著者
川村 清志
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.175-204, 2011-03-31

本稿は、近代日本の地域社会において、「民謡」が生成する一事例として、「こきりこ」を取りあげる。ただし、ここで扱う「民謡」は、前近代から伝えられてきた口頭伝承の一分野ではない。「こきりこ」は、富山県五箇山地方に伝わる民謡として、全国的に知られているが、近代以後にいったん廃れたものが、戦後になって再発見されたという経緯をもつ。その後、この民謡は、地域の保存会によって歌詞や踊りの形態が整えられ、多くのイベントに出演して知名度を増していった。つまり、「こきりこ」は、「伝統の創出」、あるいはフォークロリズム的な側面を色濃くもっているといえるだろう。しかし、ここで注目しておきたいのは、このような「創出」の過程でどのような人的な資源、文献や口頭の資料、多様なメディア網が駆使されたのかということである。それら近代的な諸制度の配置のなかで、この「民謡」にどのような言説が付与され、錯綜し、さらに剥離していったのかを検証することで、「民謡」の近代を考えていくことにしたい。以下では、まず、民謡が生成する背景、あるいは資源として存在していた近世の地誌類などの文献資料と、それらを再解釈して地域の「歴史」を構成しようとする郷土史家の存在に注目する。次に再発見の過程で生じた「民謡」という象徴資本を巡る地域間での競合的な側面を明らかにしたい。逆説的なことだが、これらの競合を通じて、「こきりこ」の踊りや歌詞、由来についての言説は、一貫した歴史性や物語性を獲得していったと考えられる。そのうえで、郷土史家のような地域の側の主張に呼応する中央の研究者の視点や、両者を巻き込みながら展開していった全国規模での民謡のリバイバルを促す運動についても確認することになるだろう。
著者
心光 世津子 Setsuko Shimmitsu
雑誌
武庫川女子大学看護学ジャーナル (ISSN:24240303)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.63-68, 2016-03-01

本研究の目的は、地域に暮らす精神障害者の家族が、「回復」をどのようなものとして捉えているか、どのような要因 がかかわり「回復」像が構築されているかを明らかにすることである。精神疾患の診断を受け地域で暮らしている者と同一の世帯で暮らす家族3名に、対象者の考える「回復」の定義、そう考えるに至った経緯等を尋ねる半構成的インタビューを行い、その逐語録を質的に分析した。3名は、精神障害者本人を長年みてきて生じた確信・思いをもとに「回復」の語りを構築していた。母親の語りからは、親子双方の発達課題が「回復」像の構築に関わっていると示唆された。「回復」が死ぬまでないとする語りは、幻聴に支 配された長年の状況や治療への否定的な受け止めが関わっていた。「回復」への複雑な思いも見いだされ、家族に対して 看護援助を行う際には、「回復」の受けとめにいたる心情を理解することが重要であると考えられた。
著者
萩原 知章 岩井 輝男 中西 正和
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.第52回, no.ソフトウェア, pp.19-20, 1996-03-06

世界的に行われているLisp言語の標準化の活動の1つとして、国際標準機構ISOによるものがあり、ISLispと呼ばれている。ISLispの特徴は、Common Lispの仕様から使用頻度の低い機能を取り除いたものである。このため、Common Lispに比べ処理系の作成が容易である。また、オブジェクト指向機能も兼ね備えている。本研究では、ISLispに準拠したLispの実装をバイトコードインタプリタにより行なった。この実装は2段階に分けられる。第1段階(本システム):コンパイラがLispのプログラムを後置記法に直し、中間コードに変換する。そして、このコードに最適化を施し、バイトコードで書かれたファイルに変換する(これ以降この作業をコンパイルという)。第2段階:バイトコードインタプリタがバイトコードに変換されたプログラムを読み込み、解読し、スタック機械により実行する。本稿では、第1段階のコンパイラの実装および、中間コードに最適化を施した際の実行効率について述べる。
著者
辻野 雄大 山西 良典 西原 陽子 福本 淳一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.1953-1964, 2018-11-15

ダンスゲームは,幅広いユーザから親しまれている代表的な音楽ゲームの1つである.幅広いユーザがダンスゲームを楽しめる環境を用意するためには,初級者でも容易に遊ぶことができる低難易度の譜面を充実させることが必要である.しかし,低難易度の譜面を作成するためには,楽曲の特徴をとらえつつ容易なリズムに調整するという,高難易度譜面の作成にはない課題が存在する.本稿では,ダンスゲームには同じ曲に対して難易度が異なる複数の譜面が存在することに着目し,難易度が高い譜面から得られる音楽的特徴を入力,難易度が低い譜面を出力とする時系列深層学習モデルを構築した.学習させた提案モデルに高難易度のダンス譜面を入力し,低難易度の譜面において指示符を配置すべき発音タイミングを推定させることで,難易度の自動調整を実現した.性能評価の結果,時刻決定タスクにおいて提案手法は0.693のF値が確認され,既存手法のF値をおおよそ1.8倍上回った.向き選択タスクについて指示符の2-gram出現頻度を集計したところ,提案手法の生成譜面とデータセット内の低難易度譜面との相関係数が0.972となり,人手で作成された低難易度のダンス譜面の特性をとらえた譜面を自動生成可能であることが確認された.
著者
本庄 勝 田上 敦士 橋本 真幸 黒川 雅幸 三島 浩路 吉田 俊和 長谷川 亨
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN)
巻号頁・発行日
vol.2013-GN-87, no.15, pp.1-8, 2013-03-11

