著者
柴田 直 三田 吉郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

過去に経験した最もよく似た事例の連想・想起により、人間は迅速かつ柔軟にものごとの認識・判断を行っているという「連想原理」に基づき、我々はこれまで脳の機能を模擬した知能VLSIシステムの開発を行ってきた。本研究の主眼は、これまでの静止画像の認識に加え、さらに動画像の意味を理解できるシステム構築の基礎技術確立である。“What is it?"をさらに一歩進め、“What is it doing?"の認識を可能にするシステム高機能化の研究である。動きの理解には、先ず動画像から動きの情報を抽出し、それを特徴ベクトル表現に変換することが必須である。そのため、実時間の動き場生成VLSIプロセッサを新たな回路方式で実現した。アナログVLSIでは、時間領域演算に基づく新たなハードウェアアルゴリズムを導入し、500fpsでのnormal optical flow生成可能なCMOSイメージセンサを開発した。またデジタルVLSIでは、方向性エッジ情報を用いたブロックマッチング法を新規開発し、これにより超高速の高精度動きフィールド生成に成功した。このチップは、2.8GHzCPUを用いたソフトウェア処理と比較して、たった100分の1の遅い周波数動作で1000倍以上高速の高密度動きフィールド生成を実現した。また各瞬間の動きフィールドをコンパクトに表現する動き成分空間分布ヒストグラム(PPMD)ベクトル、さらにPPMDベクトルを時間的・空間的に積分してあるアクション全体を表現するMotion History Vector等のアルゴリズムを開発、前者は隠れマルコフモデルを用いて認識を行い、後者は従来の連想マッチングで認識を行う。これらのアルゴリズムにより、エゴモーションの認識、簡単なジェスチャーの認識、さらに動き物体の追跡がロバストに行えることを実証した。
著者
山崎 喜比古 井上 洋士 江川 緑 小澤 温 中山 和弘 坂野 純子 伊藤 美樹子 清水 準一 江川 緑 小澤 温 中川 薫 中山 和弘 坂野 純子 清水 由香 楠永 敏恵 伊藤 美樹子 清水 準一 石川 ひろの
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

病・障害・ストレスと生きる人々において、様々な苦痛や困難がもたらされている現実とともに、よりよく生きようと苦痛・困難に日々対処し、生活・人生の再構築に努める懸命な営みがあることに着眼し、様々な病気・障害・ストレスと生きることを余儀なくされた人々を対象に実証研究と理論研究を行い、その成果は、英文原著17 件を含む研究論文26 件、国内外での学会発表60 件、書籍2 件に纏めて発表してきた。
著者
金子 邦彦
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

細胞内部の化学反応ネットワーク、化学物質のやりとりによる細胞間相互作用、細胞内での反応の進行に伴う体積増加による分裂、の3つの機構だけをとりいれた構成的モデルの数値実験と理論研究を行なった。このような簡単なモデルでも細胞分化さらには幹細胞システムががあらわれることを既に我々は見出しているが、それを進めて今年度は以下を調べた。(1) 安定性:我々のモデルは(a)細胞内の化学成分のゆらぎにもかかわらず同じ細胞タイプがあらわれる(b)あるタイプの細胞を取り除くなどの大規摸な乱れに対しても、分化の比率の自発的制御により、もとの細胞分布が再現する、という2種類の安定性を有することを明らかにした。(a)については、そのために必要な分子の数などを調べ(b)についてはそのためのダイナミクスの性質を調べた。(2) 細胞が2次元空間の上で増殖していく場合のモデルを調べ、それによって幹細抱から派生したいくつかの細胞タイプが、同心円状、縞模様などのパターンをつくることを示した。これらのパターン形成過程は安定であり、たとえば一部をとりのぞくと再生する能力をもつ。このパターン形成は位置情報の生成過程としてとらえられ、特に位置情報と細胞内部のダイナミクスの間の相互フィードバックによって安定性が生まれることを示した。また細胞間の接着の違いを導入することにより、幹細胞→分化した細胞集団のコロニー→幹細胞の放出による次世代の細胞集団の誕生→残った細胞集団の増殖の停止、という多細胞生物のサイクルが簡単に生じることを明らかにした。
著者
高橋 伸夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

