著者
清水 道生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.577-579, 2019-05-01

はじめに 病理解剖とは,病院内で病気のため不幸にして死亡した患者の遺体を遺族の承諾を得て解剖し,その臓器,組織を観察,詳細に医学的検討を行うことを指し,病理医によって実施される.病理解剖は“剖検”と略されることもあり,英語ではautopsyといい,ギリシア語のautopsiaが語源で,auto(自分で)とopsis(見ること)からなり,“自分の目で見ること”を意味する. 病理解剖の起源は不明であるが,病理解剖の記録としては1286年にイタリアでペストが流行した際に,クレモナ出身の医師が病因解明のため胸部の部分解剖を行い,心臓を調べたものが最初であるとされている.そして,現在行われているような病理解剖が始まったのは18世紀中頃で,19世紀に入りオーストリアのウイーン総合病院の病理医長であったカール・フォン・ロキタンスキー(Carl von Rokitansky,後のウイーン大学病理解剖学の教授)とドイツのベルリン大学の病理学教授であったルドルフ・ルートヴィヒ・カール・フィルヒョウ(Rudolf Ludwig Karl Virchow)によって系統的な病理解剖が確立された.現在,病理解剖手技として主に使用されているRokitansky法(頸部臓器を含め,体腔内の臓器を一塊として取り出し観察する方法)とVirchow法(一つ一つの臓器を別々に取り出し観察する方法)はこの偉大な2人によって考案されたものである. また,この間に顕微鏡の性能が向上し,パラフィン包埋法やミクロトームも発明された.その後,固定液としてホルマリンの使用,ヘマトキシリン・エオジン染色法が発明され,20世紀の初めには今日行われている病理解剖の基本的技術が確立されるに至った1,2).
著者
河井 紘輔
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.60-64, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

一般廃棄物のリサイクル率は2007年度以降停滞し,環境省が設定した目標を達成できていない。全国の市区町村及び一部事務組合を対象に毎年実施されている一般廃棄物処理実態調査について解説した後に,日本では中間処理後リサイクル量,EUでは中間処理仕向量がリサイクル量と定義されていることを述べた。日本がEU加盟国に比べてリサイクル率が低く,焼却処理の割合が高いことがリサイクル率の増加を妨げていること,日本とEUにおけるリサイクル量の定義は一長一短があり,それぞれの長所短所を理解した上で,リサイクル活動を適切に評価すべきことを主張した。
著者
細矢 剛
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.54-59, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

どのような生物が,いつ,どこに存在したかを記述したオカレンスデータは,生物多様性情報の基盤である。オカレンスデータは,集積し,時間軸や空間軸に沿って解析されることによって大きな意味をもつ。オカレンスデータは,ダーウィンコアによって標準化されている。GBIF(地球規模生物多様性情報機構)は,世界スケールで標準化された生物多様性情報を集積・提供しており,その活動には日本も大きく貢献している。集積されたデータによって,気候変動,健康や経済に関する予想,保全生態学的知見などが得られる。データの追跡はDOIの利用によって可能となり,DOIは種概念の整理にも役立っている。
著者
真砂 佳史 服部 拓也
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.48-53, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

近年気候変動による影響が顕在化しており,その影響を低減あるいは活用する気候変動適応が求められている。日本では2018年に気候変動適応法が施行され,国,地方公共団体,事業者,国民等の適応主体の役割が明確化された。国立環境研究所は気候変動適応に関する情報提供や技術的支援が求められており,同年策定された国の気候変動適応計画をもとに情報基盤として気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)を運営している。本稿では,気候変動適応に関する国内の動向について解説し,国立環境研究所がA-PLAT等を通じどのように適応主体に対する情報提供や技術的支援を行っているかを紹介する。
著者
光森 奈美子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.47, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