中高生の間で,プロフやマイリンク,ブログ,ゲスブと呼ばれるサービスを提供するソーシャルメディア (中高生向けソーシャルメディアと呼ぶ) の利用が広まっている.これらのサービスは,コミュニケーションツールとして円滑な人間関係構築に利用される一方で,特定の相手に対する無視や仲間外れといったネットいじめにも利用されることもあり,安心して利用できる中高生向けソーシャルメディアが求められている.我々はこれまでに,中高生の間で発生するネットいじめを自動で検出するためのフレームワークについて検討を進めてきた.本論文では,人間関係の推定に焦点を当て,教育現場の協力によって得られたソシオメトリのデータを用いて,中高生の二者が親密さを確認するために行う,特徴的な相互行為について分析調査を行った.また機械学習を用いた二者間の親密さの推定精度についても評価したので報告する.
著者
大谷 哲弘 山本 奬 OHTANI Tetsuhiro YAMAMOTO Susumu
出版者
岩手大学大学院教育学研究科
雑誌
岩手大学大学院教育学研究科研究年報 = Research Journal of the Iwate University Professional School for Teacher Education (ISSN:2432924X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.85-94, 2018-03-30

本研究は,いじめ発見に資する観点に裏づけされた具体的ないじめの予兆を収集することを目的に行われた。大学生62人に対して,自由記述により,教師には見えにくい,わかりにくいいじめ発見のポイントについて回答を求めた。その結果,325項目が収集された。重複する項目を整理したところ128項目になった。内容分析を行い,いじめの態様として「能動的攻撃」「使役」「忌避」「受動的攻撃」「ストレス反応や失敗している対処およびその結果」にまとめることができた。次にこれらの態様の軸に発見の機会となる場面や学校生活上の注目すべき要点の軸を加えて2 軸でとらえ分類した。収集した項目は,従来の視点では見られなかった具体的な項目が収集できた。
著者
高橋 恵美子 山下 一也 阿川 啓子 小村 智子 Emiko TAKAHASHI Kazuya YAMASHITA Keiko AGAWA Tomoko OMURA
雑誌
島根県立大学短期大学部出雲キャンパス研究紀要 (ISSN:18824382)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.137-143, 2010-09-30

ADHDをもつ子どものための包括的治療としての夏期治療プログラム(Summer Treatment Program : STP)の意義について文献的考察をした。ADHDの原因については、多くの研究にも関わらず十分に解明されていないところが多い。ADHDの治療方法としては、薬物治療による効果が70~80%の子どもに見られるために、薬に頼りがちである。しかし、ADHDをもつ子どもが抱える併存障害の重症化を予防する観点から考えても、治療的エビデンスのある行動療法と中枢神経刺激薬を中心とした薬物療法を組み合わせた包括的治療が重要である。
著者
前田 勇子
出版者
甲南女子大学
雑誌
甲南女子大学研究紀要. 看護学・リハビリテーション学編 = Studies in nursing and rehabilitation (ISSN:18825788)
巻号頁・発行日
no.4, pp.211-221, 2010-03-18

三次救急医療機関において入院治療を受けた重度外傷患者を対象に外傷体験が心理面に及ぼす影響を検討した。切断指・肢、多発外傷、多発骨折などの患者58名を対象として、退院後3~10ヵ月目にアンケート調査を行い、30名(51.7%、男性21名、女性9名)から回答を得た。Impact of Event Scale-Revised(IES-R)は、19.6±15.9点であり、25点以上の強いストレス下にある患者は33.3%であった。Hospital Anxiety Depression Scale(HADS)の不安は4.6±2.7点、抑うつは4.9±3.8点であり、不安、抑うつの可能性がある8点以上の患者はそれぞれ16.7%、23.3%であった。仕事・家事への復帰、趣味・娯楽活動の再開、退院後のセルフケア、生活の満足度は、それぞれHADS抑うつと関係した。重度外傷患者では、退院後も長期にわたり心理的ストレス、不安、抑うつが生じることから、患者の心理面をふまえたサポートの重要性が示された。
著者
松岡 弘道 村上 佳津美 小山 敦子
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University (ISSN:21868921)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.3-17, 2014-11-01

[要約] 心療内科で扱う心身症の患者によくみられる特徴に, (1)失感情症, 失感情言語化症 (Alexithymia) : 自分の内的な感情ヘの気づきとその言語表現が制約された状態, (2)失体感症(Alexisomia) : ホメオスターシスの維持に必要な身体感覚 (空腹感, 満腹感, 疲労感など)への気づきが鈍い傾向, がある. このために過剰適応となり, 様々な身体の不調をきたす心身症ヘと発展していく. したがって, 心身症治療の中心は, これらの病態--「心身相関」への気づきを促し, 患者自身に新しい適応様式を獲得してもらい, セルフコントロールできるようにすることである. 代表的な心理療法として, 自律訓練法, 交流分析・ゲシュタルト療法, 認知行動療法について概説するとともに, 日本ではまだあまり知られていないが, 最近, 筆者らが渡独し, 開発者から直接研修を受けたオートノミートレーニングについても詳述する. 近畿大学では, 今後, 幅広い患者ヘ心身医療を提供していく.