この研究計画では、協調的な経営行動に対してさまざまな角度から分析を試みた。経営理論や経営の実践の現場で見られる現象をAxelrod流の協調行動の進化の観点から描いてみたのである。そのために、まずはAxelrodの進化理論のエッセンスを抽出して未来傾斜原理として定式化して使い易くする必要がある。単純化して言えば、現在の損得勘定や過去への復讐にこだわることなく、より良き未来をこそ選ぶべきだというのが未来傾斜原理である。このことによって、経営理論や経営の実践における協調行動の出現を説明することが容易になる。未来係数が高い場合には、未来への期待に寄り掛かる形で、苦しいても現在をなんとか凌いでいく行動につながるが、このことは日本企業でも、利益を分配したり使ってしまったりせずに、こつこつと内部留保して、将来の拡大投資のためにとっておこうとする強い成長志向として観察できる。さらに、このことを応用して、組織均衡を説明するための有望な二つの指標、見通し指数、未来傾斜指数を開発した。これらの二つの指数はAxelrodの未来係数の代替的指標として作られており、見通し指数は、その人の会社における将来への重みづけを表し、未来傾斜指数は将来に対する心理的な未来係数を表している。そして、この二つの指数が高い値をとるとき、職務満足を感じ、参加の意思決定が行われるという仮説の検証が行われた。見通し指数については、日本の大企業21社の2600人以上のホワイトカラーのデータによって支持され、見通し指数と職務満足比率との間には決定係数0.9989、参加比率との間には決定係数0.9980の非常に強い線形の関係があった。未来傾斜指数については、日本の大企業67社の約23万3千人のデータによって支持され、未来傾斜指数と職務満足比率との間には決定係数0.9970、参加比率との間には決定係数0.9678の強い線形の関係がやはりあった。
著者
山本 博文 佐藤 孝之 宮崎 勝美 松方 冬子 松澤 克行 横山 伊徳 鶴田 啓 保谷 徹 鶴田 啓 保谷 徹 横山 伊徳 小宮 木代良 杉本 史子 杉森 玲子 箱石 大 松井 洋子 松本 良太 山口 和夫 荒木 裕行 及川 亘 岡 美穂子 小野 将 木村 直樹 松澤 裕作
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、江戸時代および明治時代に編纂された史料集を網羅的に蒐集し、その記事をデータベースとして一般公開すること、蒐集した史料の伝存過程および作成された背景について分析・考察すること、を目的としている。本研究は、従来、交流する機会のなかった異なる分野の研究者が、1つの史実を通じて活発な議論を戦わせる土壌を作り、近世史研究の進展に大きく寄与することになった。
著者
稲田 奈津子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1、天一閣博物館・中国社会科学院歴史研究所天聖令整理課題組校證『天一閣蔵明鈔本天聖令校證附唐令復原研究』(中華書局、2006年11月)が刊行されたことを受け、喪葬令の全体的再検討をおこなった。特に唐令の条文排列の問題を中心に、前掲書における呉麗娯氏の復原案を再検討するとともに、旧稿における自説の訂正・補強をおこなった。その研究過程で、律令制研究会(池田温氏主宰)および儀礼史研究会(金子修一氏主宰)において口頭報告し、そこでの成果をふまえ、論文「北宋天聖令による唐喪葬令復原研究の再検討-条文排列を中心に-」をまとめた。2、奈良時代儀礼を復原する上で重要な参考資料となる正倉院宝物に関して、東京大学所蔵の巻子本『正倉院御物写』の分析を糸口に検討をおこなった。その成果は、第26回正倉院文書研究会において口頭報告し、論文「森川杜園『正倉院御物写』と日名子文書」(『正倉院文書研究』11号掲載予定)にまとめた。3、唐代の皇帝喪葬儀礼史料である「大唐元陵儀注」の分析を継続しておこなった。本史料の主要部分の分析は本年度でほぼ完了し、近年中に註釈および考察を集成した単行本を刊行する予定である。4、国内調査は計5回実施し、九州国立博物館・奈良文化財研究所等における資料調査をおこなった。国外調査としては、中国北京故宮博物院や陵墓などの周辺史跡において資料収集および調査をおこなった。5、律令制・儀礼史関係図書を中心とした資料の収集をおこなった。
著者
馬場 章
