著者
並木 敦子 Rivalta Eleonora Woith Heiko Walter Thomas
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Large earthquakes sometimes activate volcanoes both in the near field as well as in the far field. One possible explanation is that shaking may increase the mobility of the volcanic gases stored in magma reservoirs and conduits. Here experimentally and theoretically we investigate how sloshing, the oscillatory motion of fluids contained in a shaking tank, may affect the presence and stability of bubbles and foams, with important implications for magma conduits and reservoirs. We adopt this concept from engineering: severe earthquakes are known to induce sloshing and damage petroleum tanks. Sloshing occurs in a partially filled tank or a fully filled tank with density-stratified fluids. These conditions are met at open summit conduits or at sealed magma reservoirs where a bubbly magma layer overlays a newly injected denser magma layer. We conducted sloshing experiments by shaking a rectangular tank partially filled with liquids, bubbly fluids (foams) and fully filled with density-stratified fluids; i.e., a foam layer overlying a liquid layer. In experiments with foams, we found that foam collapse occurs for oscillations near the resonance frequency of the fluid layer. Low viscosity and large bubble size favor foam collapse during sloshing. In the layered case, the collapsed foam mixes with the underlying liquid layer. Based on scaling considerations, we constrained the conditions for the occurrence of foam collapse in natural magma reservoirs. We find that seismic waves with lower frequencies 0.5 m. Strong ground motion > 0.1 m/s can excite sloshing with sufficient amplitude to collapse a magma foam in an open conduit or a foam overlying basaltic magma in a closed magma reservoir. The gas released from the collapsed foam may in filtrate the rock or diffuse through pores, enhancing heat transfer, or may generate a gas slug to cause a magmatic eruption. The overturn in the magma reservoir provides new nucleation sites which may help to prepare a following/delayed eruption. Mt. Fuji erupted 49 days after the large Hoei earthquake (1707) both dacitic and basaltic magmas. The eruption might have been triggered by magma mixing through sloshing.
著者
岩田 知孝 浅野 公之 宮本 英 緒方 夢顕
雑誌
日本地震学会2022年度秋季大会
巻号頁・発行日
2022-09-15

2022年6月19日に石川県能登地方でMJ5.4の地震が発生して,K-NET正院(ISK002)では震度6弱を観測し,周辺で被害が生じた.この記録は周波数1Hz程度が卓越していることが見てとれた.染井・他(2022)では,ISK002を含む北陸地方の強震観測点記録を用いて,スペクトルインバージョンにより観測点サイト増幅特性を求めているが,ISK002のそれは,地震基盤面相当の地表観測点のサイト増幅特性を2とした時に,解析周波数帯の0.2-10Hzにおいて,10倍以上の増幅特性を持っていることが示されている.染井・他(2022)では観測点サイト増幅特性を1次元重複反射理論に基づく理論増幅と仮定して,当該サイトのS波速度構造の推定も行っている.これらの結果からはISK002においては,工学的基盤面相当以浅の浅部地盤構造による地震波への影響が大きいと推定されている. 一方,珠洲の平野部においては,1993年能登半島沖地震(MJ6.6)においても建造物被害が発生しているが,単点微動による地盤の卓越周波数特性から,被害を及ぼした地震波の特性と沖積層厚についての議論がなされていた(土質工学会・1993年地震災害調査委員会(1993)). 本研究ではこれらの調査結果を踏まえ,微動アレイ探査を実施し,当該地域の地質ボーリング資料などをもとに,ISK002及び周辺地域の浅部地盤構造と地震動増幅特性についての議論を行う. 参考文献:社団法人 土質工学会・1993年地震災害調査委員会(1993), 1993年釧路沖地震・能登半島沖地震災害調査報告書,404pp. 染井一寛・浅野公之・岩田知孝・大堀道広・宮腰 研(2022) , 北陸地方の強震観測点におけるサイト増幅特性とそれを用いた速度構造モデルの推定,京都大学防災研究所研究発表講演会, B120. 謝辞: 国立研究開発法人防災科学技術研究所強震観測網(https://doi.org/10.17598/NIED.0004)のデータを利用しました.関係諸氏に感謝致します.本研究は令和4年度科学研究費(特別研究促進費)「能登半島北東部において継続する地震活動に関する総合調査」(22K19949,研究代表:平松良浩(金沢大学))によるサポートを受けました.記して感謝致します.
