著者
田中 貴子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.37-43, 2002-07-10

安徳天皇が女性ではなかったか、という噂は、江戸時代の随筆などではかなり見受けることができ、安徳が実は壇ノ浦では死なず、薩摩や摂津の山中などへ逃げ延びたという伝説とともに、人口に膾炙していたようである。その理由として、『平家物語』「公卿揃」で、安徳生誕の折り、甑を間違って落としてしまった、という逸話が挙げられることが多い。たしかに安徳は、建礼門院のいわゆる「地獄めぐり」で、法華経による救済を望んでいたし、『愚管抄』では女神である厳島明神の化身だとされていた。これらの例を見ると、史実はともかく、海の底へ「帰っていった」安徳が童子であったがゆえに八歳で成道した海龍王の娘と重ね合わされていたことは明らかであろう。
著者
河江 肖剰 亀井 宏行
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.864-868, 2011-10-25 (Released:2012-01-17)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

三大ピラミッドが建つギザ台地はおもに新生代始新世時代に遡るモカッタム累層と呼ばれる浅海成石灰岩の岩盤からなっている。古代の巨石建造プロジェクトにおける最優先事項の一つは採石場の選択であるが,この累層の石灰岩は硬い層と柔らかい層の交互層からなるため採石に適していた。古代人は柔らかい層を除去し,硬い層からピラミッドや神殿建設のための巨大な岩塊を採石した。 2,590,000立方メートルの石材からなるクフ王の大ピラミッドの採石場は,南約300メートルに近在しており,そこから約276,000立方メートルの石灰岩が切り出されたと概算されている。第2ピラミッドの造営者カフラー王もギザの地形を考慮しながら自らのピラミッド複合体の建造を推進し,プロジェクト最後にはモカッタム累層の岩盤を生かし,スフィンクスを巨大な彫像としてつくりあげた。王家最後の巨石建造物は,ケントカウエスと呼ばれる女王が建てさせた彼女の2段式の墓で,独特な形をもつ。墓はもともとクフ王の石切場の中央に,おそらく石材量を量るために,残されていた岩塊だった。三大ピラミッド建造後の限られた空間のなか,彼女は使用可能な最後の土地を巧みに利用し自らの墓を建てさせた。これによってギザ台地の巨石建造プロジェクトは終焉を迎えた。
著者
丹治 光浩 Mitsuhiro TANJI 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-11,

スタートレックとは、22~24世紀の宇宙を舞台にした冒険物語である。その魅力は、最新の宇宙論を取り入れたリアルな未来世界の構築に止まらず、登場人物が織り成す人間関係や精神哲学にあることはいうまでもない。一般に芸術作品には作者の個人的な心理が反映されると同時に、さまざまな形で現実社会が反映されることが少なくない。たとえば、スタートレックにおいて人類が出会うさまざまな異星人は我々人間の一面をデフォルメして表現されたものであり、人類と異星人との間に生じるさまざまな誤解や葛藤は、そのまま現代社会における国家間の対立や人種問題の反映と考えることができる。本論では、臨床心理学的視点からTNG第9話を心の構造、TNG第79話を児童虐待、TNG第111話をPTSDとして解釈した。映画「GENERATION」は対象喪失と喪の作業として解釈し、平行宇宙はユング心理学における「影」として解釈した。そして、ボーグは無意識、ボーグドローンから人間世界への再適応は精神疾患の治療プロセスとして解釈した。
著者
細川 周平
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.209-248, 2007-03

