著者
末田 航 味八木 崇 暦本純一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.1465-1474, 2011-04-15

モバイル機器では,位置情報を利用したアプリケーションが多用されている.GPSなどの位置測位手段から得られる緯度経度は,数値情報でありそのままでは利用者にとって直感的ではないので,それを住所や番地の表現に変換するリバースジオコーディングが必要である.しかし,現状のリバースジオコーディングでは行政的な地番に基づいて変換を行うため,モバイルアプリケーションを利用する利用者の主観的な空間意識とは必ずしも一致しない(たとえば「表参道」「ハチ公前」のような表現は地番ではないため利用不可能だった).本研究では,インターネット上の緯度経度情報付きの大量の写真とそのタグを実世界での集合知と見なし,それを集積・解析することで,人々の主観的な感覚に合致したリバースジオコーディングを自動的に行う「Social Reverse Geocoding」(SRG)を提案し,その構築の方式と,モバイルアプリケーション応用例を示す.SRGでは,統計学的手法であるカーネル密度推定法とSVMを用いることで,都市生活者としての利用者の空間意識により近い空間語とその範囲を自動推定する一連の方式を提案している.そして各種モバイル使用下での位置情報表現がより自然になり,また位置情報つき写真への自動タグレコメンデーションや,ライフログのサマライズが可能なアプリケーションを提案実装した.また,提案手法の都市計画やマーケティング分野への有効性を検証するために,従来手法による認知地図との比較,今後解決すべき問題と,関連分野への応用について議論する.
著者
濱田 信夫 阿部 仁一郎
出版者
大阪市立環境科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本でもヨーロッパでも、いずれの浴室のカビも遺伝子的に非常に近縁であったが、野外から採取されたいずれの種の株とも異なっていた。一方、野外から採取された株について、界面活性剤の培地で培養を試みた。その結果、野外から採取した株の中に、その培地で生育するものが見つかった。野外の界面活性剤を利用できる特性を元来持っていた株が、浴室などの洗剤を使う水回りという新しい環境を得て繁殖しているのが、浴室のカビと言えよう。
著者
絳山樵夫 作
出版者
和泉屋市兵衛 [ほか4名]
巻号頁・発行日
1836

絳山樵夫撰、柳川重信(1世)画の本朝賢女絵本。半紙本2巻。天保7年(1836)夏求板、江戸・和泉屋市兵衛ほか4軒。「衆星閣(角丸屋甚助)原板」。色摺。文政6年(1823)睦月、絳山の樵者の序に「今茲重山主人は。古今の賢婦を写して。おのがやからの小女子が。勧懲の助にせまく。ふでにまかしてかき出したるを」云々とあるように、重信が描いた古今の賢女の絵に、絳山が文章を付して出板に及んだものという。上巻、「美濃弟媛」以下8人。下巻「静」以下7人。それぞれ1丁足らずの絳山による解説を付する。田舎びて森閑とした風景に、当該人物を描き入れた絵は、賢女たる由縁を説いた文章とよく調和している。本絵本は、読本を主に手掛ける画工と作家による副産物とでもいうべきもので、絵も、読本挿絵のモノトーンの精細な世界をカラーで彩ったような印象である。(鈴木淳)(2016.2)
著者
児玉 寛
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ヴィーコ(1688〜1744)は、『弁論術講義』のなかで「訴訟類について」と題して、推定・定義・属性という3つの争点(status)ごとに、伝統的な修辞学のトポスの応用を例解している。このかぎりではキケローやクインティリアーヌスの弁論術と大差はない。しかし、ヴィーコにおける修辞学と法学との関係は、単純ではない。その結節点は、そのような例解にではなくて、伝統的な修辞学を「個別事情を考慮した自然的衡平の実現」という法学の構想に接合した点にある。ヴィーコにおける法学は、(1)ingeniumによって適切な中名辞を帰納的に発見すること、(2)中名辞による連結をエピケイレーマによって補強すること、(3)中名辞をメタバシスによって重層的に操作すること、を通じて可能となるというのが、本研究の結論である。Ingeniumとは、「遠く離れた相異なっている事物において類似的関係を見る能力」であり、これによって、大命題と小命題を連結する中名辞を見出す。三段論法の推論形式では、キケローと同じく5分肢説によるエピケイレーマが妥当とされ、小前提を補強するための論拠や敷衍が推論の説得力を強めるために導入される。メタバシスでは、論証を三段論法の二つの前提には含まれていない論点へと移行させる手法であり、これによって、大前提の射程が個別事情に応じて制約されて、より妥当な結論に導くことが可能となる。
著者
小林 麻実
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.52-57, 2006-02-01

アカデミーヒルズ六本木ライブラリーの創設は, 誰からも理解されず賛同も得られなかった個人の夢を, 諦めずに粘り強く抱き続けて現実に移した苦闘の歴史である。既存の海外・国内の図書館の事例を全く真似することなく, ゼロベースでライブラリーの本来あるべき姿・存在意義をただ一人で研究してきた個人のクリエイティビティの帰着点ともいえる。したがって独自のアイデンティティを構築しているのは当然である。このようなアイデンティティの構築過程においては, いまだ誰も見たことのない世界, および想像のつかない顧客層を自ら作り出していく信念を維持できるか, 与えられた環境をその信念とどのように適合させていくことができるか, という2点が鍵となる。