著者
川村 静児 FRIEDRICH Daniel FRIEDRICH Daniel
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

当該年度には以下の研究を実施した。(1)鏡は吊り下げらており、原理的には揺れがおさまれば、常に一定の平衡状態の姿勢が再現されるはずである。しかし、我々の吊り下げ鏡は、大きな揺れにより平衡状態が変化したり、また時間がたつと姿勢が変化したりして、干渉計を安定に動作させることが困難であった。そこで様々なテストを行った結果、鏡とワイヤーの接触点を規定するクランプに問題があることが判明した。そこで、ワイヤーのクランプ機構を改良したところ、吊り下げ鏡の姿勢は安定になった。(2)輻射圧の反バネ効果は、20mg鏡の角度不安定性を引き起こすことが分かっている。これに対し、我々は、1インチ鏡の姿勢制御を行うことによりこの不安定性を回避する方法を検討してきた。複雑な制御トポロジーを持つこのシステムについて適切なモデルを構築しそれを使いシミュレーションを行ったところ、以前に得られた実験結果を非常にうまく説明することに成功した。(3)改善された吊り下げ鏡を用い、光共振器を動作させたのだが、実験室の振動が大きく、安定な動作が困難であった。実験室内の振動レベルを測定したところ、数ヘルツの周波数で、引っ越し前に実験を行っていた場所と比べ数倍程度大きく、それにより鏡の姿勢が揺らぎ、昼間は全く動作状態に追い込むことができず、深夜にかろうじて短時間の動作が可能となるような状況であった。(4)装置の振動レベルを抑えるため、より強力な防振システムの開発を行っている。具体的には、装置全体を振り子で吊るし、磁石を用いた渦電流によって共振周波数での揺れを抑える。(5)周期的微小重力環境については、断続的なデータの解析方法を確立した。実験装置に関する種々の改良を行った。いろいろな想定外の困難のため、当初の計画通りには進まなかったが、最終目標に向かって一歩進むことはできたと思われる。
著者
呉 志鵬
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

「個人フォトコレクションの分析と可視化」という課題を研究しているが、昨年に画像分析に焦点を置き、「6次元ラベル」に基づく新しい画像アノテーション方法を提出した。その方法は現在流行するソーシャルネットワークを利用し、インターネットにおける画像の視覚的な特徴及びそれに付属するソーシャルインフォメーションへの分析を通じて画像を精確に注釈する。今年度、画像の可視化に注目した研究を行った。具体的には以下の2点に分けられる。1. インターネットにおける大量の画像向けの可視化 : 制約付きコラージュの即時生成本研究では、新しい自動的・高速なコラージュ生成を提案した。複雑な画像顕著性分析をしないで済み、ユーザの定義したキャンパスサイズにぴったりおさまるように入力画像のコラージュを生成する。その方法は大量データのリアルタイム動的画像コラージュの生成に適している。極めて高速であり、100枚の画像を処理するには0.5ミリ秒以内で済み、従来の計算法より速度は何オーダーも桁違いに早くなった。その成果は国際会議APASIPA 2013に発表され、フルペーパー論文をすでにIEEE Transaction on Multimediaに投稿した(査読中である)。2. ユーザー個人向けの画像可視化 : 漫画化等の視覚効果の生成我々の研究は自然的画像の1. 漫画2. 鉛筆手描き3. アニメーション4. 油絵への高速な変換処理を実現した。漫画を例にしてみれば、1000^*800の入力画像である場合、既存研究では数十秒から数分間までの時間が必要であるのに対して、我々の方法では0.8秒だけで十分であり、百倍にも早くなっていると言える。出力画像の品質から見ても、既存の5つの漫画風画像転換Appと比較しても提案手法の品質が遥かに優れていることを確認した。本研究は国際会議PCM2013とICASSP2014にて発表した。また、関連のdemoを超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(URCF2013)で展示した。
著者
神田 真司
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

生殖を制御するという報告があるキスペプチン神経系が持つその他の機能を包括的に理解するため、受容体を発現する細胞をGFPで可視化し、RNAseqによって同定するという新しいアプローチを用い、キスペプチンによって制御される神経系を同定した。また、この方法によって同定したニューロンに対して電気生理学的な手法によってキスペプチンの作用を解析した。キスペプチンによって、摂食や恒常性維持に関連するペプチド神経系、行動への関与が示唆されるペプチドニューロンに対し、持続的な脱分極を引き起こすことが示唆された。また関与が示唆されたいくつかの神経ペプチドについて、TALEN法によるノックアウト個体の作出を行った。
著者
長谷川 まゆ帆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

