著者
今泉 容子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は「日本のアルツハイマー映画」に着眼し、つぎの2つの成果をあげた。まず、1973年の第1号作品(豊田四郎監督『恍惚の人』)から今日までのアルツハイマー映画において、「アルツハイマー患者と介護者の人物造形」と「彼らを取り巻く社会環境」を検証したこと。これによって、日本のアルツハイマー型認知症の「映像表象史」が構築できた。つぎに、2000年代に入って盛んに制作されている「外国」のアルツハイマー映画をパースペクティヴに入れ 、「 日本」のアルツハイマー表象と比較考察を行い、日本独自のアルツハイマー表象を浮き彫りにすることができた。
著者
中西 僚太郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

明治期から昭和初期に作成された、厳島、和歌浦、天橋立、富士山、耶馬溪などの景勝地の鳥瞰図について、その現存状況を調査し、データベースを作成するとともに、作成主体、作成目的などの資料的検討を行った。それをふまえて、同地域の「案内記」や「写真帳」などの関連資料や、近世の絵画資料を参考にして、鳥瞰図に描かれた内容を分析し、表現された景観の特質を明らかにした。
著者
吉原 ゆかり
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は、昨年度に引き続き、16・17世紀イギリスのコレクターたちの業績および彼(女)たちが生きた激動の時代について、調査と資料収集を行った。今回とくに注目したのは、16・17世紀・18世紀における古代ローマ・ギリシア研究、古代イングランド研究、中国研究、アジア研究および自由主義思想(リベルタン思想)とのつながりである。このようなつながりから、蒐集文化の研究は、単に美術や古物蒐集といった高級文化の研究という側面のみならず、当時における歴史研究、政治思想などとも深い関係をもつものであることがあきらかになった。たとえば、ヨーロッパ・キリスト教文明全般の源流とみなされつつも16-18世紀においては、イスラム教帝国オスマン・トルコの支配下にあったギリシア・小アジア地域の研究は、当時における国際政治の実状と切り離しては考えることができない。また、放蕩と自堕落を礼賛する形式で、政治的自由思想が表現される傾向があり、政治的自由思想を有する人々が古代ギリシア・ローマの文物のコレクターであり、その時代における性的自由を礼賛することで、自らの生きる時代を諷刺したことなどから、蒐集文化と社会諷刺、さらにはポルノグラフィの誕生がきわめて密接な関係にあることが明らかになった。本助成は今年度で完結するが、将来にむけては、上記したような方面への展開・発展を目していく予定である。本助成研究の総括、および将来へむけての準備として、当該テーマに関心をもつ国内の代表的な研究者を筑波大学にまねき、16年11月、研究集会を行った。参加者は、荒木正純(筑波大学)、箭川 修(東北学院大学)、川田潤(福島大学)、川田理和子(山形保険医療大学)、南隆太(愛知教育大学)、大和高行(鹿児島大学)である。当日は、ジョン・イーヴリンを代表とする、17世紀のコレクターの動向などをめぐり、盛んな質疑応答が行われた。
著者
和知 剛
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
no.65, pp.16-20, 2003-06

