著者
薬袋 秀樹
出版者
日本生涯教育学会
雑誌
日本生涯教育学会論集
巻号頁・発行日
vol.39, pp.53-62, 2018-09

1992年に生涯学習審議会社会教育分科審議会施設部会図書館専門委員会が「公立図書館の設置及ぴ運営に関する基準」をまとめ、文部省社会教育局長名で都道府県教育委員会に通知された。公示されなかったが、初めての基準となった。本研究の目的は、この基準が当時の国の公共図書館行政の中でどのような役割を果したのか を明らかにすることである。関連文献を調査した結果、次の点が明らかになった。非常に多くの課題に直面する状況で、局長通知ではあるが、初めて基準を定めたことに大きな意義がある。特に地方行革による規制緩和の提案に対し、今後の展開を予測し、専門的職員の制度を維持するための規定を定めたこと、数値目標とその根拠を明示したこと、専門委員会が基準を確実に制定するために積極的な取り組みを行い、事務局が関係団体との懇談等によって説明に努めたことが高く評価できる。
著者
菅野 類
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.112-130, 2008-03

イタリア人の悲劇作家,ヴィットーリオ・アルフィエーリが1777 年の5月にトリノを離れトスカーナへ向かったのは,イタリア語の表現力を向上させるためだったことは良く知られている。しかし,本稿筆者はその旅のもうひとつの理由が,トリノの知的状況内にあったのではないかと考えている。 1773 年,ヴィットーリオ・アメデーオ三世が即位したことをきっかけに,トリノの知的環境は劇的に変化した。伝統的な厳しい統制から解き放たれたことで,トリノはかつてない文化的活況を迎えたのである。しかし,過度の自由は制限されるべきであるとの保守的意見は存続し,1777 年に出版されたベンヴェヌート・ロッビオの『えせ哲学論』により勢いを取り戻す。ロッビオは知的風潮の堕落を警戒し,社会秩序を守るために検閲の重要性を訴えたのだった。アルフィエーリが『専制論』の原案を書き,主にトリノ社会を念頭に置いたものと見られる君主制批判を展開したのも,ちょうどその年のことであった。 これらの対照的な意見がほぼ同時に現れたことは,単なる偶然とは思われない。ロッビオとアルフィエーリは同じ文芸サークルに所属しており,さらにロッビオはアルフィエーリに悲劇の書き方を指導していた。相手の態度と考え方を直接知りうる関係に二人はあったのである。『えせ哲学論』の出版以降,ロッビオは政府の文化政策に関わっている。これは,トリノにおいて保守的論調が支配的となったことを意味する。一方アルフィエーリは,自由な立場で執筆活動を続けられるよう,祖国との関係を絶つ決意をする。たとえ明確に言及されてはいないとしても,トリノの知識人社会における居心地の悪さが,アルフィエーリをトリノから遠ざけた要因のひとつであったものと考えられる。
著者
武田 一哉 Takeda Kazuya
巻号頁・発行日
1993-09-29

名古屋大学博士学位論文 学位の種類:博士(工学) (論文) 学位授与年月日:平成5年9月29日
著者
小林 初夫 安部 清哉
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.12, pp.173-225, 2014-03-01

本研究は、2011 年3 月11 日の東日本大震災で、避難生活を強いられた小学校児童・中学校生徒が受けたであろう言語面への影響についてアンケート調査を実施し、言語形成期にあたる児童生徒が受けた言語の面での有形無形の影響を、部分的にでも記録しようとするものである。児童生徒が、避難生活前後において、各自の言語や周囲の言語の変化について、どのように受け止め、どのように感じたのか、主にその言語意識の側面に関する質問への選択回答形式と自由記載形式によってアンケート形式で調査した。調査対象は、福島県南相馬市の小学校3 校、中学校1 校で、2012 年2 ~ 3 月の間に学校別に実施し、小学生計57 名、中学生計91 名、合計148 名の回答を得た。それを、小・中別、中学の学年別、男女別、避難先の遠近別ほかの観点から分類して集計し、それぞれについて若干の分析と考察を行った。調査ということそのものの“ 難しさ” もあったが、幸い児童生徒の皆さんおよび関連諸方面のご理解とご協力をいただき、小さな調査ではあるが、前例のほぼない言語意識の記録を残すことができた。回答からは、避難生活後、友達の言葉が変化したと感じた児童生徒は、小学生で29%、中学生で41%、平均で39%あり、言語形成期にある児童生徒の5 分の2 以上が、何らかのかたちで言葉への影響を被ったであろうことが推定された。また、複数選択回答式質問への避難先別平均回答率の相違からは、言葉がより異なる県外への避難を経験した児童生徒の方が、福島県内避難の児童生徒の場合よりも、より強く言葉(地域言語)を意識するようになった様子が読み取れた。\ 本研究は、「震災原発等による避難生活が言語形成期の児童生徒に及ぼす影響に関する調査研究」(学習院大学人文科学研究所の平成24 年度特別共同研究プロジェクト、代表:安部清哉)の研究成果の一部である。\This research was based on a survey about the impact on the language of elementary and junior high school students who were forced to live as refugees in local or di erent prefectures after the earthquake on March 11, 2011. Th e survey was conducted in a questionnaire form that asked students, who were in a the formative period for personal language, about how they felt there had been changes in their or other peopleʼs language since living as evacuees. Three elementary schools and one junior high school in Odaka, Minamisoma City in Fukushima were surveyed. The total response was one-hundred forty-eight including fty-seven elementary school students and ninety-one junior high school students. Th e period of survey was from February 2012 to March 2012. Th e response was aggregated for the study by lementary/junior high school, school year, gender, and the distance of their relocation. is is an unprecedented record as a language survey of elementary and junior high school students in uenced by the Great East Japan Earthquake. From the survey responses, students noticed that their friendʼs personal language had changed after living as evacuees: 29% of students noticed in elementary school, 41% in junior high school, and the average proportion is 39%. It appears that two fths of students in the formative period of personal language development had their language a ected in some way by their lives as evacuees.
著者
長谷川 倫子
出版者
横浜国立大学技術マネジメント研究学会
雑誌
技術マネジメント研究 (ISSN:13473042)
巻号頁・発行日
no.13, pp.57-60, 2014-03-31

第二次世界大戦後のベビーブーマーである団塊世代へのアンケートで、彼らは青年期に流行した音楽(フォークソング・グループサウンズ・ビートルズ)を自らの世代観として上位に挙げている。団塊世代と音楽の関わりを研究するため、彼らに音楽体験や世代観をインタビューし、その語りを分析ワークシートを用いて構造化した。そこから、「団塊世代における格差・階層意識は、音楽の受容とも関連があるのではないか。」という問題意識が生成された。次に、日本版 General Social Surveys(JGSS-2003&2008)やインターネット調査のデータを用いて、時系列で団塊世代の音楽受容の特徴や階層性との関連を統計的に分析した。その結果、団塊世代が子供の頃の生活レベルや音楽環境は父親の影響を受け、それが現在の音楽聴取や階層帰属意識にも繋がっていることが見出された。また、クラシック音楽は女性や教育年数が長い層に、演歌は男性や教育年数が短い層に好まれていた。団塊世代は多様な音楽ジャンルを好み、複数嗜好の場合、演歌の影響力は大きかった。さらに、親世代→団塊世代→子世代という世代間において、高学歴とクラシック音楽嗜好の継承がみられた。質的・量的研究により、「団塊世代は一括りにされるが、人数が多く競争が激しかった。そこには格差・階層意識が存在し、それは音楽の受容とも様々な関連をしていた。そして、その関連は他世代に比べより顕著であった。」という結果となった。