著者
宍戸 明美
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.77-101, 2009

筆者が「名古屋学院大学論集(社会科学篇)」(Vol. 43 No.3 & Vol. 44 No. 4)において一連して議論してきたテーマはソーシャルワーク(ソーシャルワーカー)と「社会的企業・起業(社会起業家)の関係をみる理論的枠組みへの模索であった。今回は社会福祉の根源的課題であり,理論化の中心的問題である「貧困」概念を整理し,今日の潮流である「社会的排除」とソーシャルワークの関係に焦点を当てていく作業の一端である。欧州の「社会的企業」は「社会的排除」という社会問題を背景にして生まれたとされる。この概念が生産関係からの排除によるものだけではなく,複合的な社会的関係構造からでてきていることを証明することで,従来の福祉政策の限界を超える方策として「社会的企業」の意義を述べる。この「社会的企業」はいわば"公共サービスの現代化"(福原他2007:102)として動き出したセクターともいわれるが,これを公的セクターでもなく,市場セクターでもない,第3のセクターとその活動を位置づけ,「社会的排除」に対する解決をはかる主体として議論しようとするものである。その場合,軸足を広義のソーシャルワーカー活動として捉え,その積極的意味を検討したい。今回は主に「貧困」概念の検討に留まっている。別稿で更に深く考察してみたい。
著者
岩井 紀子 宍戸 邦章
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.420-438, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
6
被引用文献数
5

内閣府, 全国紙, NHK, 国立環境研究所, 日本原子力学会などによる世論調査の結果を基に, 福島第一原子力発電所事故発事故が, 人々の意識に与えた影響について, 震災以前と以降を比較したところ, 原発事故は, 災害リスク認知や原発事故への不安感および環境汚染意識を高め, 原子力政策に対する人々の意識を大きく変えた. 専門家と一般住民の原子力政策に対する認識のギャップは, 震災前以上に大きい.JGSSデータに基づく分析では, 原子力への反対意識は, 女性で強く, 若年層の男性や自民党支持層で弱く, この点はチェルノブイリ事故後の結果と一致している. 原発から70kmの範囲に居住している場合には, 原発の近くに住んでいるほど原発事故が発生するリスクをより高く認知していた. また, 原子力政策に対する原発からの距離と地震発生のリスク認知には交互作用効果が存在しており, 地震発生のリスク認知が低い場合には原発近くに住む人ほど原子炉廃止への支持が少ないことが明らかとなった. 原発事故は, 人々の意識を変えただけではない. 日本では節電意識は以前から高かったが, 原発事故後, 電気をこまめに消す以上の, 消費電力を減らすさまざまな工夫を行い, 電力需要は2011年度には5.1%減少し, 12年度にはさらに1.0%減少した. 節電の工夫の頻度は, 原子力政策への態度と関連しており, 原子炉廃止層の8割が消費電力を減らす工夫に取り組んだ. 電力需要の減少は原子力政策の今後に対する人々の意思表明であろう.
著者
光多 長温 後藤 和雄 宍戸 駿太郎
出版者
日本地域学会
雑誌
地域学研究 (ISSN:02876256)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.705-719, 2011 (Released:2012-03-07)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

