著者
鍔田 武志 RAJEWSKY Kla LEDERMAN Set CLARK Edward 近藤 滋 上阪 等 仲野 徹
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

我々は、濾胞性樹状細胞(FDC)やTリンパ球によるBリンパ球のプログラム死や分化の制御、とりわけ細胞間接触による制御の機構について検索を行った。活性化T細胞とB細胞が接触した際には、活性化T細胞上のCD40L分子がB細胞上のCD40分子と反応する。CD40を介するシグナルがB細胞の活性化や増殖、分化の際に重要な役割を果すことが示されていた。また、FDCがB細胞の生存や分化に何らかの役割を果たすことも示唆されていた。そこで、我々は、細胞株を用いて、T細胞やFDCとB細胞との反応を解析できる細胞系の確立を試みた。まず、我々は、T細胞株JarkatのCD40L陽性の変異株D1.1や可溶化CD40L分子、抗CD40抗体はいずれも、CD40を介してシグナルを伝達し、B細胞株の抗原レセプター架橋によるアポトーシス(プログラム死)を阻害することを明らかにした。また、これらCD40を介するシグナルはIL-4やTGF-βの存在下で、B細胞株CH12.LVのIgMからIgAへのクラススイッチを著明に誘導することを示し、さらに我々は、これらの刺激により非常に効率よくクラススイッチをおこすCH12.LVのサブクローンF3を得た。また、株化FDCと種々の株化B細胞を共培養し、FDCによるB細胞のプログラム死や分化の制御を検索したところ、B細胞株WEHI-231の抗原レセプター架橋によるアポトーシス(プログラム死)がFDCとの共培養により阻害されることを明らかにした。次に、以上の細胞系を用いて、FDCやT細胞によるB細胞のアポトーシスやクラススイッチの制御機構を解析した。まず、FDCによるWEHI-231のアポトーシス阻害の際には、FDCはCD40のリガンドを発現せず、また、LFA-1,ICAM-1,VCAM-1などの抗体ではFDCの作用を阻害できないので、CD40やこれらの接着分子を介さない経路によりWEHI-231のアポトーシスを阻害することが明らかとなった。また、WEHI-231ではCD40シグナルによりbcl-2やbcl-xといったアポトーシス阻害分子の発現が誘導されるが、FDCにはこのような作用はなく、CD40とは異なった機構でアポトーシスを阻害することが強く示唆された。FDCによるB細胞アポトーシス阻害に関与する分子を同定する目的で、WEHI-231やFDCに対するモノクローナル抗体を作成したが、B細胞アポトーシスの制御に関与する分子は同定できなかった。また我々は、CD40シグナルによるB細胞アポトーシス阻害の機構をWEHI-231を用いて検索した。まず、WEHI-231細胞においてCD40シグナルによりその発現が変化する遺伝子をdifferential displayにより同定することを試みた。しかしながら、differential displayの方法上の制約などのため、発現が大きく変化する遺伝子を同定することはできなかった。一方、我々は、WEHI-231の細胞周期回転の制御機構の研究から、CD40シグナルが細胞周期阻害分子p27^<Kip1>の発現を著明に阻害することを明らかにしていたが、p27^<Kip1>のアンチセンスオリゴによりp27^<Kip1>の発現を低下させると、WEHI-231の抗原レセプター架橋によるアポトーシスが阻害されることを明らかにし、p27^<Kip1>がCD40シグナルによるB細胞アポトーシスの制御で重要な標的分子であることを示した。また我々は、F3細胞を用いてCD40シグナルによるクラススイッチ誘導機構の解析を行った。まず、組み換えが起こる免疫グロブリンC領域の胚型転写とそのメチル化について検索したところ、脱メチル化の度合いとスイッチ組換えの起きる比率がきわめてよく相関していたが、胚型転写はスイッチとは相関しなかった。したがって、胚型転写は組換えとはあまり関係がなく、メチル化が組み換えの分子機構に何らかの関係があることが示唆された。さらに、CD40シグナルによる免疫グロブリンクラススイッチに関与する分子を同定する目的で、CD40Lなどで処理したF3細胞由来のcDNAと無処理のF3細胞のmRNAの間でサブトラクション法を行い、CD40Lなどの刺激で誘導される遺伝子を2つ単離した。現在、この遺伝子がクラススイッチに本当に関与しているか解析中である。
著者
松田 文彦 リットマン ギャリー 近藤 滋 LITMAN Gary
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