録音を黙って鑑賞する喫茶店(レコード喫茶と仮に呼ぶ)は日本独自の音楽空間といえる。本論はそのひとつであるジャズ喫茶が昭和初年に生まれ、昭和十年代にスウィングの流行とともに定着した過程を追う。レコード喫茶は録音に依存して欧米音楽を受容せざるを得なかった日本の状況と深く関わっている。録音は大正時代、「缶詰音楽」と軽蔑されるどころか、コンサート興行の基盤が未熟であるために生で演奏を聴けない曲種を知るのに不可欠なテクノロジーとして洋楽評論家に高く評価された。レコード鑑賞空間はそのような前提から生まれた。震災後、カフェが女給のエロティシズムを売り物にしたのに対して、その姉妹施設、喫茶店は主に大学生や若い社会人相手にもっと親密な雰囲気、趣味的なサービスを売り物にした。レコード喫茶は彼ら向けの音楽を聞かせることで一般の喫茶店と区別を図り、レコード、オーディオ、サービス・ガール、インテリアの四つの要素で店の特徴を出した。女給目当ての客も少なくなかったようだが、店の看板はレコード収集と高価な再生装置だった。ジャズ喫茶の始まりには昭和初年の都市中間層の拡大、彼らの新しい娯楽のかたちや感性、趣味の洗練への関心、文化ヒエラルキー観、音響テクノロジーの発展、レコード市場の拡大、ニッチ市場の確立などが関わっている。ジャズ喫茶の勃興はスウィングの人気に刺激された面がある。スウィングは一九二〇年代の白人ジャズと異なり、個人の即興を重んじ、ヨーロッパ音楽の亜流ではない新しい美学を打ち出した。スウィング支持者はそのレコードをダンスの伴奏ではなく、鑑賞に足る芸術と見なし、それにふさわしい世評を書き、演奏家や名曲の録音歴(ディスコグラフィー)を調査した。中古盤市場も充実した。ジャズ喫茶は静寂のなかでレコードを聴きこむ雰囲気を作り出した。それは私財を投資した公共的なレコード収集庫として機能し、愛好家集団の経緯・知識の拠点となった。
著者
道垣内 弘人
出版者
有斐閣
雑誌
月刊法学教室 (ISSN:03892220)
巻号頁・発行日
no.270, 2003-03
著者
三澤 遼 木村 克也 水町 海斗 服部 努 成松 庸二 鈴木 勇人 森川 英祐 時岡 駿 永尾 次郎 柴田 泰宙 遠藤 広光 田城 文人 甲斐 嘉晃
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.20-023, (Released:2020-10-02)
参考文献数
192

New distributional records of forty-five fish species off the Pacific coast of Tohoku District, northern Japan are reported, based on specimens trawled by the R/V Wakataka-maru (Japan Fisheries Research and Education Agency) during surveys in autumn of each year from 1995 to 2019. The records include northern distribution range extensions of 19 species, distribution gaps filled for 17 species, and northern and southern limits along the Pacific coast of Japan for eight and one species, respectively. Twenty-seven species were recorded off Tohoku District for the first time. In addition, taxonomic notes for each species, including some meristic and morphometric data from the collected specimens, are also provided.
著者
又平 恵美子
出版者
筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科日本語学研究室
雑誌
筑波日本語研究 (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
no.6, pp.93-102, 2001-08-31

日本語母語話者の会話で「イチゴが売っている」というような表現が使われることがある。商品が「ガ」で示されるのは、単なる言い誤りによる格の誤用として処理してしまうには出現の頻度が高く、一つの定型構文として成立してしまっているものであると考えられる。動作主でなく対象が「ガ」によって表示されていること、必ず「売っている」などテイル形で現れるということ、商品の所有権が移動しないという状況に限定されているということがその構文が成立可能となる特徴としてあげられる。このような表現が存在し得る理由は、「商品として物が存在している」ということだけを表現するためには、冗長的でない規範的な言い方では言い表しにくいということが考えられる。

12 0 0 0 OA 耳比磨利帖

著者
玉田, 成章
出版者
巻号頁・発行日
vol.[2], 1797
著者
小沢 健二
出版者
日本社会臨床学会
雑誌
社会臨床雑誌 (ISSN:21850739)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.2-52, 2007-03-11
著者
瀧野 賢一
出版者
The Japan Broncho-esophagological Society
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.421-426, 1980-12-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
9

The author describes some personal views on accidents in bronchoscopy and esophagoscopy by classifying them largely into those occurred at the time of introduction of an endoscope, during and after the endoscopy, taking into consideration chiefly the lessons of previous investigators and the cases experienced by the author himself and others.1. Among the accidents occurred at the time of introduction of an endoscope, injuries caused by the endoscope included damages to the upper incisors and injuries of the soft tissues along the route of introduction. These accidents may be avoided by maintaining the head of a patient in an elevated extended position and by adequate use of an endoscope.2. With respect to the accidents occurred during the examination, various accidents were discussed by quoting some examples. The accidents classified into this category included 1) respiratory distress due to tracheal tumors, anterior mediastinal tumor and foreign bodies in the trachea; 2) profuse bleeding from a biopsy in a case with middle lobe syndrome and from esophageal varices; 3) injuries and perforations of the esophageal walls due to extraction of pointed foreign bodies or violent extraction; and 4) the accidents inflicting on the surgeon himself such as loss of sight due to injury of the eye by a foreign body, severe infection by tuberculous bacilli, which was caused by neglecting in taking adequate protective measures.3. As to the accidents after the procedure, edema of the glottis, difficult expectoration, crust formation after extraction of foreign bodies, accidents caused by tracheal cannula, cervical subcutaneous emphysema, pneumothorax, and mediastinal emphysema. These accidents indicate the importance of adequate post-procedure observations and cares. With respect to sudden death, it is important to investigate and seek after not only the immediate cause but also the conditions which are possible to become predisposing factors.