著者
ピアス D.G.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.63-74, 1995-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

本稿は,イギリス,フランス,旧西ドイツ,オランダ,イタリアそしてオーストリアにおける日本人旅行者の目的地,滞在期間などを分析し,ヨーロッパにおける日本人観光客流動の空間的拡がりを知ろうとするものである。 この地域への日本人の旅行は,日本人のすべての海外旅行状況のなかで考えられるべきであり,また日本人観光客の主要な訪問地の割合からは,ヨーロッパにおけるかれらの選好国が知られる。それぞれの国々における国内での目的地の選好については,ロレンツ曲線を使い,日本人観光客とすべての国際観光客について,宿泊日数と地域的分布パターンの関係から分析した。その結果,日本人観光客は,その国の大都市圏にとくに集中する傾向があり,また都市域への集中の度合いは,すべての国際観光客のなかでとくに高いことが,明らかになった。
著者
苅谷 愛彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.75-85, 1995-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

周氷河環境下において,地温は物理風化やマスムーブメントの様式と強度を規定するもっとも重要な要因の一つである。したがって,そこでの地形プロセスを量的に論じようとする際には,年間の地温データが必要となる。日本の高山では風衝斜面で長期の地温観測が試みられてきたが,残雪凹地における観測例はきわめてまれである。このため,残雪凹地における凍結融解作用の発生状況とその季節分布,凍土層の有無といった基本的な問題さえ十分に確かめられていない。本研究では月山の亜高山帯の風衝砂礫地と残雪砂礫地のそれぞれ1地点において,地温の通年自動観測を行った。風衝砂礫地の最大積雪深は0.3m以下であるが,残雪砂礫地では30m以上に達する。 風衝砂礫地では主として日周期性の変化をもっ凍結融解サイクルが秋にひんぱんに生じた(地表で24回, 10cm深で2回)。その後,各深度で地温は低下し,深度50cm以上に達すると考えられる季節凍土層が11月から翌年5月まで形成された。季節凍土層の形成初期における凍結前線の地中への降下速度はきわめて速かった。 5月の季節凍土融解期にはひんぱんな凍結融解サイクルが再び生じた。結局,風衝砂礫地における年間の凍結融解サイクル数は地表で51回, 10cm深で13回に達した。これは他の日本の高山の風衝砂礫地で観測された凍結融解サイクル数と調和的である。 一方,残雪砂礫地においても,残雪が消失し,地表面が積雪におおわれるまでの10月~1.1月にかけて数回の凍結融解サイクルが生じたが,それは地表に限られた。同じ時期,5cm以深では凍結融解サイクルが全く発生しなかった。 11月上旬に根雪となって以降,翌年の消雪直前 (8月下旬)まで各深度の地温は0.1~-0.1°Cの間で安定し,深度約20cmに達する季節凍土層が形成された。季節凍土層の形成時に見られた凍結前線の降下速度はきわめて緩慢であった。残雪が完全に融解した直後に地温は急昇し,その後は凍結融解が全く発生しなかった。結局,残雪砂礫地における年間の凍結融解サイクル数は地表で20回に達したものの, 5cmと15cm深ではそれぞれ1回だけであった。このように,風衝斜面にくらべて残雪凹地では凍結融解作用の発現頻度が著しく少ない。これは冬季の土壌凍結の進行を妨げる積雪の厚さと残雪の滞留期間の長さに起因すると考えられる。
著者
須山 聡
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.23-45, 1995-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,在来工業の企業内における職業教育が,熟練労働力の養成を通じてもたらす,労働力の地域的移動パターンを明らかにすることである。 在来工業地域に関する研究は,従来新しい生産技術の導入を契機とした地域の変化を主な研究対象としてきた。しかし在来工業地域の過半数は現在でも伝統的生産技術に依存している。本研究では在来技術への依存度が高い輪島漆器業を事例とした。 輪島漆器業においては,現在でも徒弟制による熟練労働力の再生産が行われている。徒弟制は輪島漆器業の企業内技能教育制度である。本来の徒弟制は,漆器関連事業所の子弟が技能を「相続」することを第1の機能とし,熟練技能者の単純再生産に終始していた。しかし, 1960年代後半における輪島漆器の生産増加に伴い,漆器業に無関係な家庭に育った子弟の新規参入が増加した。その結果,徒弟制の機能は熟練技能者の拡大再生産に変質した。 加飾職人に対するアンケートをライフパスの概念を用いて時空間的に分析した結果,徒弟制による熟練技能者の養成過程における職人の移動パター・ンが3つ抽出された。第1は旧輪島町内で出生した家業継承者による「滞留」型である。このパターンは変質以前の徒弟制の機能である,技能の「相続」に伴うもので,旧輪島町における漆器関連事業所の集積を継続させている。 第2・第3の移動パターンは「求心-離心」および「離心」型である。このうち,第2のパターンは周辺・外縁地域,第3のパターンは旧輪島町で出生した新規参入者がたどる軌跡である。徒弟制による技能訓練を受けるためには漆器関連事業所が集積する旧輪島町に移動する必要がある。弟子入り時に旧輪島町で生まれた職人そのまま滞留するが,それ以外の者は旧輪島町方向に求心移動を行う。技能を修得した後,彼らは独立した職人となるが,自ら作業場となる場所を確保する必要がある。良好な作業・生活環境を有する土地を確保するために,彼らは周辺・外縁地域に離心的に移動する。これら2つの移動パターンは,漆器関連事業所の分布拡大をもたらした。
著者
渡邊 眞紀子 坂上 寛一 青木 久美子 杉山 真二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.36-49, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