この研究課題のねらいは、アルザス・ロレーヌの国境地帯に17~18世紀に存在したという慣習「産婆を教区の女たちの多数決によって選ぶ」をとりあげ、この時代に王権による助産婦の確立/養成の投げかけた波紋とその現象の意味を、ミクロな社会分析を通じて解き明かすことにあった。研究成果としては、これまでの研究蓄積を踏まえて、問題の所在を明らかにし、この研究を一つのモノグラフとしてまとめ上げるための包括的な枠組みを構築しえたことにある。
著者
朝倉 三枝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、1920年代にパリのモード界で活躍した画家のソニア・ドローネーが企てたイメージ戦略を、同時代に典型的な女性像「ギャルソンヌ」との関連から解明しようと試みるものである。本年度はまず、フランス国立図書館のアーカイブに保管されているメゾンの宣伝用の写真や広告文の分析を行い、彼女が1920年代初頭にモード界に進出する際、どのような手法で他のデザイナーとの差別化を図ったのかを考察した。その中で、ソニアが当時、パリのモードに現れたばかりの新しい女性像、すなわち活動的で媚びないギャルソンヌのイメージをいち早く取り入れると同時に、写真の背景に自分や夫で同じく画家のロベール・ドローネーの絵画作品を設置したり、広告文中で繰り返し「キュビスムの画家」という言葉を用いたり、さらには彼女自身がモデルとして自作の衣服や装飾品を身に纏い宣伝用の写真に登場することで、自らの画家という出自や、同時代の前衛芸術との結びつきを意図的に強調していたことが明らかとなった。また本年度は、ソニア・ドローネーとの比較検討を行うため、同時代に活躍していたクチュリエ、ジャンヌ・ランバンの仕事にも注目し、パリの装飾美術館所蔵のランバンの写真資料の分析も併せて行った。その結果、ソニアの芸術家という立ち位置を改めて確認すると同時に、これまで保守的と評価されてきたランバンのデザインが、実際には懐古的でロマンティックなものから、ギャルソンヌにふさわしい現代的な感覚に溢れるものまで、実に幅広くユニークなものであったことを突き止めた。以上のように、「ギャルソンヌ」の女性表象という視点を得ることで、本研究は服飾史や美術史、ジェンダー論など、諸分野においてこれまで見落とされてきた問題に新たな視座を提示することができたものと思われる。
著者
藤野 陽三 長山 智則 本田 利器
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、社会基盤施設に関わる災害事故の未然防止、保全の効率化のためには振動モニタリング法が有効であることを,いくつかの実構造物におけるモニタリングデータの分析例から具体的に明らかにした.また,「想定外」事態の未然検出に対しても、その有効性を示すとともに,社会基盤施設の終局性能の推定の立場からモニタリングデータからのモデル化を具体的な例を通じて示した.なお,ワイヤレスセンサーによるマルチホップデータ通信などのミドルウェア技術や損傷検出技術についても高い成果を挙げた.
著者
高野 量
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

PB1-F2タンパク質発現ミュータントであるウイルスをリバースジェネティクス法により作出した.作出したウイルスのウイルス学的特徴を調べるべく,これらのウイルスをヒト腎臓由来細胞株であるHEK293細胞に感染させ,遺伝子発現量の違いをqRT-PCR法により解析した.その結果,野生型PB1-F2タンパク質を有するウイルス株は,それが短い・あるいは完全に欠損している変異株と比べて,有意にインターフェロンベータ(IFN-β)の発現を強く誘導することが判明した.一方で,感染細胞内において,PB1-F2と相互作用する宿主因子を探索すべく,PB1-F2タンパク質を強制発現した細胞において免疫沈降を行った後,LC-MS質量分析器を用いて解析を行ったところ,90個の新規宿主タンパク質が同定された.感染細胞内においてPB1-F2タンパク質と相互作用し,かつIFN-βの発現に関与するタンパク質を同定するために,PB1-F2タンパク質発現ミュータントと,野生株のインフルエンザウイルスを用いて,LC-MSで同定された宿主因子をsiRNAを用いてノックダウンさせた細胞において,それぞれのウイルスを感染させ,IFN-βの遺伝子発現量をqRT-PCR法により測定した.いずれの宿主因子をノックダウンした細胞においても,IFN-βの遺伝子発現量に大きく影響する因子は同定されなかった.これらの知見から,PB1-F2タンパク質は感染細胞内において,IFN-β誘導能を示すものの,同定されたPB1-F2と相互作用する宿主因子によって介されるIFN-βの発現誘導形態を取らないことが示唆された.先行研究から,新型インフルエンザウイルスにおいて,PB1-F2を保持する変異体が,野生株と大きな哺乳類への病原性の変化を示さないことが判明しており,PB1-F2タンパク質の宿主への病原性への寄与は大きくないことが示唆された.これらの結果から,新型豚由来HINIウイルスにおいて,PB1-F2タンパク質が,宿主応答へ大きな影響を持たないことが示され,新型ウイルスの強毒化にPB1-F2タンパク質が寄与するかという本研究の目的は達成された.
