著者
佐藤 元
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.63-78, 2005

公衆衛生政策は私的権利の制限(私権制限)を伴うことが多い。私権に関わる例としては,公衆衛生情報と個人のプライバシー,コミュニケーション政策と表現の自由,検疫・隔離や強制的入院と個人の自律や自由,安全衛生基準と経済活動の自由などの間に見られる対立が挙げられる。国家・自治体は公共の福祉のために私権を正当に制限し得るとされるが,公衆衛生領域における政府の責務と権限が拡大する中,人権保護に関する議論を整理し制度を整えることは重要な課題である。本稿は,現代の米国における議論を総括紹介し,今後の議論に資すことを目的とした。公衆衛生政策を人権保護の観点から検討する際には,正当性,合理性,経済的負担と効率,私権制限の程度,公平性,政策相互の整合性が系統的に評価されることが望ましい。また,こうした評価を制度化し実効性のあるものとするためには,正当な法的手続きと政治過程の透明性確保が重要と考えられる。前者は,実質的正当性と形式的正当性の両者からなる。
著者
小林 玲子
出版者
京都聖母女学院短期大学
雑誌
聖母女学院短期大学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.36, pp.64-67, 2007

アダムとエヴァの罪の解釈を取り上げたのは、政教分離のなかった頃、キリスト教の信者たちがこの話を操る権力者たちによって、知識は禁断の実であって、何も知らずに神と教会の命令に従う事こそ良き信仰の道であると教え込まれていた後遺症が、今だに残っているからである。しかし、ユダヤ教においてもキリスト教においても、神と人間の決定的な出会いの場は、人間が自分の罪を悔い改めて神に立ち帰る所にあり、先のような誤った解釈は、人々が自分自身の罪と救いを真剣に考えることを妨げるものである。ダビデ王は神の為にと思って様々な大事業を成し遂げたものの、神と最も深い所で出会ったのは自分の犯した罪を悔い改めた時であった。イエスも放蕩息子の喩えで、悔い改めた人と神の出会いを物語っている。教会の規則を守って悪行をしなければ救われる、あるいは善行を積めば救われるというのは、本来のキリスト教の教えではないと言うべきであろう。アダムが罪を犯したからではなく、我々が罪人だからこそイエス・キリストの救いが必要なのだ。キリストは、悔い改める我々と神のコミュニケーションを回復させる。そして人間の善悪の知識は、このコミュニケーションにおいて初めて確かなものとなるのである。本論は3部から成る。まず、聖書の解釈一般について、次にアダム神話の解釈を述べ、その後、アダム神話の人間論的意義について述べる。
著者
中瀬 朋夏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.2, pp.61-64, 2014
被引用文献数
3

安全で有効性の高いがん治療戦略の開発において,漢方由来成分を用いた治療法がその重要性を高めている.経験的に古くからマラリアの特効薬として利用されてきたアルテミシニンとその誘導体は,キク科の植物であるセイコウ(<i>Artemisia annua</i> L.)から分離されたセスキテルペンラクトンで,構造中のエンドペルオキシドブリッジ(-C-O-O-C-)と細胞内鉄イオンが反応し,フリーラジカルを生成する.近年,トランスフェリン受容体が高発現し鉄イオンを豊富に含有するがん細胞に対して,アルテミシニンの細胞毒性が極めて高いことが注目されている.筆者は,トランスフェリンの<i>N</i>-グリコシド鎖にアルテミシニンを修飾したがん標的アルテミシニンが,アポトーシスを介して,がん細胞に特異的な抗がん活性を示すことを明らかにした.さらに,抗がん薬の効果は細胞内環境の影響を大きく受けることから,がん細胞内の酸化ストレスやエネルギー産生を制御することで,アルテミシニン誘導体の効果を操る手法を開発した.その結果,酸化ストレス耐性のがん細胞に対して,抗酸化促進機能を担うシスチントランスポーター活性を抑制することにより,アルテミシニン誘導体の細胞毒性効果を増強できることが明らかになった.漢方由来成分の効果を最大限に発揮するため,がん標的送達システムや細胞内環境を調節・維持するトランスポーターを制御できる薬剤学的手法を駆使して,今後,臨床応用へ向けたさらなるがん治療戦略の開発を期待する.
著者
山口 創
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.132-140, 2014
被引用文献数
2

