著者
右田 裕規
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.101-116, 2013

近代日本社会に現前した祝祭商品の氾濫という事態はどのような歴史社会的意義を含んだ現象だったと考えられるか。とりわけその消費者であった同時代の人びとの集合的経験・意味づけに即したとき,それはどのような社会的要素から生まれ,またどのような社会的作用を及ぼした現象であったと解釈できるか。本稿では,この問いについて昭和大礼を具体的事例にとりあげつつ再検討することが目指される。本稿の指摘は主に次の3点にまとめられる。第1に,祝祭商品への社会的需要は多くの場合,人びとの愛国的な動機(祝祭参加,奉祝への欲望)からではなく,消費をめぐる世俗で私的な欲望から生成されていたこと。第2に,祝祭商品に付された天皇家の表象は多くの場合,消費への耽溺を正統づける記号として社会的に解釈され作用していたこと。第3に,同時代の多くの人びとにとって祝祭商品の氾濫は消費をめぐる私的な欲望が一時的に正統づけられ解放される契機として体験されていたこと。この3点を指摘することで,従来のナショナリズム論的な解釈とは異なる,祝祭商品の史的意義についての文化論的な解釈が提起される。
著者
浪本 勝年
出版者
立正大学
雑誌
立正大学文学部論叢 (ISSN:0485215X)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.61-80, 1986-03-20
著者
平山 賢一
出版者
埼玉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
博士論文(埼玉大学大学院人文社会科学研究科(博士後期課程))
巻号頁・発行日
2018

