著者
長嶺 宏作
雑誌
帝京科学大学教職指導研究 : 帝京科学大学教職センター紀要 = Bulletin of Center for Teacher Development, Teikyo University of Science (ISSN:24241253)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-8, 2016-10-31

本稿ではロビンソン物と呼ばれる児童文学に焦点をあてながら, 近代的な主体としての子どもが, どのように描かれてきたのかを明らかにしたい. ルソーが, 『エミール』の中で成人の理想像としてロビンソンを見たように, ロビンソンは子どもにとって目指される人間像の一つでもあった. ルソー以降, ロビンソン物は, 主人公を子どもに変えて, 子どもの物語として再生産され,どんな状況においても理性的な行動をしえる「自然人」, あるいは近代的な主体の物語となった.そこでバランタインの『珊瑚島』, スティーブンスの『宝島』, ヴェルヌの『十五少年漂流記』, ゴールディングの『蠅の王』の4 つの作品を取り上げ, 「自然」の子どもの変遷を明らかにする. 4つの作品の子ども像を考察したうえで, 自明視されなくなった現代の子ども像・人間像が, どのように再び語られうるのかについて考察する.
著者
三浦 正幸
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.85-108, 2008-12-25

寺院の仏堂に比べて、神社本殿は規模が小さく、内部を使用することも多くない。しかし、本殿の平面形式や外観の意匠はかえって多種多様であって、それが神社本殿の特色の一つと言える。建築史の分野ではその多様な形式を分類し、その起源が論じられてきた。その一方で、文化財に指定されている本殿の規模形式の表記は、寺院建築と同様に屋根形式の差異による機械的分類を主体として、それに神社特有の一部の本殿形式を混入したもので、不統一であるし、不適切でもある。本論文では、現行の形式分類を再考し、その一部を、とくに両流造について是正することを提案した。本殿形式の起源については、稲垣榮三によって、土台をもつ本殿・心御柱をもつ本殿・二室からなる本殿に分類されており、学際的に広い支持を受けている。しかし、土台をもつ春日造と流造が神輿のように移動する仮設の本殿から常設の本殿へ変化したものとすること、心御柱をもつ点で神明造と大社造とを同系統に扱うことを認めることができず、それについて批判を行った。土台は小規模建築の安定のために必要な構造部材であり、その成立は仮設の本殿の時期を経ず、神明造と同系統の常設本殿として創始されたものとした。また、神明造も大社造も仏教建築の影響を受けて、それに対抗するものとして創始されたという稲垣の意見を踏まえ、七世紀後半において神明造を朝廷による創始、大社造を在地首長による創始とした。また、「常在する神の専有空間をもつ建築」を本殿の定義とし、神明造はその内部全域が神の専有空間であること、大社造はその内部に安置された内殿のみが神の専有空間であることから、両者を全く別の系統のものとし、後者は祭殿を祖型とする可能性があることなどを示した。入母屋造本殿は神体山を崇敬した拝殿から転化したものとする太田博太郎の説にも批判を加え、平安時代後期における諸国一宮など特に有力な神社において成立した、他社を圧倒する大型の本殿で、調献された多くの神宝を収める神庫を神の専有空間に付加したものとした。そして、本殿形式の分類や起源を論じる際には、神の専有空間と人の参入する空間との関わりに注目する必要があると結論づけた。
著者
伊東 啓 柿嶋 聡 上原 隆司 守田 智 小山 卓也 曽田 貞滋 John Cooley 吉村 仁
雑誌
第78回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, no.1, pp.577-578, 2016-03-10

北米には、13年もしくは17年に一度、大量発生するセミが生息している。このセミはその発生周期から周期ゼミ・素数ゼミと呼ばれており、なぜ素数周期で大発生するセミが誕生したのかは未だに大きな謎である。これまでの研究から、様々な周期が混在したときに、交雑の観点から素数周期だけが生き残ることが数値計算によって導かれていたが、その前段階である周期性そのものの進化は再現されていなかった。我々は、個体ベースのシミュレーションモデルを構築し、氷河期(平均気温の低下)という環境下でセミの周期性が進化する様子を再現することに成功した。これにより、氷河期による成長スピードの低下という危機的状況が周期性進化に大きく関係していることが示唆された。本結果は、環境変動によって進化が引き起こされることを明確に示したものである。
著者
隅田 陽介
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.129-162, 2017-06-30

