著者
加藤 隆之 日下 博幸
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.8, 2013 (Released:2013-09-04)

1.はじめに斜面温暖帯の研究は古くから行われ、近年ではKobayasi et al (1994)は夜間の斜面上複数地点の鉛直気温分布を明らかにする実測的研究を行った。また、斜面冷気流、斜面温暖帯、冷気湖が動的相互作用を示すために斜面温暖帯を単独では考えられないことについても明らかにされている(Mori and Kobayasi 1996)。しかしながら、斜面温暖帯の詳細な時系列変化について、上空の風の場を含む観測や高解像度化した数値シミュレーションによる検証は現在まで行われていない。本研究は筑波山を例として、斜面温暖帯と斜面下降流の詳細な構造の時系列変化を観測と数値モデルにより明らかにすることを目的とする。2.斜面温暖帯の観測筑波山での斜面流・温暖帯の実態を明らかにするため2012年12月9日よりウェザーステーション、サーモカメラ、パイバル、係留気球を用いた観測を行っている。本観測は、斜面流・斜面温暖帯の時間変化を気温・風の鉛直分布という双方の視点から捉えることが可能である。12月13日夜~14日の早朝の事例では、筑波山斜面南および北西斜面において顕著な斜面温暖帯が観測された。12月13日21時の筑波山西側斜面のサーモカメラによる表面温度分布(図1左)によれば、標高200~300m付近に上下よりも3℃程温度が高い斜面温暖帯が存在している。一方、14日5時(図1右)のサーモカメラによる観測では、標高400~500mに帯状に高温帯が出現している。この時の斜面温暖帯は、前日21時のものよりも温度差としては小さく、その強度は1.5℃程度である。3.斜面温暖帯の数値実験数値モデルには階段地形を導入した二次元非静力学ブジネスク近似の方程式系を採用した。このような数値モデルは筑波山のような斜面の角度が複数段階となっている地形の斜面温暖帯の時間変化について議論が可能である。計算対象領域を水平20km、上空2500mとし、基本場の温数位勾配を0.004K/m、上空の地衡風を0m/sに設定した数値シミュレーションを行った。実験の結果から、十分に時間が経った山麓(計算開始5時間後)では地上に冷気湖が形成され、基本場の気温逓減率によって冷気湖面上部の斜面上に相対的に気温が高くなる斜面温暖帯が再現された(図2)。この結果は斜面温暖帯が冷気湖面の高度に対応しているという従来の研究結果と合致する。風速分布のシミュレーション結果からは冷気流の流入が活発になる高度と斜面温暖帯が同一であることや、冷気湖の発達により冷気湖面より下部に位置する地点では湖面上部と比較して風速が弱くなる様子が再現された。また、斜面下降流に対する補償流は、主に山地上部の水平方向から供給されており、斜面温暖帯形成要因として鉛直方向からの上空の高温位空気の流入(断熱圧縮による気温上昇)はないものと考えられる。
著者
久野 勇太 日下 博幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

1. はじめに<BR> 日本有数の大都市である名古屋が位置する濃尾平野およびその周辺では, 1時間に数十mmにも及ぶ強雨が度々観測されており, 研究が行われてきた. 統計解析を行った研究としては, 以下のようなものがある. 田中ほか(1971)は, 1961~1965年および1968年の計6年間において, 東海地方4県(静岡・愛知・岐阜・三重)の中で日雨量200 mm以上を観測した地点が1か所以上存在した計41日に対して, 名古屋のレーダーによるエコーセルの移動方向と雨量図との関係を調査した. 小花(1977)は, 1975~1976年の計2年間の5~10月に関してアメダスデータを用いて, 東海地方における強雨の発生域と潮岬の下層風向・混合比・不安定度との関係を調査した. 田中ほか(1971)と小花(1977)はともに, 濃尾平野周辺の山地における風上側に強雨域が見られることを示した. このように, これまでの研究の多くでは, 濃尾平野周辺で発生する降水に関して, 風向と降水発生域の関係性に著しい調査がなされてきた. 強雨による災害への対策のためには, さらに空間的・時間的に詳細な降水分布や強雨が発生しやすい時間帯の把握が, 重要であると考えられる.<BR> 本研究では, 空間的・時間的に高密度な観測データを用いて, 夏季の濃尾平野周辺における降水の発生分布・発生時間帯の特性を明らかにすることを目的とする.<BR><BR>2. 方法<BR> 本解析では, アメダスデータおよび愛知県・岐阜県の川の防災情報の10分間雨量データを使用する. 解析期間は, 2002~2009年の6~9月の全日(計976日)および真夏日(計510日)とする. また, 日界は日射の効果を考慮し, 日の出の時刻として06時(日本時間)と定めた. 解析に際して, 強雨日・短時間強雨日をそれぞれ, 以下の条件を全て満たす日と定義する.<BR> 強雨日:<BR> 1) 10 mm/h以上の1時間降水量(連続する6つの10分間降水量の合計値, 以下P_hour)を記録した日.<BR> 短時間強雨日:<BR> 1) 10 mm/h以上のP_hourを記録した日.<BR> 2) 短時間強雨開始時刻から短時間強雨終了時刻までが3時間以内.<BR> 3) P_hourが10 mm/h以上の期間の前後6時間に, 10 mm/h以上の降水が観測されていない.<BR>これらの定義において, 濃尾平野周辺における月平均降水量・強雨日出現確率・短時間強雨日出現確率を調査する. さらには, 濃尾平野周辺における, 強雨・短時間強雨の発生時間帯, 日最大1時間降水量の降水量別頻度を調査する.<BR><BR>3. 結果と考察<BR> 2002~2009年の6~9月における濃尾平野周辺の降水分布および降水発生時間帯の特徴として, 以下の点が挙げられる.<BR>1) 濃尾平野より北~北東側の山地において, 標高の高い地域を除いて, 月平均降水量・強雨日数・短時間強雨日数が多い.<BR>2) 濃尾平野における月平均降水量・強雨日出現確率・短時間強雨日出現確率は, 伊勢湾を囲む他の低標高地域における月平均降水量・強雨日出現確率・短時間強雨日出現確率に比べて値が大きい. さらには, 濃尾平野内でも北部の方がより値が大きい傾向にある.<BR>3) 濃尾平野より北東の山地では, 解析対象期間・真夏日ともに,10 mm/h以上の強雨・短時間強雨の発生は夕方に顕著なピークを持つ. また, 傾向は小さいものの, 濃尾平野内でも真夏日の夕方に10 mm/h以上の強雨の発生ピークが見られた.<BR><BR>謝辞<BR> 本研究は,文部科学省の委託事業「気候変動適応研究推進プログラム」において実施したものである.<BR><BR>参考文献<BR>田中勝夫・深津林・服部満夫・松野光雄 1971. エコーの移動方向で分類した東海地方の大雨の型. 気象庁研究時報 23:431-443.<BR>小花隆司 1977. 東海地方の強雨と地形(Ⅰ). 天気 24:37-43.<BR>
著者
鈴木パーカー 明日香 日下 博幸
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.59-72, 2015-03-10 (Released:2015-04-14)
参考文献数
33

