著者
林 寛平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、教育の脱集権化が現場の教育にどう影響し、教師たちの教育実践をどのように変容させてきたのかを明らかにすることである。本年度は、博士論文の執筆に向けて脱集権化改革初期の資料を収集し、集権体制から脱集権化に向けた動きが生じた背景を検討した。まず、2009年6月に行われた日本比較教育学会でラウンドテーブル「教育の『北欧モデル』の行方-学力問題に揺れる北欧諸国の教育政策」に参加し、スウェーデンの学力政策と分権体制に関するこれまでの研究のレビューを発表した。この中で、(1)脱集権化がグローバリゼーションとの関連で述べられる際、1990年代の現象として認識されているという誤り(2)日本においては、1960年代までの研究と1990年代以降の研究は盛んに行われてきたが、その間の研究がわずかにしか蓄積されていないこと(3)現在の教育改革を検討する上で、1970年代に起きた政権交代と政策の転換の理解が欠かせないことを指摘した。これを受けて研究の方向性を再吟味し、1970年代を始点(転換期)とした脱集権化改革の検討を始めることにした。2009年8月21日から10月2日にかけて、スウェーデンのウプサラ大学教育学研究所とルンド大学図書館を訪れ、資料収集と調査を行った。ウプサラ大学ではウルフ・P・ルンドグレン教授のもとで1970年代から80年代にかけての政策文書と教員組合の機関誌などの資料を200点以上収集し、歴史的な流れについて整理した。ルンド大学図書館では、1980年代のフリーコミューン(特区自治体)実験期に行われた学校開発活動の報告書を入手した。この調査から、脱集権化改革のアジェンダ設定が1970年国会における野党の提議によってなされたことと、その背景に社会構造の転換と教員組合のロビー活動があったことが明らかになった。さらに、注目すべきアクターとして、国会に設置された学校内活動調査委員会(SIA委員会)が浮かんできた。SIA委員会の資料は図書館に所蔵されているものについてはすべて収集した。1970年代のSIA委員会に関する研究成果は論文にまとめ、現在投稿に向けて準備中である。また、9月末にはアイスランドの就学前学級と小学校を訪れた。今回は最近できはじめている私立学校の動向について調査した。金融危機前後での教育政策の変容について現地の声を聞くことができ、非常に有意義であった。この成果は『比較教育学事典』に「アイスランドの教育」という項での執筆に反映されている。
著者
浦部 知義
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

国内の劇場・ホールを持つ公立文化施設の内、公演時外にホワイエをオープンスペースとして開放している施設を、一般開放性を重視した劇場・ホール施設と定義した上で、典型的な5施設の利用者を対象として公演時外及び公演時のホワイエを含む施設内オープンスペースの利用実態と空間評価を行った。その結果、劇場・ホールを持つ公立文化施設のホワイエを含む施設内オープンスペースの今後の計画に有効な基礎的資料を得た。
著者
荻野 達史
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

(1)日本における産業精神保健の歴史を詳細に記述し整理することができた。これは、この領域については先行研究がないため、新たな課題への研究上の基礎を築くものである。(2)この問題の中核的な社会的背景となる個人化についての研究を進めた。具体的にはU. BeckのIndividualizationの翻訳プロジェクトを立ち上げ、来春には刊行の予定である。(3)小中学校教員のメンタルヘルスに関する調査票調査を教員組合と協力して実施した。高い回収率を達成でき、分析を継続している。
著者
山村 高淑 岡本 健 石川 美澄 石森 秀三 松本 真治 坂田 圧巳
出版者
北海道大学観光学高等研究センター+鷲宮町商工会
巻号頁・発行日
2008-12-07

北海道大学第3回観光創造フォーラム「メディアコンテンツと次世代ツーリズム~鷲宮町の経験から考える若者の旅の動向と可能性~」. 平成20年12月7日. 埼玉県鷲宮町.
著者
玉田 晃一
出版者
聖和大学
雑誌
聖和大学論集 (ISSN:02860848)
巻号頁・発行日
no.17, pp.p127-139, 1989
著者
太郎丸 博 吉田 崇
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.155-168, 2007

求職者の意識と求職期間の関係を正しく認識することは、求職者に適切な援助を与えるためにも重要である。データの制約から両者の関係を正確に把握することは一般に困難であるが、ジョブカフェ京都の協力を得て、求職者の意識調査の結果と、その後内定までにかかった期間の追跡調査の結果を名寄せすることで、意識が内定率に及ぼす影響を推定することが可能になった。比例ハザードモデルを用いた結果、自信や「やりたい仕事」があることは内定率を有意に高めないが、「目標の期日」や、求職のための具体的な行動は、内定率を高めることがわかった。
著者
井出 光俊
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.89-95, 1998-09-30
著者
甲斐田 幸佐
出版者
独立行政法人労働安全衛生総合研究所(産業医学総合研究所)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