2021年2月号は「環境問題と情報」と題してお届けします。「環境問題」という言葉には,地球環境の汚染や悪化にまつわる様々な問題が含まれています。おそらく読者の皆様も,それぞれに思い起こすものが異なるのではないでしょうか。大気汚染,オゾン層の破壊,地球温暖化はずいぶん前から問題視されてきました。近年はプラスチックごみの問題,とりわけ海洋プラスチックに対する関心が高まり,多数の図書が発行されています。こうした環境問題への対応は,国や地方自治体,企業といった組織体だけでなく,私たち一人一人にも行動が求められます。地球環境を保全し,持続可能な社会を構築していくためには,過去や現在の状況を知り,未来のリスクを予想し,何よりも行動することが必要です。そのために活用できる情報・データは,国内外の様々な組織において,収集や作成,公開されています。今回の特集では,特定の問題にはフォーカスせず,「環境問題」と呼ばれる問題を幅広く取り上げました。各種の問題に関してどのような情報やデータがあるのか,そうした情報やデータはどのように作られており,どのような課題を抱えているのかを知ることで,公開されている様々な情報・データの利活用が広がるものと考えます。毎年のように起こる極端な気象現象を目の当たりにして,多くの方が気候変動について関心をお持ちだと思います。国立環境研究所 真砂佳史氏,服部拓也氏に,気候変動適応を進めるための情報基盤である「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」をご紹介いただきました。生物多様性は環境の変化を受けると同時に,環境の変化を知る手がかりとなります。こうした生物多様性に関する情報として,国立科学博物館 細矢剛氏に「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)」をご紹介いただきました。ごみのリサイクルは私たちの日常生活の中にあり,身近な問題の一つです。ごみのリサイクル率の把握方法と今後の課題・展望に関して,国立環境研究所 河井紘輔氏にご執筆いただきました。持続可能な社会を構築していくため,環境保全に関する技術開発も進んでいます。九州大学 藤井秀道氏には,特許情報を活用した環境保全技術の評価についてご執筆いただきました。遠いように感じる問題も,すべて私たちの生活に繋がっています。様々な「環境問題」に対して情報の視点から構成したこの特集が,読者の皆様の環境問題に対する理解を深め,より主体的に関わっていく契機となることを期待しています。(会誌編集担当委員:光森奈美子(主査),大橋拓真,池田貴儀,中川紗央里)
著者
後安 謙吾 谷口 義明 井口 信和
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.2, pp.159-163, 2021-02-01

本論文では,MR技術を用い実空間上に仮想ネットワーク環境を構築するシステムを開発する.本システムにより,実ネットワーク機器を用いることなく,ネットワーク機器の配置や配線などの物理的な構成を確認しながら,ネットワークの検証や構築学習を実施できる.
著者
斉藤 晶 竹越 哲男
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.336-339, 2012
被引用文献数
3

耳管開放症はまれな病気でなく,全人口の5%に存在している可能性がある。自声強聴や耳閉感がよく見られる症状である。薬物治療,手術を含め種々の治療が行われているが,満足した結果が得られていない。漢方医学的には,気虚または血虚と考えることができる。耳管開放症の漢方治療は加味帰脾湯が良く知られていた。今回,補中益気湯を10症例に投与した結果を報告した。4例が改善,1例がやや改善,4例が不変であった。作用機序は,耳管の緊張の亢進,耳管周囲の脂肪組織の増加,精神面への影響を考えた。補中益気湯が耳管開放症の選択肢の1つとなることが期待される。
著者
高良 美樹 金城 亮 Takara Miki Kinjo Akira
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
人間科学 (ISSN:13434896)
巻号頁・発行日
no.8, pp.39-57, 2001-09

本研究では、職業レディネスおよび進路選択に対する自己効力感を指標として、インターンシップ(職場実習)の前後における大学生の就業意識の変化に焦点をあてた検討をおこなった。沖縄県内の3大学に通う文系の3年次学生398名(男子217名、女子181名)を対象に調査を実施した。職業レディネス21項目および進路選択に対する自己効力感30項目の各合計得点を従属変数として、インターンシップのタイプ(実務型・専門教育型・実習なし)×調査時期(実習前・後)の2要因混合計画による分散分析をおこなった結果、両得点ともに有意な効果は認められなかった。一方、インターンシップ経験に対する全般的満足度が高い群では、低い群に比べて事後調査における両得点が有意に高くなっており、インターンシップ・プログラムへの関与や満足が、職業レディネスや進路選択に対する自己効力感に促進的な影響を与えていることが示唆された。
著者
永井 豪
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.11, 2011

