著者
齋藤 みのり 佐野 伸之 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.72-77, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

自閉症スペクトラム児の対人社会性を阻害する要因の一つに,ファンタジーへの没入現象が指摘されている.今回,ファンタジー没入行動により,様々な日常生活の遂行に支障をきたしていた広汎性発達障害男児に対し,ファンタジーを外在化する作業活動を通した支援を行った.本児は,架空のカードゲームを頭の中で展開する遊びに,様々な日常生活場面で没頭していた.作業療法では,頭の中に描いているファンタジーを外在化し,それを用いて一緒に遊べるよう模索した.また,徐々に交流の場が広がるよう促した.これらの支援により,本児の頭の中のファンタジーが整理され,現実とのつながりを築いていき,生活障害が軽快したと考えられる.
著者
大林 隆司
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.31-39, 2015-05-31

純然たる海洋島である小笠原諸島の聟島列島、父島列島そして母島列島に分布する唯一のセミ、オガサワラゼミは固有種であるとされ、国の天然記念物に指定されている。しかし本種は、南西諸島に分布する同属の別種クロイワツクツクと形態的にも生態的(鳴き声など)にも極めて近く、そのため本種は明治時代以降に小笠原諸島が日本領になってから、南西諸島からの植物と共に移入された可能性が指摘されてきた。しかし、江戸時代末期に幕府が小笠原回収事業のために派遣し、文久二年から三年(1862年~1863年)に父島に滞在した本草学者、阿部櫟斎が書き残した日記(紀行文)、『豆嶼行記』ならびに『南嶼行記』の数か所に「蟬」の記述があることから、明治時代以前の江戸時代に父島にセミが分布し、その記述(形態、鳴き声、発生時期:秋)からも現在のオガサワラゼミの可能性が高いと考えられた。また、明治初期の明治16年(1883年)に曲直瀬愛が編纂した『小笠原島物産誌略』にも「蟬」の記述があり、このことを裏付けるものと考えられた。さらに、阿部櫟斎の父島滞在と前後して小笠原諸島(父島、兄島)を訪れたジョン万次郎も、「蟬」の声を聴いていた可能性があると推察した。
著者
齋藤 みのり 佐野 伸之 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.72-77, 2019

自閉症スペクトラム児の対人社会性を阻害する要因の一つに,ファンタジーへの没入現象が指摘されている.今回,ファンタジー没入行動により,様々な日常生活の遂行に支障をきたしていた広汎性発達障害男児に対し,ファンタジーを外在化する作業活動を通した支援を行った.本児は,架空のカードゲームを頭の中で展開する遊びに,様々な日常生活場面で没頭していた.作業療法では,頭の中に描いているファンタジーを外在化し,それを用いて一緒に遊べるよう模索した.また,徐々に交流の場が広がるよう促した.これらの支援により,本児の頭の中のファンタジーが整理され,現実とのつながりを築いていき,生活障害が軽快したと考えられる.
著者
綿引 大祐 吉松 慎一 竹内 浩二 大林 隆司 永野 裕
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.53-60, 2017-08-31 (Released:2017-12-01)
参考文献数
22