Wachi, Tsuyoshi旧・図書館情報大学であるところの図書館情報専門学群は、筆者が今更書くまでも無く1921(大正10)年に開設された文部省図書館員養成所以来、図書館司書養成という大義名分をその名称・機構の変遷にかかわらず背負ってきた。 …
著者
大倉 浩 (2007) 湯沢 質幸 (2006) 李 承英
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究においては、日韓文化史的な研究の一環として、日本に残存する中世の韻書に焦点を当て、それを同時期の韓国韻書と比較し、韻書の取り扱い方や位置づけにおける日韓間の同異を解明することを目的とし、本年度では以下のような研究を行った。1. 日本中世漢字音研究の指導的役割を果たした五山系抄物について、『玉塵抄』『史記抄』等、有用な資料を調査・収集し、韻書におけるデータを整理した。韻書や抄物等は関西の図書館や社寺に所蔵されている場合が多いので、本年度における資料調査は関西方面において行った。2. 資料の調査結果を踏まえて、まず、日本側の韻書である聚分韻略の音注の系統を探るため、五山系抄物、特に『玉塵抄』『史記抄』『漢書抄』等の呉音・漢音と比較を行った。3. 五山系抄物との比較した結果を基にし、中世の呉音漢音の資料である文明本節用集との比較も行い、聚分韻略の音注の系統を更に探った。4. 日本の韻書の聚分韻略と同じ三重韻形式を採用している韓国『三韻通考』とを比較し、両国韻書の歴史における位置を確かめ、この二書の前後関係を考察した。5. 日韓漢字文化史の比較研究を行うために、京都・中国地方の図書館や博物館等において漢字音資料の発掘や調査、資料収集を行った。
著者
白川 友紀 鈴木 敏明 鴫野 英彦 佐藤 博志 長澤 武 武谷 峻一 加茂 直樹 山岸 みどり 夏目 達也 渡辺 公夫
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究では各大学における教育目標、教育方針、アドミッションポリシーと中等教育の多様性の適合度を明らかにしたいと考え、入学者受入方針等に関する調査を行うとともに、AO入試の実施状況、オープンキャンパスにおける高校生に対する情報提供の現状と課題、専門高校および総合学科高校出身者の大学受入の現状、ならびに入学者の志望動機等に関するアンケート調査などを実施した。また、専門高校、総合学科高校、SSHと高大接続、総合的な学習と高大接続などの高校での学びの多様化と大学入試について研究会を開催し、話し合った。モデル化も行う予定であったが、この数年でAO入試実施大学が急激に増加し、そのアドミッションポリシーも新たに独白性を持ったものが増えており、今後さらに増加すると予想されるため、静的なモデルではあまり意味がないと考え現状分析を行った。今後、時代の変化に応じた新しい入試や大学進学を扱う、環境適応能力を表現できる動的なモデルを考える必要があると思う。アドミッションポリシー、入学試験や合格者への調査は本研究のメンバーによって大変精力的に行われ、大きな成果があったと考えている。一方、入学後ある程度の時間を経た学生や大学側の満足度のような指標の調査はあまり広く実施できなかった。複数の大学で共通のアンケート調査を実施して卒業研究評価を試み、幸い九州大学と筑波大学の2大学で実施した結果を平成18年度の入研協で報告できることとなったが、このような共同研究は大学間の調整の困難さだけでなく、アドミッションセンターと学部や学科との間の調整がかなり困難であるらしいことも分かった。海外調査はSARSの影響で平成16年度以降に行った。欧州の調査は行えなかったが本研究メンバーが他の研究費で行ったフィンランド等の調査結果について本研究のミーティングで知ることができた。本研究では米国、オーストラリア、中国、台湾の調査を行い、各国で入試の多様化が進んでいることが分かった。「理科離れ」について、理科教育を熱心に行っている教員や学芸員、SSHの教員との研究会を開催してAO入試との関連について話し合った。総合的な学習で理科が好きになる、総合的な学習の時間を減らして理科の時間を増やすべき、などの意見があった。しかし、私見であるが、実践されている授業内容に大きな違いは無いように思われ、また、理科離れは科学振興という社会の要請と生徒や学生の個人の幸福が結びついていないというところにも問題があると思われた。さらなる研究が必要である。本研究の成果は、平成15、16年度中間報告書とシンポジウム論文集ならびに成果報告書の4部に収録した。
著者
梅村 雅之 中本 泰史 朴 泰祐 高橋 大介 須佐 元 森 正夫 佐藤 三久
出版者
筑波大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2004

宇宙第一世代天体の誕生は、宇宙全体の進化、銀河の誕生、重元素の起源を解き明かす上で根源的な問題である。本計画の目的は、宇宙第一世代天体形成過程について、超高精度のシミュレーションを行い、その起源を解き明かすことにある。そのために、天体形成シミュレーションの専門家と計算機工学の専門家が、緊密な協力体制の下に重力計算専用ボードBlade-GRAPEを開発し、これをPCクラスタに融合させた宇宙シミュレータFIRSTを開発した。FIRSTは、256の計算ノード、496CPUからなり、2つのファイルサーバをもつ。また、分散したローカルディスクから一つの共有ファイルシステムを構築するGfarmシステムが導入されており、総計22TBのファイルシステムをもつ。FIRSTの総演算性能は、36.1TFLOPSであり、内ホスト部分3.1TFLOPS、Blade-GRAPE部分33TFLOPSである。また、主記憶容量は総計1.6TBである。このような融合型並列計算機の開発は、世界でも例を見ないものである。FIRSTを用いてこれまでにない大規模なシミュレーションを実行した。その結果、次のような成果を得た。(1)宇宙第一世代天体形成のダークマターカスプに対する依存性の発見、(2)初代星に引き続いて起こる星形成への輻射性フィードバックの輻射流体計算とフィードバック条件の導出、(3)紫外線輻射場中の原初星団形成シミュレーションによる球状星団形成の新たな理論モデルの提唱、(4)3次元輻射輸送計算による原始銀河からの電離光子の脱出確率の導出、(5)銀河団合体時の非平衡電離過程効果の発見、(6)アンドロメダ銀河と衛星銀河の衝突による“アンドロメダの涙"のモデル提唱。中でも(1)は、過去の他グループの計算に比べて2桁以上高い質量分解能を実現することによってもたらされたものである。この計算によって、従来の第一世代天体に対する描像に見直しが必要であることが明らかとなった。
著者
井田 哲雄 MARIN Mircea
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

