著者
谷藤 学 佐藤 多加之 内田 豪 大橋 一徳
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本研究は、物体像表現の空間構造の解明(課題1)、物体像表現の空間構造と時間構造の統合理解(課題2)、脳における物体像のスパース表現の意味を解明する(課題3)の3課題から成る。そのそれぞれについて以下の進展があった。(課題1)前年の実績報告にある初期視覚野の3次元機能構造の可視化について、さらに、解析に検討を加え、論文として発表した。(課題2)物体像表現の時間構造の理解に関係した課題として、注視課題でトレーニングしたサルから様々な位置に提示した視覚刺激の対する高次視覚野の応答を記録し、視野のどこに提示されるかによって、応答の潜時が異なることを発見した。同様の記録を初期視覚に関連する領域でも行った結果、このような物体像の提示位置による潜時の違いは見られなかった。これらのことから、物体像の提示位置によって、異なる神経回路メカニズムで情報が低次から高次に送られていることが示唆された。この成果は論文として公表された。(課題3)自然画像の断片の中から高次視覚野の物体像応答を説明できる図形特徴を抽出するアルゴリズムについて交差検定など様々な方向から検討を行い、妥当性を明らかにした。研究の過程で大きな問題となったのは神経細胞の応答の試行毎のゆらぎである。一般にゆらぎの影響を除くためには、多くの試行について記録する必要がある。しかし、慣れによって試行を繰り返すと応答が次第に減弱するという問題点がある。我々は試行回数を増やす代わりに、より多くの物体像の応答を計測することで問題の解決をはかることができた。
著者
佐藤 正明 大橋 俊朗 神崎 展 出口 真次 坂元 尚哉 安達 泰治 安達 泰治 小椋 利彦 大橋 一正
出版者
東北大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2008

我々の身体には多くの力を感じる細胞があり、組織や器官が力に応じて機能を発揮するよう制御されているが、その機構は不明であった。本研究では、血管壁、骨、骨格筋の細胞を主たる対象にした。その結果、細胞が接着している部位や細胞の形を決める役目をしている細胞骨格などがセンサの働きをして、シグナルの機能を果たしているタンパク質も分かった。また、生体の発生過程の器官形成において力が重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた。
著者
大橋 一章 李 成市 小野 佳代 宇田 応之 光谷 拓実 片岡 直樹 肥田 路美 光谷 拓実 片岡 直樹 肥田 路美 宇田 応之 野呂 影勇 櫻庭 裕介 林 南壽
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、中国から朝鮮半島を経て日本に伝播した仏教美術がいかなる様相でわが国に受容されたのかを、主に特定樹種木材の流通に着目することによって検証することを目指した。具体的には日本、韓国、中国産のクスノキに対してX線分析を行い、主要元素の含有量を調査し、さらに東アジアにおけるクスノキの流通経路を検討することによって、日本の仏教美術の源流は中国南朝に求められ、それが朝鮮半島の百済、さらに日本へと伝播したことを検証した。
著者
大橋 一正 中島 康孝
出版者
社団法人空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会論文集 (ISSN:0385275X)
巻号頁・発行日
no.45, pp.1-11, 1991-02-25
被引用文献数
2

本研究は既存の事務所建物において消費されるエネルギー量を調査・分析し,省エネルギー診断を行う基礎的な資料,および手法を提案した.各建物においてエネルギー消費量は固有のものであるが,建物の用途によってはある程度共通性がある.本報告は既存事務所建物におけるエネルギーの消費実態調査を基に空調用エネルギー消費量と各年度(1981〜1985年)の気象変動量がどのような関数で表すことができるかを重回帰分析による略算式で示し,この簡易推定判定式を省エネルギーを目的とした各建物のエネルギー管理が容易に行われるための初期診断の基礎資料とした.分析対象とした既存建物の規模は延べ床面積約1700〜39000m^2,平均約7700m^2である.
