- 著者
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柊 幸伸
加藤 宗規
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0572, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに,目的】膝関節屈曲伸展に伴う膝関節の回旋運動は終末強制回旋運動(SHM)として知られている。SHMは水平面上の小さな動きであり,先行研究には,X線,MRI,CT等を用いた詳細な計測研究もあるが,その対象は屍体下肢標本や模型モデル,動作の一部を再現した生体の静止姿勢であることが多い。動作中の膝関節の回旋運動を計測した先行研究には,3次元動作解析装置や,X線による2方向イメージマッチング法を利用したもの等がある。しかし,これら先行研究でも,下肢に荷重のかからない開放性運動連鎖(OKC)の環境での計測がほとんどであり,下肢に荷重がかかり末端が固定された閉鎖性運動連鎖(CKC)の環境で膝関節の回旋を計測したものは少ない。動作時のSHMの存在の有無とその程度は,膝関節軟骨への負荷や前十字靱帯をはじめとする膝関節周囲の靱帯への負担を考慮する上で非常に重要な要素となる。そこで本研究の目的は,OKCとCKCの異なる環境下で,膝関節屈曲伸展に伴う回旋運動を計測し,SHMの存在を確認し,その特性を明らかにすることとした。【方法】被験者は,理学療法士養成大学学生43名(男性32名,女性11名)であった。計測にはモーションセンサを2セット使用し,左下肢の腓骨小頭下部,および大腿骨外側上顆上部のそれぞれ矢状面上に固定した。OKC環境下では,足底を浮かせた端座位姿勢で,膝関節伸展および屈曲運動を計測した。CKC環境下では,端座位姿勢から立位姿勢,および立位姿勢から着座し端座位姿勢となるまでの動作を計測した。計測した角速度データを積分し,動作中の角度変化を算出した。【結果】OKC環境下での膝関節伸展時,大腿に対する下腿の相対的な回旋運動は外旋運動であり,その最終肢位の外旋角度は15.16±7.85度であった。CKC環境下では,6名の被験者を除き内旋運動を伴い,その最終肢位の内旋角度は12.15±6.54度であった。外旋運動を伴った6名の外旋角度は5.74±4.20度であった。OKC環境下での膝関節屈曲時,大腿に対する下腿の相対的な回旋運動は内旋運動であり,その最終肢位の内旋角度は13.26±8.04度であった。CKC環境下では,5名の被験者を除き外旋運動を伴い,その最終肢位の外旋角度は12.54±7.34度であった。内旋運動を伴った5名の内旋角度は6.79±5.86度であった。OKCとCKCの異なる環境における膝関節屈曲・伸展に伴う外旋・内旋角度には有意な差を認めた。【結論】SHMはOKC環境のみで認められる現象であり,CKC環境下では逆の運動となることが分かった。このことは,膝の靱帯損傷後の理学療法においては,注意を要する基礎データとなると考えた。たとえば,CKC環境下での膝関節伸展は,相対的な内旋運動を伴い,前十字靱帯へのストレスが増加する可能性があることが理解できる。このように,本研究の結果は,従来のSHMの定義と異なる点や,付加すべき情報を含み,臨床への貴重なエビデンスになると考えた。