著者
小林 久子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.71-78, 1990-10-31 (Released:2009-11-18)
参考文献数
12

1重度失語症例の9年間にわたる訓練の経過を報告する.症例は初診時63歳の右利き男性.右片麻痺と構成障害を伴い,観念運動失行も疑われた.自発語はわずかな残語のみで,発話開始時には発語器官の模索行動が顕著であった.最初の3年間,言語機能の改善を目的とした訓練をおこなったが,目立った改善はなかった.また指差しやジェスチャー,描画は拙劣でそれらを単一の代用コミュニケーション手段として活用することはできなかった.そのため日常のコミュニケーションに困難を示した.4年目より語用論に基づいた治療法PACE (Promoting Aphasics' Communicative Effectiveness)を家族の協力を得,また他の患者とともにおこなった結果,描画やその他の手段を併用することが可能になり,また伝達の内容は目前にはないことがらの報告や要求へと広がった.その結果,日常のコミュニケーションは改善し,コミュニケーション意欲の向上が見られた.
著者
林 初男
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.102-114, 2014-10-01 (Released:2014-10-01)
参考文献数
50

工学でも大きな興味が持たれている脳のニューロンや神経回路網は非線形なシステムである.ニューロンは規則的に発火するだけでなく,膜電位あるいは刺激の強さや周波数に依存して不規則に発火することがある.この不規則な発火はカオスと呼ばれる決定論的な力学則に従う非周期振動である.神経回路網の場合は,ニューロンの集団活動を反映した電場電位が周期刺激に対して引き込みやカオス応答を起こす.すなわち,ニューロン集団の同期の程度や同期したニューロン数が刺激に応じて変化する.本稿では,非線形ダイナミクスの観点から脳を概観し,脳の情報処理機構に関する研究の一例として,海馬における確率共鳴と記憶パターンの想起について述べる.
著者
小林 万里 石名坂 豪 角本 千治 若田部 久 小林 由美 清水 秋子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.207-214, 2007-12-30
参考文献数
12

北海道東部から襟裳岬に至るゼニガタアザラシの1970年以来の個体数減少と納沙布岬周辺で混獲され大量死亡する個体の関係を知るために,1982年と1983年に納沙布岬周辺のサケ定置網におけるアザラシ類の混獲数調査が行われた(以下,80年調査).80年調査からちょうど20年後,海洋環境の変化や北海道東部のゼニガタアザラシの個体数が増加傾向にある中,アザラシ類の混獲数や特性の変化を知るために,過去と同じ要領で納沙布岬周辺のサケ定置網におけるアザラシ類の混獲数調査を2002年と2003年に実施した(以下,00年調査).その結果,80年調査と比較して,00年調査の結果では,歯舞漁協管内の15ヶ所の定置網におけるアザラシ類の混獲数は,ほぼ同数(80年調査272頭,00年調査261頭)で,また,アザラシ類がもっとも多く混獲される定置網の位置や混獲されたアザラシ類の種構成[最多がゼニガタアザラシ(<i>Phoca vitulina stejnegeri</i>)で,次いで多いのがゴマフアザラシ(<i>Phoca largha</i>)]に違いは見られなかった.しかし,全アザラシ類の混獲数に占めるゼニガタアザラシおよびゴマフアザラシの割合(80年調査ではゼニガタアザラシおよびゴマフアザラシの割合はそれぞれ77.6%,20.6%,00年調査では91.2%,7.7%)には有意な差が見られた.また,ゼニガタアザラシの混獲時期は,80年調査では9月中旬と11月中旬に混獲数が多くなる2山型を示したのに対し,00年調査では,定置漁業の開始直後の9月上旬に混獲数が多く,定置漁業が終わるにつれ減少する傾向が見られた.千島列島全域におけるゼニガタアザラシとゴマフアザラシの分布の中心は,択捉島以南の,特に歯舞群島・色丹域に集中して分布していると考えられているため,今後の保全管理を考える上には,歯舞・色丹グループと道東グループとの関係が重要と考える.<br>
著者
窪内 篤 関口 信一郎
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
海洋開発論文集 (ISSN:09127348)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.7-12, 2005 (Released:2011-06-27)
参考文献数
16

The HIROI formula, which estimates the wave forces, has been used in breakwater design for many years. As far as the authors know, significant wave height has been used for the HIROI formula in the past. The time when the formula was presented, however, was long before emergence of the concept of significant wave height. We verified the process of derivation of the formula by tracing back to the paper in which Dr. HIROI first presented the formula, studied the changes in wave height used for the formula and investigated the history of changes in the shape of breakwaters.As a result, we found that the highest wave height must be used for the HIROI formula, and that changes in breakwater structure existed behind the use of significant wave height in the formula.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1423, pp.30-33, 2008-01-07

バルト海に臨むロシアの古都サンクトペテルブルク。2007年12月21日、冷たい雨の中、トヨタはここに海外で53番目の工場を開いた。約220億円を投じ、組み立て工場を建設。まず中型セダン「カムリ」を年2万台の規模で生産、第2工場も計画している。この日の量産開始式典後にはウラジーミル・プーチン大統領も視察し、ロシア側の熱い期待を感じさせた。
著者
金子 茂
出版者
二松學舎大学
雑誌
二松学舎大学國際政経論集 (ISSN:09193693)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-13, 2004-03-25
著者
島内 司 西村 明幸 石川 達也 西田 基宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.6, pp.269-273, 2017 (Released:2017-06-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1