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では、わが国科学技術黎明期たる江戸時代の計量統制に関する従来の研究の問題点に鑑み、彫金・大判・分銅という三家業を営んだ後藤家の分銅に関わる文献・器物資料を対象に調査・整理・分析・考察を行った。また、後藤家の分銅関係の文献資料に構造分析を加え、分銅の製造・流通過程と検定の全貌を解明した。さらに、後藤家伝来の器物資料である各種分銅の精密計測を行い、文献資料と器物資料の相関を解明した。後藤家伝来の分銅のうち、特に「正本分銅」は、後藤家が製造した分銅の基準になったと推測されるので、精緻な重量の測定を行った。平成17年度は以下の3点の研究を行った。1、史料翻刻昨年度に引続き、分銅関係資料の解読作業を行い、未翻刻の一次資料である「分銅御用諸書留」の解読作業を完了した。「分銅御用諸書留」により、近世後期から明治初年にかけての分銅の検定にかかわるプロセスや流通する分銅の公定価格の推移を知ることができ、これまで未解明であった分銅の製造・流通過程と検定の全貌を明らかにした。2、分銅調査未整理の分銅関係の器物資料のうち、千枚分銅模型・「正本分銅」・市中分銅・極小分銅など各種分銅及び分銅製作道具を調査・整理し、1点毎のデータを採取した上で目録を作成し、写真撮影を行った。分銅の重量・寸法に関しては、デジタル機材を活用して精緻な値を求めた。特に、「正本分銅」については、国立科学技術博物館の協力を得て、精緻な重量の測定を実施した。3、報告書の作成上記1、2の調査・作業で得られた成果を掲載した報告書を作成した。ここには分銅・諸道具一式の目録、「正本分銅」の各種データ、分銅関係資料の解読文が掲載される。これらの成果を踏まえ、本研究の目的である後藤家伝来の分銅に関わる文献資料および器物資料の構造化と両者の相関関係を考察し、その結果を論考として掲載した。
著者
玉木 賢策 沖野 郷子 岡村 慶 沖野 郷子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

研究期間内に複数回の海底熱水鉱床探査航海を実施し、まだ未確立の部分の多い海底熱水鉱床の探査手法の確立を目指し、同時に海底熱水鉱床の形成機構に関する研究を実施。海底熱水鉱床が形成される中央海嶺系(実験海域:インド洋)、島弧火山系(伊豆小笠原火山弧)の比較研究により研究を実施する。探査航海に使用する装置としては、有人潜水調査船「しんかい6500」、ROV(Remote Operated Vehicle : 有索無人潜水艇)、海水化学現場分析装置を搭載した採水システム、潜水船等搭載型深海磁力計を使用し、深海探査を実施する。本研究期間中に、中央海嶺および島弧火山系のそれぞれにおいて新たな熱水鉱床を複数発見することを目指す。探査手法として(X)磁気探査手法と(Y)化学探査手法についての開発を行う。
著者
梅崎 昌裕 河野 泰之 大久保 悟 富田 晋介 蒋 宏偉 西谷 大 中谷 友樹 星川 圭介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

地域研究者が土地利用図を作成するために必要な空間情報科学の最新技術について、その有用性と限界を検討した。具体的には、正規化法による地形補正、オブジェクトベースの分類法による土地被覆分類、数値表層モデルの分析による地理的変数の生成が、小地域を対象にした土地利用図の作成に有用であることが明らかになった。さらに、アジア・オセアニア地域における土地利用・土地被覆の変化にかかわるメカニズムの個別性と普遍性を整理した。
著者
背山 洋右 SALEN GERALD SHEFER SARAH BJOERKHEM IN 笠間 健嗣 久保田 俊一郎 穂下 剛彦 米本 恭三 BIOERKHEM Ingemar KASAMA Takeshi EGGERTSEN Go BJORKHEM Ing TINT Stephen SHEFER Sarah SALEN Gerald 永田 和哉 清水 孝雄 BUCHMAN Mari
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