本稿は,前号に引き続いて,近時,アメリカ合衆国で議論されている,児童に対する性的いたずらに関する証拠のみで児童ポルノ所持に関する捜索令状の「相当な理由」を構成するのかどうかについて検討したものの後半部分である。 本号では,まず,三において,児童に対する性的いたずらと児童ポルノ所持との関係に関する調査研究等に触れた。例えば,Andres E. Hernandezが,ノースカロライナ州Butnerの連邦矯正施設に収容されている90人の男子受刑者を対象として行った調査等である。こうした調査研究については,それぞれについて調査対象者が限定されているといった問題点が指摘されていることに注意する必要があるが,両者の間には関係があるとするものもあれば,逆に,関係はないとするものもあるなど,結論は一致していない,そして,各調査研究に対する評価の仕方も区々となっていることを指摘した。 最後に,四において,若干の検討を行い,現在の合衆国の捜査実務がIllinois v. Gatesに基づいた「諸事情の総合判断(totality of the circumstances)」テストによっているのであれば,これを前提とする限り,第8巡回区連邦控訴裁判所によるUnited States v. Colbertのように,児童に対する性的いたずらに関する証拠が児童ポルノ捜索のための「相当な理由」に該当すると評価することも許されるのではないかということを結論とした。その上で,このように賛否の分かれる問題については様々な角度から検討しておくことが望ましいと考えられることから,例えば,児童ポルノのような児童に対する性的搾取事案に限定して「緩和された相当な理由(expanded probable cause)」, あるいは,「拡大された相当な理由(broadened probable cause)」といった基準を適用すべきであるというような考え方があることにも触れた。
著者
喜多 敏博 長岡 千香子 平岡 斉士 松居 辰則
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:21888930)
巻号頁・発行日
vol.2021-CE-162, no.10, pp.1-4, 2021-11-27

多様な事故が世界中で起きている現状において,安全教育を行うことが事故防止の非常に有効な手段となる.「子どもの傷害予防」や「環境安全工学」等の分野における安全教育の事例を踏まえ,効果的な事故防止教育を行うためのプラットフォームとして,高度化された UI や機能により学習者に効果的・能動的に作用することができる「能動的 LMS」を開発した.能動的 LMS が持つ「能動的機能」は,LMS 側から学習者へ積極的に働きかける機能であり,次の 3 つの機能:(1) 音声 UI での働きかけ (スマートスピーカーやスマートフォンで,音声や音響によるやり取りを交わすことで学習を促す) (2) LINE チャットボットでの働きかけ (日常使いのツールである LINE で手軽に問い合わせが可能であり,ボットからのプッシュ型の情報共有も行うことで,行動変容を促進できる) (3) ユーザの心的状態も考慮したアナリティクス (ユーザの状態や行動を予測し,その結果に基づいて,手遅れになる前に LMS から働きかける) からなる.これらの「能動的機能」を Moodle の追加パッケージ (Web service API による連携システムとプラグイン)として実装し,Moodle が「能動的 LMS」として機能できるようにした.
著者
鶴見 昌代 宮城 愛美 新美 知枝子
雑誌
研究報告アクセシビリティ(AAC) (ISSN:24322431)
巻号頁・発行日
vol.2020-AAC-13, no.5, pp.1-8, 2020-08-21

音声アシスタント搭載デバイスであるスマートスピーカーは,視覚情報の不足を音声情報によって補うことが多い視覚障害者にとって,意義深いデバイスであると考えられる.スマートスピーカーを利用する上で,視覚障害者にとって重要なことや困難なことを明らかにし,利便性を高めることを目標とし,スマートスピーカーおよびスマートホームデバイスに関して,視覚障害者を対象にアンケート調査を行った.結果として 113 名の回答を得たので,調査結果の一部を紹介する.
著者
山内 正博
出版者
東洋文庫
雑誌
東洋学報 = The Toyo Gakuho
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.292-323, 1955-12

