- 著者
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小西 啓之
遠藤 辰雄
- 出版者
- 国立極地研究所
- 雑誌
- 南極資料 (ISSN:00857289)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.1, pp.103-129, 1997-03
南極昭和基地で行ったレーダーやマイクロ波放射計を使った1989年の総合的な「雲と降水」の観測を基に, 昭和基地付近の降水量及び降水をもたらす雲について解析し, 降水量, 降水をもたらす低気圧に伴う雲の構造, 降水の季節変化の特徴について調べた。1) レーダーの連続観測から, 1989年の昭和基地の年降水量は204mmと推定した。夏を除く季節に降水があり, 秋, 冬, 春に降水量の大きな差は現れなかった。2) 昭和基地付近の降水に大きく寄与する雲は, 南極沿岸部で最盛期を迎える温帯低気圧に伴う渦状の雲であることがわかった。この渦状の雲の外側は, 南極沿岸を西向きに周回する低温かつ水蒸気の少ない気団の上に低緯度側からの暖気が入り, 温暖前線状の層状の構造を持つことが分かった。また, その内側は良く発達した渦に一回りした寒気が入り込み, 寒冷前線性の対流性の雲を形成していた。3) 雲や低気圧の季節変化から, 秋は数多く沿岸に近づく低気圧によって降水がもたらされるのに対し, 春は数少ない低気圧から降水がもたらされていることがわかった。低気圧に伴う雲は春, 秋に多く, また, 沿岸部で発達する雲水量の多い背の高い雲は秋に多いことから, 南極沿岸に降水の寄与が大きい季節は秋であると考えられる。降雪の頻度が多い秋に比べ降雪の頻度が少ない春の降雪の有無がその年の降雪量の特徴を決めていると推定された。