This paper analyzes trends in demographic shift from regional areas to large metropolitan areas, and economic factors resulting from this demographic shift. First, we analyzed the status of demographic shifts between the large metropolitan areas of Tokyo, Osaka and Aichi Prefectures, and then other individual prefectures for 5-year periods starting from 1970, 1980, 1990 and 2000, and for age segments of 5-14, 20-24, 25-64 and over 65 years. As a result, we observed population inflow from regional areas to the large metropolitan areas in Tokyo and Osaka Prefectures for the age segments up to 24 years old and population outflow from large metropolitan areas to regional areas for the age segments of 25-64 years, except for the period starting from 1970. As for Aichi Prefecture, the trends of population inflow from regional to metropolitan areas was observed since 1990 for the age segments above 25 years as well as the age segments up to 24 yearsNext, we extracted “inflow populations to Tokyo, Osaka and Aichi Prefectures from other individual prefectures” as the ratio of inflow/outflow populations to each prefecture's population and “regional economic factors constituting the regional economy” as the ratio of each prefecture's factors against Tokyo, Osaka and Aichi Prefectures for the above-mentioned periods, and conducted attribution analyses with a multiple regression analysis approach. As for regional economic factors, we adopted 13 factors including industrial composition ratio, administrative investment, academic background index, sales turnover in retail industry that resulted in the economic factors attributing to demographic shifts for each period. The factors affecting the three large metropolitan areas most were the “tertiary industry ratio” , “industrial shipment value”, “administrative investment value” and “retail sales value”. To control population outflows from regional areas to large metropolitan areas in the future, upgrading industrial structure, turning from a reliance on public works and improving intellectual levels should be important.JEL Classification: R00, R1
著者
鈴田 泰子 小野 治子 宍戸 祐子 髙屋 隆男
出版者
東北福祉大学教育・教職センター特別支援教育研究室
雑誌
東北福祉大学教育・教職センター特別支援教育研究年報 (ISSN:21850275)
巻号頁・発行日
no.12, pp.25-34, 2020-03-31

発達障がいのある子どもを育てる親たちは、子育ての不安や悩みを長期間にわたり抱え続けなければならない場合がある。本稿では、親たちによる語り合いの場が持たれるまでの経緯と、そうした場が必要とされる理由やその効果を明らかにするための手がかりを記録した。また、低年齢の子どもを育てる母親たちと、思春期・青年期を迎えた子どもを持つ母親たちがともに集って語り合い、励ましと希望をもって交歓する「語ろう会」の意味について考察した。
著者
宍戸 洲美
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.169-173, 2016 (Released:2016-08-31)
参考文献数
1
被引用文献数
1

目的:日本の子どもたちの健康問題と養護教諭の職務を,IUHPE世界会議で報告することを通して,養護教諭の実践の質の向上を図ることと,日本独自の養護教諭制度や実践の有効性を世界に問うことを目的とした.結果:1995年から約20年間にわたりIUHPE世界会議で計8回報告を続けてきた.その結果,Yogo Teacherを国際語として広げる一方で,養護教諭制度が日本独自の制度であることが確認できた.養護教諭の実践が広く世界の子どもたちの健康問題の解決にも寄与できることが示された.また,この会議の3年のインターバルを活用してNational Network of Yogo Teachersのグループで学校保健活動や保健室実践について協議を行い,さらに実践をやり直すという研究方法が養護教諭の実践の向上につながった.結論:養護教諭の制度は国際的にみてもユニークな制度である.養護教諭の実践のプロセスを世界に向けて発信することは,日本における養護教諭実践の質向上に有益であるとともに,世界の子どもたちの健康問題解決にも寄与できる.
著者
赤堀 将孝 亀山 一義 宍戸 聖弥 松本 圭太 谷川 和昭
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.170-179, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
34

本研究の目的は,地域連携を視野に,地域に関わる専門職種が抱く作業療法士の認識を明らかにすることであった.質問紙調査により,作業療法士という職種についての自由記述をKH Coderを用いて分析した.結果,地域包括支援センター職員から見た作業療法士の認識には「人」,「作業」,「生活」の3つがあった.さらに,法の定義を基準にした認識や他のリハビリテーション専門職との違い,認知症を有する人の支援を行う職種,望む生活を支援するといった認識などが階層的な構造を示していた.以上から,地域包括支援センター職員との関わりでは,生活動作だけでなく対象者の「その人らしい」生活を支援する視点が必要となることが改めて確認された.
著者
星山 栄成 高野 雅嗣 竹川 英宏 宍戸 宏行 永山 正雄 小野 一之 平田 幸一
出版者
一般社団法人 日本神経救急学会
雑誌
Journal of Japan Society of Neurological Emergencies & Critical Care (ISSN:24330485)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.69-73, 2019-08-23 (Released:2019-08-24)
参考文献数
11