岐阜県の県紙,岐阜新聞で長年,記者として県内各地を歩いてきた。「地域医療」に正面から取り組んだ体験はないが,地域と地域医療は切り離せない。地方新聞の一記者のささやかな体験にすぎないが,取材で出会った「地域医療」を振り返ってみた。<BR> 直近の地方勤務は下呂。名泉と下呂膏で名高い下呂温泉に太平洋戦争末期,旧陸軍傷病兵のための医療施設ができ,これを母体に戦後,県立に移管された下呂温泉病院は,一時は温泉を活用した独自の療法でも話題を呼んだ。自治体病院はどこも大概は経営難であることは承知していたが,ちょうど地方独立行政法人に移行する直前のころで,合併により市立となった金山病院とともに,老朽化した施設の整備改修が迫られる中,現場の医師や看護師らが懸命に日々の仕事をこなしていた。地域住民にとって,さまざまな健康や病気に対する不安に応え,診療や治療を受けられる総合病院はかけがえのない存在だったが,診療科も医師数も減り,患者だけでなく医師や職員が腹ごしらえをする食堂も閉鎖された。診る側も,診られる側もいらだちや漠然とした不安は募る一方のようだった。もう2年がたって,事態はもっと深刻化しているのではないかと危惧している。<BR> 出張先のJR 下呂駅構内で倒れ,心肺停止となった男性を,たまたま通りかかった18歳の娘さんが機敏な対応で救命した。この娘さんは高山の看護学校を卒業して下呂温泉病院に就職する直前の「看護師の卵」で,実習で学んだ通りの救命措置が役立った。大きな病院も,こうした一人一人の働く人の知恵と力と勇気によって成り立っているのだろう。<BR> 地域の「あかひげ先生」に贈られるノバルティス地域医療賞がかつてチバ地域医療賞といわれていたころ,美濃加茂の開業医,黒岩翠さんの受賞式を取材した。今から15年前,原因不明の川崎病の500症例を経験,診断,治療,後遺症予防に好成績を上げ,表彰を受けた黒岩さんは「医は仁術と思って励んできた」と話しておられた。5年前に86歳で他界されたが,その診療姿勢は患者と症状をよく診るという,医の原点ともいうべきもの。平成の大合併で今は恵那市所管となった国保上矢作病院の大島紀玖夫名誉所長も故郷の先年,同じ賞を受けている。「無医村の悲劇をなくしたい一心で」「病気を診るのではなく,人を診るのが医師」など,受賞に際し,語られた言葉は一つ一つ印象的だ。<BR> 岐阜,愛知県境に位置する笠松町の松波総合病院を,木曽川に雄姿を映す現在の病棟ができた1988年に取材した。まるでホテルのロビーのような広大なエントランスホールは,大規模災害時を想定し,ここでトリアージができることをも想定したものだ。分厚い堆積層の軟弱地盤を考慮した地震に強い耐震構造で,ハード,ソフトの両面において,県境にかかわらず,このビルが見える限りの広い地域の住民の健康と安心を平時も災害時も確保できる地域医療の拠点病院であろうとした志は高い。近くヘリポートを備えた施設も増築されるという。今後は医療の質をより高め,地域の信頼に応えてほしい。<BR> 最後に,これはそもそもの話だが,今は地域がさまざまな病気に苦しんでいるといってもいい。地域が元気でなければ,地域医療もよって立つ基盤を失ってしまう。長年,地域を取材してきた記者として,地域とともに歩む地域医療であってほしいと願っている。
著者
Masayoshi NAKAYAMA
出版者
Japan International Research Center for Agricultural Sciences
雑誌
Japan Agricultural Research Quarterly: JARQ (ISSN:00213551)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.271-277, 2014-07-01 (Released:2014-07-31)
参考文献数
31
被引用文献数
3 7

