著者
北條 勝貴
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.41-80, 1997-03-28

古代最大の規模を有する氏族の1つである秦氏については,現在,各集団における在地的特徴・個別的性格の解明が要請されている。そのための方法として,氏族の有する歴史性――文化全般の蓄積が顕著に反映される,種々の氏神に対する信仰形態の検討が重要視される。山背国葛野郡を本拠とする秦氏の集団は,古来同氏族の族長的地位を保持してきた。その勢力範囲には幾つかの神社が存在するが,中でも松尾大社は隣接する愛宕郡の賀茂社に並ぶ巨大勢力を築いており,その創祀や信仰の展開には注意を要する。同社の祭神には2柱あり,大山咋神と市杵嶋姫命という男女の神とされている。前者は秦氏渡来以前より同地に奉祀されていた農業神らしいが,後者は筑前国宗像郡に鎮座する胸肩君の氏神――宗像三女神の1神で,元来沖ノ島にあって渡来人や海人集団から特別な崇拝を受けた海洋神であった。松尾大社の周辺に立地する葛野坐月読神社や木嶋坐天照御魂神社も,それぞれ玄界灘に由来し,海人系の壱岐氏・対馬氏によって奉祀されていた神格である。その分祀は,渡来人や海人集団の移動に伴うものと考えざるをえない。海岸部から内陸部へ,北九州地域から畿内諸国への海人集団の東遷は,考古学的にもある程度立証されている。それは彼らの主体的行動に基づく場合もあるが,多く5世紀後半以降は,半島との交通権・制海権を掌握・独占しようとするヤマト王権によって促進された。半島よりの秦氏の渡来も,そのような社会状況を背景に移動と停留を繰り返しつつ,海人集団との繋がりを持って行われたものと推測される。松尾大社に鎮座する市杵嶋姫命も,胸肩氏と血縁的・文化的に接触した秦氏の1集団により,玄界灘より分祀されてきたものと想定される。元来松尾山には大山咋神と一対の普遍的女性神(神霊の依代たるタマヨリヒメ)が祀られており,市杵嶋姫命はその神格に重複し限定を加える形で鎮座したものであろう。
著者
伊藤 彰則
雑誌
研究報告自然言語処理(NL) (ISSN:21888779)
巻号頁・発行日
vol.2015-NL-221, no.12, pp.1-6, 2015-05-18

筆者のグループがこれまで研究してきた,音声対話を利用した英会話のための CALL システムに関する技術について述べる.音声認識技術を利用した現状の CALL システムは,発音やイントネーションなど,1 つの発話に含まれる要素を採点するものが多い.それも重要ではあるが,英会話学習には 「実際に使われる表現を何度も繰り返して練習する」 ということも必要である.この考えに基づき,筆者のグループではこれまで 「対話に基づく CALL システム」 について研究してきた.本稿では,対話音声からの韻律評価,文法誤り検出および応答タイミング制御練習のためのシステムについて述べる.
著者
朱 捷 ZHU jie
出版者
京都
雑誌
総合文化研究所紀要 = Bulletin of Institute for Interdisciplinary Studies of Culture Doshisha Women’s College of Liberal Arts (ISSN:09100105)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.93-108, 2012-03-30

Nothing expresses the essence and thinking of classical Chinese culture and literature better than the palindrome, although palindromes themselves are not highly ranked. Exhibiting the tendency of classical Chinese literature to present everything in dyads, and to highly value the never-ending cycle between two poles, palindromes are also recognized in the iconography of the Book of Changes (I Ching, 易経), in which the symbols of the 64 hexagrams are arranged as iconographic palindromes. It might be said that these 64 hexagrams represent the "Mandala" of Chinese cosmology. This paper examines and discusses the hypothesis that if it is true that a palindrome is hidden in this Mandala, then not only Chinese cosmology, but Chinese literature in its entirety as a cultural concept is characterized by the phenomenon of the palindrome.
著者
齊藤 泰雄
巻号頁・発行日
1995-03

本報告書では、まずアステカ族の教育の全体像、その人間観、教育観を概観するたあに、メキシコの教育史の本のなかから「アステカ族の教育」を記述した部分を紹介する。この本は、メキシコの師範学校用教育史教科書として編集されたものであり、今日のメキシコにおいて、自国の教育史のルーツのひとっともいえるアステカ族の教育の遺産がどのように認識されており、通史的なメキシコ教育史のなかにどのように位置づけられているかを知るうえでも興味ぶかいものがある。っぎに、メキシコ国立自治大学の歴史・人類学教授ロペス・アウスティン博士が編集した、『古代アステカ教育関係史料集』(L6pezAustinA.,LaEducaci6ndelosAntiguosNahuas1,2.1985)の主要部分を翻訳、紹介する。この史料集は、16世紀初頭の征服、植民地化の初期の段階おいて、まだそれほど破壊されていないインディオ文明に直接的に接触したスペイン人たちがその文明について書きしるした記録や書簡、さらにインディオたち自身が書き残した資料(アステカ族の独特な記録法である絵文書、インディオ言語のローマ字表記やスペイン語習得によるみずからの歴史の記録)など膨大な資料のなかから、当時のインディオの教育に関連する記述部分をひろいだして集成したものであり、アステカ族の教育に関する一次史料に直接的かっ効率的にアクセスするのにきわめて有用なものである。
著者
李 春
出版者
宝塚大学
雑誌
宝塚大学紀要 = Bulletin of Takarazuka University (ISSN:09147543)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.91-112, 2023-03-31

