著者
池田 研介 高橋 公也 首藤 啓 石井 豊
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

系の多次元性はトンネル効果に根底的影響をおよぼす。特に系が非可積分系の場合にはカオス集合の存在による極めて複雑なトンネル現象がおこり<カオス的トンネル効果>とよばれる。この研究では古典力学をフルに複素領域に拡張した<半古典理論>を用いて、カオス的トンネル効果の基本機構が研究された。(1)カオス存在下でのトンネル効果があるクラスの量子写像に対して研究された。精力的な数値的研究によってトンネル効果に本質的に寄与する軌道はその形状からラピュータ鎖とよばれる極めて限られた集合に属す事が示された。このような集合の数学的意味が複素力学系理論の結果と数値的に得られた主張を組み合わせる事によって研究された。主要な結果はラピュータ鎖の閉包が前方ジュリア集合J^+と前方充填ジュリア集合K^+に挟まれるという主張である。他方J^+=K^+と推論され、これが正しければ、ラピュータ鎖の外枠がJ^+である事を意味する。動的障壁をトンネルした波動関数はJ^-の実成分に沿って形成される。これらの事実はトンネル波動関数の主要成分はカオス集合に稠密なサドルの複素化安定多様体-不安定多様体に嚮導されてトンネルする事を意味する。(2)あるクラスの障壁トンネル過程に焦点をあて、多次元障壁トンネル過程に特徴的な複雑なトンネル効果を支配する不変的機構が解明された。先ず複素半古典理論が強相互作用領域においても純量子論の波動行列を再現できる事が確認された。強相互作用領域ではトンネル成分には複雑な干渉フリンジが現れる。更に、複素安定-不安定多様体に嚮導された複素トンネル軌道がフリンジトンネル効果を支配するが示された。このような機構は古典的なインスタントン機構に代わる、全く新しい描像を提供する。数学的にはこの機構は軌道の多価性を保証する<動く特異点>の発散的な移動と密接に関係づけられる事が判明した。極めて異なる上記トンネル過程が複素化安定-不安定多様体を使った共通の機構に支配されるのは驚くに値する。多次元トンネルを特徴づけるこのような機構の発見はこのプロジェクトの目覚しい成果である。
著者
高橋 公也 池田 研介
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.26-88, 1995-04-20
被引用文献数
1

本記事は昨年(1994年1月12-14日)京都大学基礎物理学研究所でひらかれたモレキュール型研究会「音響系・光学系におけるカオス」において話題にとりあげられたいくつかの問題を、特に非線形力学系の立場から世話人が再編集しなおしたものである。個々の発表に関しては既に本誌に昨年掲載されているが(物性研究Vol.62,No.5(1994))その内容が音響学、楽器製作、楽器演奏、非線形光学、非線形動力学等の多岐多様な分野におよぶため世話人の立場から問題点を洗い直す方がよいのではないかと考え、このような記事を掲載するものである。
著者
池田 研二
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.175-180, 2014 (Released:2017-04-12)
被引用文献数
1

アルコール認知症には一次性と二次性があるが、一次性アルコール認知症の存在については議論がある。アルコール依存症の自験剖検例の検討から、一次性アルコール認知症と考えられた1 症例の脳病理を紹介した。特徴は前頭葉を中心に皮質第III 層の錐体細胞の萎縮〜脱落であった。萎縮細胞は脳回の頂部に多く、谷部には少なかったことや海馬や小脳皮質プルキンエ細胞には見られなかったことから、この萎縮細胞は虚血性変化ではなく単純萎縮と考えられた。一次性アルコール認知症の議論にはさらなる症例の蓄積が必要である。
著者
小野 芳彦 山田 尚男 池田 研二 斎藤 正男 山田 尚勇 大岩 元 小野 芳彦
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