暑熱指標 WBGT(wet-bulb globe temperature)に基づき,将来の日本の暑熱環境予測を行なった.これに先立ち,全国の官署データを基に 1991–2010 年 8 月を対象とした現状把握を行った所,現在の日本はすでに厳しい暑熱環境にあることが示された.特に関東以西の地域では 8 月の日中平均 WBGT 気候値が 26℃以上となっているが,これは日本生気象学会等が定める熱中症指針では「警戒レベル」に相当する.比較的冷涼な札幌や仙台などでも,WBGT 値が「危険レベル」に達することもあるという結果が得られた.将来予測は 21 世紀末の 20 年間をターゲットとし,全球気候モデルによる予測データを領域気候モデルによって高解像度化する力学的ダウンスケール手法を用いて行なった.その結果,将来の暑熱環境は現在よりさらに悪化し,特に中部以西の多くの地点で 8 月中 20 日以上が「危険レベル」(日最高 WBGT≧31℃)になると予測された.予測 WBGT 昇温量は東北地方で大きく,例えば将来の秋田市は現在の大阪市のような気候になる可能性が示唆された.
著者
日下 博幸 西森 基貴 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.369-378, 1998-05-31
被引用文献数
9

最高および最低気温偏差の季節変化パターンに着目した主成分分析を, 日本の24観測点について個別に行った.その結果に基づき, 比較観測点を用いることなく, 1観測点のデータから都市化に伴う過去90年間の気温上昇量を推定した.最低気温の第1主成分は, 冬季に大きな値を持ち, 年間を通して全て同符号となる季節変化パターンである.固有ベクトルとスコア時系列から推定された最低気温偏差の時系列(T′_min)には, 昇温のトレンドが見られる.また, この時系列のトレンド(ΔT′_min)と観測点のある都市の人口の対数との間には, 正の相関(相関係数0.76)がある.以上のこと等から, 第1主成分の季節変化パターンは主として都市気候のパターンであり, 時系列のトレンドは都市化に伴う気温上昇率であると推定された.また, このトレンドは0.4〜3.7℃/100年であり, 多くの地点で1℃/100年を越えている.一方, 日本における過去90年間の最低気温の上昇に対して, バックグラウンドの気候変化の影響は0〜1℃/100年程度であり, 昇温の要因として都市化の影響を無視できない大きさであることが明らかとなった.一方, 最高気温の季節変化パターンは最低気温と異なる.推定された最高気温偏差の時系列(T′_max)には最低気温のそれほど明瞭なトレンドは見られない.この結果, 過去90年間の最高気温の変動には, 都市化の影響が顕著に現れていないことが確認された.
著者
三上 岳彦 高橋 日出男 森島 済 日下 博幸
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

