著者
松尾 浩 小久保 光治 近藤 哲矢 三鴨 肇
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.827-830, 2003-07-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
10
被引用文献数
2 5

症例は43歳, 男性. 2001年3月22日午後9時頃より腹痛を自覚し, 腹痛が強度となり4時間後に救急車にて当院に緊急入院した. 腹部は軽度膨隆し, 全体に圧痛と筋性防御を認めた. 血液検査にてCRPは陰性であったが, 白血球の上昇を認めた. 腹部CT検査にてfree airと腹水, 骨盤腔にlow density areaを認めた. 肛門よりビニール製のひもが1mほど脱出しており, 出血を軽度認めた. 直腸異物による消化管穿孔の診断のもとに緊急手術を施行した. 開腹すると便汁を混じた腹水を認め, 骨盤腔に直径5.5Cm高さ19cmの哺乳びんを認めた. 腹膜翻転部から10cmの直腸前壁が長軸方向に10cmにわたり穿孔しており, 同部より哺乳びんが腹腔内に露出していた. 手術は同部を縫合閉鎖し, 横行結腸にて双孔式人工肛門を造設した. 経肛門的に異物が入った経過を何度も確認したが, 風呂場で転んだ拍子に哺乳びんが肛門から入ってしまったとのことであった. 術後6ヵ月後に人工肛門を閉鎖し経過良好である.
著者
脇本 仁奈 松尾 浩一郎 河瀬 聡一朗 岡田 尚則 安東 信行 植松 紳一郎 藤井 航 馬場 尊 小笠原 正
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-16, 2010-04-30 (Released:2020-06-26)
参考文献数
12

【目的】頸部回旋法は,頭を麻痺側に回旋して嚥下することで,嚥下後の咽頭残留を軽減させる摂食・嚥下代償法のひとつである.しかし,頸部を回旋した状態で長い時間食事をとるという姿勢は,身体へ負担がかかる可能性がある.そのため,頸部回旋の有効性を残したままで,できる限り摂食しやすい姿勢が望まれる.今回われわれは,若年健常者において,どの程度の頸部回旋角度から咽頭嚥下時の食物通過側に変化があるか検討した.【対象と方法】摂食・嚥下障害のない健常若年成人30 名(平均26 歳)を対象とした.被験者がバリウムを嚥下するときの頸部回旋角度を,正面位と左右各15 度,30 度,45 度および最大回旋位の合計9 角度に設定した.被験者が3 ml の液体バリウムを嚥下するところをVF 正面像にて撮影,記録した.デジタル化されたVF 映像上で,下咽頭での回旋側のバリウム通過の有無を同定した.各頸部回旋角度で,回旋側下咽頭をバリウムが通過した人の割合を比較検討した.【結果】正面位では,全例で両側をバリウムが通過していたが,頸部回旋角度が増すと,回旋側通過の割合が減少した.30度頸部回旋でのバリウムの回旋側下咽頭通過の割合は,右側回旋23%(7名/ 30名),左側回旋40%(12 名/ 30 名)と有意な減少を認めた(p<0.01).最大まで頸部を回旋すると,右側回旋1 名,左側回旋4 名のみで,バリウムが回旋側を通過していた.【結論】今回の検討より,頸部回旋が30 度以上になると,バリウムが回旋側下咽頭を通過した人の割合が有意に減少することが明らかになった.摂食・嚥下障害者への姿勢代償法は,必要十分な安全性をもち,かつできるだけ楽な摂食姿勢が望ましい.頸部回旋法の有用性は,通常VF や経鼻内視鏡を用いて決定される.今回の検討より,頸部回旋の有用性を確認するときには,30 度程度の回旋からその有効性を確かめてみる価値があることが示唆された.
著者
渡邊 裕 新井 伸征 青柳 陽一郎 加賀谷 斉 菊谷 武 小城 明子 柴本 勇 清水 充子 中山 剛志 西脇 恵子 野本 たかと 平岡 崇 深田 順子 古屋 純一 松尾 浩一郎 山本 五弥子 山本 敏之 花山 耕三
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.77-89, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
11

