著者
森田 達也 野末 よし子 宮下 光令 小野 宏志 藤島 百合子 白髭 豊 川越 正平
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.317-322, 2012 (Released:2012-04-13)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究の目的は, 在宅特化型診療所とドクターネットの両方が存在する1都市におけるがん患者の自宅死亡率の推移を明らかにすることを通じて, 在宅特化型診療所とドクターネットの地域緩和ケアにおける役割についての洞察を得ることである. 緩和ケアの地域介入研究が行われた1地域でがん患者の自宅死亡率を2007年から2010年まで取得した. 自宅死亡率は, 2007年の7.0%から2010年には13.0%に増加した. 自宅死亡総数に占める在宅特化型診療所の患者の割合は49%から70%に増加したが, 在宅特化型診療所以外の診療所が診療したがん患者の自宅死亡数も63名から77名と減少しなかった. 在宅特化型診療所と一般の診療所のドクターネットは排他的に機能するものではなく, 両方のシステムが地域に存在することにより自宅で過ごすがん患者の緩和ケアの向上に寄与する可能性が示唆された.
著者
森岡 慎一郎 森 雅紀 鈴木 知美 横道 麻理佳 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.241-247, 2016 (Released:2016-10-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

終末期がん患者が発熱を呈した際,どのような検査や治療を重視するかという意向は医療者間で異なり,葛藤を引き起こしうる.本研究は,感染症診療に関する医療者間の意向の差異に繫がる要因や葛藤が生じる状況を同定することを目的に,終末期がん患者の診療に携わる医師,看護師20名を対象に半構造化面接を行った.意向の差異に繫がる要因としては,「予測される予後による」「検査・治療が患者の苦痛を伴うか否か」「医師の指示内容を受け入れられるか否か」などの要因のほか,「患者・家族が検査・治療を望んでいるか否か」「検査・治療による患者のメリットがあるか否か」などのカテゴリーが得られた.また,医師・看護師ともにお互いの認識のズレがある時や,相手の意図・指示が理解できない際に葛藤を感じていた.感染症診療に関する意向の差異がなぜ生じるのかを認識することで,終末期がん患者に対するチーム医療の質の向上に繫げられると考えられる.
著者
金石 圭祐 川畑 正博 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.130-134, 2015 (Released:2015-06-17)
参考文献数
16
被引用文献数
2

終末期がん患者における不眠は頻度の高い苦痛症状の1つである.患者だけでなく,家族や介護者にとっても負担は大きい.薬物療法は主要な対応の1つであるが,多くの終末期がん患者にとって薬剤の内服は困難となる.今回われわれは不眠に対しフルニトラゼパムの単回皮下投与の有効性を示すことを目的とした観察研究を行った.睡眠の評価にはSt. Mary’s Hospital Sleep Questionnaire を使用した.主要評価項目は睡眠の質とした.30人の患者が対象となった.良好な睡眠の質が得られた患者の割合は90%であった.平均睡眠時間は7.5時間で,入眠までの平均時間は31分であった.投与後2人がせん妄と診断された.平均呼吸回数の減少がみられたが,臨床的な問題はなかった.終末期がん患者における不眠に対し,フルニトラゼパムの単回皮下投与が有効に使用できる可能性が示された.
著者
岩淵 正博 佐藤 一樹 宮下 光令 森田 達也 木下 寛也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.189-200, 2016 (Released:2016-06-29)
参考文献数
47
被引用文献数
1 7

【目的】1)終末期医療に関する意思決定者の関連要因を探索すること,2)意思決定者の違いによる受ける医療やQOLへの影響を明らかにすること.【方法】がん・心疾患・脳血管疾患・肺炎で死亡した患者の遺族(N=409)を対象にインターネット調査を実施.終末期医療の主体的な意思決定者を「患者」「家族」「医師」「患者・家族・医師共同」の4件法で尋ねた.【結果】患者と比較して,意思決定者が家族であることには,患者と家族での終末期に関する話し合い(オッズ比〈OR〉=0.52),医師から患者への病状説明(OR=0.77),認知機能低下(OR=1.94)が関連し,医師であることには,医師から患者への病状説明(OR=0.62)が関連した.意思決定者の違いは遺族による患者QOL評価に影響し,医師が意思決定者の場合に有意に低かった(p=0.014).【結論】終末期医療に関する意思決定者の関連要因と影響が明らかとなった.
著者
西 智弘 森 雅紀 松本 禎久 佐藤 恭子 上元 洵子 宮本 信吾 三浦 智史 厨 芽衣子 中野 貴美子 佐藤 一樹 下井 辰徳 田上 恵太 江角 悠太 坂井 大介 古川 孝広 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.184-191, 2013 (Released:2013-07-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