前年度までの研究で、日本文の入力作業を大脳半球の言語作業優位性と操作空間作業優位性の問題としてとらえることの妥当性を実験的に検証した。本年度は最終年度であるため、研究のとりまとめを中心とした。1.操作空間作業であるタイピング作業を操作空間的に学習させるTコード練習システムの有効性を、獲得したコードの打鍵誤りの分析から示した。これは、コードの記憶誤りが記憶の空間的な構造を反映して特異な偏りを示すことを説明できるものである。2.Tコードの練習過程におけるコードの獲得を含めた習得経過のモデル化と、モデルの適用による練習文の評価をおこなった。文字をみてコードを打鍵することの繰り返しがコードの獲得につながる。一般的に、肉体的あるいは認知的作業速度の上達は繰り返しの回数の定数乗に比例するという法則を満たすが、打鍵速度の上達も、個々の文字の打鍵について同じ法則を適用して説明できることを示した。ただし、短期記憶に保持されたコードが再利用されない場合に限られる。初期の練習ではその保持できる文字数が2であることが観測された。ここで、練習文に同じ文字や文字列パターンの繰り返しがあると、それらは短期記憶に貯められ、コード獲得には役立たないことが示唆される。3.上記のモデルから、濃密ではあるが短期記憶に保持できないパターンの練習文を設計した。この新しい練習文による打鍵実験を新たな被験者に対して行ない、モデルの検証を合せて行った。実験データーから、短期記憶の保持文字数が2ないし3であることの確認ができた。さらに、句読点の直後には、短期記憶の消去が伴いがちであること、すなわち、練習文の読み取りのために短期記憶が占有されてしまうことが確認できた。
著者
池田 研
出版者
大阪歴史博物館
雑誌
大阪歴史博物館研究紀要 (ISSN:13478443)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.55-64, 2013 (Released:2022-06-11)

バイゴマは巻貝のバイの殻を素材にした独楽で、江戸時代には庶民の間で広く普及していたことが知られているが、考古学的には実態の不明な部分が少なくない。本紀要の第9号では大坂城下町とその周辺から出土したバイゴマの集成を行ない、文献史料と比較検討しながら年代、形状や作成技法、ユーザーの実態等について検討を加えた。本稿では、浪速区敷津東で出土した50点を超えるバイゴマや、難波宮・大坂城跡で出土したバイゴマ製造に係わる廃材など、新たに発見された資料をもとに、独楽の素材となるバイの選別基準や切断方法といった製造過程、製造業者の業態などについて検討した。その結果、大きさによって素材の選別が行われており、殻口側から連続して打ち欠くことで殻を切断したと考えられること、またバイゴマの製造業者が貝ボタンの製造を兼業していた可能性があることなどが明らかとなった。
著者
入谷 修司 羽渕 知可子 池田 研二
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.113-119, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
18

W.Griesinger(1817-1868)が「精神病は脳病である」“ Geisteskrankheiten sind Gehirnkrankheiten”という有名なテーゼを 150 年以上も前に残し,ドイツを中心に,精神医学は神経学と呼応しながら「精神神経学」として主に脳病理学から病態解明アプローチがなされた。それはひとつにはクレペリン(E. Kraepeline, 1856-1926)やアルツハイマー(A. Alzheimer, 1864-1915)などの業績へと結実した。患者観察から得られる臨床症状と,脳病理を中心とした脳機能とを結びつける臨床神経病理学を中心とした病態解明への努力は,精神疾患の責任病巣や臨床症状の成因に関する大きな手がかりをもたらした。近年の神経画像の技術進歩による脳形態情報や分子生物学的アプローチによって得られた疾患リスク遺伝子の情報などは,いまや「脳」という臓器を共通項として,神経病理学的な知見と収斂する時期を迎えていると考えられる。
著者
高橋 公也 池田 研介 九州工業大学情報工学部 立命館大学理工学部
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.26-88, 1995-04-20

本記事は昨年(1994年1月12-14日)京都大学基礎物理学研究所でひらかれたモレキュール型研究会「音響系・光学系におけるカオス」において話題にとりあげられたいくつかの問題を、特に非線形力学系の立場から世話人が再編集しなおしたものである。個々の発表に関しては既に本誌に昨年掲載されているが(物性研究Vol.62,No.5(1994))その内容が音響学、楽器製作、楽器演奏、非線形光学、非線形動力学等の多岐多様な分野におよぶため世話人の立場から問題点を洗い直す方がよいのではないかと考え、このような記事を掲載するものである。
著者
高橋 公也 池田 研介
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:06272997)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.26-88, 1995-04-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
著者
池田 和彦 額田 敏秀 池田 研二
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