脳腱黄色腫(CTX)は先天性脂質代謝異常症で,コレステロールから胆汁酸に至る経路の酵素が障害されて,小脳やアキレス腱における黄色腫,小脳症状,白内障などの症状があらわれる。1937年にvan Bogaert等により報告されたのに始まるが,我が国では1969年の柴崎の報告が第1例である。この疾患の成因と遺伝子における異常を明らかにすることを目的として,1)患者から得られた線維芽細胞について欠損酵素である27位水酵化酵素をコードする遺伝子の解析と,2)疾患モデル動物の作製実験を行った。1.CTXにおける遺伝子異常の解析:スウエーデンのカロリンスカ研究所のBjoerkhemとの共同研究で,日本側からは米本恭三(慈恵医大),穂下剛彦(広島大・医)と久田俊一郎(東大・医)が関わった。CTX患者の線維芽細胞を培養して,RNAを精製し,ステロール27位水酸化酵素の活性に関与するアドレノドキシン結合部位とヘム補酵素結合領域を対象に,RT-PCR法により増幅した。得られた産物をシークエンスして,Russellにより報告されたcDNAの塩基配列と比較した。鹿児島大学で見つかった5人の患者について塩基配列の解析を行ったところ,何れもヘム補酵素結合領域である441番目のアルギニンをコードするコドンに異常があることが明らかになった。1人の患者では更に445番目のアミノ酸をコードする部位に1塩基の欠失が認められた。このうち,アルギニンがグリタミンに置換されている患者では制限酵素Stu Iによる切断部位が新たに生ずるので,RT-PCR産物について切断パターンから診断が可能になった。また,アルギニンがトリプトファンに置換された患者ではHpa IIによる切断部位が無くなるので,遺伝子診断が可能であることがわかった。家系によって遺伝子異常が異なっていたことは,それぞれの家系について予備実験が必要なことを意味しており,今後のスクリーニングの実施に当たってはこの点の配慮が必要となった。2.CTX疾患モデル動物の作製:アメリカのニュージャージ医科歯科大学教授のSalenおよびSheferとの共同研究であり,日本側では笠間健嗣(東京医科歯科大・医)が携わってきた。CTX患者では血清中のコレスタノール(ジヒドロコレステロール)濃度が上昇する高コレスタノール血症が見られる。マウスに高コレスタノール食を投与すると,CTX患者に準じた高コレスタノール血症がもたらされ,それに伴って角膜変性症などが引き起こされることを既に観察してきた。今年度は胆石形成が見られる現象に着目し,生化学的検討を行った。1%コレスタノール食をBalb/cマウスに14か月にわたって投与したところ,20%の頻度で胆石形成が見られ,同時に胆嚢の壁の肥厚,血管拡張などの炎症症状を呈していた。この胆石を分析したところ,コレスタノールが55%,コレスタノールが45%であり,この組成は胆嚢胆汁中の両者の組成と一致していた。一方,コレスタノール食を投与したマウスの胆汁から結晶が析出し,この結晶を走査電顕を用いて観察したところ,その形はコレステロールの結晶とは異なる正方形の滑らかな表面をもっていることがわかった。肝臓のHMG-CoAレダクターゼおよび7α-ヒドロキシラーゼを測定したところ,前者は51%上昇した反面,後者は59%低下していた。また,1%コレスタノール食を13か月間与えた後,1か月間標準食に戻したところ,上昇した血清と肝臓のコレスタノール値は低下し,この両酵素活性は正常値に戻った。これらの結果は,コレスタノールの増加によりHMG-CoAレダクターゼが誘導され,7α-ヒドロキシラーゼが抑制されたことを示唆している。この両酵素はコレステロール生合成と胆汁酸生合成系の律速度酵素であるが,コレスタノールの両酵素に及ぼす影響が相まって胆石形成を引き起こしたものと考えられる。今回のモデル動物の作製はコレスタノールと胆石の関係を明らかにするうえで意義のあるものであり,本疾患の病態解明に役立つものと期待される。日本,スウエーデン,アメリカの3国間で実施した,本研究はそれぞれの研究チームの特色を生かして,CTXという疾患の病態解明を行い遺伝子レベルにおける診断の可能性を示した点で大きく貢献したといえよう。
著者
脊山 洋石 笠間 健嗣 清水 孝雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

脳腱黄色腫(CTX)は先天性の脂質代謝異常症である。胆汁酸の代謝異常ではないかと考えられているが、本態は依然として不明である。疾患モデル動物が得られれば、発症の機序はもとより治療法の検討にも有効な実験系を提供することになる。マウスに高コレスタノ-ル食を投与して、血清、肝、小脳のコレスタノ-ルの濃度変化をHPLCを用いた分析法でモニタ-した。コレスタノ-ルを投与したマウスでは肝臓および血清のコレステロ-ル濃度は短期間でピ-クに達して後に減少して対照群の約50倍で安定する。これに対して小脳ではこのようなフィ-ドバック調節が存在せずに、時間と共に蓄積し続けることがわかった。また、ロ-リングマウスと呼ばれる状態を呈するマウスが出現したことはCTXのモデルと有益である。また、角膜にヒトにおける帯状角膜変性症に似た症状を発現した。この病変部位にはコレスタノ-ルと共にカルシウムとリンが沈着していることが判明した。