著者
天野 晃
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.373-376, 2017-12-02 (Released:2018-02-09)
参考文献数
6

スペクトラルグラフ理論は、グラフの特性をその隣接行列の特性多項式の問題として扱う理論およびテクニックの総称である。主な応用として化合物における構造解析があり、系統の近い分子の比較や構造の特徴量の算出に用いられる。この報告では、従来の理論を改良した、分子の系統の近遠に係わらずさまざまな分子構造の量的マッチが可能となるインデックス作成法を提案する。
著者
鎌田 道隆
出版者
奈良大学史学会
雑誌
奈良史学 (ISSN:02894874)
巻号頁・発行日
no.20, pp.41-55, 2002

享和元年(一八〇一)年に生まれ、立身出世して幕末政界で人間味あふれる活躍をした川路聖護は、慶応四年(一八六八)の江戸城開城の日に自殺して果てた。江戸幕府にもっとも忠実な官僚であったといってよい。この川路聖護の事蹟については、四番目の妻さととはじめた夫婦交換日記以来の膨大な日記風近況報告の書簡があって、これによって個人的な喜怒哀楽や政治担当者としての悩みや苦しみも含め、生き生きとした歴史叙述が自らの筆で今日に伝えられている。そして、その多くは『川路聖護文書』全八冊のかたちで公刊されている。川路聖護の伝記としては、川田貞夫氏の『川路聖護』がすぐれている。川田氏は早くから川路聖護に注目され、実に詳細にその事蹟をわかりやすく解説されている。惜しむらくは、その著書が公刊されるよりも早く平成七年に川田氏が亡くなられたことである。奈良奉行川路聖護については川田氏の著書で詳しく論じられており、また『奈良市史』通史三でも若干記述されている。私もかつて「遠国奉行の着任と離任-奈良奉行川路聖護」および「奈良奉行川路聖摸の民政』の二論文で部分的に言及したことがある。本稿では、川路聖護の奈良における事蹟のうち、とくにいわゆる奈良公園の植樹事業について考察しておきたい。この植樹事業についても、『奈良市史』通史三および川田貞夫氏『川路聖護』でもとりあげられているのであるが、単なる事蹟の紹介だけでなく、植樹事業の分析を通して、名官僚川路聖護が奈良において成長したこと、奈良が川路聖護を育てたことに言及しようと思う。
著者
菊池 誠
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度の研究成果は以下の3点である。(1)ファネル気体モデルの理論的整備を進めた。タンパク質の体積を変数とする自由エネルギーランドスケープが与えられれば、分配関数に含まれる分子混雑の効果は解析的に計算できてしまい、自由エネルギーランドスケープへの補正の形に厳密にまとめられる。補正項は各状態の体積に比例しており、比例係数は混雑分子の化学ポテンシャルで決まる。これにより、混雑分子を含む系は混雑分子を含まない系に形式的に書き直すことができることがわかり、見通しよく計算機シミュレーションを行うことができる。(2)上記の「有効自由エネルギーランドスケーブ」の考え方をモデルタンパク質に応用した。具体的にはアップダウン・ベータバレルと4ヘリックス・バンドル構造を取るふたつの格子タンパク質モデルを対象とし、MSOE法によって混雑分子がない場合の自由エネルギーランドスケーブを求めた。これに上記の体積依存補正を加えることにより、混雑分子存在下での「有効自由エネルギーランドスケーブ」を求めた。結果として、混雑分子の濃度が上がるにつれて変性状態のうちで体積が大きな構造の自由エネルギーが上がり、実効的に天然構造が安定化されることがわかった。我々はこの結果を分子混雑がタンパク質折れたたみに与える影響の最も簡単な表現であると考えている。(3)ファネル気体モデルの基礎となるタンパク質のファネル理論に関して、ランダムネットワーク上でのランダムエネルギーモデルを構築し、多様なファネル構造を実現する天然構造の特徴を議論した。なお、これら成果をConference on Conputational PhysicsおよびBiophysical Society Meetingにて口頭発表し、関連する研究者と議論を行った。
著者
益田 理広