ヒト免疫グロブリンH鎖遺伝子領域の物理地図を作成し全塩基配列を決定することを最終目標に領域の単離、解析を酵母人工染色体(YAC)を用いて試み、約1Mbの領域の全体を単離し詳細な物理地図を作成し、この領域の全貌を明らかにすることに成功した。さらに、得られた物理地図の情報をもとに、全領域の全塩基配列の決定を試み、現在までに2箇所のギャップ(約10kb)を除き、J_H遺伝子群から14qテロメアまでの約1Mbの領域の塩基配列決定に成功し、以下の結果を得た。1)V_H断片の総数得られた塩基配列を用いてコンピューターによる相同性検索を行った結果、V_H断片の総数は82個であることが明らかになった。またこのうち半数以上の42個が何らかの原因で機能を失った偽遺伝子であった。2)V_H断片のpolarityV_HのJ_H断片に対する相対的転写方向はすべてJ_Hに対して順向きで、逆位は存在しないことが明らかになった。3)反復配列の同定領域中に分布するヒトの高頻度反復配列Alu及びL1反復配列の同定を行った。その結果、105個のAlu配列と25個のL1配列が見い出された。それぞれの反復配列の頻度はゲノム全体の平均とはそれほど大きく異なっておらず、またその分布に関しても特定の傾向は見い出されなかった。4)D遺伝子群の構造ヒトD遺伝子群はD_M、D_<LR>、D_<XP>、D_A、D_K、D_Nの6つのファミリーのD断片で構成され、V6-1とJH断片群の間の領域にこれら6つの断片が組になって4回重複したかたちで存在していることが推測されている。塩基配列の詳細な解析より今回合計25個のD断片を同定した。
著者
本庶 佑 近藤 滋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

in vitroの培養細胞株CH12F3細胞は試験管内でIL-4、TGFβ、CD40Lを加えることによって50%以上の細胞がIgMからIgAにクラススイッチすることを明らかにし、この細胞のクラススイッチによってSμ-Sa組み換えが起こり遺伝子の欠失が起こることを証明した。さらにこの細胞の遺伝子組み換えの部位頻度分布を詳細に検討したところ遺伝子組み換え点はS領域を中心に前後に広く広がっていること、またI領域内には極めて低頻度でしか組み換えが起こらないことを明らかにした。この結果は、S領域の役割が組み換えの引き金としての役割と実際に切断、つなぎ戻しを行われる場であるのと二つの可能性の内、前者の可能性を強く示唆するものである。ついでCH12F3細胞に人工的に作製したSμとSαをもつプラスミドを導入し、染色体外で遺伝子組み換えの発現誘導を試み、低頻度ではあるが実際にクラススイッチ組み換えが行われることを確認した。現在これをさらに高頻度の組み換えが起こるようにプラスミドを改変中である。新しいクラススイッチ制御遺伝子を単離するためにクラススイッチ刺激を加えたものと加えないものとの間でsubtraction hybridization法を行った。このために酵素分解を加味した新しいsubtraction法を確立し、特異的に誘導される2種類の遺伝子を単離し現在この意義を解析中である。また先天的にリンパ節及びジャーミナルセンターの形成不能マウスaly/alyマウスの病態を解析し、このネズミにおいてはクラススイッチが極めて起こりにくいことを明らかにした。すなわちクラススイッチが起こるためにはジャーミナルセンターにおけるT、B細胞の協調的制御が必要であることを明らかにした。
著者
近藤 滋
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