皮膚と心の関係について、特に癒しとの関連ついて生理学や心理学の研究をもとに紹介した。まず皮膚は脳と同じ外胚葉から発生し、皮膚も情報処理器官であることを指摘し、皮膚感覚が心に及ぼす影響について述べた。次に皮膚をなでることによって生じる振動には、1/fゆらぎの特徴をもつ振動が発生し、それが快の気分を生じさせる可能性について述べた。また触れることによってオキシトシンという生理物質が脳内で分泌され、それが相手との親密な人間関係の構築に役立つことや、 癒しをもたらす実験について紹介した。さらに触れる際に重要な点は、ゆっくりした速度で手を動かして触れることと、弱い圧で触れることである点を指摘した。前者はC触覚線維の発火によってもたらされる効果あり、後者は副交感神経が高まるためである。 これらの特徴をもつ触れ方によって、人は最大の癒しを得ることができ、快の感情が最大に高まると考えられる。<BR>最後に、皮膚を入力と出力の両面の視点で捉える必要性について述べた。皮膚に触れることは刺激の入力としての視点であるが、皮膚は内臓など身体内部や心の働きが表出される部位でもあるため、 出力としての視点もまた重要である。従って皮膚に触れることを通じて、相手の内部状態を把握する態度が重要になると考えられる。
著者
稲垣 眞美
出版者
美学会
雑誌
美學 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, 1982-12-31

"Daigomi", which we find in such expressions as "daigomi of the piano-play" and "daigomi of fiction", is commonly used as a critical term to signify an ideal taste beyond description. "Daigo" originally comes from the passage in the sutra of Nirvana- "the cow gives milk ; the milk turns to sour thick milk ; the sour thick milk to fresh butter ; the fresh butter to rich butter ; and the rich butter to "daigo"-creamy essence-which is the best of all." "Daigo" is called sarpir manda in Sanskrit, which means the supremely tasty food finally produced from milk. In Buddhism this is compared to Nirvana, the ultimate spiritual state as was explained in Milinda Panha, - "As in daigo there are colour, smell and taste of excellent quality, so in Nirvana there are colour called virtue, and taste and smell called commandment." On the other hand, in the Western aesthetics Hegel and E. v. Hartmann regarded these senses as inferior to the senses of sight and hearing, and excluded them from the aesthetic category, which has become prevalent since then. But such Encyclopaedists as Condillac, Voltaire and Diderot were against the idea, and did justice to the senses of taste and smell. Especially Diderot almost grasped the meaning of "daigomi" and Nirvana in his definition of "delicieux". So we shall have to revaluate those senses in aesthetics, giving a deeper insight into their sensual and spiritual pleasure and beauty.
著者
大杉 綾花
出版者
奈良女子大学
巻号頁・発行日
2021

「博士論文本文」および「内容の要旨及び審査の結果の要旨」を公開
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-24, 2010-03-15

旅館主が地域振興に大きく貢献した例は別府の油屋熊八など全国に数多く存在するが,油屋など一部の例外を除き必ずしも伝記等で事跡が解明されているわけではない。その背景には旅館業の多くが家業として個人経営の形態で運営され情報公開されることも少なかった事情もあろう。今回取り上げた日本三景の一・松島の旅館主・大宮司雅之輔の場合,ご子孫が遺品たる書画骨董等の一切を瑞巌寺宝物館ほかに寄贈され,学術的な調査を経て数次にわたり同館で特別展を開催されて来たという希有な事情にあった。本稿では同館のこれまでの研究成果や『松島町史』等に依拠しつつ,大宮司が地元の観光振興を願って運輸業を中核とする地元企業の多くに役員・大株主等として積極的に関与した企業者史的側面を明らかにしようとした。まず松島軽便鉄道では執行役員による仮装払込が発覚して免許失効,次に松島電車では経営不振のため債権者に軌条・車両等を競落され運行停止に陥るなど,彼が関与した企業の多くは期待された成果を生まなかった。相次ぐ不首尾にもかかわらず,彼はその後も松島を中心とする陸海の各種運輸業への関与を止めようとしなかった。一面で浮世絵等の収集家でもあった彼は独自の考え方に基づいて美術商から大量の書画を買い続けたという。関与した松島軽便鉄道,松島電車等はいわば習作の部類に入るわけだが,最後に本命視した宮城電気鉄道(現JR仙石線)は仙台と直結する本物の観光路線として成功を収めた。彼が損失も覚悟の上で最後まで地域の公益企業に関与をし続けた根底には明治末期宮城県から松島公園の委員を嘱託された際に開陳した彼の宿願たる松島振興策があったものと考えられる。なお地元銀行の再生等に私財を投じて尽力した大宮司の銀行家としての今一つの重要な側面の解明は別稿にゆずりたい。
著者
武田 誠一
出版者
九州保健福祉大学大学院社会福祉学研究科
雑誌
最新社会福祉学研究 = Progress in Social Welfare Research (ISSN:18809545)
巻号頁・発行日
no.14, pp.93-100, 2019-03-31

