著者
加藤 敬太
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.79-92, 2011-09-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
46

本稿の目的は,老舗企業の長期存続のメカニズムを明らかにすることである.RBVの影響下にある老舗企業研究の多くは,老舗特有の伝統的資源の現状分析を中心に行ってきた.本稿では,全国で最も古い歴史を有する味噌メーカーを取り上げ,長期存続プロセスの経時的分析を行う.事例分析から,伝統的資源の維持,活用といったサステイナブルな戦略によって長期存続を確保する老舗企業のダイナミズムが明らかとなる.
著者
椙山 泰生 高尾 義明
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.4-16, 2011-09-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
32

近年,イノベーションに関連した文脈で「エコシステム」という分析単位でビジネスを議論することが頻繁に見られるようになっている.本稿では,このやや曖昧なエコシステム概念を,新しい価値システムの構想の実現に対して人工物(artifact)の開発・生産などによって貢献するエージェントの集合体として定義し,その含意について議論する.
著者
松嶋 登 高橋 勅徳
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.43-52, 2009-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
58

制度的企業家は,組織(主体)にとって制度とは何か,そして研究者にはいかなる分析が求められるのかという,制度派組織論のハード・コアに立ち戻る問いとして提示された.制度は,実践を通じて物象化され,抽象的ながら社会的事物として自明性を帯びることで,組織が意識的に考慮すべき環境となる.このとき制度に支配的権力を読み解き,抵抗しようとするエージェンシーを獲得した主体が,企業家である.結果,制度化は,制度を媒介にした政治的闘争のプロセスとして捉え直される.そして研究者には,進歩的イメージを有する「企業家」の分析を通じて,既存の制度の政治的闘争に不可避に関与しつつも,批判的に対峙するというリサーチ・プログラムが提示される.
著者
宮尾 学
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.120-131, 2011-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
35

本稿では,製品カテゴリを再定義する製品開発について,技術の社会的形成アプローチによる事例研究を行った.企業レベルでは開発中の製品についての柔軟な解釈とその収結のプロセスが観察され,市場レベルでは競合や消費者に新たな製品の解釈が普及し,製品カテゴリが再定義されるプロセスが観察された.またその際には,様々な制度的・構造的要因や物的要因が利用されていた.これらのことから製品カテゴリを再定義するプロセスは,様々な主体が制度・構造や物を利用し,柔軟な解 釈を特定の解釈に収結させるプロセスとしてモデル化できることが示唆された.
著者
西村 孝史
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.69-81, 2007-12-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
40

転職者を対象に前職の離職理由や離職の仕方の違いが,転職活動の方向性を規定し次の転職先における組織再社会化の適応度に影響を与えることを内容分析から検討する.スキルを高めたい・大きな仕事がしたい等の不満を理由に離職し,前職と同じ職種に転職した者は,入社後仕事のやり方や情報の獲得方法等に不満を抱く構造的要因が示される.個別に議論されてきた離職・転職・社会化研究を転職者の視点から捉え直すことが主張される.
著者
北村 智 中原 淳 荒木 淳子 坂本 篤郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.92-103, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
37

本研究ではPutnam(2000)の議論に基づいて組織における社会関係資本を結束型社会関係資本と橋渡し型社会関係資本に弁別した上で,組織における社会関係資本と業務経験を通した個人の能力向上の関係について階層線形モデルを用いて検討した.その結果から,業務経験を通した個人の能力向上について論じる上で,組織レベルの要因と個人レベルの要因の交互作用を検討する重要性を示した.
著者
水越 康介
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.33-42, 2008-03-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
62

本稿では,マーケティング論の視点から,特に消費行為に焦点を当てて格差の問題を考察する.消費行為は,格差を社会的に可視化することで階層の安定的な維持に寄与する.一方で,消費社会では消費行為のフラグメンテーションが進み,格差の社会的な不可視化が進む.しかし,それは格差が現実になくなるということを意味しない.むしろ,格差に対する議論の高まりの中で,見えない格差は不安を生み出し,格差を新たな形で作り出す契機ともなる.
著者
藤本 隆宏 延岡 健太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.43-55, 2006-06-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
30

