著者
尾崎 茂 和田 清
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.42-48, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
35
被引用文献数
4 5

動因喪失症候群(amotivational syndrome)は, 有機溶剤や大麻等の精神作用物質使用によりもたらされる慢性的な精神症状群で, 能動性低下, 内向性, 無関心, 感情の平板化, 集中持続の因難, 意欲の低下, 無為, 記憶障害などを主な症状とする人格·情動·認知における遷延性の障害と考えられている.1960年代に, 動因喪失症候群は長期にわたる大麻使用者における慢性的な精神症状として報告された.その後, 精神分裂病の陰性症状, うつ病, 精神作用物質の離脱症候などとの鑑別が問題とされ, 定義の曖昧さを指摘する意見もあるが, 現時点では臨床概念として概ね受ケ入れられつつある.その後, 有機溶剤使用者においても同様の病態が指摘されるとともに, 覚せい剤, 市販鎮咳薬などの使用によっても同様の状態が引き起こされるとの臨床報告が続き, 特定の物質に限定されない共通の病態と考える立場がみられつつある.また, 精神作用物質使用の長期使用後のみならず, かなら早期に一部の症状が出現することを示唆する報告もある.1980年代より, X線CTなどを用いた有機溶剤慢性使用者における脳の器質的障害の検討によって, 大脳皮質の萎縮などが指摘されてきた.最近は, 神経心理学的手法, MRI, SPECTといった形態学的あるいは機能的画像解析などを用いて, 動因喪失症候群の病態をより詳細に解明しようとの試みがなされつつある.それによれば, 動因喪失症候群にみられる認知機能障害の一部には, 大脳白質の障害が関連し, 能動性·自発性低下には前頭葉機能の低下(hypofrontality)が関連している可能性が示唆されている.これについては, 動因喪失症候群の概念規定をあらためて厳密に検討するとともに多くの症例で臨床知見を重ねる必要がある.治療については今のところ決め手となるものはなく, 対症的な薬物療法が治療の中心である.賦活系の抗精神病薬や抗うつ薬を中心に投与しつつ, 精神療法や作用療法を適宜導入して, 長期的な見通しのもとに治療にあたることが求められる.
著者
林 智成 鈴木 信 米山 榮 尾崎 朋文 芳賀 康朗
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.411-419, 2011 (Released:2012-02-06)
参考文献数
10

【目的】鍼治療において最も深刻かつ重大な医療過誤である外傷性気胸を回避し、 安全な鍼治療を行う為に胸背部における体壁の厚さを計測し、 過去に行われた同様の報告と比較しする。 また、 身体測定によって得られる測定値の意義と問題点について検討する。 【対象と方法】対象は生体187例 (男性90名, 女性97名) とした。 これを性別及び体格別に分類した後、 Computed Tomography (以下CT) の画像を用いて、 医療用画像処理ソフトOsiriX (ver3.0 32-bit) にて背部における胸壁厚の計測を行った。 【結果】全187例の測定値の平均±標準偏差は、 気管部3.01±0.79cm、 肩甲部2.34±0.65cm、 最短部2.14±0.61cmであった。 なお、 最短部は肋骨角付近における体表から胸膜までの距離が最も短い部位とした。 最小値は最短部の0.94cm、 最大値は気管部の5.56cmであった。 分散分析により部位間の平均値を比較した結果、 全部位の効果に有意差を認めた。 これを性別に検討すると、 男女ともに部位の効果、 および気管部と肩甲部では性別の効果に有意差が認められた。 また、 体格別に検討した結果、 体格の効果、 および部位の効果に有意差を認めた。 BMI値と測定値の間にはいずれの部位においても強い正の相関がみられ、 年齢と測定値との間にはいずれの部位においても弱い負の相関がみられた。 今回測定を行った3部位と経穴との対応では、 概ね、 気管部は膏肓穴、 肩甲部はイキ穴、 最短部は膈関および魂門穴の辺りに相当すると予想された。 【考察】過去の報告および今回の検討では対象の条件に差異があるにも関わらず、 同様の結果が得られたことは、 過去の報告の重要性を改めて確認出来たこととして興味深い。 一方、 身体測定という方法を用いる際の対象は、 より臨床に近い条件に吟味すべきである。 今回の検討では、 体表-胸膜間の最短距離の計測には画像所見が有用であることが示唆された。 一方、 どのように精緻な計測や統計学的処理を駆使しても、 身体計測という方法論においては様々な不確定因子が混入する可能性は残されており、 計測によって得られた測定値を即、 安全な刺鍼深度と捉えることに対しては慎重にしなければならないと考える。 【結論】体壁厚の計測を行い、 安全な刺鍼深度の目安を解剖学的根拠に求めることは、 科学的検討という意味で非常に重要であると考える。 今回の検討と過去の報告の間には様々な測定条件の不一致があり、 単純に比較検討することは困難であったものの、 結果として同様の傾向が示されたことは興味深い。 また、 身体計測を行う際、 実際臨床により近い条件を備えた対象を検討する必要がある。 一方で、 身体計測という方法論においては様々な不確定因子が混入する可能性は残されており、 身体計測の結果得られた測定値を 「安全深度」 ではなく 「危険深度」 と呼称する方が、 むしろ適切であると考える。
著者
松井 大輔 尾崎 悦子 渡邉 功 小山 晃英 栗山 長門 上原 里程
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