At the time when the Southern Sung dynasty was founded, the government was faced with the defense against the invasion of the Chin army from outside and with the suppression of rebels inside. In order to provide against such a crisis they were obliged to rely upon the activity of generals so that the power of these generals was enlarged. Such military power was represented by four men, namely Chang Chün 張俊, Han Hsi-ch’ung 韓世忠, Liu Kuang-hsi 劉光世, and Yüeh Fei 岳飛. All of these people were born of humble parents and fought for the reconstruction of the Sung dynasty. They distinguished themselves in defending the Chin army and subdued rioters whose followers they made their subordinates. Thus in 1133 each of them became a great power, possessing fourteen or fifteen thousand soldiers. Since 1129 when many Chên-fu-shih 鎭撫使 were appointed in the areas north of the Yangtzŭ river, they were invested with full powers of administering each district. The four generals gradually took their places and ruled over wide districts as Hsüan-fu-shih 宣撫使. As a result they occupied important political positions. The real power supporting the Southern Sung dynasty was nothing but a synthesis of power of those four generals. But the development of their influence threatened the government as a centrifugal and dangerous factor. Thus the dynasty encountered with a great contradiction in the process of founding the country. It was Ch’in Kuei 秦檜 who dealt with the solution of the problem. He is notorious as he was responsible for the death of Yüeh Fei
著者
横山 悠貴 安田 宗樹
雑誌
第80回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, no.1, pp.285-286, 2018-03-13

ニューラルネットワークにおいて、隠れ変数を多くして複雑な構造を持たせると表現能力が高くなるが過学習を引き起こしやすくなる。そのため、過学習を引き起こしにくくするためには適切な構造を持たせなければならないがそれは経験と勘により設計しなければならないのが現状である。本講演では統計的機械学習モデルのひとつである制限ボルツマンマシンの隠れ変数に対してスパース正則化を行うことで有効な隠れ変数の数を自動調整し、汎化誤差が低減されているすることを報告する。また、制限ボルツマンマシン学習でよく使われる近似計算であるContrastive Divergence法の他, 厳密計算においてもスパース正則化により汎化誤差が低減することを示す。
著者
八城 年伸
雑誌
第83回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, no.1, pp.381-382, 2021-03-04

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため、多くの教育機関において講義のオンラインによる実施が急務となった。限られた準備期間の中で、様々な工夫で実施されたオンライン講義であったが、学生の反応は同情的な意見がある一方で、声が聞き取りにくい、板書が見えにくい、など芳しくない意見も少なくない。筆者はかねてより自身の講義における感触から、加えて資料の配付と板書に要する時間も問題になると考えた。これらの問題を解決するため、ゆっくりムービーメーカーを用いたボイスロイドによるオンライン講義コンテンツを作成したが、その過程で様々な問題に直面した。そうした諸問題の報告と、解決への考察をまとめる。
著者
志田 淳二郎
出版者
中央大学社会科学研究所
雑誌
中央大学社会科学研究所年報 (ISSN:13432125)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.269-285, 2019-09-30

After the end of the Cold War, the North Atlantic Treaty Organization (NATO)redefined its self-image as an Alliance who would be dedicated to serving international peace and stability by embracing the principles of collective defense and cooperative security. After the Russo-Georgian War (2008) and the Ukrainian Crisis (2014) on one hand, to counter Russia’s aggressive policy, NATO has strengthened collective defense postures among the member states, on the other hand, under the principle of cooperative security, it has developed partnerships with the former Soviet Republics of Georgia and Ukraine. Russia has strongly opposed to these NATO’s developments, followed by military and diplomatic tensions between the two parties. By saying so, this article concludes that today’s NATO unexpectedly faces the challenges stemmed from its collective defense and cooperative security policies.