免疫グロブリン遺伝子のスイッチ組み換えを制御する分子機構を解明するため、我々の研究室で樹立した高頻度SS組み換えB細胞株(CH12. F3)を用い、まず組み換えに必要な遺伝子配列の詳細な同定を進めている。当初はV領域とCm, Ca領域の全体を細胞に導入して解析を行っていたが、それだと導入するDNAが長すぎ、DNAの制作、細胞への導入に時間がかかることがわかったため、特に重要と考えられる部分だけをつないだミニコンストラクトを使うやり方に変更し、現在種々の変異ミニコンストラクトを制作中である。それと平行して、変異を導入すべき配列の目星をつけるためS配列の上流で、SS組み替えが誘導されたときにどのような変化が起きるかを詳細に解析し、ふたつの重要な発見をした。(International Immunology, 1996, vol8に掲載)種々の実験系でgermline transcriptの量と組み替えの率の間に相関関係が認められており、germline transcriptの重要性が指摘されている。しかし我々の系では、IL-4はgermline transcriptを減らすのに、組み替えは誘導することがわかった。この発見は、germline transcriptの役割を考える上で今後重要な要素になると考えられる。第2は、リガンドの刺激により、I領域に一過性にメチレーションが入ることの発見である。CH12F3のIa領域は、刺激以前より脱メチル化されており、このことが組み替え先がIgAに定まっている理由と考えられる。しかし、組み替えを誘導する刺激により、一過性にメチレーションが入るという事実は報告された例がなく、きわめて興味深い。おそらく組み替えの分子機構に直接に関係した現象と考え、現在解析を進めている。
著者
近藤 滋 COHN Melvin 本庶 佑
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

複雑な生命現象を分子レベルで解析する場合、in vitroのシステムを確立することが重要である。クラススイッチを起こす細胞株はいくつか報告されているが、いずれもその効率はかなり低く、詳しい分子的解析には不向きであった。そこで我々は、高い効率で、安定してクラススイッチを起こす細胞を得る目的で、CH12.LX細胞に繰り返しシングルセルアイソレーションを行った結果、従来の約10倍の効率でクラススイッチを安定して誘導できる極めて優れた実験系を開発することができた。従来、ミエローマ等をつかって組み替え部位の解析が行われていたが、その場合、二次的な組み替えが関与している可能性があったため、正確な部位の特定ができているとは言い難かった。組み替え部位の特定は分子機構を探る上で再重要な情報である。CH12細胞をつかって組み替え部位の解析を行えば、組み替えの誘導から短時間でDNAの解析が行えるため、正確な(2次的組み替えの可能性のない)情報が収集できる。この考えに基づき、組み替え部位のDNAを200以上単離した。その結果、以下の意外な事実が判明した。1)遺伝子の組み替えは、従来考えられていたS領域以外の周辺領域でも、かなり活発におこっている。2)組み替えの起きる位置の上流の上限はgermline transcriptのスプライシング部位あたりであった。この2つの情報は従来のモデルの妥当性に関し、強く疑問を投げかけるとともに、新しいモデル構築の基礎となる可能性が大きい。
著者
近藤 滋
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

結果 ゼブラフィッシュにおいてもタテジマキンチャクダイで観察されたものと同様な、成長に伴う模様の変化を観察した。ゼブラフィッシュの体表に分布するメラノサイト移動を経時的に観察することにより、(1)メラノサイトの移動は、ごく初期にのみおき、実際に模様形成がおきるときには移動しない。模様の形成は個々のメラノサイトの濃淡の変化でできる。(2)これは他の魚類でも同じであり、模様形成メカニズムに一般性があることが解った。次にクローニングのターゲットとして今のところ最有力なのはleo遺伝子であるが、これが実際に反応拡散波形成の中核に位置する分子をコードしていることを以下のようにして確認した.leo locusの対立遺伝子 wild,t1,tw28,tq270は、ホモの個体を作ると4通りの模様ができるが、それらはいずれも反応拡散方程式の1つのパラメーターを連続的に変化させることにより、作り出すことができる。2つのホモの個体のパラメーターの中間の値をとったときに計算される模様と、実際のヘテロの個体の模様が一致すれば、この遺伝子が「反応拡散波に影響している」という極めて強い証拠になるが、今までのところ、かなり予測と近い結果を得ている。また、別の突然変異で、ストライプの幅が変化するもの(td15,td271d)との二重変異個体についても、ほぼ計算予測と近い結果を得ている。結論 leo遺伝子は反応拡散波を作る因子に直接関与する遺伝子(おそらくアクチベーターの合成をコントロール)で有ることはほぼ間違いと思われる.この結果は98年分子生物学会のワークショップにて発表済みであり、現在論文を準備中です。
著者
近藤 滋
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

