著者
首藤 明和 西原 和久
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.336-343, 2014

世界社会学会議の折に, チャイナ・デイが中国社会学会, 中国社会科学院, 日本社会学会, 日中社会学会の共催で2014年7月15日に開催された. 論題は中国の改革と社会転換. サブテーマは中国の改革とソーシャル・ガバナンス, 社会転換と構造変動・社会移動であった. 東アジア社会学に関する基調講演 (矢澤修次郎) の後, 12名の中国社会学者が中国におけるガバナンス, 不平等, 人口, 都市化, 女性, 世代間格差, 移動などを論じた. この集会で討論者 (首藤明和) が総括したように, 広く論じられている「公的」論点は社会学的に分析され, 聴衆は何が中国社会学の重要論題で, 何が課題かはよく理解できた. だが, 多様性, 民族, 宗教などの論争的論題は十分には論じられなかった. これらも, 中国の社会 (学) にとって重要であろう.<br>とはいえ, 集会自体は成功したと評価できる. なぜなら, 国際学会に際して日中の社会学者が協働し, 研究の共同空間を創造できたからだ. グローバルレベルと東アジアというローカル・リージョナルレベルとの結合は, 国家を超えた交流, 協力に寄与する. もし日本の多数の社会学者が報告し, 議論したならば, さらに対話は進んだだろう. 一国内の知の枠組み――それはしばしば他者の疎外や排除に転化する――を超えることが社会学に要請されている. もちろん, この要請は現実には容易に達成できない. それゆえ, この現実自体も社会学で問われるべき課題だろう.
著者
首藤 明和 西原 和久
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.336-343, 2014

世界社会学会議の折に, チャイナ・デイが中国社会学会, 中国社会科学院, 日本社会学会, 日中社会学会の共催で2014年7月15日に開催された. 論題は中国の改革と社会転換. サブテーマは中国の改革とソーシャル・ガバナンス, 社会転換と構造変動・社会移動であった. 東アジア社会学に関する基調講演 (矢澤修次郎) の後, 12名の中国社会学者が中国におけるガバナンス, 不平等, 人口, 都市化, 女性, 世代間格差, 移動などを論じた. この集会で討論者 (首藤明和) が総括したように, 広く論じられている「公的」論点は社会学的に分析され, 聴衆は何が中国社会学の重要論題で, 何が課題かはよく理解できた. だが, 多様性, 民族, 宗教などの論争的論題は十分には論じられなかった. これらも, 中国の社会 (学) にとって重要であろう.<br>とはいえ, 集会自体は成功したと評価できる. なぜなら, 国際学会に際して日中の社会学者が協働し, 研究の共同空間を創造できたからだ. グローバルレベルと東アジアというローカル・リージョナルレベルとの結合は, 国家を超えた交流, 協力に寄与する. もし日本の多数の社会学者が報告し, 議論したならば, さらに対話は進んだだろう. 一国内の知の枠組み――それはしばしば他者の疎外や排除に転化する――を超えることが社会学に要請されている. もちろん, この要請は現実には容易に達成できない. それゆえ, この現実自体も社会学で問われるべき課題だろう.
著者
陳 立行
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.344-350, 2014

本稿は, 初めて日本で開催した第18回世界社会学会議は, 多様な価値に溢れている21世紀の世界に向かって, 東アジア社会学の構築にとって先頭に立つととらえ, それがもつグローバル社会学への挑戦における課題と意義について考えている.<br>筆者は, 戦後, 歴史, 文化, 宗教, 政治体制が欧米社会と大きく異なる東アジアの国々の近代化への過程に, とくに1990年代から, 情報機器の社会生活への普及によりモダニティの過程を経ず, いきなりポストモダン社会に突入する社会変容に対して, 欧米社会学では限界が現れていると指摘した. これは, これまで現代のジレンマに陥っている東アジア社会学の理論的創新の機運となると論じ, 第18回世界社会学会議の意義を考えた.
著者
陳 立行
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.344-350, 2014

本稿は, 初めて日本で開催した第18回世界社会学会議は, 多様な価値に溢れている21世紀の世界に向かって, 東アジア社会学の構築にとって先頭に立つととらえ, それがもつグローバル社会学への挑戦における課題と意義について考えている.<br>筆者は, 戦後, 歴史, 文化, 宗教, 政治体制が欧米社会と大きく異なる東アジアの国々の近代化への過程に, とくに1990年代から, 情報機器の社会生活への普及によりモダニティの過程を経ず, いきなりポストモダン社会に突入する社会変容に対して, 欧米社会学では限界が現れていると指摘した. これは, これまで現代のジレンマに陥っている東アジア社会学の理論的創新の機運となると論じ, 第18回世界社会学会議の意義を考えた.
著者
川北 稔
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.426-442, 2014