【目的】摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床および研究は,依然として未知の事柄が多く,根拠が確立されていない知見も多い.今後さらに摂食嚥下リハビリテーションの分野が発展していくためには,正しい手順を踏んだ研究が行われ,それから得られた知見を公開していく必要がある.本稿の目的は臨床家が正しい知見を導くために,研究報告に関するガイドラインを紹介し,論文作成とそれに必要な情報を収集するための資料を提供することとした.【方法】日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌に投稿される論文は症例報告,ケースコントロール研究,コホート研究,横断研究が多いことから,本稿では症例報告に関するCase report(CARE)ガイドラインと,The Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology Statement(STROBE 声明)において作成された,観察研究の報告において記載すべき項目のチェックリストについて紹介した.【結果】CAREガイドラインについては,症例報告の正確性,透明性,および有用性を高めるために作成された13 項目のチェックリストを説明した.STROBE 声明については研究報告の質向上のために作成された,観察研究の報告において記載すべき22 項目のチェックリストを解説した.【結論】紹介した2 つのガイドラインで推奨されている項目をすべて記載することは理想であるが,すべてを網羅することは困難である.しかしながら,これらのガイドラインに示された項目を念頭に日々の臨床に臨むことで,診療録が充実しガイドラインに沿った学会発表や論文発表を行うことに繋がり,個々の臨床家の資質が向上するだけでなく,摂食嚥下リハビリテーションに関する研究,臨床のさらなる発展に繋がっていくと思われる.本稿によって,より質の高い論文が数多く本誌に投稿され,摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床と研究が発展する一助となることに期待する.
著者
松尾 浩一郎 谷口 裕重 中川 量晴 金澤 学 古屋 純一 津賀 一弘 池邉 一典 上田 貴之 田村 文誉 永尾 寛 山本 健 櫻井 薫 水口 俊介
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.123-133, 2016-09-30 (Released:2016-10-22)
参考文献数
40
被引用文献数
1

目的:高齢者では,加齢だけでなく,疾患や障害などさまざまな要因によって,口腔機能が低下する。経口栄養摂取のためには,口腔機能の維持は重要な因子と考えられるが,口腔機能低下と栄養状態との関連性についてはまだ不明な点が多い。そこで,本研究では,全身疾患を有する入院高齢患者における口腔機能低下と低栄養との関連性を明らかにすることを目的とした。 方法:対象は,2015年10月から2016年2月までに藤田保健衛生大学病院歯科を受診した入院中の患者とした。対象者の口腔機能,口腔衛生に関する項目および栄養と全身状態に関する項目を調査した。Mini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)を用いて,栄養状態を正常群と低栄養群の2群に分類し,口腔と全身の評価項目が栄養状態と年齢で相違があるか検討した。 結果:口腔衛生,多くの口腔機能の項目で,低栄養群で有意な低値を示した。特に筋力系の項目で顕著であった。一方,高齢群においても,若年群と比して多くの口腔機能の項目が低値を示した。また,QOLやADLは,低栄養者および後期高齢群において有意な低下を認めた。 結論:入院高齢患者の低栄養は,多くの口腔機能の低下と関連していた。本結果から,栄養を指標として口腔機能低下を評価することの意義が示唆された。また,入院患者の良好な栄養状態を維持するためには,入院前からの適切な口腔管理により口腔機能が維持されることが重要であると考える。
著者
田坂 樹 日髙 玲奈 岩佐 康行 古屋 純一 大野 友久 貴島 真佐子 金森 大輔 寺中 智 松尾 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.312-319, 2023-03-31 (Released:2023-04-28)
参考文献数
19