属 Acidon Hampson はインドからオーストラリア地域にかけて21種(そのうち2種は雌しか知られていない正体不明種)が知られ,Kononenko and Pinratana(2013)でいうところの“Mecistoptera generic group”に属する一群である.本グループには Acidon 属のほか,Mecistoptera Hampson,Perciana Walker,Hiaspis Walker,Hepatica Staüdinger,Coarica Moore,Ruttenstorferia Lödl,Lophomilia Warren の7属が含まれており,さらにHolloway(2008)は形態学的な研究から Gonoglasa Hampson も本グループに含めるべきとの見解を示している.また,本グループは全世界でおよそ600種を含む大属であるHypena Schrankと近縁であることから,ヤガ上科の中でも特に分類学的問題を抱えたグループに属している.ヤガ上科の高次分類は今なお混沌としており,本種を含む“Mecistoptera generic group”の種は,日本産蛾類標準図鑑2(岸田,2011)に従うとヤガ科アツバ亜科とカギアツバ亜科にまたがって含まれる扱いとなる.ここでは最近の分子遺伝学的な研究であるZahiri et al. (2012) に従いトモエガ科アツバ亜科として扱った.以下に本新種の特徴を示す.Acidon sugii Watabiki & Yoshimatsu sp. nov. シマイスノキアツバ(新称)前翅長:♂12.3-16.0 mm, ♀12.1-15.4 mm. 雄の触角は両櫛歯状で,下唇髭は非常に長く頭部の5倍程度の長さを有する.雌の触角は糸状で,下唇髭は雄より短い.雌雄ともに前後翅の色調は黒褐色から赤褐色で,前翅の内横線と外横線の間および亜外縁線より外側は暗色になる傾向があり,個体によっては薄紫色の鱗粉を散布する.環状紋は通常白色あるいは黒色の点状であるが,大きな白色紋状となる個体もある.前後翅とも裏面には黒褐色線があり,後翅はその内側に黒褐色紋を伴う.本種は日本における本属の初記録種で,交尾器の形態からボルネオ島より記載された Acidon calcicola Holloway が最も近縁な種であると考えられる.両種は外見上よく似ているが,本種の雄は触角が両櫛歯状,下唇髭が頭部の5倍程度の長さを有するのに対し,A. calcicola を含む Acidon 属の他の種は,雄の触角が繊毛状や毛束状であり,下唇髭は頭部の2-4倍程度の長さであることから容易に識別できる.また,雄交尾器からも明瞭に識別できる.分布:小笠原諸島(兄島・父島・母島). 寄主植物: マンサク科シマイスノキ (Distylium lepidotum Nakai)本種の兄島と母島から得られた1雄2雌の標本を用いた分子遺伝学的な検討も行った結果,得られた分岐図と解析データから,兄島と母島間においておよそ1%の塩基置換率が確認された(Fig. 14).また,チョウ目における同属内の種間のミトコンドリアDNA (COI) 領域の平均塩基置換率はおよそ7~8%であるとされるほか (Hebert et al., 2009; Hausmann et al., 2011),ヤガ科ヨトウガ亜科 Tiracola 属における近縁種の塩基置換率がおよそ5.1%程度であったことが示されているが (Watabiki and Yoshimatsu, 2013),今回分子遺伝学的解析を併せて行った Perciana marmorea Walker,ナンキシマアツバ Hepatica nakatanii Sugi, および本新種の平均塩基置換率はおよそ6.2%であり,属以上のレベルで一般的に見られるような大きな遺伝的差異は見られなかった.本種は日本産ヤガ上科の分類学者であった故杉繁郎氏の助言をもとに竹内・大林(2006)においてクルマアツバ亜科の属名・種名の未決定種として初めてリストアップされた種である.そこで本種の学名は杉繁郎氏に献名し,和名は杉氏が竹内と大林に書面上で提示していたもの(杉私信,1996)と同様に,シマイスノキアツバとした.なお,竹内・大林(2006)では“シマイスアツバ”として扱われたが,これは杉氏提案の和名を誤って略してしまったものである.
著者
大林 隆司
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.23-35, 2006-03-31

小笠原諸島では現在、さまざまな外来種に対する対策がとられつつあるが、その中で最近よく話題にのぼる"ニューギニアヤリガタリクウズムシ"について、発見から国外・国内の分布拡大までの経緯、小笠原諸島への侵入の経緯、生物的防除の素材としての認識から"侵略的外来種"としての認識への変化を述べるとともに、小笠原諸島における侵入確認後の研究を概説した。また、本種に関する最近の話題(外来生物法、広東住血線虫との関係、小笠原でとられつつある対策)についても述べた。
著者
大林 隆司
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.53-57, 2008-03

