著者
高埜 利彦
出版者
学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻
雑誌
GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 (ISSN:21868778)
巻号頁・発行日
no.2, pp.24-34, 2013

2011年3月11日の東日本大震災は甚大な人的・物的被害とともに、公文書や歴史資料の被災を生んだ。その救出は数多くのボランティア活動によって支えられている。1987年に「公文書館法」が公布されたが、日本のアーカイブズ制度は遅れた状態のままである。その原因を歴史的に考えれば、日本の近代国家のあり方に求めることができる。「公文書管理法」が2011年4月に施行されてもなお、「国民のため」という発想を持てない政治家や官僚を頂く私たちは、しかしながら諦めてはいない。社会にはアーカイブズが必要であるという世界の常識を、日本の教育システムの中で伝えなくてはならない。学習院大学アーカイブズ学専攻では、アーキビストとして活躍できる人材の他に、教育制度の中でアーカイブズ学を教授できる人材の養成にも取り組んでいる。また、日本アーカイブズ学会は、学会の認定するアーキビスト資格制度を発足させた。これらの資格取得者が、これからの日本のアーカイブズ制度の充実に力を発揮していくものと期待している。The Great East Japan Earthquake on March 11,2011 destroyed and damaged a great number of public documents and historical records.Rescue operations for damaged documents and records were undertaken by volunteers.Since the promulgation of the Public Archives Act in 1987,the archival system in Japan has not developed as quickly as expected.The cause of this delay can be historically traced to the birth of Japan as a modern nation state.Even after the enactment of the Public Records and Archives Management Act in April 2011,we are determined to teach,within the Japanese educational system,the necessity of archives within a society.The Graduate Course in Archival Science in the Graduate School of Humanities Gakushuin University is committed to producing not only talented professional archivists,but also dedicated archival educators.In addition,the Japan Society for Archival Science recently launched its program for registered archivists. I hope that qualified registered archivists will make a significant contribution to the development of the Japanese archival system in the years to come.
著者
桂 研一郎 須田 智 戸田 諭補 金丸 拓也 太田 成男 片山 泰朗
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.147-149, 2014

要旨:近年,急性期血栓溶解療法,機械的血栓除去術などにより急性期再灌流療法の進歩は著しい.しかしながらその恩恵を受けられるのは限られた患者であり,依然としてより効果のある脳保護療法の登場がまたれている.我々が今回紹介するのは新しい観点からの脳保護療法の試みである.第一は治療効果が高い脳保護的な蛋白質に,蛋白細胞導入ドメインを融合させることにより,静脈内への1 回投与で神経細胞にまで到達させ脳保護的に働かせる方法である.次に全く新しい方法として,低濃度の水素ガスを吸入させると,脳梗塞体積が減少する結果を報告してきた.水素ガスには軽微なフリーラジカルスカベンジ作用があり,最も毒性の強いhydroxyl radical を選択的に消去することがわかってきている.さらに,すでに臨床で使用されている薬物を脳梗塞急性期治療に応用する方法として,抗てんかん薬であるバルプロ酸の急性期脳保護効果についても紹介する.
著者
津村 文彦
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.167-191, 2015-03-31

呪術がいかにしてリアリティを獲得するかを考える際に、呪術の効果をめぐる議論は避けて通れない。特に治療に関する呪術は、苦痛や不調を抱える病者の身体に直接働きかけるため、その効果が議論の対象になりやすい。たとえば医療人類学での「疾患(disease)」と「病い(sickness)」という有名な区分は、生物医学は「疾患」を対象とし、呪術などの伝統医療は「病い」に対処するもので、呪術には生理学的な効果は認められないという前提のもとに成立している。しかし、呪術が心理面に作用し、生物医学は身体に作用するという「効果」の想定は適切なものであろうか。現在も継続している呪術的な伝統医療について、「信じるからこそ効く」と説明するだけでは呪術のリアリティを十分に考察したとはいえない。いかにしてそれが「効く」と捉えられるのかを考察する必要があるだろう。 本論文では、東北タイの二種の民間医療師を俎上に載せる。一つは、近代科学の象徴たる「注射」を駆使しながらも、〈非科学的〉な治療を提供してきた「注射医」で、もう一つは近代医学が対処を得意とする毒蛇咬傷などの症例を主たる対象とする「モーパオ」という呪文の吹きかけを行う呪医である。東北タイでは、1960 年代より1980 年代にかけて注射医が治療行為を行っていたが、近隣に病院や保健センターなどができて近代医療へのアクセスが高まったのち、注射医は姿を消した。一方、現在では近代医療を容易に利用することができるにもかかわらず、モーパオのような呪医はなおも活動を行っている。両者の治療行為は対照的に見えるが、治療において直接身体に感受することのできる感覚(痛みと吹きかけ)こそが、治療によってもたらされる「効果」として人びとに受け入れられている点で共通する。こうした治療行為のなかで、病者が受け取る感覚こそが呪術の効果であり、モーパオを存続させている力といえるだろう
著者
飯田 淳子
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.192-210, 2015-03-31