A 42-year-old male patient was admitted to our hospital because of generalized convulsive status epilepticus (GCSE), disturbance of consciousness, and shock. He had cardiopulmonary arrest after arrival our hospital, but he was return of spontaneous circulation as soon as cardiopulmonary resuscitation. He had disseminated intravascular coagulation (DIC) and multiple organ dysfunction. From the time of admission, we managed about the patient's breathing, circulation, body temperature. We also administrated sodium valproate 400mg, levetiracetam 1,000mg daily, and continuous use of midazolam to status epilepticus. In addition, he underwent continuous renal replacement therapy because of acute renal failure. The electroencephalogram showed scattered delta waves. Brain MR images showed hyper-intense lesions at bilateral pallidum and thalami, which led to a diagnosis of hypoxic encephalopathy associated with long-term GCSE. On day 13, he started tracking our fingers with his eyes. On day 34, he was able to obey commands and he was transferred to the general ward. GCSE is known to exhibit various organ dysfunctions. In this case, there was a history of epilepsy and had developed on GCSE, but as a result of the clinical examination, it was considered epilepsy-related organ dysfunction because the cause of multiple organ dysfunction was not clear.
著者
宍戸 孝
出版者
日本農薬学会
雑誌
Journal of Pesticide Science (ISSN:1348589X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.Special, pp.465-473, 1978-12-20 (Released:2010-08-05)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

This review summarizes recent research on the metabolism of pesticides by GSH conjugation, the role of this reaction in pesticide selectivity in mammals and plants, and characteristics of GSH S-transferases. GSH conjugation occurs with organophosphorus insecticides, γ-BHC, organothiocyanate insecticides, s-triazine herbicides, thiocarbamate sulfoxides, fluorodifen, EDB and monofluoroacetic acid. GSH S-transferases are widely distributed in mammals, birds, fishes, insects, plants and microorganisms. The highest activity is found in the mammalian liver and microorganisms are low activity. Plant enzymes are very stable. GSH S-transferases from mammals and insects comprise a group of enzymes which have overlapping substrate specificities. Chemical structures possessing an electrophilic center, high SN reactivity, and the reactive center of low electron density can conjugate readily. The formation of a GSH conjugate destroys the biocidal properties of the parent molecule. The function of GSH S-transferases may be regarded as biological protection against electrophilic foreign compounds which have the capacity to bind to biological molecules with nucleophilic centers. The qualitative and quantitative differences in GSH S-transferases distributed in various organisms are closely associated with insecticide or herbicide selectivity and insecticide resistance. Dichloroacetamide antidotes act in corn to induce GSH and GSH S-transferase, resulting in rapid detoxication of thiocarbamate sulfoxides.
著者
宍戸 駿太郎
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.3-4, 2011-06-30 (Released:2014-08-09)
被引用文献数
1
著者
保田 時男 宍戸 邦章 岩井 紀子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_129-2_136, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
9
被引用文献数
2

日本の社会調査の回収率は2005年以降に急落している。大規模調査の回収率を短期的に改善するためには、調査員の行動の適切な把握が不可欠である。本稿では、そのための手段として訪問記録の活用を提案する。すべての訪問について、その日時と、訪問時に接触できた人を記録しておけば、調査員の行動とその結果を概括することができる。JGSS-2005~2006における訪問記録の分析結果は、その有効性を如実に表している。訪問記録から、JGSS-2006における回収率の改善は、調査対象者の協力的な反応と調査員の粘り強い訪問によってもたらされたことがわかった。また、若年女性の回収率が改善していない原因が、集合住宅の居住者の増加による接触成功率の低下にあることや、調査対象者の家族については協力的態度が喚起されていないことなどが明らかになった。大規模調査の回収率を改善するには、このような事例研究の積み重ねが重要である。
著者
宍戸 邦章/佐々木 尚之 佐々木 尚之
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.336-355, 2011-12-31
被引用文献数
3