目的 動物の形態形成が正確に起きるためには、個々の細胞が胚における自らの位置を正確に知り、分化することが必要である。1952年にチューリングは、「胚の中で化学反応の波(反応拡散波)が発生し、それが正確な形態形成のための位置情報となる。」と提唱した。40年以上のあいだ実例は発見されず、反応拡散波の存在に関しては否定的な意見が強かったが、近藤は、タテジマキンチャクダイの皮膚模様の変化が反応拡散波の理論と一致することを発見し、チューリング理論の実証の可能性を開いた。本研究では「反応拡散波」の分子的実体を迫ることを目的とした。結果 まず、この現象がどの程度の普遍性を持っているかを知るため、タテジマキンチャクダイで観察されたのと同様の模様変化が魚類や他の脊椎動物でも観察できるかを調べた。その結果、模様変化を起こすほとんど全ての脊椎動物で計算機シミュレーションと一致する変化が観察され、全ての皮膚模様は同一のメカニズムで作られている事が強く示唆された。次に、反応拡散波のメカニズムに遺伝的にアプローチする目的で、異なった体表模様をもつゼブラフィッシュのミュータント同士を掛け合わせ、様々なハイブリッドの模様を得た。特にひとつの遺伝子(leopard)に関して、アレル間の模様の違いやハイブリッドの模様が、計算機を使った予測と一致することがわかり、この遺伝子が反応拡散波形成のキーになっていることが強く示唆された。現在クローニングを検討中である。また、最近ではあるが、いくつかの薬剤により表皮模様のサイズをコントロールできることを発見した。それらの薬剤で起きる皮膚の変化を解析することにより、反応拡散波の分子機構に直接迫ることが可能かも知れない。
著者
近藤 滋
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

分節パターンを決定するメカニズムを解明する目的で、以下の2つの研究を行った1)ニワトリ胚の分節現象が反応拡散波の性質を有することを示す実験反応拡散系の特徴として、外科的なかく乱に対して修正作用を持つことがあげられる。体節形成に反応拡散の原理が働いているのであれば、胚を変形させても同じ大きさの体節を作れるはずであり、そのような現象が起きれば、他のモデル(clock and wavefront model)と区別をつけることができる。体節形成期のニワトリ胚をピンセットで物理的に伸張させ、細長い中はいようにしたところ、伸張度合いにかかわらず同じ大きさの体節ができることを確認した。これは、体節形成に反応拡散の原理が働いていることの傍証である。2)ゼブラフィッシュの模様形成遺伝子の探索ゼブラフィッシュの皮膚模様も自発的に成立する等間隔パターンである。同じ分子メカニズムが働いている可能性があると考え、模様形成遺伝子のクローニングを行った。これまでに、模様形成に関係する2つの遺伝子のポジショナルクローニングに成功している。Obelix変異は、縞の幅が広くなる変異を示す。原因遺伝子はKir7.1というKチャンネル分子であった。この遺伝子は色素細胞でのみ発現しており、また、変異体の遺伝子はKの透過性を失っていることがわかった。縞が斑点に変わる変異遺伝子レオパードのクローニングも行ったが、これはGAP JUNCTION関連の遺伝子をコードしていた。現在これら2つの遺伝子の変異がどのような機構で模様を替えているのか計算機によるモデル化を行っている。
著者
小原 雄治 近藤 滋
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