さらに、マウスへのコレスタノ-ル投与は胆汁酸代謝に影響を及ぼし、4ヶ月間に20%の頻度で胆石を形成することが判明した。胆嚢粘膜の炎症と血管拡張を伴っていた。肝のHMGーCoAレダクタ-ゼ活性が上昇しており、一方、7αーヒドロキシラ-ゼ活性は低下していた。マウスに高コレスタノ-ル食を投与することによって、小脳症状、帯状角膜変性症、胆石症をもたらすことに成功した。後2者については病態の生化学的機構の一端を明らかにすることができた。帯状角膜変性症の発症の機構は小脳症状の現われをも説明するものであり、今後このマウスにおける小脳の生化学的分析が小脳症状発現の病態を明らかにするものと期待される。我々が現在進めているCTXの遺伝子診断のプロジェクトの分析対象となっている家系では、胆石症と肝胆道系腫瘍が多発しており、上記の第3の知見もCTXとの関連を説明するうえで重要な意味を有するものと思われる。
著者
山崎 文雄
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では,地震の横揺れが到着する前に,地震発生情報を高速道路走行中のドライバーに伝達する方法について最新の技術的検討を行い,どのような方法が可能かどうか,その実現性や限界を含めて検討した.地震発生を鉄道総合技術研究所が開発したUrEDAS的な方法で即時把握し,VICS(ビ-クル・インフォメーション・アンド・コミュニケーション・システム)を利用してドライバーに知らせることを第1候補としながらも,その他の方法,たとえば沿線の電光表示板を密に設置して伝達する方法や,他の通信メディア(たとえば携帯電話やポケベル)を利用する方法などについても考慮した.その結果,現時点のVICSでは,装着率が低く,一部の車両にのみ地震発生を通報しても,都市部における事故や被害の低減にはつながらないであろうという結論になった.しかし,車両の自動運転区間などにおいての適用可能性は高く,また,東海地震の警報が発令された場合など,ラジオの受信を義務づけられるような状況においては,有望と考えられ,今後の研究を続けたいと考えている.
著者
平石 貴樹 高橋 和久 大橋 洋一 柴田 元幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の基本的目的は英米圏文化における映画と文学との相互作用をその界面において考究すべく、電子化された映画映像と電子化された文学テクストを利用することであった。だが同時に利用できる電子媒体が、真摯な文化研究計画にとっては、十分に活用できない不備なものであったり、研究にふさわしくないものも多く、自らデータベースを立ち上げる必要に迫られ、その作業に着手した。利用可能でその有効性が飛躍的に高まるようなデーターベースの構築を進めると同時に、文学と映画をオリジナルとアダプテーションという観点から捉え、その関係を、境界画定と境界破壊の両面から考察することになった。計画は両面あり、ひとつは材料を限りなく収集し、電子化しデータベース化する作業、いまひとつは理論的考察によって文学文化における映画の意味、文学と映画の相互作用などを考える準備として、文学の映画化作品との関係を考慮することであった。最終結果としてのデーターベースの完成(このようなデータベースは完全なものはありえないが)を見なかったが、作業は継続している。理論的考察としては、オリジナルとアダプテーションとの関係が明確ではなくなるという難題に直面した。これは現代の複製文化から翻案文化すべてに共通する大きな問題で、文学と映画と載然と二分化することを困難にする理論的難題であって、完全な解決などありえないが、この問題を契機にさまざまな思考や理論を考案することになった。文学と映画との関係は英米圏文化では、従来考えられていた以上の予測不可能な多様な関係を形成していることが確認され、また両者の関係は他の社会的文化的分野に波及しており、この研究は文化研究からさらに教育の場においても有効であることも確認できた。
著者
濱田 純一 HALD Gabriele HADL Gabriele
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