わが国に広く分布する火山灰土壌の特徴は,その黒くて厚い腐植層にある。これは,アルミニウムに富む非結晶質の粘土鉱物と結合し,微生物の分解に抵抗して2万年以上も安定的に存在する「腐植」に起因する。腐植はまた土壌をとりまく水熱条件に敏感に反応する性質をもっことが知られている。これらの性質を踏まえて完新世火山灰を母材とする埋没土の腐植特性を用いて過去の気候植生環境を推定することが可能であると考える。しかしながら,土壌は様々な環境因子の支配を複合的に受けるたあ,土壌の保有する古環境情報を抽出するためには,調査地域の設定が大きな鍵をにぎる。本研究は,古土壌研究,さらに土壌生成研究に際して意義のある土壌の属性レベルにおける分布特性に関する方法論を提示するものである. 本研究では,日本各地の火山灰土壌に腐植特性の高度分布とその規則性を明らかにした。土壌試料を火山麓緩斜面に沿って採取することによって,高度変化に伴う腐植特性と気候・植生因子との対応関係をみることができると考える。 4っの火山地域(十和田火山,日光男体火山,赤城火山,大山火山)から採取した60の表土試料を用いて,有機炭素含有量と腐植酸Pg吸収強度の腐植特性を分析した。また,気候環境にっいては国土数値情報気候ファイルによって地点ごとに温量指数および乾湿指数を算出し,植生環境にっいては植物珪酸体組成分析を行った。腐植特性の分布には,っぎのような規則性があることが明きらかとなった。 1) 有機炭素含有量によって示される腐植集積量は気候環境と対応する空間分布を示す。腐植集積が最大となる標高は調査地域によって異なるが,腐植集積の最大を与える気候条件として,乾湿指数17~22の共通条件が求められた。 2) 土壌腐植酸に含まれる緑色色素の発現の強さを定量した腐植酸Pg吸収強度も標高の変化に伴う垂直成帯性がみられる。 Pg吸収強度と温量指数との間には強い負の相関が認められた。 3) 植物珪酸体組成分析にもとついて,腐植の生成・集積に寄与したと考えられるイネ科草木植生の植物生産量を推定した。その結果, Pg吸収強度はイネ科タケ亜科クマザサ属と強い正の相関がみられ,一方イネ科非タケ亜科のススキ属とは負の相関が認められた。気候指数と植物珪酸体組成の分析結果を照合すると,森林の林床植生として繁茂するクマザサ属の増加と低温条件の卓越に伴いPg吸収強度は増大する傾向があり, Pg吸収強度は植生環境を指示する属性の一っとして評価することができる。また,各調査地域でPg吸収強度の急激な上昇がみられる地点は, 典型的な黒ボク土であるmelanic Andisolと森林土壌としての性質の強いfulvic Andisolの分布境界を与えると判断できる。 4) Pg吸収強度と比較すると,有機炭素含有量にっいては植物推定生産量との有意な関係は認められなかった。 4っの調査地域を総合的に比較すると,赤城山の事例において腐植特性と気候・植生環境の空間分布の対応が最も明瞭に示された。これにっいては,赤城山で対象とした斜面の水平距離および垂直高度が,気候・植生因子の影響を抽出あるいは強調し,さらに地形,地質母材,人為的影響といった他因子の影響を消去あるいは最小限にするたあに適したスケールとなっていることが指摘できる。 腐植集積の極大域およびPg吸収強度の上昇が始まる地点は,気候・植生環境の変化に伴う移動が予想される地域である。今後の研究課題として、本稿で扱った土壌属性が埋没土においても表土と同様に,土壌の初成作用として働いた気候植生環境の情報を保有していることを確認する必要がある。その上で,埋没土を対象とした空間分布特性の規則性を明らかにし,表土との比較を行うことが次の研究手順となる。
著者
氷見山 幸夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.63-75, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
3 3

