著者
田村 圭一
出版者
北海道大学哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:02872560)
巻号頁・発行日
no.39, pp.1-18, 2003
著者
田中 裕也
出版者
同志社大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度の研究実施状況を下記に、三点に分けて報告する。1、昨年度に投稿し、ジャッジメントを経ていた「三島由紀夫「親切な機械」の生成-三島由紀夫とニーチェ哲学-」が「日本近代文学」第84集(2011年5月)に掲載された。主に、三島が事件資料をどのように選別し執筆を行ったのかを検討した。また三島が同時代の「主体性」を巡る論争自体を無効にするために、流動的で統一されない「主体」を主張するニーチェ哲学を援用していると論じた。2、昨年度から継続して調査・研究していた「青の時代」(1950年12月)を論文化し、「三島由紀夫「青の時代」の射程-道徳体系批判としての小説-」として、「昭和文学研究」第64集(2012年3月)に掲載された。三島は「アプレゲール」の代表的人物と見なされていた、山崎晃嗣に関する資料を収集しつつも、クレッチマーやニーチェ哲学を用いて主人公を描いていることを明らかにした。また戦後言説空間では「道徳」という言葉が国家再建の理念と密接に結びついていたが、一方で反社会的で秩序に当てはまらない若者たちを、「不道徳」な「アプレ-ゲール」として排除していく流れがあった。「道徳」と「不道徳」が一見対立する概念に見えながらも、この二つの概念は共犯関係的なものであることを、三島がニーチェ哲学を援用して「青の時代」の中で批判的に描いていることを明らかにした。3、山中湖文学の森・三島由紀夫文学館」において二回(各四日間・計八日)の草稿調査・研究を行った。主に「愛の渇き」(1950年6月)の草稿400枚弱について調査・研究を行った。「愛の渇き」の草稿には、二つの大きな改編箇所があることが分かった。今後研究内容をまとめ論文化する予定である。
著者
舟場 保之 寺田 俊郎 小野原 雅夫 加藤 泰史 大越 愛子 松井 佳子 牧野 英二 舟場 保之 大橋 容一郎 御子柴 善之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

2001年9月11日のいわゆるテロ事件が印象づけた国際社会の諸問題に、カント哲学やヘーゲル哲学のみならず、法哲学やジェンダー論、宗教学、教育学、環境論といった最も広い意味における哲学の立場から応答することを試みた「<9.11>を多角的に考える哲学フォーラム」における議論を発展・継承させ、その後いっそう緊張を強めた状況の中でグローバル・コミュニティが必要とする倫理、すなわちグローバル・エシックスを構築するうえで基盤となる理論的な研究を行った。研究に際して、テロリズムと暴力、正義と法、戦争と平和、人権とジェンダー、地球環境、多元主義と教育といった問題群をテーマ化し、一般に開かれた形で研究会を運営・開催しながら、公共空間における哲学的思考のあり方を模索すると同時に、公共空間そのものの創出を実現した。それは、カントが『啓蒙とは何か』のなかで主張したような、個々人がそれぞれの社会的な身分からは独立した「学者としての」「公共的な理性使用による異議申し立て」を行えるような公共圏そのものであり、言葉の力のみを頼りとする参加者たちが対等の立場で議論し合う空間であった。ここにおいて、具体的には、哲学の伝統がこれまで積み重ねてきた議論(たとえば、カントの永遠平和論やバトラーのジェンダー論など)を思想的な資源として活用しつつ、これらに哲学的反省を加えながら、その他の学問分野の専門家や市民とのコミュニケーションのなかで対話的・反省的思考を重ねることによって、グローバル・エシックスを形成するためにクリアしておかなければならない諸問題の所在を明確なものとし、グローバル・エシックス構築のための理論的基盤を明らかにすることができた。
著者
山口 恵照
出版者
大阪大学
雑誌
大阪大學文學部紀要 (ISSN:04721373)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.143-268, 1957-03-25