本研究の課題は、戦前・戦時期の国債・株式市場の利回り・価格データを整理した上で、現代のポートフォリオ理論に基づく国債・株式パフォーマンスインデックスを算出し、当時の金融市場を再評価することである。このインデックスは、国債市場のリターン・リスク等(月次)を明らかするGovernment Bond Performance Index(GBPI)と、同じく株式市場についてのEquity Performance Index(EQPI)から構成されており、戦前・戦時期の投資成果を示すものである。算出にあたっては、戦前・戦時期特有の金融制度や仕組みを反映しなければならないため、原データに各種の修正を施す必要がある。 近年、金融史・経済史研究やファイナンス理論研究において、戦後だけではなく戦前・戦時期の国債・株式市場全体の動向を定量的に把握する重要性が指摘されている。だが、現代とは明らかに異なる戦前の金融市場構造を、市場データに反映させる困難性が伴うため、国債・株式の投資成果についての探求は進んでこなかった。確かに、一部の個別銘柄データを用いた戦前期の市場動向把握は試みられてきたものの、市場全体の動向が反映できないという問題点が残されたままであった。たとえば、三分半利債が大量発行された戦時期には、それまで売買が活発に行われていた甲号五分利公債や第一四分利債が国債市場の指標として適さなくなった。また、株式市場の指標とされてきた東京株式取引所の株価は、1930年代から重化学工業の比率が高まる株式市場の動向を代表しなくなったのである。 特に、国債市場では、低利借り換え懸念などの要因から、利率の違いによるイールドスプレッドが存在しており、1936年には利率の違いによる利回り逆行現象が発生していることから、特定の個別銘柄ではなく、広く国債全銘柄を対象とした指標が構築されるべきである。さらに、株式市場では、わが国特有の株式分割払込制度による新株権利落ちや払込修正についての検討が置き去りにされるとともに、投資成果にとって重要な配当によるリターンが無視されてきたことを不問に付すことはできないだろう。これらの問題点を解消するために算出したのがGBPI、EQPIであり、戦前・戦時期の国債および株式市場の投資成果を代表する指標として精度の向上と、当時の市場構造と市場参加者の行動とを再評価する際に相応しい指標になることが期待される。 GBPI、EQPIにより算出された戦前・戦時期(1924年6月から44年11月まで)の市場リターン(年率換算)は、国債5.71%に対して株式6.92%となり、リスク(年間)は、国債2.04%に対して株式16.39%であった。現代ポートフォリオ理論に示されるリスクとリターンのトレードオフ関係に沿った結果となったが、 30年代前半までの市場リターンは、国債が株式を上回ったものの、30年代後半以降は株式が国債を上回ったことが明らかになった。そのため、リターン水準という側面からは、戦時期の株式市場は低迷したと言い切ることは難しいと言えよう。一方、主たる先行研究では、「戦時期の株式市場は低迷した」としているが、この「低迷」という言葉の意図する領域が必ずしも明瞭ではないことから混乱を招いている。戦時期の企業の資金調達手段は融資が中心となり、配当も抑制されたという視点からは、株式市場は低迷したと言えるかもしれないが、投資成果(リターン)という点では相対的な優位性があったといい直すことができよう。 わが国の場合、EQPIによれば、戦時期であっても概ね企業業績(一株当たり利益)に応じた株価形成がされており、米国対比でのイールドスプレッド(株式益回りと国債利回りの格差)も著しい格差があったわけではなかった。そのため、株式市場の本格的な機能低下は、各種政府系機関による株価維持政策が実施され、クロスセクションで見た銘柄間のリターン格差が縮小し、そしてリスクも急低下した 1943年などに限定されると考え得るだろう。 一方、国債のリスク水準は、1942年以降0.10%を下回り、ほぼ短期金融市場(東京コール)と同水準になったことから、戦後を待たずに国債は、価格決定機能が消失し規制金利化した可能性があると言える。主な国債保有者は市中金融機関や政府であり、株式保有者は個人や法人であったことから、政府の指示による価格統制が国債市場で浸透し易かったという背景も手伝い、政府の価格統制強化は、株式市場よりも国債市場で徹底されていたと言えよう。そのため、40年代の国債利回りは約3.7%で固定化されたが、同時にインフレ率は上昇したことから、実質マイナス金利状態に陥っていた点は再認識すべきであろう。 ところで、戦前・戦時期の国債及び株式の投資成果を把握することは、国債と株式の関係を明らかにするだけではなく、特殊な金融構造下での市場参加者の行動(資産配分)を再評価することにも貢献するだろう。マイナス実質金利状態にもかかわらず、五大銀行等が国債割当や軍需産業への融資を拡大させたのは、政府の金融統制により、金利変動が抑制され利鞘が確保されたことで業績が安定的に成長したこと、そして自己資本比率低下による財務リスク耐性の悪化を損金参入可能な有価証券価額償却による「含み益」温存により緩和したことなどが影響していたと考えられる。 民間金融機関の財務リスク耐性を確保する政策は、国債消化策などの各種政策により確認することが可能だが、1931年下期の国債暴落により民間金融機関の有価証券評価損失が巨額な規模に膨らんだことを端に採用されるようになったと推察される(特に、五大銀行の有価証券評価損益は、GBPIを算出することで推計が可能となった)。つまり、政府による国債投資・融資拡大という資金統制も、民間金融機関の業績悪化を回避する政策と共に強化されており、政府による公益追求が、民間金融機関による私益追求放棄という犠牲の下に成立していたわけではないことを指摘できうるのである。 戦前・戦時期の国債・株式パフォーマンスインデックス算出による投資成果の検証は、金融市場の構造や市場参加者の行動を再評価するための有力な手段になりうるであろう。また、戦前・戦時期における金融市場の解明は、現在の金融市場との比較を通して、今後の政策運営にも意義あるインプリケーションを与える可能性も否定できない。そのため、わが国の金融史研究とファイナンス理論研究の間に拡がる「戦前日本の金融市場マイクロストラクチャー研究」の沃野は、道半ばであるだけに研究の深耕が期待できると言えよう。
出版者
外務省記録局
巻号頁・発行日
vol.第1編, 1889

9 0 0 0 OA 故実叢書

著者
今泉定介 編
出版者
吉川弘文館
巻号頁・発行日
vol.中古京師内外地図(森幸安), 1906
著者
石岡 恒憲
出版者
日本計算機統計学会
雑誌
計算機統計学 (ISSN:09148930)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.3-13, 2006-06-30
被引用文献数
2