IGBP (地球圏-生物圏国際協同研究計画)とHDP (地球環境変化の人間次元研究計画)は1993年はじめに共同で,土地利用・被覆変化研究 (LUCC) のためのコアプロジェクト計画委員会 (CPPC) を設置した。 CPPCは1994年秋までにLUCCコアプロジェクトの最終案をまとめることになっており,これに沿った研究計画が1995年から世界各地でスタートする見込みである。土地利用研究の実績と経済力をもつ我国の貢献に対する国際的な期待は,当然ながら極めて高い。そこで,我国においてどのようなLUCCプロジェクトを計画すべきか,大いに議論を深める必要がある。本稿はその基礎となる諸事項を整理・検討し,我国におけるLUCCのありかたを論ずるものである。 第2章では,LUCCに関する国内におけるこれまでの主な動きを整理している。特筆されるのは, IGBP-JAPANには既に土地利用小委員会が設けられており, LUCCに対する体制を整えつつあるということ,それに1990~1992年度に行われた文部省重点領域研究「近代化と環境変化」をはじめとする諸研究において, LUCCにつながる研究実績が相当蓄積されている,ということである。 第3章では,LUCCに関するIGBP, HDP, それにCPPCの考え方を検討している。主な問題点としては, ア) CPPCの立場はかなりIGBPに偏っており,人間次元の扱いが不十分である, イ)土地利用・被覆を人間環境の重要な要素とする認識が弱い, ウ)モデルが極端に重視されており,実態把握やデータ整備に対する認識が甘い, エ)ナショナル・プロジェクトの指針や国際的研究ネットワークのあり方等,実際的行動計画に関する要点が詰められていない,などがあげられる。 我国としては,問題点の是正をCPPCに対して求めるとともに,真に意味のある成果を生み出し得る研究計画を独自に立て,世界のLUCCプロジェクトをリードする気概をもつべきである。第4章はそれに向けての具体的な提案である。日本の場合,日本を含む東アジアを重点研究地域とし,土地利用・被覆変化の詳細な調査・分析とデータベース作成,モデル化等を行う。また環太平洋地域を準重点地域と位置付け,日本との関係を軸とした研究を組織的に行う。その他の地域についての研究は,重点地域を国際的コンテクストの中で理解するのに有用なケーススタディにとどめる。
著者
河邉 宏 リャウ カオーリー
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-14, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

11,470の世帯主とその配偶者を対象として行われた人口移動歴の調査データから,結婚に伴って発生した県間移動を性,定住性,教育程度,結婚期間,続柄の5属性別に,大都市圏中核部,大都市圏周辺部,地方中核,地方の非過疎地域,過疎地域の5類型のそれぞれにっいて観察して得られた結果の概略は, (1) 大都市圏中核部では女子は流入超過,男子は若干流出超過であるが,結婚に伴う移動が他地域出生者の割合を上昇させるように作用しており,過疎地域での人的資源が将来一層枯渇するように作用している, (2) 結婚に伴う移動では,石油危機以降とそれ以前とでは大都市圏中核部では流出超過から流入超過への変化が,また過疎地域とでは移動方向に反対の逆転が見られる, (3) 世帯主と配偶者の続柄別の移動方向は同じである,という点である。
著者
岡崎 清市 砂村 継夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.101-116, 1994-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
34
被引用文献数
2 4

平衡時のバームの位置と高さに関して,まず小型造波水路における実験結果から予察的な関係式を導いた。汀線からバーム・クレストまでの水平距離として定義されたバームの位置Xは,X/(gT2)3/8Hb5/8φ=0.605 (collapsing型バームの場合), 0.305 (surging型バームの場合)で与えられる。ここに, Hbは初期の砕波波高, gは重力加速度, Tは波の周期, φは海浜堆積物の粗度と透水性に依存する減少係数である。減少係数は,無次元粒径D*を用いてφ=exp(-0.04D*0.55)により与えられる。ここD*=[g(ps/p-1)/v2]1/3D,psは堆積物の密度, pは流体密度, vは動粘性係数, Dは底質粒径である。バームの高さBhは次式により与えられる。すなわちBh/(gT2)5/8Hb1/8D1/4φ=0.117 (collapsing型バームの場合), 0.067 (surging型バ一ムの場合)。原型規模での実験結果によれば, collapsing型バームの位置と高さの関係式にはスケール効果は含まれていない。 次にこれらの式に野外における適用性を,茨城県阿字ヶ浦海岸における実測データで検討した。朔望平均満潮位 (HW) を基準位として,バームの位置と高さをそれぞれ求めた。バーム形成期間中における平均波の砕波波高玩と周期テのそれぞれが,これら2式の波の諸元と置き換えられた。HWの汀線から測ったバームの位置X'は, X'/(gT2)3/8Hb5/8φ=1.14で,また, HWL上のバームの高さBh'は, Bh'(gT2)5/8Hb1/8D1/4φ=0.134でそれぞれ表せることが判った。
著者
篠原 秀一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.117-125, 1994-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

