著者
菊池 かな子 小宮根 真弓 門野 岳史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

皮膚の色素増強を起こす病態として、全身性強皮症がある。申請者は以前この病態で血清中のbasic fibroblast growth factor(bFGF)が増強していることを見いだした。bFGFはメラノサイトの増殖に促進的に作用するので、全身性強皮症における皮膚色素増強にはが関与している可能性もある。これに関連し、申請者は最近悪性腫瘍による強皮症類似病態において、全身性強皮症よりも高い血清中濃度について報告した。病変皮膚、原発の悪性腫瘍の一部でもbFGFの高発現が見いだされた。このbFGFは多くの皮膚疾患について関与が考えられる。申請者は皮膚型、および全身型の多発性動脈炎においてやはり血清bFGF濃度の上昇を報告した。やはり病変部の動脈周囲ではbFGFの発現も認められた。同様の手法を用いてより大型の血管の病変でも、bFGFやその他のサイトカインの発現を検討し、一部は発表済みである。色素脱失を来す尋常性白斑に対し、我々はnarrowband UVB療法を行っており、前後で皮膚生検を行いメラノサイト、表皮角化細胞におけるbFGFやその他のサイトカインの発現の変化を観察している。またメラノサイト特有の蛋白の発現も同時に観察中である。5S-cistenyl-dopa(5-S-CD)はメラノーマの血清マーカーとして知られている。我々は現在尋常性白斑、尋常性乾癬といったnarrowband UVB療法が有効である疾患で経時的に5-S-CDを計測し、発表した。またこの療法中に血清尿酸値の上昇も認められた。
著者
本田 由紀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、高校における「特色ある学科」、中でも「特色ある専門学科」の有効性を明らかにすることを目的とする。平成15年度には「特色ある学科」を開設している専門高校6校に対するインタビュー調査を実施した。翌16年度には「特色ある学科」を開設している全国74校の高校に対して質問紙調査を実施した結果、9401通という大量の回収調査票が得られた。平成17年度には調査データの入力・クリーニングを行うとともに、今回の調査データを東京大学社会科学研究所が前年に実施したほぼ同じ内容の高校生調査と合体させることにより、「特色ある学科」に在籍する生徒とそれ以外の生徒との比較を可能にするデータセットを作成した。この合体データの分析結果から、主に以下の諸点が明らかになった。1)「特色ある専門学科」に在籍する生徒には、同じ分野の従来型の学科に在籍する生徒と比較して、性別の偏りが是正されていること、進学志望が増大していること、将来の職業志望や学習動機が明確である傾向があることなど、いくつかの望ましい特徴が観察される。2)「特色ある専門学科」全体で見ると進路先の決定が従来型の学科と比べてよりスムーズになっているとは言えないが、分野別に見ると、特に農業・水産系の分野において、就職先の内定獲得や専門学校進学先決定に関して、従来型の学科よりも成功率が高まっている。3)ただし、生徒の登校回避行動(遅刻、授業をさぼるなど)は「特色ある専門学科」の方が従来型の専門学科よりもむしろ頻度が高く、また教育内容の面白さややりがい、教育内容と将来の職業が関連していると感じる度合いなどについては「特色」の有無による違いがほとんどみられないなど、「特色ある専門学科」の効果が明確に現れていない側面も見出される。ここから、専門学科における「特色」の導入は一定の有効性をもつが、その教育内容については改善の余地がまだ存在するといえる。
著者
野口 博司
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

クズ培養細胞系より得られたカルコン合成酵素cDNAを用い,ゲノムDNAライブラリーを検索しクローン解析を行ない,独立と思われる2種の遺伝子を得て,この上流域について検討した。この遺伝子2,3とbのうち500bpについてはシークェンスが完了している。これをこれまで知られている主なプロモーター領域と比較すると,インゲンのエリシターによって発現する主要なCHSのプロモーターとは上流-380から-840までで高い相同性が見い出された。中でも-145のTATAboxと推定される配列のすぐ上流にコンセンサス領域が存在し,まだインゲンのboxIIIに相当する領域は見い出された。一般には転写開始点から-400bpまでにプロモーター活性が存在すると考えられるが得られた全領域について,プロモーター解析用のベクターとして著名なpBI121に組み込み解析しようとしている。現在これをトリペアレンタルメイティング法により,アブロバクテリウムを介してタバコ,エンドウに戻してプロモーター機能の解析を行なおうとしている。これはブドウ,クズ等のプロトプラストを生成させ,エレクトッポレーション等による形質転換が,良い結果が得られない為,確実に形質転換体を得る目的で行なっている。又現在知られているプロモーターの中ではダイズのプロモーターとはほとんど相同性が検出されていない。また現在ダイズ由来の環元酵素cDNAを用い,クズのゲノムDNAにおける生合成遺伝子のクラスターを調べる上で,CHSと協同する環元酵素の遺伝子を検索し,この上流域を得るべく検討している。現在までの所,いまだアントシアン合成系にかかわると思われるCHSについては得られていない。
著者
遠藤 泰生 荒木 純子 増井 志津代 中野 勝郎 松原 宏之 平井 康大 山田 史郎 佐々木 弘通 田辺 千景 森 丈夫 矢口 祐人 高橋 均 橋川 健竜 岡山 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