ひきこもり支援活動は, 社会参加から撤退した多様な若者に対し, 新たな参加を支援する活動や拠点を提供してきた. だが従来の研究は居場所内部でのアイデンティティの共有や体験の蓄積に焦点化する一方で, 支援が一定の場所や空間において行われること自体の意義は十分に議論されていない. 若者による活動空間の喪失から新たな空間獲得への中継地として, 支援空間はどのように展開され, 体験されているのか.<br>支援団体におけるフィールドワークから, 支援者による空間の展開の経緯を追うとともに支援に参加する若者の語りを検討することで, 以下の点が明らかになった. 支援団体は, 多様な支援拠点を家族支援, 居場所提供, 就労支援等の目的で準備してきた. それらの支援空間は若者の段階的移行を支えるため, 空間の間の分離や統合などの配慮を伴いながら配置されている. 空間内部の体験活動や人間関係の多様性は, 必ずしも支援の意図と対応しない選択的な関与を可能とし, 若者の側の価値観の変容や役割獲得のチャンスに結びついている. また複数の支援拠点の存在は, 長期化する支援においてトラブルを経た再度の参加をも保証する. こうした複数の空間での体験を対比することで, 若者は自己理解や, 将来展望のための基準を獲得することが可能となる. 支援空間の多様性・対比性を通じた社会参加の過程は, 既存の生活の文脈を喪失した生活困窮者の社会的包摂に応用可能な視点といえよう.
著者
川北 稔
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.426-442, 2014

ひきこもり支援活動は, 社会参加から撤退した多様な若者に対し, 新たな参加を支援する活動や拠点を提供してきた. だが従来の研究は居場所内部でのアイデンティティの共有や体験の蓄積に焦点化する一方で, 支援が一定の場所や空間において行われること自体の意義は十分に議論されていない. 若者による活動空間の喪失から新たな空間獲得への中継地として, 支援空間はどのように展開され, 体験されているのか.<br>支援団体におけるフィールドワークから, 支援者による空間の展開の経緯を追うとともに支援に参加する若者の語りを検討することで, 以下の点が明らかになった. 支援団体は, 多様な支援拠点を家族支援, 居場所提供, 就労支援等の目的で準備してきた. それらの支援空間は若者の段階的移行を支えるため, 空間の間の分離や統合などの配慮を伴いながら配置されている. 空間内部の体験活動や人間関係の多様性は, 必ずしも支援の意図と対応しない選択的な関与を可能とし, 若者の側の価値観の変容や役割獲得のチャンスに結びついている. また複数の支援拠点の存在は, 長期化する支援においてトラブルを経た再度の参加をも保証する. こうした複数の空間での体験を対比することで, 若者は自己理解や, 将来展望のための基準を獲得することが可能となる. 支援空間の多様性・対比性を通じた社会参加の過程は, 既存の生活の文脈を喪失した生活困窮者の社会的包摂に応用可能な視点といえよう.
著者
伊藤 美登里
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.409-425, 2014

U.ベックは, ローカル次元において連帯と承認を作り出す仕組みとして市民労働という政策理念を提案した. この理念が現実社会との関連でいかに変容したか, 他方で社会においてはいかなる変化がもたらされているか, これらを考察することが本稿の目的である.<br>研究の結果次のようなことが判明した. 市民労働の政策理念は, 政策的実践に移される過程で, ある部分が市民参加に, 別の部分が市民労働という名のワークフェア政策としてのモデル事業に採用され, 分裂していった. 現在の市民労働と市民参加は, ベックの市民労働の構成要素をそれぞれ部分的に継承しつつ, 中間集団や福祉国家の機能を部分的に代替している. 政策的実践としての市民労働と市民参加の存在は, 「家事労働」「市民参加」「ケア活動」といった概念の境界を流動化したが, 「職業労働」概念の境界は相対的に強固なままである.<br>ベックの市民労働には, 元来, 社会変革の意図が含まれていた. すなわち, この政策理念は, 職業労働と市民参加と家事労働やケア活動の境界を流動化し, それらの活動すべてを包括するような方向, すなわち労働概念の意味変容へ向かうことを意図して提案された試みであった. しかし, 現状においては, そもそもの批判対象であった職業労働の構造を強化する政策にこの市民労働の名称が使われている. 他方, 市民参加においては, 部分的にではあるが, 市民労働の政策理念が生かされ一定の成果をあげている.
著者
寺地 幹人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.351-359, 2014

