著者
辻 尚子
出版者
浜松医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

[目的]我々はマウス敗血症性急性腎障害(AKI)の早期にミトコンドリアDNA(mtDNA)が大量に全身循環し、腎障害を惹起していることを明らかにしたが敗血症患者における全身循環mtDNAの動態や意義は明らかではない。今回我々は、血中mtDNAの存在部位の違いに着目し、エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)を必要とした敗血症患者の循環mtDNAをエクソソーム(Ex)分画と遊離(Free)分画に分けて定量検討した。[方法]2013年~2016年に当院集中治療室で敗血症性ショックと診断されPMX-DHPを施行した20名を対象に、治療直前の血漿中mtDNAを超遠心法にてFree分画とEx分画に分けRT-PCRを用いて定量した。[結果]敗血症性ショックの患者は健常者と比較しEx-mtDNAが優位に増加していた(1.4±4.9 vs 0.002±0.003 ×10^3copies/μl, p<0.05)。院内死亡例では生存例と比較し、Ex-mtDNAが優位に増加し(5.3±9.4 vs 0.1±0.3 ×10^3copies/μl, p<0.01)、Ex-mtDNA量は血中乳酸値と正の相関を示した。また、AKI合併例では非AKI合併例と比較し、Ex-mtDNA(2.0±5.9 vs 0.03±0.06 ×10^3copies/μl, p<0.05)および遊離mtDNA(8.7±2.8 vs 0.08±0.12 ×10^3copies/μl, p<0.05)が増加しており、KDIGO分類で重症度が高い程増加する傾向であった。[結論]敗血症性ショックでは血中Ex-mtDNAが増量しており、Ex-mtDNA量は敗血症の重症度やAKI合併、死亡と関連を認めた。各分画のmtDNAの腎特異的役割や意義に関しては今後さらなる検証が必要である。
著者
北島 信哉
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.19, pp.39-53, 2021-03

本研究は,長野オリンピック開催後の剰余金である長野オリンピック記念基金の実態を「中心-周辺」論を用い,地理的条件,組織的条件,物理的条件の視点から明らかにした。研究の結果,長野オリンピック記念基金は,冬季競技の国内外競技大会開催やジュニア育成,競技力向上事業等に活用されてきた。一方で,地元住民を対象とした事業の補助金割合は,低い現状が明らかになった。スポーツ施設マネジメントの視点から,長野オリンピック記念金の助成期間は,施設運営の財政負担を軽減していた。しかしながら,現在,使用中止の競技施設も存在することから,スポーツ施設マネジメントへの課題も明らかになった。
著者
藤原 晴彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

体表の紋様や体色により捕食者を撹乱する擬態は広範な生物種に認められるが、その形成メカニズムはよくわかっていない。擬態のような複雑な適応形質は1遺伝子の変異ではなく、染色体上の隣接遺伝子群「超遺伝子(supergene)」が制御しているという仮説がある。我々はシロオビアゲハのベイツ型擬態の原因が130kbに及ぶ染色体領域にあり、さらに染色体の逆位によってその領域が進化的に固定されていることを見出した。そこで、本研究では複数のアゲハ蝶をモデルとして(1)supergeneの構造と機能、(2)染色体上のsupergeneユニットの出現と安定化機構、(3)近縁種でのsupergeneの進化プロセスを解明する。転移因子の関与なども含め上記の結果を統合し、ゲノム再編成による擬態紋様形成機構を体系的に解明することを目的とした。本年度は、シロオビアゲハの擬態型dsx-Hが、非擬態型の淡黄色を擬態型雌に特有な淡黄色に切り替えるメカニズムを明らかにするために、両者の合成経路に関与する遺伝子の機能解析を行うとともに、紫外線に対する応答性の違いとそれに関与する遺伝子の働きを解析した。非擬態型淡黄色は紫外線を吸収して青い蛍光を発するのに対し、擬態型淡黄色は紫外線を反射するが、シロオビアゲハの擬態型翅で擬態型dsx-Hをノックダウンするとその領域において紫外線に対する応答性が擬態型から非擬態型に切り替わった。非擬態型の淡黄色papiliochromeIIを作るNBADとキヌレニン合成経路の各遺伝子をノックダウンしたところ、紫外線応答性が切り替わるとともに、鱗粉の電子顕微鏡像も変化したことから、色素合成のみならず物理的な性質もこれらの遺伝子によって制御されていることが明瞭となった。さらに、ナガサキアゲハの擬態型dsx-Hの機能解析を行い、シロオビアゲハの擬態型dsx-Hの機能との比較を行った。
著者
西田 宗太郎 辻野 亮
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
no.17, pp.59-67, 2016-03