【背景】わが国における緩和ケアの需要は年々高まり, 緩和ケア医の養成は重要な課題である. しかし, 緩和ケア医を目指す若手医師が, 教育研修体制やキャリア構築などに対して, どのような満たされないニーズを抱えているかは明らかになっていない. 【目的】緩和ケア医を目指す若手医師が抱えるニーズを明らかにする. 【方法】卒後15年目までの医師を対象にグループディスカッションを中心としたフォーラムを行い「必要としているけれども十分に満たされていないことは?」などに対する意見をテーマ分析を用いて分析した. 【結果】40名の医師が参加した. 若手の抱えるニーズは, 「人手の確保」「研修プログラム・教育の質の担保」「ネットワークの充実」「緩和ケア医を続けていくことへの障害の除去」「専門医として成長する道筋の確立」であることが示された. 【結論】緩和ケア医を育成していくため, これら満たされないニーズの解決を議論していくべきである.
著者
伊勢 雄也 森田 達也 前堀 直美 轡 基治 塩川 満 木澤 義之
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.213-218, 2010 (Released:2010-08-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

現在, 麻薬及び向精神薬取締法施行規則が改正され, 麻薬小売業者間での麻薬の譲渡/譲受が可能となったが, その制度の問題点については明らかにされていない.本研究は, この制度の普及と運用上の障害を明らかにすることを目的として行われた. 全国3,000施設の薬局の薬剤師に対して質問紙による郵送調査を行い, 1,036施設より回答を得た. 麻薬小売業者間譲渡許可免許を取得することにより麻薬が取り扱いやすくなる, またはなったと回答した施設は全体の20.2%であった. 取り扱いやすくならない, またはならなかった理由として, 手続きの煩雑さに関する問題のほかに, 麻薬の譲渡/譲受の規制についての問題点が挙げられた. 以上の結果より, がん患者の除痛を適切に地域で行えるよう薬局が機能するためには, 他の医薬品と同じように「医薬品販売業者への返品を可能にする」, または「備蓄薬局からの継続的な譲渡を可能にする」などが必要であることが示唆された. Palliat Care Res 2010; 5(2): 213-218
著者
森 雅紀 森田 達也
出版者
聖隷クリストファー大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

死亡直前期の患者が「今日亡くなる・今日は大丈夫である」ことの予測は重要である。本研究の目的は、1日以内の死亡を予測するモデルを開発・検証することである。国内23施設の緩和ケア病棟に入院したがん患者1896名の登録を行い、Palliative Performance Scale(PPS)≦20となった1396名の死亡直前期兆候を毎日取得した。再帰分割分析により予測モデルを開発し、交差検証を行った。1日以内の死亡率の最終モデルは、【尿量低下・下顎呼吸あり】(69%)、【尿量低下あり・下顎呼吸なし】(32%)、【尿量低下なし・意識低下あり】(15%)、【尿量低下・意識低下なし】(6%)だった。
著者
田口 菜月 升川 研人 青山 真帆 森田 達也 木澤 義之 恒藤 暁 志真 泰夫 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.193-200, 2023 (Released:2023-08-30)
参考文献数
15

【目的】緩和ケア病棟の質改善活動の実態と遺族調査のアウトカムとの関連を明らかにする.【方法】J-HOPE4に参加した187施設にアンケート調査を実施し,質改善活動実施状況と,施設を利用した遺族の全般的満足度,ケアの構造・プロセスの評価(CES),望ましい死の達成度(GDI),複雑性悲嘆(BGQ),抑うつ(PHQ-9)との関連を検討した.【結果】日本ホスピス緩和ケア協会の自施設評価共有プログラムへの参加,多職種カンファレンスの開催頻度・カンファレンス参加職種数が多い施設で全般的満足度やGDIが有意に高かった.遺族ケアを実施している施設で全般的満足度,CESが有意に高かった.遺族への電話を実施している施設でBGQが有意に低く,葬儀や通夜への参列を実施している施設でPHQ-9が有意に低かった.【結論】質改善活動を積極的に実施している施設では,緩和ケアの質が高く遺族の悲嘆や抑うつを軽減する可能性がある.
著者
森田 達也
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.63-69, 2022 (Released:2022-04-19)
参考文献数
27