本稿は, 2014年7月に横浜で開催された第18回世界社会学会議のサイドイベントであるEast Asian Junior Sociologists Forum (EAJSF) の企画・運営の様子を報告し, この事例をもとに, 若手研究者が国際的な学術イベントの企画・運営を担う際のポイントを論じている.<br>EAJSFにおいては, 企画・運営委員が少人数で, かつ専門分野などの点で同質性や関係の近さがあったことの利点が, 結果的に大きかった. しかし, 仮にある程度のメンバー内の同質性や近さを前提にしなければ今回のような企画・運営が難しいとすれば, 次の2つが課題として考えられる. 第1に, どのような同質性や近さが相対的に, 国際的な学術イベントの企画・運営に馴染みがよいのか, 特徴を探ること. 第2に, 活動をより詳細な業務レベルで検証し, 相対的に同質性を前提とせずとも可能な活動を整理することで, 企画・運営の関わり方のバリエーションを提示し, 関心のある人が適切な関わり方で分業できるようにすること.<br>この2つに対応することを通じて, 国際的な学術イベントの企画・運営のノウハウをさらに学会が蓄積し, 関心のある若手研究者が関わる機会を開くことが, 世界社会学会議日本開催後の課題の一つと考えられる.
著者
寺地 幹人
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.351-359, 2014

本稿は, 2014年7月に横浜で開催された第18回世界社会学会議のサイドイベントであるEast Asian Junior Sociologists Forum (EAJSF) の企画・運営の様子を報告し, この事例をもとに, 若手研究者が国際的な学術イベントの企画・運営を担う際のポイントを論じている.<br>EAJSFにおいては, 企画・運営委員が少人数で, かつ専門分野などの点で同質性や関係の近さがあったことの利点が, 結果的に大きかった. しかし, 仮にある程度のメンバー内の同質性や近さを前提にしなければ今回のような企画・運営が難しいとすれば, 次の2つが課題として考えられる. 第1に, どのような同質性や近さが相対的に, 国際的な学術イベントの企画・運営に馴染みがよいのか, 特徴を探ること. 第2に, 活動をより詳細な業務レベルで検証し, 相対的に同質性を前提とせずとも可能な活動を整理することで, 企画・運営の関わり方のバリエーションを提示し, 関心のある人が適切な関わり方で分業できるようにすること.<br>この2つに対応することを通じて, 国際的な学術イベントの企画・運営のノウハウをさらに学会が蓄積し, 関心のある若手研究者が関わる機会を開くことが, 世界社会学会議日本開催後の課題の一つと考えられる.
著者
畠山 正行
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ソフトウェア工学(SE) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.119, pp.49-56, 2005-11-29
被引用文献数
7

本研究を含む五つの総括発表は,我々のグループがドメインユーザ(以降DU)と呼ぶ技術者等々の人たちのために彼等自身の専門(ドメイン)とする世界のシミュレーションプログラム開発環境としてOO技術に着目し研究してきたことに関する発表である.その目標を実現するために,自然日本語をベースにし,分析から実装に至るまでの基本のパラダイムと設計方針を共通にした四つの記述言語系,すなわち分析OONJ,設計ODDJ,実装OEDJとOBFを設計し,その記述支援環境を開発してきた.これらの記述は最後にはJava又はFortran90プログラムへとトランスレートされ,計算機上で実行される仕組みにしてある.現時点ではようやく分析から実装/駆動までを記述が一貫して流れようとしている段階である.本論文のOOJとは現時点ではこれらの記述言語の"単なる総称"である.しかし目標としては,分析から実装まで一貫して使える記述言語OOJを構築する計画である.そこで本発表では,四つの記述言語とその記述環境の設計と構築の現況を述べると共に,「一貫」記述言語として如何にそれらを統后w)蛯黴るいは新規に構成するか,そしてその概念設計を如何にすべきかについて議論し,提案する.併せて本発表の背景を形成しているオブジェクト工学なる研究開発プロジェクトを述べる.Our five blanket presentations concern the researches that simulation program development support environments based on the Object-oriented (hereafter, OO) technology. These researches aim at contributing to the engineers and researchers that are the experts at some specified domains called the Domain Users (hereafter, DU). To realize the aim, we have designed and developed the four description languages and their support environments based on the Natural Japanese. These four languages are, OONJ for OO analysis, ODDJ for OO design, OBF and OEDJ for programming. The descriptions out of the OBF or OEDJ are translated into finally the Java and Fortran90 programs, respectively. At the present moment, this architecture will finally get around to the stage that an integrally consistent descriptions flow from the analysis, design and finally up to the execution. At present, the OOJ in this presentation is only the generic name of these four description languages. But we aims at constituting an integrally consistent description language from the analysis stage up to the programming one. Then in this presentation, we discuss and propose how to integrate or newly design as the "integrally consistent" description language, and how to make the conceptual design of the OOJ. We also present our research/development projects named the Object Engineering that have formed our background technology.
著者
根岸 賢一郎 八木 喜徳郎
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.74, pp.p149-164, 1985-01