小笠原諸島は2007年1月に世界自然遺産の「暫定一覧表」に記載されることが決定した。そのため、各種の外来生物への早急な対策がますます求められており、ニューギニアヤリガタリクウズムシについても同様である。筆者は2006年に小笠原諸島における本種の状況について述べたが、それ以降の小笠原諸島における本種の知見(対策も含む)を述べた。
著者
京極 真 寺岡 睦 小林 隆司 河村 顕治
出版者
三輪書店
雑誌
作業療法ジャーナル (ISSN:09151354)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.521-524, 2014-06-15

Abstract:本論では,作業療法教育における学部・大学院5年一貫教育プログラムの概要を紹介し,実践報告を通してその利点と課題を明らかにした.今回,わが国の作業療法業界で初めて学部・大学院5年一貫教育プログラムに選抜された学生に対し,大学院教育を行った.その結果,意義として,①作業療法学の発展に貢献し得る人材を早期に育成しやすい,②作業療法養成課程におけるキャリアプランを豊かにし,学生のモチベーションの向上に資する,の2点があると論じた.他方,課題として,①教育体制の充実と工夫が必要である,および②大学院教育期間の短縮により受ける制約の検証が必要である,の2点があると論じた.
著者
中村 恵理子 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.755-762, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
20

作業療法士養成校にとって,学生の学習意欲を高め主体的な学習へ導くことは重要な課題である.本研究では,作業療法士を目指す学生が,主体的な学習へと学習意欲を変化させる過程について複線径路等至性アプローチを用い,変化の時期や内容を分析した.その結果,学習意欲の変化の時期は8つの区分に分かれ,早期からの学習意欲の向上には関係志向と自尊志向を利用した学習支援や早期体験型学習などで実用志向,充実志向を促すような学習の重要性が示唆された.
著者
那須 識徳 山根 伸吾 小林 隆司
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.532-540, 2022-05-18 (Released:2022-07-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1

目的:高齢になり運転などの移動手段を変更する必要がある場合に,個人の感情面や態度の準備状況を把握するための自記式質問紙としてAssessment of Readiness for Mobility Transition(ARMT)がある.本研究ではARMT日本語版(ARMT-J)の言語的妥当性を検証することを目的とした.方法:「尺度翻訳に関する基本指針」を参考にして「順翻訳,調整,逆翻訳,逆翻訳のレビュー,認知的デブリーフィング,認知的デブリーフィングのレビュー,校正,最終報告」を実施した.順翻訳と調整は国内の作業療法士3名が行い,逆翻訳は翻訳会社に依頼した.逆翻訳のレビューと認知的デブリーフィングのレビューは開発責任者に依頼し,認知的デブリーフィングは地域在住高齢者5名を対象に行った.結果:順翻訳では5項目,逆翻訳のレビューでは3項目で意見の相違が確認された.特に項目11の原文である「Moving to a retirement community is too restrictive for my desired mobility.」の中の「retirement community」は日本では普及しておらず,翻訳者間で日本語訳に相違を認めた.海外では「retirement community」は高齢者のための居住地域または建物と定義されており,翻訳にかかわった作業療法士3名と開発責任者にて協議のうえ,日本語訳は「高齢者のための住宅」とした.さらに,開発責任者に確認を行い,加齢のため移動手段を変更せざるを得ない場合,居住地域を変更する必要があるという意味が含まれているという補足文書をつけ,ARMT-Jを完成させた.結論:本研究ではARMT-Jの言語的妥当性を検討し,妥当と思われる日本語訳を作成した.
著者
野本 潤矢 石橋 裕 小林 法一 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.706-713, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
8
被引用文献数
1