平成20年度(20年4月1日〜20年9月29日)の主な研究内容は以下の通り。【文献研究】市民社会メディア、メディア政策やコミュニケートする権利に関する文献(英語、日本語)を収集し、先行研究の確認を行った。【「市民社会メディア研究コンソーシアム」に関する活動】国際的なコンソーシアム(CSMPolicy)をコーディネートした。国際学会でセッションをコーディネートし、来年東京で開催する交流シンポジウムの準備に携わった。【研究会運営】昨年度設立したCSM&Policy@iii研究会を本年度4回開催した。開催の知らせや報告をブログで定期的に公開、調査プロジェクトに協力した。【調査研究】CSM&Policy@iii研究会のメンバーによる調査チームを組み、非商業的なメディア(行政系をのぞく)関係者の意識調査(ウェブアンケート)を実施した。結果を研究会で議論し、仮報告書を執筆した。【学術論文執筆】・「Media and Civic Engagement in Japan」(著者:HADL Gabriele)in Contemporary Civic Engagement in Japan,Henk Vinken&国立民俗学博物館(編).New York:Springer。2010年出版予定。・「コミュニケートする権利と市民社会メディア」(仮称)(著者:濱田純一、HADL Gabriele,浜田忠久)来年学術誌に投稿する予定。【学会および社会活動】・IAMCR学会にcommunity communication分科会副会長として参加(ストックホルム大学、7月)・国際シンポジウム『環境・グローバリズム・メディア』(早稲田大学、2008年5月31日)にて討議者・市民メディアセンターMediRのメディア講座にてゲストスピーカー・早稲田大学大学院政治学研究科・瀬川至朗ゼミ(2008年6月30日)にてゲストスピーカー・Cultural Typhoon 2008学会、セッション「世界の市民メディアを語る」(せんだいメディアテーク、2008年6月28日)にて討議者【学術誌の客員編集者(guest editor)】・Media and Cultural Politics誌(Intellect出版)の「Convergences:Civil Society Media and Policy」特集号(Vol.5.1)学術誌の特集号の企画をたて、論文を募集した。投稿された論文を編集し、複数のレフリーに審査してもらい、その上で最終修正、編集を行った。さらに前書きを執筆した。
著者
樋口 範雄 伊藤 洋一 浅香 吉幹 寺尾 美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

樋口の英文報告「Legal Education in Japan」では、日本における学部レヴェルの法学教育と司法試験によって特徴づけられた法曹養成との伝統的制度を比較法的視点から概観した後に、平成13年6月の司法制度改革審議会意見書などにみられる法科大学院構想の趣旨と動向を跡付けている。寺尾の報告「アメリカ法学教育の特色とアメリカ・ロー・スクール協会-(AALS)の活動について」では、アメリカのロー・スクール教育において民法諸分野を中心とした1年生科員がとりわけ重視されつつ、多くの少人数クラスをしばしば別の法分野を専門とする教員が分担している、という事実を指摘し、その背景にあるアメリカ法学の特質について論じている。そしてそのような法学教育と法学との相互作用を象徴するアメリカ・ロー・スクール協会の活動を紹介する。浅香の報告「英米法諸国における大学法学教育と法曹養成」では、英米法諸国といえども、イングランド、オーストレイリア、ニュージーランド、アメリカにおいて大学法学教育と法曹養成との関係はさまざまであることを指摘した後に、アメリカの法学教育において、一方で実務能力や倫理の問題についてクリニカル教育の活用が盛んとなっていること、他方で英米法諸国において非法学分野の教育が法曹養成において積極的意義を与えられていると述べる。伊藤の報告「フランスにおける比較法研究・教育について」では、フランスにおいては意外にも比較法研究・教育の態勢が伝統的に脆弱であったことを指摘しつつ、最近になってヨーロッパ法の重要化とグローバル化がその重要性の再認識を起こしていることを紹介する。
著者
清川 泰志
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本年度に得られた成果の概要は以下の通りである1.警報フェロモン候補分子の絞り込み及び同定これまでの研究により確立した方法を用いて警報フェロモンを多数匹のドナーラットから放出させ、それを吸着剤(Tenax)に捕捉し、含まれる成分を3つに分画したところ、そのうち1つの画分においてのみフェロモン活性を有することが明らかとなった。次にその画分に含まれるメジャーピーク物質を全て揃えることで合成ブレンドサンプルを作製し、そのフェロモン活性を生物検定法により判定したところ、フェロモン活性は認められなかったため、警報フェロモン分子はマイナーピーク物質であることが明らかとなった。