1)モデル多細胞生物発生の遺伝子システムの全体像解明と計算機モデル化・EST配列12万本からエキソン・イントロン構造を確定した12000遺伝子についてwhole mount in situハイブリダイゼーションによる発現パターン解析をおこないクラスタリング解析により共通制御候補遺伝子群を同定した。NEXTDB<http://nematode.lab.nig.ac.jp>で公開し、これをもとにした共同研究を世界中で進めた。・glp-1母性mRNAの翻訳制御メカニズムについて、gld-1,pos-1、spn-4などの複数遺伝子の組み合わせとポリA鎖の伸長によるfine tuningの機構を解析した。・初期発生の細胞配置パターンがC.elegansとは異なる近縁線虫Diploscapter sp.についてcDNAライブラリーを構築し、EST約7万本から約10,000種に分類でき、約5,800種についてC.elegans, C.briggsaeとのオルソログが見出された。初期発生に重要な遺伝子をそろえるために、薄い(1X)ホールゲノムショットガンシーケンシングをおこない、追加約1,000のホモログを得た。発現パターンについてC.elegansとの比較を進めている。・細胞の形状を力学モデルによって構成した胚発生シミュレータ(原腸陥入期の26細胞期まで)を構築し、中心体の動きなどをより正確に再現するような条件を求めた。2)生物発生のコンピュータシミュレーション・模様形成遺伝子のひとつレオパードをクローン化した。
著者
近藤 滋
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

魚類には、皮膚にストライプ模様を持つものが多い。ストライプの形成原理に関しては、その成長に伴う変化から、反応拡散モデルが適用できることが解っている。しかし、その分子、遺伝子レベルの解明は未だなされていない。ストライプ発生のメカニズムを考えるとき、その波が発生する場についての情報が必須であることはもちろんであるが、魚の皮膚に関しては、その皮膚構造と模様との関係は明らかになっていなかった。そのため、本年度は光学、電子顕微鏡を使い、皮膚の微細構造が模様とどのようなかかわりがあるかについて検討することを目的とした。研究対象としては、今年からはプレコストムスに加え、zebrafish, Genicanthus類のキンチャクダイを用いた。顕微鏡による詳細な観察の結果、皮膚内の微細構造は普段外から見ている模様の部域差以上に複雑であることがわかった。特に、インターストライプの領域が3つに分かれていることが判明し、目に見えるメラノフォアの分布以上に複雑な構成になっていることが解った。さらに、皮膚内のそれぞれの層に存在する細胞群の同定を行った結果、多くの場合メラノサイトよりも、iridophoa(銀色の反射板を持つ細胞種)が構造の細かい部域差を見せていた。今後、模様形成に関与する細胞の候補として注目すべきである。また皮膚内に存在する鱗の基部が縞模様の方向性に関与することが明らかとなった。
著者
近藤 滋 川上 浩一 渡邉 正勝 宮澤 清太
出版者
大阪大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2004

ゼブラフィッシュの皮膚模様形成機構に関して、以下の結果を得た。1)色素細胞間の相互作用のネットワークを明らかにした。2)上のネットワークを組み込んだ計算機シミュレーションが、模様形成の過程を正確に再現した。3)模様変異突然変異2種の遺伝子クローニングした。4)クローニングされた遺伝子は、Kチャンネルとギャップジャンクションであった。5)クローニングされた遺伝子、または改変した遺伝子を導入することで、模様がさまざまに変化することを発見した。6)5の事実から、模様形成のためのシグナル伝達には、イオンや低分子が重要な役割を果たしていることが明らかになった。以上により、ゼブラフィッシュの皮膚模様形成に関して、多くの事実が発見され、模様形成原理の解明に大きく近づくことができた。
著者
近藤 滋 渡邉 正勝
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

動物における自律的なパターン形成の基本原理がTuring波であるとの仮説を検証するため、ゼブラフィッシュの模様形成機構を分子レベルで解析した。その結果(1)ゼブラフィッシュの模様は、Turing波と一致する動的な性質を持つこと、(2)色素細胞間の相互作用がTuring波形成の条件を満たすこと、(3)Turing波形成にかかわる分子が、ギャップジャンクション、Notch-Delta, Kirチャンネルであることを突き止めた。目標の90%は達成されており、Turing波形成の完全解明も、目前に迫ったといえる。
著者
近藤 滋 船山 典子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、「細胞の積み上げでなく、剛性の高い材料の組み立てで形ができる」という新しい概念を形態形成学の分野に確立することを目的とする。カワカイメンと魚のヒレ骨形成は、それを示唆する最初の、そして極めて典型的な例である。いずれの実験系でも、それぞれの役割を果たす細胞が、どのように建築資材(骨片・AC)と相互作用するのか、を明らかにすることが目的である。棒状構造の動態を記録できる3Dイメージングの装置と、細胞との物理的な相互作用を計算するシミュレータにより、細胞による体の「建築」原理を解明したい。
著者
近藤 滋
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