目的:回復期リハビリテーション(リハ)において,口腔問題解消と摂食機能向上のためには,適切な口腔機能管理が不可欠である。今回われわれは,回復期リハ病棟における歯科の関わりを明らかにするため全国調査を実施した。 方法:回復期リハ病棟協会会員の1,235施設を対象に,歯科との連携に関する自記式質問調査を実施した。質問内容は,歯科との関わり方,連携による効果などから構成された。回答を記述統計でまとめ,歯科連携体制によって回答に相違があるか検討した。 結果:319施設(25.8%)から得られた回答のうち,94%の施設で入院患者への歯科治療が実施されていたが,そのうち院内歯科が26%,訪問歯科が74%であった。常勤の歯科医師と歯科衛生士の人数の中央値は0であった。院内歯科がある施設のほうが,訪問歯科対応の施設よりも歯科治療延べ人数が有意に多く,歯科との連携による効果として,患者や病棟スタッフの口腔への意識の向上との回答が有意に多かった。 結論:本調査より,限定的ではあるが,院内歯科がある施設では,常勤の歯科専門職は少ないが歯科との連携の効果を実感している施設が多くあった。一方,本調査の回答率から,回復期リハ病棟を有する病院では,歯科との連携がなされていない施設が多くあることも考えられた。今後,回復期リハにおける医科歯科連携強化に向けて,エビデンスの創出や診療報酬の付与が必要であると考えた。
著者
三井 誠 大澤 裕 酒巻 匡 長沼 範良 井上 正仁 松尾 浩也
出版者
神戸大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は、犯罪の捜査および立証の両面における科学技術の利用の実態を明らかにするとともに、比較法的・理論的分析を踏まえて、その適正な限界や条件を検討し、刑事訴訟法上の解釈論的・立法論的提言をおこなおうとするものである。3年間の研究期間を終了し、本年度においては、以下のような成果を得ることができた。1.2回の研究会を開催し、研究分担者が検討中のテーマならびに既に論文を執筆ないし公刊したテーマにつき、報告を行い、全員で討議した。 従前の研究状況を総賢して、刑事手続法上の問題点を抽出して検討を加えた個別テーマとして、次のものがある。「毛髪鑑定とその証拠能力」「強制的な体液の採取に附随する刑事手続法上の問題点」「筆跡鑑定とその証拠能力」「検証としての写真撮影とこれに対する不服申立の可否」「情報の押収」2.内外の関係文献・識料の収集・整理の作業を継続した。内外ともに関係資料・論文の増加が著しいため、文献目録の追補・改訂作業を開始し、進行中である。3.各研究分担者が、担当テーマにつき研究論文を執筆ないし執筆準備作業中である。主要なテーマについては、既に公刊されたものも含め、平成5年度中に発表(大学紀要・法律雑誌等)が完了する予定である。4.研究進行中の最大の問題は、進歩の著しい科学的捜査・立証手段それじたいの正確な理解を得ることに相当の時間を必要とする点であった(例えばDNAによる個人識別法の原理と手法)。現在までの具体的成果は、主として個別的な捜査・立証手段の問題点の分析となっているが、今後は、それらに共通する法律上の問題点の抽出と統一的な視角からの分伏が課題となると思われる。
著者
脇本 仁奈 松尾 浩一郎 河瀬 聡一朗 隅田 佐知 植松 紳一郎 藤井 航 馬場 尊 小笠原 正
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.3-11, 2011 (Released:2011-12-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1