そのため上記画分をさらに3つに分画したところ、そのうちの1つにのみフェロモン活性が認められることが明らかとなった。現在、この画分に含まれている物質を分析しているところである。2.安寧フェロモン解析のための実験系の改良前年度に確立した安寧フェロモン評価系を用いて、安寧フェロモンに対する理解を深める目的で実験を行った。主嗅覚系で受容された安寧フェロモン情報は前嗅核へと伝達されることが示唆されているが、その後フェロモン情報が扁桃体へと機能的に伝達されているかは不明であった。そのため、前嗅核と扁桃体を非対称的に破壊することでこの問題を検討したところ、安寧フェロモン情報は前嗅核から同側の扁桃体へと機能的に伝達されることが明らかとなった。またトレーサーを用いることで、前嗅核が主嗅球からフェロモン情報を受け取っていることを解剖学的にも確認した。現在は、パートナー由来の匂い物質のみを提示することでこれまでと同様の現象を引き起こすことが可能であるかを検討することで、安寧フェロモン同定の基礎となる実験系を整備しているところである。
著者
武田 はるか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現代作家サミュエル・ベケット(1906-1989)、マルグリット・デュラス(1914-1996)、ナタリー・サロート(1900-1999)の作品を分析対象に据え、三作家による多分野(小説、劇、映像等)に亘る「声」の表現の探究の独自性とその複雑な相互関係を、厳密な作品分析に基づいて解明し、文学における「声」の問題の重要性を明示することを目的とする。本年度は、言葉とイメージの関係を作家たちがどのように捉え、かれらが共通して、(1)なぜ抽象的な声の表現を必要としたのか、(2)かれらがいかにして声を(あるいは声をともなう言葉を)表現し、それがなにを可能にしたのか、以上の二点を基軸に、これまで個別に行った作品分析の成果を下地にした考察を展開した。かれらの作品を全体的かつ具体的に辿ると、言葉によるイメージの表現には(テクストであれ、映像作品であれ)、共通して、言葉への強い執着と紙一重の懐疑が出発点としてあり、それが、かれらの作品に、断片的で輪郭の不確かなイメージを、頻度を高めながら繰り返させる。この点に着目し、(1)そこにどのように声の問題がかかわっているのか、(2)書かれたテクストにおける声の扱い方と、劇や映画における物質的な声を扱う実験的試み、これら異なる声へのアプローチが、いかなる共通の一貫した意図によって進められたのかを明示し、(3)さらにはその意図が、晩年の作家たちを、いかなる声のエクリチュールに向かわせたのかを、とりわけ自伝的・伝記的要素の独特の組み込み方に着目しながら分析した。この過程に、作家ごとの表現方法の変遷と、その差異を明確化することで、かれらの作品が、いかに必然的なかたちで記憶の問題に結びついているのかも明らかになった。「声」の問題は、アウシュヴィッツ以後の世界ゆえに生じた問題として検討する視点が立てられるが、本年度は、ジャック・デリダやモーリス・ブランショの声にまつわる議論の再検討を詳細に行うことで多くの示唆を得、戦後文学という時代性のみに思考を還元せず、エクリチュールと記憶の問題に根底的にかかわる問題として、声にかんする哲学的な考察をより自由に展開できる足場ができたため、作家たちの試みを単純化することなく、より広い視点からとらえなおし、かれらの文学のありかたを通して、文学とはなにかを問い直すことができるようになった。学術振興会の研究員に採用され、補助金を受けることで、研究指導の委託の制度によって、パリ第八大学のブリューノ・クレマン教授のもと、フランスでの研究を進めることができ、また、これに付随して、フランス国立図書館およびフランス国立視聴覚研究所(INA)、そして、イギリスのレディングにあるアーカイブでのベケットの映像資料の調査を行うという、日本ではできなかったことが可能になり、非常に大きな意義があった(費用は学術振興会の研究遂行費でまかなった)。非常にコーパスの広いテーマ研究であるため、補助金交付期間終了後も、引き続き、残された課題を遂行し、発表していく必要がある。期間中、研究資料のひとつであるデュラスの短いテクストの翻訳を水声社刊行の『水声通信』(28号)にささやかながら寄稿することができた。また、日本での資料調査のために一時帰国した際には、指導教官からの提案を受け、所属する大学院フランス文学科の修士以上のすべての学生・研究者を対象に、本研究にかんする四十五分間の発表をする貴重な機会を得た。さまざまな時代・作家を扱う専門家たちを対象に、一般的かつ専門的な内容の発表を行ったことで、テーマ研究のひとつの可能性を打ち出すことができた。以上の翻訳および発表は、学会や雑誌への公の研究発表ではないため、項目11の欄には未記入だが(なお、同じ理由から、帰国費用は私費によった)、個別作家研究が主流の日本の研究者たちに、テーマ研究の可能性、重要性をうったえることができたという意味でも重要な意義を持ったと考えている。今後、より正式な形での発表を行うことを強く希望している。