●折紙の理論を構築し,国際雑誌Journal of Symbolic Computationで発表した.この理論では,面の集合と面同士の隣接関係と重なり関係からなる構造により,抽象折紙を定義し,抽象折紙の折り操作を抽象書換え系の書換え操作でモデル化する.さらに,コンピュータの実装に向けて,抽象折紙をラベル付きハイパーグラフで表現し,抽象書換え系をグラフ書き換え系で実現する.さらに,この理論を実装し,本研究の前年度までに構築されているEos(E-Origami System)に組み込んだ.グラフ書き換えのアルゴリズムについても,新たに開発するとともに,アルゴリズムの正当性の基礎になるいくつかの定理を証明した.グラフ書き換えによる折紙の構築過程を可視化することに成功するとともに,折紙をグラフとして見たときの構造の特徴をも明らかにした.●折紙定理のコンピュータによる自動証明の高速化のために,Eosの定理証明モジュールに様々な方法を組み込んだ.たとえば,証明で用いるグレブナ基底の計算に折紙構築履歴に依存した単項式順序を組み込むこと,折紙幾何に特化した証明ドキュメントの自動生成がある.これらの改良により,折紙定理証明の効率は著しく向上した.たとえば,Morleyの定理の自動証明には当初17時間もかかったが,10分程度で完了するようになった.●上記EOSシステムのウェブ・インタフェイスの構築研究を継続して行い,ウェブ・インタフェイスの改良をおこなった.●藤田による折紙の公理をウー・リットの方法で代数的に解釈し直し,折紙の構築の基本操作を与える藤田の公理の代数的な性質を解析した.ウー・リットの手法で用いる特性集合を調べることにより,藤田の公理が記述する幾何の縮退条件を代数的に求めることができた.
著者
葛岡 英明 加藤 浩 鈴木 栄幸 久保田 善彦 山下 淳
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

平成22年度はまず、柏崎中学校において授業を実施した。生徒を、提案システムを利用した実験群と、提案システムからCG映像を削除した統制群に分け、それぞれの群にプレテストとポストテストを実施した。その結果、地球の自転の理解に関して、実験群の点数の上昇が、統制群の点数の上昇よりも有意に高い傾向があることがわかった。しかし、学習の様子を観察した結果、システムには、俯瞰視点(学習者がタンジブル地球儀を見る視点)と地上視点(地上から空を見上げた状況をCGによって合成した映像)を結びつけることが困難であるという問題点があるという知見を得た。そこで、俯瞰視点と地上視点を結びつける補助として、天球映像を提示することを考案した。これは、半球をスクリーンとして利用し、上部からプロジェクタで太陽の動きを投影する装置である。この装置の有効性を確認するために、被験者を、装置を利用した実験群と利用しない統制群の2群に分けて比較実験をおこなった。プレテストとポストテストによって評価をおこなったが、提案した装置の有効性を示すことはできなかった。被験者の感想や実験の様子を観察した結果、天球映像をあまり参照しない学習者が多いことがわかった。この問題を改善するためには、学習課題や学習のためのインストラクションを見直して、それぞれの装置の機能や目的を意識して学習できるようにする必要がある。また、学習の様子をより詳細に分析し、天文学習において何が問題となっているのかということに対する理解を深める必要がある。
著者
和田 尚明 渡邊 淳也
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、言語系統的に全く異なる言語である日本語と、英語をはじめとする主な西欧諸語の時制現象における相違点・類似点を指摘・考察した。特に、(1)これらの言語の時制現象を統一的に扱える時制理論として、時制関連領域に属する助動詞・アスペクト・モダリティ・証拠性ならびに話者の主観性が反映したモデルを確立し、(2)主観的要因によって大きな影響を受けるいくつかの言語環境において、これらの言語の時制現象がどの点で共通し、どの点で異なるかを示した。
著者
金子 仁子 坂本 道子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