著者
大橋 一智 里中 勝人 山本 哲郎 山崎 正利 木村 貞夫 安部 茂 山口 英世
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.113, no.5, pp.396-399, 1993-05-25
被引用文献数
10

The antitumor activity of a preparation of heat-killed cells of Enterococcus faecalis, FK-23. Intraperitoneal injection of the preparation prolonged the lifespan of C3H/He N mice which were intraperitoneally inoculated with MM46 mammary carcinoma. Not only intraperitoneal but also oral administration of the FK-23 preparation inhibited the growth of these carcinomas inoculated intradermally. The tumor-bearing mice produced tumor necrosis factor (TNF) in their sera 2 h after intravenous injection of OK432. This TNF level increased after the mice were fed with food supplemented with the FK-23 preparation. Additionally, the FK-23 preparation inhibited the growth of Meth A fibrosarcoma in cyclophosphamide-treated BALB/c mice.
著者
佐治 文隆 木村 正 大橋 一友 松崎 昇 鮫島 義弘 古山 将康
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

ヒト初期胚の着床過程において、初期絨毛と子宮内膜細胞の相互作用について検討した。(1)子宮内膜細胞における細胞外マトリックスとこれを分解するプロテアーゼ(MMP)子宮内膜細胞におけるMMPの発現を期質含有ポリアクリルアミド電気泳動法を用いて検討し、72KDと92KDゼラチナーゼの発現パターンが性周期によって変化していることを明らかにした。また異所性子宮内膜細胞はその伸展に従ってMMP産生が亢進したが、TIMP(インヒビター)産生は不変であった。(2)子宮内膜における細胞外マトリックスの分泌免疫組織学的検討により基底膜の細胞外マトリックス(ラミニン、IV型コラーゲン)は内膜腺上皮の基底膜と間質細胞周辺のマトリックスに存在した。間質の細胞外マトリックス(フィブロネクチン、ビトロネクチン)は子宮内膜の間質全体および内膜腺上皮の基底膜部分に局在した。(3)胎盤絨毛の増殖分化とサイトカイン胎盤絨毛ではIL-6とそのレセプターによるhCG産生系が存在し、この系はIL-1とTNF-αにより分泌亢進がみられ、TGF-βでは制御がみられた。しかし初期絨毛ならびに培養絨毛癌細胞系ではTNF-αによるhCG分泌阻害が観察された。また初期胎盤から得られた絨毛細胞はフィブロネクチンと特異的に接着することが判明し、着床過程におけるフィブロネクチンの関与が示唆された。
著者
長澤 和俊 長沢 和俊 (1993) 樊 自立 夏 訓誠 張 玉忠 王 炳華 荒川 正晴 大橋 一章 櫻井 清彦 XI Ao Li BING Hua Wang ZI Li Fan XUN Cheng Xia 李 肖 劉 文鎖 王 炳ほあ
出版者
早稲田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