本稿は,従来の諸研究と銚子における調査結果をもとに,日本における近代的な水産業の地理学的研究に対する1つの枠組みを提示した。日本における近代的な水産業は,地理学的には生産の根拠地である漁港を中心に発達してきた。特た,大規模な水揚漁港は,水産地域の中心であり,水産物の流通する空間における最も重要な結節地である。水産物の流通する空間,すなわち水産関連空間は,水揚げされる魚の流通経路の周辺に形成され,漁獲空間,水産物水揚げ・加工空間,水産物消費(市場)空間の3つの亜空間に大別される。この空間構成は,各魚種の単価,水揚量の規模および季節性,鮮魚であるか凍魚であるかなど,水産物の性格に強く依存する。銚子の場合,その水産関連空間の構造的な特徴は,漁業資源の季節性および周期性という限界性を,漁港とその周辺地域における水産関連の技術と設備の集積により克服してきた点にある。 本稿が示した水産業の関連空間モデルは,日本の研究事例を踏まえたものであるが,世界における近代的な水産業の基本的な空間構成を示すものとしても有効である。
著者
山下 潤
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.156-172, 1993-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
50
被引用文献数
5 5

1970年以降,空間的相互作用に対する空間構造の影響が議論されてきた。このような議論は,地理学者の関心を空間的自己相関の影響を受けない距離減衰パラメータの抽出へと向けさせた。しかしながら,Bennettら (1985)が主張するように,空間構造と空間的相互作用とは相互依存関係にあると認識すべきである。本研究の目的は,空間構造に対する空間的相互作用の影響を明らかにすることである。まず,スウェーデンのマルメ市内で高齢者によってなされたデイセンターまでのパーソントリップのデータを用いて,Williams Fotheringham (1984)によって開発されたキャリブレーションプログラム, SIMODELによって距離減衰パラメータを推計した。さらに,最近隣平均距離とモラーン係数を用いて,デイセンターの立地パタンーと空間的自己相関を示した。っいで,発生制約モデルを内挿した立地配分モデルを用いて,異なる3つの距離減衰パラメータごとにディセンターの最適立地が求められ,空間的相互作用の空間構造に対する影響を吟味した。結果として,3つの距離減衰パラメータが異なる立地パターンをもたらすことを証明した。従って,空間構造による空間的相互作用への影響を明らかにした従来の研究と合せ,空間的相互作用と空間構造は相互依存関係にあるといえる。
著者
高橋 誠
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.105-126, 1993-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26

わが国の農村における近年の社会変動は,混住化の進行によって,地域社会の再編成をもたらしてきた。現在の農村地域における社会変動のパターンとそれによって再編された地域社会の性格には,主として都市からの距離にしたがって,地域差がみられる。それゆえ,農村における人口構造の地域パターンと地域社会の再編過程とには,重要な関連性がみられるのである。筆者は,まずクラスター分析によって,新潟都市圏における人口構造の地域パターンを把握する。次に,地域組織のなかでもっとも重要な役割を果たしている住民自治組織を,その農家組合との空間的関係に着目しながら類型化し,それぞれの類型の地域的分布パターンと人口構造の地域パターンとの対応関係について検討する。最後に,新潟市西郊の黒埼町における地域住民組織の再編成についての精査を通して,以上の統計的分析を裏づける。 その結果,以下の諸点が明らかになった。第一に,新潟都市圏の農村地域は, 1960年代以降の地域変動の結果, 4地域から構成されるような地域分化を生じさせた。そのうち3地域は,都市通勤者が多くを占ある郊外住宅地から農業を主体とする集落にいたる都市一農村連続体上に配列されるが,住宅団地と農業集落とが混在するような地域がそれを乱す要素として出現している。第二に,市街地縁辺部と住宅団地には,新しいタイプの住民自治組織が, 1960年代以降,既存の住民自治組織の分裂,あるいは隣接する地域組織との関連をもたない新規結成を通して出現してくる。第三に,一部の地域では,新しく結成された住民自治組織は,それらの結成によって分割される以前の村落領域のなかで,連合して新しいタイプの地域組織を結成している。第四に,こういった再編成の形態は,地域人口の規模と行政の地域政策によって規定される。結果的に,現代の都市近郊農村における地域社会の再編成は,一元的な伝統的村落組織からさまざまな地域組織の多元的・重層的構造への変化によって特徴づけられている。
著者
上木原 静江
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.35-51, 1993-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24