医薬品の開発研究は,新たな薬剤を生み出す創薬研究と既存の薬剤の新たな作用を見出し応用する育薬研究に分けられる.創薬標的はますます複雑化の一途を辿り,新薬創出の研究に必要とされる時間とコストも膨れ上がっている.新薬開発に比べて既承認薬はヒトでの安全性,薬物動態が確立されており,他の疾患への治療薬として適応するにあたって大幅な時間とコストの削減が可能となる.このような新しい医薬品研究のあり方は「エコファーマ(またはドラッグ・リポジショニング)」として提唱されている.ミトコンドリアは分裂と融合を動的に制御することでその品質を維持している.ミトコンドリアの機能異常は様々な疾患の原因となるため,その品質管理が新しい治療標的として注目されている.我々は心筋梗塞後に心筋が早期老化を引き起こす前段階において,ミトコンドリア過剰分裂が起こること,およびこの原因が低酸素に依存したミトコンドリア分裂促進GTP結合タンパク質dynamin-related protein 1(Drp1)の活性化にあることを見出した.ラット新生児心筋細胞において,低酸素/再酸素化刺激は心筋細胞の早期老化を引き起こし,低酸素誘発性のミトコンドリア分裂を阻害することで再酸素化後の心筋早期老化が抑制された.低酸素刺激によるミトコンドリア分裂を阻害しうる既承認薬のスクリーニングを行った結果,ジヒドロピリジン系Ca2+チャネル阻害薬であるシルニジピン(cilnidipine:CIL)がミトコンドリア分裂を抑制することを見出した.CILはCa2+チャネル阻害作用と無関係にDrp1活性化を抑制し,心筋老化を抑制した.以上の結果は,CILがミトコンドリア過剰分裂に起因する様々な疾患の治療薬に適応拡大できることを強く示している.
著者
矢部 はる奈
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.216-219, 2017-03-20

POINT ●咽喉頭異常感の要因は多岐にわたり,胃食道逆流の関与が半数程度とされる。 ●特に女性に生じやすい要因としては,唾液分泌量低下による口腔内乾燥がある。 ●悪性疾患を含めた器質的疾患を見逃してはならない。
著者
川路 洋助
出版者
日経BP社 ; 1985-
雑誌
日経マネー (ISSN:09119361)
巻号頁・発行日
no.431, pp.64-79, 2018-05

アナリストの市場予想の平均である「QUICKコンセンサス」。プロは業績の先を読む上で、この「コンセンサス予想」を活用する。本誌では入手が難しい約1000社分の新年度予想を一挙紹介。一足早く、企業の新年度業績を考える参考になるだろう。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1950, pp.38-42, 2018-07-16

ただし、選んだ買収相手の多くは業績不振企業。不安視する声は少なくなかった。成長と買収企業の再建を同時並行で進めるために瀬戸社長が打った手は、相次ぐ経営のプロの招聘だ。
出版者
日経BP社 ; 1985-
雑誌
日経マネー (ISSN:09119361)
巻号頁・発行日
no.423, pp.87-89, 2017-09

まず、ECBが出口政策に向かうようになった背景を確認しよう。背景の一つには、欧州が着実に景気上昇局面に入っている点がある。例えば6月29日発表の6月のHICP(欧州連合基準の独消費者物価指数)は、前年同月比1・5%上昇と市場予想(1・3%上昇)を上回って着地…
著者
篠原 一彰 駒場 智美 橋本 克彦 伊藤 文人 岡田 恵 石田 時也 横山 秀之 松本 昭憲
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.1105-1110, 2014 (Released:2018-01-25)
参考文献数
24

過去17.5年間に,運転中に意識障害発作を発症し当院に救急搬送された203例について検討した.車両の内訳は四輪車165例(四輪車運転手の3.6%),二輪車38例(二輪車運転手の1.1%)で,発作の原因としてはてんかん発作77例,脳血管障害62例などであった.運転中の意識障害発作は稀ではなく,自動運転技術開発の意義は大きい.
著者
毛利 家
出版者
日本幼稚園協會
雑誌
幼兒の教育
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.44, 1941-06
著者
宮武 恭一
出版者
全国農業構造改善協会
雑誌
農業経営研究 (ISSN:03888541)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.49-54, 2014

大規模稲作経営においては,米価低迷が続く中で,規模拡大を加速するとともに米の直接販売を強化する動きが広がっている(納口2005,西川2012)。しかし,米販売に関しては,改正食糧法の施行以降,単位農協も直接販売を進めるために,こだわり米の生産に注力しており,大規模稲作経営が米の差別化を図るためには,一層の工夫が求められている。そうした差別化製品の有力な候補として,JAS有機米がある。農水省の委託調査によると,農薬と化学肥料を削減した特別栽培米に関しては,卸売り・小売り・外食向けの場合,明確な高値傾向はみられず,消費者への直接販売の場合は,むしろ一般小売価格よりも安値で販売する傾向がある(食品需給研究センター2009)。一方,JAS有機米に関しては,一般米と比べて1.6倍程度の高値を維持しているからである(MOA自然農法文化事業団2011)。