この共同研究は平成3年から5年にわたって、新疆各地のシルクロードの路線と主要遺跡を全面的に踏査することを目的として実施されたが、さいわい中国側研究者の友好的協力により、ほぼ予定通り各地の遺跡を踏査することができた。中国では1990年2月、国家文物局令が発布され、各地の遺跡・文化財の調査研究については、すべて国家文物局長の許可の下に行われることとなった。そのため平成3〜5年の3年間にわたる調査は、すべて国家文物局長の許可の下に、新疆文化庁が主催し、新疆文物考古研究所と沙漠研究所との協力の下に実施されることになった。以下、年度毎の研究業績の概要を略述する。まず平成3年度は、同年7月16日から8月25日まで41日間実施された。この年は新疆の南疆を全面的に踏査することとなり、各遺跡の歴史的地理的位置関係を確認した。とくに文化庁の手配により、従来未開放であった雅尓湖千仏洞・トユク千仏洞・勝金口千仏洞・柳中古城・焉耆古城・シクチン仏寺・和静古墓・温宿古城・且末古城等を見学できたことは、大きな収獲であった。ついで平成4年度は、7月26日から8月24日まで30日間滞在し、ジュンガリアおよび天山山脈東部の南北麓地域の東西交通路と主要遺跡の踏査を行なった。新疆ジュンガリアおよび天山東部の調査は順調に進み、本年度は伊寧の海努克古城・阿力麻里古城・摩河旧城・吐魯番〓子旧城・塔城の岩面・呼図壁岩画・哈密白楊溝仏寺・拉布橋克古城・巴里坤・北庭都護府故城・西大寺・吉木薩尓千仏洞等、多くの未開放の遺跡を実地踏査することができた。なお平成4年度には、1992年12月2日から21日にかけて、共同研究者の新疆文物考古研究所長・王炳華氏を招聘し、早稲田大学その他において学術講演を行ない、内外の研究者と交流し、かつ来年度の研究計画を討議し、多くの成果をあげた。また先年度に引続き、ウルムチの新疆文物考古研究所において、調査後、古代シルクロードの路線と史跡について、考古研究所研究員を調査員全員によるシルクロード討論会が実施された。さらに平成4年度から平成5年度の初めにかけて、共同研究者の新疆沙漠研究所所長・夏訓誠氏を招聘し、早稲田大学理工学部の草炭研究会のメンバーとともに学術討論会を実施し、かつ平成5年度の調査に際し、研究計画を充実すべく討議を重ねた。平成5年度は平成3〜4年度の調査で踏査できなかったタリム盆地内の未踏査地域を全面的に調査することとし、平成5年7月21日から9月2日にかけて新疆文物考古研究所長・王炳華氏の全面的な協力のもとに、調査を実施した。すなわちまずカラシャール・コルラ・クチャ・アクス・温宿・鳥什・カシュガルの所謂北道では、アクス文物処長・曽安軍氏の案内で各地の古代史跡を踏査した。とくにクチャでは亀茲石窟研究所長・陳世良氏の協力により、クムトラ・シムシム・クズルガハ・キジルの各石窟を踏査することができた。アクスからはウチトゥルファンを経て、玄奘三蔵の足跡を辿ってベダル峠の直下まで行くことができた。カシュガルからはパミール高原に赴き、タシュクルガン古城を調査し、さらに大谷探検隊のとったルートを辿って、ミンタカ峠の直下まで赴くことができた。またカシュガルからはホ-タンに至り、途中皮山で〓賓烏弋山離道の跡を尋ね、ホ-タンではアクスピル・ラワク仏塔・牛角山等を調査した。この3年間の踏査において、われわれはSony製のG.P.S(Global Positioning System)により、新疆における遺跡約100ケ所の経度・緯度を測定することができた。われわれはいまその測定によって新疆における遺跡地図を作製中であるが、その遺跡を結ぶことによって、古代シルクロードが、現在の自動車路と大分異なったルートによって結ばれていたことが明らかになりつつある。またこの測定によって、従来もっとも信頼されてきたSir Aurel Steinの実測地図の多くの経緯度を訂正することができた。また毎年ウルムチにおいて中国側研究者とシルクロードの共同研究会を開き、とくに平成4年9月には蘭州での国際シルクロード学術討論会に出席し、中国側研究者とさまざまな分野で意見を交換し、今後日中共同で継続的にシルクロードの調査を推進することで合意した。今回の調査を基礎に、今後はトゥルファン・クチャ地区のより詳細な調査を行うことを、日中共同研究者全員で再確認した。
著者
大橋 一正
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平成14年度に引き続き、標準SAT計を作成し八王子地区における気象観測を続行した。また、高層気象台における気象観測データも入手し、それぞれの特性と相関について分析を進め、これまでに得られた特性に対する相違点などの知見を得た。次に、この推定式の実用性をより広い地域で検証するため、東京都八王子市(工学院大学八王子校舎)と岩手県の沿岸部(下閉伊郡山田町)において短〜中期間の実測を行い推定式の精度を明らかにし、自然エネルギー利用のための大気放射量マップを作成した。結果として、日本における大気放射量の傾向は南方ほどその値は大きくなり、さらに海抜の影響を受けている可能性が示された。