企業間の競争力差の内実を根本から解明するためには,経営戦略論と技術・生産管理論の連携が望ましいが,現実には空隙が生じている.これを埋める一策として,「組織能力」概念を中核においた「長期継続的なデータ収集に基づく定量的・定性的実証分析」が有効だと論じる.例として,筆者らが20年以上続けてきた「自動車製品開発国際比較調査」を示し,組織能力の具体的中身や発生過程の動態を理解するには,長期間の測定や定点観測が不可欠だと主張する.継続は力である.
著者
山田 仁一郎 山下 勝
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.61-70, 2006-03-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
25

本稿は,企業家の意図と実際に起こった革新の間にあるギャップに着目し,コンテンツ開発の事例を用いて,企業家によるパートナーシップの形成が革新の創発の鍵となる過程を明らかにする.そこでは企業家の意図は革新へと直結しない.企業家は,まず関係構築意図によって革新遂行の中核となるパートナーシップを形成し,次にこのパートナーシップが創発的革新意図を誘発し,競争優位につながる革新を実現するのである.
著者
水野 学 小川 進
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.66-78, 2004-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
20

本稿では,食品スーパー業界において,競争優位に貢献するノウハウをあえて同業者に公開することによって得られるいくつかのプラスの効果を明らかにした.関西スーパーが獲得した「価格交渉力」「資源吸引」「専用機器開発」という3つの効果は,先行研究が指摘していなかったものである.以上の発見に加えて,本稿では,このノウハウ公開が成立した要因についても示唆した.
著者
佐藤 郁哉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.20-29, 2019

<p> 研究論文の質という問題について英国の研究評価事業を「反面教師」的な事例として検討していく.研究の質を論文の掲載誌の格付けと同一視するような風潮は,世界大学ランキングへの関心の高まりや研究業績に基づく各種補助金の傾斜配分政策などにともなって,日本でも近年傾向としてあらわれている.本稿ではこのような「論文掲載至上主義」的な傾向が,学術研究の劣化をもたらすだけでなく次代の研究者を育成するシステムの基盤をも掘り崩してしまう可能性について指摘する.</p>
著者
酒井 健
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.64-78, 2020-06-20 (Released:2020-08-20)
参考文献数
48

組織の正統性の修復戦略に関する既存研究は,経営者が発する言語メッセージの内容に焦点を当ててきたが,本稿では経営者の「表情」という非言語的要素が戦略の帰結に大きな影響を及ぼすことを指摘する.同じ危機に直面して正統性の修復戦略を実行し,その成否が分かれた2つの企業(マクドナルドとファミリーマート)の事例を取りあげ,経営者の言語と表情を比較分析することにより,本稿の主張を裏付ける.
著者
蔡 芢錫
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.28-45, 2012-09-20 (Released:2013-10-01)
参考文献数
132

本論文は,個人が自らの自由な選択で雇用契約を結び「個人」から「従業員」へと身分が変わる時,個人が享受する自由にどのような変化が生じるのかに注目する.具体的には,現代の自由観念の中心にある「消極的自由」と「積極的自由」との枠組みの下で,組織内で個人の自由はどのような歴史を経験してきたのか,なぜ組織で働く人々は自由を叫ばないのか,組織内で個人の自由はどのように議論・研究されてきたのか,組織内で個人の自由を拡大するためには何が必要なのかに焦点を当てる.
著者
山内 裕 平本 毅 泉 博子 張 承姫
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.53-65, 2015-12-20 (Released:2016-06-29)
参考文献数
20
被引用文献数
1

クリーニング屋の店員によるオプション提案のように,顧客にとって想定外のものでありうる行為は組織ルーチンから外れる可能性がある.そのとき店員はいかにして,問題がなく自然なものとしてオプション提案を行い,組織ルーチンを作り上げるのか.本研究では,エスノメソドロジーに依拠して店員と顧客の会話分析を行い,ルーチンを作り上げるにあたって店員が自らの行為に説明可能性を付与する実践が重要であることを示す.
著者
赤間 愛理
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織学会大会論文集 (ISSN:21868530)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.32-37, 2014-08-25 (Released:2014-08-28)
参考文献数
10
被引用文献数
1