領土の拡大と大量移民の流入を規定条件に建国後の国民構成が多元性を増したアメリカ合衆国においては、社会文化的に様々の背景を持つ新たな国民を公民に束ねる公共規範の必要性が高まり、政治・宗教・経済・ジェンダーなどの植民地時代以来の社会諸規範が、汎用性を高める方向にその内実を変えた。18世紀と19世紀を架橋するそうした新たな視野から、合衆国における市民社会涵養の歴史を研究する必要性が強調されねばならない。
著者
三王 昌代
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

蘇禄(スールー)は東南アジア島嶼部に位置し、入手可能な資料が極めて少ないとれるだけでなく、中国との交渉において「外国文字」を用いていた地域でもあり、これまで当時の文書の内容に関する研究はほとんど行われていない。申請者は、東アジア・東南アジア世界に関する相互交渉・相互認識の実態や独自性を明らかにする必要があると考え、18世紀においてスールーと中国のあいだに交わされた国書に着目して研究を進めた。ジャウィの文書解読のため、マレーシア国民大学・マラヤ大学などを訪れて諸情報・資料収集を行った。スールーから中国に届けられた現地語の文書、すなわちジャウィの文書の解読を進め、漢訳されて上奏された文書などをはじめとする漢文資料との比較検討を行った。その結果、おもにマレー(ムラユ)語のジャウィが用いられていたことや、漢文になる段階で文言の置き換え・書き換えが行われたり、ジャウィの文書にはなかった皇帝賛美の文言が加えられていたりしたことなどが分かってきた。現在、このスールーと中国とのあいだの文書往来に関し、研究成果を纏める作業を行っている。また、中国福建省泉州でのフィールドワークの成果は、2008年度日本社会科教育学会で、「泉州(中国福建省)に残る文化交流・交渉の跡を辿る」(滋賀大学教育学部、10月11日、二谷貞夫先生と)と題して発表した(発表要旨は、『日本社会科教育学会全国大会発表論文集』第4号、2008年10月、88-89頁に掲載)。
著者
泉田 洋一 立川 雅司 加古 敏之 新山 陽子 青柳 斉 生源寺 眞一 茂野 隆一 坂下 明彦 川手 督也 荒幡 克己
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、日本の農業・農村経済学の成果を個別関連学会の活動成果総体として分析すると同時に、共通課題を抽出して、その方向性を見極めんとするものである。具体的には14の農業経済関連学会の成果を時系列的に分析し、共通課題の抽出にあたっては、各学会の学会誌掲載論文の形態分析、会員へのアンケート調査に加えて、国際農業経済学会、韓国、台湾、中国の農業経済学会の動向についても詳細な分析を行った。成果は拡大しているものの国際化や情報化への対応等における課題が浮き彫りになっており、関連学会間の相互補完(複合結合)が必要となる。
著者
馬淵 一誠 酒井 彦一 (1985) 祖父江 憲治 渡辺 良雄 黒川 正則 佐藤 英美 平本 幸男
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