アカマツ2個体,ヒノキ1個体につき,各1か所の幹直径の変動を,ひずみ計利用の生長計によって,1977年5月から1978年8月までの16か月間にわたり計測した。幹直径は早朝の5時~8時に最大,昼すぎの13時~16時に最小のことが多い。幹直径の日変化の幅は,日射量の多い晴天の日が曇天や雨天より大きく,また生長のさかんな季節が冬よりも大きい。冬の最低気温が-4.0℃~-9.0℃にさがるような寒い早朝には,幹に寒冷収縮のおこることがある。肥大生長による幹直径の増加は,春なかばから秋なかばまで続く。アカマツ試料木では冬に,ゆるやかな幹直径の減少がみとめられた。Diurnal fluctuations in the stem diameter of the two Pinus densiflora trees and the one Chamaecyparis obtusa tree were recorded with an electric strain gauge dendrograph for a 16-month period May, 1977 to August, 1978. The maximum stem diameter was found at a time from 5 a.m. to 8 a.m. and the minimum one from 1 p.m. to 4 p.m. in each day usually. The diurnal fluctuations in stem diameter were remarkable on clear days in the growing season. In the early morning of the winter, a shrinkage of stem diameter occurred frequently when the minimum air temperature fell below -4℃. An increase in stem diameter probably caused by cambial growth was observed from late April or early May to mid October or early November. In Pinus densiflora trees, a gradual decrease in stem diameter continued throughout the winter.
著者
傳馬義澄著
出版者
審美社
巻号頁・発行日
2000
著者
岡本 真彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-88, 1992-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
6 10

The present study analysed metacognition in the process of solving arithmetic word problem. Sixty-three fifth graders were divided into high and low performer groups based on their achievement of an arithmetic criterion test. The arithmetic word problem used in this study was made of five sub-stages: prediction of result, problem comprehension, planning, executing and evaluation of result. Two procedures were used in the present study. First came the workseat measuring problem solving behavior and the second consisted of a stimulated-recall interview to measure awareness concerning problem solving (metacognition). Verbal response and behavior in the problem solving and interview were recorded by VTR and tape-recorder. The main findings were as follows: (1) High performer had significantly more metacognition scores than low performer; (2) High performer showed more self -monitoring activity than the low one.
著者
八木 直人
出版者
一般社団法人 日本生体医工学会
雑誌
BME (ISSN:09137556)
巻号頁・発行日
vol.1, no.11, pp.884-886, 1987-11-10 (Released:2011-09-21)
参考文献数
7

X線回折法は, 非破壊的に物質の内部を分子のレベルで調べることができる. この手法を生体に適用することにより, 生体内での筋肉の微細構造を知ることが可能であり, 生体の検査法として各種の応用が考えられる.
著者
樋浦 善敬 河野 憲太郎
出版者
Japan Poultry Science Association
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.286-291, 1982-09-25 (Released:2008-11-12)
参考文献数
35

本研究は採卵鶏の産卵開始期における2黄卵の産卵の機序を調査した。供試鶏120羽に脂溶性色素, スダンIII或いはスダンブラックを連日24時間間隔で静脈内注射した。これら鶏から産卵開始後30日間に産卵された正常卵2,914個と2黄卵157個の各卵黄内の色素輪を観察して, 卵巣卵胞の成長と排卵の様相を検討した。2黄卵の内, 約85%は2個の卵黄内の色素輪数が同じく, 残り約15%は両卵黄内の色素輪数が異なっていた。また前者における2個の卵黄の平均重量差は0.28gであり, 後者の場合には両卵黄の重量差は平均1.08gであった。両者の平均値の差は0.1%水準で有意であった。1日に休止期から急速成長相へ転移する卵胞の数は0, 1及び2個の場合があり, それらの出現相対比率はそれぞれ23.6%, 62.9%及び13.5%であった。同日に急速成長相へ転移した2個の卵胞の内, 約27%はほぼ同時に排卵されたが, 残りは互に排卵日を異にした。本実験結果から, 産卵開始期においては急速成長相へ転移する卵胞数, 卵胞の序列制及び卵胞の排卵反応性などがまだ充分に確立されていないことが明らかとなった。従ってこのような状況下で2黄卵もまれに産卵されるものと推察された。