中国人の日本留学スタイルは保護者の精神的な支えや経済的な援助をあまり受けられない「放任留学」から保護者の精神的な支え及び経済的な援助を多く受けている「援助留学」へ転換している。通信手段の発達及び保護者の経済力の向上がその転換を促す要因だと考えられる。特に無料SNSは保護者と留学中の子どもとのコミュニケーションの道具となると同時に、大学と保護者の連携にも役に立っている。大学はSNSを通じて教育方針、教育内容、子どもの現状などの様々な情報を保護者と共有しながら、必要に応じて留学生の教育における保護者の協力を求めることができる。保護者との連携は、留学生の主体的な学習力の向上につながる可能性がある。
著者
浜田 信夫 田口 淳二 佐久間 大輔
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.77, pp.29-36, 2023-03-31

博物館の乾燥菌類標本のカビ汚染について調査を行ったところ,カビはDNAとして検出されるが,現在生存していないことが明らかになった.そこで,過去に採集,乾燥,標本の作製,保存のどの段階で,どの程度カビ汚染が起きたかについて,博物館に収蔵されているAmanita属36標本のカサの部分を用いて検証した.手法としては,2種のカビの作成したプライマーを用いて,各検体のカビ数をリアルタイムPCRで測定し,その胞子数を調査した.得られた結果は次の通りであった.①両種の胞子数は標本ごとに桁違いのバラツキがあった.②検出されたA. penicillioidesの胞子数は,標本の乾重量100 mg当たり平均約1000個, Eurotium sp. は約7個であった.③結果は,採集時からの様々な過程で,湿り気が発生し,標本上にカビが一時的に発生したことを示唆している.なお,産出された胞子数は標本の古さ,あるいは目視でのカビの有無とは関係ないので,保存前の段階で汚染がしばしば起きたと推測される.
著者
斉藤 博
雑誌
埼玉医科大学医学基礎部門紀要
巻号頁・発行日
vol.10, pp.61-75, 2004-03-31

ヒポクラテスの歳言"人生は短く,術の道は長い"は,セネカ,アリストテレス,シェクスピア,ディケンズ,ゲーテなど多くの著者に引用されている.ゲーテファウスト初稿では,ワーグナーの台詞で,"術のみちは長く,人生は短い"と逆に引用されている.私は,古代ギリシアでの"術"の意味を検討し,ファウストの台詞とファウスト初稿での台詞の差異を比較した.ゲーテはファウスト初稿では,術を生命より強調するために,箴言の順序を変え,さらに,箴言の終わりに感嘆符(!)を加えた.彼はファウスト初稿をファウストに書き換えた時に,ファウストでは,箴言のはじめの"ああ"を"ああ!"に変更し,行末の感嘆符を削除した.
著者
山田 利明
出版者
東洋大学国際哲学研究センター(「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ)事務局
雑誌
「エコ・フィロソフィ」研究 = Eco-Philosophy (ISSN:18846904)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.15-23, 2018-03

Zhao Wenlin and Xie Shujun coauthored History of Chinese Population (People's Publishing House, 1988) was the first book scientifically calculating changes in population seen in Chinese history. Reforms and open-door policies following the Great Cultural Revolution first enabled this book to be published, which gives an exhaustive good picture of the bright and dark sides of Chinese history from the standpoint of changes in population. Contrasting this book with Taketoshi Sato’s Chronology of Chinese Disaster History (Kokushokankokai Inc., 1993) reveals that a principal cause of population decline was starvation.In this article, I reveal from descriptions of history books the circumstances at the time population halved and discuss the true state thereof.
著者
"牧野 幸志" "マキノ コウシ" Koshi" "MAKINO
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.41-56, 2011-11

"本研究は,青年期における恋愛と性行動に関する調査研究である。本研究では,まず,現代青年の恋愛と性行動の現状を明らかにする。その後,「浮気」に関する行動の判断基準を明らかにし,現代青年が「浮気」に対してどのような態度を持っており,浮気への行動意志をどの程度持っているかを明らかにする。被験者は,大学生・短大生200 名(男性106 名,女性94 名,平均年齢19.49歳)であった。調査の結果,現代青年において恋愛経験率は68.5%,別れ経験率は63.0%,性経験率45.5%であった。浮気と判断される恋人の行動は,「恋人以外の異性とキス以上の関係を持つ」であった。浮気に対する態度には,「浮気への否定的態度」,「浮気への憧れ」,「浮気の積極的容認」,「浮気の消極的容認」の4 因子がみられた。浮気への行動意志は,いずれも低かったが,女性よりも男性のほうが浮気意志は強く,恋愛経験よりも性経験が浮気意志に関連している可能性が示された。"
著者
近藤 典彦
雑誌
成城国文学
巻号頁・発行日
no.7, pp.29-45, 1991-03
著者
塚瀬 進
出版者
中央大学大学院事務室
巻号頁・発行日
2014-03-20

【学位授与の要件】中央大学学位規則第4条第2項【論文審査委員主査】川越 泰博 (中央大学文学部教授)【論文審査委員副査】妹尾 達彦 (中央大学文学部教授), 新免 康 (中央大学文学部教授), 江夏 由樹 (一橋大学大学院経済学研究科教授)
著者
柴田 彰
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.d96-d129, 2022-07-15

本稿は,QRコードの事業戦略(研究開発,知財,標準化)と当時の社会的背景(環境)を明らかにし,それらとの関連について考察したものである.特に,事業戦略の内,標準化戦略を詳細に述べ,日本発国際提案が成立した状況を明らかにする.また,競合他社の2次元シンボルに対して,どのようにして優位性を確保するための標準化を行ったかを明らかにし,今後の日本発国際提案に指針を与えるとともに,国際提案成功の要件について述べる.