The coloration pattern of flower tissue affects the commercial potential of floricultural plants and is also a subject of fundamental biological interest. Transposon insertion or excision and post-transcriptional gene-silencing are well-studied mechanisms involved when flower color patterns form. In this paper, I present a research strategy to understand the mechanisms that govern the formation of flower color patterns. First, I discuss the significance of flower color pattern-formation research and then go on to describe a research system in the following six sections: Observation of flower patterns, Comparison of pigment components, Gene expression analysis, Regulation of target gene expression, Genomic structure, and Factors that can change color pattern-formation. In these sections, reference is made to my own studies on the marginal picotee pattern of Petunia flowers. Post-transcriptional gene-silencing of the chalcone synthase gene is responsible for the formation of white tissue in the white marginal picotee pattern in Petunia flowers. The unusual genomic structure of chalcone synthase is probably related to the operation of position-specific post-transcriptional gene-silencing. In the colored marginal picotee pattern of Petunia flowers, the higher expression of flavonol synthase is a responsible for the central white tissue formation. I also provide a research perspective from which to resolve the remaining questions.
著者
関山 和秀
出版者
特定非営利活動法人 日本口腔科学会
雑誌
日本口腔科学会雑誌 (ISSN:00290297)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.75, 2015

石油系合成高分子等の従来型素材は,その多くが原料を枯渇資源に頼り,生産工程でも膨大なエネルギーを必要とする。大量生産・大量消費・大量廃棄型経済から脱却し,持続可能な社会を実現するための切り札として注目されている素材が「クモの糸」をはじめとする「構造タンパク質」である。鋼鉄の340倍の強靱性(タフネス)を誇る「クモの糸」などの構造タンパク質は,環境性と超高機能性を両立する次世代基幹素材の本命として実用化が期待されているが,工業化に向けた技術的ハードルが極めて高く,産業的に未開拓である。メーカーが本素材を用いて開発を進めようにも,製品開発ができるレベルでのサンプル供給を行なえるサプライヤーが存在しなかったことが,その主な要因であった。私たちは,2004年より慶應義塾大学先端生命科学研究所にて本研究開発に取り組みはじめ,その研究成果をもとに2007年にスパイバー株式会社を設立,量産化のための基本となる要素技術を確立し,2013年11月NEDOからの支援を受け,世界で初めて製品開発ができるレベルでのサンプル供給が行なえる試作研究施設「PROTOTYPING STUDIO」を立ち上げた。また,2014年には,我が国成長戦略の要となる次期基幹産業創出を目指したハイリスク・ハイインパクトな研究開発課題を国家的に支援するための内閣府主導「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」において,「超高機能構造タンパク質による素材産業革命」として本研究課題が採択されたことで,今後鶴岡サイエンスパークを拠点とする研究開発体制が大幅に増強される見通しである。また,2期連続で採択を受けたNEDOプロジェクトにて,これまでの知見を総動員した次世代型パイロットラインを建造中であり,今春頃の竣工を目指している。これにより,本格的にメーカーとのアプリケーション開発のための試作検討を開始できる見込みである。今後,人類がタンパク質を工業的に素材として使いこなせる時代を切り拓き,本素材を一日も早く社会に普及させるべく,ImPACT等の活用によりさらなる研究開発の推進を図るとともに,戦略的にパートナー企業とのアライアンスを進め,構造タンパク質素材の世界初の工業化の実現を目指す。最終的には世界の合成高分子の20%程度を構造タンパク質素材に置き換えることができる可能性があると試算しており,関連産業を含めれば数十兆円規模の巨大なマーケットポテンシャルを秘める。本プロジェクトは,石油化学が中心であった工業材料に,「構造タンパク質素材」という新たなカテゴリーを創造し,枯渇資源に頼らない持続可能な社会の実現に大きく貢献するものである。本講演では,私たちのこれまでの取り組みや,組織としての特徴,今後の展望等について発表できる範囲で概説する。