著者
高橋 恒一
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

長期的な機械知性の行き着く先が、その能力レベルの発展の上限により上限シナリオ、生態系シナリオ、多極シナリオ、シングルトンシナリオの順に分岐してゆく可能性を議論する。また、能力レベルの上限を制約する重要な要因として、高度な自律性を持つ認知アーキテクチャーの実現や自己構造改良能力などのアーキテクチャーレベルの問題のほかに、マルチエージェント状況における相対的優位性確立の難しさ、また計算の熱力学的効率や光速の上限などの物理的制約などがあることを議論する。
著者
新妻 信明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁が公開しているCMT発震機構解に基づき太平洋スラブが下部マントルに到達し,崩落を開始したかを検討したので報告する.2015年5月30日M8.1の小笠原沖の地震では震度1以上で日本列島全域が揺れ,深度682kmの震源域が太平洋スラブに連続していることを示すとともに.太平洋スラブ先端が660km以深の下部マントルに到達したことを示した.この3日後の6月3日にも同域でM5.6深度695kmと更に深い地震が起こり,下部マントル突入を確実にした.これらの地震は同じ正断層型発震機構であった.震源域では2011年3月11日の東日本大震災後,日本海溝側への引張応力増大によって発震機構が変化し,2013年11月には西之島が噴火を開始した.また南方のマリアナ海溝域で2013年5月14日M7.3pr深度619kmが,マリアナスラブは海溝から同心円状屈曲したまま下部マントル上面に沈込んでいることを示した.伊豆スラブは同心円状屈曲後平面化して南ほど急斜しており,幾何学的にマリアナスラブとの間に裂け目が存在しなければならない.この裂け目の北側に位置する伊豆スラブ南端で.2015年5月・6月の下部マントル地震は起こっている.この下部マントル地震は現在の最深記録であるが,それまでの最深記録はウラジオストック域の2009年4月18日深度671kmM5.0+ntであった.この深度も660kmの下部マントル上面深度以深である.深度660kmの下部マントル上面の温度圧力条件下では,上部マントル主要構成鉱物のカンラン石は,高密度のペロブスカイトに相転移する.この相転移は低温ほど高圧を要するため,低温のスラブは下部マントル上面を通過できず停滞すると考えられる.スラブ先端も次第に暖められ,ペロブスカイトに相転移を開始すると,浮力を失って後続のスラブを下部マントルへ引き摺り込む.低温のスラブも引き摺り込まれると高圧になり相転移が連鎖的に進行する.連鎖的相転移はスラブを下部マントルに崩落させる.映画「日本沈没」(第2版)では,日本沈没を,停滞スラブの下部マントルへの崩落よって説明している.2009年4月18日の地震も下部マントル地震であったのであろうか.2009年4月18日の発震機構は横ずれ断層+nt型であり,停滞スラブ内の逆断層型発震機構と異っており,660kmを境界に発震機構が変わっている.また,震源がスラブの下面に位置していることは,沈込前に海底で冷却されていないことを意味しており,スラブ中で相転移し易い条件を持っていることから,下部マントル地震であったと考えられる.ウラジオストック域で太平洋スラブが下部マントルに突入していたとすると,2011年3月11日の東日本大震災の原因となったであろう.同域では,2016年1月2日にも初動震源(破壊開始)深度681km M5.7が起こっている.しかし,そのCMT震源(主要破壊)深度は641kmであり,発震機構が圧縮過剰逆断層P型と停滞スラブと同じであることから,2009年4月に下部マントルに突入を開始していたスラブ下面に停滞スラブが引き込まれて起こったと考えられる.ちなみに,2009年4月の初動震源深度とCMT深度は共に671kmであり,小笠原の下部マントル地震は,682kmと688kmおよび共に695kmである.太平洋スラブは2009年4月18日に下部マントルへの崩落を開始し,2011年3月11日東日本大震災を起こし,2015年5月30日・6月3日に伊豆スラブ南端も下部マントルに崩落させ,2016年1月2日にウラジオストック域で停滞していたスラブも下部マントルに引摺込んだ.千島海溝でも2012年8月14日深度654kmM7.3pが起こっており,660km以深の地震が起これば,太平洋スラブ全体は下部マントルへの崩落を開始する.日本列島は,日本海拡大後の1千万年前に脊梁域まで海面下に没している.この地質記録を生かし,既に開始した日本沈没に対処しなければならない.