メキシコにおける国民経済の中で農業と牧畜業は主要な経済活動である。1940年代から農業の近代化が農地の拡大と改良,農産加工場の設立などを通じて始められた。この過程において,多国籍企業は農牧業生産を集約化させ,作物の変化をもたらした。多国籍企業は種子・農薬・農業機械の生産も行い,農業の全生産過程を支配している。 本研究は,メキシコの農牧業における多国籍企業の浸透をその農業と農村への影響から明らかにしようとするものである。 メキシコにおける多国籍企業の多くは1950年から1970年に設立されたものである。主要な企業は飼料や酪農製品の生産および野菜・果物の加工などに関するものであり,メキシコ中央部グアナフアト州バヒオ地方はその代表的な地域である。バヒオ地方は昔から農業生産が主要な経済活動であった。しかし,1950年頃の多国籍企業の進出とともに,作物と生産方法が変化し,土地利用はより集約的になった。実際に多国籍企業は2種類の農業経済地域を形成してきた。第1のタイプは多国籍企業による野菜・果物生産地域の形成である。ここでは,多国籍企業は生産過程のすべてを支配していた。第2のタイプは多国籍企業が飼料の生産を行わせ,その飼料を基盤に養鶏,養豚生産を行う肉生産地域の形成である。バヒオ地方はかって主要なトウモロコシ・インゲン豆生産地域であった。しかし,多国籍企業の進出とともにソルゴー・大豆が導入され,飼料生産地域に変化した。2っのタイプとも,多国籍企業は資本を蓄積した農民と契約栽培して,農産物の量・品質・供給の時期を確実なものとしている。
著者
栗原 武美子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.52-69, 1993-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
58
被引用文献数
2 1

この論文は,カナダにおける総合商社(ここでは,戦後の日本貿易ならびに海外直接投資の主たる担い手たる九大総合商社をさす)の直接投資の基本的特徴と,その経済活動の立地を明らかにすることを目的としている。 カナダにおける日本の直接投資は,これまで相対的には決して大きくなかった。しかし,近年の投資額の増加は,カナダにおける日本の直接投資の影響力をますます高めっっある。この直接投資の重要な担い手の一っである総合商社に関しては,確かに1980年代に入って,日本の対加直接投資総額に占める割合において,相対的にその地位が低下したと言える。なぜなら,受入国の投資環境の変化と円高により,日本の製造業者や金融機関,不動産会社が巨額の投資を行なうようになったからである。にもかかわらず,日本の対加直接投資における総合商社の中心的役割は少しも低下していない。 カナダへの総合商社による投資は,主として商業,資源開発および製造業の3分野に集中している。商業投資は,自己資本100%の現地法人組織子会社や,販売会社の設立が中心である。商社が天然資源開発プロジェクトや製造業の合弁事業に参加する際,多くの場合商社の出資比率は少数であるが,商社は資源の長期購入契約を結んだり,製品の販売を一手に引き受ける。このように,総合商社の投資額は相対的に小さいが,その貿易促進力および合弁事業の組織力はきわめて大きい。このような総合商社の投資活動は,他に類を見ないものであり,その意味で日本の海外直接投資の独特の原型と考えられる。総合商社は1954年よりカナダの経済界で経済活動を行なってきた。市場の小規模性,オンタリオ・ケベック州を中心とする市場の位置,アメリカ資本への強い依存というカナダに特殊な要因が,100%子会社のカナダ現地法人の経済活動に影響し,このためカナダ会社は,しばしば同じ親会社によるアメリカ現地法人よりも下位に位置づけられている。商社は主要4都市に事務所を開設しているが,その立地選好は様々な要因の複合である。近年では,トロントがカナダの都市階層や経済活動の首位を占めていることに対応して,トロントへの本社の移転がなされている。また,米加企業が一般に選好するモントリオールよりも,日加貿易の窓口であるヴァンクーヴァーを選好するのが,日本の商社の特徴である。
著者
吉野 正敏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.70-88, 1993-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
35
被引用文献数
1 3