著者
高木 綾一 畠 淳吾 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0752, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】一般的に人事考課の成績は,処遇に反映し,動機付け,人材育成を図ることを目的に活用される。しかし,セラピストの人事考課に関する報告は少なく,組織マネジメントへの活用には至っていない。そこで当院の平成22年から平成25年までの人事考課成績を分析し,人事考課成績に影響する要因を検討したので報告する。【方法】対象は,平成22年から平成25年までの間に人事考課を受けたセラピスト504人(平均経験年数2.8±1.9年,男性322名,女性182名)であった。考課者は被考課者の上司2名が行った。人事考課は1.職能2.成績3.情意のそれぞれ構成する下記に記載する項目に対して5段階評価(1点から5点)にて加点し,全項目の合計点により総合評価を定めるものである。1.職能は法人が定めたセラピストの業務や臨床に必要な能力の基準を定めたものである。2.成績は,目標達成,改善行動,計画的行動の項目より構成される。3.情意面は努力,挨拶,言葉遣い,身だしなみ,コスト意識,期限厳守,感情コントロール,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,研修会参加,自己啓発,人間関係,他者支援の項目より構成される。初めに全項目合計点の上位より20%(上位群:101名),60%(中位群:303名),20%(下位群:101名)の3群に分類した。次に各群間における1.職能2.成績3.情意の項目を分散分析,多重比較を用いて比較した。また,対象者全員の職能を従属変数,業績,情意の17項目を独立変数とし,ピアソンの相関係数(r)を算出した。なお,統計処理ソフトにはエクセル統計2012を用いた。【説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し,同意を得た。【結果】3群間において職能(上位:4.0±0.1中位:3.0±0.2下位:2.1±0.5),成績(上位:3.4±0.4中位:2.9±0.4下位2.5±0.5),情意(上位:3.4±0.5中位3.0±0.4下位2.7±0.5)となり,すべての項目において3群間に有意に差が認められた(p<0.01)。また,成績,情意の17項目と職能の間におけるピアソンの相関係数(r)は以下の結果となった。目標達成(r=0.48),改善行動(r=0.51),計画的行動(r=0.49)努力(r=0.54),挨拶(r=0.28),言葉遣い(r=0.28),身だしなみ(r=0.14),コスト意識(r=0.41),期限厳守(r=0.36),感情コントロール(r=0.39),コミュニケーション(r=0.61),部署方針順守(r=0.46),責任感(r=0.5),研修会参加(r=0.07),自己啓発(r0.19),人間関係(r=0.47),他人支援(r=0.44)となった。すなわち,職能との間に中程度以上の相関がみられたのは成績の3項目すべて,情意面の努力,コスト意識,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,人間関係,他者支援であった(r=0.41~0.61)。なかでも,情意面のコミュニケーションはもっとも強い相関(r=0.61)が見られた。【考察】職能,成績,情意において職能の能力開発が最重要と言われている。しかし,実際の現場では職能だけなく,成績や情意の高低が人事考課成績に大きく影響を与えている印象がある。また,現場では職能だけでなく,目標達成や同僚や組織に対する態度などの指導も行っている。そこで本研究では成績上位,中位,下位群の職能,成績,情意の比較と対象者の各項目の相関関係を算出し,効果的な介入を検討した。結果より,上位,中位,下位において職能,成績,情意のすべてにおいて有意差が認められた。つまり上位成績を得るためには職能,成績,情意面の全ての能力開発が重要であると考えられた。また,職能と成績の項目である目標達成,改善行動,計画的行動には中等度の相関があった。成績の項目は仕事の結果水準を評するものであることから,仕事の結果を求める目的志向への介入が重要と考えられた。職能と情意の項目である努力,コスト意識,コミュニケーション,部署方針順守,責任感,人間関係,他者支援には中等度以上の相関があった。コスト意識や部署方針順守は経営的関与であり,努力,コミュニケーション,責任感,人間関係,他者支援は責任性と協調性を示すものである。つまり,職能の能力開発において情意面からの相乗効果を出すためには経営的関与並びに責任性と協調性への介入が重要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】セラピストの人材育成は組織マネジメントにおける重要な経営課題の一つである。本研究は人材育成において職能だけでなく成績,情意の介入の必要性を示唆するものである。