著者
佐野 信雄 森田 一樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度は、既存の500W、2.45GHzの電子レンジでCaO,SiO_2,Al_2O_3,FeO,Fe_2,O_3等の各種酸化物の加熱挙動を予備実験として把握した後、1.6kWのマイクロ波加熱装置と温度測定系のセットアップを行い、模擬転炉スラグ(CaO-SiO_2-Fe_tO系)のマイクロ波照射による加熱挙動を調べ、スラグ自身が加熱されることと、加熱挙動が鉄の価数すなわち析出結晶相の種類に大きく依存することを明らかにした。スラグ中に析出する相の中で最も加熱の寄与が大きいのはCaFe_3O_5であり、誘電損失値も最大であった。平成8年度は同スラグからの鉄の回収やりんの除去を念頭において、炭素共存下でのマイクロ波による加熱挙動を調べると共に、スラグ中の鉄やりんの挙動について検討を行った。マイクロ波の照射により約4〜6分で試料は1700℃に加熱され、炭素の含有量に伴い加熱速度は増加した。また、加熱試験中にスラグ中のFe_tOがグラファイトにより還元され、Fe-C合金相がスラグ下部に生成した。試料中Fe_tOの還元に必要なC量に対するC添加量をC当量とすると、C当量の増加と共にスラグ中に残留するFe量は減少し、C当量が1.5以上ではスラグ中の残留Fe濃度は2mass%以下であり、金属Feの回収率も90%以上に達している。また、C当量1以上では50〜60%のりんがFe-C合金中に還元されて移行するが約20%は気相中に除去されたものと考えられる。従ってスラグ中には15〜20%程度のみのりんが残留した。以上の結果により、炭素共存下での模擬転炉スラグのマイクロ波による加熱が確認され、鉄源の回収およびスラグ中からのりんの除去の可能性が示され、転炉スラグ、ダストの再利用および鉄、りん資源回収システムが提案された。
著者
高橋 和久 阿部 公彦 富山 太佳夫 丹治 愛 丹治 陽子 原田 範行
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究をつうじてわれわれは、大学教育のなかで教育目標の明確化(とくに就業力との関連で)が求められてきている現状を踏まえ、(1)かつて教養主義という名のもとにほとんど自明とされていた英文学教育の理念・目的を、学生の就業力養成と関連させながら再構築し、(2)その理念・目的を実現するための英文学教育の具体的な方法論と教材を開発するとともに、(3)そのような英文学教育の理念・目的と連動する英語教育の方法論と教材を開発したうえで、研究の成果を日本英文学会の活動をとおして発信することをめざした。
著者
木村 文信
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は, 柔軟物に触れた際に感じる触感である硬軟感を, 装置使用者に対して再現提示するシステムを構築することを主題とした. このようなシステムを実現するにあたり, 次に示す2点を研究対象とし, 従来研究で想定および対応できていない点に対応させることを目的とした. (1)硬軟感を提示する触感提示装置の開発. (2)硬軟感情報を取得する触覚センサの開発.(1)に関しては, 再現される柔軟物体が弾性物質で構成される均一柔軟物体(単調な硬軟感)に限定されていたという点が従来研究の課題であった. 本研究ではこの課題を克服すべく, より多様な硬軟感の再現に取り組んだ. 柔軟物体例として, 「厚みが有限な柔軟物体」「しこりを含む柔軟物体」を想定し, それぞれの提示手法を実現することで硬軟感提示の多様化を検討した. 前年度で開発した, 張力制御された柔軟シートで指先を包み込む機構によって上記柔軟物の提示を行った. 厚みが有限な柔軟物に指先を押し込んだ際に得られる触感を「底着き感」と命名し, その提示法を提案した. 底に着いたと感じられる点からシートの張力制御によって指先の圧分布を変え, 底着き感を再現した. 提案手法によって表現される柔軟物の厚みが可変であることを確認できた. しこりを含む柔軟物に関しては, 前年度から検討してきた提示手法をさらに発展させ, 対象物をなぞっている際に感じられる触感が生成できることを確認した.(2)に関しては, 前年度で開発した光弾性触覚センサの計測値に対する情報処理手法の検討を行った. 情報処理によって対象物の特徴を抽出する手法を提案した. また, 提示装置と統合して遠隔提示を実現するため, 抽出された情報を提示装置駆動に必要な情報へ変換する手法を考案し, 遠隔提示システムの試作を行った. 以上によって, 硬軟感提示の応用先の一つである遠隔触診システム等の開発に必要になると考えられる知見を得ることができた.