3年研究の初年度、米国スタンレー財団精神疾患脳バンクより分与された疾患(統合失調症・双極性障害・大うつ病)・対照脳の前頭葉および側頭葉組織の遺伝子発現をDNAチップおよびTaqMan法でしらべたところ、ニューロペプチドY遺伝子の発現は、統合失調症(精神分裂病)の前頭葉で有意に減少していることを見いだした。次年度は、理研・加藤忠史氏との共同研究で同スタンレー試料前頭葉60検体について60個のDNAチップを用いて個別に比較検討し、統合失調症前頭葉でニューロペプチドY遺伝子の発現が低下することを確認した。ニューロペプチドY遺伝子の発現低下は、検索対象の年齢、性別、死後時間、服薬量とは関係しないことから、ニューロペプチドY遺伝子発現の低下が統合失調症の病態と関連している可能性が考えられた。そこで最終の本年度は、ニューロペプチトY遺伝子をターゲットとして、統合失調症患者と健常者に差がみとめられるかとうかをしらべた。ヒトのニューロペプチトY遺伝子の9カ所に1塩基置換の多型もみつけた。このうち7つはデータベースに存在しない新規のものであった。統合失調症群と健常者群のあいだでこれららの多型の出現頻度がことなるかどうかをしらべた。この結果、-485C>T多型は統合失調症の遺伝子リスクファクターであることか明らかになった。
著者
池田 研介 清水 寧 中田 俊隆 篠原 晋 山田 弘明
出版者
立命館大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

<高速拡散過程の研究:>本年度は力の性質がはっきりしているアルカリハライド(AH)クラスターの高速混晶化過程の研究に一応のメドをつけた。AHクラスターでは表面空孔配列が異なる構造異性体に加え、体積内で空孔をもつ構造異性体(高位の異性体)がクラスターでは比較的低いエネルギーをもって安定に存在する。これらの異性体を巡る遍歴現象が動的に発生する。特に高位の異性体を巡る過程で混晶化が誘発される事が判明した。混入の活性化エネルギーが評価され1eV程度である事が分かった。この値はバルク中の拡散過程の2eVに比べその半分程度である。常温では混入速度が少なくとも$10^{12}$倍程度高速化する事が分かった。我々が関心をもつ、メソタイムスケールダイナミクスの観点からすると活性化エネルギーを与える、遷移状態とそれを乗り越える力学過程の解明が今後の大きな課題である。同時にanion-cation半径が顕著に異なるNaIの様なクラスターでは<動的ガラス状態>が現れる事が判明した。一方、数十個程度の超微小AHクラスターでは平衡状態であるにも拘わらず温度勾配があらわれる事。それが角運動量の保存の為である事も判明した。<カオス的トンネル効果の研究:>単純で且つトンネル効果をモデル化できる系としてHenon系をトンネルイオン化の基礎モデルに据えトンネルイオン化過程をカオスが理想的状態になく混合相空間として回転領域と混在する場合に解明してゆく作業がかなり進行した。重要な結果はトンネル効果に主要な寄与をもたらすLaputa chainに階層構造が存在し、しかも高次のchain構造が混合相空間でのカオス的トンネル効果に本質的役割を果たす事が解明された事である。理想的なカオス的トンネル効果では高次構造は効かず、低次構造のみでトンネルが良く近似できた事と大いに異なる。高次構造の役割は回転領域がカオス領域に占める割合に比べ相対的におおきくなる程重要になってくると考えられる。なお、本研究課題に対し、2005年8月25日-9月1日立命館大学に於いて国際研究集会{bf Complexified Dynamics, Tunnelling and Chaos}を挙行した。
著者
池田 研介
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.289-327, 1994-01-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。特別企画
著者
池田 研介 アブドラ ジャリル モハッモド 並木 周 北山 研一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. OCS, 光通信システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.260, pp.57-62, 2004-08-20

電子デバイスの応答速度の制限を受けない超高速光アナログ/ディジタル(A/D)変換の研究が近年注目を集めている.A/D変換のうちの光標本化は既に実用段階まで研究が進んでいるが,それ以降の量子化・符号化の操作の光化に向けて,我々はサニャック干渉計型光スイッチを用いた光量子化・符号化方法を提案する.本方式でのA/D変換は原理的に数百Gspsで動作することができる.本稿では10-Gsps,3-bit,の全光A/D変換の原理確認実験の結果を報告する.また制御光の入力強度に対してプローブ光の出力強度が2周期以上変化する特性を示すサニャック干渉計の光スイッチを初めて実現した.