頸部回旋法の液体嚥下時の有効性についての報告はあるが, 食物咀嚼時の嚥下前の食物通過への影響は明らかになっていない。また, どの程度の頸部回旋角度が代償手技として有効であるかは不明である。今回われわれは, 咀嚼嚥下時に頸部回旋角度を変化させ, 嚥下までの咽頭での食物通過側の変化について検討した。若年健常者22名が頸部回旋し, 液体バリウム5 mlとコンビーフ4 gを同時に摂食した時の咽頭での食物の流れを経鼻内視鏡にて記録した。頸部回旋角度は, 正中, 左右各30度, 最大回旋位の5角度とした。嚥下までの舌根部, 喉頭蓋谷部, 下咽頭部での食物先端の流入側および嚥下咽頭期直前の咽頭での食物の分布を同定し, 食物通過の優位側について解析した。喉頭蓋谷部では, 頸部回旋側の食物通過の割合が増加する傾向がみられた一方で, 下咽頭部では非回旋側での食物通過の割合が増加する傾向を示した。嚥下開始直前でも, 食物は, 喉頭蓋谷部では回旋側と正中部に多く存在していたが, 下咽頭では非回旋側に多く認めた。頸部回旋角度は30度と最大回旋で, 食物通過経路に有意差はなかった。食物咀嚼中, 頸部回旋すると喉頭蓋谷までは回旋側へ優位に流入するが, 頸部回旋による物理的な下咽頭閉鎖により, 食物が下咽頭へと侵入するときには反対側へと経路を変えることが示唆された。さらに, 姿勢代償法として頸部回旋法は, 最大回旋位まで頸部を回旋する必要性がない可能性が示された。
著者
松尾 浩一郎 中川 量晴
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-7, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

目的:Chalmersらによって開発されたOral Health Assessment Tool (OHAT)は,看護,介護スタッフが障害者や要介護者の口腔問題を簡便に評価するための口腔スクリーニングツールである.評価項目は,口唇,舌,歯肉・粘膜,唾液,残存歯,義歯,口腔清掃,歯痛の8項目が,健全から病的までの3段階に分類される.今回われわれは,口腔スクリーニングツールとして再現性と妥当性が示されているOHATの日本語版(OHAT-J)を作成し,その信頼性と妥当性を検討した.方法:介護福祉施設入居者30名(平均年齢83.0±8.5歳)および某大学病院神経内科入院中の患者30名(平均年齢69.4±13.3歳)を対象とした.両施設で,歯科衛生士(DH)と看護,介護スタッフがOHAT-Jを用いて対象者の口腔内を評価した.信頼性評価のために,DHによる評価を基準とし,各評価者とDHの評価点数との一致率とκ係数を求めた.また,外的妥当性を評価するために,他の口腔評価尺度との相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.結果:信頼性の検討では,唾液や軟組織では平均75%以上の一致率を認めたが,介護福祉施設では口腔清掃の項目が平均50%程度の一致率であった.他の口腔評価指標との相関は0.39~0.97と,すべての項目で中等度以上の有意な相関を認めた(p<0.05).結論:本結果よりOHAT-Jは,信頼性と妥当性を有することが示され,施設や病院などでの要介護者や障害者への口腔スクリーニングツールとして使用できることが示唆された.
著者
杉原 隆太 松尾 浩志 平田 明生 柏瀬 一路 樋口 義治 安村 良男 上田 恭敬
出版者
特定非営利活動法人 日本冠疾患学会
雑誌
日本冠疾患学会雑誌 (ISSN:13417703)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.26-30, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
8

症例は74歳男性.2013年11月上旬に近医で腹部大動脈瘤を指摘されて当院へ紹介された.術前の冠動脈CTでは,左冠動脈から右冠動脈が分岐する単一左冠動脈症と,左冠動脈主幹部と前下行枝の石灰化を伴う高度狭窄が認められた.腹部大動脈瘤は瘤径の拡大傾向と胸背部痛が認められたため切迫破裂状態と考え,まず腹部大動脈瘤に対して開腹手術を行った.術後狭心症症状が増悪したため,陳旧性脳梗塞による右半身麻痺や肺気腫などの全身状態を考慮し,経皮的冠動脈形成術による血行再建術を行う方針とした.術中は,ノルアドレナリン,アトロピンの使用に加えて,大動脈バルーンパンピングでサポートを行いながら,冠動脈灌流型バルーンを用いて経皮的冠動脈形成術を合併症なく施行することができた.術後経過良好であり,療養型病院へ転院となった.単一左冠動脈症例の左冠動脈主幹部病変に対して冠動脈灌流型バルーンを用いて経皮的冠動脈形成術を施行し得た1症例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.
著者
関本 愉 松尾 浩一郎 片山 南海 岡本 美英子
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.118-126, 2020-09-30 (Released:2020-10-25)
参考文献数
40