申請者らは2003年より前向き研究として約500名(現在平均年齢:74.8歳、5年毎の追跡調査)のコホート集団を対象とした脳ドック検診を実施し、生活習慣・動脈硬化症・口腔内細菌と認知機能低下や大脳白質病変・微小脳出血との関連を明らかにしてきた。本研究は、これまでの申請者らの研究成果を基に、認知機能低下、脳の器質的変化、腸内細菌叢および口腔内状態と、唾液中の口腔内細菌叢(16Sメタゲノム解析)の関連を明らかに、解明を目指すことを目的とした。得られる研究成果は超高齢社会で増加する高齢者の認知症、脳血管疾患を口腔衛生の観点から予防するエビデンスとなり、ひいては口腔保健施策の発展に寄与する。
著者
竹橋 洋毅 高 史明 尾崎 由佳
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.388-397, 2021-02-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
36
被引用文献数
3

This study examined the effects of the implicit theory of intelligence and parenting ability on mental health. We conducted an internet survey of 824 parents who lived with their school-age children in elementary or junior high school, in which they rated the severity of parenting stressors they experienced, their mental distress from parenting, their subjective health, and their implicit theories about the plasticity of intelligence and parenting ability. Results indicated that a stronger fixed theory of parenting (i.e., belief that parenting ability is unchangeable) was related to less subjective health as well as a stronger relationship between the severity of a parenting stressor and the mental distress they experienced from parenting. Moreover, more fixed views of intelligence corresponded with greater mental distress from parenting and poorer health. These results suggest that incremental theories about parenting and intelligence might mitigate the negative effects of parenting stressors and reduce the risk of deteriorating mental health.
著者
尾崎 康
出版者
慶應義塾大学
雑誌
斯道文庫論集 (ISSN:05597927)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.267-306, 1977-12-20

森武之助先生退職記念論集一 北宋刊本二 南宋刊本(覆北宋本〉三 元刊本四 明刊本五 武英殿版系諸本六 増入諸儒議論通典詳節七 諸刊本の本文について
著者
尾崎(井内) 智子 オザキ(イウチ) トモコ Ozaki(Iuchi) Tomoko
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
社会科学 = The social sciences (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.105-131, 2015-11