本総合研究は微小管をはじめとする細胞骨格による多様な細胞機能の制御機構を明らかにする目的で行われた。主に6つの研究計画を軸として行ったので、個々の成果を以下に記す。1.有糸分裂と微小管-ダイニン系の機能。顕微操作により、染色体運動の原動力は染色体近くの半紡錘体部に局在していることが分かった。T-1によるタル型紡錘体の形成は微小管形成果粒が分散する結果であると考えられた。微小管結合蛋白質MAP1は【G_o】期に細胞骨格微小管、【G_1】期に核に結合していることが知られた。2.細胞骨格蛋白繊維と細胞運動系。微小管は試験管内で自発的に重合・脱重合を繰り返していることが分かった。テトラヒメナの中間径繊維が接合後の減数分裂、核交換の過程に関っていることを示した。またテトラヒメナアクチンのアミノ酸配列を遺伝子レベルで解明した。リンホーマ細胞に発現する重合能の低いβ-チューブリンのアミノ酸配列を遺伝子レベルで解明した。3.軸索内における微小管の動態。ニューロフィラメントの分子量200K成分はリン酸化され、通常のニューロフィラメントの数倍の速さで輸送されることを見い出した。イカ巨大軸索中でアクソラニンが微小管と共に分布していることを確かめた。またアクチンが膜の内側に結合していることを初めて観察した。4.細胞骨格調節蛋白質の分子機能。卵細胞より分子量100Kのアクチン繊維切断蛋白質を発見した。受精後、卵表層においてアクチンの重合がおこること、α-アクチニンの濃縮がおこることを観察した。5.神経興奮と微小管の役割。カルモジュリン阻害剤がNa電流を抑制することを発見した。6.細胞機能と細胞骨格。筋細胞において筋原繊維が付く形質膜域の裏打ち構造を明らかにした。また星状膠細胞における中間径繊維の細胞膜付着域の構造をも明らかにした。以上のように2年間で多くの成果があげられ、班員同士の共同研究も活発になり、今後の発展の基礎が築れた。
著者
空閑 重則 和田 昌久 磯貝 明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