目的:今回われわれは,胃がん周術期患者における術前の口腔機能低下症(Oral Hypofunction, OHF)の罹患率および栄養状態との関連性について検討した。 方法:2018年6月から2020年3月までに当科に周術期口腔管理目的で受診した胃がん患者214名を対象とした。OHFの7項目を測定し,3項目以上が診断基準に該当した場合にOHFと定義した。また,2019年7月よりMini Nutrition Assessment(MNA)を用いて栄養状態を評価した。70歳未満を若年群,70歳以上を高齢群とし,口腔機能の測定値とOHF罹患率が年齢とがんのStageによって差があるか検討した。また,OHFの有無とがんのStageでMNA値に差があるかについても検討した。 結果:舌圧,咬合力,舌口唇運動機能の各値は,高齢群で有意に低かった。また,舌圧はStageの進行とともに低下していた。OHF罹患率は,若年群では25%であったが,高齢群では39%と高齢群で高い傾向にあった。また,Stage 2以上の患者では,高齢群で低舌圧,咬合力低下,舌口唇運動機能低下の該当率が有意に高かった。MNA値はOHF罹患者で有意に低値を示していた。 結論:胃がん周術期患者では,がんの病期によらず,70歳以上の高齢者で口腔機能が低下していることが明らかになった。また,がんのStageの進行とともに舌圧が低下していることが示唆された。OHFは栄養状態とも関連している可能性があり,術後栄養管理の一環として,周術期における口腔機能への評価と介入が必要と考えられた。
著者
橋本 巌 澤田 忠幸 松尾 浩一郎
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では、成人期および成人になろうとする青年期における感情経験(つらさや感動)によって「泣くこと」が、自己の内面や他者との関係を揺り動かし内省する機会となり、自他認識の変容をもたらすという可能性を検討した。19年度は、中年期(看護師、およびボランティア)を対象として、成人版の泣き経験状況と泣きによる心理的変化を調査・分析した。また青年対象では、つらさによる泣き(17、18年度)に加えて感動による泣きを検討した。本年度までの主要な成果を報告する:1.泣きを経験する状況本研究では、結果的な泣きの頻度ではなく、泣きそうになって自己抑制する喚起過程を考慮した新たな泣き経験尺度を開発した。自分の直接的つらさによる泣き状況には、青年・成人共通に、A愛着危機、B自己確信のなさ、があり、成人ではC対人的葛藤(対人的業務にかかわる)が見出された。一方、代理的(共感的)な泣き状況因子は、青年・成人ともにD身近な他者の肯定的(またはE否定的)感情、Fメディア・物語の他者の感情、の3因子が抽出された。代理的泣きの傾向は、過去の感動経験の影響を受ける。また代理泣き傾向は、感動時の実際の落涙を促すと実験的に実証された。直接・代理の泣き状況因子には年齢差を示すものがあった。2.つらい状況での泣きによる心理的変化は、(1)自己意識の変化(共通に、(1)解放・安堵、(2)自己の直視・意欲(3)否定的現実の実感、成人では他に(4)消極的態度、(5)絆の実感)と(2)他者への影響(6)泣きへの否定的評価、(7)被援助・慰め、成人では他に(8)他者の巻き込み)とから捉えられた。泣きによる他者への影響は自己意識の変化と相関した。心理的変化は気分変動だけでなく持続的な人格面も含み、肯定・否定両面がある。また上記の(1)、(2)、(5)は感動による心理的変化とも共通する。3.泣きによる心理的変化に影響する要因として、泣きエピソードにおける感情、出来事の種類や、泣く際の対人表出選択(ひとりで泣くか、他者の前で泣くか)、性別、パーソナリティ要因(多元的共感性、ストレス対処)の関与が示された。上記諸要因間の関係の考察・モデル化が課題である。
著者
太田 喜久夫 才藤 栄一 松尾 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.64-67, 2002-06-30 (Released:2020-08-20)
参考文献数
2