著者
Koizumi Takeshi 宮村 淳一 菅野 智之 橋口 祥治
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁は、噴火災害軽減のため、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき、噴火警報を発表している。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす大きな噴石、火砕流などの火山現象の発生や、危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」を明示して発表される。噴火警戒レベルが運用されている火山では、気象庁は、あらかじめ地元の火山防災協議会で合意された、防災行動とリンクした噴火警戒レベルを付して噴火警報を発表する。これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関に通知されるとともに、直ちに住民等に周知される。地元の市町村等の防災機関は、噴火警報に基づき、入山規制や避難勧告等の防災対応を実施する。平成26年(2014年)9月27日に発生した御嶽山噴火では、11時52分の噴火発生から8分後の12時00分、気象庁は「噴火に関する火山観測報」を発信し関係者に噴火発生の事実を伝えるとともに、警戒が必要な範囲を評価した上で、12時36分に噴火警報(噴火警戒レベル3)を発表した。しかしながら、噴火は登山中の人々を巻き込み、多くの人命が失われる結果を招いた。火山噴火予知連絡会の火山情報の提供に関する検討会は、登山者等火山に立ち入っている人々に、迅速、端的かつ的確に伝えて、命を守るための行動を取れるよう、「噴火速報」を新たに発表することを提言、気象庁は平成27年(2015年)8月からその運用を開始した。噴火速報は、登山者や周辺の居住者に噴火後速やかに身を守る行動を取ってもらうため、噴火の規模の評価等を行う前に、噴火の発生事実のみを発表する情報である。噴火速報は、観測体制の整っている常時観測火山を対象とし、その火山が初めて噴火した場合、また、継続的に噴火している火山では、それまでの規模を上回る噴火を確認した場合に発表される。視界不良により遠望カメラでの確認ができない場合でも、地震計や空振計のデータで推定できる場合は、気象庁は「噴火したもよう」として噴火速報を発表する。噴火速報は、気象庁ホームページ、テレビ、ラジオなどで知ることができるほか、平成28年1月現在、ヤフー株式会社、日本気象株式会社、株式会社ウエザーニューズによって、スマートフォンアプリ、メール等による情報提供サービスが行われている。
著者
井口 広靖 平手 博之 長沼 愛友 関谷 憲晃 小笠原 治 上村 友二 星加 麻衣子 藤掛 数馬 太田 晴子 祖父江 和哉
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】ストレス心筋症の多くは典型的なたこつぼ型の左室壁運動を呈するが、約2割は非典型的な左室壁運動を呈し、逆たこつぼ型となるのは全体の2%程度である。一方、ギラン・バレー症候群とストレス心筋症の合併はまれである。今回、逆たこつぼ型心筋症を合併したギラン・バレー症候群の症例を経験した。【臨床経過】75歳の男性。発熱、下痢を主訴に他院受診、カンピロバクター腸炎と診断された。抗菌薬治療で速やかに改善したが、発熱から1週間後に両上肢の脱力が出現、翌日には両下肢の脱力により歩行困難となった。さらに翌日には、呼吸状態が悪化、気管挿管人工呼吸器管理となったため当院に転院搬送され、ICU管理となった。前医での気管挿管後より血圧低下あり、当院搬送時には昇圧薬の持続投与が行われていた。ICU入室時の12誘導心電図でV1からV4誘導でST上昇を認め、経胸壁心臓超音波検査で左室基部の壁運動低下と心尖部の過収縮があり、逆たこつぼ型心筋症と診断した。同日施行した神経伝導検査で末梢神経伝導速度の延長があり、ギラン・バレー症候群と診断、転院1日目から二重膜濾過血漿交換を5日間施行した。左室壁運動については、駆出率(modified Simpson法)は1日目から3日目を通して55%前後で著変なかったが、左室基部の壁運動は経時的に改善し、左室流出路の速度時間積分値は1日目に12cmと低下していたものが、2日目は17cm、3日目は19cmと改善を認めた。3日目には昇圧薬の持続投与は中止した。7日目より免疫グロブリン静注療法を5日間施行したが、短期的な筋力回復は認めず、長期の人工呼吸器管理が必要と判断し、8日目に気管切開を行った。9日目よりステロイドパルス療法を3日間施行した後、12日目に人工呼吸器管理のまま一般病棟へ退室した。昇圧薬中止後の循環動態は終始安定していた。【結論】ギラン・バレー症候群患者で循環動態が悪化した場合、まれではあるがストレス心筋症の合併を疑う必要がある。
著者
上田 錠 永井 梓 稲垣 麻優 藤村 高史 平田 陽祐 辺 奈理 三宅 健太郎 竹内 直子 水落 雄一朗 有馬 一