The system of the Samkhya-philosophy, which is inherent in the Samkhakarika text by Isvarakrisna, is one of the most excellent of the Brahmanical philosophies (darsana). What is the essential character of that system as a system of philosophy? This point has not been perfectly cleared up until now. The system of Samkhya-philosophy as one of the Indian philosophies should not be approached, says our writer, simply as a heretical philosophy according to the considerations given to the other world philosophies. This philosophy has hitherto been taken as representing dualism, atheism, realism, etc. But such a characterization is not fair and comprehensive, says Prof. Yamaguchi, as it is too sweeping a generalization. As a matter of fact, the Samkhya-philosophy made an attempt after its own manner to give a solution to the common problems of karma, samsara and moksa that commonly pertained to all the other classical Indian philosophies. We must therefore endeavour to clarify the fundamental principles of the Samkhya-philosophy by trying to study it as a composite whole without any prejudice. Prof. Yamaguchi has here ventured a new interpretation of the Samkhya-karika through a textual criticism of it and asserts that the system of Samkhya-philosophy embodies statement, definitions and exposition of the three fundamental principles which are respectively known as vyakta (mahadadi), avyakta (prakriti or pradhana) and purusa (jna). In the present article accordingly Prof. Yamaguchi treats of his subject under the following headings: I. Introduction. II. The System of the Samkhya-philosophy and its Logic (pramana). III. Exposition of vyakta, avyakta and purusa. IV. Conclusion.
著者
小野 美知子
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

研究期間内に実施した、ヘンリー・ソローの教育哲学に関する研究及びその成果として挙げることができるのは、子供の頃にソローが経営する学校の生徒でもあった、ルイザ・メイ・オルコットのソロー観、他の哲学者たちとの比較においてソローの自由と教育に関する見解を論じた"Thoreau and Freedom"、「成長」との関連における四季の循環の意義についての論文の三編、および2013年に音羽書房鶴見書店から出版された、ソローの教育哲学と自然観察に関する著書、Henry D. Thoreau: His Educational Philosophy and Observation of Natureである。
著者
所 木綿子
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は19世紀北アフリカのアルジェリアにおいて、フランス植民地軍に対する武装闘争であるジハードを指導し、思想探求者としても知られる、アミール・アブドゥルカーディル・ジャザーイリー(Amīr 'Abd al-Qādir al-Jază' irī, 1807-1883、以下アブドゥルカーディル)の思想について、彼の準拠していた国際法としての側面を以下の点から明らかにすることを目的とした。①異教徒との対立、調停におけるイスラーム法の役割、イスラームにおいて言及されてきた社会秩序について、政治哲学、国家思想の側面からアブドゥルカーディルの思想における法の役割について②彼の著作で述べられているイスラーム法と関連する概念について他のイスラーム学者との見解の共通点と差異について分析することで、彼の思想の位置づけについて。①1844年隣国モロッコがフランスとの戦争に敗北した結果を受け、アブドゥルカーディルに対するモロッコの態度が援助から敵対に転じた事例、イスラーム国家と非イスラーム国家との間に締結された和平の是非に焦点を当てて検討を行った。このときアブドゥルカーディルは自らのジハードの遂行を妨げる、和平の是非について、エジプトの法学者ムハンマド・イライシュに法的判断を仰いだ。それによるとモロッコが住民の安全上必要不可欠であるとして和平を締結したことは、受け入れざるを得ないものであった。したがってアブドゥルカーディルの法的判断とは、ジハードの必要性を最大限主張し、その指導者である自らの立場をも主張したといえ、戦闘の劣勢によりジハードより和平が優先される事態を食い止めきれるものではなかったといえる。②アブドゥルカーディルの主張は、伝統的なイスラームのマーリキー学派、シャアフィイー学派の見解に依拠し、とくに北アフリカの法学者によって多く参照され、スペインの「国土回復運動」の渦中にあった15世紀の法学者、ワンシャリースィーの議論を土台としていることが今回注目された。彼の議論のイスラームと異教徒との関係をアブドゥルカーディルがどのように再考してきたのか、彼に至る思想の歴史の実態とはどのようであったのか今後も検討していきたい。