中性塩の中でセルロースに対する膨潤・溶解作用の最も強いものの一つであるチオシアン酸カルシウムの作用を、この溶液中でセルロースが作るゲルの熱的挙動、および固体セルロースの溶解時の熱現象から調べた。その結果塩-セルロースゲルの融解。ゲル化挙動は水-アガロースゲルと類似した熱可逆性を示すことが分かった。ラミー繊維を用いたX線回析による検討から、チオシアン酸カルシウム-セルロース系では溶解に先立ち準結晶性の錯体が形成されることが分かり、その生成の最適条件(90℃、5〜15分)を決定した。そして錯体の回析パターンから、その構造はアルカリセルロースに類似した疎水面の結合によるシート形成に基づくものであることが示唆された。アルカリセルロースの構造とその中でのセルロース分子鎖の状態を検討し、このときにはセルロースは比較的不動化された状態にあること、したがってセルロースI→セルロースIIの変態は水洗・再生の過程に起こることが強く示唆された。またこのとき逆平行鎖のセルロースIIが選択される理由がセルロース分子鎖の幾何学的構造にあると考えられた。チオシアン酸カルシウム溶液による溶解・再生処理の応用を検討し、TEMPO酸化によるセロウロン酸の調製の検討から、この処理がセルロースの化学修飾のための非晶化前処理として有効であることが分かった。これは他の誘導体調製にも応用できると思われる。次にチオシアン酸カルシウム溶液にセルロース以外の多糖も溶解することを利用してセルロース-アミロースの複合物を調製した。この混合溶液もゲル化するが、熱測定からその挙動にアミロースは分子レベルでは関与しないことがわかった。しかしこのゲルにはアミロースが固定化されており、ビーズ化してクロマトグラフィー用充填剤を作ることができることを見出した。
著者
早乙女 雅博 谷 豊信 藤井 恵介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、東京大学建築学専攻所蔵の戦前に蒐集された朝鮮考古資料の全体像を明らかにし、それを集成しデジタル化して活用することと、資料がもつ画像そのものの保存をめざすことである。達成された成果は、次の3点であり、これにより研究者のみではなく多くの人に考古資料を公開することができ、研究に活用することもできるようになった。1,ガラス乾板を箱ごとに集成し、総数728箱、乾板は11,286枚、フィルムは2,550枚、紙焼きは276枚、総数14,112枚であり、その内容は日本、朝鮮、中国、東南アジア、中央アジア、西欧にわたることをあきらかにした。このうち朝鮮関係の2,500枚の乾板から四切紙焼きを2部ずつ作成し、撮影者、画像内容や参考文献などを調査しデータベースを作成した。2,紙焼きの1部は永久保存とするため、1枚ずつ中性紙保存封筒に入れ、さらにそれを30封筒ごとに中性紙保存箱に収納した。封筒と箱は、ISOの規格にもつづく現在考えられる最高の基準をもちいた。閲覧用の1部は有害な可塑剤を含まないポリプロピレンファイルに入れ、ファイルとして綴じた。3,拓本・図面・模写は、総数1,144件あるが、そのうち朝鮮関係は340件である。これについては、『朝鮮建築・考古資料基礎集成』と題して、画像を含めたデータベースをCD-ROMで作成した。
著者
丸山 昇
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本年度は研究のまとめの年であったので、前年度に引き続き、つぎの二項がまず目標とされた。1.鹿地亘資料自体の整理の完了。2.鹿地亘資料目録の完成。前年度までに、資料を保存と利用に堪える形にすること、すなわちマイクロ・フィルム化と、個々の資料を、一つずつクリアファイルに収める仕事を終え、内容の検討を進めていたが、個々の資料の検討が進むにつれて、前年度までの資料の整理(個々の資料の作られた年代の確定、性格の分析、それに基づく分類等)に不正確な部分が残っており、一応作られていた目録にも誤りや不適切な個所が多いことが明かとなった。そのため、個々の資料の根本的再検討と、それに基づく資料目録の抜本的作り直しを行った。その結果、1.2.については、一部になお解決すべき疑問を残すとはいえ、ほぼ目標を達成し、本資料の保存・活用のための基礎的条件を整えることができたが、上記二項に予想外のエネルギ-を費やさざるを得ず、本研究着手前にはむしろ中心問題と考えていた、文学関係資料の検討・位置づけの完成は、今後の課題として残さざるを得なかったことは、遺憾であった。また、資料を検討するうちに、当初から目的の一部でもあった3.当時を中心にした鹿地亘の正確な年譜の作成。4.鹿地亘の回想録類の誤り・矛循の検討。5.当時の状況、特に鹿地についての中国側の資料との比較・対照。等が、資料の年代の確定、その性格の検討等のためにも不可欠であることが明らかになり、この点についても作業を進め、ほぼ見通しを得た。より完全なものにするためまでには、もう一歩の努力と時間が必要とするが、遠からず発表できる予定である。
著者
石田 哲也 前川 宏一 半井 健一郎
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究の主たる成果は,以下の点に集約される.1.無機複合材料の硬化から劣化過程を時空間上で予測する熱力学連成解析システム「DuCOM」をベースに、微生物による有機物分解反応を逐一シミュレーション可能な「BioDuCOM」システムの構築に成功した.熱エネルギー,水分移動,および酸素移動と好気性微生物反応モデルを連成させることで,任意の形状,寸法,温度・湿度・通気に対する環境条件のもと,反応過程をシミュレーションするシステムである.限定された範囲ではあるが,温度,含水量,ならびに酸素を変化させた実験結果に基づきパラメータを設定することに成功した.モデルの一般化および高度化のためには更なる実験検証が必要であるものの,任意の廃棄物組成,温度,含水量,ならびに酸素供給量における反応を予測する数理モデルのプロトタイプを開発することに成功したのである.2.新しい原理に基づく有機系廃棄物のコンポスト化技術を提案した。最先端のコンクリート練混ぜ技術「MY-BOX」を改良・発展させ、コンポスト材料を対象とした重力駆動式かくはん・切返し装置「BioMY-BOX」を開発した。材料かくはん実験結果から,かくはん後の材料の均等性は手動かくはんと比べてほとんど差が認められなかった。ここで,かくはん工程に要する時間はわずか数秒であった。さらに,重力駆動型かくはん・切返し装置と発酵槽を鉛直直列に連結した自己切返し反応システム(STRシステム)を提案した。タイ王国における検証試験を通じて,STRシステムが妥当なかくはん・切返し性能を有すると共に,適切な発酵状態を実現することが明らかになった.
著者
新井 洋由 井上 貴雄 高根沢 康一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