論説(Article)本研究は、日本婦人団体連盟が行った「白米食廃止」運動をとりあげ、国民精神総動員運動にどのような影響を与えたのかを明らかにした。日本婦人団体連盟は、婦選獲得同盟が中心になってつくった組織で、1920年代に行われた女性参政権運動の流れをくんでいる。同連盟は1937年につくられると、最初に脚気予防の観点から白米食廃止が重要と考え、国・東京府・東京市のそれぞれの総動員運動でとりあげられるように働きかけた。日本婦人団体連盟の活動の結果、「白米食廃止」は東京府の政策にはとりいれられなかったが、政府と東京市内の総動員運動にとりいれられた。This study focuses on the movement to "Abolish the White Rice Diet" promoted by the Federation of Japanese Women's Organizations and discusses the impact of this campaign on the National Total Spiritual Mobilization Movement. The Federation of Japanese Women's Organizations was formed under the leadership of the Women's Suffrage League of Japan, which had been a prominent voice in the Women's Suffrage Movement during the 1920s. When the Federation was established in 1937, its leaders quickly realized the importance of eating germ rice to prevent beriberi and started lobbying activities not only on the national level but also on the prefectural and municipal levels. In the end, although many of the Federation's efforts were unsuccessful, the National Spiritual Mobilization Movement Central League and the Tokyo Municipal Government decided to adopt the recommendation to promote the consumption of substitute foods.
著者
尾崎 奈津
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.65-79, 2007-01-01
被引用文献数
1

本稿は否定命令文の機能と特異性,さらに命令文と否定の関わりについて記述したものである。従来,叙述の否定文は先に肯定的想定があってはじめて使用されることが知られているが,否定命令文も叙述の文と同様,肯定的な事態,すなわち命令文の対象となる行為が先にあって使用される。そしてその行為の成立する時間および意志性という二つの要因により,文の機能が,事態の実現を要求する《命令》から,〈不満の表明〉・〈当為的判断〉・対象となる行為に対する〈評価〉・〈願望〉に変化する。実例では後者の《命令》以外のもののうち,叙述文的な機能を担う〈不満の表明〉〈当為的判断〉〈評価〉の例が非常に多く出現する。しかもその中で〈評価〉は否定命令文に特有のものである。こうしたことから,否定命令文は肯定命令文に比べて叙述文に傾く傾向が強いといえる。
著者
尾崎 明人
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,日本語学習支援の活動に対する日本語ボランティアの意識を明らかにすること,ボランティア教室における教育方法の改善策を探ることを目的として,(1)ボランティアが運営する地域の日本語教室におけるコミュニケーションは,外国人の日本語学習,日本語習得にどのような効果をもたらしているか,(2)そのコミュニケーションは,日本人ボランティアにとってどのような学びの場になっているか,という二つの研究課題を設定した。この研究課題に沿って,1年目には愛知県下の日本語ボランティアおよそ1000名にアンケート調査票を配付し,475名分の有効回答を得た。2年目に調査票の量的分析を行い,3年目は自由記述欄の分析を行った。その結果,50代の主婦が全体の23%(107名)とボランティアの主力であること,ボランティアの約1割は420時間の日本語教師養成講座修了生など教師の卵であること,クラス形式の活動に従事するボランティアがもっとも多く,ボランティアの26%は日本語がほとんど分からない入門レベルの指導に当たっていることなどが明らかになった。ボランティア活動の意義として,外国人から感謝されることにやりがいを感じる(182名),外国人の日本語が伸びるのを見ると嬉しい(157名),外国人との交流で自分の世界が広がった(123名)など,日本語ボランティア活動の意義を示す自由記述が見られた。一方,外国人の多様性に対応するのが難しいという回答が多かった。1年目と2年目は日本語教室を合計36回見学し,2年目に16回分の授業を録音,録画し,7回分を文字化した。3年目は,談話資料をもとに授業展開の記述および日本人ボランティアの教授行動の分析を行い,さらに教室でのコミュニケーションを通して外国人学習者が定型表現を獲得していく過程の一端を明らかにした。