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【はじめに】ニセクロハツは北米、台湾、中国、日本に発生するが、発生環境や色、形が食用のクロハツと類似しているため、誤って摂取後、中毒症状を呈する。ニセクロハツのもつ毒性分である2-シクロプロペンカルボン酸により、摂取後嘔吐や下痢などの消化器症状を生じ、その後に中枢神経症状、呼吸不全、横紋筋融解症、急性循環不全、急性腎不全などの症状を呈し、重症例では多臓器不全となり死亡例も報告されている。【症例】75歳の男性、自分で採取したニセクロハツを摂取した後に嘔吐・下痢の消化器症状を認め、深夜に前医に救急搬送された。入院時は意識清明、歩行可能であったが、摂取後2日目より意識レベル低下、呼吸・循環不全となり、人工呼吸管理、カテコラミン持続投与開始された。その後乏尿、代謝性アシドーシスの進行あり、全身管理目的で同日当院転院搬送された。当院搬送後の採血にてCK38100と高値で赤褐色尿を認めており、横紋筋融解症による急性腎障害と判断して輸液療法、血液浄化療法を開始した。摂取後3日目に意思疎通がとれるまで意識レベルの改善を認めたが、CKは上昇し続け摂取後6日目に203800IU/Lまで上昇した。大量輸液、高容量の昇圧剤投与にても循環維持困難となり、再度意識レベルも低下した。摂取後7日目に家人同意のもと積極的な治療を継続しない方針となり血液浄化療法を中止、その後数時間で多臓器不全のため永眠された。【考察・結語】ニセクロハツ摂取後全身管理を要し、重篤な経過をたどった症例を経験した。ニセクロハツ中毒の報告は過去に数例と少なく、現状では確立した治療法はない。極めて希な中毒症例であり、文献的考察を加え報告する。
著者
加藤 郁佳 風間 北斗
雑誌
第43回日本神経科学大会
巻号頁・発行日
2020-06-15

The activity of dopaminergic neurons (DANs) has been most extensively studied in the context of associative learning. Specifically, DANs have been shown to respond to an unconditioned stimulus and a conditioned stimulus as it becomes predictive of the value of unconditioned stimulus through learning (Schultz et al., 1997; Eshel et al., 2015). However, a conditioned stimulus, especially an odor, is associated with an innate value because it can evoke approaching or avoiding behavior even without learning (Badel et al., 2016). Whether and how DANs represent such innate value of odors remain largely unknown. Here, we addressed these issues using an olfactory system of Drosophila melanogaster as a model. We focused on the DANs innervating the mushroom body (MB) where the olfactory information is modulated by reward or punishment (Aso et al., 2014). The MB comprises 15 compartments, each of which receives input from a distinct type of DANs and provides a place for synaptic modification underlying learning. We performed two-photon Ca2+ imaging to record the responses of DANs in all the 15 compartments to a panel of 27 odors with various values quantified based on the innate approach or avoidance behavior (Badel et al., 2016). We found that DANs differentially respond to attractive and aversive odors; the activity of DANs in specific compartments was correlated positively or negatively with the value of odors. Regression analysis showed that information about the value of odors can be decoded from the activity of DANs, and DANs in each compartment have specific contributions to the encoding of odor values. These results suggest that DANs drive not only associative learning but also moment-to-moment adaptive behaviors in an olfactory environment. In this presentation, we plan to discuss the neural circuit mechanism that gives rise to the odor-evoked activity of DANs.