生体膜を構成するリン脂質には炭素数や二重結合の違いにより様々な脂肪酸鎖が結合している。このような「リン脂質脂肪酸鎖の多様性と非対称性」は昔から良く知られているが、その形成機構や生理的意義はほとんど明らかになっておらず、生体膜リン脂質分野における大きな課題である。我々は、遺伝学的解析が容易な線虫C. elegansを用いて、リン脂質脂肪酸鎖の多様性・非対称性に関与すると考えられる新規脂質関連遺伝子について、網羅的に欠損変異体を作製し、その生理機能ならびに反応機構を解析を行った。主な研究成果は以下のとおりである。・細胞内型ホスホリパーゼA1の機能解析を行い、細胞内型ホスホリパーゼA1が細胞内小胞輸送系(特に逆行輸送系)を介し、上皮系細胞の非対称分裂を制御することを見出した(非対称分裂に関わるβカテニンの細胞内非対称局在を制御)。・上皮細胞に選択的に発現するホスホリパーゼPAF-AH(II)についてノックアウトマウスを用いた解析を行い、PAF-AH(II)が酸素ストレスによろて障害を受けたリン脂質を代謝し、酸化ストレス防御因子として機能することを個体レベルで示した。・線虫をモデルとした遺伝学的手法により、細胞内シグナル伝達において極めて重要な役割を持つホスファチジルイノシトール(PI)に高度不飽和脂肪酸を導入する遺伝子mboa-7を同定した。今後、mboa-7/LPIATの解析により、PIの脂肪酸鎖の構造がPIの関与する生命現象にどのように寄与するか、といった生体膜脂肪酸分子種の本質に初めて迫ることが可能となる。
著者
今江 禄一 中川 恵一 山下 英臣 芳賀 昭弘 篠原 広行
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,体幹部放射線治療中の呼吸による標的の移動量を明らかにした上で,標的の呼吸性移動を考慮した回転型強度変調放射線治療を用いて体幹部定位放射線治療を実現した.また,治療中の対象内のCT画像を得ることが可能である本手技を用いて,放射線治療中の標的の位置検出と移動量の評価を行った.本研究の達成により放射線治療中の標的や臓器の位置が同定可能となり,治療中の投与線量や分布を再評価することが可能となった.
著者
森 俊哉
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題では、火山からのガス放出量の短周期時間変動を測定するため、火山噴煙中の二酸化硫黄カラム量の2次元分布を測定できるような装置を新たに開発し、短周期変動について知見を得ることが目的である。CCDカメラに二酸化硫黄の紫外吸収帯のある波長域の紫外バンドパスフィルタを取り付けて観測することで、二酸化硫黄カラム量の2次元分布を可視化する方法を開発した。これにより、これまで難しかった、秒スケールでの二酸化硫黄放出量の測定が可能となった。平成18年度の前半は、これまでの観測装置をさらに改良し、2台のCCDカメラに上記のバンドパスフィルターと二酸化硫黄吸収がない波長域のバンドパスフィルターをそれぞれ装着した。同時に撮像した2つのCCDカメラでの画像を合成することで、約2秒間隔で二酸化硫黄噴煙の分布の画像を撮影できるようになった。桜島火山の観測では、この新しい装置を用いて火山ガス放出率の秒スケールでの変動の様子を明らかにした。そして、二酸化硫黄放出率が数分の周期で平均値に対して±80%程度変動していることが明らかにすることができた他、この周期が約8.3分と3.9分であることが分った。9月末から10月始にかけて、イタリアのエトナとストロンボリの2火山で観測を行った。特にストロンボリ火山での観測では、小爆発に伴う二酸化硫黄放出率の変動の様子も二酸化硫黄分布映像でとらえることができた。噴煙中の二酸化硫黄を可視化する測定手法をまとめた論文をGeophysical Research letters誌に発表した(次頁の研究成果参照)とともに、10月には熊本県で開催された日本火山学会で桜島での成果を発表した。また、12月には米国サンフランシスコで開催されたAGUの秋季大会でこれまでの成果の発表を行った。
著者
加藤 久典
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

昨年度の研究において、転写因子ATF-4およびボスファターゼPP1cのノックダウンがアミノ酸情報伝達を減弱させることを見いだした。本年度はこれらのさらに上流に位置する伝達経路の関与を明確にする目的で、mTOR経路の上流因子として最近見いだされたhvps34と、これを調節することが示唆されているp150に着目した。ノックダウン効率の検討では、HEK293細胞において、hvps34のmRNAレベルは約30%に、タンパク質レベルは約40%に減少した。一方HepG2においても同程度のノックダウン効率を得ることができた。何れの細胞株においても、p150のmRNAは約30%に減少した。アミノ酸によるmTORの下流にあるp70S6キナーゼのリン酸化はhvps34とp150の何れのノックダウンよっても大きく減弱した。これらのことから、各細胞におけるアミノ酸シグナルの認識にvps34が関わっていることを明らかにし、認識機構の全貌解明に本実験系が有効であることが示された。一方、前年のDNAマイクロアレイによる解析で、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)の遺伝子をアミノ酸欠乏に対する高応答遺伝子として見いだしたが、この遺伝子の上流域に既知のアミノ酸応答配列に類似した配列が存在することがわかった。この領域を含むレポーターベクターを作成し、転写因子ATF-3やATF-4と共発現させたところ、この領域がこれら因子によって強力な制御を受けていることが示された。このことから、PEPCKはこれまで用いてきたIGFBP-1同様にアミノ酸情報伝達を解析する上での有用なツールとして利用できることがわかった。
著者
長瀬 修 山崎 公士
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