The purpose of this study is to disclose the building process of suppliers' development capabilities through the patent data analysis under rapid technological system conversion of the automobile. Recent computerization of cars has urged the improvement of the technology of arranging wire harness and lightening. The role of wire harness in a car is a linking of electrical components, so it means that wire harness is to define the electrical functions of the car. Namely, wire harness is suitable as a subject to observe recent improvement process of development capabilities of auto parts suppliers. In order to visualize research results, we use a patent data analysis of the wire harness area. Research subject is wire harness department of the Sumitomo group (Sumitomo Electric Industries, Ltd., Sumitomo Wiring Systems, Ltd., Auto Network Technology Institute), which has extended global market share over the last two decades, while comparing with the Yazaki Group (Yazaki Sougyou), a top supplier of wire harness. In analyzing the patent data, we regard a company as a bunch of technology and analyze from 3 viewpoints, which are companies, engineers, and invention. Our study revealed the following mechanisms.Mechanism 1, Analysis of Company unit: “Building development capabilities starts from the patent application by wire harness manufacturer alone.”Mechanism 2, Analysis of Engineer unit:“The key to build development capabilities is the reciprocating motion between single application and joint application by core engineers.”Mechanism 3, Analysis of Invention unit: “Building development capabilities accelerates by reconstructing the predecessor's technology.”We present a conceptual model that organizes the mechanism as the conclusion of this study. "Building development capabilities starts from patent applications by wire harness manufacturer alone and returns to the evolution path of the invention by the reciprocating motion of the core engineer as an interface, and accelerates by reconstructing the predecessor's technology."
著者
渥美 公秀
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.36-46, 2012-06-20 (Released:2022-08-27)
参考文献数
23

災害直後には,既存の規範が一時的にせよ遠のき,災害ユートピアやパラダイスという事態が現出し,そこで人々は互いに助け合うという即興を織りなす.しかし,即興を交えた相互扶助は短期間で消滅する場合が多い.そこで,本稿では,災害時において,災害ボランティアや災害NPOが演じる即興の内容を明らかにした上で,東日本大震災の事例を交えて,各地で即興を演出するための方略を提示する.
著者
石川 淳
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.67-82, 2013-06-20 (Released:2013-11-07)
参考文献数
80
被引用文献数
4

チーム・リーダーのリーダーシップ,シェアド・リーダーシップおよびチーム業績の関係を実証した.その結果,チーム・リーダーの変革型およびGK型リーダーシップのどちらもシェアド・リーダーシップに正の影響を及ぼすが,後者の方がその影響が強いことが分かった.また,シェアド・リーダーシップはチーム業績に正の影響を及ぼすが,その影響力は,チームが取り組んでいるタスク不確実性が高い方が強まることが分かった.
著者
會澤 綾子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織学会大会論文集 (ISSN:21868530)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.174-179, 2021 (Released:2021-08-21)
参考文献数
7

In this study, corporate corruptions cases were collected and classified into 17 categories, and we found that the status of submission of third-party reports was focused on specific types of corruption. These specific corruptions have two characteristics: “organizational” and “low clarity of norm deviation conditions.” Thus, they may not be related to a particular person’s ethics or motives, and they are likely to become normal and continue if there is a structural equivalence network. When corruption occurs, the motive could be an issue, but the person involved may be doing it without any special motive. Although there are cases in which organizational wrongdoings focusing on organizational networks are proposed, the discussion is not sufficient, and it can be said that this is an important issue for which organizational factors should be clarified.
著者
中野 誠
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.18-27, 2023-09-20 (Released:2023-09-30)
参考文献数
12

本稿の目的は,人的資本を会計・ファイナンスの視点から問い直すことにある.そのため,第1に人的資本会計の概念整理を行い,貸借対照表(以下,BS)借方を「人的資産」,貸方を「従業員持分」として明示的に峻別する.第2にBSに計上されている人的資産の事例を取り上げる.サッカーチームの「選手登録権」は個人を測定単位とした人的資産の事例である.組織を測定単位とした人的資産の事例としては,R&D活動のうちの「開発資産」を取り上げる.第3にBS貸方に目を転じて,「従業員持分」概念の提示を通じて,マルチ・ステークホルダー型のBS,「従業員資本コスト」,マルチ・ステークホルダー型WACCという考え方を紹介し,未来の会社の姿をイメージする.
著者
柿沼 英樹
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.66-79, 2023-09-20 (Released:2023-09-30)
参考文献数
44

本稿では,組織業績の向上につながる人事管理を志向する理論枠組みであるタレントマネジメントについて,類似性が認められる戦略的人的資源管理との異同を,学術論文1,662編を対象とした計量書誌学的分析を通して検討した.分析の結果からは,両者には複数の視点の違いが見出され,その違いを活かしたタレントマネジメント研究の方向性を模索すべきであることが示唆された.