本稿では、北タイの農村、病院、学校における語りと実践を検討することを通じ、呪術の効果の多様な指標の影響関係において、感覚的経験がどのような役割を果たすのかを考察する。感覚的経験は、病因とされる「毒」の可視化などを通じ、呪術の効果に説得力を与える。一方、不可視なものは不確定であるだけに、何らかの出来事を通じて恐怖感を顕在化させることもある。科学的知識の体現者であるはずの医療従事者や教師たちは、科学的にその意義を説明できる限りにおいて呪術を容認する言説を紡ぎ出す。しかしそれとは裏腹に、彼らは科学で説明できないにもかかわらず、何らかの事象に対し呪術を疑い、それに対処しようとすることがある。例えば医師はレントゲン写真に写ったものを呪術によるものではないかと疑い、教師は精霊憑依を目撃した、あるいは誰もいないはずの理科室で足音を聞いたと感じて除霊や慰霊を行う。感覚的経験は、このように言葉と反する行為の基盤にもなっている。各種のメディアも感覚に訴えて村人の知識や治療法の選択に影響を与えており、呪術の効果もそうした社会的文脈の中に位置づけられている。病院医療や学校教育、マスメディアなどの近代的とされる現象を経由することにより、呪術の感覚的経験はむしろ増幅され、その効果は強化された形で人々に認識されている側面があることが明らかになった。
著者
荒井 文昭
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.210-221, 2013-06-30

本論では、教育と政治の結節点として校長人事の決定過程をとらえることにより、(1)東京都を事例にした校長人事をめぐる教育委員会制度に残された課題を検討し、(2)校長人事の決定過程における地域住民の位置をめぐる課題について、学校運営協議会の導入をめぐる中央教育審議会での審議過程に対する検討をおこなった。そして、校長人事の決められ方に現れる教育統治のかたちと、教育実践のあり方との相互関係を調査研究していくことが、教育学としての教育政治研究の、これからの課題として設定されうることを論じた。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1713, pp.50-52, 2013-10-28

消費増税のトラウマ——。政府・与党や市場関係者の脳裏には、いまだに当時の橋本龍太郎首相の決断がたどった末路が鮮明に焼きついている。安倍晋三首相が消費増税の決断をぎりぎりまで引き延ばしたのも、アベノミクスで好転した景気への影響を慎重に見極め…
著者
元兼 正浩
出版者
日本教育行政学会
雑誌
日本教育行政学会年報 (ISSN:09198393)
巻号頁・発行日
no.19, pp.149-160, 1993-10-09

Although a large number of studies have been made of school personnel administration, little is known about the transfer of school principals. This paper is intended as an investigation of the transfer of high school principals. The purpose of this paper is to demonstrate that it is performed according to the distinctions among schools in the case of Fukuoka. I will describe the significance of studies in the transfer of school principals and its characteristics in Fukuoka before and after the Second World War, before clarifying the actual situation of the transfer of high school principals in Fukuoka since 1972. Then I will present the subject and method of this study. In analyzing, I use deviation value to divide high schools into some types. The findings of this analysis are as follows; (1) A newly-appointed school principal is usually placed at a school which is lower in rank by deviation value. (2) In general, he/she is transferred to a school which is higher in rank after a few years. This means high school principals are transferred on the assumption that high schools are ranked by deviation value. This is similar to the transfer to the office of education. Considering the conditions mentioned above, it is clear that there is an influence on the period of a school principal's service in one school.
著者
章 開訓 大野 勝利 葛野 浩
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.163-173, 1987-01-10

本研究は30頭の健康な警察犬の心電図について記録測定し,それに基いて分析を試み以下の心電図波形ならびに数値を確定した。これらの数値はシェパード犬の心電図検査の参考指標となり得る。1)心調律:すべて洞性調律であった。2)心拍数:心拍数は60〜147回/分で平均値は106±4回/分であった。3)平均電気軸:平均電気軸はQRS波で測定した72.3±7.1°であった。4)P波:P波の形態は肢誘導とA-B誘導のIおよびIIは陽性,aVRでは陰性,aVFは陽性を主とし,IIIおよびavLは陽性,陰性および二相性を呈した。P波の振幅はA-B誘導より肢誘導が大きい。P波の持続時間は0.03〜0.50秒であった。5) P-R間隔:P-R間隔は0.10〜0.14秒であった。6) QRS波群:QRS波形はA-B誘導と肢誘導I,IIおよびavFではR波が主波となり陽性であり,avRはQ波を主波とし陰性であった。 A-B誘導I,肢誘導II,aVFはqRSでA-B誘導IIおよびavFはRS,aVRはQrとなる。肢誘導ではavRはrSr型が主で,その他の誘導では変位が多く各種の波形が認められる。またQRS波の持続時間は0.03〜0.08秒であった。7) S-T変位:S-T変位のなかでS-T上昇はA-B誘導I,IIおよびavLで常にみられ,S-T下降はA-B誘導のIIIおよびavRに常にみられた。8)T波の形態:T波の形態はA-B誘導I,IIおよびavLでは陽性が多く,IIIおよびavRでは陰性になることが多い。avFは陽性のことが多く陰性の場合は二相性となる。肢誘導ではI,II,III,aVLおよびavFは陽性にも陰性にもなり得るが陽性の出現率が高い。avRは陰性となることが多い。9)Q-T間隔:Q-T間隔は0.16〜0.24秒であった。
著者
王 誠明 太田 節子 篠田 雅人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.109, no.12, pp.949-953, 1989-12-25 (Released:2008-05-30)
参考文献数
24

The survival effect of mice irradiated with a lethal dose of X-ray was studied by use of 60 kinds of Chinese traditional medicines. Methanol extracts of these medicines were prepared, and then each extract injected intraperitoneally into male mice before or after whole-body irradiation. As a result of these studies, the survival effects with Ogi-kentyu-to, Simotu-to, Sessyoin, Zokumei-to and Boi-ogi-to were observed by intraperitoneal injection before irradiation. Of these effective methanol extracts, only Zokumei-to was shown to have a significant survival effect by intraperitoneal injection after irradiation.