まず最近100年間の日本における米の収量と気温・降水量・日照時間の変遷を記述した。米の収量変化には一般的に3期間が認められる。すなわち,第1の期間は19世紀末からほぼ1920年まで,第2期間はその後から1945~47年ころまで,第3の期間はその後のいわゆる第2次大戦後の時代である。 次に,気候条件の変動とそれが水稲生産に及ぼす影響について104年間の資料から上述の3期間別に統計的分析を行った。すなわち,主成分分析によって,分布や周期性,月平均気温・月降水量・月日照時間との関係を調べた。第1主成分は7月の上記の3要素全部と有意な関係を示し,8月にっいては気温と日照時間,9月にっいては降水量と日照時間と有意な関係を示すことが認められた。 この論文の第2部では上述の3期間の米の収量の年々変動にっいて調べた。一般的な変化傾間は,第1の期間はゆるやかな上昇傾向,第2の期間はほぼ横ばい状況,第3の期間は急激な上昇を示めす。しかし,いずれの期間でも,その前半は年々変動は小さく,後半になると大きい。これは気候変動の周期性が原因でなく,農業・生産機構の各期間の変化に起因すると考えられる。
著者
平 篤志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.173-182, 1993-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

本研究は,アメリカ合衆国シカゴ都市圏における日本企業の立地パターンとその属性,およびイリノイ州と州内の現在地に立地した理由を明らかにすることを目的とする。シカゴ都市圏の日本企業は,1960年代に増加を始めた。日本企業の分布には,2っの集中パターンがある。すなわち,1っは金融業に代表される業務集中地区での集中分布であり,いま1つは一般機械工業に代表されるシカゴ市近郊の北西部,特にオヘア国際空港周辺での集中分布である。現在,日本企業の郊外への移転・新規立地が,日本人従業員の居住地の郊外化を伴って進行している。114社の日本企業に対するアンケート調査の結果を分析すると,シカゴ都市圏の日本企業は,第1にアメリカ合衆国における地理的中心性からイリノイ州を立地場所として選択していることが明らかになった。そして,より地域的なレベルでは,シカゴ市の近郊に立地する場合は,オヘア国際空港への近接性が,またシカゴ市内に立地する場合は,シカゴ市への近接性が重要な要因となっていることが判明した。同時に,シカゴ都市圏の日本企業は,雇用機会を増加させることによって地域経済に貢献していることが明らかになった。
著者
竹内 淳彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.91-104, 1993-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
3 3

本研究の目的は,技術革新が急速に進むなかでの日本半導体工業の立地動態を明らかにすることにある。日本のセミコンダクター生産は1950年代の半ばに始まり,東京南部の機械技術集団の中で発展した。先端的な機械生産も既存の生産体系と無関係には形成されることはない。日本政府は,当時米国に比べ著しく遅れていた半導体生産の技術レベルを短期間に向上させる上で保護政策をとり,大型プロジェクトを発足させるなど重要な役割を演じた。同時に,互いに競争関係にあった各メーカーが,長期的視野から政府プロジェクトに参加し,協力して技術を発展させた事実も重要である。日本のセミコンダクターの生産は電卓や他の先端型消費財生産に支えられて成長し,とくに1980年代に質・量ともにあざましい発展を遂げた。東京・大阪の二大都市地域で成立した半導体工業は, 1970年代後半以降,九州,東北,その他の地方に次々と生産拠点を形成していった。一方,半導体工業は他の先端型工業と強く結びっいている。先端型工業の研究・開発機能が東京地域に集中しているために,東京地域だけが急速な技術革新に対応することが可能であった。そのため,東京を中心とする全国的な生産体系が強化されつつある。世界的な半導体工業のネットワーク化は各国の強力な管理貿易体制のもとで進行している。日本の製造業者は,厳しい国際的な研究・開発競争に対応していく必要がある。こうした日本半導体工業のグローバル化は,東京地域の技術集団を核とする全国的ネットワニクを強化しながら進行している。
著者
井田 仁康
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.18-34, 1993-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33