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1.研究の背景と目的 地理学という分野に冠された「地理」なる語が,五経の第一である「易経」,詳しく言えば,古代に記された「周易」本文に対する孔子の注釈である「十翼」中の一篇「繋辭上傳」に由来することは,漢字文化圏において著されたいくつもの地理学史や事典にも明記された,周知の事実である.しかし,その「地理」はいかなる意味を持つのか,何故地理学の語源となり得たのか,といった概念上の問題については,余り深く注視されてはこなかった.確かに,「繋辭上傳」の本文には「仰以觀於天文,俯以察於地理」とあるのみで,そこからは「天文」と対置されていること,「俯」して「察」るという認識の対象となっていることが読み取られるばかりである.それ以上の分析は,「地」「理」の二字の意味を知るよりほかはないであろう.「土地ないしは台地のすじめであり,大地における様々な状態つまり「ありよう」を指したもの」(海野,2004:44)「地の理(地上の山川で生み出される大理石や瑪瑙の筋目のような形状)」(『人文地理学事典』,2013:66)といった定義はまさに字義に依っている.辻田(1971:52,55)も「易経でいう地理をただちに今日的意味で理解するのはやや早計」としながらも,「古典ギリシャ時代の造語であるゲオーグラフィアに相当する地理という文字」とする.また,海野は後世における「地理」の使用例から,客観的な地誌的記述と卜占的な風水的記述をあわせ持った,曖昧模糊たる概念とも述べている. それでは,この「地理」なる語は古代より明確に定義されぬままであったのであろうか.実際には,「地理」の語義は「周易」に施された無数の注釈において様々に論じられてきた.そしてその注釈によって「地理」を含む経典中の語が理解されていたのも明らかであり,漢字文化圏においてgeographyが「風土記」ではなく「地理学」と訳された要因もこうした注釈書に求められよう. 中国の研究においてはそれが強く意識されており,胡・江(1995)は「周易」の注釈者は三千を超えるとまで言い,「地理」についても孔頴達の「地有山川原隰,各有條理,故稱理也」という注に従いながら「大地とその上に存在する山河や動植物を支配する法則」を「地理」の語義としている.また,于(1990)や『中国古代地理学史』(1984)もやはり孔頴達に従っている.ただし,孔頴達の注は唐代に集成された古典的なものであり,「地理」に付された限定的な意味を示すものに過ぎない.仮にも現代の「地理学」の語源である「地理」概念を分析するのであれば,その学史的な淵源に遡る必要があろう.そしてその淵源は少なくとも合理的な朱子学的教養を備えた江戸時代の儒学者に求められる(辻田,1971).「地理学」なる語も,西洋地理書の翻訳も,皆このような文化的基礎の上でなされたものなのである.従って,現代に受け継がれた「地理学」の元来の概念範囲は,この朱子学を代表とする思弁的儒学である宋学における「地理」の語義を把握しない限りは分明たりえないであろう.以上より,本研究では,宋学における「地理」概念の闡明を目的として,宋代までに撰された「周易」注釈書の分析を行う. 2.研究方法 主として『景印 文淵閣四庫全書』(1983) 經部易類に収録されたテキストを対象とし,それらの典籍に見出される「地理」に関わる定義を分析する.また,上述のように「地理」は「天文」と対をなす語であるため,この「天文」の定義に関しても同様に分析する.なお,テキストは宋代のものを中心とし,その背景となる漢唐の注釈も対象とする. 3.研究結果 「天文」および「地理」なる語に対する古い注釈としては王充の論衡・自紀篇の「天有日月星辰謂之文,地有山川陵谷謂之理」および班固の漢書・郊祀志の「三光,天文也…山川,地理也」がある.周易注釈書としては上述の孔頴達の疏が最も古く,これは明らかに上記二者や韓康伯の系譜にあり,「天文地理」は天上地上の物体間の秩序を表すに過ぎない.ところが,宋に入ると,蘇軾は『東坡易傳』において,天文地理を「此與形象變化一也」と注し,陰陽が一氣であることであるという唯物論的な解釈を行い,朱熹は「天文則有晝夜上下,地理則有南北高深」と一種の時空間として定義するなど,概念の抽象化が進んでいく. 【文献】 于希賢 1990.『中国古代地理学史略』.河北科学技術出社.海野一隆 2003.『東洋地理学史研究・大陸編』 .清文堂. 胡欣・江小羣 1995.『中國地理學史』. 文津出版. 人文地理学会編 2013.『人文地理学事典』.丸善書店. 中国科学院自然科学史研究所地学史組 主編 1984.『中国古代地理学史』. 科学出版社. 辻田右左男 1971.『日本近世の地理学』.柳原書店.
著者
壁島 爲造
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本微生物學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.33-35, 1922