さらに平成15年度は、これまで提案してきた大気放射量,夜間放射量推定式の実用上の有効性を検討することを目的として、新たな自然エネルギー利用として注目されている屋上緑化による環境改善効果の検証にこれらの推定式を用いた。この検証では、特定の建物の屋上表面における放射収支量を実測値と推定値から算定し、両者を比較することで推定式の精度検証と実用上の問題を抽出した。また、空気調和の熱負荷計算における大気放射量や夜間放射量の影響について、実測値とシミュレーションによる値を比較することで空調負荷からの分析を行い、屋上緑化による屋上放射環境の改善効果と室内環境の改善効果について検証を行った。これらの結果は大気放射量,夜間放射量の推定が自然エネルギー利用システムの検討に対して有効であるということを示すものであり、特定建物の表面における放射熱収支のみならず地表面においても適用できる推定式であるということをシミュレーションによらず実測によって明らかにしたという点において貴重な知見であるといえる。
著者
澁谷 博孝 北村 千浪 大橋 一慶 石津 隆 スダルソノ リスワン パルトムアン シマンジュンタク
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本学術調査は、インドネシアのバリ島及びロンボク島に生活するヒンズー教徒が伝承する、薬物治療に関する古文書「ウサダ・ロンタール」の実態調査を行い新しい天然薬物の発掘を指向するとともに、日本・インドネシア両国間の共同研究による学術交流における発展に寄与することを目的としている。バリ島及びロンボク島各地に散在している「ウサダ・ロンタール」の実態状況の把握のため、ヒンズー教徒の集落を訪ねるとともに、バリ島の北部のシンガラジャ市にある「ロンタール博物館」、及びロンボク島のマタラム市にある「西ヌサ・テンガラ州立博物館」のそれぞれの学芸員に協力を依頼し、「ウサダ・ロンタール」の保存状況を含めた実態を詳細に調査した。その結果、各地で重複する「ウサダ・ロンタール」の存在が明らかになるものの、これまで各研究機関が別個に情報収集を行ってきたために判らなかった「ウサダ・ロンタール」の全体像が明らかになり、所在を記した一覧表の作成を行うとともに、数種の復刻判を入手した。また、古代バリ語からインドネシア語への翻訳及び、インドネシア語から英語への翻訳を行い、数種のウサダ・ロンタールに関する翻訳資料を作成した。さらに、翻訳したウサダ・ロンタールに記述された薬用植物名と、現在バリ島に自生する植物との比較を、植物学及び民族学的な見地から同定するとともに、それらの用法について検討を行い、種々の知見を得た。
著者
岡内 三真 長澤 和俊 菊地 徹夫 大橋 一章 吉村 作治 谷川 章雄
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度〜平成14年度にかけて、西域都護府を軸としてシルクロード史の再検討を行った。西域都護府は前漢王朝の西域経営の拠点であり、文献史料によっておよその位置が比定されているが、正確な位置が確認されていない。漢王朝の西域進出はシルクロード形成の重要な要因であり、西域都護府を設置した烏壘城を比定できれば、漢王朝の西域経営の実態を明らかにできる。そこで、西域都護府の位置を確認するため、新疆文物考古研究所との共同による現地調査を実施した。平成12年8〜9月、平成13年5月、平成14年5月に中国新疆ウイグル自治区を訪問し、現地での調査を行った。調査地は西域都護府の所在地と推定される新疆ウイグル自治区輪台県・策大爾郷を中心とした地域であり、烏壘城の可能性が高いと推定される遺跡を踏査し、立地や構造、遺物などを確認した。本格的な発掘調査を行えなかったため、西域都護府の位置を断定するには到らなかったが、遺跡の現状を確認することができ、西域都護府の構造等に関してある程度の予測を立てられた。また比較のためにシルクロードの天山北路、天山南路のルートに沿って遺跡の調査、博物館での遺物の調査を行った。時期は漢代に限定されないが、新疆の都城址に関しての現状確認と資料の収集を実施することができた。2001年には早稲田大学で国際シンポジウム「甦るシルクロード」を開催し、2002年には日本中国考古学会第8回大会において西域都護府の調査概要を報告し、研究者との意見交換を行った。現在3年間で得られた成果の整理・分析を行い、調査報告およびデータベースの作成作業を進めており、今後の研究の基礎となるデータを提供する予定である。
著者