本研究の目的は,集計および非集計データを用いて,日本の航空旅客流動の特性を明らかにすることである。航空旅客流動に関する従来の研究においては,非集計データを用いて分析されることが少なかった。また,分析には,地域間の結合を示すのに有用であるといわれる対数線形モデルを援用した。 多くの航空旅客は,羽田および大阪空港を起点あるいは終点として流動している。このような羽田および大阪空港を中心として航空旅客が流動していることは,従来の研究においても指摘されていたが,それが,旅客流動の多い航空路線が羽田および大阪空港と結合されているからである。それとは対照的に,千歳,鹿児島那覇空港と島しょ部を結ぶ航空路線は,航空旅客数が著しく少ない。 航空旅客の分析から,空港後背地を画定し,それに基づいてわが国を10地域に区分した。それら10地域の航空旅客の流動に対して,対数線形モデルが適用された。その結果,総航空旅客流動量が多い関東地方を起終点とした流動では,各地域間にそれぞれ期待される流動が生じているが,期待される流動量よりも多くの流動あるいは少ない流動が生じている地域間流動も多い。すなわち,発生・吸収される旅客数と一致するように地域間流動が生じているわけではないことが判明した。さらに,航空旅客の発生および吸収において,その地域の居住者と非居住者が拮抗している地域と,居住者が非居住者を凌駕する地域が存在することが判明した。さらに,ビジネスを目的とした航空旅客が卓越する旅客流動は,関東,中京,関西地域へ指向する。一般に,ビジネスが卓越した航空旅客流動は,距離の短い地域間にみられ,観光客が卓越した流動は,離れた地域間に生じている。全国的な観点からみれば,中枢管理機能が集中している地域において,ビジネスを目的とした航空旅客が多数発生・吸収される。それを取り囲む地域においては,中枢管理機能が集中している地域へ流動する航空旅客ではビジネス客が卓越し,他の地域への流動では観光客が卓越する。
著者
朴(小野) 恵淑
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.57-65, 1992-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

テキサス州南東部のヒューストン大学海岸センター (UHCC) 周辺におはる降水,地表水と浅層地下水中の酸素同位体比 (δ18O)の変動に関する研究を行った。 大気環境に起因する同位体比の急激な変動が1985年1月以来収集した降水に現われている。一1985年1月から1989年12月までの降水の酸素同位体比の荷重平均は約4.48‰である。降水の酸素同位体比の変動は非常に大きい。特に, 1989年6月下旬(熱帯低気圧“All-ison”) と8月上旬(台風“Chantal”)の多量の降水 は非常に低い酸素同位体比を示し,その値は各々-9.5‰, -13.6‰であった。 地下水の酸素同位体比を調べるために1989年1月以来モニターされた。地下水の酸素同位体比の荷重平均は約-4.0‰である。降水の影響は地下水に現われなかった。 地下水とは対照的に,地表水の酸素同位体比は大きく変動する。これはおそらく地表水は各々の多量の降水の後に降水一流出を受けるためと思われるが,一方地下水は長期間に蓄積された数多い降水が含まれているからかあるいは,新しい降水がまだ浅いシルト粘土層に達していないためと思われる。
著者
丸山 浩明
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.104-128, 1992-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48

本研究では,浅間火山山麓での実証的な先行研究の成果を踏まえ,まず集落の起源や形態,集落(もしくは農家)を核とする農業的土地利用の種目構成とその空間的配列状況に着目して,火山山麓の農業的土地利用パターンを低位土地利用パターン (A類型),中位土地利用パターン (B類型),高位土地利用パターン(C類型)の散村型 (C1型)と集村型 (C2型)に類型区分した。そして,それぞれの類型の実態とその分布状態の特質を,中部日本の主要な火山山麓全域において検討した。 水稲を中心に果樹,野菜の組みあわせに特徴づけられる低位土地利用パターンは,河川や湧泉,溜池などに隣接した水利条件の良い低平な場所で卓越する。 A類型の主要な分布域は,火山山麓の最下部にあたる標高約700m以下の高度帯に認められる。中位土地利用パターンは,水稲,果樹,野菜,工芸作物を中心に,飼料作物や花卉一苗木類までが混在する多様な土地利用種目構成に特徴づけられる。 B類型の主要な分布域は,水田卓越地帯から畑地卓越地帯への移行部に対応する,火山山麓中腹の標高約1,000m以下の高度帯である。野菜を中心に飼料作物,花卉一苗木類,水稲が組みあわさった高位土地利用パターンは,火山山麓最上部の高冷地を中心に認められる。 C類型のなかで,散村型(C1型)は第二次世界大戦後のいわゆる戦後開拓集落など新開地の土地利用を反映する類型で,自立型の野菜栽培や畜産経営が卓越する。一方,旧集落を代表する集村型 (C 2型)では,戦後大規模な夏野菜栽培が著しく進展した。 C類型の主要な分布域は,一般に火山山麓最上部の標高約900~1,400mの高度帯である。 浅間火山山麓で実証された農業的土地利用パターンの類型分布の垂直的地帯構造は,より広範な中部日本の主要な火山山麓全域においても認められる一般的かっ基本的な特質であることが本研究で明らかになった。これは,中部日本の火山山麓が歴史的に極めて類似した開発過程を辿ってきたこと,土地利用を規定する水利,気温,地形(起伏),土壌などの自然的諸条件や,開拓地・旧集落の立地形態,交通条件,国有地や入会地の分布といった経済・社会的諸条件の特質に,中部日本火山山麓特有の共通性があることなどに起因していると考えられる。
著者
井上耕 一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.75-89, 1992-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
15 15