保健婦が実施してきた、住民とともに保健活動を推進し施策化へ至る方法論つまり保健婦活動におけるヘルスプロモーションを推進する方法を明確にしたい。ヘルスプロモーションをめざした活動を行った効果として、住民の健康意識・保健行動・健康度への影響についても明かにしたい。1 保健婦活動におけるヘルスプロモーション推進方法探求のための事例検討文献から選んだ地域(福祉活動由来のもの保健活動由来のもの)に、実際に現地に赴き、関係者から活動の発展プロセス、施策化への住民のかかわりの現状を調査し、活動促進要因を抽出した。、福祉活動と保健婦活動の相違点では、保健婦活動由来ではセルフケアの概念が取り入れられていることが明らかになり、活動推進要因は民主的な話しあいや民主的なリーダーの存在、タイムリーな学習であった。2 ヘルスプロモーション推進のための健康学習グループ活動支援の効果一般住民に比べ健康康学習グループ活動に参加している住民のセルフケア行動や、地域の健康問題への関心は、塩分を控えるなど保健行動は望ましい状況になり、地域保健活動も関心が高くなっていることが明らかになった。3 ヘルスプロモーション推進のためのコミュニテイ・ミーテイングの成果と課題2年間に渡り練馬区において、住民主体による施策関与方法の1方法として行われたコミュニテイ・ミーテイングについての効果は、住民がその方法を活動に取り込むなどがあり、課題は行政側と住民側のパートナーシップであった。
著者
斎藤 功 佐々木 博
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

近年, 山菜は自然食品の最たるものとして需要が増大している. 本研究は落葉広葉樹林帯(ブナ帯)で広範にみられる山菜の採取および山菜の促成栽培の実態を解明し, それに風土論的考察を加えることを目的としたものである.山菜の採取は, 伝統的にブナ帯の山村, とくに多雪地の山村で行われてきたが, 山菜の促成栽培はブナ帯の少雪地で多い. 山菜の促成栽培は, フキ, ワラビ, タラノメ, コゴミ等が行われるが, タラノメの促成栽培が典型であろう.本来, タラノメは春にとるものであるが, 促成栽培はそれを夏冬の12〜3月に採取するものをいう. 当初, 山からタラノキを切り, それを植木として温室内で栽培したものであるが, 促成栽培の普及につれて, タラノキを桑のように栽培するのがみられるようになった. 現在, タラノメのキの落葉後, 台木を切り, 一芽ごとに10〜15cmに切ったものを温室内のオガクズ床に伏せこみ, 12月下旬〜3月下旬にタラノメが7〜8cmに仲が〓ように栽培している.このタラノメの促成栽培は, ブナ帯で冬季出稼を止めさせるまでになったが, 栽培技術が容易なこと, ビニールハウスを転用できることなどで普及した. 当初, 〓境期の山菜としてタラノメは高価に販売されたが, その栽培の普及とともに価格が低下した.結論的にいえば, タラノメの促成栽培は, 生産基盤の脱弱性をもった風土産業といえよう.なお, 研究結果の詳細については, 別さつの研究成果報告書を参照されたい.
著者
佐々木 建昭
出版者
筑波大学
雑誌
筑波フォーラム (ISSN:03851850)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.53-56, 2001-06

現在、学校(小・中・高)は我儘な児童・生徒に振り回され、大学は自立できない学生・院生に振り回され、教育全体が社会に振り回されている。学生を甘やかす施策は止めて、努力し勉強しようとする学生を伸ばす施策に切り替え、再度を簡素化しよう。学生には信賞必罰で対処して自立を促すべきだが、その為には世間に胸の張れる教育と研究を行う必要がある。 ...
著者
大澤 博隆
出版者
筑波大学
雑誌
戦略的な研究開発の推進 社会技術研究開発事業
巻号頁・発行日
2018