K-means法の逐次繰り返しとBICによる分割停止基準を用いることで,クラスター数を自動的に決定するアルゴリズムx-means法を改良した.その手続きは,分割順序に起因する好ましくないと考えられる分割クラスターを併合するものである.この併合操作により,さまざまな事例に対して,適当と考えられるクラスター数を得ることのできる事例の数が大幅に増加することが確認された.この方法は,クラスター数未知のときに発見的な方法に拠らずに情報理論的に最適と考えられるクラスター数を求めることができる.その計算量(computational complexity)は標本サイズをN,クラスター数をkとしたとき,ο(N log k)となる.
著者
若林 功/八重田 淳 八重田 淳
出版者
昭和女子大学
雑誌
學苑 (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
vol.904, pp.68-78, 2016-02-01

The importance of support in the workplace for persons with disabilities to adjust to working life has long been recognized in the literature. However, the effects of workplace support on the work adjustment of persons with disabilities have not been well documented. This paper examines whether workplace support is related to job satisfaction, performance (as evaluated by employers), organizational commitment, workplace integration, and their intention to quit their jobs. A survey of people with intellectual disabilities was conducted, and 169 answers were collected. The results of analysis of the survey are as follows: (a) workplace support consists of three factors: education, negative feedback, and supports for work performance, (b) moderate correlation was found between education and job satisfaction, (c) moderate correlation was found between organizational commitment and job satisfaction, and between workplace integration and job satisfaction; a moderate negative correlation was found between intention to quit job and job satisfaction, (d) only a weak negative correlation was found between intention to quit job and workplace support.The importance of support in the workplace for persons with disabilities to adjust to working life has long been recognized in the literature. However, the effects of workplace support on the work adjustment of persons with disabilities have not been well documented. This paper examines whether workplace support is related to job satisfaction, performance (as evaluated by employers), organizational commitment, workplace integration, and their intention to quit their jobs. A survey of people with intellectual disabilities was conducted, and 169 answers were collected. The results of analysis of the survey are as follows: (a) workplace support consists of three factors: education, negative feedback, and supports for work performance, (b) moderate correlation was found between education and job satisfaction, (c) moderate correlation was found between organizational commitment and job satisfaction, and between workplace integration and job satisfaction; a moderate negative correlation was found between intention to quit job and job satisfaction, (d) only a weak negative correlation was found between intention to quit job and workplace support.
著者
新田 雅之 村垣 善浩
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
pp.jslsm-41_0036, (Released:2020-12-05)
参考文献数
63

正確かつ安全に悪性神経膠腫を最大限に摘出することは容易ではなく,(5-aminolevulinic acid: 5-ALA)を用いた光線力学的診断(Photodynamic diagnosis: PDD)を始め多くのモダリティが応用される.5-ALAは腫瘍内に選択的に集積し,その代謝産物である(Protoporphyrin IX: PpIX)の蛍光によって,腫瘍の存在を非常に簡便かつリアルタイムに示すことができ,本手術の遂行に有用である.最近ではPpIXの集積メカニズムの解明も進み,その集積効率を高めることで,PDDのみならず光線力学的療法(Photodynamic therapy: PDT)の効果増強に関する研究も期待されている.一方,本方法論には低悪性度神経膠腫での有用性が低い点,偽陽性や偽陰性の問題などがあり,その遂行には十分な知識と経験を要する.これら諸問題の克服のため,スペクトル解析を用いたPpIX蛍光の定量化技術の開発が進んでいる.また最近,本邦において悪性脳腫瘍のPDT治療剤として承認されているtalaporfin sodiumが,PDDにも応用可能であることが示され,今後は本薬剤を用いたPDDとPDTの併用が実現することが期待される.
著者
松尾 康弘 吉田 秀樹
出版者
バイオメディカル・ファジィ・システム学会
雑誌
バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌 (ISSN:13451537)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.61-68, 2013-06-28 (Released:2017-09-04)
参考文献数
25