本稿の目的は, 2000年から2010年の期間に8回実施されたJapanese General Social Surveys (JGSS) の累積データに基づいて, 時代や世代の効果を考慮しながら, 日本人の幸福感の規定構造を検討することである. JGSSは, 各年または2年に1回実施されている反復横断調査であり, このデータをプールすることで, 単年度の調査では明らかにできない時代や世代の効果を検討することができる. また, 時代や世代の効果を統制しながら, 個人レベルの変数の効果を検討することで, 特定の調査時点だけで成り立つ知見ではなく, より一般化可能な知見を得ることができる. 分析手法は, 階層的Age-Period-Cohort Analysisである. 個人は時代と世代の2つの社会的コンテクストに同時にネストされていると考え, 時代と世代を集団レベル, 年齢および幸福感を規定する他の独立変数を個人レベルに設定して分析を行う.<br>分析の結果, 次のことが明らかになった. (1) 年齢の効果はU字曲線を描く, (2) 2003年に幸福感が低下した, (3) 1935年出生コーホートや80年以降コーホートで幸福感が低い, (4) 出身階層や人生初期の社会的機会が幸福感の加齢に伴う推移パターンに影響を与えている, (5) 絶対世帯所得よりも相対世帯所得のほうが幸福感との関連が強い, (6) 就労状態や婚姻状態が幸福感に与える効果は男女によって異なる.
著者
斉藤 勇璃 白石 智誠 太田 和宏 根本 さくら 石川 一稀 宇田 朗子 小川 卓也 友広 純々野 中村 祥吾 山内 拓真 西川 和真 宍戸 建元 長野 恭介 蓬畑 旺周 稲垣 武 村井 源 迎山 和司 田柳 恵美子 平田 圭二 角 薫 松原 仁
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回全国大会(2020)
巻号頁・発行日
pp.4C2GS1303, 2020 (Released:2020-06-19)

シナリオライターの負担軽減と物語多様性の担保という観点から,ゲーム自動生成システムの開発の必要性が指摘されてきている.これまでに固有名の組みあわせによるシナリオ自動生成やダンジョン自動生成など,いくつかの挑戦は行われてきたが,ゲーム全体において一貫した世界観やストーリー展開を実現するのは困難だった.そこで本研究ではロールプレイングゲームを対象として,シナリオ自動生成,ダンジョン自動生成,BGM自動選択を統合したシステムの開発を行った.シナリオ自動生成においては,既存のゲーム作品のシナリオ分析結果に基づき,クエスト単位でのシナリオ自動生成を行った.次に生成された複数のクエストを統合してストーリーの破綻がない複合的なシナリオの自動生成を実現した.また,ダンジョンは自動生成を実現し,マップやキャラクターは生成されたシナリオに沿ったものを作成した.さらに,シナリオの各場面の機能や登場人物の感情状態に合わせたBGMの自動選択を実現した.これらのゲームの各種要素を自動的に生成して統合することで,ロールプレイングゲーム自動生成システムの構築を行った.
著者
渡部 真 宍戸 道明
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.41-46, 2016 (Released:2016-07-07)
被引用文献数
1

人間の精神状態はスポーツや知的作業の結果に影響を与え、とくに高い集中状態のとき良好な結果を得ることができる。この集中力向上のアプローチのひとつにバイオフィードバック (Biofeedback: BF) が挙げられる。BFは、工学的な手法を用いて生体情報を利用者の視覚あるいは聴覚へとフィードバックし、心身の随意的制御を可能とする技法である。このとき、生体情報の呈示手法の違いにより集中力向上効果には差異が生じると考えられる。そこで本研究では、集中力向上を目的としたBFの装置の開発設計を行い、視覚と聴覚のBFにおける集中力の向上効果を比較した。とくに(1)BF前後における集中力の向上度、(2)継続的なBFによる平均集中力の推移について評価した。実験(1)では、被験者は12名とし呈示手法により6名ずつに分け、各被験者の安静時とBF時の平均集中力を比較した。その結果、視覚呈示法は6名中5名、聴覚呈示法は6名全員の集中力が向上した。一方、実験(2)では被験者3名とし、実験(1)と同様の実験を10日間継続して行った。その結果、両呈示手法にて集中力の向上が確認された。しかし、関心意欲の低下や、聴覚呈示法が困難であるために向上効果にばらつきが生じるなどの問題点が明らかとなった。以上の結果より、BFの効果は感覚器官の特性に依存しないことが明らかとなった。そのため、BFの装置の設計では呈示手法のデザインが重要であるといえる。