金属に触れた離型材の油脂から生じた煤であると考えられる。
著者
渡邉 俊樹 石田 尚臣 堀江 良一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、T細胞性リンパ腫を腫瘍化機構・細胞増殖機構に基づいて区分することから、その増殖の基盤となる特徴的シグナル伝達異常に基づいた分類を確立し、診断と治療方針確定の基礎を明らかにするとともに、新たな分子標的療法開発の理論的基盤を提供することを目指した。(1)TCRシグナル伝達系の活性化状態についてシグナル伝達系の下流で中心的な役割を果たすNF-kBの恒常的な活性化のメカニズムの解析と、細胞増殖におけるその機能的意義について、NIKの過剰発現がNF-kBの活性化に関与していることを明らかにした。更に、特異的阻害剤であるDHMEQを用いて解析し、リンパ系悪性腫瘍の増殖にNF-kB活性化が重要性で有ること、DHMEQによるNF-kB活性の阻害が、抗がん剤の作用を増強すること、抗がん剤に対する薬剤耐性克服に有効である可能性があるとの結果を得た。ATLにおけるゲノム異常解析から、これまで120を超えるの候補標的遺伝子のリストを得て個々の分子の機能解析を進めている。発現プロファイル解析から、ATL細胞では、膜構造と細胞骨格をつなぎシグナル伝達と細胞運動性制御に関与するEzrinが過剰に発現していることを明らかにし、その過剰発現が腫瘍細胞の運動性亢進に関与していることを示した。(2)臨床材料を用いた解析:ATL170例の検体で、SNP arrayを用いてゲノムコピー数異常を網羅的に明らかにした。ゲノム異常に基づくATLの分類の可能性を検討している。また、発現解析からATLで過剰発現を示す8個の遺伝子からなるRT-PCRアレイの系を確立してその測定値から「ATL型発現スコア」を定義し、ATL細胞の特異的検出と、ATL発症予測への応用を検討中である。
著者
馬場 靖憲 桐山 孝司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

工業製品における「知識ベース製品開発」は論理的分析を中心とする情報技術の戦略的利用によって接近可能になる。それを可能にする具体的な方策を示した。一方、人間の感性に作用しなければならない製品開発の場合、情報技術の戦略利用は独創性のある製品を保証しない。そこで必要になるのは、異分野のスペシャリストに創造性を発揮させる「共創の場」である。それを出現させるために必要な組織・マネジメント・企業文化の条件を明らかにした。この場合、成功のための鍵は技術を超えた人間的要素にあり、人間の関係の築き方に対するノウハウは本研究の開始時に予測した以上に重要である。技術による情報伝達を選好し、その結果、立地を問わないかに見えたゲームソフト企業はさまざまな理由から特定の場に集積し、本研究が示した東京ゲームソフトクラスターを出現させている。このようなマクロ(産業クラスター)・レベルの場の構築が、人材供給、マーケット情報の交換、また専門コミュニティーの形成を通じて、ミクロ(組織)・レベルの共創を実現している事実の発見は本研究の最大の貢献と言えよう。本研究の最終段階においては、以上に示した発見を補強するために、観察対象をインターネット・ビジネス企業として、本研究と同一の視点からの明らかにした一連の発見・仮設の妥協性をより一般的な形で提示することを予定している。