従来, 小腸における食物繊維の生理作用は, 同時に摂取した栄養素と食物繊維との消化管内における相互作用を反映した結果から論じられ, 食物繊維の消化管自体に対する作用を研究した例は限られていた。本総説では, 食物繊維摂取時の小腸杯細胞応答とムチン分泌量について, 主に食物繊維の嵩と粘性から解析した結果について紹介し, 小腸由来ムチンが発酵代謝産物である短鎖脂肪酸を介して宿主‐腸内細菌の相利共生関係を下支えする内因性食物繊維として機能することについても言及する。さらに, 植物細胞壁由来の古典的食物繊維にくわえ, 近年, 新しい食物繊維素材として注目されている消化抵抗性デンプンや難消化性デキストリン類の消化管内動態を推定する上で, 現行のProsky消化を基本とする食物繊維定量法を用いることの妥当性を議論した。
著者
伊藤 怜子 清水 恵 佐藤 一樹 加藤 雅志 藤澤 大介 内藤 明美 森田 達也 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.135-146, 2020

<p>厚生労働省の受療行動調査におけるQuality of life (QOL)を評価する項目について,全国から無作為抽出した20〜79歳の一般市民2400名に対して郵送法による自記式質問紙調査を実施することにより,その国民標準値を作成することを目的とした.さらに,SF-8<sup>TM</sup>, Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9), Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG-PS), Memorial Symptom Assessment Scale(MSAS)などとの関連も検討した.分析対象は978部(41.1%)で,性年齢階級別人口統計によって重み付けした40歳以上のQOL指標の標準値は,「体の苦痛がある」33%,「痛みがある」33%,「気持ちがつらい」23%,「歩くのが大変」15%,「介助が必要」3%であった.本研究結果は,今後,受療行動調査を用いて全国的かつ継続的に患者の療養生活の質を評価し解釈していくにあたり,重要な基礎データとなる.</p>
著者
内藤 明美 森田 達也 神谷 浩平 鈴木 尚樹 田上 恵太 本成 登貴和 高橋 秀徳 中西 絵里香 中島 信久
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.255-260, 2021

<p>【背景】医療において文化的側面への配慮は重要である.本研究は沖縄・東北を例に首都圏と対比させ国内のがん医療・緩和ケアにおける地域差を調査した.【対象・方法】沖縄,東北,首都圏でがん医療に携わる医師を対象とした質問紙調査を行った.【結果】553名(沖縄187名,東北219名,首都圏147名)から回答を得た.地域差を比較したところ,沖縄では「最期の瞬間に家族全員が立ち会うことが大切」「治療方針について家族の年長者に相談する」「病院で亡くなると魂が戻らないため自宅で亡くなることを望む」などが有意に多く,東北では「特定の時期に入院を希望する」が有意に多かった.東北・沖縄では「がんを近所の人や親せきから隠す」「高齢患者が治療費を子・孫の生活費・教育費にあてるために治療を希望しない」が多かった.【結論】がん医療・緩和ケアのあり方には地域差があり地域での文化や風習を踏まえた医療やケアに気を配る必要がある.</p>
著者
的場 康徳 村田 久行 浅川 達人 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.321-329, 2020

<p>【目的】がん患者の終末期医療に携わる医師のスピリチュアルペイン(SPP)を明らかにする.【方法】医師の臨床体験レポートを記述現象学と3次元存在論で分析した.【結果】すべてのレポートで医師のSPPが抽出され,時間性,関係性,自律性に分類された.とくに医師の意識の志向性が,がん治療や症状緩和の限界や患者の訴えるSPPに対応できないことに向けられ,それが医師としての無力・無能として現れる自律性のSPPが大多数を占めた.自律性のSPPの体験の意味と本質は,[治療(キュア)の限界に直面している自己が無力として現れる][患者のSPPに対応できない自己が無力として現れる][自分を取り巻く外的な環境の問題(過重労働や教育の不備など)が原因で自己の無力が生じる]という三つの構造で示された.またキュアの限界で医師が患者に会いづらくなる,避けるという体験は医師の自律性のSPPへの対処(コーピング)の可能性が示唆された.</p>
著者
阿部 健太郎 三浦 智史 藤城 法子 沖崎 歩 吉野 名穂子 青木 茂 内藤 明美 真野 泰成 齊藤 真一郎 山口 正和 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.85-91, 2021 (Released:2021-03-22)
参考文献数
15