河川縦断面曲線は,従来,平衡河川を表すのに適当であると考えられてきた関数回帰式によって近似的に表現されてきた。日本の諸河川は非平衡河川であるが,その縦断面曲線は,「指数関数」もしくは「べき関数」で表される。適合関数形の違いは,河川の運搬作用の違いに反映していると考えられる。本研究では,河川作用の縦断方向への変化の実態を理解する目的で,「礫径-掃流力-縦断面形」の関係を吟味し,河川縦断面曲線の適合関数形が異なると掃流力や礫径の縦断変化の特徴がどのように異なるのかを論じた。 関東地方の5つの沖積河川において,「粒度組成・掃流力・河川勾配」のそれぞれにっいて,縦断変化を検討した。河床砂礫は2~5つの対数正規分布集団に分けられる。そのうち最大の粒径を持つA集団の運搬形式は掃流形式と解釈され,その粒径は,河川勾配に強く規定された流水の掃流力の大きさに対応していることが確かめられた。 「指数関数形タイプ」の河川では,縦断面曲線の曲率が大きいため,その中流部において,掃流力が著しく減少し,それにともなって-7~-6φの大きさを持っA集団が特徴的に見られなくなる。それに対して,「べき関数形タイプ」の河川は,河川縦断面曲線の曲率および河川勾配の縦断変化が小さく, -7~-6φの大きさを持っA集団は,「指数関数形タイプ」の河川と異なり,河口付近まで存在する。その流下限界は,中~下流部で掃流力すなわち河川勾配が著しく減少する所に相当しており,その地点の河川勾配は,調査対象5河川においては,いずれも約1/1000を示している。またこの位置は,縦断面曲線の適合関数形が「指数関数形」河川よりも「べき関数形」河川の方が,下流側に位置する。 以上の検討から,沖積河川における河床砂礫の大きさは,河川縦断面曲線の適合関数形のタイプに特有な縦断変化を示すと同時に,河川縦断面形状の特徴を反映した水理状態の縦断変化によく対応していることが明らかになった。このことは,河川縦断面形状(適合関数形のタイプ,曲率)から河川の運搬作用や堆積物によって形成される地形が概ね推定できることを意味している。
著者
岡田 俊裕
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-17, 1993-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
44
被引用文献数
2 2

日本において,地理学研究が組織的・本格的に行われ始めたのは1920年代の半ばごろであろう.その後の日本では,十五年戦争によって中国などアジアへの侵略行為を続けた.このことは,日本の地理学研究に直接・間接に影響を与えた.敗戦後,日本はGHQの占領下におかれ,その間,地理学は社会科学的な研究への志向を強め,発展していった. このような社会情況のなかで,飯塚浩二 (1906-1970) は積極的にそれに関与しつっ日本の地理学を啓蒙した.一方,辻村太郎 (1890-1983) は,直接的には社会情況に関与せず,アカデミー地理学の制度的・理論的樹立のために奮闘した.また三沢勝衛 (1885-1937) は,独学で地理学・教育学・自然諸科学などを修め,農村・地方の更生という実践的関心と結びっいた地理学研究と地理教育を展開した. 仮に,日本の地理学研究の流れを,「中央」の主流と非主流および「地方」の分流に三区分できるとするならば,辻村・飯塚・三沢をそれぞれの代表的存在の一人とみなすことができよう.辻村はおもにドイツ地理学の,飯塚はフランス地理学の影響が強く,三沢には欧米地理学の直接的な影響を認めることができない点でも対照的である.これら三者の研究活動の軌跡をたどるならば,近現代日本の地理学思想史を立体的に展望する端緒になると考えられる. その際,次のような点を重視した.第一に個人史的な考察.それは,各学説を動的かっ多面的に把握するためであり,また,各研究者の業績の全体を視野に入れたうえで各部分の内容を理解するためでもある.第二に,学説と時代思潮や学問的環境との関連性の考察.独自の理念の下に一定の社会的責任を果たそうとするほどの研究者ならば,自己をとりまく時代思潮ないし学問的環境を鋭敏に受けとあ,その動向に何らかの形で関与しようとするからである.なお,学問の発達史において戦中と戦後の間に断絶はないと考えた.学問研究は,いっの時代でも特定の環境のなかでなされるのであり,程度の差こそあれ常に時代的制約を受けざるをえない.したがって,戦中の学問研究を特別視することはできないと考えた.