インビボ、インビトロの2つの系を使い、動物の模様を人為的に操作(改変)する技術の開発を目指した。インビボ系においては、 CX418遺伝子を変異させてゼブラフィッシュに導入することで、ほぼすべての種類の模様を作ることに成功した。インビトロ系に関しても、培養皿の上で、色素パターンを作るのに重要な細胞間の相互作用を再現することが可能になった。以上に寄り、おおむねこのプロジェクトは成功したと言える
著者
近藤 滋
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

以下の新しい知見が得られた。●アドレナリン受容体阻害剤の骨に関する影響に関して1.ゼブラフィッシュでは骨が小さいため、薬剤の影響を細かく調べることができないので、エンゼルフィッシュを使い、特に頭部の骨の形成を調べた。その結果、アドレナリン阻害剤の効果で、頭部の骨が全般的に薄くなっていることが解った。このことは、破骨細胞の活性が亢進していることを示している。2.骨芽細胞特異的に発現するプロモーターでGFPを発現させて、骨芽細胞の分布を調べた。その結果、骨芽細胞の量、分布にはアドレナリン阻害剤は影響しないらしいことが解った。3.トラップ染色により、脊椎周辺での破骨細胞の分布を調べた。その結果、予想通り、破骨細胞の分布に異常が見られた。しかし、その一方で、破骨細胞総量に関しては大きな変化は見られず、そのあたりは頭部骨とのデータが一致していない。●脊椎骨の変形をおこすstp変異のクローニング1.Stp変異(優勢の変異、enuで作られたため、ポイント変異と思われる)とクローニング用の株を交雑して、ポジショナルクローニング法による変異部位の特定を行った。2.22番染色体の一部に、stp変異を持つ個体由来のpcrbandが高い確率(86/88)で出る事が解り、おおよその遺伝子の位置が判明した。3.その領域は染色体の末端にあたるため、候補となる遺伝子は比較的少ない。4.その領域には別の骨形成変異を持つ突然変異の遺伝子(既にクローニング済み)が含まれている。5.Stpの染色体から、その遺伝子をクローニングし、配列を調べた結果、アミノ酸の置換があることが解った。6.今後、さらにF2の個体についてマーカーをスクリーニングすることで領域を絞るとともに、発見された変異遺伝子を含むプラスミドによるトランスジェニックの作成により、変異遺伝子の特定を目指す。
著者
岡本 美里
出版者
沖縄科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

中南米を原産地とし、現在世界中に分布を拡大しているコカミアリWasmannia auropunctataは特殊な繁殖様式が発見されており、雌(新女王)と雄が、それぞれ母親と父親のゲノムのみを受け継いで生産される。本種の女王は未交尾では産卵をせず、自身のゲノムのみを受け継いだ雌卵であっても生産しない。本研究では、幼若ホルモン類似体のメトプレンを処女女王に経皮投与し、強制的に未受精卵生産を促した。その結果、産卵開始後まもなく、コロニー内のワーカーによる処女女王への攻撃が観察された。実験では様々な条件下で処女女王にメトプレンを投与し、ワーカーが産卵を開始した処女女王だけを特異的に攻撃することを明らかにした。本種のワーカーは両親のゲノムを受け継いで有性的に生産される。2011年から今年にかけてワーカーの遺伝子発現量を解析した結果によると、父系遺伝子の方が母系遺伝子よりも強く発現していることが明らかになった。このことから、産卵を開始した処女女王に対するワーカーの攻撃性は、父系・母系遺伝子の間にみられる発現量の偏りに起因しているのではないかと考えられる。今後は、ワーカーの遺伝子発現を強制的に変化させ、産卵を行う処女女王に対する攻撃性の変化の有無を確かめる。これらの結果は、雄遺伝子による利己性が、ワーカー個体の行動に影響を与えることを示唆しており、社会性昆虫の行動に影響する血縁度以外の要因として、今後注目されると考えられる。また、本来は単為生殖でしか雌を生産しないと思われていたが、幼若ホルモン類自体により、遺伝的にはワーカーに発生する個体が女王として発生することを明らかにした。これらの結果は、カースト決定に影響する遺伝子の発現解析を行う上で、大きく役に立つと考えられる。今後は、実験的に誘導された個体のトランスクリプトーム解析を行い、コカミアリにおける、性・カースト決定に関わる遺伝子の探索を行う。
著者
山本 康子 斉藤 邦明
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