著者
佐伯 仁志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、会社法の大改革期にあたって、会社財産の保護を中心とする会社法の犯罪(会社犯罪)がどのような影響を受け、今後どのようなものであるべきかについて、研究しようとするものである。具体的には、第1に、会社法は、近時、自社株式取得規制の抜本的改正や委員会等設置会社の導入など、多くの改正が行われているが、会社法の罰則規定については変更がない。したがって、これらの改正が現行の会社犯罪の解釈にどのような影響を与えるかが検討されなければならない。そのためには、従来の会社犯罪に関する判例・学説を整理することがまず前提作業として必要であるので、このような前提作業を行うとともに、近時の改正が従来の解釈に与える影響について検討を行った。第2に、新しい会社犯罪のあり方を考える上では、諸外国、特に、わが国の会社法に大きな影響を与えている、欧米の会社法および会社犯罪を参照することが有益であると考えられるので、アメリカ合衆国を中心に、比較法的研究を行った。第3に、会社財産の刑法的保護を考える上では、会社財産が危機に瀕した状態における保護も考慮に入れる必要がある。特に、近時の会社法の研究においては、通常時における会社の法律関係を規制する法を理解するためには、危機時における会社の法律関係を規制する倒産法をも視野に入れて考察する必要があるとの考えが有力になって来ているので、会社に関する倒産犯罪、特に会社更生犯罪の研究も行った。第4に、会社犯罪に対する制裁としては、犯罪収益の没収・追徴が、犯罪の抑止および犯罪被害者の救済の両面で重要であり、特に、後者については、法制審議会において答申がなされたので、この点に関する研究も行った。なお、研究成果の公表については、第3および第4については成果の一部を論文として公表したが、第1および第2の部分については、成果の公表するための論文を準備中である。
著者
松井 孝典 阿部 彩子 杉田 精司 大野 宗祐
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 堆積岩及び各種氷の衝突脱ガス過程における化学反応過程の解明を目的として実験を行った. また, 脱ガス過程からの反応生成物が, 地球気候システムに及ぼす影響の定量的評価を行った. 結果として, (1)衝撃脱ガスによるCO2の発生は, 先行研究の推定より非常に高圧でのみ起きることと(2)白亜期末の巨大隕石衝突後には, 従来想定されていたCO2の大量発生ではなくCOが大量に発生したらしいこと, (3)COが大量発生した場合には, 強力な温室効果が起きることが分かった.
著者
加藤 泰浩 中村 謙太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

我々は東太平洋の広範囲に,希土類元素(レアアース;REE)を豊冨に含有した『深海低含金属堆積物』が分布していることを発見した.この新発見の資源は,(1)レアアース含有量が非常に高い,(2)資源量が膨大かつ探査が容易,(3)放射性元素であるウラン,トリウムの含有量が低い,(3)弱酸でほとんどのレアアースが回収できる,など資源として理想的な条件を備えている.公海上に存在しているが,国際海底機構への鉱区申請を経て我が国が開発することができる(技術的にも採鉱が可能な)資源であり,レアアース資源の安定確保という国家的課題を解決する切り札となり得るものである.本研究では,この含金属堆積物鉱床について,特に有望と見込まれる東太平洋域における分布状況とレアアース含有量(併せて他の有用元素含有量も)を網羅的に把握し,将来的な資源開発を見据えた資源ポテンシャル評価を行うことを目的としている.本年度はその初年度として,テキサスA&M大学における堆積物コア試料採取を行い,それらの鉱物同定(XRD),および全岩化学組成分析(XRF,ICP-MS)を行う予定であったが,より包括的な研究である基盤研究(S)が採択されたため,本研究は2010年8月25日をもって廃止となった.