本研究では、カラス類によるゴミの食い荒らしの現状とゴミ回収の時間帯でのゴミ回収場所周辺のカラス類の出現数がどのような要因によって変化するかを明らかにするために、奈良市において燃やせるゴミ(生ごみを含む) の回収曜日が異なる2つの市街地において食い荒らしの生起頻度調査とカラス類出現数のスポットセンサスを行い、カラス類の出現数とゴミ回収区分、集積様式、調査サイトの相関関係を解析した。10月~12月の非繁殖期の燃やせるゴミの日に400分間、燃やせないゴミの日に400分間の観察によって、燃やせるゴミの日にのべ82羽、燃やせないゴミの日にのべ92羽のカラス類を記録した。また、2015年12月の非繁殖期の燃やせるゴミの日に200か所、燃やせないゴミの日に200か所のゴミ回収場所を観察した結果、燃やせるゴミの日に2か所、燃やせないゴミの日に3か所の食い荒らしを記録した。カラス類の出現数とゴミ回収区分、集積様式、調査サイトについて一般化線形混合モデルによって解析したところ、カラス類の出現数は燃やせないゴミの日に多くなることがわかったが、燃やせるゴミの日との差は小さかった。カラス類対策がある程度された現状では、ゴミ回収の時間帯にゴミ回収場所周辺でカラス類はあまり出現せず、カラス類はゴミを主要な餌資源とできない可能性が示唆された。The aims of this study are to clarify the present status of garbage scavenging by crows, and the relationship between crow occurrences and garbage collection in the non-breeding season. In the current study, the garbage collection sites, scavenged by crows, were counted and the spot censuses were conducted during garbage collecting time at two sites of urban area in Nara city. The relationships between the number of crow occurrence and either types of garbage (burnable/non-burnable garbage), type of protection at garbage collection site (no guard, by a net, and by a temporary box), or study sites. In December 2015, a non-breeding season, 2015, Two out of 200 sites were scavenged by crows on the day for collecting burnable garbage, three out of 200 sites were scavenged by crows on the day for collecting non-burnable garbage. FromOctober to December 2015 (non-breeding season), 82 corws were recorded in the total of 400 min. of census effort on the burnable garbage day and 92 crows were counted during a total of 400 min. of census effort on the non-burnable garbage day. The generalized liner mixed model analysis showed the number of crow occurrence increased on the non-burnable garbage day. However there was less difference in the number of crow occurrence between the non-burnable garbage day and the burnable garbage day. Since crow-repellent measures are effective these days, the number of crow occurrence around garbage collection sites, and the number of crow-scavenged case during the census effort were small. These suggest that the crow does notscavenge garbage as a main food resource.