長沢 和俊 趙 靜 張 樹春 劉 文鎖 王 宗磊 李 肖 王 炳華 杉本 良 昆 彭生 荒川 正晴 櫻井 清彦 大橋 一章 岡内 三真 WAN Zong Lei WAN Bin Hoa ZHANG Shu Chun ZHAO Jung 劉 文すお 趙 静 昆 彭夫 劉 玉生 柳 洪亮 小澤 正人 于 志勇 李 宵 夏 訓誠 昆 彰生
出版者
早稲田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

われわれは平成6年から同8年にかけて、トルファン地区の総合調査を実施した。調査はそれぞれ分担研究者の専門により、美術史学の大橋教授はベゼクリス、トスクチ仏洞を、故書学の荒川助教授はトルファン文書の研究を行なったが、とくに共通のフィールドとしては、交河故城西方の溝西墓の発掘調査に全力を傾注してきた。周知の通り交河故城は今から2200年前から広くこの地方を支配してきた車師前国の都城で、溝西墓にはその車師前国時代の墓と、5世紀の高昌国から唐代にかけて、この地方に進出した漢民族の古墓群があり、その総数は2000基以上もある。以下、溝西墓の発掘調査を中心に、3年間の研究実績を総括してみると、次の通りである。(1)平成6年度:初年度はまず全隊員により、トルファン地区のGeneral Surveyが行われた。即ち高昌故城、アスターナ、ベゼクリクチ仏洞、蘇交塔など、トルファンの主要史跡を踏査し、各遺跡の史的意義、トルファン文書との関連などを調べた。さらに共通のフィールドとしての交河故城西方の溝西墓については、頼るべき地図がないので、新疆測量部の協力により、溝西墓(東西約3km、南北約1km)全域の測量を開始した。この測量により平成6年度末までに全域の1/500地図が出来上った。また王炳華氏の選定により、溝西墓のほぼ中心部で4か所の高昌国時代の墓を試掘した。その際、田中地質コンサルタントKKの協力を得て、遺跡の電磁波探査、気球による航空測量などを行なった。こうした物理探査は中国とくに新疆では最初の試みで、多くの考古学関係者の関心を集めた。この年に発掘した第2号墓からは墓碑が出土し、この墓は某氏の妻氾氏の墓で、589年に没したことが確認された。これによって溝西墓は、交河城にいた高昌貴族(6〜8世紀)と唐人の墓であることが分り、今後発掘地域を拡大することにより、アスターナと同じようなミイラ、古文書、絹織物等、副葬品の出土が期待された。(2)平成7年度:2年目には西北部の高昌国の豪族、麹氏と張氏の螢城から2か所、中央部のマウンドのない墓(三年物理探査で発見)2か所、南部の唐代の墓と思われるもの5墓計9基の墓を発掘、2個の墓誌、未盗掘の墓1基を発掘した。発掘後、墓の中央にトレンチを入れ、墓の構造も検討した。また田中地質の気球により前年度失敗した溝西墓、交河故城の空中撮影に成功した。今年度は9基の墓を発掘したが、ここは盗墓が盛んでほとんど盗掘されており、かつ墓室内の湿度・気温が意外に高く、有機物やめぼしい遺物は、ほとんど出土しないことが明らかになった。(3)平成8年度:そこで今年度はまず次の基礎調査の達成をめざした。(1)遺跡全域の1/500地形図の作成。…これは平成6-7年度に完成した。(2)250m四方の遺跡地図の完成…本年度の夏、不足分を補って完成。(3)全古墓の実測(Numbering)とデータベース化…実測は今夏終り、現在早稲田大学電算室でデータベース化しつつある。ついで本年度の発掘調査は、遺物の出そうな高い地域の墓4か所で8基の墓を発掘した。しかしこれらの高い地区の墓はいずれもすっかり盗掘されていて、遺骨のほか何も残っていなかった。そこで発掘主任の岡内教授は発想の転換をはかり、車師前国期の墓を発見し、ここを発掘した。その結果、そこから黄金の王冠、黄金の指輪、ブロ-チ、南海産の貝符、星雲文鏡が出土し、近くの17号墓からは黄金の髪飾り、トルコ石の首飾り、黄金製のバックルや脚飾りなどが出土し、車師人の王侯・貴族の黄金装飾品がワンセットで出土し、併出した星雲文鏡や五銖銭から、時代も前一世紀と特定でき、王炳華所長も「これだけ金製品がまとまって出土したことは新疆はもとより全中国でも珍しく、おそらく今年度の中国考古学で最も重要な発掘の1つ」と評価された。これらの出土品のうち王冠は明らかにスキタイ・サウロマタイ風で、ブロ-チや指輪は、西アジア工芸品の影響をましており、バックルや足飾りはモンゴル高原から青銅の類似品が出ており、貝符は南海産、漢鏡と五銖銭は中国の影響をまし、当時のトルファンが東西文明の十字路にあったことを示している。又殉葬馬や鉄鏃、轡の出土は車師が騎馬民族であることを示している。