インドールアミン酸素添加酵素2 (Indoleamine 2,3-dioxygenase 2;IDO2) は、トリプトファンをキヌレニンに代謝する酵素である。本研究ではIDO2の生理的機能を解析し、IDO2発現が腫瘍形成に及ぼす影響について明らかにする事を目的とした。IDO2のトリプトファン代謝能を検討するため、IDO2強発現細胞を作製したところ、キヌレニン量の増加が認められた。またマウス肺癌細胞を用いた担癌マウスモデルにおいて、野生型に比べIDO2 KOマウスでは、腫瘍体積の縮小およびサイトカインの分泌増強が認められた。本研究によりIDO2発現の抑制は、抗腫瘍効果を有する事が明らかとなった。
著者
石原(安田) 千晶
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は、ヤドカリのオスが 1. メスをめぐるオス間闘争、あるいは 2. 強度の低い小競り合いのような通常の相互作用から優劣を構築し、劣位個体がそれに基づいた個体識別を確立して、同一の優位個体と再遭遇した際に闘争を避けるか、また、そのようにして確立した劣位個体の個体識別が、再遭遇時に優位個体の状況が変化することで、より速やかに破棄されるかを検証するものである。本年は、主たる対象種であるユビナガホンヤドカリにおいて、前年度からの実験・解析を進め、以下3編の成果発表に至った。まず、野外の交尾前ガードペアを用いたメスをめぐるオス間闘争において、オスの大鋏脚の重要性と挑戦者が闘争前・闘争中に行う評価戦術を明らかにした研究が、研究代表者を筆頭著者として国際誌に掲載された。また、共同研究として、本種の一腹卵数と卵径が繁殖期を通じて経月変化すること、並びに大鋏脚サイズの性的二型が年間の繁殖スケジュールと対応してその強度を変化させることを実証し、研究代表者を対応・筆頭著者として国内誌と国際誌に発表した。これらに加えて、本種のオスが、オス間闘争での優劣を介して、過去の闘争相手を個体識別していることを明らかにした。すなわち、観察対象の劣位オスは、過去の闘争で自らが敗北した優位オスと遭遇した場合に、そうではない優位オスと遭遇した場合と比較して、闘争を仕掛ける頻度が大幅に低下した。本成果も国内学会にて発表されている。
著者
加藤 淳子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

再分配における平等の問題は、福祉国家研究のみならず、哲学や思想などでも重要課題である一方で、その背後にある動機付けや心理過程については、直接のデータをもって分析されることはなかった。本研究は、福祉国家の所得階層構造(高中低所得層)を踏まえ実際の再分配の問題を考えるため、仮想社会における再分配ルール決定の際の参加者の脳の活動をfMRIで計測することで、平等をめぐる心理過程の解明した論文を自然科学英文専門誌に掲載し、社会科学の分野から複合分野である脳神経科学へ参入に成功した。また、脳神経科学実験を行う際に、政治学の行動分析の知見がどのように役に立つか方法論的考察も行い社会科学専門誌にも寄稿した。
著者
横田 明美
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、実世界とサイバー空間との相互連関が進み、データの利活用が現実世界を実際に動かしていく「データ駆動社会」が進展していくことを前提に、行政法学における情報の取扱いを横断的・総論的に捉え直す試みである。行政機関における情報加工過程(収集・形成・利用・ 公表)全体について、① 全ての参照領域・個別法領域を包含した総論的な視点における、行政における情報取扱いについてのルール(概念や法の一般原則に相当する原理)は何か、そして②データ駆動社会で生起するリスクに対応するために必要な視点は何かを考察する。