東京首都圏 200 カ所の高密度気温観測データと気象庁 AMeDASの風観測データを用いて、夏季気温分布の時空間変動および要因解明を試みた。夏季の海風卓越日と強い単風日について気温偏差分布の日変化のデータ解析および夏季典型日(夏型)を対象とした気温と風の再現実験(WRF モデル)から、関東平野内陸部での高温域に及ぼす風の効果が明らか担った。また、WRF モデルによる都市型集中豪雨の数値シミュレーションを行った結果、都市の存在が首都圏に降雨をもたらす可能性が示唆された。
著者
田中 創 守屋 岳 岩淵 哲也 日下 博幸
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.213-228, 2010-04-30
被引用文献数
1

近年,GPS可降水量の解析技術の進歩,計算機の高性能化,データ通信回線の大容量化等により数値予報のデータ同化に利用できる精度のリアルタイム解析が可能になった.本論文では,GPS可降水量のリアルタイム解析データの同化について事例解析で予測が改善した例について報告した後,予測ルーチンでの運用を想定した夏季(2007年7-8月)の同化実験を行い,GPS可降水量データのWRFモデルへの同化の影響を評価した.GPS可降水量データに関してはリアルタイム解析でも一定の精度のデータが得られた.事例解析の同化実験では,局地的な強雨の予測に成功した例を示した.統計解析を目的とした夏季2ヶ月間(2007年7-8月)の同化実験では,弱い雨,強い雨ともに降水頻度が増加し,スコア(ETS)がやや悪化した.そのため改善策として同化の際の条件設定について再考した.全期間のスコアでは弱い雨(0〜1mm/h程度)については若干スコアの改善が見られた.気象現象別のスコアでは前線性の降水や台風など比較的スケールの大きな現象についてはスコアの改善は見られなかったが,雷雨などの不安定性降水については陸上の水蒸気の詳細な分布を同化することによりスコアが改善し,GPS可降水量の同化が有効であることがわかった.
著者
三上 岳彦 森島 済 日下 博幸 高橋 日出男 赤坂 郁美 平野 淳平 佐藤 英人 酒井 慎一 大和 広明
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

東京首都圏に設置した独自の気温・湿度観測網と気圧観測網のデータ等を用いて、夏季日中のヒートアイランドの時空間変動を明らかにするとともに、熱的低気圧の動態と局地的短時間強雨発生との関連およびその要因の解明を試みた。夏季の気温と気圧データに主成分分析を適用した結果、上位主成分に、海陸風循環、ヒートアイランド、北東気流に関連した空間分布が認められた。局地的短時間強雨の事例解析を行い、豪雨発生の前後で気圧の低下と上昇が起こり、海風起源の水蒸気量の増加が確認できた。領域気象モデル(WRF)による都市域での短時間強雨発生に関する数値実験を行い、都市域で夜間の降水が増えていることが明らかになった。
著者
冨田 智彦 安成 哲三 斉藤 和之 吉兼 隆生 日下 博幸 安成 哲三 斉藤 和之 吉兼 隆生 日下 博幸 山浦 剛 橋本 哲宏 坂元 勇一
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究計画では、我が国の夏季水資源管理にとって重要な梅雨降水の年々変動特性、関連する大規模大気循環場、そして西太平洋における大気海洋相互作用の役割を議論する。主な研究成果は、(1)黒潮域の大気海洋相互作用が10 年規模の梅雨前線活動に及ぼす影響を明らかにした点、(2)エルニーニョ/南方振動現象が梅雨前線の北進中にその活動度をいかに変質させるか、を解明した点、そして(3)梅雨前線活動に2-3 年周期、3-4 年周期、そして新たに6 年周期変動の卓越を見出し、各時空間変動特性を明らかにした点、の3 点である。
著者
原 政之 日下 博幸 木村 富士男 若月 泰孝
出版者
日本流体力学会
雑誌
ながれ : 日本流体力学会誌 (ISSN:02863154)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.353-361, 2010-10-25
被引用文献数
1

過去100年間における全球平均の地上気温上昇は0.66℃である一方,東京の地上気温上昇は約3℃である.この違いの原因は,この間に顕著になった都市ヒートアイランドによる影響が大きい.都市ヒートアイランドによる地上気温の上昇は,冬季に最大となる.本研究では,都市キャノピーモデルを含む高解像度領域気候モデルWRFを用いて過去気候の再現実験を実施し,さらに擬似温暖化手法を用いて,SRES A2における2070年代を想定した将来気候実験を行った.これらから全球規模の気候変動が冬の東京都市圏における都市ヒートアイランド強度(Urban Heat Island Intensity;UHII)に与える影響を評価した.その結果,気候変動によって,夜間のUHIIは約20%以上強まることが示唆された.
著者
日下 博幸
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

つくば市のヒートアイランドの実態と要因を解明するために、2008年~2010年の夏季と冬季に道路沿いと公園内で気温の定点観測を実施した。その結果、2010年8月平均と2010年1月平均としてのヒートアイランド強度はそれぞれ1.6℃、0.8℃であることがわかった。また、規模の大きな公園ほど気温が低いこと、小規模な公園はその周囲の街区の気温とほとんど差がないこともわかった。つくば市の気温分布は都市規模のヒートアイランド効果と局所的な土地被覆効果の重ね合わせによって形成されていることがわかった。