ちふす又ハ赤痢患者ノ便ヨリちふす血清又ハ赤痢血清ニ因テ非特異的ニ凝集セラルル細菌ノ證明セラルルコトアルハ周知ノ事實ニシテ敢テ奇トスルニ足ラザルベシ反之これら免疫家兎血清ニ至リテハ全ク其趣ヲ異ニシテこれら菌以外ノ細菌ヲ凝集スルガ如キハ例外ニ屬スルガ故ニこれらノ診斷ハ凝集反應ニ據ルヲ尤モ簡易ニシテ且ツ確實ナリトハ從來一般ニ信ゼラルル所ニシテ現ニPlanethノ如クWas mit Choleraserum agglutiniert, ist cholera ト極言シテ憚ラザルアリ特ニ千九百十五年十二月ニ改正セル濁國これら教示第四版ニPfeiffer反應ヲ削除セラレタルガ如キ尤モ此傾向ノ具體化セルモノナリト謂フベシ然ルニ予ハ昨秋軍艦日進ニ發生シテ佐世保海軍病院ニ收容セラレタル數名ノこれら患者ヨリ分離セル菌株ノ送附ヲ受ケタルヲ以テ先ヅ普通寒天平板ヲ利用シテ其純粹度ヲ確ムルニ當リ石田某ノ便ヨリ得タル菌株ニ厚薄二様ノ集落ノ發生ヲ認メ兩者共ニこれら血清ニ對シ高度ニ反應セルガ故ニ或ハこれら菌ノむたちおんノ一種ナルベキカト稽へ檢索ヲ進ムルニ從ヒ一ハ型的ノこれら菌-予カ謂フ所ノ異型菌-ナリシモ他ノ厚キ集落ヲ形成セルモノハこれら血清ニ凝集セラルル一種ノぱらちふす菌ニ過ギザルヲ知ルヲ得タリ乃チこれら血清ノ呈スルぱらあっぐるちなちおんノ一適例ナリト信ジ左ニ其要旨ヲ記載スベシ
著者
田村 景子
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.16, pp.202-192, 2015

『豊饒の海』四部作は、一九七〇年十一月二十五日、きわめて劇的に人生の幕引きをやってのけた作家三島由紀夫の、長大な遺作である。同時にこの意図された遺作は、「世界の解釈」をめざして時間をかけて練り上げられた物語でもある。三島由紀夫における能楽受容を考えてきた筆者にとって、『豊饒の海』は避けてとおれない。第二次戦後派に数えられつつ日本浪曼派の特異な継承者であった季節はずれの作家による、季節はずれの試みすなわち戦後における前近代の破壊的再提示は、『近代能楽集』シリーズと同じく戦後という時代の最奥へと届いたのか? それとも、『近代能楽集』シリーズをも越えた場所へ到達したか? 本稿と次稿の目的は、謡曲「松風」および「羽衣」を介して『豊饒の海』に新たな読解の地平を開き、決して報われないからこそ生きられた徹底的な悲恋の物語――三島由紀夫の「世界の解釈」を言祝ぐことにある。
著者
作花 一志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータと教育(CE) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.45, pp.27-32, 2007-05-19
参考文献数
5