3 0 0 0 OA 江談抄

著者
大江匡房 著
出版者
古典保存会
巻号頁・発行日
1930
著者
長島 和子 冨樫 恵子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.147-153, 1972-07-31

加熱処理を要する野菜,5種類を用いて,各貯蔵条件下のビタミンC含量の変化を検討した。その結果,生のまま貯蔵した場合,カリフラワー,さやいんげん,芽キャベツは冷蔵,室温貯蔵ともに,総ビタミンCの減少は殆ど認められず,還元型,酸化型の割合の変化もみられなかった。ブロッコリー,春菊については,いずれの場合もビタミンCの減少傾向が認められ,とくにブロッコリーは室温貯蔵におけるビタミンCの減少は顕著であった。加熱処理をして冷蔵した場合は,いずれの野菜も総ビタミンCの減少傾向は生の場合とほぼ同様であったが,還元型と酸化型の割合において,酸化型が増加する傾向にあり,とくにカリフラワー,芽キャベツにおいてその傾向が大であり,他のものについては貯蔵期間が長くなった場合に,その傾向が認められた。生で冷蔵したものを使用前にゆでた場合には,還元型と酸化型の割合における変化は殆ど認められず,これらの野菜類については,生で冷蔵し使用直前に加熱処理をする方法が望ましいことが明らかとなった。また,生食する野菜,5種類を用いて冷蔵および室温貯蔵を行ない,同様にビタミンC含量の変化を検討したが,これらの野菜類のビタミンCは比較的安定で,トマト,きゅうり,キャベツにおいては,冷蔵,室温貯蔵ともに殆ど変化は認められなかった。また還元型,酸化型の割合も変化しなかった。ピーマンは冷蔵の場合はビタミンCの減少は殆ど認められなかったが,室温貯蔵の場合,わずかに減少の傾向を示した。大根については冷蔵,室温貯蔵ともにわずかながら減少傾向を示し,5日目には酸化型が増加する傾向が認められた。トマトはむしろ貯蔵中に総ビタミンCが増加する傾向にあり,これは成熟との関係によるものであろうと推定した。
著者
岡田 庄生
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.40-47, 2020-03-04 (Released:2020-03-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ユーザー(消費者)が企業の製品開発プロセスに参加する共創活動が活性化している。また,ユーザーのアイデアで生まれた製品であるという情報表示は,一般消費者の購買意向を高める効果がある。ユーザー創造製品の情報表示の有効性の背景を探る研究が進んでいるものの,ユーザー創造製品の情報表示と消費者の購買行動における動機との関係は十分に明らかになっていない。本研究は,ユーザー創造製品の情報表示が製品選択に与える影響の媒介要因を,制御焦点理論を用いて定量的に分析した。その結果,ユーザー創造製品の情報表示は,消費者の予防焦点と促進焦点を媒介して,製品選択に正の影響を与える事が明らかになった。ただし,消費者の製品関与の高さは促進焦点の媒介効果に負の影響を与える事が確認された。

3 0 0 0 OA 吉田松陰全集

著者
吉田松陰 著
出版者
岩波書店
巻号頁・発行日
vol.第4巻, 1936
著者
丹野 義彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.157-168, 2001-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
44
被引用文献数
1

日本の臨床心理学は心理療法やカウンセリングの成果について量的なデータを持っていない。これはつクライエントの心理的症状について量的な記述をほとんどおこなわないためである。こうした点を克服するために, 科学者-実践家モデル (Scientist-Practitioner Model) の視点からいくつかの提案をした。第1に, 心理療法の成果について実証にもとつくアプローチを提案した。実証にもとつく臨床心理学の良いモデルとしては, アメリカ心理学会の心理的治療のガイドラインや, 実証にもとつく医学をあげることができる。実証にもとつく臨床心理学は, 臨床心理学とその関連領域が共同研究をおこなうための基本的なフレームワークとして機能しうる。第2に, 分類, 実施手順, テストバッテリの視点から心理アセスメントのスキーマを提案した。心理アセスメントを実施する際には, 受理面接・詳しいアセスメント・事例の定式化・治療仮説の形成・治療効果のポストアセスメントを含むべきである。第3に, 異常心理学を確立させることを提案した。異常心理学は臨床心理学とアカデミックな心理学のインターフェースとして機能する。