午後に生じる眠気は,作業効率を落とすのみでなく,職場での事故や作業ミスを誘発する.これまで,午後の眠気を抑えるために,さまざまな方法が考案されてきた.なかでも,約20分間の短時間仮眠が注目され,その効果は多くの研究により実証されている,いくつかの企業においては,職場で短時間の仮眠をとる試みがなされているようであるが,安全かつ衛生的な仮眠が可能な場所を確保することは,どの職場でも容易であるとは考え難い.その場合,仮眠以外の選択肢が望まれる.昨年度までに行った一連の研究により,限られた昼休み時間にも利用できるような短時間(約30分間)の自然光受容が,覚醒度を上昇させるだけでなく,気分状態を改善することが新たに明らかになった.午後の自然光受容は職場におけるメンタルヘルスの維持・改善効果も期待される.今年度は,スウェーデン国カロリンスカ研究所において,眠気に関する基礎研究を行った.研究の結果,強い眠気の状態では,眠気の自覚症状と生理的覚醒度やパフォーマンスの間に乖離が生じることを実証した.この乖離は,安全に対する自覚を軽視することにつながる可能性があるため,労働安全を考える上で大切な視点であると考えられる.また,本研究では、眠気の生理的指標,特に心拍数の変動は,パフォーマンス悪化の数分前に生じることを明らかにした.生理的指標からパフォーマンスを予測することにより,労働作業中の事故を予測できる可能性がある.本年度の研究成果は2編の学術論文にまとめられた.
著者
柴内 康文
出版者
同志社大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は、2007年3月に大手オンラインパネルを用いた、メディア利用と社会関係資本に関する調査(有効回収数1,052、回収率47.7%)の分析検討を中心に行った。本調査にはWilliams(2006)による「インターネット社会関係資本尺度」(ISCS)のオンライン項目(橋渡し型・結束型下位尺度)日本語版を組み込む試みを行っているが、その因子構造の検討の結果、オリジナルで得られている橋渡しおよび結束の2次元に加えて、結束の反転項目が主に集まる「疎外次元」がさらに析出された。これらの尺度に加え、社会関係資本に関わる変数としての組織参加、社会的ネットワーク関連変数(携帯登録人数、年賀状枚数、SNS対人関係人数、position generator等)や一般的信頼、また社会関係資本に影響を与える変数としてのマスメディア利用(テレビ利用パターンおよびニュースメディア接触)とインターネット利用形態、また特にマスメディア影響の媒介メカニズムの検討のための培養効果項目、また社会関係資本の結果変数としてのpsychological well-beingなどの変数の尺度構成を行い、スタンダードな線形モデルによる規定関係の検討を行ったのと同時に、ニューラルネットワークと決定木分析を組み合わせた探索的な非線形モデルの解析を行い、その精度に関する比較検討を行った。メディア環境の変化と共に社会関係資本がどのように維持されるのかは、社会的にも関心が高いテーマであると同時に、本研究で行った統計解析技法は、社会科学分析における非線形性の検討に意義があると考えられる。平行して本年度に実施した理論的考察もふまえながら、今後は本研究の成果(解析面及び技法面)の公表、またそのための再分析をさらに進める。
著者
小針 誠
出版者
同志社女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は以下3点の研究成果を発表した。第一に、2006年12月〜2007年1月にかけて実施した質問紙調査「現代の中学生の日常生活と人間関係に関する調査」(P県の中学2年生n=1094)の分析と発表をおこなった。本年度は心理主義的な意識、友人関係、スクールカウンセリングの利用頻度と属性との関連を中心に分析した。以上の分析結果については学会大会での報告ならびに研究論文として発表した。なお、同分析報告の一部は「日本教育新聞」(2007年10月22日号)において取り上げられるなど、社会的に注目されるところとなった。第二に、昨今の「いじめ」言説を手がかりに、本来子どもたちの社会関係としての「いじめ」問題が「こころ」の問題として取りあげられていることを批判的に論じ、研究論文としての発表および一般市民に対する講演活動等をおこなった。第三に、社会・教育・子どもの心理主義化の問題も含めて、現代の子どもたちの置かれた諸状況に関して『教育と子どもの社会史』(梓出版社・全234頁2007年5月刊)と題する単著書にまとめた。以上3年間にわたって、現代社会における子どもたちの心理主義化の問題について、文献研究、インタビュー調査、質問紙調査をほぼ予定通り実施し、当初予定していた本研究課題を達成することができた。
著者
中澤 務
出版者
関西大学文学会
雑誌
關西大學文學論集 (ISSN:04214706)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.55-83, 2010-09
著者
前田 一男
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、主に2つあった。第1は、新たに発掘された森戸辰男(1888年〜1984年)関係の諸史料を整理分類し、データベース化したうえで文書目録を作成・公刊することである。このことによって、膨大な森戸関係の文書整理は、ひとつの段階を終えることになるだろう。第2は、それらの諸資料を活用して、特に中央教育審議会において4期連続で会長の職にあった時期(1963年6月〜1971年7月)を中心に、高度経済成長期における教育政策分析の基礎研究を行うことにある。政府・財界と教育運動との対立といった単純な図式を越えた基礎研究の必要性が求められている。このような研究目的に即して、3年間の研究実績は、以下の2つの点に認められる。第1に、森戸関係資料の段ボール箱98箱の分類整理作業が精力的に進められた。文書の整理作業は、有効な分類項目が検討されながら進められた。分類整理の段階は、史料の多寡(量)によってまとまりをつけている段階で、それらをさらに質的な観点から分類していくことを課題とした。とくに◇日本学術会議・教育美術振興会、国立大学事務局長会議・教育刷新委員会・国際理解研究会・日本育英会・教育改革・教育(社会・一般)は、さらなる分類が必要であり、◇森戸メモ、◇森戸講演関係、◇森戸宛書簡、◇森戸原稿は、分類整理に工夫を要する項目である。第2は、現在までに分類整理を終えた資料の文書目録を作成することである。現段階で整理し分類しうる範囲での、森戸辰男関係資料目録の作成を行った。森戸の広範な活動が浮かび上がらせることができるよう、(1)戦前・戦中、(2)戦後I、(3)原稿・その他、(4)書簡、(5)中央教育審議会関係資料の観点から『森戸辰男文書の分類整理に基づく1960年代教育政策分析の基礎研究』として研究成果を刊行した。