【目的】進行がん患者の遺族からみた多剤併用の状況と内服負担に関する体験や認識を明らかにする.【方法】がん患者の遺族303名に自記式質問票を郵送し,回答を得た.1回6錠以上の内服を多剤併用群,1回6錠未満の内服を非多剤併用群とし,内服負担や体験,認識について単変量解析を行った.102名の結果を解析した(有効回答率33.7%).【結果】多剤併用群(65名)は,非多剤併用群(37名)よりも遺族が患者の内服負担を感じた割合が高値であった(43.1% vs 10.8%,p<0.01).内服負担が少ない服用方法としては,現状よりも1回の服用錠剤数を減らしたいと希望していた.多剤併用群の遺族は,内服薬が多いことの懸念が強く,医療者からの内服薬に関する説明や相談できる医療者を希望していた.【結論】医療者は,服薬状況の確認とともに薬に関する家族の懸念についても十分に配慮する必要があることが示唆された.
著者
田村 恵子 西山 知佳 星野 明子 平井 啓 森田 達也 清原 康介 本間 なほ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、地域社会で病いとともに生きる人々や家族、市民と専門職で創るケアリングコミュニティにおける対話プログラムの効果検証を目的とする。CBPR(Community-Based Participatory Research)を主軸に、ケアリングに基づく対話パターンの実践知の共有、世代を越えた人々とのケアする対話の場づくりの検討、病いとともに生きる意味を探求するスピリチュアルケアガイドの作成を行う。地域社会における対話プログラムの効果を検討することで、今後の少子高齢・人口減少を向かえるわが国において、病いとともに生きる人々と市民が支え合い、主体的に生き抜くための地域共生社会実現への貢献を目指す。
著者
的場 康徳 村田 久行 森田 達也 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.45-54, 2021 (Released:2021-02-16)
参考文献数
27

【目的】スピリチュアルケア(SPC)の実践力の習得を目的とした研修の医師での効果を測る.【方法】自記式質問法により,教育介入前,直後,3カ月後,6カ月後に測定.【結果】医師30名が研修を修了.すべての主要評価項目が有意に改善し,その効果は介入6カ月間持続(すべてP=0.0001).スピリチュアルペイン(SPP)を訴える患者とのコミュニケーションの自信が高まり(6カ月後の効果量(Effect Size=1.3),SPCの実践の自己評価が高まり(ES=1.2),SPPを訴えられたときの無力感が軽減し(ES=0.8),SPCの経験を肯定的に捉えるようになり(ES=0.8),SPPを訴える患者にすすんで関わりたいと思うようになった(ES=0.4).96〜100%の医師が,SPCの概念理解と実際にSPCの方法を知ることについて本研修が「とても役に立った」または「役に立った」と評価した.
著者
日下部 明彦 野里 洵子 平野 和恵 齋藤 直裕 池永 恵子 櫁柑 富貴子 結束 貴臣 松浦 哲也 吉見 明香 内藤 明美 沖田 将人 稲森 正彦 山本 裕司 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.906-910, 2017 (Released:2017-03-24)
参考文献数
13

死亡診断時の医師の立ち居振る舞いは,その後の遺族の悲嘆に大きく影響を及ぼすと考えられているが,現在の医学教育プログラムのなかには,死亡診断時についての教育内容はほとんど含まれていない.われわれは遺族アンケートを基に「地域の多職種でつくった死亡診断時の医師の立ち振る舞いについてのガイドブック」(以下ガイドブック)を作成した.本ガイドブックを用い,横浜市立大学医学部4年次生に対し授業を行い,授業前後で死亡診断時の困難感,自己実践の可能性を評価するアンケート調査を行い解析した.有効回答を得た39名において死亡確認についての困難感についての項目は,「死亡確認の具体的な方法」が最も高く,89.5%であった.しかし,授業前後では,死亡診断時における自己実践を評価する項目で有意な改善がみられた.死亡診断時の医師の立ち居振る舞いについての卒前教育にわれわれが作成したガイドブックは有効な可能性が示唆された.
著者
野里 洵子 宮本 信吾 森 雅紀 松本 禎久 西 智弘 木澤 義之 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.297-303, 2018 (Released:2018-09-26)
参考文献数
24