ケプラーの法則に基づいて惑星の運動を視覚的に表示するプログラムを制作した。これを用いた授業で次のような事項の理解に有効であった。・離心率,面積速度の概念の把握。・非線型方程式の解法と可視化。・二十四節気における地球の位置。・冥王星軌道の特異性と惑星の新分類。・過去未来の惑星集合。
著者
安梅 勅江 篠原 亮次 杉澤 悠圭 伊藤 澄雄
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.681-687, 2006-09-15
被引用文献数
6

<b>目的</b> 本研究は,大都市近郊の農村に居住する65歳以上の者全数801人に対する1998年から2005年までの追跡調査により,社会とのかかわり状況と死亡率との関連を社会関連性指標を用いて明らかにしたものである。社会関連性指標は,地域社会の中での人間関係の有無,環境とのかかわりの頻度などにより測定される,人間と環境とのかかわりの量的側面を測定する指標である。<br/><b>方法</b> 1998年に配票留置の質問紙に回答した者の死亡に関するデータを2005年まで集計した。有効回答は,回答者のうち事故死および死亡理由不明者,転出者,基準年の介護状態不明者を除いた669人とした。7 年間の死亡者は139人(12.7%)であった。調査内容は,年齢,性別,罹患,介護,ADL,社会関連性指標であった。<br/><b>結果</b> 1) 社会関連性指標の項目のうち,「家族以外との会話」,「訪問の機会」,「活動参加」,「テレビの視聴」,「新聞の購読」,「本・雑誌の購読」,「役割の遂行」,「近所づきあい」,「趣味」,「ビデオ等の利用」,「健康への配慮」,「生活の工夫」,「積極性」,「社会貢献への意識」が乏しい場合,7 年後の死亡率が有意に高くなっていた。<br/> 2) 多重ロジスティック回帰分析を用い,基準年の年齢,性別,罹患,介護,移動機能,感覚機能,身辺処理機能を調整変数として社会関連性指標の各項目の死亡に対するオッズ比を算出した。「活動参加」,「趣味」,「役割の遂行」,「積極性」,「ビデオ等の利用」の項目が有意となり,調整変数に関わらず,社会関連性が乏しいと死亡率が高いという関連が示された。<br/><b>結論</b> 社会関連性は生命予後との関連がみられた。具体的な行動と活動状況を評価基準とする社会関連性指標を用いることにより,地域で生活する高齢者の日常生活における社会とのかかわり状況を把握し,介護予防マネジメント等に活用可能なことが示唆された。
著者
菊地 真人 川上 賢十 吉田 光男 梅村 恭司
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J102-D, no.4, pp.289-301, 2019-04-01

データを確率的に取り扱う問題において,統計的尺度の推定は手法の構成やデータ分析の基盤的役割を担う.本論文では統計的尺度の一つであるゆう度比を,離散的な標本空間から得た観測頻度をもとに推定する問題を扱う.素朴な推定方法は,ゆう度比の定義に従い,ゆう度比を構成する二つの確率分布を最ゆう推定して,その比を取ることである.しかし,低頻度からゆう度比を求めるとき,この方法は推定量を不当に高く見積もってしまう場合がある.そこで,ゆう度比の直接推定法uLSIFを応用し,ゆう度比を低めに(保守的に)推定する方法を提案する.提案手法は,最ゆう推定によって求めたゆう度比を正則化パラメータによって調整する枠組みである.実験では提案手法の振る舞いを明らかにし,その有効性を示した.更に,自然言語処理におけるブートストラップ法を利用した実験も行い,提案手法の実用性も示した.