近年、脳の認知機能研究が進み、リハビリテーションへの応用が多くみられるようになってきた。その認知機能の基盤である注意機能改善に対するModified attention process training(以下M-APT)が紹介され、その効果として、注意機能のみならず、社会的外向性等の改善までみられた報告がなされている。本研究はそのような背景から、注意機能が言語機能、コミュニケーション能力および知的機能に与える影響について検討した。方法は脳血管障害患者8名にM-APTを実施し、その前後において、注意機能検査、言語機能検査、コミュニケーション能力検査、知能検査を行った。その結果、知的機能検査以外の各検査結果が有意に向上した。以上から、注意機能向上は、言語課題の遂行・処理を促進させ、コミュニケーション能力の向上へ良い影響を与える可能性が示唆された。
著者
千葉 庫三
出版者
日本科学史学会
雑誌
科学史研究 (ISSN:21887535)
巻号頁・発行日
vol.59, no.294, pp.113-130, 2020 (Released:2021-01-24)

In the 1960s, radio astronomy research in Japan was at a developing stage in comparison with that of leading countries. However, in the following decades the situation improved dramatically, and Japan gained a competitive position in this research field. This was achieved largely through the construction of the Nobeyama Radio Observatory (NRO). This paper describes the NROʼs construction history by focusing on the setting of scientific goals and development of the equipment to achieve them. Although there have been a few preceding studies on the Japanese history of modern astronomy including radio astronomy, it is characterized that this study utilized mainly the minutes of the Science Council of Japan and documents of research groups as primary sources. This paper clarifies the following processes. In the 1960s, with a series of major worldwide discoveries in radio astronomy, the importance of radio astronomy was recognized in Japan as well, which led to the planning of the Science Council of Japan. Responding to the global trend of radio astronomy, Japan set as the scientific goal exploring millimeter-wave astronomy. In order to meet the requirements, the 45m radio telescope and an acousto-optic radio spectrometer for spectral observations were designed and their specifications were actually realized, which far exceeded world standards at that time. Consequently, Japanese radio astronomy could obtain its global position.
著者
渡辺 麻里子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.58-68, 2014

<p>談義や論義の場で生まれた書物には、時折、その場を彷彿とさせる表現が見られる。論義書の伝静明作『天台問要自在房(百題自在房)』十巻は、「申されずるでそう」「申されまじいて候」等、口語表現が多用されている点でも注目されてきた。本稿では、本書の他に、『鷲林拾葉鈔』や『轍塵抄』などの談義書について取り上げ、談義書に特徴的な表現について論じる。また、漢字の表記、特に読み方にこだわる表記をめぐる問題について検討する。</p>
著者
野村 克也
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1519, pp.117-120, 2009-12-07

「やめるな、やめるな」というファンの声が響き渡る中、私は選手たちの手で札幌ドームの宙を舞いました。10月24日の対北海道日本ハムファイターズ戦。東北楽天ゴールデンイーグルスのクライマックスシリーズ(CS)敗退が決まった試合直後の出来事です。 負けた監督が敵地で胴上げされるなど前代未聞でしょう。しかも手を貸してくれたのは味方ばかりではありません。
著者
酒見 悠介 森野 佳生
出版者
Institute of Industrial Science The University of Tokyo
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.159-167, 2019-03-01 (Released:2019-03-30)
参考文献数
18

スパイキングニューラルネットワーク(SNN) は脳に倣ったモデルであり,活動電位(スパイク) による情報処理が可能である.近年,より高い情報処理能力を目指して,SNN を用いた深層学習が注目されている.既存の深層学習のアルゴリズムをSNN に直接導入することは数理的に困難であり,様々な新規手法が提案されつつある.本稿はSNN における深層学習アルゴリズムを主に数理的な観点から整理することを目的にしており,特に,教師あり学習,教師なし学習の点から解説する.教師あり学習では主に誤差逆伝搬アルゴリズムについて,教師なし学習ではSpike-Timing-Dependent Plasticity に基づくアルゴリズムについて解説する.