著者
野田 陽
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究では各入力次元の寄与度に基づいて入力へ重みをかける、補助重み法 (AW) を提案する。AW は特徴抽出するという意味で Lasso に似ているが、医用質量分析機器データのように、少数の判別に寄与する次元に対して大量の寄与の無い次元がある場合に Lasso よりも高速に特徴抽出が可能である。(実証コード:https://bitbucket.org/akira_you/awexperiment)
著者
鶴田 治雄 大浦 泰嗣 海老原 充 大原 利眞 森口 祐一 中島 映至
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

東電福島第一原子力発電所事故直後における大気中放射性物質の時空間分布の解明のため、大気環境常時測定局で使用されている、β線吸収法浮遊粒子状物質(SPM)計中の使用済みテープろ紙に採取された放射性セシウムの分析を、これまで東北地方南部と関東地方南部の99地点で実施して、その解析結果とデータ集を2つの論文(Tsuruta et al., Sci. Rep., 2014; Oura et al., JNRS, 2015)で公開した。その後、第一原発から約4km及び16km近傍に位置したSPM局2地点(双葉、楢葉)における事故直後のテープろ紙の提供を受け、SPM中の放射性セシウムを分析した結果の概要を報告する。まず、SPM計が東日本大震災直後も正常に作動していたかどうかを調べて慎重に検討した結果、信頼できると判断した。そこで、2011年3月12-23日(楢葉は3月14-23日)の期間、1時間連続採取されたSPM試料中のCs-134とCs-137濃度を分析した。また、これらのデータを総合的に解析するにあたり、福島県のモニタリングポスト(MP;上羽鳥、山田、繁岡、山田岡など)と第一・第二原発のMPの空間線量率、気象庁のAMeDAS地点と1000hPaの風向風速なども利用した。その結果、これまでの99地点のデータだけではわからなかった、原発近傍の大気中放射性セシウム濃度の詳細な時間変化が、初めて明らかになった。原発より北西方向に位置する双葉では、Cs-137が高濃度(>100 Bq m-3)となったピークは、3月12-13日、15-16日、18-20日に6回も測定され、その多くはプルーム/汚染気塊として、さらに北西~北方へ運ばれたことが明らかになった。また、原発より南側に位置する楢葉でも、高濃度のピークが、3月15-16日、20-21日に6回測定され、その多くは、プルーム/汚染気塊として、風下側の関東地方か福島県南部に運ばれた。これらのプルーム/汚染気塊は、これまでの論文で明らかにしたプルーム/汚染気塊と良い対応が見られたが、今回の測定で新たに見つかったものも、いくつか存在した。また、近くのMPの空間線量率のピークとCs-137濃度のピークとを比較した結果、両者のピーク時間がほぼ一致し、良い対応関係が見られた。とくに、3月12日午後3時における双葉でのCs-137の高濃度のピークは、近くのMPで期間中に最大となった空間線量率のピーク時間とよく一致し、放射性物質のFD1NPP近傍での動態が、詳細に明らかになった。謝辞:2地点のテープろ紙を提供してくださった福島県に感謝します。この研究は、文科省科研費「ISET-R」と環境省推進費「5-1501」で実施中である。
著者
小山 真人 鵜川 元雄
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