訪問型サービスC(以下,訪問C)は,介護予防・日常生活支援総合事業の介護予防・生活支援サービス事業の1つであり,ADL/IADL課題の改善を主目標に,3ヵ月程度の短期間で支援を終結させる点が特徴である.要支援2認定のA氏は,作業工程の多さや洗濯かごの運搬距離の長さから,洗濯物を干す動作に努力の増大と効率性の低下を認めた.A氏が少ない疲労で効率よく干すことを目的に,洗濯物干しハンガーの位置変更など,作業遂行に焦点を当てて環境設定や動作方法を中心に助言した.その結果,3回の助言でA氏の作業遂行能力や健康関連QOLが向上した.作業療法士が訪問Cを担うことにより,短期間でADL/IADLの改善につなげることができると示唆された.
著者
那須 識徳 山根 伸吾 小林 隆司
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
pp.21029, (Released:2022-05-16)
参考文献数
18
被引用文献数
1

目的:高齢になり運転などの移動手段を変更する必要がある場合に,個人の感情面や態度の準備状況を把握するための自記式質問紙としてAssessment of Readiness for Mobility Transition(ARMT)がある.本研究ではARMT日本語版(ARMT-J)の言語的妥当性を検証することを目的とした.方法:「尺度翻訳に関する基本指針」を参考にして「順翻訳,調整,逆翻訳,逆翻訳のレビュー,認知的デブリーフィング,認知的デブリーフィングのレビュー,校正,最終報告」を実施した.順翻訳と調整は国内の作業療法士3名が行い,逆翻訳は翻訳会社に依頼した.逆翻訳のレビューと認知的デブリーフィングのレビューは開発責任者に依頼し,認知的デブリーフィングは地域在住高齢者5名を対象に行った.結果:順翻訳では5項目,逆翻訳のレビューでは3項目で意見の相違が確認された.特に項目11の原文である「Moving to a retirement community is too restrictive for my desired mobility.」の中の「retirement community」は日本では普及しておらず,翻訳者間で日本語訳に相違を認めた.海外では「retirement community」は高齢者のための居住地域または建物と定義されており,翻訳にかかわった作業療法士3名と開発責任者にて協議のうえ,日本語訳は「高齢者のための住宅」とした.さらに,開発責任者に確認を行い,加齢のため移動手段を変更せざるを得ない場合,居住地域を変更する必要があるという意味が含まれているという補足文書をつけ,ARMT-Jを完成させた.結論:本研究ではARMT-Jの言語的妥当性を検討し,妥当と思われる日本語訳を作成した.
著者
吉田 一平 平尾 一樹 野中 哲士 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-20, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
40

作業療法にて満足や楽しみといった肯定的な心理状態を考慮した支援を行うことが必要と考えられ,そのような心理状態を捉えた概念として「フロー理論」が挙げられる.今回,フロー理論を応用した作業療法に関する実践報告に関して文献レビューを実施した.結果として6論文が抽出され,それぞれの研究において,介入目的とした認知機能,高次脳機能のほか,フロー体験,健康関連QOLや主観的QOLの改善を認めた.今後は,作業療法/リハビリテーションにおける有効なアプローチの1つとして示されるよう,さらなる実践・研究が課題として挙げられた.
著者
綿引 大祐 吉松 慎一 竹内 浩二 大林 隆司 永野 裕
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.53-60, 2017