4 0 0 0 OA 病骨録

著者
尾崎紅葉 著
出版者
文禄堂
巻号頁・発行日
1904
著者
尾崎 由佳 後藤 崇志 小林 麻衣 沓澤 岳
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.87.14222, (Released:2016-03-10)
参考文献数
54
被引用文献数
31

Self-control refers to the ability to execute goal-oriented behavior despite the presence of temptation(s) to do otherwise. Since self-control has a wide-range impact on our daily lives, it is of critical importance to assess individual differences of self-control with a highly reliable and valid, yet simple, measure. Toward this end, three studies were conducted to test reliability and validity of the Japanese-translated version of Brief Self-Control Scale (Tangney, Baumeister, & Boone, 2004). The scale showed good internal consistency (Study 1) and retest reliability (Study 2). The total score of the scale was correlated with the self-reported indices of self-control (e.g., daily experience of ego-depletion, study hours) and performance in the Stop Signal Task (Study 3), indicating its high converging validity.
著者
大谷 貴美子 尾崎 彩子 松本 裕子 南出 隆久
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.204-211, 2000-05-20
被引用文献数
3

器と料理との色彩調和について研究する足がかりとして、最も単純な系として、つけ醤油と皿に着目し、醤油を入れるのに相応しい皿の色について、CRT上のカラーパレットを用いて検討を行った。白磁の皿に醤油を入れた画像を基本画像としてCRT上に取り込み、皿全体または皿の縁のみに、basic vivid colorの8色(スペクトラムブルー、サマサマーグリーン、若草色、カナリア、蜜柑色、シグナルレッド、マゼンダ、本紫)と各々の色の明度を50%から80%まで上昇させたものを用いて彩色した。そして、料理別(刺身、寿司、餃子、漬け物)に相応しいもの、醤油が美しくみえるもの、つけ醤油の皿の色として不適当なものについて検討を行った。その結果、刺身や寿司など生ものの新鮮さが要求される料理の場合は、ブルー系が好まれたが、漬け物や餃子ではむしろ、黄色を含む暖色系の方が好まれた。また、皿の縁のみに彩色した場合、餃子では、シグナルレッドが好まれるなど、同じつけ醤油の皿であっても用途によって、選ばれる皿の色が異なることが示唆された。色の世界は多様であり、実際の器を用いての研究には限界があるが、コンピューターを用いることで、視覚による美しさ、特に料理と器との関係について研究できる可能性が示唆された。
著者
尾崎 康
出版者
三田史学会
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.61-88, 1967-11

The Wen-lin-kuan was established on the ping-wu day 丙午 of the second moon in the fourth year of wu-ping 武平 (573), as indicated in the Pel Ch'i shu Hou-chu chi. 北斉書後主記 This may be illustrated as follows. In the autumn of 573 soon after the compilation of a great anthology named Sheng-shou-t'angyu-lan 聖寿堂御覧 was completed, Premier Tsu Ting 祖珽 summoned seventeen literary gentles to the Hsiu-wen-tien to assign them to revise and supplement the anthology. Prior to this revision work, Emperor Hou-chu, who had been reputed extremely imbecile and fond of screen paintings with pictures of the famous old sages and varied stanzas of contemporary light verse, sometimes invited Yen Chih-t'ui 顔之椎 and others to the Court as Kuan-k'o 館客 and enjoyed their company in reciting poems. After Yen joined in the revision, in the second moon of 574 the two circles were combined to form the Wen-lin-kuan, with the participating literary gentles renamed tai-chao 待詔. The Hsiu-wen-tien yu-lan was completed a month after the Wen-lin-kuan was thus set up. Although the anthology is no longer extant, it was composed of 360 scrolls, according to the existing catalogues. It was to be used as one of the sources in the preparation of the T'ai-ping yu-lan 太平御覧 of the Sung Dynasty.松本信廣先生古稀記念