本プロジェクトでは、科学技術とその社会への受容過程を物語の形で描いてきたサイエンスフィクション(SF)が、人工知能技術の発展にもたらした影響を調査する。我々はまず人工知能技術に対する期待と不安を含む人々の想像力の歴史について、過去の文献をサーベイし、作家・クリエイター・編集者や、理学・工学・人文学研究者等の関係者を交え、AIとSFと社会の関係を整理・可視化する。そして、それらの関係者の力を合わせ、今後、人工知能・自律的知能技術が社会実装される過程の未来の在り方を、新たなデザインフィクションとして例示する。調査と創作の双方を通して、現在だからこそ起こり得る可能性・問題点を踏まえた未来社会の設計論を提示し、人類の新しい技術と社会の開拓に貢献したい。
著者
本岡 毅
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.高波長分解能・高時間分解能の地上観測による、各種土地被覆の分光特性の把握昨年度、一昨年度に引き続き、各種土地被覆において分光特性(ハイパースペクトル分光放射計による)や天空・地表面状態(定点自動撮影カメラによる)の観測を、コンピュータ自動制御により毎日継続して実施した。観測は順調に実施され、本研究提案の分光指数GRVI (Green-Red Vegetation Index)を用いた植物季節検出アルゴリズムや土地被覆分類アルゴリズムの開発と検証に必要なデータを取得することができた。また、得られた地上データを用いてサブピクセルサイズの雲によるノイズについて検討した。その結果、従来多く用いられてきた分光指数(NDVI)では大きなノイズ成分が生じる一方で、それ以外の指数(特に近赤外・短波長赤外の波長域を利用したNDWIやLSWIなどの指数)ではほとんどノイズが生じないことがわかった。これは、適した分光指数を選択することで時系列情報を有効活用できることを示しており、本研究を遂行するうえで重要な知見である。2.分光指数の時系列変化情報を用いた土地被覆分類分光指数の時系列変化の特徴から各ピクセルの土地被覆を分類するアルゴリズムを構築し、2001年から2010年までの衛星観測データ(Terra MODIS、8日間コンポジット、大気補正済み)に適用した。対象範囲は日本である。現在、現場の踏査情報を用いた検証とアルゴリズム改良を進めている。
著者
岩崎 宏之
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

霞ケ浦湖岸に位置する茨城県土浦市は、江戸時代以来度々水害に悩まされてきた。土浦市に水害をもたらせた原因を考察すると、土浦市の中央を貫通して霞ケ浦に流入する桜川が氾濫して堤防を決壊させたことによって引き起こされた洪水と、霞ケ浦の水位の上昇による逆水とによる洪水との二つの原因によることが明かとなる。これを歴史的に検討すると、天明6年(1876)、文化9年(1812)、明治43年(1910)、昭和13年の洪水は前者に、また弘化3年の場合は後者によるものと目されているが、史料をさらに子細に検討すると、原因は複数の因子の相乗作用によることが明らかとなる。すなわち、長雨や利根川の増水によって圧迫された霞ケ浦の水位が上昇して長期にわたる溢水となった状況のときに、台風が襲来すると、その風の方向によって異常な高潮現象が発生し、霞ケ浦への出口を塞がれた桜川は急激に増水して氾濫を引き起こしている。この現象を「津波」と称して恐れていたことが、近世の土浦の町に住んだ人々の日記史料等から窺えるのである。この異常な水面上昇は、茨城県下に記録的な強風をもたらした明治35年(1902)9月28日の台風の際には六尺に達したと記録されている。「津波」を起こす強風は、台風の通過コースによるところが大であるが、水位の上昇と強風との相乗作用は今後も起きる可能性があるわけで、このような観点から歴史的災害にかかわる各種歴史資料の分析が必要となる。本研究は、古文書史料や日記など、土浦市とその周辺地域に残る近世以降の史料の中から気象と洪水に関する情報を抽出し、霞ケ浦の水位の上昇が洪水を引き起こす現象を検討した。また色川三中と弟美年によって記録された「家事誌」(文政9年〜安政6年、26冊が現存)には毎日の天候の変化や台風など異常な気象状況が克明に書き留められており、本研究ではこの記述をもとに当該期間の土浦の毎日の気象状況をデータベースに作成した。さらに三中の次弟御蔭の著述になる「逆水防議」には、霞ケ浦の逆水から町を守る方策が述べられており、本研究では、彼等が体験した天保4年や弘化3年の風水害の記事をはじめとして、その他地域に残る古文書史料に散見する関係記事を収集することができた。これら各種歴史資料に記録された関係記事を統合することによって、近世城下町土浦の洪水災害時の状況を明らかにするだけでなく、今後の防災に資するものである。
著者
照沼 利之 清水 森人 奥村 敏之 榮 武二 森 祐太郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

我々は近年、陽子線照射によって発生するMHz音響波を工業用の大口径超音波プローブで測定することに成功した。しかし、陽子線照射で発生する音響波は微弱であるためより小型の医療用超音波プローブを使用した測定は困難であることが予想される。本研究では新たに、アクティブ計測を導入した方法により、MHz音響波の医療用超音波プローブで計測することを試みる。この目的が達成できれば、将来は放射線検出技術と超音波診断装置技術との融合により、放射線治療時の体内臓器イメージングと放射線分布イメージングを同時に実現できる可能性が開かれる。このように将来の技術につながる研究として本研究は重要である。