著者
榎本 百利子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ハスを使った工芸品作りの現状を調査し、関連するハスの利用法、加工法を整理して体系化するとともに、児童など工作、加工の経験の少ない者でも利用できるような形で情報の公開を進めることを目指した。児童や未経験の市民でも参加できるような体験学習への応用を念頭に置き、工芸品の中でも比較的制作の容易なものを選び、その作業手順を整理して提示することとした。従来、ハスを材料とした工芸品といえば、ハスの生きた植物体の利用が主で、枯れた植物体はほとんど利用されていなかった。実際にハブの栽培を行っている現場では、生のハスの葉や花を採取することは時に生育への影響もあり得るためになかなか行えないが、逆に枯死体は秋から冬に多量に発生して処分に困るくらいである。このハスの枯死体に着目し、工芸品への加工に役立てることを考えた。まず花蓮の既存の利用法について、インターネットや文献等により調査を行った。その中で実施が容易と判断されたものについて、現地に赴き作成過程を検分し、さらに自ら実際に作成することによって、実施可能性を評価した。ハスの既存の工芸品としては、ハスの葉柄の繊維を利用した織物、花托を利用した人形やランプ作り、ハスの葉や花托を利用した染色加工、花托や茎を利用した衝立や置物などがあった。ほかに食品や入浴剤、香料などへの利用もあったが、それらは工芸品としての範疇を超えると考えられたため、ここでは取り上げなかった。これらのハスの利用が盛んな土地として、花ハスの栽培で有名な南越前市〓旧、南条町)に着目した。同町では工業的に、蓮の葉を練りこんだうどん、蓮の葉茶、入浴剤が作られており、町内の温泉施設でハスを利用した他の加工品とともに販売されている。ここを訪問して、織物および染色の工程や施設、その他作業に必要な事項について視察させていただいた。織物は、7月下旬から9月にかけて蓮の葉柄を収穫し、加熱薬品処理、乾燥、繊維をよる等様々な過程を経て得られた糸を材料として作られていた。染色には、花托と葉が用いられていた。葉については、夏に収穫した葉を冷凍保存し、染色に用いると説明を受けた。視察の結果、糸を取り出すことは未経験者にとっては容易ではないと考えられたため、本研究の目的にかなう工芸品として、布の染色に注目した。夏の間にハスの紅色の花弁を集めて乾燥保存しておくとともに、秋から冬にかけて花托と、枯葉を葉柄をつけたまま採取した。また、夏に葉を採取してハスの葉茶を作っておいた。これらから色素を抽出した。花弁は食用酢でもんでから、他のものは特に何の前処理もせずに煎じ、染色液を得た。媒染液には焼きミョウバン液を使用した。染色の対象となる布としては、一般的によく染まるといわれている絹(オーガンジー)のほか、ウール、綿(ガーゼ、シーチング)、麻、さらに対照としてポリエステルのオーガンジーを準備した。綿と麻に関しては、豆乳で漬け込む前処理を実施したものも準備した。染色を行った結果、絹、ウールがよく染まり、続いて前処理をした綿、麻、未処理の綿、麻の順に成績がよかった。ポリエステルは染まらなかった。染色液としては、花托が一番濃く染まったが、染色への使用が難しいとこれまでいわれてきた花弁も、酢を使用することで染色材料として利用できることが確認された。児童・生徒を含む一般の市民のかたがたを対象として、ハスを利用した工芸品づくりの体験学習を行う場合、染色はそれほど複雑な作業を必要とせず、また特別な機器もいらないため、比較的実施が容易である。ただし、個々の工程に比較的長い時間を要することと、熱湯の取り扱いを伴うことから、児童を対象として行う場合には実施の上でこれらの問題点を解消するための工夫が必要であると考えられた。ハスに関心をお持ちの、比較的年配のかたがたを対象とした体験学習には適した題材であろうと思われる。
著者
中村 航
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