<p> 属 <i>Acidon</i> Hampson はインドからオーストラリア地域にかけて21種(そのうち2種は雌しか知られていない正体不明種)が知られ,Kononenko and Pinratana(2013)でいうところの"<i>Mecistoptera</i> generic group"に属する一群である.本グループには<i> Acidon </i>属のほか,<i>Mecistoptera</i> Hampson,<i>Perciana</i> Walker,<i>Hiaspis</i> Walker,<i>Hepatica</i> Staüdinger,<i>Coarica</i> Moore,<i>Ruttenstorferia</i> Lödl,<i>Lophomilia</i> Warren の7属が含まれており,さらにHolloway(2008)は形態学的な研究から<i> Gonoglasa</i> Hampson も本グループに含めるべきとの見解を示している.また,本グループは全世界でおよそ600種を含む大属である<i>Hypena</i> Schrankと近縁であることから,ヤガ上科の中でも特に分類学的問題を抱えたグループに属している.ヤガ上科の高次分類は今なお混沌としており,本種を含む"<i>Mecistoptera</i> generic group"の種は,日本産蛾類標準図鑑2(岸田,2011)に従うとヤガ科アツバ亜科とカギアツバ亜科にまたがって含まれる扱いとなる.ここでは最近の分子遺伝学的な研究であるZahiri <i>et al</i>. (2012) に従いトモエガ科アツバ亜科として扱った.以下に本新種の特徴を示す.</p><p><i>Acidon sugii</i> Watabiki & Yoshimatsu sp. nov. シマイスノキアツバ(新称)</p><p>前翅長:♂12.3-16.0 mm, ♀12.1-15.4 mm. 雄の触角は両櫛歯状で,下唇髭は非常に長く頭部の5倍程度の長さを有する.雌の触角は糸状で,下唇髭は雄より短い.雌雄ともに前後翅の色調は黒褐色から赤褐色で,前翅の内横線と外横線の間および亜外縁線より外側は暗色になる傾向があり,個体によっては薄紫色の鱗粉を散布する.環状紋は通常白色あるいは黒色の点状であるが,大きな白色紋状となる個体もある.前後翅とも裏面には黒褐色線があり,後翅はその内側に黒褐色紋を伴う.</p><p>本種は日本における本属の初記録種で,交尾器の形態からボルネオ島より記載された <i>Acidon calcicola</i> Holloway が最も近縁な種であると考えられる.両種は外見上よく似ているが,本種の雄は触角が両櫛歯状,下唇髭が頭部の5倍程度の長さを有するのに対し,<i>A. calcicola</i> を含む <i>Acidon</i> 属の他の種は,雄の触角が繊毛状や毛束状であり,下唇髭は頭部の2-4倍程度の長さであることから容易に識別できる.また,雄交尾器からも明瞭に識別できる.</p><p>分布:小笠原諸島(兄島・父島・母島). 寄主植物: マンサク科シマイスノキ (<i>Distylium lepidotum</i> Nakai)</p><p>本種の兄島と母島から得られた1雄2雌の標本を用いた分子遺伝学的な検討も行った結果,得られた分岐図と解析データから,兄島と母島間においておよそ1%の塩基置換率が確認された(Fig. 14).また,チョウ目における同属内の種間のミトコンドリアDNA (COI) 領域の平均塩基置換率はおよそ7~8%であるとされるほか (Hebert <i>et al</i>., 2009; Hausmann <i>et al</i>., 2011),ヤガ科ヨトウガ亜科 <i>Tiracola</i> 属における近縁種の塩基置換率がおよそ5.1%程度であったことが示されているが (Watabiki and Yoshimatsu, 2013),今回分子遺伝学的解析を併せて行った <i>Perciana marmorea</i> Walker,ナンキシマアツバ <i>Hepatica nakatanii</i> Sugi, および本新種の平均塩基置換率はおよそ6.2%であり,属以上のレベルで一般的に見られるような大きな遺伝的差異は見られなかった.</p><p>本種は日本産ヤガ上科の分類学者であった故杉繁郎氏の助言をもとに竹内・大林(2006)においてクルマアツバ亜科の属名・種名の未決定種として初めてリストアップされた種である.そこで本種の学名は杉繁郎氏に献名し,和名は杉氏が竹内と大林に書面上で提示していたもの(杉私信,1996)と同様に,シマイスノキアツバとした.なお,竹内・大林(2006)では"シマイスアツバ"として扱われたが,これは杉氏提案の和名を誤って略してしまったものである.</p>
著者
加賀 芳恵 木村 正明 枝 恵太郎 大林 隆司
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.41, pp.125-135, 2018-07-31

ホラズミクチバは成虫が洞窟に生息するという特色的な生態を持つ蛾の一種で、小笠原諸島の固有種である。これまで幼生期や食餌植物はもとより、その発生消長・動態に至るまで謎に包まれていたが、本調査により、食餌植物としてハツバキを利用していること、洞内で繁殖が行われていることなど生態の一端が明らかになった。