我々は,嚥下障害患者の直接嚥下訓練に有効な頸部回旋とリクライニング座位の体位が,その組み合わせにより逆に問題を生じる可能性を考えている.今回その具体例を経験したので症例を紹介するとともにその機序について健常者で実験を行い確認したので報告する.症例は49歳男性で蘇生後脳症による両側性片麻痺や嚥下障害が著しく,主要栄養管理は胃瘻(PEGによる)で行われていた.ビデオ内視鏡検査の所見でリクライニング座位30度・右頸部回旋45度の姿勢で食塊の嚥下前気管内誤嚥を観察した.次に実験として健常者におけるリクライニング座位と頸部回旋の組合せによる食塊の通過経路について嚥下造影検査を用いて検討した.その結果リクライニング座位と頸部回旋の組合せによっては,食塊が回旋側の梨状窩に貯留後上方である反対側の梨状窩へ押し上げられ,嚥下時の喉頭挙上や披裂・声帯閉鎖が不十分な場合には喉頭内侵入や誤嚥が生じる危険が示唆された.以上から頸部回旋やリクライニング座位の姿勢の組合せには誤嚥予防の注意を必要とし,嚥下造影やビデオ内視鏡を用いた食塊通過経路や誤嚥の有無についての評価が行われるまでは,リクライニング座位の場合頸部は回旋させずに食塊が均等に左右の梨状窩を通過するように食事介助を行ったほうが安全ではないかと考えられた.
著者
岡田 澄子 才藤 栄一 飯泉 智子 重田 律子 九里 葉子 馬場 尊 松尾 浩一郎 横山 通夫 Jeffrey B PALMER
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.148-158, 2005-08-31 (Released:2020-12-26)
参考文献数
15

嚥下肢位として広く使用されているChin downを機能解剖学的肢位と関連づけることを目的に,摂食・嚥下障害を扱っている日本の言語聴覚士34名を対象に郵送と電子メールでアンケート調査した.回収率は88% (30名).1)Chin downの日本語名称は「顎引き」57%,「頚部前屈位」20%など様々で5通りの呼称があった.回答者の臨床経験年数,取り扱い患者数による傾向の違いはなかった.2)Chin downとして5つの頭頚部の機能解剖学的肢位像からの選択では,頭屈位53%,頚屈位30%,複合屈曲位17%の3肢位像が選択された.3)5つの頭頚部肢位像の呼称としては,肢位像おのおのが複数の名称で呼ばれ,逆に同じ呼称が複数の肢位像に対して重複して用いられ,1対1に対応させることが困難であった.4)Chin downに比べChin tuckという名称は知られていなかった.5)回答者のコメントとして「名称や肢位の違いは意識していなかった」などの感想があった.これらの結果は,Chin down肢位が機能解剖学的肢位としては極めて不明瞭に認識され,かつ,多数の異なった解釈が存在していることを意味した.Chin downをめぐっては,実際,その効果についていくつかの矛盾した結果が争点となっている.以上のアンケート結果は,その背景として様々な呼称と種々の定義が存在し,多くの混乱が存在する現状をよく反映していた.混乱の原因として,1)肢位が専ら俗称による呼称を用いて論じられ,また,具体的操作として定義されてきた,2)頭頚部肢位の運動が主に頭部と頚部の2通りの運動で構成されているという概念が欠如していた,3)訳語を選択する際に多様な解釈が介在した,などが重要と考えられた.今後,Chin downを機能解剖学的に明確に定義したうえで,その効果を明らかにしていく重要性が結論された.