最新の観測および理論計算の結果をもとに、新しい軽元素合成シナリオを提案した。Ib/c型超新星になるような星の周りには、その星が進化の過程で放出した物質が密度の高い星周物質を形成しているはずである。爆発で加速された星の外層が、星周物質と相互作用することによって軽元素が合成されるであろう。特に、星の表面にHe/N層が残っていれば、破砕反応による^9Be生成やHe+Heの融合反応による^<6,7>Li合成が効率的に起こることが期待される。Hirschi博士(キール大学)から提供を受けた金属欠乏星のモデルを初期条件として超新星爆発の数値計算を行い、外層の加速を調べた。また、そのモデルに対応する質量放出のデータをもとに星周物質の分布を求め、加速された粒子が星周物質を通過する際のエネルギー損失をモンテ・カルロ法によって算出した。計算の結果、爆発で加速された粒子の大部分は星表面近くの密度の高い星周物質領域でエネルギーを失い、従って軽元素合成反応もその領域でほぼ完結してしまうことがわかった。これより、合成される軽元素の量や比は、星表面と表面近くの星周物質の化学組成に強く依存することが予想される。この結果を受けて、銀河ハロー中の金属欠乏星の表面に存在する軽元素は、その星が形成される引き金となった超新星の特性を反映しているのではないかと推測した。軽元素の相対比から表面組成を、軽元素と酸素などの重元素との比から爆発エネルギーを算出することが可能である。^6Li量が測定されている最も金属量の少ない星LP815-43の観測から、この星は、質量比にして(He,C,N,0)=(0.95,0.01,0.03,0.01)という表面組成を持つ星が1.2×10^<52>ergsの爆発エネルギーでlb型の超新星爆発を起こしたときに、星間空間に放出されたガスから形成されたと結論付けた。
著者
居村 岳広
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

電磁共鳴方式のワイヤレス電力伝送は、負荷変動が激しく、素早い制御が望まれている。従来のコンデンサを機械的に切り替える方式ではスピードに限界があり、素早い制御を可能とするパワーエレクトロニクスと磁界共鳴技術の融合が必要とされていた。本研究では、(1)パワエレによるインピーダンスマッチングとして、インピーダンス変動による効率低下を防ぐために、パワエレによる素早い制御技術の確立を行ない(2)推定技術として、負荷変動が生じたことを把握する技術の確立を行ない(3)複数負荷への電力配分として、負荷の数が増減した際にも任意の配分で電力が送れる技術の確立を行った。
著者
牧島 一夫 中澤 知洋 平賀 純子 稲田 直久 国分 紀秀 児玉 忠恭 松下 恭子 国分 紀秀 川原田 円 児玉 忠恭 松下 恭子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、「銀河が銀河団プラズマ中を運動するさい、両者は強く相互作用し、銀河のエネルギーがプラズマへ受け渡され、銀河は落下するはず」という仮説を検証することである。X線衛星「すざく」などで観測を行なった結果、銀河団の中心では大規模な磁気構造が存在し、条件によりプラズマ加熱が起きていることを発見した。また可視光データとの比較により、宇宙年齢かけて実際に銀河が中心に落下してきた徴候も得た。
著者
佐藤 克文 島谷 健一郎 依田 憲 渡辺 伸一 高橋 晃周 坂本 健太郎 赤松 友成 高橋 晃周 坂本 健太郎 赤松 友成
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

加速度時系列データから簡便にスペクトログラムを作成し、k-means法による自動判別を行い,いくつかの行動にカテゴライズするソフトウェアーEthographerを作成した。本ソフトを用いることで、複数種類の対象動物から得られた加速度時系列データを簡単に解析する事が可能となり、対象動物毎の生理・生態学上の発見に加えて,種間比較による研究成果が得られた。
著者
佐藤 朋子
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究は、精神分析の創始者フロイトによる生物学の知見の援用や生物学からの語の借用に注目し、彼独自の心理学的言説、なかでも情動の問題の錬成におけるそれらの意義を検討し、その一部を明らかにした。とくに痛み、喪、不安などの不快な情動について後期の彼が行った身体的次元の問いの提起がトラウマをめぐる思索の深化を伴っていることを明確にした。また二〇世紀ヨーロッパ思想史の観点から彼の情動概念の重要性を指摘した。
著者
松本 重貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