【目的】緩和ケアの研修・自己研鑽に関するニーズに影響する要因を探索すること.【方法】緩和ケア医を志す卒後15年以内の医師を対象に質問紙調査を行い,満たされないニーズ(以下ニーズ)を5件法で評価した.ニーズは因子分析を行い,各因子の平均点を従属変数,背景要因を独立変数として単変量解析を行った.【結果】対象者284名に対して回答者は253名(89%),初期研修医・緩和ケア専門医などを除く229名を解析対象とした.ニーズは,研究・時間・キャリア・ネットワーク・質・幅広さの6つの因子が同定された.ニーズの因子得点に効果量≥0.4の有意差があった背景要因は,1)認定研修施設に勤務していない,2)勤務先・研修先が大病院ではない,3)施設内緩和ケア医数が2名以下であった.【考察】認定研修施設ではない病院,または小規模,または緩和ケア医の少ない環境で働く若手医師が受ける研修体制の改善は優先度が高い課題と考えられる.
著者
中里 和弘 塩崎 麻里子 平井 啓 森田 達也 多田羅 竜平 市原 香織 佐藤 眞一 清水 恵 恒藤 暁 志真 泰夫 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.263-271, 2018 (Released:2018-08-21)
参考文献数
31

【目的】1)緩和ケア病棟における患者と家族間の思いの言語化を支える家族支援(家族へのバーバルコミュニケーション支援)の有無と評価,2)家族へのバーバルコミュニケーション支援と「患者と家族との良好な関係性」および「ケアの全般的満足度」との関連を検討した.【方法】全国の緩和ケア病棟103施設における死亡患者の遺族968名に質問紙調査を実施した.【結果】536名を分析対象とした.支援を受けた遺族の割合は内容によって差がみられたが,評価は概ね高かった.重回帰分析の結果,患者と家族との良好な関係性では,全8つの支援で有意な正の関連が認められた.ケアの全般的満足度では,4つの支援(家族から患者への言語化の具体的提案,家族の思いを患者に伝える,患者の聴覚機能保持の保証,患者の思いを推察した家族への言葉かけ)で有意な正の関連が認められた(p<0.05).【結論】家族へのバーバルコミュニケーション支援の意義が示唆された.
著者
米永 裕紀 青山 真帆 森谷 優香 五十嵐 尚子 升川 研人 森田 達也 木澤 義之 恒藤 暁 志真 泰夫 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.235-243, 2018 (Released:2018-08-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

緩和ケアの質や遺族の悲嘆や抑うつの程度に地域差があるかを目的とし,2014年と2016年に実施された全国遺族調査のデータの二次解析を行った.ケアの構造・プロセスはCare Evaluation Scale(CES),ケアのアウトカムはGood Death Inventory(GDI),悲嘆はBrief Grief Questionnaire(BGQ),うつはPatient Health Questionnaire 9(PHQ-9)で評価した.関東をリファレンスとし対象者背景で調整し,比較した.CESとGDIは調整後も九州・沖縄で有意に高かった(p<0.05).BGQは調整後も中部,近畿,中国,九州・沖縄地方で有意に低かった(p<0.05).PHQ-9は調整後,有意差はなかった.いずれのアウトカムも効果量は小さく地域差がほぼないと考えられ,ケアの提供体制は地域で大きく変わらないことが示された.
著者
伊藤 怜子 清水 恵 内藤 明美 佐藤 一樹 藤澤 大介 恒藤 暁 森田 達也 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.761-770, 2017 (Released:2017-12-05)
参考文献数
19

質の高い緩和ケアを普及するための対策を検討するにあたり,症状緩和の具体的な目標値を設定するためには,一般市民の自覚症状の実態を把握する必要がある.しかし,これまでに本邦の一般市民における自覚症状の実態を調査した大規模な研究はない.そこで,全国から無作為に抽出した20〜79歳までの一般市民2400人を対象に,郵送による自記式質問紙調査を実施し,Memorial Symptom Assessment Scale(MSAS)を用いて身体,精神症状を多面的に調査した.分析対象は978部(41.1%)で,有症率,症状の強度,苦痛度を性別・年齢階級別に示し,症状の強度とSF-8™による健康関連quality of life(QOL)スコアとの関連を検討した.痛みが46.1%と最も有症率が高く,身体的QOLスコアと相関がみられた(ρ=−0.55).本研究結果は,本邦の一般市民における自覚症状の実態を示した有用な基礎データとなるであろう.