- 著者
-
遠藤 俊祐
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
1,四国三波川帯の五良津岩体を構成する各種岩石(エクロジャイト,ざくろ石角閃岩)の熱力学相平衡解析(pseudosection解析)を行い詳細かつ定量的な温度-圧力経路を導出した,この研究では,複雑な履歴を経た岩石から信頼度の高い温度-圧力経路を導出するため,逆解析(地質温度圧力計)および前進解析(pseudosection解析)を組み合わせた相補的手法を用いる重要性と,各変成段階で酸化還元状態を独立の変数として考慮する重要性を示した.こうした精密解析の結果,これらの岩石が沈み込み帯において,沈み込み,沈み込むプレート(スラブ)から剥離し,マントル深度から上昇するプロセスを明らかにし,そのメカニズムについてモデルを提案した.これまで五良津岩体の大部分を構成するざくろ石角閃岩は,エクロジャイトが浅所まで上昇する過程で加水変質による産物と考えられてきたが,一部のざくろ石角閃岩は深部で安定であり,初生的岩相であることを示した.エクロジャイトより低密度なざくろ石角閃岩が卓越することで,五良津岩体は浮力上昇した可能性がある.2,天然には稀少でありながら,沈み込み帯深部に普遍的に分布することが予測され,重要視される'ローソン石エクロジャイト'をフランシスカン帯ジェナー海岸から新たに発見した.新たに見出した同岩石は,解析の結果,より高温の沈み込み帯を特徴づける'緑簾石エクロジャイト'から低温沈み込み帯を意味する'ローソン石エクロジャイト'へ変化したものであることが明らかとなった.また,特に低温の沈み込み帯条件では,塩基性岩は高い保水能力をもつため,系内の水がすべて含水鉱物として固定される状態(流体が存在しないか,水以外を主成分とする流体が存在)が一般的となる可能性を示唆した.このことは従来の高圧変成岩の解析で一般的に行われる,H_2O流体の存在の仮定に注意を促すものである.