本研究では,「自立支援型」地域ケア会議での助言内容に,どのような特徴が見られるかを分析した.対象は,三重県伊勢市の「自立支援型」地域ケア会議である「生活支援会議」の助言内容を取り上げた.分析には計量テキスト分析ソフトKH Coder を用い,「共起ネットワーク」,「階層的クラスター」を作成し,出現パターンが似通った助言内容をカテゴリーに分け分析した.結果,2017年度(4月~3月)「生活支援会議」での助言は306件,総抽出語数は10,472語,異なり語数は2,132であった.「生活支援会議」における助言では【身体機能(ADL)に関する助言】に偏ることなく,【家族支援に関する助言】,【地域参加に関する助言】,【食生活に関する助言】,【口腔ケアに関する助言】など多岐にわたる助言が行われていることがわかった.
著者
武捨 貴昭
出版者
海洋音響学会
雑誌
海洋音響学会誌 (ISSN:09165835)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.299-304, 2003-10
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学保健医療技術学部
雑誌
保健医療技術学部論集 (ISSN:18813259)
巻号頁・発行日
no.9, pp.13-22, 2015-03-01

本稿は,医学・医療の分野でよく用いられる「相関」と「因果」の観方について医学概論・医学哲学の立場からシリーズで考察する試論の第1 稿である.初回は特に,臨床の現場で医療者や患者・家族,あるいは一般市民の間の日常的言説に散見される通俗的因果論法の一つである「3 た論法」に焦点をあてて,相関と因果の観念concept から批判的検討を行なった. 第1 節では,相関と因果の観念について再確認しつつ,「因果」という観念のもたらす「相関」との乖離性や,因果性が従来の決定論的性向から近年で確率論的因果論に変遷しつつある点を指摘した.また,医学と自然科学との相違にも触れ,その違いは「原因」概念の有無によるものである点も強調した.第2 節では,第1 節を受けて,通俗的因果論で散見する「相関関係」即ち「因果関係」とみなしてしまうミスリーディングの陥穽について検討し,事象X から事象Y に至るメカニズムの明示が因果性の証明に重要であることを示唆した.第3 節では,「3た論法」のいくつかの事例の紹介とその因果論的問題点を指摘した.第4 節では,まとめとして「3 た論法」なる因果論の回避の方法を提示した.特にそのためには患者―医療者間の説明モデルの相違を調整する必要があることを示唆した.相関因果原因医学と科学た論法」
著者
中山 忠政
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.97-113, 2017-10-14

本稿は、2010年初頭から開始された「障がい者制度改革」において、障害者権利条約第24条の求める「インクルーシブ教育システム」について、どのような議論がなされたのか検討することを目的とした。「障がい者制度改革推進会議」における、「インクルーシブ教育システム」に対する評価には、現状からの変更を伴う事項を中心に、構成員による違いがみられた。また、「第一次意見」のとりまとめがなされる段階には、インクルーシブ教育システムについて、「押し戻し」の様相が強くなっていた。
著者
大澤 剛士 畑 憲治 可知 直毅
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.40, pp.13-23, 2016

導入種が同一の生態系内に共存している場合、一方の根絶が予期せぬ波及効果をもたらす場合がある。聟島列島媒島は、ヤギの根絶後、外来低木であるギンネムLeucaena leucocephala(Fabaceae)が急速に分布域を広げている。本研究は、ヤギの根絶に伴ってギンネムが勢力を拡大したという仮説を、航空写真判読および現地調査によって検証した。 その結果、ヤギ駆除後、島の土地被覆は裸地から草地に、続いてギンネム林に変化していったことが示唆された。このことから、ヤギはギンネムの繁茂を抑制していたこと、現在ギンネム林に近接している草地は、将来的にギンネム林に変化してしまう危険性が高いことが示された。
著者
松谷 茂樹
出版者
一般社団法人 日本応用数理学会
雑誌
応用数理
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.48-60, 2003
被引用文献数
1

In 1691, James Bernoulli proposed the following problem called elastica problem : "What shape of elastica, an ideal thin elastic rod in a plane, is allowed ?" Euler essentially solved the problem in 1744 by developing studies of variation problem and elliptic function theory. Their studies are regarded as prototypes of harmonic map theory, nonlinear differential theory, soliton theory, differential geometry, algebraic geometry, theory of moduil of elliptic curves and so on. In this article we mention their mathematical meaning with their historical background from viewpoint of pure and applied mathematics : Their studies started from concreteness to abstractand they applied constructed abstract theory to the concrete problem. We also introduce a current study of statistical mechanics of elasticas, which might be settled by knowledge of hyperelliptic function theory.