1987(昭和62)年8月20日の早朝、富士山頂で震度3の地震が発生し、その後も同月27日まで震度1~2の地震が3回続いた。これらの地震は山頂だけが有感であり、八合目付近の山小屋でも気づいた人はいなかった。遠方の高感度地震計の記録が不明瞭だったことから、山頂直下のごく浅い部分で発生したと考えられている。この地震を契機として山頂に初めて地震計が設置されたが、今日まで同様な地震は観測されていない。日誌などを遡っても例がなく、1933年以降で初めての事件であった(中禮ほか1987火山学会予稿集;神定ほか1988験震時報;鵜川ほか1989防災センター研報)。この地震は同年8月26日の各社の報道で大きく取り上げられ、火山活動との関係が取り沙汰されたが、噴火に結びつきそうな他の現象は起きなかったとされている。 現在の知識に照らすと、この地震の原因としてもっとも考えやすいのは山頂火口の陥没未遂である。過去たびたび噴火を起こした山頂火口下の火道内には空洞があって、重力的に不安定であろう。こうした火口の「栓」をなす岩石の一部が、時おり地下の空洞に崩落し、その際に小地震や火口底の陥没、場合によっては小さな噴火を伴うことが、他の火山で知られている。 裾野市立富士山資料館に展示されている山頂火口の古いジオラマに、「昭和62年8月頃 直径50m 深さ30m 陥没した」との丸い赤紙に書かれたメモが、陥没位置と思われる火口内壁に付されている。この真偽を調べるために、富士山資料館の元学芸員とジオラマを作成した職員(故人)の家族、当時の富士山測候所員、地震を受けて臨時観測に出かけた気象庁職員たちへの聞き取り調査、臨時観測の報告書ならびに測候所の気象観測日誌の確認を、富士山資料館と気象庁火山課の協力を得て実施した。また、地震前後に撮影された写真(気象庁職員、国土地理院、静岡新聞社、筆者撮影)とも照合した。それらの結果を以下に記す。(1)富士山資料館のジオラマ上のメモは、当時の富士山測候所の職員(名前不明)からの伝聞によって資料館職員が付したものらしい。(2)山頂火口内壁の同規模の円形の陥没が、地震後の写真(1988年3月と12月、1990年代)で確認できるが、地震前の写真(1986年9月と11月、1987年4月)にも認められる(1970年代の写真には確認できず)。また、その陥没位置は、ジオラマに表示された場所の近傍ではあるが若干異なる。なお、当時の観測項目中に地変がないため、観測日誌に陥没の記述はない(有感地震のみ欄外に記載)。2001年以降の写真に陥没は認められず、崩落で埋まったらしい。(3)上記陥没の存在は当時の複数の測候所員が認識しており、1982~84年頃の台風による大雨後に陥没したと記憶する職員もいるが、本当に大雨が原因かは不明とのこと。また、1987年地震後は火口内を注視していたが、際立った変化は確認できなかったとの談話もある。なお、地震当時の8月26日に山頂火口内の温度測定を実施した臨時観測の報告書には「特に高温な場所は発見できず、噴気等も全くなかった。また、大きな落石の跡も見当たらなかった」と記され、それに携わった職員の記憶にもない。以上のことから、山頂火口内壁の陥没は、1987年の山頂地震より前の1980年代なかばに発生したと判断できる。しかし、両者の発生時期が近いことから、原因が同一の疑いが残る。また、原因の如何にかかわらず、陥没の発生自体は山頂火口内壁ならびに火口底の不安定さの象徴とみなすべきであろう。現行の富士山の噴火警戒レベルは、レベル上げの際に2を使用せず、1から3に上げることになっている。気象庁によれば、レベル2は火口が特定できる場合に限っており、富士山では事前に火口が特定できないためと理由づけされている。かつて演者の1人は、住民に比べて対策の遅れがちな登山者のためにレベル2の使用を提案したが(小山2014科学)、その後の富士山火山広域避難計画対策編(2015年)ではレベル1を「レベル1(活火山に留意)」と「レベル1(情報収集体制)」の2つに分け、後者を登山者対策に使用することとなった。しかし、具体的な対策としては山小屋組合等への周知や入山規制実施の準備などとされ、登山者の避難や入山規制を義務づけてはいない。しかしながら、レベル2は本当に不要だろうか? 噴火前に火口が特定できる場合は本当にないのか? 地下からマグマが上昇して噴火に至るモデルにとらわれ過ぎていないか? 陥没や噴気の急激な復活など、噴火以外の現象の危険箇所が事前に特定できた場合はどうするのか? 上記の対策では事態の展開が速い場合に登山者の安全が十分確保できないのでは? などの疑問があり、レベル2問題は上記協議会での継続審議事項となっている。