研究期間に国連障害者の権利条約交渉は大きく進展した。平成16年度には、3回の特別委員会(第3回-第5回)、平成17年度には2回の特別委員会(第6回と第7回)が開催された。平成16年1月の作業部会でまとめられた作業部会草案に基づく交渉の成果は、平成17年10月に議長草案として実り、平成18年1月・2月に開催された第7回特別委員会では、その議長草案に修正が加えられたワーキングテキストがまとめられた。条約交渉は最終段階を迎えつつある。本研究の特色である障害学と国際人権法学両方からの分析が、障害者の権利条約の研究に欠かせないことが明らかになっている。障害学の(1)社会モデル(社会の障壁除去)、(2)文化モデル(障害者の生の承認)、(3)障害者自身の参画(「当事者」参画)、という主要な要素はこの条約に確実に反映されている。国際人権法学の観点からは、他の人権条約との比較対照の重要性も明らかである。とりわけ、女性差別撤廃条約と子どもの権利条約は本条約案の中でも、ジェンダー・女性と子どもが大きな論点となっていることからも、関連した考察が不可欠である。さらに、人権に関する国内・国際的システムの分析も並行して実施した。国際的人権条約の実施の要となる国内での実施体制に関する研究は欠かせない。本研究では、実際の交渉現場に立ち会うことで、ダイナミックな条約交渉、策定過程の報告・分析をほぼ同時進行の形で社会的な還元を行ってきたことも大きな成果である。国際人権法学会等の関連する学会等や、インターネットのウェブサイトでタイムリーに情報を提供してきた。今後も引き続き、大詰めを迎えた策定過程の分析を遅滞なく進めると共に、条約の採択に向かって、いっそう緻密な条約内容の分析そして、国内実施に向けての考察を進める必要がある。
著者
加藤 久典
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

様々なタンパク質栄養条件に応答した肝臓や皮膚での遺伝子発現の網羅的応答を幅広く明らかにした。それらのデータを有効に解析するためのバイオインフォマティクス手法を高度活用し、栄養研究における情報の有効利用を推進した。また、高脂肪食摂食や運動、抗肥満食品因子、マイルドなカロリー制限等に対する網羅的遺伝子発現やタンパク質量の応答に関する情報を蓄積した。従来から構築して維持しているニュートリゲノミクスデータベースを大幅に改良し、世界のニュートリゲノミクス研究を格段に発展させる礎を築いた。
著者
小松 輝久 青木 優和 鰺坂 哲朗 石田 健一 道田 豊 上井 進也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東シナ海においてブリやマアジの稚魚の生育場として流れ藻は重要な役割をはたしている.しかし,流れ藻についての知見は今までほとんどなかった.そこで,東シナ海の流れ藻の分布,生態,供給源について調べた.その結果,流れ藻がホンダワラ類のアカモクのみから構成されていること,黒潮フロントよりも大陸側に多数分布すること,中国浙江省沖合の島のガラモ場ではアカモクが卓越し,供給源となっていることを明らかにした.
著者
砂村 倫成 山本 啓之 岡村 慶 福場 辰洋 臼井 朗 リンズィ ドゥーグル
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

海底下の大河の海洋環境への化学・生物学・生態学的影響評価のため、深海熱水プルームの時空間定量化を実施した。熱水プルーム観測のため、現場測器・サンプリング装置・音響探査手法を開発し、西太平洋やインド洋の18箇所の熱水域にて、自律型潜水艇を含む調査航海を実施した。熱水プルーム中での微生物群集組成と噴出熱水成分の相関性を見出し、プルーム内での4つの大河仮説が検証された。熱水プルーム内での微生物による一次生産量測定手法を開発し、一次生産量を見積もるとともに、動物プランクトン化学分析により、熱水プルームでの有機物生産が深海生態系に一定の影響を及ぼしている証拠を初めて提示することができた。