暗黒物質の有力な候補の一つとして、Neutralino LSPがある。このNeutralino暗黒物質を職説、間接的に捕らえようとする観測が現在行われており、また多くの将来観測も計画されている。これらの観測のうち、我々の銀河のハローにおけるNeutralinoの2光子へ対消滅からくるガンマ線の観測は、背景ガンマ線に対して特長的なシグナル(Line signal)を示し、またその観測から暗黒物質の性質も精度よく決まることから注目を集めている。この対消滅過程は輻射過程であり、1-loopの計算はすでに行われている。この計算により、NeutralinoがHiggsino-likeあるいはWino-likeで比較的重い質量であるとき(数百GeV以上)、断面積はWボソンの質量でのみ抑制され、Neutralinoの質量に依存しなくなることが明らかになった。これは、もしNeutralinoが重いとすると、この観測は他の観測に比べ非常に有効になる事を意味する。一方、この素過程は理論のユニタリティーにより上限がつく。実際この制限はNeutralinoの質量の2乗に反比例している。このため質量が充分大きくなると、どこかで1-loopの計算は破綻し高次の影響と取り入れる必要が出てる。今回、Neutralinoの質量から2光子への対消滅断面積に対する高次の影響について調べた。具体的には、非相対論的場の理論の手法を応用し、これら高次の影響を比較的簡単に計算する事の出来る有効ラグランジアンを構成した。またこのラグランジアンを用いて、NeutralinoがHiggsino-like及びwino-likeの時に、どのくらいの質量で1-loopの計算が使えなくなるかを定量的に評価した。結果、wino-likeの時には約10TeV以上、Higgsino-likeの時には約1TeV以上のときに、1-loopの計算が破綻することを明らかにした。
著者
田中 仁
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,多重劣線形最大作用素および多重劣線形分数積分作用素に対し,Morrey型ノルムによる加重付きノルム不等式を考察し,加重が満たす適切な十分条件を与えることに成功しました.また,一般化された分数積分作用素に対し,局所Morrey型ノルムによる加重をより一般な測度へ拡張したノルム不等式を考察し,測度が満たす適切な十分条件を与えることに成功しました.さらに,最大作用素に対する加重付きMorreyノルム不等式が成立するための必要条件,十分条件をそれぞれ与え,特にべき型の加重については必要十分条件を得てその完全な特徴付けに成功しました.
著者
山下 修一 魚住 武司 日比 忠明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

植物で希少なDNAウイルスについて病原学的性状を探究した。一本鎖DNAウイルスでは双球状のGeminiviridaeのコナジラミ伝搬のサツマイモ葉巻ウイルス(SPLCV)の純化と理化学的性状の究明を試み、これらBegomovirusの遺伝子診断のためのプライマーをデザインしPCR診断を行った。また本邦で新たに発生したtomato yellow leaf curl virus(TYLCV)について、純化、細胞内所在、遺伝子診断などを調べた。Mastrevirusでは本邦で唯一のオギ条斑ウイルス(MiSV)の媒介者の探索と遺伝子解析を行った。また、小球状分節ゲノムを有するCircovirusではレンゲ萎縮ウイルス(MDV)をアブラムシ伝搬で増殖し純化、細胞内所在を探究し、さらにsubterranean vlover stunt virus(SCSV)との血清学的関係を検討した。二本鎖DNAウイルスでは大型球状の各種Caulimovirusを本邦各地より採集しそれらの構造・形態、細胞内所在を詳細に比較研究した。ウイルスの寄生性や遺伝子機能等を解明するために、ウイルスがコードする移行蛋白質に注目し、ダイズ退緑斑紋ウイルス(SoyCMV)の遺伝子操作を種々行い、またカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)との遺伝子キメラを作出し性状を調べた。また、両ウイルスのDNAプロモーターの生物工学的利用のために、これらを用いて病害抵抗性のための形質転換植物の作出を行った。桿菌状のBadnavirusではクジャクサボテン桿菌状ウイルス(EqBV)およびアオキ輪紋ウイルス(ARSV)について純化を行い、遺伝子解析を試みた。